児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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匿名化判決書について〜粟田知穂「刑事手続と犯罪被害者の個人情報について」 安富退職記念号慶応法学31号

 東京地裁h25.12.26は起訴状匿名、判決書実名という事案のようです

住居侵入,強制わいせつ被告事件
東京地方裁判所判決平成25年12月26日
       主   文
 被告人を懲役2年に処する。
 この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。
 訴訟費用は被告人の負担とする。

       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人は,路上を歩行中の女性を見かけるや,強制わいせつ行為をしようと考え,平成25年5月28日午前1時10分頃,A(当時19歳。以下「被害者」という。)が東京都内の同人方に帰宅した際,それに引き続いて同室玄関ドアから同室内に侵入した上,その頃,同所において,被害者に対し,左手でその右手をつかむなどして同人を床上に押し倒し,その口を塞ぐなどの暴行を加え,その着衣の上から乳房を数回揉み,股間を数回触ったものである。
(法令の適用)
(量刑の理由)
 本件は,住居侵入,強制わいせつの事案である。
 被告人は駅付近で歩行中の被害者を見かけて本件犯行を思い付くや,10分以上被害者の後をつけ,被害者がアパートのオートロックを開けた隙にアパート内に入った上で,被害者が自宅玄関ドアを開けて入室する際に同室に押し入って判示わいせつ行為に及んだもので,執ような犯行といわざるを得ず,被害者の口を塞いで押し倒した上で,乳房を揉み股間を触るという入室後の暴行等の態様も,被害者の心情等への配慮が感じられない強度かつ粗暴なものである。一人暮らしの自宅内に突然押し入られて襲われた被害者の精神的苦痛等は大きく,被害感情が厳しいのも当然といえる。
 以上によれば,被告人の刑事責任を軽くみることはできない。
 しかしながら,被告人が,今後一切被害者と接触せず,その氏名等を口外しないことを約するとともに本件の損害賠償金として金220万円を被害者に支払って示談を成立させていること,事実を認めて真摯な反省・悔悟の態度を示していること,妻及び母が今後の監督を約束していること,前科がないこと等の事情もあるので,主文の刑期を定めた上で,その刑の執行を猶予することとした。
(求刑 懲役2年6月)
  平成25年12月26日
    東京地方裁判所刑事第9部
           裁判官  安東 章

粟田知穂「刑事手続と犯罪被害者の個人情報について」 安富退職記念号慶応法学31号
(2)判決書(裁判書)
裁判をするときは、裁判書を作らなければならないのが原則であり(刑訴規則53条)、地方裁判所又は簡易裁判所においては、起訴状に記載された公訴事実等を引用したり(刑訴規則218条)、調書判決によることもできる(刑訴規則219条)が、判決書に罪となるべき事実を記載し、そこに被害者の氏名、住所等を記載すれば、仮に被害者特定事項の秘匿決定があるなどして、公判廷で被害者の氏名、住所等を告げない取扱いをしたとしても、刑訴法46条により被告人その他訴訟関係人には裁判書の謄本請求権があるから、被害者の氏名、住所等が被告人に知られることになる。
では、判決書の罪となるべき事実に被害者の氏名や住所を記載しない取扱いができるか。
この点は、既に述べた起訴状における被害者情報の秘匿の可否についての議論がほぼそのまま妥当するものと解される。すなわち、裁判には、理由を附しなければならない(刑訴法44条1項)。特に、有罪の言渡をするには、罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用を示さなければならない(刑訴法335条l項)。罪となるべき事実を具体的に明白にするためには、犯罪の日時・場所、犯罪の主体と客体、犯罪の手段と方法、行為態様、結果の発生の有無、因果関係、法益との関連などをできるだけ具体的かっ明確に特定して判示することを要するとされる24)。その特定の程度については、刑訴法256条3項にいう訴因の特定の程度につき前記白山丸事件判決などが示した基準と同様に解されている。したがって、罪となるべき事実においても、構成要件該当性が明白であるとともに、他の犯罪事実との区別(識別)が可能であることが要求されるところ、被害者の氏名や住所はその上で重要な役割を果たすことも多く、記載を省略するに当たっては、構成要件該当性及び他の犯罪事実との識別機能を損なうことがないよう、留意する必要がある。とりわけ、実体判決が確定した場合、一事不再理効が発生するから、二重処罰が禁じられる範囲を明確にするためにも、判決書における他の犯罪事実との区別(識別)の観点は重要である。
そのため、仮に起訴状において被害者の氏名・住所等を伏せた記載がなされ、公判開始当初もそれによる審理が許容されたとしても、審理の結果、罪となるべき事実の果たす機能との関係で、判決書においては被害者の氏名・住所等の記載が必要という判断に至る場合もあり得るのである25)。
25)前記東京地判平成25年12月26日判例集未搭載。