見せつけるのも強制わいせつ罪。
東京高等裁判所判決平成22年6月18日
?被害者A(平成14年○○月○○日生,当時6歳)が13歳未満の女児であることを知りながら,同児にわいせつな行為をしようと企て,平成21年8月4日午後4時ころ,同市内のアパートの敷地内で,同児に対し,その面前で自己の陰茎を露出させて手淫し,その姿態を同児に見せ付けて射精した上,自己の陰茎を手指で触らせ,もって13歳未満の女子に対し,わいせつな行為をし(原判示第1の1。強制わいせつ),
?被害者B(平成15年○月○○日生,当時6歳)が13歳未満の女児であることを知りながら,同児にわいせつな行為をしようと企て,上記?の日時・場所で,同児に対し,その面前で自己の陰茎を露出させて手淫し,その姿態を同児に見せ付けて射精した上,自己の陰茎を手指で触らせ,もって13歳未満の女子に対し,わいせつな行為をし(原判示第1の2。強制わいせつ)
4 結論
(1) 強制わいせつ罪の該当性
ア 原判決は,原判示第1の1及び2の各事実として,訴因と同じく,被告人が各被害児に自己の陰茎を手指で触らせたことのほかに,各被害児「の面前で自己の陰茎を露出させて手淫し,その姿態を同女に見せ付けて射精した」ことをそれぞれ摘示している。
イ この摘示に関する被告人の行為をより具体的に見てみると,被告人は,被害児らに近付いて,2棟のアパートの間の比較的狭い場所で,「これ見て」と言いながら陰茎を露出し,いったん自動車に戻って被害児らに菓子を与えるなどした後,再度被害児らを上記場所に連れていき,「ミルクがでるよ,見てて」などと言って陰茎を露出して手淫して射精しているのである。
ウ 被害児2名に対してこの行為はされているから,刑法174条の公然わいせつ罪を構成していることにもなるが,原判決も訴因も強制(準強制わいせつを含んだ意味である。以下同じ。)わいせつ罪を構成する事実としている。
そこで検討すると,上記行為は,被害児2名の身体への接触を伴わないものの,被害児2名の性的情操を侵害するものであることは明らかであって,まさに,徒に性欲を興奮又は刺激させ,かつ,普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道徳概念に反するものであるから,刑法176条にいう「わいせつな行為」に当たると解される。
そして,被害者の身体への接触を伴わない行為であっても強制わいせつ罪に該当する行為は,本件のような卑猥な行動が主となる態様だけに限定されることはなく,卑猥な言動をして被害者に見聞きさせることなど他の類型の態様も含まれ得るものと解される。その限りでは,刑法176条と同法174条とで「わいせつな行為」に差異はないのであって,両罪を分けるものは「強制」と「公然」といった他の構成要件要素によるものと解される。
このように解すると,原判決の上記摘示自体に誤りはないことになる。
しかし,こういったことは,従来必ずしも明示的には論じられてきていないようにうかがわれるから,原審裁判官としては,検察官に釈明するなどして,上記事実の法的意味合いを手続上も明らかにさせておくなどの工夫と配慮をするのが望ましかったといえる。