児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「刑の一部の執行猶予制度」

刑事政策の答案なら、結論としては「ダイバージョンの一種」「処遇の個別化にプラス」ということで肯定しなければなりません。

 各刑罰法規の罰則にそんなのはないので「懲役刑」の執行方法の一種ということになりそうです。
 それなら仮釈放を弾力的に運用すればできそうな気もしますが。
 宣告の時点で、原因とか更生の可能性をそこまで見極めることができるのかというのも問題です。最適な処遇方法についての立証(情状鑑定など)も広く認められる必要があります。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081230-00000009-mai-soci
新制度は、実刑と執行猶予を組み合わせる形で導入する。懲役または禁固の実刑を科した後に、残りの刑を猶予して、その猶予期間中は、保護観察所で処遇プログラムを受けるなどして社会で更生を図る。プログラムの内容は、再犯防止に向けた座学などが検討されている。刑務所などで一定期間の改善更生を図った上でその効果を社会でも持続させる狙いがある。

 判決言い渡しは、懲役・禁固期間と保護観察下の猶予期間を合わせた量刑になる見通し。刑務所に入る期間は減るが、必ず刑務所に入ることになる。現在の執行猶予は別に残す方針。

 長らく明治時代の監獄法で処遇して、「処遇の個別化」とか「行刑の社会化」とか刑事政策学者がいくら叫んでも動かないのに、「過剰収容解消」という動機付けで何でもするんだという感想です。

女児に対する「いいものがあるんだけど、見せてあげようか」という甘言

と、「お金あげるから触らせてよ」という対償供与の申込みというのは、近接してると思うんですが、9歳に「お金あげるから触らせてよ」と申し向けても児童買春罪は立たないですよね。常識として。
 他方、14歳なら児童買春罪でいいですよね。
 じゃあ、その境目はどこなのか? 刑法の性的承諾能力(13歳)と同じで一律に決められるのか、それとも、事案に応じて具体的に決めるのかという問題があります。
 「対償供与の約束」の外形標準説・実質説の議論です。議論と言っても学者や立法者は予想してない論点で、奥村と裁判所との間でのみ問答を繰り返している点です。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081226-00000172-jij-soci
起訴状によると、容疑者は7月1日午後4時40分ごろ、同市瑞穂区の駐車場で女児(9つ)に「いいものがあるんだけど、見せてあげようか」などと言い、わいせつな行為をした。 

全く発達していない幼児や男性の陰部や乳房を着衣の上から触れた場合については強制わいせつ罪不成立(条解刑法第2版)

 φ( ̄ー ̄ )メモメモ
 児童ポルノについては、乳児は性欲刺激要件のせいで児童ポルノ性が弱まるという話をするのですが、強制わいせつも成立しにくくなるそうです。

 もっとも、実務感覚としては成立。ゼロ歳の強制わいせつの判決もありますし。
 保護法益を主観的な権利侵害とすると、乳児は不成立とも言えそうです。

条解刑法第2版P466
具体的行為
わいせつな行為の具体例としては,陰部に手を触れたり,手指で弄んだり,自己の陰部を押し当てることや,女性の乳房を弄ぶことなどである。
陰部や乳房を着衣の上から触れた場合については,単に触れるだけでは足りず,着衣の上からでも弄んだといえるような態様であることが必要であるから,厚手の着衣の上からという場合は,薄手の着衣の上からという場合より,強い態様のものであることを要しよう(薄手の着衣の上からの場合につき肯定した例として,名古屋高金沢支判昭36・5・2)。なお,乳房が未発達な女児に対する場合であっても,社会通念上,性的感情の侵害があるといえるから,わいせつ性は肯定されるが,全く発達していない幼児や男性の場合には否定されよう(大コンメ2版)

実務家の意見は↓

判例コンメンタール第2巻P294
性的に未成熟な7歳の女児の乳房を撫で回す行為も該当する(新潟地判63・8・26判時1299号152)。この裁判例は、被案児童自身の性的しゅう恥心、嫌悪感に言及しているが、客観的にみて、わいせつと感じられる行為であれば、わいせつに当たるとすべきである(山中・各論ⅠP139)。

新潟地方裁判所判決昭和63年8月26日
判例時報1299号152頁
 (強制わいせつ罪の成否について)
 弁護人は、「小学校一年生の女児は、その胸(乳部)も臀部も未だ何ら男児と異なるところなく、その身体的発達段階と社会一般の通念からして、胸や臀部が性の象徴性を備えていると言うことはできず、かかる胸や臀部を触ることは、けしからぬ行為ではあるが、未だ社会一般の性秩序を乱す程度に至っておらず、また、性的羞恥悪感を招来するものであると決め付けることは困難であるから、被告人の本件行為をもってわいせつ行為ということはできず、従って、被告人は無罪である。」旨主張する。
・・・
右認定事実によれば、右A子は、性的に未熟で乳房も未発達であって男児のそれと異なるところはないとはいえ、同児は、女性としての自己を意識しており、被告人から乳部や臀部を触られて羞恥心と嫌悪感を抱き、被告人から逃げ出したかったが、同人を恐れてこれができずにいたものであり、同児の周囲の者は、これまで同児を女の子として見守ってきており、同児の母E子は、自己の子供が本件被害に遭ったことを学校等に知られたことについて、同児の将来を考えて心配しており、同児の父親らも本件被害内容を聞いて被告人に対する厳罰を求めていること(E子の検察官に対する供述調書、B子の司法警察員に対する供述調書及びD作成の告訴状)、一方、被告人は、同児の乳部や臀部を触ることにより性的に興奮をしており、そもそも被告人は当初からその目的で右所為に出たものであって、この種犯行を繰り返す傾向も顕著であり、そうすると、被告人の右所為は、強制わいせつ罪のわいせつ行為に当たるといえる。
 従って、弁護人の主張は採用できない。

年末に保護観察執行猶予判決を受けた被告人へ

 検察官控訴がないように、祈りましょう。
 さらに、執行猶予期間中取消事由なく無事に過ごせるように、祈りましょう。
 こういうのに霊験あらたかな神社仏閣はないんですか?

刑法第26条(執行猶予の必要的取消し)
次に掲げる場合においては、刑の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十五条第一項第二号に掲げる者であるとき、又は次条第三号に該当するときは、この限りでない。
一 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき。
二 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき。
三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。
第26条の2(執行猶予の裁量的取消し)
次に掲げる場合においては、刑の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。
一 猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。
二 第二十五条の二第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき。
三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その執行を猶予されたことが発覚したとき。

<小室哲哉被告>5億円弁済目指す 実刑回避のため

 実現可能性や完済しても執行猶予なのかはわかりませんが、被害弁償の努力をしたら、そこも評価してもらえるのが刑事裁判です。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081230-00000008-mai-soci
裁判は、情状面が焦点となりそうだ。だまし取ったとされる金が5億円と高額なため、実刑の可能性が指摘されている。判決までに被害弁済することで情状に訴える方針だが、弁済のめどはまだ、立っていないという。

12/30 相談メール2・電話1・報告書1

 事務所で報告書を起案しました。
 合間に相談。
 法テラスはやってないんですか?
http://www.houterasu.or.jp/news/houterasu_info/2008_12_22.html

 共著の法律書のアップデートの依頼が届いていました。1/26締め切り。出会い系サイト規制法の改正。

 あっ刑務所からもお手紙が

児童買春ない世界へ 県立大生がカンボジアの実態を雑誌に

 日本もそうなればいいですね。
 カンボジアには厳しい法律がありますが、法執行機関がまだまだという認識です。だからカンボジアでの国外犯がなぜか日本で裁かれているわけです。
 民事訴訟については、日本(日弁連も)が継続的に関わっていると聞いています。

http://www.chunichi.co.jp/article/shizuoka/20081230/CK2008123002000177.html
静岡県立大(静岡市駿河区)の学生NGO(非政府組織)「あおい」が、カンボジアの児童買春問題を啓発する雑誌「かぼちゃ」を創刊した。性的搾取の実態について子どもの写真を交えながら解説し「買春による被害者をなくそう」と訴えている。 (静岡総局・須藤恵里)

 大阪では売ってないんですか?
 リンク貼っておきますが
 2冊ほど事務所に送りつけてくれれば代金・送料とカンパを返送しますが。
http://ameblo.jp/s-ngo/
http://ngoaoi.web.fc2.com/

児童買春罪と3項製造罪が併合罪だという判例(金沢支部h17.6.9)は変更されていますよね(東京高裁h17.12.26 札幌高裁H19.3.8 札幌高裁h19.9.4)

 こういう論告をいただき、判決でも採用されました。

大阪地検
本件の児童買春罪と3項製造罪は併合罪である
(1) 本件の児童買春と 3項製造罪が併合罪であるか,観念的競合であるかについては,刑法 54条 1項にいう「一個の行為とは,法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで,行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価を受ける場合」であるか否かによって決せられる(最大判昭和49年5月29日.参照)。
(2) 本件の場合,前記のとおり 「製造」とは,児童ポルノを作成することをいうのであるから 「姿態をとらせること」は「製造」とは別の行為であって, 3項製造罪の実行行為ととらえるべきではないこと(仮に「姿態をとらせること」を 3項製造罪の実行行為と解すると,姿態をとらせた時点で 3項製造罪の実行の着手があったことになるが,これでは実行の着手時期として早きに失することは明らかである。)からすれば,児童買春罪と 3項製造罪とはその実行行為が部分的にも重なり合う関係にはない。
さらに,本件の場合ハードディスクに編集して記録させた場面では,日時場所ともに異なる 。
なお,最高裁決定の原審である名古屋高裁金沢支部平成17年6月判決も,本件と同様の事例において,併合罪で処理し,最高裁決定はそれを是認している。
以上のことからすれば,本件においては,児童買春行為と 3項製造行為が自然的観察の下で,本件各行為が社会的見解上 1個の行為と評価することはできない。
したがって,本件各犯行は,概念的競合ではなく,併合罪である。

 最高裁H18.2.20 も名古屋高裁金沢支部H17.6.9も、奥村が弁護人なのでよく覚えていますが、姿態をとらせを実行行為ではないとしているわけではない。
 なるほど複製行為に製造罪が成立する理由においては「姿態をとらせて」の実行行為性に言及していない。
 しかし、同判決は「姿態をとらせて」に該当する事実は、判示第1の児童買春罪の事実であってそこに記載されているから、実質的に問題がないとしているのであって、実行行為ではないから記載不要であるとはしていないのである。むしろ、実行行為であるから訴因や犯罪事実として記載することを勧めているのである。実行行為でないことを記載せよとか、別途記載されているから問題ないなどと判示するはずがない。

名古屋高裁金沢支部h17.6.9
1所論は,原判示第2の2の児童ポルノ製造罪について,
②公訴事実には,ミニディスク,メモリースティック,ハードディスクの作成につき,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下,単に「法」という。)7条3項に規定する児童ポルノ製造罪の構成要件である「姿態をとらせ」に該当する事実が記載されていない,
・・・というのである。
2しかしながら,所論②については,確かに,公訴事実には,「姿態をとらせ」に当たる事実の記載がなく,それを明確に記載するのが望ましいとはいえるものの,平成16年10月20日付け起訴状では,第1で被害児童と性交するなどして児童買春をした旨の記載があり,それに引き続き第2の事実が記載されており,第2の罰条について法7条3項が挙げられていることからすると,被告人の言動等によって,当該児童が性交に伴う「姿態」等をとったことは,上記起訴状記載の公訴事実の記載から理解することができる。したがって,「姿態をとらせ」の文言が記載されず,それに該当する事実が明示されていなくても,訴因が特定されていないとはいえず,これをそのまま認定した原判決に違法な点があるとまではいえない。

 結局、同判決は、「姿態をとらせて」は実行行為ではあるが、撮影者が複製する時点では改めて「姿態をとらせて」は必要ないという趣旨なのである。
 そこへ東京高裁H17.12.26が出た。
 端的に「姿態をとらせた」を「行為要素」だとする。これを実行行為として初めて、児童淫行罪と3項製造罪とは行為が重複して、観念的競合となりうるのである。

東京高裁H17.12.26
そこで原判決の説示内容を検討するに,原判決が,その「犯罪事実」の項において,「被告人は,別紙一覧表記載のとおり,・・・,携帯電話機附属のカメラを使用して,児童である・・を相手方とする性交に係る同児童の姿態等を撮影し,その姿態を視覚により認嘩することができる電磁的記録媒体であるフラッシュメモリ1個に描写し,もって,同児童に係る児童ポルノを製造した。」と認定し,その別紙一覧表において,児童ポルノの種類として法2条3項各号に該当する姿態の内容を明記し,「法令適用」の項においては,別紙一覧表の各行為について,法7条3項,1項及び2条3項各号を適用していることからすれば,原判決の判断は,被告人の各行為について法7条3項の児童ポルノ製造罪が成立するものと認定する趣旨ないし意図であることは明らかである。
しかしながら,法7条3項は,「児童に第2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ,これを写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物に括写することにより,当該児童に係る児童ポルノを製造した者」とし,「児童に姿態をとらせ」という行為をその犯罪構成要件として規定していることは明らかである。児童に姿態をとらせる行為が他の不可罰的な行為とを画する重要な行為要素であることなどにかんがみれば,原判決には罪となるべき事実の記載に理由の不備があるというほかはない。訴因の記載上の不備と異なり,判決のこのような理由上の不備を見過ごすことはできない。
したがって,その余の控訴趣意に対して判断をするまでもなく,原判決はこの点において破棄を免れない。

 さらに、札幌高裁H19.3.8は「児童ポルノ法7条3項の「姿態をとらせ」とは,行為者の言動等により,当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい,強制を要しないと解されるところ,関係証拠によれば,被告人は,児童と性交等を行っているが,これらの行為は通常当事者双方の言動により行為に至るものであって,本件においても,被告人が警察官に対し,「(ビデオに撮影した)これらの場面はセックスの一連の行為の一場面であります」と述べているように,被告人は,自ら積極的に児童に性交等の行為を行い,あるいは,児童の性交等の行為に応じる言動をしているのであって,この被告人の言動等により児童は性交等の姿態をとるに至ったと認められる。被告人が児童に「姿態をとらせ」たことは明らかである」というのだから、「姿態をとらせた」を「行為要素」だとしていることが明かである。札幌高等裁判所刑事判決速報(通巻第167号)で周知徹底されている。
 さらに、札幌高裁H19.9.4は実行行為性を明確にしている。