児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

20歳未満の者に酒類を提供したとされる事案において、被告人Y2及びAは いずれも酒類を提供した当時、前記Bら及びCらが20歳未満であることを認 識していたと認めるに足りる証拠はないとして被告会社及び被告人Y2に無罪 が言い渡された事例(岐阜簡裁r4.3.23)

20歳未満の者に酒類を提供したとされる事案において、被告人Y2及びAは
いずれも酒類を提供した当時、前記Bら及びCらが20歳未満であることを認
識していたと認めるに足りる証拠はないとして被告会社及び被告人Y2に無罪
が言い渡された事例(岐阜簡裁r4.3.23)

 風営法50条1項4号の罪は故意犯です。
 裸にもならないので、「当時の髪型や服装、背格好において、同人らが明ら
かに20歳未満であることをうかがわせる点は見当たらない(甲14、17、
20)。また、Bらを代表して被告人Y2と応対したのはEであると考えられ
るところ、新型コロナウイルス感染拡大防止のために、同人がマスクをしてい
た可能性もあり(B・12頁)、同人の顔立ちから得られる情報量は少なかっ
たと考えられる。」などで評価されるようです。

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律
第二二条(禁止行為等)
1 風俗営業を営む者は、次に掲げる行為をしてはならない。
六 営業所で二十歳未満の者に酒類又はたばこを提供すること。

第五〇条
1 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の拘禁刑若しくは百万円以
下の罰金に処し、又はこれを併科する。
四 第二十二条第一項第三号の規定又は同項第四号から第六号まで(これらの
規定を第三十一条の二十三及び第三十二条第三項において準用する場合を含
む。)の規定に違反した者
2第二十二条第一項第三号若しくは第四号(第三十一条の二十三及び第三十二
条第三項において準用する場合を含む。)、第二十八条第十二項第三号、第三
十一条の三第三項第一号、第三十一条の十三第二項第三号若しくは第四号又は
第三十一条の十八第二項第一号に掲げる行為をした者は、当該十八歳未満の者
の年齢を知らないことを理由として、前項の規定による処罰を免れることがで
きない。ただし、過失のないときは、この限りでない。〔本条改正の施行は、
令四法六八施行日〕

判例番号】 L07760001

       風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反被告
事件

【事件番号】 岐阜簡易裁判所判決/令和3年(ろ)第1号、令和3年
(ろ)第2号
【判決日付】 令和4年3月23日
       主   文

 被告人Y1株式会社及び同Y2は、いずれも無罪。
       理   由

第1 本件公訴事実の要旨等
 1 本件公訴事実の要旨は、「被告人Y1株式会社(以下「被告会社」とい
う。)は、滋賀県湖南市(以下略)に本店を置き、岐阜市保健所長から飲食店
営業の許可を受け、岐阜市(以下略)において、飲食店「△△」を営むもの、
被告人Y2は同店の店長、Aは同店の従業員であるが、①被告人Y2は、被告
会社の営業に関し、令和2年10月10日午後7時頃から同日午後9時3分頃
までの間、同店において、客であるB(当時17歳)ほか2名がいずれも20
歳未満の者であることを知りながら、同人らに酒類であるサワーを提供し、②
前記Aは、被告会社の営業に関し、同日午後7時14分頃から同日午後8時1
4分頃までの間、同店において、客であるC(当時18歳)ほか1名がいずれ
も20歳未満の者であることを知りながら、同人らに酒類であるサワーを提供
し、もって営業所で20歳未満の者に酒類を提供した」というものである。
 2 証拠によれば、被告人Y2及びAが、公訴事実記載の日時に、被告会社
の営業として、その営業所で、被告人Y2においては、B(当時17歳0か
月)、D(当時19歳1か月)、E(当時18歳8か月)、F及びGを座席に
案内した際、B、D及びEから、Aにおいては、C(当時18歳9か月)及び
H(当時18歳4か月)を座席に案内した際、両名から、いずれもレモンサワ
ー飲み放題の注文を受け、各テーブルに備付けのサーバーからレモンサワーを
ジョッキに注げる状態にして、酒類を提供した事実が認められる。
   被告人Y2及びAはいずれも、酒類を提供した当時、前記Bら又はCら
が20歳未満であることを知らず、また20歳未満であるかもしれないことも
認識していなかった旨供述する。弁護人は、風俗営業等の規制及び業務の適正
化等に関する法律(以下「風営法」という。)50条1項4号及び56条の規
定(同法32条3項により準用される場合に限る。)は、憲法31条に違反す
るなどとして、公訴棄却の判決又は決定を求めるとともに、被告人らの供述に
従い、実行行為者にいずれも故意が欠けるから、被告会社及び被告人Y2につ
き、いずれも無罪である旨主張している。
第2 公訴棄却の主張について
  弁護人は、風営法50条1項4号及び56条のうち、飲食店営業を営む者
に対して罰則を定める部分は、未成年者飲酒禁止法3条1項、1条2項との刑
罰の均衡を欠くもので、適正手続を定めた憲法31条に違反するなどと主張す
る。しかし、少年の健全育成等という重要な法益保護のため、未成年者飲酒禁
止法で捕捉できない行為も含め処罰対象とする必要から、風営法50条1項4
号、56条、32条3項、22条1項6号の各規定が定められたと考えられる
ところ、その刑罰の重さ等に照らしても、同条項が憲法31条に抵触するもの
でないことは明らかである。その余の弁護人の主張を検討しても、本件公訴を
棄却すべき事情は何ら認められない。
第3 被告人Y2の酒類提供について(公訴事実①)
 1 検察官は、(ア)酒類を提供した客であるB、D及びEは、当時17歳
から19歳の未成年であり(甲12、15、18)、年齢相応の容貌をしてい
ること(甲14、17、20)、(イ)被告人Y2は、令和2年10月10
日、同月23日及び同年11月5日の各取調べ時に、Bらが未成年かもしれな
いと思いながら酒類を提供した旨警察官である証人I又は同Jに供述したこと
(証人I、同J、乙5、6、10。他方、被告人Y2は、そのような発言をし
ていない旨供述する(被告人Y2・8頁等)。)に照らせば、被告人Y2は、
Bらから酒類の注文を受け、提供した際、同人らが未成年であるかもしれない
と認識していたと考えられる旨主張する。
 2 しかし、B、D及びEらの当時の髪型や服装、背格好において、同人ら
が明らかに20歳未満であることをうかがわせる点は見当たらない(甲14、
17、20)。また、Bらを代表して被告人Y2と応対したのはEであると考
えられるところ、新型コロナウイルス感染拡大防止のために、同人がマスクを
していた可能性もあり(B・12頁)、同人の顔立ちから得られる情報量は少
なかったと考えられる。
   その上で、被告人Y2は、Eらが未成年である可能性も考えて、Eに、
その来店時、未成年の方にはお酒を提供できない旨告げ、さらにタブレット
末が配備されていない座席に案内した後、タブレット端末の未成年や運転手で
ないことの確認ボタンの代わりとして、未成年や運転手の方にはお酒を提供で
きない旨を告げたところ、Eは、いずれも「大丈夫です」と答えた。マスクを
するなどしているEらにつき、なおも20歳未満であることを疑うべき契機は
証拠上うかがえず、被告人Y2が、この返答をもってEらが20歳以上である
と考えたとしても何ら不思議でない。このことは、Bがマスクをしていなかっ
た場合も同様である(B・12頁)。Bの顔立ちに、同人が20歳未満である
ことを疑うべき契機は見当たらない。
   検察官は、「大丈夫」という返答が多義的であり、これをもって見た目
から抱くべき未成年者が含まれているかもしれないという疑念を払拭するに足
りない旨主張する。しかし、Eらは、「大丈夫」と返答した上で酒類を注文し
ているのであって、同返答は未成年や運転手ではないことを意味すると解する
ほかない。20歳未満であることが明白とはいえないBらにつき、さらに同人
らが嘘をついている可能性を想起してしかるべきとまでは認められない。検察
官の前記主張は採用できない。
   また、検察官は、被告人Y2は公判で、当初、Eの「大丈夫」という返
答を「未成年ではないから大丈夫」という意味と捉えた旨供述しておきなが
ら、その後に「未成年だがお酒を飲まないから大丈夫」という意味も含まれて
いたと捉えた旨供述を変えた点を指摘する。しかし、被告人Y2の供述が曖昧
であることを前記客観証拠の推認力を高める事情とすることはできない。確か
に被告人Y2の前記供述はその趣旨が判然としないが、Bら5名のうちお酒を
注文していない者もおり、その者が未成年である可能性を認識していたことを
意味するとすれば、酒類の提供を受けたBらが20歳以上であると認識してい
たことと必ずしも矛盾するものではない。
 3 そして、前記乙第5、6及び10号証(以下「本件自白調書」とい
う。)ならびに被告人が本件自白調書の内容のとおり供述した旨の証人I及び
同Jの証言は、その内容やその後の捜査経過等に照らして信用しがたい。
   すなわち、本件自白調書は、被告人Y2がBらを案内してから酒類を提
供するに至るまでの経過や時間帯等について記載されたものであるが、Bらが
未成年であることの認識に係る自白部分は、「見た目が若そうだから未成年で
はないかと思った」と記載されているのみで、5人いる中の誰のどのような見
た目かについては一切触れられていない。本件で、Bらが未成年であること、
酒類を提供したこと自体は客観的裏付けも容易で、さらに補充して捜査すべき
主たる部分は、被告人Y2が、Bらが20歳未満であると認識していたか否か
のみであるのは明白である。そのような中で、前記のような抽象的で曖昧な自
白を得たのであれば、その真意を確認するため、そのような認識を抱いた具体
的根拠等につき必要な聴取や補充・裏付捜査が行われてしかるべきと思われ
る。しかし、そのような言及があったことを前提にした補充・裏付捜査がされ
た形跡はない。これらを踏まえると、本件自白調書の内容が前記のような抽象
的で曖昧な表現のみにとどまることは、被告人Y2がそのような供述をしたこ
とに疑念を抱かせるに足るものといえる。
   もっとも、本件自白調書には、新型コロナウイルス感染拡大の影響によ
り△△の売上が下がっており、Bらが未成年ではないかと思ったが、身分証の
提示を求めて気分を害されることを憂慮し、少しでも売上を上げるために身分
証の提示を求めずに酒類を提供したというもっともらしい記載もあるほか、被
告人Y2がそれぞれ何ら訂正を求めることなく署名押印しているなど、信用性
を補強しうる事情も存在する。しかし、前者については、当時の社会情勢に照
らせば容易に思い付くことができる動機といえ、この記載をもって、被告人Y
2が取調時そのとおり供述したと認めることはできない。また、後者について
も、被告人Y2が、取調時、犯罪の成立には故意が必要であるとの知識がな
く、悪いことをしてしまった負い目から十分内容を確認せずに署名押印してし
まった可能性も否定できない。いずれも、Bらが未成年かもしれないと思った
とは話していない旨の被告人Y2供述の信用性を排斥するに足りない。
   むしろ、被告人Y2は、本件発覚の契機となった、CとBの店内での喧
嘩につき、自ら警察に通報している(被告人Y2・5頁)。自身が20歳未満
の者への酒類提供という犯罪をしたことを認識していたとすれば、その発覚を
恐れ、通報をためらうのが通常といえるが、通報に躊躇した様子はみられな
い。このことは、被告人Y2が、Bらが20歳未満であるかもしれないと認識
していなかったことに沿う事実といえる。
   これらを踏まえると、Bらが未成年かもしれないと思ったとは話してい
ない旨の被告人Y2の供述の信用性を排斥しきれないから、証人I及び同Jの
証言並びに本件自白調書は信用できないといわざるを得ない。
 4 以上を踏まえると、結局客観証拠によっても、被告人Y2が故意を有し
ていたと認めることはできず、これは本件自白調書の存在を考慮しても同様と
いうべきである。
第4 従業員Aの酒類提供について(公訴事実②)
 1 検察官は、(ア)酒類を提供した客であるC及びHは、いずれも当時1
8歳の未成年であり(甲21、24)、年齢相応の容貌をしていること(甲2
3、26)、(イ)Cはこれまでも飲食店でお酒を注文したが、未成年である
ことを理由に断られたことも複数回あり、未成年に見られることが多かったこ
と(C・3、4頁)に照らせば、Aは、Cらから酒類の注文を受け、提供した
際、同人らが未成年であるかもしれないと認識していたと考えられる旨主張す
る。
 2 しかし、C及びHの当時の髪型や服装、背格好において、両名が明らか
に20歳未満であることをうかがわせる点は見当たらない(甲23、26)。
また、Cの顔立ちには若干幼さがみられるが、当時両名が、新型コロナウイル
ス感染拡大防止のためにマスクをしていた(C・21、22頁)ことを踏まえ
ると、その判断の基礎となるのは目や輪郭等のみとなる。このようなわずかな
情報のみから、両名が20歳未満であることを疑うことが可能であったとはい
い切れない。さらに、両名は、お酒を注文するに当たり、タブレット端末で未
成年や運転手でないことの確認ボタンを押している(弁3)。その際等の両名
の態度や言動等次第では、Aが、Cらを20歳以上であると判断した可能性を
排除しきれないというべきである。だからこそ、Cは、他店で20歳未満と見
られることもあれば、20歳以上であるなどと判断されて飲酒できたこともあ
ると考えられる。検察官の主張を総合しても、Aが、当時、Cらが20歳未満
であるかもしれないと認識していたことを推認するに足りない。
第4 結論
   以上によれば、被告人Y2及びAにつき、いずれも故意を認めることが
できず、本件公訴事実につき犯罪の証明がないことになるので、刑事訴訟法
36条により被告会社及び被告人Y2に対し、いずれも無罪の言渡しをする。
(求刑 被告会社につき罰金50万円、被告人Y2につき罰金30万円)
(検察官曽我部誉広、弁護人中島晃(被告会社の関係で主任弁護人)及び同喜
久山大貴(被告人Y2の関係で主任弁護人)(いずれも被告人両名)各出席)
  令和4年3月23日岐阜簡易裁判所
           裁判官  守屋尚志