児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「撮影行為も性欲を満たすためでした」と被告人に言わせれば観念的競合になるようですね(東京高裁H24.11.1)

 表向き奥村弁護士の名前が出ていませんが、問い合わせがあって引っ張り出してきました。

 「触ったり、撮ったりして、性欲みたすんです」とか、「撮影しないと興奮しない」とか言えば処断刑期が軽くなるんですか。性的傾向不要説に傾いているのに
 この事件は製造+強制わいせつ罪が数件あって観念的競合になっても処断刑期の上限が15年になるので、上告理由が立たなかったんだ。観念的競合説なら10年、併合罪説なら13年になるような事件で議論しないと判例にならない。
 



東京高等裁判所判決平成24年11月1日
【判示事項】 1 監禁罪と強制わいせつ罪とが観念的競合の関
【掲載誌】  高等裁判所刑事判例集65巻2号18頁
       高等裁判所刑事裁判速報集平成24年158頁
       東京高等裁判所判決時報刑事63巻1〜12号220頁
       判例タイムズ1391号364頁
       判例時報2196号136頁
       LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】 判例時報2238号161頁


   イ 強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係について
     所論は,原判示の各強制わいせつ罪と各児童ポルノ製造罪について,いずれも,?被告人が,被害児童に陰部を露出させる姿態等をとらせ,これらを撮影した行為は,撮影行為も含めて全体として,児童ポルノ法7条3項に触れる行為であるとともに刑法176条後段にも触れる行為であり,行為の全部が重なり合う上,わいせつ行為として同質であるから観念的競合の関係にある,?仮に,観念的競合の関係にはないとしても包括一罪である旨主張する。
     そこでまず?の点について検討すると,その事実の概要は,被告人が,13歳未満の被害児童に対し,そのパンティ等を下ろして陰部を手指で触り,舐めるなどした上,自己の陰茎を握らせるなどする(以下,これらの行為を「直接的なわいせつ行為」という。)際に,性的欲求又はその関心を満足させるために,これらの姿態をとらせてその一部(原判示第2,第3の場合)又はそのほとんど(原判示第5,第6の場合)を携帯電話で撮影して児童ポルノを製造したというものである。
     確かに,所論のいうとおり,一般に上記撮影行為自体も刑法176条後段の強制わいせつ罪を構成すると解されている上,直接的なわいせつ行為の姿態をとらせる行為が児童ポルノ法7条3項の構成要件的行為であることからすると,本件において,刑法176条後段に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為とは重なり合いがあるといえる。
しかし,本件では,被告人は,撮影行為自体を手段としてわいせつ行為を遂げようとしたものではないから,撮影行為の重なり合いを重視するのは適当でない。また,直接的なわいせつ行為の姿態をとらせる行為は,上記のとおり構成要件的行為ではあるが,児童ポルノ製造罪の構成要件的行為の中核は撮影行為(製造行為)にあるのであって,同罪の処罰範囲を限定する趣旨で「姿態をとらせ」という要件が構成要件に規定されたことに鑑みると,そのような姿態をとらせる行為をとらえて,刑法176条後段に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為とが行為の主要な部分において重なり合うといえるかはなお検討の余地がある。
     そして,直接的なわいせつ行為と,これを撮影,記録する行為は,共に被告人の性的欲求又はその関心を満足させるという点では共通するものの,社会的評価においては,前者はわいせつ行為そのものであるのに対し,後者が本来意味するところは撮影行為により児童ポルノを製造することにあるから,各行為の意味合いは全く異なるし,それぞれ別個の意思の発現としての行為であるというべきである。そうすると,両行為が被告人によって同時に行われていても,それぞれが性質を異にする行為であって,社会的に一体の行為とみるのは相当でない。
     また,児童ポルノ製造罪は,複製行為も犯罪を構成し得る(最高裁平成18年2月20日第三小法廷決定・刑集60巻2号216頁)ため,時間的に広がりを持って行われることが想定されるのに対し,強制わいせつ罪は,通常,一時点において行われるものであるから,刑法176条後段に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為が同時性を甚だしく欠く場合が想定される。したがって,両罪が観念的競合の関係にあるとすると,例えば,複製行為による児童ポルノ製造罪の有罪判決が確定したときに,撮影の際に犯した強制わいせつ罪に一事不再理効が及ぶ事態など,妥当性を欠く事態が十分生じ得る。一方で,こうした事態を避けるため,両罪について,複製行為がない場合は観念的競合の関係にあるが,複製行為が行われれば併合罪の関係にあるとすることは,複製行為の性質上,必ずしもその有無が明らかになるとは限らない上,同じ撮影行為であるにもかかわらず,後日なされた複製行為の有無により撮影行為自体の評価が変わることになり,相当な解釈とは言い難い。
     以上のとおり,本件において,被告人の刑法176条後段に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為は,その行為の重なり合いについて上記のような問題がある上,社会的評価において,直接的なわいせつ行為とこれを撮影する行為は,別個の意思に基づく相当性質の異なる行為であり,一罪として扱うことを妥当とするだけの社会的一体性は認められず,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから,両罪は観念的競合の関係にはなく,併合罪の関係にあると解するのが相当である。