基準なんて無いようです。
高検速報 703号
判時 1834号161頁
中村孝・研修 668号91頁
一 法令適用の誤りの主張について
所論は、被害者の臀部等を着衣の上からなで回すなどの被告人の行為は、主観的わいせつ性は認められるものの客観的わいせつ性はないから、迷惑防止条例違反罪あるいは暴行罪にとどまるものであるのに、強制わいせつ罪に該当するとした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、という。
強制わいせつ罪にいう「わいせつ」の内容については、原判決が(争点に対する判断)において説示するとおりであるところ、関係証拠によれば、被告人は、いずれの被害者に対しても、その臀部を手のひらでなで回していること、被害者は二一歳及び一四歳の女性であったことが認められ、こうした行為は、着衣の上からされたものであっても、その部位及び態様から客観的にみてわいせつ行為と解するのが相当である。
ことに原判示第一の犯行は、臀部をなで回しただけでなく、被害者の胸部をもなで回しており、そのわいせつ性は明らかである
(なお、原判決は、犯罪事実第二について、「同女をトイレ内に誘い込み、同トイレ内において、同女をしてトイレ奥に設置された水槽タンクの蓋を持ち上げさせた上、その背後から左手でその臀部を撫で回し、もって、強いてわいせつな行為をした。」と認定判示するが、一三歳以上の者に対する強制わいせつ行為は、暴行又は脅迫を手段としてされるものであるから、犯罪事実の摘示においては、わいせつ行為の事実はもとより、暴行又は脅迫の事実も摘示しなければならないところ、上記記載からは、暴行又は脅迫に該当する事実が何であるのか必ずしも判然とせず、強制わいせつ罪の事実摘示として、その表現は不適切といわざるを得ない。
もっとも、強制わいせつ罪の暴行は、被害者の意思に反してわいせつ行為を行うに必要な程度に抗拒を抑制するもので足りるから、トイレ内で被害者の背後から左手でその臀部をなで回す行為が、わいせつ行為であるとともに強制わいせつ罪の暴行に当たると解されるし、原判決の犯罪事実第二の判示を総合的・全体的にみると、その旨判示したものと解するのが相当である。)。
そうすると、原判決には所論がいう法令適用の誤りは認められない。