児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

法令適用の誤りの誤判は救済されない。

 名古屋簡裁では、改正前からメール送信を「頒布罪」としてましたよね。今なら提供罪ですが。
 大阪高裁h15.9.18(2003.9.18)では販売・頒布罪にならないと確認されています。

児童ポルノをネット配信 埼玉の教師ら逮捕 愛知県警
2003.10.09 NHKニュース 
 男子中学生を撮影したわいせつな映像をインターネットを使って配信していた埼玉県内の小学校教諭や東京都の職員ら六人が、児童ポルノ処罰法違反の疑いで愛知県警察本部に逮捕されました。
 警察の調べによりますと、容疑者の六人はメンバーの一人が横浜市内で撮影した当時十四才の男子中学生を撮影したわいせつな映像を今年五月、インターネットを使って名古屋市内の大学生や埼玉県内の専門学校生に配信するなどしたとして、児童ポルノ処罰法違反の疑いがもたれています。

 この6人は頒布罪で有罪(名古屋簡裁)となったまま。懲戒処分されています。冤罪でした。
 じゃあ、webから送るのもメールで送るのもデータを送るという現象としては同じだから提供罪でいいですよね。名古屋法では。
 しかし、ご当地の名古屋高裁は、今でも提供罪にならないとか判示しています。閲覧者の手元に残るんだから、提供罪だ、それが名古屋法だと主張したんですが。
 それなら、この6人は頒布罪にならなかったことを認めたことになる。

 こういうのも立法者(議員立法)の知恵の浅いところです。まだまだあります。

 こういう誤判は、事実誤認ではなく法令適用の誤りなので、再審制度にはかかりません。お気の毒。
 いくら児童ポルノ野郎でも、やっぱり、ちゃんと弁護しないとこうなって、救済できないということになります。

名古屋高裁h19.7.6
2主任弁護人の控訴理由第3(インターネット上の公開は、不特定多数の者に対する提供であって、公然陳列に該当しない。)について
論旨は、要するに、インターネットの電子掲示板に児童ポルノ画像データを送信して記憶、蔵置させる行為は、児童ポルノ処罰法7条4項の不特定又は多数の者に対する提供罪に該当し、公然陳列罪には該当しないから、これを「公然陳列罪」に該当するとした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があり、ひいては法令適用の誤りがある、というのである。
しかしながら、児童ポルノ画像を「公然と陳列した」とは、その児童ポルノの内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいうところ、インターネットの電子掲示板に児童ポルノ画像データを送信して記憶、蔵置させる行為は、不特定多数のインターネット利用者が自己のパソコンを使用して当該児童ポルノ画像を認識(閲覧)可能な状況を設定するものであるから、これが児童ポルノ画像の公然陳列罪に該当することは明らかである。
所論は、インターネット利用者がインターネットの電子掲示板に記憶、蔵置されている画像データをいわゆる「閲覧」するのは、当該画像データそのものをインターネット利用者のパソコン画面上で見ているのではなく、インターネット利用者がプロバイダを介し当該画像データを構成する各種ファイルの送信を受け(ダウンロード)、これらを自己のパソコンの一時保管ホルダーに保存し、この一時保管された画像データがパソコン画面に表示され、インターネット利用者はこの画面上に表示された画像を見ているのであるから、電子掲示板に児童ポルノ画像を送信して記憶、蔵置させる行為は、児童ポルノ処罰法7条4項の不特定又は多数の者に対する提供罪に該当し、同項の公然陳列罪には該当しない、という。
しかし、所論が、インターネット利用者において、電子掲示板に記憶、蔵置された児童ポルノ画像を見るに至る経緯を、インターネットの仕組みに照らし詳細に説明していることは認めるが、前記認定のとおり、電子掲示板に児童ポルノ画像データを送信して記憶、蔵置させる行為により、不特定多数のインターネット利用者が当該児童ポルノ画像を、所論が詳細に説明するインターネットの仕組みを介して、認識(閲覧)可能な状況を設定していることが認められるのであるから、その行為は、児童ポルノ画像を公然陳列したというを妨げないというべきである。その他、所論のいう児童ポルノの受け手側における再生可能性の有無に関する点を考慮しても、所論は採用できない。
論旨は理由がない。

阪高裁h15.9.18
(6)原判示第2の事実についての法令適用の誤りの主張(控訴理由第1,第2)について
所論は,原判示第2の事実について,①有体物に化体しない画像データそのものは児童買春児童ポルノ禁止法2条所定の児童ポルノに該当せず(控訴理由第1),また,②有償の譲渡行為といえるためには現実の交付を伴うことが必要であるところ,本件ではこれがない(控訴理由第2)にもかかわらず,それぞれ児童ポルノである画像データを販売したと認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。
そこで,検討するに,原判示第2の事実は,被告人が,各購入者に対して,自己がサーバーコンピューター上に開設したホームページのアドレス及びパスワードをメールで送信し,B1及びB2に対してはそれぞれの自宅に設置されたパーソナルコンピューター内のハードディスクにダウンロードさせる方法で(原判示第2の1及び2の各事実),B3に対してはその自宅に設置されたパーソナルコンピューター内のフロッピーディスクにダウンロードさせる方法で(同3の事実),児童ポルノである画像データを版売した事実を認定していることが明らかである。ところで,児童買春児童ポルノ禁止法2条3項は,「『児童ポルノ』とは,写真,ビデオテープその他の物であって,次の各号のいずれかに該当するものをいう。」と規定しており,「その他の物」については,その例示として掲げられている物が写真,ビデオテープであることからすれば,文理解釈上,これらと同様に同条項各号に掲げられた視覚により認識することができる方法により描写した情報が化体された有体物をいうものと解すべきであるところ,関係各証拠によれば,本件において児童ポルノに該当するとされている画像データは,被告人において,契約を結んだ東京都千代田区大手町1丁目6番地の1大手町ビルディング3階所在の株式会社エヌ・テイ・ティエックス管理のサーバーコンピューターにホームページを開設し,同コンピューターの記憶装置であるディスクアレイ内に記憶,蔵置させた電磁的記錬であり,このような電磁的記録そのものは有体物に当たらないことは明らかである。そして,児童買春児童ポルノ禁止法7条の児童ポルノ販売,頒布罪における販売ないしは頒布は,不特定又は多数の人に対する有償の所有権の移転を伴う譲渡行為ないしそれ以外の方法による交付行為をいうものであるところ,本件において,上記B1,B2及びB3は,それぞれ,被告人から教示されたホームページアドレス等を自己のパーソナルコンピューターにおいて入力することにより,被告人が開設した上記会社管理のサーバーコンピューター内のホームページにアクセスし,同サーバーコンピューターのディスクアレイに記憶,蔵置された本件の画像データをそれぞれ自己のパーソナルコンピューターにダウンロードし,ハードディスクないしはフロッピーディスクにその画像データを記憶,蔵置させて画像データを入手していることが認められるが,上記サーバーコンピューターのディスクアレイ上に記憶,蔵置された画像データそのものは上記B1らのダウンロードによってもその電磁的記録としては何らの変化は生じていないのであり,画像データの入手者であるB1らに上記サーバーコンピューターに記憶,蔵置された電磁的記録そのものの占有支配が移転したと見る余地もなく,この点で原判示第2に認定された事実のもとでは児童ポルノの販売に該当する事実もないというべきである。
そうすると,原判決には児童買春児童ポルノ禁止法7条所定の児童ポルノ販売罪に該当しない事実を同罪に該当するとして有罪とした法令の解釈適用の誤りがあり,この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
論旨は理由がある。