児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童をして撮影・送信させた場合に、送らせた方が3項製造罪の単独正犯となり、児童には犯罪が成立しない理由。

 裸の写メを送らせる行為(sexting セクスティング)について、児童を処罰せずに送らせた方だけを処罰する理屈に悩んでいます。

 判例はいろいろ理由を付けて、強要とか欺罔があったら、間接正犯になるとして、強要とか欺罔がなくても間接正犯になるというので、結局一貫してないと思います。
 常習犯では実刑事案もありますから、弁護人はこういう裁判所が悩んでいる点を指摘して、解釈を求めるべきだと思います。

 東京高裁H22.8.2は甘言を用いた場合について間接正犯構成。錯誤に陥らせてわいせつ行為をさせているわけで、これじゃ、まるで準強制わいせつ罪です。

 大阪高裁H19.12.4は強要により抑圧されていた場合を間接正犯とした。脅迫で抑圧してわいせつ行為をすると、普通の強制わいせつ罪ですね。


 大阪高裁H21.12.3は被告人が執拗に頼んで児童が撮影・販売した場合について間接正犯構成。これも「執拗」を強調すると強制わいせつ罪になってしまいます。


 地裁レベルで主張すると判決理由に悩みが出てきます。
 神戸地裁H20.11.5教唆的な場合でも単独正犯とする。

 神戸地裁支部H22も教唆犯的な場合も単独正犯と評価できるとする。あたかも3項製造罪ができたときからこういう解釈だったかのようです。

神戸地裁支部H22
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は, 判示第2及び第3の所為について,被告人は,各被害児童が描写した児童ポルノを複写しただけであり,児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の児童ポルノ製造罪の教唆犯が成立するにすぎないと主張する。

 関係証拠によると,被告人は,各被害児童に対し,電子メールにより,それぞれ,同人らの乳房,陰部等を露出させた写真を撮影して被告人の携帯電話機にメール送信するよう指示したところ,上記各被害児童は,それぞれ,同人らの乳房又は陰部を露出させた写真を撮影した上,その画像を添付した電子メールを被告人の携帯電話機に送信したこと,被告人は,自己の携帯電話機を操作して,メールフォルダ内に蔵置された上記写真データをデータフォルダ内に改めて保存したことが認められる。
 ところで,同法2条3項3号に掲げる姿態を児童にとらせ,これを電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が,当該電磁的記録を別の記録媒体に記憶させて児童ポルノを製造する行為は,本罪に当たると解される(最高裁平成18年2月20日第三小法廷決定・刑集60巻2号216頁)。被告人の判示第2及び第3の所為は,いずれも被告人の携帯電話機という同一の電子機器内における保存であるが,長期間保存できるデータフォルダ内へのコピーは当罰性が高く,別の記録媒体に記憶させる行為と同視することができるというべきである。そして,上記認定のとおり,被告人は,各被害児童をして,同人らの乳房,陰部を露出させた姿態をとらせたものであるから,本罪の正犯としての刑責を負うものと解するのが相当である。これに反する弁護人の上記主張は採用できない。

東京高裁H22.8.2はこの判例を下敷きにしているようです。

最高裁判所第2小法廷判決昭和33年11月21日
最高裁判所刑事判例集12巻15号3519頁
最高裁判所裁判集刑事128号655頁
裁判所時報268号143頁
判例時報169号28頁
警察研究57巻2号64頁
ジュリスト170号54頁
ジュリスト307の2号156頁
ジュリスト211の2号166頁
別冊ジュリスト3号170頁
別冊ジュリスト27号176頁
別冊ジュリスト58号88頁
別冊ジュリスト83号10頁
別冊ジュリスト117号6頁
判例評論17号14頁
法学研究(愛知学院大)5巻1〜2号153頁
同第二点は判例違反を主張するのであるが、所論掲記の大審院判決(昭和八年(れ)第一二七号同年四月一九日言渡、集一二巻四
七一頁)の要旨は「詐言ヲ以テ被害者ヲ錯誤ニ陥ラシメ之ヲテ自殺スルノ意思ナク自ラ頸部ヲ縊リ一時仮死状態ト為ルモ再ヒ蘇生セシメラルヘシト誤信セシメ自ラ其ノ頸部ヲ縊リテ死亡スルニ至ラシメタルトキハ殺人罪ヲ構成ス」というのであり、又次の大審院判決(昭和九年(れ)第七五七号同年八月二七日言渡、集一三巻一〇八六頁)の要旨は「自殺ノ何タルカヲ理解スルノ能力ナキ幼児ハ自己ヲ殺害スルコトヲ嘱託シ又ハ殺害ヲ承諾スルノ能力ナキモノトス」というのであつて、原判決はこれらを本件被害者の「心中の決意実行は正常な自由意思によるものではなく、全く被告人の欺罔に基くものであり、被告人は同女の命を断つ手段としてかかる方法をとつたに過ぎない」から「被告人には心中する意思がないのにこれある如く装い、その結果同女をして被告人が追死してくれるものと誤信したことに因り心中を決意せしめ、被告人がこれに青化ソーダを与えて嚥下せしめ同女を死亡せしめた」被告人の所為は殺人罪に当り単に自殺関与罪に過ぎないものてはない、という判示に参照として引用したものである。してみれば、原判決の意図するところは、被害者の意思に重大な瑕疵がある場合においては、それが被害者の能力に関するものであると、はたまた犯人の欺罔による錯誤に基くものであるとを問わず、要するに被害者の自由な真意に基かない場合は刑法二〇二条にいう被殺者の嘱託承諾としては認め得られないとの見解の下に、本件被告人の所為を殺人罪に問擬するに当り如上判例を参照として掲記したものというべく、そしてこの点に関する原判断は正当であつて、何ら判例に違反する判断あるものということはできない。所論はまた前記大審院判例の事案は真実自殺する意思なきものの自殺行為を利用して殺害した場合であるに対し、本件被害者は死を認識決意していたものであり錯誤は単に動機縁由に関するものにすぎないが故に判例違反の違法があるというが、その主張は事実誤認を前提とするか独自の見解の下に原判示を曲解した論難というべきであつて採用できない。(なお所論高裁判例は正に本件と趣旨を同じくするものであり、所論は事実誤認を前提とするもので採用できない。)
同第三点は、本件被害者は自己の死そのものにつき誤認はなく、それを認識承諾していたものであるが故に刑法上有効な承諾あるものというべく、本件被告人の所為を殺人罪に問擬した原判決は法律の解釈を誤つた違法があると主張するのであるが、本件被害者は被告人の欺罔の結果被告人の追死を予期して死を決意したものであり、その決意は真意に添わない重大な瑕疵ある意思であることが明らかである。そしてこのように被告人に追死の意思がないに拘らず被害者を欺罔し被告人の追死を誤信させて自殺させた被告入の所為は通常の殺人罪に該当するものというべく、原判示は正当であつて所論は理由がない。