撮影行為を「わいせつ行為」と評価してきた以上、強制わいせつ罪や青少年条例違反(わいせつ)とは観念的競合ないし混合的包括一罪とせざるを得ないところ、強姦とはどうか?
この点を考えるには、強姦罪の機会のわいせつ行為の評価の方法が参考になる。判例を引用すると格調高く聞こえるが、強姦やる奴が、姦淫のみを敢行するはずがなくて、たいてい、わいせつ行為もいっしょにやってるわけだから、包括評価してしまうのです。
裁判例コンメンタールP303
7 他罪との関係及び罪数
強姦目的のわいせつ行為は、強姦未遂のほかに強制わいせつが成立し、両者は法条競合で強姦未遂1罪となる(大判大3・7・21)。同一被害者に対する強制わいせつと強姦とは、包括一罪として強姦1罪が成立する(東京地判平元10・31)
東京地方裁判所平成元年平成元年10月31日
判例タイムズ729号228頁
判例時報1363号158頁
判例タイムズ738号69頁
判例評論388号201頁
本件のように、強制わいせつとこれに接着して強姦が行われた場合はこれを包括して一個の強姦行為と評価すべきであること、強盗強姦罪が成立する場合において、犯人がその強盗の機会(あるいは強姦の際)に加えた暴行により生じた傷害はもとより強盗強姦以外の別罪を構成するものではないが、強盗強姦罪の重要な量刑評価の対象となるものであり、右傷害の点を判示すべきことも多言を要しないところである。)
判例タイムズ729号228頁
まず、本判決は、強制わいせつとこれに接着して強姦が行われた場合は、これを包括して1個の強姦行為と評価すべきであるとしている。
参考となる判例として、岐阜地判昭46・3・11刑月3巻3号432頁がある。
右判決は、強制わいせつに接着して強姦が行われ、強姦は未遂に終わったものの被害者に傷害を負わせたところ、右傷害を発生させた暴行が強姦の犯意発生の前か後か不明な事案につき、強制わいせつと強姦未遂の包括一罪の結果として刑法181条の致傷罪の構成要件に1回該当すると判示している。
右判決につき、木村栄作・警論25巻2号148頁は、強制わいせつ行為と強姦未遂行為とを包括して1個の強姦未遂行為と評価するのが相当であるから、刑法181条の致傷罪というのではなく、同条の強姦致傷罪の一罪が成立すると評釈している。
本件では致傷の結果は生じていないが、強制わいせつと強姦の関係については、本判決も右のような考え方に従ったものと思われる。
いわゆる包括一罪の用語は、判例上かなり広い概念で用いられているが、本判決の場合は、強制わいせつが強姦に吸収されるといういわゆる吸収一罪的な趣旨で用いられたものと理解するのが相当であろう。
これに対し、右岐阜地判に触れた森井□「強姦・強制わいせつ」判例刑法研究5巻257頁は、右判決につき、強制わいせつ、傷害及び強姦未遂の併合罪とすべきであると評しているが、強制わいせつと強姦の罪質と被害法益の同一性、行為の一体性等を考慮すると、一罪説の方が相当なように思われる
撮影行為が「わいせつ行為」だとすれば、強姦の機会の撮影は、強姦行為に接着した「わいせつ行為」であるから、強制わいせつ罪としては強姦と包括一罪である。
同じ撮影行為について、保護法益の違う別罪と評価するとすれば、それは、強姦と包括一罪となるわいせつ行為と一個の行為であるから、強制わいせつ罪とは観念的競合となり、さらに、強姦罪とは包括一罪となるのである。
ということで、強姦と児童ポルノ製造罪は科刑上一罪。東京高裁H19.11.6は疑問。