児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強要と3項製造罪を観念的競合とした事例(某支部H27.8)

 起訴状も観念的競合なのに、なんで法令適用の判示が長いのだろう?
 科刑上一罪にするのなら、3項製造罪の刑を選んで、罰金刑になる可能性もあるね

(法令の適用)
被告人の判示所為のうち,強要の点は包括して刑法223条1項に,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の点は包括して平成26年法律第79号附則第2条により同法による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項・1項,2条3項3号にそれぞれ該当するが,これは1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから刑法54条1項前段,10条により1罪として犯情の重い強要罪の刑で処断することとし,その刑期の範囲内で被告人を懲役年に処し,情状により刑法25条1項を適用してこの裁判確定の日から年間その刑の執行を猶予し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
なお,本件犯行が1罪であることについて当事者間に争いはなく,罪数関係について特段の主張もないが,本件犯行のように児童を脅迫して一定の姿態をとらせて撮影させ,その画像データを犯人の携帯電話機等へ送信させて受信・記録した事案における強要罪児童ポルノ3項製造罪(平成26年法律第79号による改正前の児童買春2児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項)の罪数関係について,下級審裁判例には観念的競合としたものと併合罪としたものがあり,この点を明示的に判断した最高裁判例は本判決時点で存在しない。そこで念のため,両行為における被告人の動態を,法的評価を離れて構成要件的観点を捨象した自然的観察の下で社会的見解上1個のもの(観念的競合)と評価した理由について補足する。
本件犯行における実行行為の重なり合いの程度について見ると,児童に乳房,性器等を露出した姿態をとらせて撮影させた上でその画像データを被告人の携帯電話機に送信させた行為については,児童ポルノ3項製造罪の実行行為と強要罪の実行行為は重なり合っている。
画像データの携帯電話機による受信行為及びこれに伴う携帯電話機への自動的な画像データの記録行為は,児童ポルノ3項製造罪の実行行為である一方,強要罪の実行行為に含まれないが,本件犯行における画像データの携帯電話機による受信行為は特段の積極的な行為を要しないと考えられ,これに伴う携帯電話機への記録行為は自動的にされるから,送信させる行為から切り離した受信・記録行為のみが児童ポルノ3項製造罪の主要な部分であるとして強要罪と社会的見解上別個のものと評価するのは,観念的・形式的すぎるように思われる(この点は,記録行為に若干の操作を要する場合でも大差ないように思われる。)。
なお,強要罪の実行行為のうち脅迫については,児童ポルノ3項製造罪に必須ではないが,児童に乳房,性器等を露出した姿態をとらせる際にしばしば伴う手段であり,少なくとも両行為を社会的見解上別個の動態と見る根拠としては弱いように恩われる。
両行為が通常伴う関係にあるかについても,必然的に伴うとはいえないが,しばしば伴う関係にあることは明らかである。
両行為の社会的事実としての一体性・同質性についても,両行為を観念的競合とすると(児童ポルメの複製行為について児童ポルノ3項製造罪の包括ー罪となるものがある場合に)科刑上ー罪の範囲が広がりすぎて同時性を著じく欠くという懸念はあるかもしれないが,少なくともそのような場合が通常であるとまではいえないように思われるし,両行為の性質についても,児童ポルノの製造そのものを目的とする児童ポルノ3項製造罪と,暴行又は脅迫を用いて他人に義務のないこと(本件犯行においては画像データの受信・記録行為を除く一連の児童ポルノ製造に関連する行為)を行わせることを目的とする強要罪では,両行為の保護法益が異なることを前提としても,一定の同質性があるという評価も可能であるように思われる。
これらの事情を総合すると,当裁判所は,本件犯行における事情の下においては,両行為を社会的見解上。1個の動態と評価すべきであり,観念的競合であると考えるのが相当であると判断した。