児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

第8回性非行の理解と初期支援(後編)(捜査研究745号P61)

 被害児童なんだから、非行少年として補導したらダメじゃないですか。

非行から見えてくる子供たち

  • 非行臨床の視点から-

第8回性非行の理解と初期支援(後編)
文教大学人間科学部准教授・臨床心理士 石橋昭良

く事例5> 援助交際(被害) (高校生・女子)
高校生のYは,これまで全く問題を起こしたことがなく,部活に明け暮れる日々を送っていた。ある日,友人から時給の高いアルバイトがあると誘われた。仕事は男性とお茶したり話をするだけということで,友達もやっているとの安心感から,三十代の男性と何度か会い高額なバイト代を得た。その後,同じ相手から数回誘われたが「自分のタイプではない」と断ったところ,
Yの行為を親にばらすと脅され怖くなって誘いに応じていた。

く事例6>援助交際(売春) (中学生・女子)
中学生のM子は,ゲームサイトのSNSで三十代の成人男性と知り合った。その後メール交換を重ねていくなかで「洋服が買えない」「小遣いが足りない」と書き込んだ、ことから,男性から誘われて売春を繰り返し,親が不審に思ったM子の銀行通帳を確認したところ,男性から二十数万円を得ていたことが判明した。
0 事例の着眼点と対応
女子における性非行の場合,援助交際と呼ばれる金品等の授受を目的とした売春が取り上げられることが多いが.近年では売春に至るプロセスは様変わりしている。1980年代から90年代にかけて,筆者が経験した性非行は次のようなケースが目立っていた。
少年の家庭は離婚問題,経済的困窮,借財などいくつかの厳しい問題を抱えているなかで,中学生になると怠学・深夜はいかい・不良交友が始まり,万引き・粗暴行為などにより補導,中学卒業前後に先輩を通じて地域の非行グループや暴走族に参加,そして暴力団員と知り合い,覚せい剤等の違法薬物乱用が始まり,薬物の購入資金欲しさから売春を行うもので,崩壊家庭や多問題家庭→非行化→補導・検挙→非行集団や暴走族→暴力団→薬物・売春という経過を辿っていき,最終的には少年が薬物依存,性感染症,妊娠などの問題を抱えてしまう悲惨な事例であった。しかしその後,上記のような悲惨な事例は減少し,一方で,テレクラなど性風俗産業が活発となって性の商品化が進むとともに,一部の女子少年は“仲間が経験している"ことによるピアプレッシュー(同調圧力)や“仲間がやっているのだから(自分も構わない)"と合理化することにより,援助交際(売春及び性行為は伴わないが交際の対価として金品を受ける行為を含む。)を行うようになった。近年では仲間によるピアプレッシューに加えて,インターネットの普及により援助交際のツールとして出会い系サイトやSNSなどが活用されており,性非行の新たな温床となっている現状がある。
援助交際の少女を取り巻く環境は,家庭内での大きな負因は見当たらず、一見すると何の不自由もなく育ち,学校にも通っているため,少年の金銭欲や物欲の強さが動機として強調される傾向にある。しかし動機をさらに掘り下げていくと,その背景に見えてくるのは,両親や嫁姑など対人関係の対立・葛藤,アルコールやDV問題など,常に緊張感を抱えている家庭であったり,また,学校に通うものの同級生とのトラブルが続き“どうせ自分はダメなんだ"と受け止めるなど低い自尊感情が特徴である。そして表面的には気楽に小遣い稼ぎ、として援助交際に走っているように見えるが,彼女たちが求めているのは相手の男性の優しさ・温かさ・力強さなどの情緒的触れ合いであり,家庭から離脱するなかで安心感や自らの居場所を求めていると言える。
ある時,援助交際により補導された女子高生に動機を確認したところ,その理由に挙げたのが「うちには,“ホッとする"がない」とのことであった。
踏み込んで聞くと,彼女は自らの家庭を安心できる場所でもなく疲れを癒してくれる場所でもないと言い, このことは幼稚園の頃から感じていたとのことであった。少女は両親共働きである中流の家庭に育ち,自室を持ち,月2万円の小遣いを与えられて,学校に通い部活も参加している高校生であった。
この事例から見えてくるのは「子供が帰宅して安心してホッとできる居場所としての家庭」や「自らを守ってくれる安全基地としての家庭」の機能が幼いころから欠如していたことである。そしてこの事例は子供にとっていかに家庭の機能が重要であるかを教えてくれる。物を与えることで物理的な満足感を得ることは簡単であるが幼少期から満たされていなかった家庭に対する精神的な満足感を得ることは簡単なことではない。彼女たちにとって援助交際は,本来家庭で得られるはずのものを男性に置き換えて代理的な満足を目的としていると考えることができる。
対応にあたっては,男子とは異なる女子の特性を理解する必要がある。男子に比べると問題の出現が早期であり,その背景要因は父母問の葛藤やネグレク卜等の虐待など家庭的・情緒的要因が強く見られる。そして少女が求めるのは,自らを包み込んでくれる優しさや温かさであり,話を聞いてくれる受容であるが,これは母親としての女性モデルに重なるものであり,家庭で満たされていないものを男性に期待していると考えられる。また,女子にとっては男性からの要求に対して女子が応えていくという受け身の姿勢であり,なかには男性の関心をつなぎとめるための性行動も見られるのである。
このようなケースは. 自己の性に対して自尊心が低く,もうどうでもいいと聞き直ることで性非行からさらに薬物乱用など二次的非行が発生することも決して珍しくない。
具体的な初期支援としては,まず,自ら行った非行や犯罪行為に直面させて年齢に応じた責任を問いかける必要がある。しかし責任を問うことで少女を追い込んでしまうことは避けなければならない。そのためには非行の背景や少女のパーソナリティを理解した上で正確な“見立て"を行い, 自尊感情の低い場合には,良いところを見つけ,それを認めて,より強化することで自信を持たせたり,具体的な目標を決めていくことも効果的であり,指導の内容やその強さを調節することが肝要である。つまり剛と柔の両面からの対応が必要となる。また,視点を変えてこれまでの少女にとって犯罪,いじめなどの被害体験の有無を確認することは大切である。被害体験によるトラウマ等による心の傷が癒えないまま,それが原因となって非行化しているケースも見受けられるため,カウンセリングによる心のケアを行うことも必要である。