「A所有のリップクリームを化粧ポーチから取り出して舐め回し、更に自己の陰茎に擦り付けて精液等を付着させた上、同リップクリームを再び同化粧ポーチ内に収納するなどし、同日午前10時頃、同社●●●において、Aに同リップクリームに被告人の精液等が付着しておらず、同リップクリームを自己の口唇に塗布することがわいせつな行為ではないとの誤信をさせ、同リップクリームを自己の口唇に塗布させるわいせつな行為をした。」という不同意わいせつ罪(176条2項)(松山地裁R7.5.14)
「被害者が、著しい精神的苦痛を感じるであろうことは容易に想定される。このような点からすると、~~する行為は、当該行為が行われた際の具体的状況等如何にかかわらず当然に性的な意味がある行為と認められ、その性的意味合いの強さは、刑法176条による非難に相当する程度に達していると認められる」といえば何でもわいせつ行為になります。
以前、関係文献は紹介しました。
okumuraosaka.hatenadiary.jp
不同意わいせつ、窃盗被告事件
松山地判令和7年5月14日D1-Law.com判例体系〔28333079〕
上記の者に対する不同意わいせつ、窃盗被告事件について、当裁判所は、検察官藤田琴花、私選弁護人兵頭俊輔各出席の上審理し、次のとおり判決する。理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第6(令和6年10月24日付け起訴状記載の公訴事実)
令和6年8月22日午前2時15分頃から同日午前3時34分頃までの間に、同社●●●において、A所有のリップクリームを化粧ポーチから取り出して舐め回し、更に自己の陰茎に擦り付けて精液等を付着させた上、同リップクリームを再び同化粧ポーチ内に収納するなどし、同日午前10時頃、同社●●●において、Aに同リップクリームに被告人の精液等が付着しておらず、同リップクリームを自己の口唇に塗布することがわいせつな行為ではないとの誤信をさせ、同リップクリームを自己の口唇に塗布させるわいせつな行為をした。
(証拠の標目)
(争点に対する判断)
弁護人は、判示第6の行為は、被害者の身体に直接接触した行為ではなく、当該行為時の具体的状況等も踏まえると刑法176条の「わいせつな行為」に該当するほどの重大な法益侵害性は認められないから、被告人に不同意わいせつ罪は成立しないと主張する。
しかし、性的関係を自らの意思で結んだ相手以外の精液等に、口唇で触れることは、日常生活において通常あり得ないから、口唇に物を介して精液等を塗布する行為に、性的意味以外の社会的意味を想起することはできない。また、間接的とはいえ、精液等を口唇等に塗布されると、被害者が、著しい精神的苦痛を感じるであろうことは容易に想定される。このような点からすると、口唇に物を介して精液等を塗布する行為は、当該行為が行われた際の具体的状況等如何にかかわらず当然に性的な意味がある行為と認められ、その性的意味合いの強さは、刑法176条による非難に相当する程度に達していると認められる(最高裁平成29年11月29日大法廷判決刑集71巻9号467頁参照)。したがって、判示第6の行為は、刑法176条の「わいせつな行為」に当たり、被告人には不同意わいせつ罪が成立する。
(法令の適用)
罰条 判示第1ないし第5の各所為はいずれも刑法235条に、判示第6の所為は刑法176条2項、1項(令和5年法律第66号附則3条前段により「拘禁刑」を「懲役」とする)に該当
刑種の選択 判示第1ないし第5の各罪についていずれも懲役刑
併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(最も重い判示第6の罪に法定の加重)
執行猶予 刑法25条1項
保護観察 刑法25条の2第1項前段
(量刑の理由)
1 本件は、前科前歴のない被告人が、自慰行為の際の性的興奮材料として使用する目的で2名の同僚の私物を持ち出した窃盗5件(判示第1ないし第5)と、そのうち1名のリップクリームを持ち出し陰茎に擦り付けるなどして精液等を塗布後返却し、何も知らない被害者に使用させた不同意わいせつ1件(判示第6)の事案である。
2 量刑の中心となる本件不同意わいせつは、上記のとおり性的意味合いの強い行為であり、不同意わいせつ事案の中でも性的自由を侵害する程度は高い。また、本件不同意わいせつは、職場が同じであることを利用し、被害者が被害に気付きにくい状況下で、約4年間もの長期間に渡って執拗に繰り返された常習的犯行の一端であり、卑劣かつ悪質な犯行である。被害者は、多大な精神的苦痛を感じ続けており、厳罰を求めるのも当然である。窃盗5件についてみても、同僚であった被害者らの信頼を裏切る悪質な犯行である上、常習性も認められる。自慰行為の際の性的興奮を高めるという動機に、酌量の余地などもとよりない。
しかし、他方で、起訴された不同意わいせつは1件にとどまり、窃盗5件を併せてみても、常習性を量刑上考慮するには限度がある。同種事案(前科前歴がない被告人の不同意わいせつ1件の事案)との均衡も考慮すると、本件について、刑の執行を猶予することがおよそ許されない事案とまではいえない。
3 その上で、被告人には、判示第2ないし第6の被害者に200万円の被害弁償を行ったこと、罪を認め、今後は医療の力も借りて自身の性的認知の歪みを正すべく努力すると誓ったこと、出廷し、被告人の更生を見守ると誓った同居の母がいることなどの酌むべき事情がある。そこで、これらの事情も踏まえ、被告人に対しては、その刑事責任を明らかにするべく主文のとおりの懲役刑を定めた上、今回は、社会内で更生する機会を付与するのを相当と判断した。もっとも、本件の悪質さや常習性等に鑑みると、被告人の性的認知の歪みは大きく根深いものといわざるを得ず、再犯防止につき、被告人の自覚と高齢の親の監督による通院確保だけでは不十分であって、公的機関の指導・監督の下で、被害者らへの接触などを禁じた上、性犯罪再犯防止プログラムも受講させ、更生を促す必要があるから、保護観察に付すこととした。
(求刑 懲役3年6月)(裁判官 髙場理恵)