児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

買春+詐欺の事例

 児童を騙して買春して・・・、金まで騙取した?
 この場合も「対償供与の約束」があるといえるか?
 「法益関係的錯誤」っていうんですか?

http://www.mainichi-msn.co.jp/chihou/shiga/news/20050610ddlk25040623000c.html
「自分は音楽プロデューサーで、歌手にしてやる。芸能界に登録するのに必要」などとして、5万円をだまし取った疑い。

児童買春容疑で派遣会社員を逮捕 彦根署=滋賀[読売新聞 2005年5月20日(金)]
音楽プロデューサーを名乗って「歌手にしてやる」とうそを言い、3月下旬から4月中旬にかけて数回にわたり、近江八幡市内のホテルなどでわいせつな行為をした疑い。

小栗健一「16歳の少女について年齢確認の方法を尽くさず、女優としてアダルトDVDに出演させた事件について」捜査研究6月号

東京家裁H16.10.25
「児童を使用する者」について論じられています。
 ところで、「今後の捜査の参考にせい!」ということで紹介されているのですが、この判決、児童福祉法違反(淫行させる行為)と児童ポルノ製造罪が一罪とされていて、管轄と罪数に問題があると思います。
 すなわち、児童ポルノ製造の前提となる性行為(強姦・買春・淫行)と製造罪とは併合罪というのが高裁レベルの判例です。
 また、児童ポルノ・児童買春の事物管轄は地裁であって家裁ではないという高裁判決もたくさんあります。
 仮に、併合罪だとすると、家裁には児童ポルノ製造罪の管轄はありませんから、管轄違いとなります。
 たとえば、関西援交の主犯は、児童福祉法違反は家裁、児童ポルノ製造罪は地裁に起訴されているようです。
 どっちが正しいのかわかりませんが、矛盾しているように見えます。


一罪説の裁判例

東京家裁H16.10.25
奈良家裁H16.2.5
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20040408/1106558870
横浜家裁横須賀支部H17.6.1

ところで、
児童ポルノ・児童買春罪の裁判管轄

東京高裁平成15年6月4日
第1 管轄違い(刑訴法378条1号)の論旨について(控訴理由第1)
所論は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下単に「児変異春・児童ポルノ禁止法」又は「法」という。)は,児童福祉法の特別法であるから,少年法37条1項の適用を受けるので,本件は家庭裁判所の管轄に属する事件であるのに,地方裁判所に起訴されたものであるから,管轄遠いであるというのである。
しかしながら,たとえ,所論のいうように,児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪が,少年法37条1項所定の罪の特別法的性格を有するとしても,同項に限定列挙された罪には該当せず,法律に家庭裁判所の権限に属させる旨の特別の規定がない以上は,その第一審の管轄裁判所は地方裁判所又は簡易裁判所である(裁判所法31条の3第1項3号,2項等)。
論旨は理由がない。

阪高裁H15.9.18
http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/WebView2/27642C03FB01140B49256E6700180854/?OpenDocument
(1) 不法に管轄を認めた違法の主張(控訴理由第20)について
所論は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下,「児童買春児童ポルノ禁止法)」という。)は,児童福祉法の特別法であり,児童買春児童ポルノ禁止法の罪は児童の福祉を害する行為であるから,少年法37条1項の適用を受け,家庭裁判所の専属管轄とされる事件であるのに,地方裁判所に起訴された本件各罪についてこれを看過してなされた原判決には不法に管轄を認めた違法がある,というものである。
しかしながら,少年法37条1項は限定列挙であり,また,児童買春児童ポルノ禁止法違反の罪を家庭裁判所の権限に属させるとする法律の規定も存しないから,児童買春児童ポルノ禁止法違反の罪についての第一審の管轄裁判所は地方裁判所又は簡易裁判所であることは明らかである(裁判所法31条の3第1項3号,2項,24条2号,33条1項2号)。
論旨は理由がない。

名古屋高裁金沢支部H17.6.9も同旨

 前提となる性行為との罪数関係についての裁判例

名古屋高裁金沢支部H14.3.28
(3)所論は,原判示第3の1の買春行為がビデオで撮影しながら行われたものであることから,上記児童買春罪と原判示第3の2の児童ポルノ製造罪とは観念的競合となるともいうが(控訴理由第21),両罪の行為は行為者の動態が社会見解上1個のものと評価することはできないから,採用することはできない。

名古屋高裁金沢支部H17.6.9も同旨

 他人をして淫行させるというのと、児童ポルノを撮影(製造)するというのは、1個の行為ですか?「淫行させる」というのは、事案によっては自分で淫行している場合も含むんでしょ。
 他人と児童に「演技(淫行)しろ」「アクション!」と言っているのとカメラ回したり編集したりしているのとを社会見解上1個といえるかですよ。

最高裁判所大法廷判決昭和49年5月29日
 しかしながら、刑法五四条一項前段の規定は、一個の行為が同時に数個の犯罪構成要件に該当して数個の犯罪が競合する場合において、これを処断上の一罪として刑を科する趣旨のものであるところ、右規定にいう一個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合をいうと解すべきである。
 ところで、本件の事例のような、酒に酔つた状態で自動車を運転中に過つて人身事故を発生させた場合についてみるに、もともと自動車を運転する行為は、その形態が、通常、時間的継続と場所的移動とを伴うものであるのに対し、その過程において人身事故を発生させる行為は、運転継続中における一時点一場所における事象であつて、前記の自然的観察からするならば、両者は、酒に酔つた状態で運転したことが事故を惹起した過失の内容をなすものかどうかにかかわりなく、社会的見解上別個のものと評価すべきであつて、これを一個のものとみることはできない。
 したがつて、本件における酒酔い運転の罪とその運転中に行なわれた業務上過失致死の罪とは併合罪の関係にあるものと解するのが相当であり、原判決のこの点に関する結論は正当というべきである。

東京都青少年の健全な育成に関する条例

  「みだらな」に該当しない行為は処罰しない
  性交類似行為に到らない行為は処罰しない
という絞りがかかっているようです。

http://www.seikatubunka.metro.tokyo.jp/index9files/ikuseijyourei.htm
第3章の2 青少年の性に関する健全な判断能力の育成
(青少年の性に関する保護者等の責務)
第18条の3 保護者及び青少年の育成にかかわる者は、異性との交友が相互の豊かな人格のかん養に資することを伝えるため並びに青少年が男女の性の特性に配慮し、安易な性行動により、自己及び他人の尊厳を傷つけ、若しくは心身の健康を損ね、調和の取れた人間形成が阻害され、又は自ら対処できない責任を負うことのないよう、慎重な行動をとることを促すため、青少年に対する啓発及び教育に努めるとともに、これらに反する社会的風潮を改めるように努めなければならない。
2 保護者及び青少年の育成にかかわる者は、青少年のうち特に心身の変化が著しく、かつ、人格が形成途上である者に対しては、性行動について特に慎重であるよう配慮を促すように努めなければならない。
3 保護者は、青少年の性的関心の高まり、心身の変化等に十分な注意を払うとともに、青少年と性に関する対話を深めるように努めなければならない。
  (青少年の性に関する都の責務)
第18条の4 都は、青少年の性に関する健全な判断能力の育成を図るため、普及啓発、教育、相談等の施策の推進に努めるものとする。
  (安易な性行動を助長する情報を提供しないための自主的な取組)
第18条の5 青少年に対して情報の提供を行うことを業とする者は、青少年の安易な性行動をいたずらに助長するなど青少年の性に関する健全な成長を阻害するおそれがある情報を提供することのないよう、自主的な取組に努めなければならない。
  (青少年に対する反倫理的な性交等の禁止)
第18条の6 何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない。
第5章 罰則
(罰則)
第24条の3 第18条の6の規定に違反した者は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

この種の条例は最判S60を受けているので、そっちも参考にしてください。

最高裁判所大法廷判決昭和60年10月23日
本条例は、青少年の健全な育成を図るため青少年を保護することを目的として定められ(一条一項)、他の法令により成年者と同一の能力を有する者を除き、小学校就学の始期から満一八歳に達するまでの者を青少年と定義した(三条一項)上で、「何人も、青少年に対し、淫行又はわいせつの行為をしてはならない。」(一〇条一項)と規定し、その違反者に対しては二年以下の懲役又は一〇万円以下の罰金を科し(一六条一項)、違反者が青少年であるときは、これに対して罰則を適用しない(一七条)こととしている。これらの条項の規定するところを総合すると、本条例一〇条一項、一六条一項の規定(以下、両者を併せて「本件各規定」という。)の趣旨は、一般に青少年が、その心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していないため、性行為等によつて精神的な痛手を受け易く、また、その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ、青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものであることが明らかであつて、右のような本件各規定の趣旨及びその文理等に徴すると、本条例一〇条一項の規定にいう「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である