児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

女性に体液を掛ける行為について「今回の事件で体液をかけるという行為が『暴行』といえるかどうか悩ましいところです」という弁護士のコメント

 女性に対して射精して精液を掛ける行為は通常「被害者の意思に反してわいせつ行為を行うに足りる程度」の圧力がないので強制わいせつ罪の「暴行」ではありません。普通悩みません。

条解刑法
暴行
暴行罪におけると同様,身体に対する不法な有形力の行使をいう。
なお,次条注2(ア)参照。
程度
被害者の意思に反してわいせつ行為を行うに足りる程度の暴行であれば足り,強盗罪のように反抗を抑圧するに足る程度に達する必要も,強姦罪のように反抗を著しく困難にする程度に達する必要もない(注釈(4四4,大コンメ2版(哨1)。
判例が「力の大小強弱は必ずしも間わない」とするのも(大判大13・10・22集3749),その趣旨と解される。これに対しては反抗を著しく困難にする程度のものを要するとの見解も少なくないが,本罪の場合には,被害者の隙を突いてわいせつ行為を行うこともできるから,抵抗されれば姦淫の目的を達するのが困難となる強姦罪とは異なってくるわけである。

判例コンメンタール刑法
(1) 手段緩和説
強盗罪に比し、強制わいせつ・強姦罪の強制手段は軽微なもので足りるとする手段緩和説が多数説である。判例も、本条の暴行とは、正当な理由なく他人の意思に反してその身体髪膚に力を加えることであり、その力の大小強弱を問わない(大判大13 ・10 ・2 刑集3 ・749) 。この事案は、他人の住居に侵入して就寝中の女性の肩を抱き、手で陰部に触れたというもので、抱擁行為が暴行とされた。

大判大13 ・10 ・2 刑集3 ・749
判決理由
刑法第百七十六條前段ニ所謂暴行トハ正常ノ理由ナク他人ノ意思ニ反シテ其ノ身体髪膚ニカヲ加フルノ謂ニシテ固ヨリ其ノカノ大小強弱ヲ問フコトヲ要スルモノニ非ス従テ他人ノ家宅二侵入シ臥床ニ寝ネタル婦女ノ身体ヲ抱擁スルカ如キハ強大ノカヲ用ヰルト否トニ拘ラス其ノ暴行タルコトヲ失フモノニ非ス故ニ原判示ノ如ク被告力深夜故ナク等等力某方二侵入シ同人ノ妻某ノ寝室ニ到リ臥床ニ横ハリ居タル同人ノ肩ヲ抱キ左手ヲ其ノ陰部ニ触レタリト云フノ行為ハ即チ暴行ヲ以テ猥褻ノ行為ヲ為シタルモノト謂フコトヲ妨クルモノニ非サレハ原審力之ヲ右法條ノ猥褻罪ニ問擬シタルハ固ヨリ其ノ所ニシテ違法ニ非ス論旨ハ理由ナシ

 「わいせつ行為」と評価されるのは実務上定着していて、精液を掛ける行為が強制わいせつ罪になるのは
  別途暴行脅迫が伴う場合
  13歳未満に対する場合
  抗拒不能に乗じる場合
です。

奈良地裁
被告人は自己の精液をなげかけて性的興奮満たそうと企て、19歳に対して、あらかじめセロファンに知れて持ち歩いていた自己の精液をいきなり被害者らの顔面に向けてなげつけて命中させもって強いてわいせつ行為をした
。。。
広島地裁
被告人は自己の精液を女性の顔面に投げつけて性的興奮えようと企て、○○市 舗道上 通行中の26歳に対して、あらかじめ瓶にいれて所持していた自己の精液を同女の顔面になげつけ命中させもって強いてわいせつな行為をした

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161001-00005169-bengocom-soci
「今回の報道を耳にしたとき『何だかなー』という印象でした」
西口弁護士はこう切り出した。どうして器物損壊なのだろうか。
「もしかしたら、『体液をかけた』ことから、『強制わいせつ罪にあたるのではないか?』と疑問に感じた人も多いかもしれません。
強制わいせつ罪は、『13歳以上の男女に対し、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為』をした場合に該当することになります(刑法176条)」
強制わいせつ罪にあたらないのだろうか。
「今回のケースでは、容疑者が、被害者に対して『暴行』を加えたかどうかがポイントになります。
条文の『暴行』とは一般的な意味ではなく、相手方(被害者)の反抗を著しく困難にさせる程度のものであることが必要になってきます。
今回の事件で体液をかけるという行為が『暴行』といえるかどうか悩ましいところです。地裁レベルの判決でも結論がわかれるところになってきます。

そのため、警察も慎重を期して、着衣を汚したという点に着目し、器物損壊罪で捜査しているものと推測されます。モノの本来の効用を失わせている場合は器物損壊罪にあたります。

ただし、今後の捜査によっては器物損壊罪でなく、強制わいせつ罪に切り替える可能性もあります。捜査の行方を見守るしかないでしょう。そもそも、このような犯罪が発生しないようにするためにどうすべきかを検討しないといけませんね」


 単に射精して精液を掛けた強制わいせつ事案もあるが、暴行の解釈を誤っているか、それなりの圧力で射精されたものと思われます。

福岡地裁
書店でしゃがんで読んでいた30歳に 背後に接近して 自己の陰茎を手淫して同女に向けて射精して精液を同女の左手甲及び着衣に付着させ もって 強制わいせつ罪するとともに 着衣を汚損して器物損壊したものである

・・・
奈良地裁葛城支部
椅子に座っていた 17歳に対してにわかに劣情を催し不特定又は多数の者に容易に覚知できる状態で 陰茎を露出し、手淫しながら aにあゆみより1m手前まで接近して身体に向けて射精して着衣に精液付着させ、強制わいせつ罪+公然わいせつした

・・・
広島地裁尾道支部
図書館の椅子に座ってた18歳の 背後に立って自己の陰茎を手淫して同人に向けて射精して精液を同人の着衣に付着させ 強制わいせつ罪