児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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掲示板管理者(未必的故意)は正犯(最高裁決定H19.3.29)

 これが判例
 東京高裁H16.6.23の上告は決定で棄却(第一小法廷)。
 理由は7行。
 
 なお、掲示板管理者(確定的故意)が幇助という名古屋地裁判決について控訴中。未必的故意が正犯なら、確定的故意も正犯であって、どこを切っても幇助にはならない。

東京高裁平成16年6月23日
平成16年(う)第462号(被告人上告公刊物未掲載)
被告人に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件について,平成15年12月15日横浜地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官泉良治出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成の平成16年3月10日付け(別紙により一部訂正されたもの),同月22日付け及び同月24日付け各控訴趣意書に,これに対する答弁は,検察官泉良治作成の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから,これらを引用する。
第1論旨は,憲法違反の主張を含め,訴訟手続の法令違反,事実誤認,法令適用の誤り,量刑不当等詳細・多岐を極めている。しかし,当裁判所は,原審記録及び当審における事実取調べの結果をも併せて慎重に調査検討した結果,いずれの論旨も理由がないものと判断した。論旨は,①訴訟手続の点も含めた事実認定,法令解釈等,児童ポルノ公然陳列罪(以下単に「本罪」などともいう。)の成否そのものを争うもの,②罪数,時効等本罪の成立を前提として争うもの,③量刑を争うもの,の3種類に大別できると解されるので,以下,控訴趣意の論理的な順序には必ずしもとらわれず,前記3分類に従った形で,当裁判所の前記結論の理解に必要な範囲で補足して説明する。なお,以下単に「法」などという場合は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律のことである。
第2 訴訟手続の点も含めた事実認定,法令解釈等,児童ポルノ公然陳列罪の成否そのものを争う各論旨について
1当裁判所が前記判断の前提とした事実当裁判所は,原判決の事実認定に誤りはないとするものであるが,各論旨の判断のためには,原判決が認定判示している事実だけでなく,より詳細な事実関係を明らかにしておくのが便宜と考えられるので,ここでそれを示しておく。
(1)被告人は,国内においては安価で買春ができることから,平成年3月ころから買春目的で度々同国内へ渡航するようになり,平成年6月3日,買売春の情報が中心で,わいせつな画像も掲載されていた「c国ナイトライフ」というホームページを真似て,原判示のサーバーコンピュータの記憶装置であるディスクアレイ(以下「本件ディスクアレイ」という。)に「pあやしい掲示板」と称するインターネット上のホームページ(以下「本件あま掲示板」という。)を開設し,原判示の所在の当時の自宅あるいはc国内に転居した平成13年9月中旬以降は同国内で管理運営していた。
(2)被告人は,本件掲示板には,画像掲示板(以下「本件画像掲示板」という。)も設置し,文章の投稿(書き込み)だけでなく,画像を本件ディスクアレイに送信(アップロード)して貼付することも可能としていた。
(3)被告人が本件掲示板を開設した目的は,主として地区における児童買売春を含む買売春を中心とした風俗情報を提供,交換することにあった。このことは,被告人が直ちに経済的な利益を目論んでいたといったものではないが,本件掲示板の開設によって,被告人自身の買売春に関する知識も増加させることができ,被告人の自尊心,名誉欲等をも満足させるものであったと推認することができるから,その意味において,前記開設の目的は,自己の利益を図る目的であったということができる。そして,前記のように国に移住した後の平成13年12月ころからは,主としてpを訪れた日本人買春客を相手とするバスの運行を始め,本件掲示板を見て国を訪れる日本人が増え,被告人の運行するバスを利用すれば,被告人にとって経済的にも利益になり,また,平成14年5月末で前記バスの運行をやめた後も,日本人買春客を相手とする自動二輪車を使ったタクシーやレンタルルームを営んでいたため,日本人買春客が増えることは被告人の経済的な利益となったことから,本件掲示板を維持する目的には,被告人のこのような利欲的な目的も加わっていった。
(4)被告人は,閲覧者の性的な興味をそそり,アクセスを容易にするために,その名称にわざわざ「あやしい」という形容詞を使用し,また,本件画像掲示板を,パスワードを入力しなければアクセスできない仕組みにしてはいたものの,本件掲示板内の「パスワード発行所」にアクセスすれば,容易にパスワードを入手できるようにすることによって,パスワードを介したアクセスの制約は殆どない状態にしておいた。そして,被告人自身,本件掲示板に売春婦の情報やその裸の写真を掲載したほか,平成年10月ころには児童買春に関する情報の書き込みを行った。
(5)被告人は,以上のような本件掲示板の状況からして,わいせつな画像や児童の裸の写真(児童ポルノ)の画像が送信,貼付されることや,その画像を見るなどして閲覧者が増えれば,それに伴って前記のような行為も増加することも予想していたが,それでも構わないと考え,そのような事態を回避する方策を全くとらなかった。被告人は,平成13年1月ころ,本件掲示板を見て児童ポルノの画像が貼付されているのを知り,掲示板管理者としての権限で削除することは可能であったものの,削除すると,画像送信者から見放される結果を招きかねず,他方,放置しておけば,本件掲示板にアクセスする者が増えるなどと考えて,敢えて削除しなかった。その結果,本件掲示板の児童ポルノ画像を見た他の者が同種行為に及ぶようになった。しかし,被告人は,そのうちの一部を確認したものの削除せずに放置し,その余の同種画像については本件掲示板を点検しなかったために確認しないままで推移させた。さらに,被告人は,平成13年11月中旬ころ,本件掲示板に児童買春に関する情報や児童ポルノ画像が掲載されていることが日本のテレビ局で報道されたことを聞き知り,警察に摘発される不安を抱いたものの,その後も児童ポルノ画像を削除したり,本件掲示板を閉鎖したりすることはしなかった。この間に,原判示の22画像の児童ポルノが本件ディスクアレイに記憶・蔵置された。
2当裁判所の基本的な判断
(1)本件で問題とされているのは,児童ポルノの陳列であるが,陳列行為の対象となるのは,前記のような児童ポルノ画像が記憶・蔵置された状態の本件ディスクアレイであると解される。
(2)原審以来被告人の行為の作為・不作為性も問題とされているが,被告人の本罪に直接関係する行為は,本件掲示板を開設して,原判示のとおり,不特定多数の者に本件児童ポルノ画像を送信させて本件ディスクアレイに記憶・蔵置させながら,これを放置して公然陳列したことである。そして,本罪の犯罪行為は,厳密には,前記サーバーコンピュータによる本件ディスクアレイの陳列であって,その犯行場所も同所ということになる。したがって,この陳列行為が作為犯であることは明らかである。そして,原判示の被告人の管理運営行為は,この陳列行為を開始させてそれを継続させる行為に当たり,これも陳列行為の一部を構成する行為と解される。この行為の主要部分が作為犯であることも明らかである。確かに,被告人が,本件児童ポルノ画像を削除するなど陳列行為を終了させる行為に出なかった不作為も,陳列行為という犯罪行為の一環をなすものとして,その犯罪行為に含まれていると解されるが,それは,陳列行為を続けることのいわば裏返し的な行為をとらえたものにすぎないものと解される。なお,更に付言すると,被告人は,児童ポルノ画像を本件ディスクアレイに記憶・蔵置させてはいないが,前記のように,金銭的な利益提供をするなど,より強い程度のものではなかったとはいえ,本件掲示板を開設して前記のように前記送信を暗に悠憑・利用していたのである。この行為は,陳列行為そのものではないから,開設行為以外の点は原判決の犯罪事実にも記載されていないが,陳列行為の前段階をなす陳列行為と密接不可分な関係にある行為であるから,これも広くは陳列行為の一部をなすものと解される。そして,これが作為犯であることは明らかである。
(3)被告人の故意は,前記認定から明らかなように未必的な故意であって,本件陳列行為開始時点からあったと認定でき,この点の原判決の判断は正当である。