児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童による2項製造罪(特定少数)+1項提供罪(特定少数)は成立する。

 他人から頼まれたり、頼まれなくても、被害児童自身が自分の裸体等を撮影して送信する行為は、2項製造罪(特定少数)+1項提供罪(特定少数)ですよね。
 まず、直接行為者の責任を検討するのが、定石ですが、保護法益は「処分可能な個人的法益」ではないので、被害者の同意や自損行為は違法性を阻却しない。
 

条解刑法
被害者の承諾は被害者が自ら処分可能な利益(法益)を放棄しており,その範囲で違法性が減少するが,実務上は一般的に,その承諾を得た動機・日的,承諾にかかる法益の内容,承諾に基づいてされた侵害行為の手段・態様・程度,侵害行為による結果発生の有無・程度等の諸般の事情をも総合的に考慮した上,被害者の承諾の存在ゆえに当該行為は処罰に値する違法性が否定され得るものか,それともその違法性の程度が軽減されるに止まるものなのかが判断されている。最決昭55・11・13も,傷害罪に関し,「被害者が身体傷害を承諾したばあいに傷害罪が成立するか否かは,単に承諾が存在するという事実だけでなく,右承諾を得た動機, 目的,身体傷害の手段,方法,損傷の部位,程度など諸般の事情を照らし合せて決すべきものである」としており,同様の立場をとるものと解される。
抑被害者の承諾に基づく行為につき違法性阻却が認められるための要件
① 承諾は,被害者自ら処分し得る個人的法益に関するものでなければならない。国家的法
益に対する罪や社会的法益に対する罪については被害者の承諾は無意味であるし,被害者の個人的法益を保護法益とする罪であっても.同時に競合して国家的法益や社会的法益をも保護法益にしている犯罪(例えば,放火罪等)については,たとえ被害者の承諾があっても,その承諾は違法性を阻却しないと解される(なお,非現住建造物等放火罪において,犯人以外の所有者の同意があれば自己所有物への放火の罪が成立すること・・・・

 従って、被害児童が2項製造罪(特定少数)+1項提供罪(特定少数)の正犯です。処断刑期は4年6月。
 関与した者は共犯の責任を負う。
 教唆だとすると、「撮って送れ」と頼んだら2項製造罪(特定少数)教唆+1項提供罪(特定少数)教唆の観念的競合で(処断刑期は3年)、「撮れ」「送れ」と分けて頼めば2項製造罪(特定少数)教唆+1項提供罪(特定少数)教唆の併合罪。最高4年6月。

 「撮って送れ」を3項製造罪(姿態とらせて製造)の一罪とする見解に対しては、

1 処断刑期の点で、教唆説に劣り、法益保護に欠ける。教唆犯を軽く処罰する趣旨で3項製造罪(姿態とらせて製造)が設けられたのではない。
2 送るというのは、まさに2項製造罪(特定少数)の実行行為であるのに、どうして製造罪で評価できるのか? 製造罪は被害児童の撮影行為の時点で既遂になっており、送信行為によって流通(流布)という新たな法益侵害の危険性を生じているのだから、製造罪一罪では評価し尽くせない。
3 大阪高裁H19等は強要による間接正犯として処理しているが、3項製造罪(姿態とらせて製造)説によれば、強要による場合も間接正犯による理由付けは不要となるはずである。
4 金沢支部判決は児童が児童ポルノ罪に問われる可能性を認めており、3項製造罪(姿態とらせて製造)説と矛盾する。
5 3項製造罪(姿態とらせて製造)は、児童を正犯とすることを回避する趣旨であろうが、保護法益に社会的法益が含まれることを看過している。この場面だけ純粋個人的法益であって処分可能であると理解することはできない。
6  教唆犯説によっても必ずしも児童を処罰する必要はなく検察官の起訴裁量によって起訴を回避すれば処罰されることはない。
7 被害児童があらかじめ撮影した画像を送った場合には、1項提供罪(特定少数)や4項提供罪(不特定多数)を認めざるを得ない。被害者だから犯罪から免責されるわけではない。
8 被害者の関与形態によっては可罰的な場合もあるのであるから、被害者に正犯を認める可能性は留保しておく必要がある。

という批判が可能であろう。