児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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女客の多い喫茶店て猥談をした者は公然猥褻罪と威力業務妨害罪が成立し、観念的競合となる。 質疑回答集刑法その2警視庁刑事部S41

 昭和41年の話。

事例1  女客の多い喫茶店て猥談をした者の刑責

暴力団員甲を含む5人の男は、女子大生が多く集まる喫茶店Wにはいり、聞えこわいろよがしの大声で猥談をはじめ、男女の声色を使ったり、奇声を発したり、あるいは高笑いをした。このため、周囲の女子大生たちはもちろん、店内の客が、席を移動したり、あるいは店を出るなどし、静かな店内のムードは、ブチこわされてしまった。店主が、営業妨害だといって急訴してきたが、甲らの行為は、公然猥褻罪を構成するか。


公然猥褻罪と威力業務妨害罪が成立し、観念的競合となる。
まず、いわゆる猥談が、第174条にいわゆる「猥褻ノ行為」にあたるかどうかについてみるに、学説の上では、これを猥褻行為にあたるとする積極説と猥褻行為にあたらないとする消極説とがある。積極説は、言語を発することもまた行為の一種にほかならないと主張する。これに対し、消極説は、猥談が猥褻行為にあたるかどうかは論理の問題ではなく、処罰の必要があるかどうかの問題であって、この観点からみれば、言語を発することを、すべての場合に行為として刑罰の対象とすべきではない、と主張する。
ところで、両説とももっともな理由があり、また、いずれを通説とも断じがたく、しかも、この点についての判例の態度が不明であるため実務上は、いかに処理すればよいか、疑義が残るであろう。
思うに、消極説は、一般論としては、猥談は猥褻行為にあたらないとするのであって、また、消極説の論者の中でも「猥褻の言語そのものは猥褻行為ではないが、その言語がそれを表現する他の動作を伴うときは、全体として猥褻行為と認められる場合があろう」(江家・全書各論p.172)として、弾力的な見解を示す者もみられるのであるから、これらの点に徴するときは、消極説といえども、個々具体的事案によっては、公然猥褻罪の成立を肯認する場合もあるのではなかろうか。そこで、本件において、甲らは男女の声色を使い、あるいは奇声を発するなどしたというのであるが、これは、もはや世間一般にみられる単純な猥談の程度を越えたもので、むしろ、男女間の猥褻行為ないし性交が連想されるような一種の演技ともみられる行為ではなかろうか。かように解するならば、積極説の見地においてはもちろんのこと、消極説の見地においても、本件のごとき場合は、公然猥褻罪が成立する余地がある。したがって、実務上、かりに消極説をとったとしても、甲らを本罪に問擬してさしっかえないものと解する。
次に、甲らの行為は、威力業務妨害罪も構成すると解する。