児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

札幌高裁H19.9.4の支離滅裂

 第二次製造の3項製造罪(姿態とらせて製造)については、最高裁H18.2.20が積極説なんですが、判決理由は不明で、判例タイムズの解説しかない。調査官が書いた。
 奥村は消極説、姿態をとらせて実行行為説。

わいせつ図画販売、同販売目的所持、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
【事件番号】平成17年(あ)第1342号
【判決日付】平成18年2月20日
【出  典】判例タイムズ1206号93頁
1 本件は,被告人が,(1)児童買春をしてその児童との性交場面を自らデジタルカメラで撮影し,画像データをメモリースティックに記憶させてから,(2)自宅に帰って,そのメモリースティックの画像データをパソコンのハードディスクにコピーして記憶させたという事案において,上記(1)の行為のみならず(2)の行為(以下「本件行為」という。)もまた,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「法」と略す。)7条3項の児童ポルノ製造罪に当たるかどうかが問題となった事案である。 
2 法7条3項の児童ポルノ製造罪は,平成16年7月施行の法改正によって新設されたもので,同条2項において提供目的による児童ポルノの製造を処罰するのに加え,そのような目的がなくとも,「児童に法2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ,これを写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより,当該児童に係る児童ポルノを製造」することを,同じ法定刑(3年以下の懲役又は300万円以下の罰金)で処罰することとしたものである。そして,「製造」とは,児童ポルノを作成することをいい,児童ポルノは,一定の操作を行うことによって児童の姿態を視覚により認識することができれば足りるとされる(森山眞弓野田聖子編著・よくわかる改正児童買春・児童ポルノ禁止法78頁等)から,例えば,フィルムカメラによる写真撮影の場合には,(1)撮影,(2)フィルムの現像,(3)ネガ・フィルムのプリントのそれぞれが児童ポルノの製造に当たると解される(同98頁。各製造物は,(1)では未現像フィルム,(2)ではネガ・フィルム,(3)では焼き付けられた写真である。)。このように,児童ポルノの製造においては,「撮影して写真を製造する」といった,社会通念的にはーつの固まりと見られそうな行為であっても,その過程で児童ポルノに当たる物が順次製造されるごとに製造行為が観念でき,当初から意図されていた物(上記例では,焼き付けられた写真)が製造されるまでに複数の製造行為が連なっていると理解されることが少なくないことに注意すべきであると思われる(このように複数が連なっている製造のそれぞれを,以下では便宜,第1次製造,第2次製造,第3次製造などという。もっとも,同一の者が犯意を継続してこれらの行為を行ったような場合にはその全体が包括一罪となると考えられるが,そのような場合には,必ずしも常に個々の行為を各別に特定して訴追しなければならないわけではないといえよう。この点については,近時の最一小決平17.10.12刑集59巻8号1425頁,判タ1197号145頁等を参照されたい。
従来はこのような行為の理解が曖昧なまま刑事手続が進められる例も散見されたように思われる。)。そこで,本件においても,画像データをメモリースティックに記憶させた行為のみならずそれをハードディスクにコピーした本件行為も,「児童ポルノの製造」自体には当たるといえそうに思われるものの,ハードディスクの製造行為の際には「児童に姿態をとらせ」てはいないことから,このような場合には本罪は成立しないとの主張がされたものである。 
3 原判決は,所論のように解すると,カメラ等を使用して撮影した場合には,その画像が最初に保存される媒体(ネガ,メモリースティック等)のみが製造となり,そこから他に流通の危険性が高いと認められる媒体(写真,MO,CD−R,DVD−R等)やそれらを作成するため画像を長期間保存できる媒体(ハードディスク等)に画像をダビングする行為は製造罪には当たらないことになるが,それでは,他人に提供する目的のない児童ポルノの製造でも,流通の危検性を創出する点で非難に値するとして処罰規定を新設した法の趣旨が没却されるから,被告人において,児童に「姿態をとらせ」て撮影したものを元にして,被告人自身が他の媒体ヘダビング等する行為は,法7条3項の製造に該当すると解すベきであると判示して本罪の成立を認めた(なお,原判決の「ネガ」等に係る判示は,必ずしも正確ではないというべきであろう。前記参照)。そこで,被告人が更に上告してきたものである。 
4 本件は改正法施行直後に起訴された事件であり,本件1,2審判決以前に,本論点について判示した下級審裁判例は見当たらないようであるが,前記法改正にかかわった立法関係者らによる解説中には,(1)本罪では,「児童に2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ,これを・・・・・・描写することにより」との手段の限定があるので,複製は除外される(森山一野田・前掲100頁,198頁),(2)既に存在する児童ポルノを複製する行為それ自体は,必ずしも直ちに児童の心身に有害な影響を与えるものではない上,いわゆる単純所持と同様,児童ポルノの流通の危険を増大させるものでもないから,複製を含めすべからく製造について犯罪化の必要があるとまでは思われないので,複製を除き,児童に一定の姿態をとらせ,これを写真等に描写し,よって児童ポルノを製造する行為を処罰する規定を新設した(島戸純「『児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律』について」警論57巻8号96頁)等の説明がされていた。そこで,本件行為は,行為時点では「既に存在する児童ポルノ」であるともいえるメモリーステイックのデータを更にハードデイスクにコピーするというものであるから,これらの文献にいう「複製」に当たるというべきであって,本罪の処罰対象から除外するのが立法者の意図に沿うものであるとする解釈(以下「消極説」という。)も,考え得る立場のーつではあったと思われる(なお,本決定前に出された東京高判平17.12.26判時1918号122頁のコメントは,このような見解に立つものと理解されよう。
ちなみに,同判決が採り上げた論点は本決定が触れていないものであるが,同判決がよって立つ前提と本決定の判旨との関係には注意すべき点があると思われる。後記5(1)等参照)。

2 消極説
消極説においては,
(1)法7条3項が「児童に姿態をとらせた者がこれを・・・・・・描写することにより」等ではなく「児童に姿態をとらせ,これを・・・・・・描写することにより」と規定していることからすれば,姿態をとらせることは本罪の実行行為(あるいは実行行為たる「製造」に必ず伴うべき行為)であると解すベきところ,姿態をとらせる行為はオリジナルの児童ポルノの作成時にのみ存し,コピーの作成時には存しないから,本件のようなコピー行為は本罪には当たらない(換言すると,本罪は第1次製造に当たる行為を処罰するものであって,第2次以降の製造に当たる行為を処罰するものではない。),
(2)原判決がいうように他に流通の危険性が高い媒体や長期間保存できる媒体にコピーされることを問題視するとしても,それはコピー元とコピー先の各媒体の性質の相違によるものであって,コピー行為の主体がオリジナルの児童ポルノ製造者と同一人であろうと別人であろうと変わりはないから,主体がいずれであるかによって犯罪の成否を区別する解釈を採る理由にはならない,といった立論が考えられるであろう。 

3 積極説(判例
 しかしながら,本決定は,このような消極説を採用せず,法2条3項各号のいずれかに掲げる姿態を児童にとらせ,これを電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が,当該電磁的記録を別の記録媒体に記憶させて児童ポルノを製造する行為は本罪に当たると解して,原判決を是認した(以下「積極説」という。)。本決定がこのように解した理由は,判文中には特に言及されていないものの,次のような考え方によるものではないかと推察される。 
(1) そもそも児童ポルノの製造とは児童ポルノを作成することをいうのであるから,「姿態をとらせること」は製造とは別の行為であって本罪の実行行為には当たらず,製造の手段たる行為にすぎないというべきである(例えば,児童に姿態をとらせてもそれだけで本罪の実行の着手があったとはいえないというべきである。)。本罪の構成要件を満たすかどうかは,児童ポルノの製造行為が,「姿態をとらせ,これを描写することにより」されたといえるかどうかの問題であって,「自己の言動等により,児童に姿態をとらせ,これを描写することを手段として,児童ポルノを製造する行為」が本罪に当たると解されるから,「自己が児童に姿態をとらせて撮影し作成した画像データをハードディスクに記憶させて,児童ポルノたるハードディスクを製造した」という本件行為が,本罪の構成要件を満たさない理由はないというべきである(結局,本罪は,児童に姿態をとらせた者がこれを利用して児童ポルノを製造することを処罰するという,身分犯的な犯罪であると理解されよう。)。 
(2) 複製は本罪の処罰対象から除外されるとする森山=野田・前掲にも,フィルムの現像やネガ・フィルムのプリントは複製とは別の製造行為であるとの理解に立つと解される記述があり(同98頁),また,法2条3項の児童ポルノの定義規定を受けて,本罪の行為を「姿態をとらせ,これを写真・・・・に描写することにより・・・・・・児童ポルノを製造した」とする法7条3項の規定振りも,行為者が「児童にとらせた姿態を撮影して写真を作る」という社会通念的には一つの固まりと見られそうな行為(前記2参照)に出た場合に本罪によって処罰される児童ポルノの典型例を,第1次製造物たる未現像フィルムではなく第3次製造物たる写真であるととらえていると理解するのが素直である。そうだとすれば,この場合においては,行為時点では児童に姿態をとらせていないプリント行為(第3次製造に当たる行為)が本罪により処罰され得ることになるのであるから,行為の際に児童に姿態をとらせたかどうかで本罪の処罰範囲を画しようとする消極説によっては説明し難いことにならざるを得ない。 
(3) 他方,本件のようなデジタルカメラによる撮影においても,メモリースティックは容量が限られていて高価である等のために一時的な保存に用いるだけで,画像データは直ちにハードディスクにコピーし,そこで画像を選別して一部を印刷したり更にCD−R等に保存したりし,メモリース・ティックは上書きして使い回すなどというように,当初から第2次製造や第3次製造等までを一連のものとして行う意図をもって実行することが通常であるところ(本件被告人が正にそうであった。),このような事案においては前記(2)のフィルムカメラの設例におけるプリント行為は印刷等に相応するといえそうに思われるが,これとは異なって業者に依頼して画像データをプリントさせることもある(この際に,業者が画像データをいったん別の媒体にコピーすることもあり得よう。)など,実際に行われる製造行為には種々のものが考えられ,かつ,画像データ自体はコピーによっても性質を変えず当初との均質性を保つという特性が存するところである。このような事情にかんがみると,本罪により処罰される「製造」の範囲は,それが第1次製造であるかどうかではなく,その製造主体が姿態をとらせた者であるかどうかにより画されると解することが相当であるように思われる。 
(4) しかも,本件のような行為を処罰すべきとする実際的な要請は高いと思われる。すなわち,前記のとおり,この種の事案では,本件メモリースティックのような第1次製造物は,他の媒体にデータがコピーされた後にデータの上書き等により存在しなくなることが通常であるところ,そのような段階で発覚したケースでは,消極説によると,本罪を構成する児童ポルノは存在しないため証拠化できず,最終製造物(行為者にとっては製造の本来の目的物であって,社会的な意味における「児童ポルノ性」は,第1次製造物と何ら変わらないか,むしろ高いことが通常であると思われる。)が行為者の手元から押収されても,その製造自体は犯罪ではなく,刑法19条1項各号の物件ともいえないとして,所有権放棄等がない限り最終的にはこれを製造者に返還しなければならないことになり,第1次製造を立件すること自体も相当に困難な場合があると思われる。また,他に流通の危険性が高い媒体等へのコピーの当罰性の高さをいう原判決の指摘も,第1次製造をした者による当該製造物のコピーはこのような媒体へのコピーとなることが一般に考えられることに照らすと,積極説を相当とする一つの根拠となるといってよいと思われる。 

6 本決定は,法7条3項の製造罪の創設に伴い生じた解釈上の問題で,立法関係者による解説等に照らすと反対説にも相当の根拠があったと思われる重要論点について,最高裁が積極説に立つことを明らかにしたものである。本罪において第2次製造以降の製造が起訴されることは今後もしばしばあり得ると思われるから,本決定は実務上大きな先例的価値を有すると思われる。

 理論上、消極説は「姿態をとらせて」実行行為説、積極説は「姿態をとらせて」非実行行為説(判例)になる。
 札幌高裁H19.9.4は、結論は積極説としないと、上告されて破棄されるので、積極説(判例)をとった。しかし、札幌高裁H19.3.8などこれまでのいきさつから、「姿態をとらせて」実行行為説(判例違反)にせざるを得なかった。
 こんな木に竹を接いだようなのでは納得できない。
 難しいところですが、判例に従って、「姿態をとらせて」非実行行為説を貫けば良かったんじゃないですか?
 こうなるとやっぱり、児童淫行罪と製造罪は併合罪ですよね。