児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強制わいせつ罪・強姦罪等の親告罪規定廃止は遡及する

「既に法律上告訴がされることがなくなっているもの」というのは告訴取消等をいいます。
 それ以外は改正法施行前の事件でも、非親告罪になります。

現行法
第一八〇条(親告罪
 第百七十六条から第百七十八条までの罪及びこれらの罪の未遂罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
2前項の規定は、二人以上の者が現場において共同して犯した第百七十六条若しくは第百七十八条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪については、適用しない。

改正後
http://www.moj.go.jp/content/001224163.pdf
第百七十八条の二及び第百八十条を削る。
(経過措置)
第二条この法律の施行前にした行為の処罰については、なお従前の例による。
2この法律による改正前の刑法(以下「旧法」という。)第百八十条又は第二百二十九条本文の規定により告訴がなければ公訴を提起することができないとされていた罪(旧法第二百二十四条の罪及び同条の罪を幇助する目的で犯した旧法第二百二十七条第一項の罪並びにこれらの罪の未遂罪を除く。)であってこの法律の施行前に犯したものについては、この法律の施行の際既に法律上告訴がされることがなくなっているものを除き、この法律の施行後は、告訴がなくても公訴を提起することができる。
3旧法第二百二十九条本文の規定により告訴がなければ公訴を提起することができないとされていた罪(旧法第二百二十四条の罪及び同条の罪を幇助する目的で犯した旧法第二百二十七条第一項の罪並びにこれらの罪の未遂罪を除く。)であってこの法律の施行前に犯したものについてこの法律の施行後にする告訴は、略取され、誘拐され、又は売買された者が犯人と婚姻をしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、この法律の施行の際既に附則第四条の規定による改正前の刑事訴訟法(昭和二十
三年法律第百三十一号)第二百三十五条第二項に規定する期間が経過しているときは、この限りでない。
4旧法第二百二十四条の罪及び同条の罪を幇助する目的で犯した旧法第二百二十七条第一項の罪並びにこれらの罪の未遂罪であってこの法律の施行前に犯したものについてこの法律の施行後にする告訴の効力については、なお従前の例による

法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会
要 綱 ( 骨 子 ) 修 正 案
http://www.moj.go.jp/content/001185581.pdf
一及び二の適用範囲
一及び二に係る規定(以下「改正規定」という。)により非親告罪化がされる罪であって、改正規定の施行前に犯したものについては、改正規定の施行の際既に法律上告訴がされることがなくなっているものを除き、改正規定の施行後は、告訴がなくても公訴を提起することができるものとすること

・・・
http://www.moj.go.jp/content/001183733.txt
第5回会議(平成28年3月25日開催)
ただいま,御説明がございましたように,事務当局において要綱(骨子)第四のとおり法改正をする場合,その適用範囲をどのようにすべきかという問題について検討され,改正法の施行前に行われた行為につきましても,一定の場合を除いて非親告罪として取り扱うこととするのがよいのではないかと考えるに至ったということでございます。
  この点につきまして,改正法施行前に行われた行為についても,非親告罪として取り扱うことの当否等を中心に御意見のある方はお願いしたいと思います。
  いかがでございましょうか。
○小木曽委員 今の事務当局の御説明をなぞるようなことになりますけれども,一つは憲法の問題があります。遡及適用の問題ですが,新たな罪を作るわけではなく,また,告訴がなければ裁判ができないということであったもの,すなわち国家の刑罰権自体はあるけれども,被害者への配慮からその処罰意思が確認できなければ裁判をしないという制度であったものを,被害者の処罰意思を訴訟条件としないという制度にするという変更ですから,これは憲法第39条の規定する事後法の禁止条項には触れないと思います。
  そうすると,あとは立法政策の問題になるわけですが,この資料31を見ますと,従来の法制度では,遡及適用しないというものもありますし,それから今回は大きな改正でもありますので,法が施行されるときを基準に将来的に適用するという考え方もあるだろうと思いますけれども,他方で,改正の趣旨が被害者の負担軽減ということであれば,施行前に犯された罪についても適用するという提案も否定されるものではないと考えます。
  また,罪は罪として成立するわけですので,告訴がなければ訴追されないという被疑者の期待を保護する必要があるかというと,そのような必要はないと考えることができるのではないかと思います。
○井田委員 今の小木曽委員のお考えと基本的に同じだと思うのですけれども,一言私の意見を申し上げます。手続法規定の適用に関する原則論から言えば,やはりそれは法律の施行と同時に,今現在,進行中の手続にそのまま適用するというのでなければいけないと思います。たとえ犯罪自体は施行日以前の出来事であったとしても,実体法ではなく手続法に関する法改正なのですから,遡及適用ということにならない。また,それは「改正」であり,非親告罪化という形でよい方向に法の規定を変えるという前提で考えるのですから,それはもう施行と同時にすぐ適用するのが当然で,そうでなければ筋が通らないことになるだろうと考えます。これが原則論ではありますが,ただし,仮にそれが行為者の側の正当な法的利益を侵害するというのであれば,ただちに施行するのは適切ではない,ちょっと待ちましょうということになるのだと思います。
  そこで,ここでの問題は,果たして行為者側にとって自分の犯罪が親告罪であるということが,果たして正当な法的利益であるとして主張できるものであるのかどうかということになります。
  確かに,一定の事実上の利益があることは否定できないかもしれません。しかしそれは法改正により実現される被害者側の正当な利益と拮抗して,それを凌駕するような正当な利益とは言えないでしょう。公訴時効期間の延長とか,そもそも公訴時効の廃止とかでさえ,潜在的被疑者の正当な法的利益を害するものではないというのが,平成22年の刑訴法一部改正の前提であり,またそれは最近の最高裁判例によっても支持されているのです。そうであるとすれば,親告罪であるということはますます法的に保障されているような利益ではないと考えなければならないと思います。
  ただもう既に施行前に告訴の可能性がなくなっているようなものについてはどうかということになると,確かに公訴時効の場合とは違います。既に公訴時効が完成している場合にはそもそも公訴権がない,訴訟追行権が消滅しているということで,これを法改正により復活させることはできないとも考えられる。これに対して,告訴の可能性が事実上なくなったという場合だと別に公訴権がなくなるとか,訴訟追行権がなくなるということではないということにもなりそうなのです。それはそうなのですけれども,法的安定性という見地から,それを再び動かすまでのことはないので,そういう事件については除きましょうというのが一つの考え方であり,政策的な判断としてはそれが適当であろうと考えられるのです。
○宮田委員 私は逆に,これは実体法の条文ではないとしても,刑法典の中に定められている部分であり,その重要な変更であるということを考えますと,過去の昭和22年改正,昭和33年改正の例などもございますので,同様に不遡及でいくべきではないかと考えます。
  確かに実体法上の条文ではありませんが,例えば立件されていない事案について示談がされる,あるいは告訴しないと話が付いているような事例などは,十分あり得るかと思います。こういうものは絶対に掘り起こさないという政策についての確約でもあればよろしいのですが,非親告罪化されることによって,一旦示談してもうお話が付いていたものについて,あまりいい例ではないかもしれませんが,示談金を更に取得しようとする乱用的意図で被害が届けられることも出てき得るのではないでしょうか。加害者が,自ら進んで被害者との関係を修復する動きをしたものについて,それが掘り起こされて起訴されるというようなことがあってはいけないのではないか。
  そういう意味で,非親告罪化は,公訴時効と違って,実体的な判断に関わってくるような部分もあるように思われるのです。
  犯罪を犯した方の側の立場の不安定性というのが免れないことを考えますと,遡及には反対の立場を取りたいと思います。
○橋爪幹事 1点,質問がございます。今,宮田委員の方からも御指摘がございましたが,本日配布の資料31番では,刑法の一部改正につきまして,非親告罪化に関する先例を2点御紹介いただいておりますが,昭和22年改正も昭和33年改正も,ともに非親告罪化については「なお従前の例による」旨の経過規定が設けられておりますので,今回の改正については,これらの先例とは趣旨が異なるという説明が必要になってくるかと存じます。もし事務当局の方でお分かりであれば,昭和22年改正,昭和33年改正の趣旨につきまして,ご教示いただければと存じます。
○中村幹事 それでは,事務当局から御説明申し上げます。この親告罪であったものが非親告罪化されるという改正があった場合に,改正法施行前の行為についてそれを適用するかどうかといいますのは,先ほど申し上げたとおり,理論的な問題というよりも,むしろ政策的な判断の問題ではないかと考えているところでございますけれども,その上で個々のそれぞれの法改正の際に,それぞれの政策判断がそれぞれなされたということかなと思っております。
  その上で申し上げますけれども,昭和22年の刑法改正についてでございますけれども,これは現行の日本国憲法が制定されたことに伴いまして,刑法が改正されたというところでございます。そのうちの一つとして,暴行罪につきまして,従前は親告罪であったものが,非親告罪とされるとともに,法定刑につきまして引き上げられるという改正がされています。これにつきまして,経過規定では,この改正以外の部分につきましても含めた上で,なお従前の例によるとされたものでございます。
  このときの暴行罪の非親告罪化の趣旨でございますけれども,当時の説明などを見てみますと,このように要は単なる暴行でとどまる場合については,その訴追というのを被害者の意思如何に係らしめるのを適当とするという考え方に立っていたということなのですけれども,この憲法が新しいものとなり,民主主義体制の下においては,暴力というのはやはり否定する必要があろう,傷害を伴わない暴行と言えども軽微な罪ということではなく,国家として処罰する必要があるだろうという趣旨から,非親告罪化し,法定刑が引き上げられたというものであると承知しておりまして,そうであるとするならば,今回の非親告罪化につきましては,被害者が告訴するかどうか判断を迫られるというその負担の軽減であるというところとは,非親告罪化の趣旨が異なるという説明は可能なのかなと思っております。
  また,昭和33年の輪姦的形態による強姦罪につきまして,非親告罪化されましたけれども,このときもこの法律の施行前の行為については,なお従前の例によるという形で,施行前の行為については非親告罪化しないという扱いがされたところでございます。このとき,このように判断されたのがなぜであったのかというところにつきましては,必ずしも明確でないところもあるわけでございますけれども,当時の輪姦的形態でなされる強姦罪等が非親告罪化された趣旨につきましては,この輪姦的形態でなされる強姦罪というのは,非常に凶悪なものであり,その訴追については被害者の利益のみによって左右することは適当でないと考えられたものと説明されているところでございまして,先ほど申し上げた今回の非親告罪化の趣旨とは異なるということは言えるのではないかと考えるところでございます。
○橋爪幹事 ありがとうございました。今,御説明を伺いますと,これまでの先例が統一的な論理的根拠に基づいているわけではないよう,過度に先例を重視する必要はなく,飽くまで今回の立法趣旨に従って個別的に判断をすれば足りるように思いました。
○池田幹事 先ほど宮田委員からも御指摘がありました,告訴がされて取り消されたわけではないけれども,告訴をしないという取決めが被害者との間でなされているという事案は,確かに存在するのだと思います。ただ,そういう事件について,非親告罪化したからといって,検察が被害者の意思の如何を問わず起訴するということにはならないのだということが,非親告罪化をする方針について賛成する際にも議論されていたと思います。つまり,そのような事案が仮にあるとしても,実務上,個別的に対応がなされるのであって,全ての事案が直ちに起訴されるということにはならないものと理解をしております。
○森委員 今,池田幹事に代わりにお答えいただいたような気がいたしますけれども,確かに以前も申し上げましたとおり,検察官としましては非親告罪化されたとしましても,被害者の意思を尊重して処分を考えていくという点は,何ら変わるところがないと考えております。ですので,ちょっと宮田委員がおっしゃった事案とは異なりますけれども,例えば被害者がもういいですと言って告訴しませんと言って不起訴になった事案につきまして,検察官の方がそれを新たに掘り起こして,被害者の意思に関係なく起訴してしまうというようなことはまずないと思っていただいていいと思います。
  それから宮田委員がおっしゃったのは,被害者がもう告訴しません,示談が成立しているので告訴しませんと言って事件化されなかったような改正法施行前の事案について,被害者がやはり処罰してほしいと言い出した場合,その事案が立件されることになるとしたら,被疑者の立場から見た場合問題ではないかということだったかと思うのですけれども,その点につきましては,現行法の下でも告訴が一旦なされて取り消されたのではなく,元々告訴がないのであれば,改めて被害者がやはり処罰してほしいということで告訴をすれば,それは処罰の対象になりますので,現行法の下と非親告罪化した後の対応とで何ら変わるところはないと考えております。
○塩見委員 私も非親告罪化して,それを遡及させるという御提案に賛成を致します。こだわるというか,細かいことを申しますと,暴行罪のときと非親告罪化の趣旨が異なるというお話が出ましたけれども,刑罰を引き上げて,それに伴って非親告罪化しているという点では,やはり今回も一緒ではないのかという気はしております。
  第1回目の刑事法部会におきまして,私が申して佐伯委員から御批判を受けたことなのですけれども,非親告罪化を支持する理由としまして,やはり重く処罰される,そういう重い責任評価を受けるに至った性犯罪であることが挙げられると思います。そういう場合にはやはり刑事訴追を被害者の意思に委ねるのは妥当でないという点がやはり私はあると考えますので,暴行罪の場合と今回の場合とは違いますと割り切るというのは,ちょっと抵抗感を感じないわけではありません。
  いずれにしましても,結論的には,被害者保護の観点から,親告罪ではなくて非親告罪にするという要請が政策的判断として強いということで,すぐに適用した方がよいという判断は支持できると思います。そういう意味で御提案に賛成したいと考えております。
○山口部会長 ほかにいかがでしょうか。
  今日のところはこれでよろしゅうございましょうか。ありがとうございました。
  それでは,事務当局におかれましては,ただいまの御意見を参考に更に御検討いただきたいと思います。
  では,本日の審議はこれをもちまして終了ということにさせていただきたいと思います。
  次回でございますが,次回につきましては冒頭で御議論いただきましたように,ヒアリングについて,日程等を含めて事務当局と検討させていただきたいと思いますので,委員・幹事の皆様には,追って御連絡することとさせていただきたいと思います。
  なお,本日の会議の議事につきましては公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することにさせていただきたいと思いますが,そのような取扱いでよろしゅうございましょうか。
(一同異議なし)
○山口部会長 ありがとうございました。では,そのようにさせていただきます。
  では,これをもちまして終了といたします。本日はどうもありがとうございました。
−了−