児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

裁判員裁判:女性裁判員が評議に不満 京都

 そういうときは評決にすればいいことになってます。
 その場合にも「歩く量刑相場」みたいな裁判官が1人以上が多数意見に賛成していることが必要なので、もともとそんなに量刑相場から外れないように設計されています。

http://mainichi.jp/select/today/news/20100612k0000m040104000c.html
懲役7年の求刑に対し、量刑は懲役6年だった。
女性裁判員が、量刑判断の参考として評議で示された同種事件の一覧について「過去の案件も大切だが、自分の意見を言えなくなる。これでは参加の意味がない」と批判した。裁判員が評議へのあからさまな不満を表明するのは異例とみられる
・・・
 女性裁判員は検察の求刑を「たった7年かと思った」と吐露。同種事件の一覧は評議の早い段階で提示されたといい、「被害者のことを考えると譲れない量刑があった。しかし裁判官から被告の更生について説明され、過去(の事件)の量刑を示されると貫けなかった。後悔している」と残念そうに話した。
 この裁判は、裁判官が男2人、女1人で、裁判員は男4人、女2人の構成だった

http://www.saibanin.courts.go.jp/introduction/work_and_role.html
2 評議,評決
 証拠を全て調べたら,今度は,事実を認定し,被告人が有罪か無罪か,有罪だとしたらどんな刑にするべきかを,裁判官と一緒に議論し(評議),決定する(評決)ことになります。
 評議を尽くしても,意見の全員一致が得られなかったとき,評決は,多数決により行われます。
 ただし,裁判員だけによる意見では,被告人に不利な判断(被告人が有罪か無罪かの評決の場面では,有罪の判断)をすることはできず,裁判官1人以上が多数意見に賛成していることが必要です。
 有罪か無罪か,有罪の場合の刑に関する裁判員の意見は,裁判官と同じ重みを持ちます。

http://law.e-gov.go.jp/announce/H16HO063.html
(評議)
第六十六条  第二条第一項の合議体における裁判員の関与する判断のための評議は、構成裁判官及び裁判員が行う。
2  裁判員は、前項の評議に出席し、意見を述べなければならない。
3  裁判長は、必要と認めるときは、第一項の評議において、裁判員に対し、構成裁判官の合議による法令の解釈に係る判断及び訴訟手続に関する判断を示さなければならない。
4  裁判員は、前項の判断が示された場合には、これに従ってその職務を行わなければならない。
5  裁判長は、第一項の評議において、裁判員に対して必要な法令に関する説明を丁寧に行うとともに、評議を裁判員に分かりやすいものとなるように整理し、裁判員が発言する機会を十分に設けるなど、裁判員がその職責を十分に果たすことができるように配慮しなければならない。

(評決)
第六十七条  前条第一項の評議における裁判員の関与する判断は、裁判所法第七十七条の規定にかかわらず、構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見による。
2  刑の量定について意見が分かれ、その説が各々、構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見にならないときは、その合議体の判断は、構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見になるまで、被告人に最も不利な意見の数を順次利益な意見の数に加え、その中で最も利益な意見による。

手元にこんな論稿がありました。

井田良「量刑をめぐる最近の諸問題」研修702号
裁判員制度の下での量刑は,従来の量刑相場からの離反,また同時に,量刑の相互的ぱらつきをもたらすであろうことが予想される。従来の量刑相場からの離反は,前述のように,それが法的な拘束力を持つようなものではない以上,直ちには問題視するには当たらないし,とりわけ市民の司法参加の制度を導入する以上は,それが「一般市民の常識的な感覚により法律専門家の偏見を是正する」というその趣旨において,積極的に意図されているとさえいうべきであろう。同時に,量刑に相互的なばらつきをある程度生じることも「織り込み済み」というべきであろう。
このような量刑判断のばらつきは,責任の刑の幅として認識される幅の範囲内におさまる程度のものであれば,理論的には許容できるものといえよう。逆に言うと,責任刑の幅の範囲内におさまらない程度の量刑のばらつきが生じるとすれば,量刑における責任主義の原則からすれば,法的に容認できない事態である。
裁判員制度の下での量刑の大ざっぱなイメージは,検察官の求刑があり,弁護人が被告人に有利な情状を指摘・強調するであろうから,裁判員の意見としても,それらを参考としつつ,求刑よりもいぶん低いところに落ち着くというものであろう。検察官による求刑も,地域差のない,かなり統一的なものである。そこで,量刑のばらつきはそれほど生じないであろうと予測できるのである。ただ,一般市民が常に厳罰ないし重罰の傾向を持つとは限らないとしても,事例により,被害者(またはその遺族)の処罰感情の表明が裁判員の量刑判断こ影響力を持ち,全体としてさらに量刑水準が上昇する可能性があることは否定できないであろう。裁判官が,従来からの量刑相場以外の拠り所を持たないとすれば,世論の応報的な厳罰要求が多かれ少なかれ合理性のチェックを受けずに刑量に反映していくおそれがある。
そこで,量刑のばらつきと過度の上昇を抑制するため,裁判所としては,従来からの平均的な量刑感覚を反映させた尺度として経験的検証をある程度経たものとしての量刑相場が存在しているのであるから,それをひとまずの基準として,そこで許容される幅の中におさまるように努力すべきであると思われる。ただし,実際の量刑評議においては,これまでの量刑相場の使い方に近い方法,すなわち,現在の事件に最も近い過去の裁判例の事案を探し出し,そこで言い渡された刑に徴修正を加えながら最終的な刑を決めるというような方法は採るべきではない。量刑相場にはもともと強い規制力を認めることはできないのであるし,これまでの実務慣行で裁判員の判断を拘束するとすれば,裁判員制度導入の趣旨にも反するであろう 。そこで,事例をある程度,抽象化・類型化して,当該の事例と同じ犯行類型グループに属すると考えられる複数先例に対する宣告刑の枠を示すという方法が考えられる。最高裁判所が企画制作した,裁判員制度広報用映画である『評議』では,量刑評議において,類似先例のグループにおける量刑のレンジをグラフとして示したものを裁判員が参照している。たしかに,従来の量刑相場をこのような形でガイドライン的に用いることが適切であるといえよう(注25) 。