「非公然陳列行為」が処罰されないわけ
改正法は非公然陳列行為(特定かつ少数に対して閲覧可能にする行為)は処罰しません。
条文構成としては、7条1項にありそうで、ない規定です。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO052.html
(児童ポルノ提供等)
第七条 児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。
4 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
5 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
6 第四項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。
これはこう理解できます。
現行児童ポルノ法では、「販売罪」が「提供罪」に変更された。
しかも提供罪の行為類型としては特定少数に対するもの(1項)と不特定多数に対するもの(4項)に分かれている。4項には公然陳列も並んで規定されている。
さらに、児童ポルノの拡散に関わる行為として、拡散させる目的がある場合に限定して所持・運搬・輸出入行為が処罰される(2項、5項、6項)。
つまり、改正法の提供罪は児童ポルノの拡散による法益侵害を処罰する趣旨であって、児童ポルノを拡散させる行為を処罰し、拡散の危険が高いほど重く処罰する趣旨であること、法益侵害の幅に着目したものである。
これに対して非公然陳列行為は処罰されない。閲覧者には児童ポルノが渡らないので拡散しないからである。
同じく、特定少数を相手方にしても、特定少数提供行為は処罰されるが非公然陳列は処罰されないというのは、児童ポルノが相手方に渡るかどうかが処罰の境界線となっているからである。
わかりますか?
言い換えれば、「陳列」という行為類型は、閲覧者には児童ポルノは残らないこと(記憶・網膜に残る程度であり、移転不能)が予定されている。
これに対して、相手方に児童ポルノが残る場合は、提供罪(1項・4項)となることが予定されている。
だとすると、ネット上に児童ポルノ画像を掲示する場合は、通常のブラウザを用いてネット閲覧された場合は、すでに児童ポルノは閲覧者の手元に届いており(一時ファイルに)永続的に記録されているのだから、提供罪になる。
これに対して、閲覧者の手元にデータが永続的に記録されない場合(テレビ放送等)には、児童ポルノは閲覧者の手元に永続的に記録されていないから、提供罪は成立せず、公然陳列罪が成立する。
事例
たとえば、下記の記載例のような記載の場合、
「・・・上記画像の閲覧が可能な状況を設定し」までなら公然陳列罪(4項)だが、
「・・・上記画像情報に接続したMら不特定多数の者に対し,上記情報を送信して再生閲覧させ」まで認定してしまうと、不特定多数提供罪(4項)が成立する。
犯罪事実記載例
平成年月日ころ被告人方において,パーソナルコンピュータに接続したインターネットを利用し,児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノ及び児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚によって認識することができる方法により描写した児童ポルノ若しくは衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写したものである児童ポルノ画像合計10画像を,上記電子掲示板に送信して記憶・蔵置させ,不特定多数のインターネット利用者に対し,上記画像の閲覧が可能な状況を設定し,同年月日上記画像情報に接続したMら不特定多数の者に対し,上記情報を送信して再生閲覧させ,もって児童ポルノを××××した
さらにいえば、「提供」=特定かつ少数の者に対する当該児童ポルノ等を相手方に利用しうべき状態に置く一切の行為をいい,有償・無償を問わず,必ずしも相手方が現に受領することまでは必要がないもの(福岡高裁那覇支部h17.3.1)とすれば、
「・・・上記画像の閲覧が可能な状況を設定し」の時点で、不特定多数提供罪(4項)が成立するともいえる。
実際、webサーバーに画像を記録した状態というのは、陳列者と閲覧者が画像を共有(共に利用できる)していることに他ならない。
実際、提供罪は、受信者の手元に届かなくても、受信者がアクセス可能となった時点で既遂となる。
メールによる提供罪名古屋簡裁H17.1.28(メールボックスへの到達で既遂とした事例)
1被告人は
H16..から.までの間前後5回にわたり
電気通信回線を通じて、被告人方から が利用する に設置された「」の管理に係るサーバー内のメール受信箱に、3号児童ポルノ画像5画像分を送信して記憶させ、もって、電気通信回線を通じて児童ポルノを記録した電磁的記録を提供した
つまり、受信者がアクセス可能なサーバーにデータが来ていれば、提供罪である。
ここまでくると、web掲載行為は、提供罪であって、公然陳列罪ではないことがわかる。
児童ポルノ法とその改正法は、web掲載全盛の時代に制定されたにもかかわらず、web掲載に対して、何罪で対応するかを明確に示していない点で、欠陥があるといわざるを得ない。
児童ポルノ罪一覧↑→
- 製造行為が3段階で厳重に規制されていること、
- 外国から輸出・外国に輸入については不特定多数提供・公然陳列目的の場合のみ規制されていること
- 特定少数に対する場合は、不特定多数に対する場合よりも法定刑が重いこと
がわかります。
これは、改正法の目的は児童ポルノの拡散による法益侵害を処罰することであって、児童ポルノを拡散させる行為を処罰し、拡散の危険が高いほど重く処罰することを主眼としていることを顕著に示している。
2 旧児童ポルノ法「販売罪」
比較のために、旧法「販売罪」、刑法175条「販売罪」をみておく。
刑法175条については、「販売罪」は営業犯を処罰する趣旨だから、複数回でも包括評価するというのが判例である(大審院S10.11.11)。
保護法益は風俗という社会的法益であること、同条の「販売」の定義(不特定または多数に対する・・・)、表現の自由に対する配慮からは、特定少数への単発の販売行為は処罰しないが、不特定多数への継続反復的販売行為を処罰するという、行為の反復性による法益侵害(法益侵害の深さ・奥行き)に着目するものであることが明らかである。だから数回の販売は(包括)一罪とされる。
もっとも、それはわいせつ図画販売罪の職業犯性や保護法益による例外的な扱いである。
その大審院S10.11.11は「不特定多衆に対しておこなう目的に出でた有償的譲渡にして性質上反復される多数の行為を包含するものであるから複数回の販売行為は包括的に一個の犯罪として処罰すべきである」とその理由を述べる。
また、山火氏もわいせつ図画罪の職業犯性による例外的取り扱いであると分析している。
山火正則「包括的一罪」(『判例刑法研究ー4.未遂・共犯・罪数』P279)*1
この結論は、旧児童ポルノ法の「販売罪」(7条1項)についても同様と解される。
3 販売罪の変貌(→提供罪)
直接児童ポルノを拡散する行為について、現行児童ポルノ法では、「頒布罪・販売罪*2」が「提供罪*3」に変更された。
しかも提供罪の行為類型としては特定少数に対するもの(1項)と不特定多数に対するもの(4項)に分かれている。4項には公然陳列も並んで規定されている。
さらに、児童ポルノの拡散に関わる行為として、拡散させる目的がある場合に限定して所持・運搬・輸出入行為が処罰される(2項、5項、6項)。
つまり、改正法の提供罪は児童ポルノの拡散による法益侵害を処罰する趣旨であって、児童ポルノを拡散させる行為を処罰し、拡散の危険が高いほど重く処罰する趣旨であること、法益侵害の幅に着目したものである。
これに対して非公然陳列行為は処罰されない。閲覧者には児童ポルノが渡らないので拡散しないからである。
同じく、特定少数を相手方にしても、特定少数提供行為は処罰されるが非公然陳列は処罰されないというのは、児童ポルノが相手方の手元に渡るかどうか(再拡散するか)が処罰の境界線となっているからである。
つまり、改正法の「提供罪」は児童ポルノの拡散による法益侵害を処罰する趣旨であって、児童ポルノを拡散させる行為を処罰し、拡散の危険が高いほど重く処罰する趣旨であること、法益侵害の幅に着目したものである。
行為の反復性による法益侵害(法益侵害の深さ)に着目するものではない。
だとすれば、複数回の提供行為は、1項でも4項でも包括評価する根拠がない。
4 提供罪(提供罪+所持罪)の罪数処理
実際、昨年の改正によって、販売罪は姿を消し、代わりに提供罪が登場し、しかも、特定少数提供罪(7条1項)と不特定多数提供罪(7条4項)がもうけられたのである。児童ポルノについては一回性の行為も処罰するのであって 、各罪の法定刑のバランス(1項提供罪は1回性の提供行為を予定しているから数回行えば数罪となる。その場合の処断刑期は併合罪加重され、4年6月となる。数個の4項提供罪を包括一罪とすると、数回でも5年となり、数回の1項提供罪の処断刑期と近接する。わかりやすく言えば、1項提供罪を2回行うと懲役4年6月になるが4項提供罪を1万回行っても懲役5年に止まる)を考えると、特定少数提供罪(7条1項)も不特定多数提供罪(7条4項)も複数回行えば併合罪になることは明かである。
実質的に考えても児童ポルノ罪については、その個人的法益性を重視すると、一回性の売買や特定少数に対する売買や無償譲渡もわいせつ図画以上の当罰性を有するから(職業犯を処罰する趣旨ではないから)、販売=包括一罪とすることは許されない。
犯罪収益収受でも立件へ…大阪地検と府警
弁護士法違反も犯罪収益になるんですね。
奥村弁護士は刑事事件はもちろんのこと、民事事件でもありうることなので依頼者から預かるお金が犯罪収益でないように気を遣っています。
以前、外国人住侵・窃盗被告人(未遂)から被害弁償金として「青みがかった一万円札」を預かったことがあります。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO136.html
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律
第2条(定義)
この法律において「団体」とは、共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。以下同じ。)により反復して行われるものをいう。
2 この法律において「犯罪収益」とは、次に掲げる財産をいう。
一 財産上の不正な利益を得る目的で犯した別表に掲げる罪の犯罪行為(日本国外でした行為であって、当該行為が日本国内において行われたとしたならばこれらの罪に当たり、かつ、当該行為地の法令により罪に当たるものを含む。)により生じ、若しくは当該犯罪行為により得た財産又は当該犯罪行為の報酬として得た財産別表
十九 弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)第七十二条又は第七十三条の違反行為に係る同法第七十七条(非弁護士の法律事務の取扱い等)の罪第11条(犯罪収益等収受)
情を知って、犯罪収益等を収受した者は、三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。ただし、法令上の義務の履行として提供されたものを収受した者又は契約(債権者において相当の財産上の利益を提供すべきものに限る。)の時に当該契約に係る債務の履行が犯罪収益等によって行われることの情を知らないでした当該契約に係る債務の履行として提供されたものを収受した者は、この限りでない。
弁護士法
第27条(非弁護士との提携の禁止)
弁護士は、第七十二条乃至第七十四条の規定に違反する者から事件の周旋を受け、又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。
第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。第77条(非弁護士との提携等の罪)
次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
一 第二十七条(第三十条の二十において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
二 第二十八条(第三十条の二十において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
三 第七十二条の規定に違反した者
四 第七十三条の規定に違反した者