児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

l コンピュータグラフィックス(以下「CG」という。)の素材となった写真の被写体である児童と全く同一の姿態,ポーズをとらなくても,当該児童を描写したといえる程度に,被写体とそれを基に描いたCG画像等が同一であると認められる場合には,平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ等処罰法」という。)2条3項の「児童の姿態」に該当する2児童ポルノ製造罪の成立には,被写体の児童が,児童ポルノ製造の時点及び児童ポルノ等処罰法施行の時点におい

 まだ上告審やってるんだ。

判例タイムス1446号
l コンピュータグラフィックス(以下
「CG」という。)の素材となった写真の
被写体である児童と全く同一の姿態,ポ
ーズをとらなくても,当該児童を描写し
たといえる程度に,被写体とそれを基に
描いたCG画像等が同一であると認めら
れる場合には,平成26年法律第79号に
よる改正前の児童買春,児童ポルノに係
る行為等の処罰及び児童の保護等に関す
る法律(以下「児童ポルノ等処罰法」と
いう。)2条3項の「児童の姿態」に該当
する
2児童ポルノ製造罪の成立には,被写
体の児童が,児童ポルノ製造の時点及び
児童ポルノ等処罰法施行の時点において
18歳未満であることを要しない



対象事件
平成29年1月24日判決東京高等裁判所第lO刑事部平成28年(う)第872号児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件裁判結果|破棄自判,上告原審|東京地方裁判所平成25年(特わ)第1027号平成28年3月15日判決

4本判決の意義等
(1)本件は,写真を基に作成されたCGが児童ポルノに当たるとして起訴された初めての事案であると思われる。
まず,児童ポルノは,被写体と完全に同一のものを描写したものに限られるのかという点については,児童ポルノ等処罰法の立法過程における議論においても,同法の規制の趣旨等から,必ずしも,完全に同一のもののみを指すことを前提とした議論はされておらず(立法過程においては,「その他の物」〔同法2条3項〕として,絵が含まれることを前提とした議論もされているところである。),本判決は, このような点も踏まえ,完全な同一物に限られるものではないとの判断をしたものと思われる。
この点について, これまで明示的に判示された例は見当たらず,本判決が, この点について判示した点には一定の意義があるものと思われる。
また,本件は,作成したものがCGである点にも特徴があるが,本判決は, CGであることから直ちに児童ポルノ該当性を判断するのではなく,あくまで,実在する特定の児童を描写したといえる程度に, その被写体と作成されたCGが同一といえるか否かを判断するに当たり,作成手法を一つの考慮要素と位置付けて検討している。
本判決中で指摘されているとおり,複写の技術等が高度に進んでいる現代の技術を前提とすると,仮に,写真撮影や複写による場合であっても,容易に加工を施すことができ, それにより,特定の児童を描写したと判別できない程度に画像が変化することもあり得る反面,手描きであっても,忠実に描写することで,特定の児童を被写体としたことが明らかな場合もあると思われるところ,作成された画像等から,特定の児童を描写したと判断できる場合には,当該児童の権利侵害が生じ得るのであるから, その同一性の判断に当たっては,作成手法如何ではなく,基本的には,製造された画像等とその被写体の比較によって判断するほかなく,作成手法や作成の動機等の事情は, その判断の際の一つの考慮要素となるにすぎないと思われる。
本判決は, このような複写や画像作成の技術等に関する現代の実情等も踏まえて,同一性に関する判断を示したものと思われる。
(2)次に,被写体がいつの時点で児童である必要があるのかという点については,児童ポルノ等処罰法の保護法益の捉え方との関係で問題となる。
すなわち,児童ポルノ等処罰法が,児童の権利保護を目的とすること自体については,同法’条の文言等から明らかであるが, それのみを目的とするものであるか否かについては,条文上必ずしも明らかでないところ,仮に,純然たる児童の具体的権利保護のみを目的ととらえると,本件のように,古い時代に撮影された児童の写真等を利用して別の画像を製造するなどした場合,行為の時点, さらには, そもそも法が施行された時点で,権利を保護すべき児童が存在しないという事態が生じ得るからである。
保護法益の点については, これまでにも,児童を性欲の対象としてとらえる風潮の助長等に触れた裁判例が出されており(大阪高裁平成l2年lO月24日判決,名古屋高裁平成18年5月30日判決〔判夕1228号348頁〕等参照。
なお,最高裁平成21年7月7日第二小法廷決定〔刑集63巻6号507頁,判夕1311号87頁〕は, 「児童の権利を擁護しようとする同法(筆者注:児童ポルノ等処罰法)の立法趣旨に照らし」との説示部分があるが, それ以外の目的をも含む趣旨か否かについては,直接的には触れられていない。
),立法過程においても,同様の議論がされているところである。
本判決も,基本的に, これらの裁判例に沿うものと思われるが,本判決は,本件後の児童ポルノ等処罰法の改正等の動向も踏まえ,改めて,同法の保護法益等について具体的に検討を加え,一種の社会的法益を保護する側面を有すると結論付けている点で,参考になると思われる。
そして, このような同法の保護法益,趣旨等を前提にすれば,製造の時点や法施行の時点で既に被写体が18歳以上になっている場合でも,児童を性欲の対象とする風潮を助長し,児童の性的搾取や性的虐待につながる危険性を有するという点では変わりがないことなどから,いずれも処罰の対象となると判断したものである。
児童ポルノ等処罰法上,被写体となった人物がいつの時点で児童である必要があるのかという点については, これまで,明示的に判断された例が見当たらないことから,本判決は, この点について初めて判断を示した点で,意義を有すると思われる。
(3)なお,以上のような児童ポルノ等処罰法の解釈に関する判断に加えて,本判決は, タナー法という性発達の評価方法について,基本的な理論の合理性自体は是認した上で,限界もあることを前提に,身体全体の発達の程度も加味して検討するという原判決の判断手法を概ね是認している。
あくまで具体的な事例における判断の一例ではあるが,同種の手法による判断の際の参考となろう。
(関係人仮名)
[判決]
主文
原判決を破棄する。
被告人を罰金30万円に処する。
その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間,被告人を労役場に留置する。
原審における訴訟費用のうち, 2分の1を被告人の負担とする。
本件公訴事実第2(平成25年9月3日付け訴因変更請求書による訴因変更後のもの)のうち,児童ポルノである画像データを含むコンピュータグラフィックス集「○○」を提供したとする点について,被告人は無罪。