児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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一つの判決で同時に 2個の懲役刑を言い渡す場合に、一つの刑を実刑とし、他の刑に執行猶予を付することの可否(東京高裁H19.6.25)

 児童福祉法違反の家裁専属管轄があるので、こういうことをよく見聞きしていますが、次にそんな事件にあたったら、本件の検察官の主張をそのまま主張しましょう。

東京高裁H19.6.25(東京高裁刑事判決速報 速報番号3347)
刑法の法文上、一つの判決で同時に 2個の懲役刑を言い渡す場合に、一つの刑を実刑とし、他の刑に執行猶予を付することを禁止する明示の規定はなく、このことが同法 25条の要件にも直接抵触するものではないことは明らかである。
ところで、検察官の所論の骨子は、(丑刑法 25条 1項 1号、 26条 1号、2号、 26条の 3の規定に照らすと、刑法は、実刑判決と執行猶予付きの判決の併存を認めないか、あるいは、実刑に統一すべく規定しており、実刑判決と執行猶予付きの判決の併存、同時宣告を許容しないところである、②刑の執行猶予の制度が、執行猶予取消しの可能性という心理的強制の下、一定の善行保持を条件に犯罪者の社会内における自立的改善更生を期するものである以上、その同一の犯罪者をかかる改善更生の適性がないとして実刑に処しつつ、同時に、かかる改善更生の適性があるとして執行猶予に処するのは背理であり、また 、刑の執行の点からも、実刑判決と執行猶予付きの判決が併存して確定した場合、実刑となった刑の執行中に他方の執行猶予期間の全部又は一部が経過するものと解さざるを得ないが、本来善行保持が強制されるべき社会から隔離された刑事施設内において刑の執行を受ける者に、執行猶予制度の予定する社会内における自立的改善更生を期待することは到底不可能であるから、実刑判決と執行猶予付きの判決の併存は、執行猶予制度の本質と相容れない、③原判決のように、実刑と執行猶予の同時宣告が適法であるとすると、控訴申立て等により確定の時期がずれた場合、結局実刑に統一されるものと解され、また、実刑判決と執行猶予付きの判決が同時に確定すれば、刑法 26条 2号により執行猶予が取り消されると解されるから、同時宣告された執行猶予は、宣告当初から将来的に必要的取消しの対象となることが必然というべきものであり、執行猶予を付したこと自体が無意味というほかなく、このような執行猶予付きの判決は、判決の明確性を著しく害し、被告人ら判決に接する者の刑の執行・不執行に対する予測や期待を裏切り、法的安定性を害すること甚だしく、違法というべきである、という。
しかしながら、以下のようにいずれの所論も採用できない。
①について、所論指摘の刑の執行猶予及びその取消しに関する刑法の条項を考察しても、同法が実刑判決と執行猶予付きの判決の併存や同時宣告を許容しない趣旨とは解されない
②について、刑の執行猶予制度の行刑的意義が所論のいうようなものであるとしても、一つの判決で同時に 2個の懲役刑を言い渡す事案には、それぞれの刑の確定時期や最終結果が異なる場合も考えられるのであって、所論のような行刑の本質論を論拠として、実刑判決と執行猶予付きの判決の併存が許されないと解することは相当とは言い難い。
③について、所論指摘のように、実刑判決と執行猶予付きの判決が同時に確定した場合には刑法 26条 2号が適用されて執行猶予が取り消されると解するとしても、刑の執行を猶予するかどうかの判断は、一つの主文に包摂される事案の諸情状を勘案して行う裁判所 (育)の量刑判断であり、これに対して、刑の執行猶予取消制度は、判決により宣告された自由刑が確定したことを受けて、確定した実刑判決を取消原因として執行猶予の言渡しを取り消し、執行の統一を図るものであり、刑の執行段階で自由刑を整理するものとして存在する別個の制度であると解されるから、執行猶予を付すること自体が無意味ということはできないし、このような執行猶予付きの判決が判決の明確性を著しく害するとか、法的安定性を害すること甚だしく違法であるなどとはいえない。
結局、検察官の所論は、判決による刑の宣告及びその際の量刑判断と宣告された自由刑の執行 (行刑)の状態を一致させることを求めるものと考えられるが、上記のように、判決宣告手続と刑の執行猶予取消制度とは別個の制度と解されるから、判決宣告の段階から刑の執行の状況を考慮に入れて量刑することを求めることになる検察官の所論を是認することはできない。
以上のとおりであり、主文で 2個の懲役刑を言い渡すとき、刑法が一つの判決で同時に実刑判決と執行猶予付き判決を言い渡すことを許容しておらず、その一方のみについて執行猶予を付すことが違法であるとは解されないから、検察官の法令の解釈適用の誤りをいう論旨は採用できない。

追記
研修に紹介されました。検察官の主張も掲載されています。

石英生「主文で2個の懲役刑を言い渡すとき、刑法が一つの判決で同時に実刑判決と起訴猶予付判決を言い渡すことを許容しておらず、その一方のみについて執行猶予を付すことが違法であるとは解されないとした事例」研修 第712号

判例コンメンタール刑法1P111 大島判事
(3) 2個以上の懲役刑又は禁固刑を言い渡す場合に、-部に執行猶予を付し、他方を実刑とすることの可否
しかしながら、懲役又は禁錮に限って考えると、異なる時点で猶予刑と実刑を言い渡すとなると、執行猶予を言い渡すこと自体が違法になるか後に執行猶予が取り消されるかのいずれかになるのであるから、同時であれば許されるとする根拠は乏しいものと考えられる。消極説が正当であろう。