児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

法定刑比較における併合罪の視点

 立法者が「諸外国との比較」で○○罪の法定刑を決めることがあるが、刑法総論にある併合罪加重の制度も考慮して欲しいものだ。
 例えばアメリカ合衆国は、「併科主義」なので、微罪でも罪数が多いと「懲役100年」という判決もあり得る。
 例えば日本と同じ法定刑の児童買春罪・児童ポルノ罪(法定刑懲役3年)が存在するとしても、10罪あれば、懲役30年までを宣告できる。
 これに対して日本は「加重主義」で、罪数が増えても、1.5倍にしかならない。
 児童買春罪・児童ポルノ罪(法定刑懲役3年)10罪の場合の最高刑は、懲役4年6月である。
 何個の罪を犯しても、天井が決まっているわけだ。
 立法者が罪数に関心がない理由、日本で児童買春罪・児童ポルノ罪の罪数を争ってもあんまり関心を呼ばない理由は、ここにあるんじゃないか。刑法総論の問題。
 被害者がある罪で、何個成立しても上限が1.5倍までというのでは、多数罪ある場合に、被害者1人当たりの量刑は少なくなるという印象は否めない。
 「罰金で済む性犯罪」だからこれでいいと言うのかも知れない。
 なお、罰金なら加重されていくから、併科主義ではこれも異常に高額になることもある。


第47条(有期の懲役及び禁錮の加重)
併合罪のうちの二個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。

http://www.mainichi-msn.co.jp/yougo/archive/news/2003/07/20030711dde041040999000c.html
http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/0/543785dfff7a51b449256cb100034e19?OpenDocument
事件番号  :平成14年(う)第756号
事件名   :略取,逮捕監禁致傷,窃盗被告事件
裁判年月日 :H14.12.10
裁判所名  :東京高等裁判所

(3) 併合罪すなわち犯人が数罪を犯した場合の刑の定め方に関しては,基本的に三種類の方法がある。
第1の方法は,併科主義と呼ばれるもので,各罪ごとにその刑を定めてこれを併科するものである。刑法は,罰金刑について他の刑(ただし,死刑を除く。)との関係で併科主義をとっている(刑法48条1項。なお,同条2項については,併科主義をとったとする見方のほか,後記の加重主義をとったとする見方もあろう。)。
第2の方法は,吸収主義と呼ばれるもので,各罪のうち最も重い罪についてだけ刑を科し,あるいは,その罪の法定刑の限度内で処断するものである。刑法は,死刑及び無期の懲役又は禁錮について,原則として吸収主義をとっている(刑法46条。ただし,没収のほか,無期の懲役又は禁錮に処するときの罰金,科料を除く。)。
第3の方法は,併科主義と吸収主義の折衷的な方法で,加重主義と呼ばれ,各罪のうち最も重いものについて定められた刑に一定の加重を施した上,その範囲内で1個の刑を量定し,一罪を犯した場合よりは重く,併科するよりは軽く処断するものである。刑法は,併合罪中2個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときに加重主義をとっている(刑法47条)。このように,加重主義とはいっても,吸収主義との比較においては「加重」という呼称がふさわしいが,併科主義を基準に考えれば「減軽」主義と呼ぶ方が実態に合う。