児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

ハメ撮りは社会見解上一個の行為だって、高裁も検事さんも言うてますがなという主張

 大阪地裁でこういう判決がある。

弁護人の主張に対する判断
弁護人は、第4の大阪府青少年健全育成条例違反の罪(同条例39条、28条2号)と第5の3項製造罪とは観念的競合の関係に立つと解すべきであると主張する。
しかしながら、大阪府青少年健全育成条例39条、28条2号は、「専ら性的欲望を満足させる目的で、青少年を威迫し、欺き、又は困惑させて、当該青少年に対し性行為又はわいせつな行為を行う」ことを処罰することとして、「威迫し、欺き、又は困惑させ」ることを実行行為の一部として掲げているところ、このような上記条例違反の実行行為と性行為等を撮影する行為とは、自然的観察の下で社会見解上一個のものとみることはできない。
弁護人は、児童福祉法上の児童淫行罪と児童ポルノ製造罪とが観念的競合の関係に立つと解した裁判例を論拠に上記のとおり主張するものであるが、児童淫行罪(児童福祉法34条1項6号)にいう児童に「淫行をさせる行為」は、行為者が児童に対し事実上の影響力を及ぼして児童が淫行することに原因を与えあるいはこれを助長する行為をして、その結果児童をして淫行をするに至らせることをいい、これと構成要件を明確に異にする上記大阪府青少年健全育成条例違反の罪について、同様に論ずることはできないというべきである。

 みんな「俺が社会見解だ」というんです。
 「威迫し、欺き、又は困惑させ」という性行為に前置する手段的行為に着目して、児童淫行罪と青少年条例違反は違うというわけですよ。
 児童淫行罪の判例はこれ。

東京高裁H17.12.26
他方,本件児童ポルノ製造罪のなかには,それ自体児童淫行罪に該当すると思われるものがある。例えば,性交自体を撮影している場合である(別紙一覧表番号1の一部,同番号2及び3)。同罪と当該児童ポルノ製造罪とは観念的競合の関係にあり,また,その児童淫行発と別件淫行罪とは包括的一罪となると解されるから(同一児童に対する複数回の淫行行為は,併合罪ではなく,包括的一罪と解するのが,判例実務の一般である。),かすがいの現象を認めるのであれば,全体として一罪となり,当該児童ポルノ製造罪については,別件淫行罪と併せて,家庭裁判所に起訴すべきことになる。

札幌高裁H19.3.8
 児童に淫行させながら,その児童の姿態を撮影したというものであり,児童淫行罪であるとともに児童ポルノ製造罪に該当する。これらの児童に淫行させる行為とその姿態を撮影する行為は,法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察の下で,行為者の動態が社会見解上一個のものと評価されるものであるから,一個の行為で二個の罪名に触れる場合に当たり,観念的競合の関係にあると解される。

  罪数減らして処断刑期を下げようというレベルではなく、事物管轄という重大な局面での判断なので、これは重い判断なんですが、要するに、性交又は性交類似行為しながら撮影する行為は社会見解上一個だという。手段的行為と撮影行為を比べるのではなく、性行為と撮影行為を比べて、一個の行為だと評価しているんですね。なんか乱暴なんですが、判例2件です。

 ところで、刑法54条1項の「一個の行為」の意味については、最高裁S49.5.29が

しかしながら、刑法五四条一項前段の規定は、一個の行為が同時に数個の犯罪構成要件に該当して数個の犯罪が競合する場合において、これを処断上の一罪として刑を科する趣旨のものであるところ、右規定にいう一個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合をいうと解すべきである。

と判示しているところで、「法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで」というからには、罪名は関係なく、性交又は性交類似行為しながら撮影する行為は社会見解上一個となる。これが最高裁
 じゃあ、青少年条例違反も性交・性交類似行為を含んでいるので、それと撮影行為は社会見解上一個。

 さらに、実務家の論文(大橋検事「ハイテク犯罪の捜査」捜査研究2004.12)でも、「ハメ撮り」という行為類型が認められているところを見ると、児童との性交場面を撮影するというのは、性交しなければ姿態要件で製造罪が成立しないという意味で、密接に結合した関係であって、「ハメ撮り」として社会的に評価されるに至っているから、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合にあたるのであるともいえそうです。