児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ罪と「児童を使用する者」

 こういう事件で掲載した出版社は「児童とは知らなかった」と主張する可能性があります。

http://www.nikkansports.com/general/f-gn-tp0-20070323-174000.html
 同容疑者は「約3年前から出会い系サイトで知り合った100人くらいの少女と買春し、撮影した画像を投稿していた」と供述。投稿先の東京の出版社が発行する成人向け月刊誌には、投稿写真がほぼ毎号掲載され、同容疑者は内容に応じて1万〜10万円程度の謝礼を受け取っていたという。
 調べでは、容疑者は昨年9月、福岡市のホテルで高校2年の女子生徒(17)の写真を撮影し、出版社に投稿。写真は1月発売の月刊誌に掲載され、児童ポルノを提供した疑い。
 月刊誌は約2万6000部発行され、各地の書店で販売された。

 こういう場合に9条の知情規定を使えないのかと思うんですが、一応、7条の罪にも適用されるんですけど、判例上、「児童と継続的雇用関係にある者のみに限定されないが,少なくとも児童と雇用関係類似の密接な社会的関係において児童の行為を利用し得る地位にある者をいう」そうなので、投稿された写真の被撮影者と出版社との関係では適用されません。また、買春して撮影するような場合でも使用関係は認めにくい。
 こういう細かいところを詰めておけば出版社やプロバイダ等も真剣に対応すると思うんですけど、議員立法なので穴がある。
 もっとも、掲載して販売した児童一人一人について年齢知情とか使用関係を問題にすると、訴因上児童を特定しておかないとだめですね。個人的法益説からは当然なんですけど、判例上は個人的法益はあまり重視されていなくて大阪高裁なんて「いちいち特定なんてでけへんで」と言い切ってしまったので、今さらそんなことできないですね。写真や容貌で特定すればいいだけですけど。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
第7条(児童ポルノ提供等)
児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。
4 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
5 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
第9条(児童の年齢の知情)
児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、第五条から前条までの規定による処罰を免れることができない。ただし、過失がないときは、この限りでない。

東京高裁H7.7.6
児童福祉法60条3項にいう「児童を使用する者」というためには,児童との身分的又は組織的関係において児童を管理・支配しその行為を継続的に利用し得る地位にあれば足り,弁護人の主張するように,児童と民法上の雇用関係ないし労働基準法上の労使関係に立つことや,これとの間に労使関係類似の支配従属関係があることまで必要とするものではないと解すべきである。なぜなら,そのように解することが,心身の発育の未熟な児童の保護を図った児童福祉法の前記規定の趣旨に最もよく合致し,同条の文理からみても無理がないと考えられるからである。

東京高裁H7.5.31
ところで、児童福祉法六〇条三項の「児童を使用する者」とは、当該児童との間に継続的な雇用関係ないし身分関係にある者に限られず、広く当該児童との間に、社会通念上その年齢確認を義務つけることが相当として是認されるだけの継続的な支配従属関係があると認められる者、いいかえると、その者が当該児童に心理的ないし経済的な影響を及ぼすことにより当該児童の意思決定を左右しうる立場にあると認められるような関係を有する者も含まれると解すべきである。本件についてこれをみると、被告人は、自己の支配する組事務所に寝泊まりさせていた右児童らの依頼に応じてスナックのホステスとして就業させることによって、右児童らに対し、その住居等を提供するのと引換えに、児童らがスナックから得る賃金のうちから一定の割合による金員を取得するという関係を築こうとしたもので、被告人が暴力団組長であり、児童らが家出により親の監護から完全に離脱した状態で、所持金も乏しく自活能力も極めて低い状態にあったという当時の客観的な状況にもかんがみると、被告人と右児童らとの間には、右にいう支配従属の関係があり、したがって、被告人が右条項における「児童を使用する者」に当たるというべきである。本件の場合、確かに、児童らは被告人が自らの手で組事務所に連れてきたわけではなく、スナックへのその就業も被告人が強制したものではなく、児童らの自発的な就業斡旋の依頼に応じたものにすぎないこと、組事務所における児童らの日常生活も、被告人やその配下組員の監視、干渉によりその行動の自由が奪われたり、制限されたりしていたわけではなく、また、親許との連絡についても、児童らには何らの制約も加えられていなかったこと、被告人が児童らから就業斡旋を依頼され、同女らを配下組員が近い将来開業しようとしていたコンパニオンクラブで働かせようと企図し、また、被告人か児童らから食事代の名目で日日金員を徴収していたことは前述のとおりではあるものの、被告人が児童らの労働によりそれ以上の経済的ないし社会的利益をむさぼろうとしていたことを認めるに足りる証拠はないことなどの諸事情があることは、いずれも所論の指摘するとおりではあるけれども、これらの所論指摘の諸事情は、右判断の妨げとなるものではない。

最高裁H5.10.26
本件児童をして同社が制作するビデオ録画1本に出演料80万円で出演させる契約を締結し,その上で,本件児童をして,Aの指揮監督の下に,2日間にわたり,いずれも午前8時ころから午後10時ころまで,東京都渋谷区内のスタジオなどにおいて,同社の制作関係者が事前に立てた録画予定表に従い,男優を相手として,露骨な性戯,模擬性交などのわいせつな演技をさせるなどし,もって,右BおよびAらと意思相通じ,児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的でこれを自己の支配下に置いたというのであって,右の事実関係の下においては,被告人が児童福祉法60条3項にいう「児童を使用する者」に当たることは明らかである。

東京高裁H2.3.28
思うに,児童福祉法34条1項9号にいう「児童を自己の支配下に置く行為」とは,児童を,使用,従属の関係において,その意思を左右し得る状態の下に置くことをいい,また,同法60条3項にいう「児童を使用する者」とは,児童と継続的雇用関係にある者のみに限定されないが,少なくとも児童と雇用関係類似の密接な社会的関係において児童の行為を利用し得る地位にある者をいうと解するのが相当である。