児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

2014年05月14日のツイート

アメリカのリベンジ・ポルノに対する政策、規制及び取組

http://www8.cao.go.jp/youth/youth-harm/chousa/h25/net-syogaikoku/2_16.html
リベンジ・ポルノに対する政策、規制及び取組
アメリカでは、SNS利用の拡大や「セクスティング(sexting)」の広がりともに、「リベンジ・ポルノ(revenge porn)」の問題が深刻化してきた。「リベンジ・ポルノ」とは、本人の同意を得ずに、ヌード、性的な画像又は動画をインターネットなどにいやがらせの目的で公開する性的暴力のことを指す 173。近年のアメリカでは被害者が増加する一方、法律的に被害者を救済する手段がない、あるいは非常に困難であるという状況があっただけでなく、「リベンジ・ポルノ」を集めて掲載することで広告収入などの収益を上げるウェブサイトの運営者に対しても何の法的処罰もないことが問題視されるようになってきた。

被害に遭うパターンとして、交際中に自分で又は相手が自分のヌードや性的な画像・映像などを自ら進んで、又は合意の上で電子メールやSMSなどで共有した後に交際関係を解消することになり、その相手が「復讐」のために「リベンジ・ポルノ」掲載ウェブサイトにその画像や映像、その他の個人情報を公開するという話を、典型的な例としてマスメディアなどは紹介している。このような「リベンジ・ポルノ」掲載ウェブサイトはいくつもあり、掲載物の削除依頼をすると法外な値段を請求されたり、クレジットカード番号を教えなければならなかったりするという。

「リベンジ・ポルノ」掲載ウェブサイトについては、2010年に、ハンター・ムーア(Hunter Moore)氏が"IsAnyoneUp?"というウェブサイトを開設したのが最初といわれる 174。同氏のウェブサイトは月間8,000ドルから2万ドルも広告収入が得られるものであったといわれており、一時期はマスメディアにも頻繁に出演するなど注目を集めた 175。同サイトは2012年に、未成年者の映像などの投稿が多くなったという理由で、同氏によって閉鎖された。

現在も運営されている「リベンジ・ポルノ」掲載ウェブサイトである"MyEX.com"は、ホスト国はオランダ、登録は香港、送金先はフィリピンとなっており、運営者は表に出ないようになっている。ある被害者によると、掲載映像の削除依頼に対して500ドルが請求されるという 176。

2013年12月には、カリフォルニア州サンディエゴで、"UGotPosted.com"を運営していたケビン・ボラール(Kevin Bollaert)氏が、恐喝、個人情報窃盗及び共謀などの重罪31件の容疑で逮捕された 177。他の「リベンジ・ポルノ」掲載ウェブサイトとは異なり、画像を投稿する際に、画像に映っている人物の氏名、住所、年齢及びFacebookのページなどの入力を必須にしていたことが逮捕につながった 178。

上述のようなウェブサイト運営者は、インターネット上の言論・表現の自由を守るとする「1996年通信品位法(Communication Decency Act of 1996)」第230条によって、法的罰則を逃れることができる。同法は、ウェブサイト運営者はそこに掲載される第三者から提供されるいかなる情報に対しても法的責任を問われることはない、とするものである。その結果、上述のようなウェブサイト運営者も州刑法の処罰をまったく受けていない 179。

被害者が自分の名誉を守るために警察や弁護士に訴えるとしても、被害者が18歳未満の未成年であればそのような画像や映像の単純所持だけで「1998年性的犯罪者からの児童保護法」に抵触する一方で、成人の被害者には当てはまらない。ストーキングやいやがらせの罪状は、加害者が当該行為を続けており、脅迫行為があることが証明されなければ、立件も難しい。

被害者が救いを求めることのできる唯一の手段はプライバシーの侵害を訴えることであった。1998年に成立し、2000年に施行された連邦法である「デジタルミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act:DMCA)」により、自分の名前を検索した際に問題のある画像や映像を検索結果から除去するよう検索エンジンに要請することは可能であるとされている 180。ただし、これは自分自身が撮影したものに限定されている。もっとも、「1996年通信品位法」があるため、ウェブサイト自体から除去することを求めることは、今のところ不可能である。

「リベンジ・ポルノ」の被害者には女性が圧倒的に多いことから、アメリカの世論には、「リベンジ・ポルノ」を女性に対する性的暴力ととらえ、是が非でも被害者の権利が守られるべきであり、そのようなポルノを掲載するウェブサイトの運営者が法的責任を負わないのはおかしい、とする論調が多くみられる。それと同時に、言論・表現の自由を制限する動きは好ましくないとする論も根強い。

また、2009年には、インターネット上のいやがらせなどの増加に応じ、インターネット時代にふさわしい市民権を考えるべき時が来ている、とする論文が学術誌に発表されるなど、「反リベンジ・ポルノ法」の立法化のための土壌が育ってきていたともいえる 181。

2013年11月現在、被害者の救済のために「反リベンジ・ポルノ法」が施行されているのはニュージャージー州カリフォルニア州の2州である。

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しかしながら、言論・表現の自由を守る第230条が無効となるような連邦法は、最高裁判所に訴えられた場合に違憲と判断される可能性が高いとする意見もあり、早急に連邦法化が進むのかどうかはまだ明らかでない

フランスのリベンジ・ポルノに対する政策、規制及び取組

 現行法で対応しているようです

http://www8.cao.go.jp/youth/youth-harm/chousa/h25/net-syogaikoku/3_16.html
(9)リベンジ・ポルノに対する取組
フランスにおいて「リベンジ・ポルノ(フランス語ではporno de la vengeanc)」はこれまで社会的に話題にはされてこなかったが、2013年12月17日にボルドー裁判所が「リベンジ・ポルノ」事件で実刑判決を下して注目を浴びた 437。53歳の男性が20年近く恋人関係にあった同世代の女性との破局後に、その女性を中傷するテキストメッセージや電子メールを女性に送りつけ、さらに女性の性的な画像を女性の友人、同僚及び雇用主に送りつけた。被告の男性に対してボルドー裁判所は、女性に対するプライバシー侵害と苦痛を与えた罪で10か月の禁固刑(うち実刑4か月)及び被害者の女性に対する物質的損害として1万3,000ユーロ、精神的侵害として1万ユーロの賠償金の支払い判決を言い渡した。

なお、現行のフランス法でリベンジ・ポルノを違法行為として処罰する規定はない。ただし、無許可で他人の画像・映像をインターネットに投稿する行為は、プライバシーの侵害として、以下のような法律にもとづいて民事上又は刑事上の責任を追及される。

個人に対する侮辱や中傷に対しては、1万2,000ユーロの罰金が科せられる。(「出版の自由に関する1881年7月29日法律」第32条
プライベートな場での個人の画像を固定・記録・転送することによるプライバシーの侵害に対しては、1年以下の禁固刑又は4万5,000ユーロの罰金が科せられる。 (「刑法典」第226-1条及び第226-2条)
未成年者のポルノコンテンツの配信に対しては、5年以下の禁固刑又は7万5,000ユーロの罰金が科せられる。 (「刑法典」第227-23条)

インターネットによる個人情報の公開と共有化が拡大しつつある中、プライバシー侵害への対応策として、フランスでは「忘れられる権利(droit à l'oubli numérique)」が議論されている。

2012年1月25日に欧州委員会が「1995年データ保護指令」改正案 438を発表し、同改正案によって、個人情報保護を強化する側面から「忘れられる権利」や「データポータビリティの権利(droit à la portabilité des données)」が新たに付与された。前述のように、1995年に採択された「データ保護指令」はEU加盟国及びEEA(欧州経済領域)加盟国に対して国内法化を要求するような個人情報保護分野の枠組み指令であり、フランスの個人情報保護法も同指令にもとづき整備された。

「忘れられる権利」は同改正案第17条 439に規定され、「1995年データ保護指令」第12条(b)における「消去する権利(droit à l'effacement)」をさらに強化したものであり、データ主体の忘れられる権利として個人データを公開している管理者に対し、データ主体の請求があった場合、第三者に当該データのリンクやコピーを消去するように通知することを義務付けるものである。「1995年データ保護指令」第12条でも、個人データを消去する権利が規定されていたが、データが不完全又は不正確、不法に収集された等の理由がないかぎり消去できなかった。今回の改正により、個人が明示的に個人データの削除を要求し、かつそれらを保持する正当な理由がない場合には、データ管理者は当該データを削除する義務が課せられることとなった。

フランスでは、現行の「個人情報保護法」第40条の規定により、「自己の識別が証明された個人は、当該個人情報が不正確、不完全、不明瞭、又は過去のものである場合、若しくは、当該個人情報が収集、利用、伝達又は保存が禁じられている場合に、個人情報処理責任者に対して、当該個人情報を訂正、補完、更新、停止、又は消去させるように要請することができる」とし、消去する権利が認められている。

2010年9月30日には、インターネット利用者の個人情報保護の強化及び未成年者のリテラシー向上を目的として、「デジタルの忘れられる権利憲章(Charte du droit à l'oubli numérique 440)」が政府の主導により定められ、同年10月13日には「提携サイト及び検索エンジンにおけるデジタルの忘れられる権利(Charte du droit à l'oubli numérique dans les sites collaboratifs et moteurs de recherche)」が政府とインターネット関係者(ただし、グーグル、Yahoo!Facebookは不参加)との間で締結された。

最近の事例では、2013年11月6日に大審裁判所が、検索エンジンから元国際自動車連盟会長マックス・モズレー(Max Mosley)氏の性的な映像を削除するようにグーグル社に命じた 441。

以上のように、フランスではプライバシー保護にもとづく「忘れられる権利」が社会的に認められ始めている。