児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

少女の裸の映像を送るよう脅迫し、送信させた映像を自己のパソコンに保存したって強制わいせつ罪にはならない

 従前から脅迫とか欺罔でメールで画像送信させるのは(準)強制わいせつ罪だったんですが、東京高裁H28.2.19は明確に強制わいせつ罪を否定しました。天下の東京高裁の判例ですので、従いましょう。

東京地裁H18.3.24
店員に会社の指示で実施される医師による感染検査と誤診させて抗拒不能にしてわいせつしようと 告人経営の飲食店においてAに電話をかけ真実は同会社に勤務する者でなく会社が従業員に感染症検査する事実はないのに「保健所のものです 従業員が病気で入院しました 感染してしまうので 検査します 医師が携帯のカメラで写した写真を送ってくれればそのメールで診断するから送って欲しい」と虚構の事実を申し向け、同女をして抗拒不能にして 同女をして乳房陰部を露出させてデジカメで撮影させ その画像を被告人にメール送信させ もって 準強制わいせつ罪

大分地裁H23.5.11
(罪となるべき事実)
 被告人は,
A子に強いてわいせつな行為をしようと企て,平成○年×月12日午後3時53分頃から同月14日午前6時40分頃までの間,55回にわたり,前記被告人方において,被告人の携帯電話機ないしゲームサイト「G」のメール機能を利用して,同女の携帯電話機及び「G」上の同女が閲覧できるメール受信箱に「送らんとマジで画像ばらまくよ」などと記載した電子メールを送信し,その頃,同女方において,同女をして,その電子メールを閲覧させて脅迫し,別表3記載のとおり,同月12日午後9時2分頃から同月14日午前6時50分頃までの間,21回にわたり,同女方において,同女をして乳房を露出させたり,陰部に指を挿入させるなどした姿態をとらせた上,その姿態を同女の携帯電話機で撮影させてその画像データを被告人の携帯電話機に電子メール添付ファイルとして送信させ,もって強いてわいせつな行為をした
(判示第3の事実に関する弁護人の主張に対する判断)
1 弁護人は,判示第3の強制わいせつ罪については,強要罪が成立するにすぎない旨主張する。
 確かに,弁護人が指摘するように,携帯電話機を用いた児童ポルノ製造罪について,強要罪と併せて起訴され,これを観念的競合として科刑上一罪の関係にあるとしたと思われる下級審裁判例が複数存在している。
2 まず,本件で強制わいせつ罪が成立するかどうか検討する。
 本件の事案は,被告人がメールにより送信した脅迫,指示の回数が55回と多く,被害者からこれに応えてメールに添付してわいせつな映像を送付した回数も21回と多い点で,弁護人が指摘する下級審裁判例の事案と異なっているようにも思われる。
 すなわち,本件において,被害者が終わりにしようという趣旨のメールを被告人に送ってメールアドレスを変更した後,被告人は,ゲームサイトのメール機能を使って被害者を脅迫し,さらに,携帯電話機のメール機能を使って,「」などと順次わいせつな内容の指示をしつつ,わいせつな内容の添付ファイルが届くと,これを確認しつつ,次の指示を出す形で,被告人の具体的な指示に従って被害者をしてわいせつな行為を次々とさせている。
 そうすると,本件では,被告人のわいせつな内容の具体的指示に基づいて,被害者が継続的にわいせつな行為を強いられており,わいせつ性や被害者の性的自由が侵害された程度が大きいと認められる。よって,本件を強制わいせつ罪として起訴した点が不当とまではいえず,本件では,強要罪にとどまらず,強制わいせつ罪が成立するといえる。

東京高裁H28.2.19
すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。
弁護人は,①被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,②原判決は,量刑の理由の部分で性的意図を認定している,③被害者をして撮影させた乳房,性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。
しかしながら,①については,本件起訴状に記載された罪名及び罰条の記載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す記載もないことからすれば,本件において,強制わいせつ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審においても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,性的意図を含むものとはいえない。
また,②については,量刑の理由は,犯罪事実の認定ではなく,弁護人の主張は失当である。
そして,③については,画像データを送信させる行為をもって,わいせつな行為とすることはできない。
以上のとおり,原判決が認定した事実は,強制わいせつ罪の成立要件を欠くものである上,わいせつな行為に当たらず強要行為に該当するとみるほかない行為をも含む事実で構成されており,強制わいせつ罪に包摂されて別途強要罪が成立しないというような関係にはないから,法条競合により強要罪は成立しないとの弁護人の主張は失当である。