児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

ダビング用マスターデータやバックアップの評価

 マスターテープとかバックアップ媒体は売りませんよね。普通。
 でも、ダビングしてデータは売りまくる。そこで法益が侵害される。
 ところで刑罰法規の解釈としては、判例
   データは、児童ポルノ・わいせつ図画としない。
のだけれど、実質的に悪いのは、データなので、ダビング用のデータの所持も処罰したい。
 そこで下級審は苦悩しているわけです。

参考文献

渡部惇「ダビングテープのみを販売する目的でマスターテープを所持した場合において,わいせつ図画販売目的所持罪が成立するとされた事例」法律のひろば 1992.10

 ところで、さっき気づきました。
 原田裁判長はH4には「わいせつ文書等を販売する目的でその原材料となる別のわいせつ文書等を所持する行為も、同条後段に該当するといった解釈は、許されない。編集前の生のわいせつ資料やわいせつ文書の原稿等の所持は、含まれないのである。」と言ってたのに、H15には「ここでいう販売の目的には,後にそれに同質性を損なわない程度の加工を施した上で販売する目的を有するような場合も含むものと解するのが正当であり,所持罪についても同様に解される。」と言ってるわけです。
 H4判決を意識した上で、H4判決を変えてるわけです。

東京高裁H15.6.4(被告人上告中)
 本件MOがバックアップ用であるとしても,被告人は,必要が生じた場合には,そのデータを使用して,販売用のCD−Rを作成する意思を有していたのであり,電磁的ファイルの特質に照らすと,児童ポルノの画像データのファイルが蔵置されている媒体を所持することにより,容易にそのファイルをそのままの性質で他の媒体に複製して販売することができるから,法益侵害の実質的危険性は直接的で,かつ切迫したものといえる。もっとも,本件において,実際には,元のファイルをそのまま複製するのではなく,目をぼかす,サイズを縮小するなどの加工を経た画像ファイルを記録した媒体を販売に供しているが,ファイルサイズの縮小は,機械的に処理できるものであり,目のぼかしも容易な加工であり,児童ポルノと評価される部分は,ほぼそのまま複写されることになるから,MOのファイルは,相当な加工の過程を経て商品となる原材料のような性質のものではなく,販売用の児童ポルノと同質のものであり,MO自体は販売目的を有しなくても,販売目的の所持ということができるものと解すべきである。とりわけ,このことは,製造罪についてみれば明らかである。すなわち,児童の心身に有害な影響を直接与える行為は,児童ポルノの撮影行為であろうが,それによって得られるフィルムや画像ファイルなどの生のデータをそのまま販売するのではなく,これに加工を施した上で販売する意思であれば,撮影をしただけでは販売目的の製造は既遂とならず,販売用の加工を施して商品として完成させなければ製造罪には当たらないということになり,法の趣旨を損なう結果となる。したがって,ここでいう販売の目的には,後にそれに同質性を損なわない程度の加工を施した上で販売する目的を有するような場合も含むものと解するのが正当であり,所持罪についても同様に解される。
(裁判長裁判官原田國男

東京地裁H4.5.12
被告人には、本件犯行の当時、マスターテープについてそれ自体を人に販売しようという明確な意図がないのはもとより、状況のいかんによっては将来マスターテープを販売するかもしれないが、そうなっても仕方がない、ないし、やむをえないという未必的な認識・認容もなかったものと認めざるをえない。ちなみに、所持者の心理内容が、そのような状況になったら、改めてマスターテープを販売するかどうかを決めようという程度のものであった場合に、所持の当時において、販売の目的について、未必的な認識・認容があったとすることはできない。 
そうすると、判示第二の事実のうち、マスターテープの所持については、それ自体を販売する目的を認めることはできない。そこで、マスターテープ自体を販売する目的がなくとも、これをダビングしてダビングテープを販売する目的がある場合に、わいせつ文書等販売目的所持罪の「販売ノ目的」があるものとして、同罪に該当するものと解することができるかが問題となる。二 そこで、検討する。
1 刑法一七五条後段は、「販売ノ目的ヲ以テ之ヲ所持シタル者」と規定している。右条文は、単に「販売ノ目的」といい、その販売の対象を特に限定していない。そこで、わいせつ文書等そのものを販売する目的でそのわいせつ文書等を所持している場合に限定されるのか、それとも、わいせつ文書等の複写物(わいせつ文書等の全部又は一部を複写した物をいう。)を販売する目的でわいせつ文書等そのもの(原本)を所持する場合もこれに含めて解釈することか許されるのか。これが、ここでの問題である。
2 文理上は、前述のように、後者の場合も含めることは、十分可能である。 ところで、同条後段か仮に わいせつ文書等を販売する目的でそのわいせつ文書等を所持した者」と規定されていたとすれば、条文自体が販売目的の対象物と所持の対象物との同一性を明らかに要求していることになるから、これに複写物も含ませるためには、複写物がその内容及び形態並びに社会的機能等の点で原本と同一視できるものであるといえなければならないことになる。しかし、この場合は、いわば、財物には電気も含まれるかという類の解釈と同じであり、原本と複写物を同一視することは、かなり困惑であると思われる。 これに対して、同条後段は、条文上前記のような限定を加えていないから、販売目的の対象物としてどの範囲の物が認められるかを検討すべきことになる。そして、同条後段の行為(販売目的による所持行為)が、それに文応する前段の行為(販売行為)とその法定刑を同じくしていることからして、後段の行為は、前段の行為と刑罰評価において同等のものであることを要求しているとみられる。これは、後段の行為が次の時点で容易に前段の行為に発展するという意味において、その法益侵害の実質的な危険性が直接的であり、かつ、切迫しているからである。後段の行為は、前段の行為の前段階の行為を処罰の対象としているが、その予備罪的なものではないのである。 そこで、この点が、販売目的の対象物の範囲を限定するメルクマールになるというべきである。
3 本件に即して考えれば、複写物を販売する目的で原本を所持する行為は、その複写物自体を販売する行為と比べて、刑罰評価の上で、類型的に同程度の違法・責任の実質を有するものかどうかを検討する必要がある。 ところで、現代社会において、コピー機やビテオ機器の急速な普及にともない、わいせつ図画等を寸分たがわずかつ、大量に複写することが極めて容易になった。そこで、複写して複写物を販売する目的でわいせつ図画等を所持すれば、それ自体は原本としてのみ使用し、販売の対象とする意思がない場合であっても、その原本から多量の複写物が次々に生み出され、社会一般に流布される危険性が高い。かかる原本の所持行為は、その複写物の販売行為に比べて、その具体的かつ継続的な法益侵害の危険性が総体として高いとすらいえる。したがって、複写物を販売する目的で原本を所持する行為は、複写物を販売する行為と少なくとも同程度の刑罰評価を受けるべき実質を有しているということかできる。 そうすると、複写物を販売する目的で原本を所持する行為の限度において、これを同条後段に含めて解釈することは、不当な拡張解釈には当たらないというべきである。 右のような解釈は、原本と複写物との前記の特殊な関係に基づくものであるから、わいせつ文書等を販売する目的でその原材料となる別のわいせつ文書等を所持する行為も、同条後段に該当するといった解釈は、許されない。編集前の生のわいせつ資料やわいせつ文書の原稿等の所持は、含まれないのである。これを肯定する解釈は、後段の行為を前段の行為の予備罪的なものとして構成するものであり、前記の観点からして、不当である。4 以上の次第で、マスターテープをダビングしてダビングテープを販売する目的で所持する場合には、マスターテープ自体を販売する目的がない場合でも、同条後段の罪が成立すると解するのが相当である
(裁判長裁判官原田國男 裁判官鹿野伸二 裁判官前田 巌)