児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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「させる行為」とは,直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をいうが(最高裁昭和39年(あ)第2816号同40年4月30日第二小法廷決定・裁判集刑事155号595頁参照),そのような行為に当たるか否かは,行為者と児童の関係,助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断するのが相当である。(最決h28.6.21)

 ホテルだと「単に同児童の淫行の相手方となったにとどまらず,同児童に対して事実上の影響力を及ぼして同児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をしたと認められる。」となってしまいます。

事件番号 平成26(あ)1546
事件名 児童福祉法違反被告事件
裁判所 最高裁判所第一小法廷
裁判年月日 平成28年6月21日
裁判種別 決定
結果 棄却
原審裁判所 福岡高等裁判所
原審事件番号 平成26(う)218
原審裁判年月日 平成26年9月19日
裁判要旨
1 児童福祉法34条1項6号にいう「淫行」の意義
2 児童福祉法34条1項6号にいう「させる行為」に当たるか否かの判断基準

平成26年(あ)第1546号 児童福祉法違反被告事件
平成28年6月21日 第一小法廷
決定
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
弁護人竹永光太郎の上告趣意のうち,憲法31条違反をいう点は,児童福祉法34条1項6号の構成要件が所論のように不明確であるということはできないから,前提を欠き,その余は,単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
所論に鑑み,職権で判断する。
児童福祉法34条1項6号にいう「淫行」とは,同法の趣旨(同法1条1項)に照らし,児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為をいうと解するのが相当であり,児童を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者を相手とする性交又はこれに準ずる性交類似行為は,同号にいう「淫行」に含まれる。
そして,同号にいう「させる行為」とは,直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をいうが(最高裁昭和39年(あ)第2816号同40年4月30日第二小法廷決定・裁判集刑事155号595頁参照),そのような行為に当たるか否かは,行為者と児童の関係,助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断するのが相当である。
1これを本件についてみると,原判決が是認する第1審判決が認定した事実によれば,同判示第1及び第2の各性交は,被害児童(当時16歳)を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者を相手とする性交であり,同児童が通う高等学校の常勤講師である被告人は,校内の場所を利用するなどして同児童との性的接触を開始し,ほどなく同児童と共にホテルに入室して性交に及んでいることが認められる。
このような事実関係の下では,被告人は,単に同児童の淫行の相手方となったにとどまらず,同児童に対して事実上の影響力を及ぼして同児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をしたと認められる。
したがって,被告人の行為は,同号にいう「児童に淫行をさせる行為」に当たり,同号違反の罪の成立を認めた原判断は,結論において正当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小池 裕 裁判官 櫻井龍子 裁判官 山浦善樹 裁判官池上政幸 裁判官 大谷直人)

 判決速報によれば「児童に対し淫行を助長・促進するような積極的な行為を及ぼしたことを示すなどして、児童に対し事実上の影響力を及ぼして淫行をするよう働き掛け、その結果児童をして淫行をするに至らせたこと」を摘示する必要があるかが問題になっていましたが、決定では判断がありません。
 奥村は必要性の東京高裁H24.10.17の弁護人だったので、聞いてくれれば控訴理由あげたのに。

判決速報
福岡高等裁判所
平成26年09月19日
原判決は、「犯罪事実」において、単にAが18歳に満たない児童であるVと性交した旨のみを判示しているのではなく、福岡県立高校の常勤講師であったAが、2度にわたり、同校の生徒であり18歳に満たない児童であるVをして自己を相手に性交させた旨を判示しているのであって、高校の講師とその生徒という関係自体から、Aが、Vに対し、事実上の影響力を及ぼして淫行をするように働きかけ、その結果Vをして淫行をするに至らせたことが強く窺われる上、原判決は、「犯罪事実」の末尾に「もって児童に淫行をさせる行為をした」と記載しており、福岡県青少年健全育成条例等に規定される青少年に対するいん行の罪等と区別される児童福祉法34条1項6号違反の罪(児童淫行罪)に該当する行為を判示した趣旨であることが明らかであることからすると、原判決の「犯罪事実」の記載は、児童淫行罪の犯罪事実の記載として許容できないわけではなく、理由不備には当たらないというべきである。
第2刑事部
備考
 児童淫行罪の罪となるべき事実の記載方法については、本件と同様、AとVの関係を摘示し、末尾に「もって児童に淫行をさせる行為をした」と記載したものに関し、東京高裁H21.7.6判決(東京高裁判決時報刑事60巻、105頁)が本判決と同旨を判示して適法と判断しているのに対し、東京高裁H22.8.3判決(判例タイムズNo1342、249頁)及び東京高裁H24.10.17判決(公刊物未登載)は、AとVの関係を摘示するだけでは不十分とし、「児童に対し淫行を助長・促進するような積極的な行為を及ぼしたことを示すなどして、児童に対し事実上の影響力を及ぼして淫行をするよう働き掛け、その結果児童をして淫行をするに至らせたこと」を摘示する必要があるとして違法と判断しており、高裁判例が対立している。