一般の民事事件の給付判決と同様に、履行確保策がないことは、最初から分かっていました。
福祉犯には適用されません。強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を併合罪だとしてしまうと、製造行為については、刑事損害賠償命令の適用外になります。
犯罪賠償支払い2%以下 弁護士ら調査 命令制度導入後も低調
2015.05.28 読売
犯罪被害者や遺族を救済する仕組みが整えられてきた中で、経済的な支援が残された課題になっている。民事訴訟を起こさなくても加害者に賠償を命じられる損害賠償命令制度が2008年に導入されたが、加害者に資力がないために賠償金はほとんど支払われていない。「犯罪被害者支援弁護士フォーラム」の追跡調査では、遺族に支払われたのは賠償命令額の2%に満たず、「国による補償の拡充が必要だ」と訴えている。同フォーラムは今年3〜4月、被害者側の弁護士を通じ、08年以降に確定した賠償命令などについて支払い状況を調査。同制度に基づく18件と、民事訴訟で賠償命令が出たり、和解金の支払いで合意したりした8件の計26件を分析した。
殺人や傷害致死など被害者が死亡した14件では、加害者が遺族に対し総額約7億9600万円の賠償義務を負ったが、支払いがあったのは1・8%の計約1480万円(3件)。賠償金が高額な一方、加害者の半数は無職で支払い能力が乏しいことが背景にある。
また、強制わいせつや強姦(ごうかん)など性犯罪8件は、賠償金が約200万〜550万円と比較的少額だが、それでも支払い率は30・8%にとどまった。
国からの給付金は遺族で最高約2964万円だが、被害者が20歳で扶養家族がいない場合は最高560万円にとどまる。13年度の給付総額は約12億3300万円だった。
これに対し、ドイツは事件で減った所得などを補う年金などを支給する制度があり、給付総額は約224億円(10年)。フランスでは、加害者が賠償金を支払わない場合は「補償基金」に一定の限度で立て替えを求められる仕組みが08年に導入されている。
同フォーラム事務局長の高橋正人弁護士は「損害賠償命令制度で負担が減った意義は大きいが、十分な救済につながっていない。一時的な支給だけでなく、年金支給や医療支援など新たな補償制度を構築すべきだ」と話している。
◆資力ない加害者 「命令、絵に描いた餅」
裁判で勝ち取った賠償金が支払われない現状は、遺族らを苦しめ続けている。
「裁判所の命令は絵に描いた餅。娘を奪ったことへの償いはなく、むなしさだけが残った」。2012年7月、長女(当時30歳)を無職の男に殺害された埼玉県在住の母親(56)は憤る。
男はマカオのマンションで、交際中だった長女を刺して殺害し、現金約1400万円を奪ったとして無期懲役判決を受けた(上告中)。さいたま地裁の刑事裁判官は昨年6月、損害賠償命令制度で約1億円の賠償を命じ、確定したが、現在まで支払いはない。遺族側の弁護士は「男には貯金や土地などの財産もなく、賠償の見込みはない」と話す。海外での犯罪のため、給付金も支払われないという。
加害者側に支払う努力が見られないケースもある。約1億円の損害賠償命令が出た傷害致死事件では、加害者の弁護士から被害者側に「資力がないので、弁済計画が立てられない」とのファクスが送られてきた。性犯罪で約460万円の賠償命令を受けた無職の男は、被害者の弁護士に「金なんか払いたくない。差し押さえられないように、財産も隠した」と話したという。
〈損害賠償命令制度〉
刑事裁判で有罪判決を言い渡した後、同じ裁判官が証拠を引き継ぎ、被害者への賠償額を決定する仕組み。加害者を相手に民事訴訟を起こす負担を軽減できる。決定は民事訴訟の判決と同じ効力を持ち、当事者から異議が申し立てられれば通常の民事訴訟に移行する。