児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

単純製造後のダビング行為の評価

 永井先生が指摘している点なので、考えてみよう。

永井善之「サイバー・ポルノ規制と刑法・児童ポルノ法の改正」大阪経済大学法学研究所紀要200412.
なお、今回の改正に特定的な問題ではないが、「製造」の意義として、単なる複製もこれに該当するかが問題となりうる。この問題は、単純製造罪が設けられた新法についてはより重要となる

http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20050116/1105838632
の続き。
 児童ポルノ犯人がどういうことをするかというのを見越して法律を変えたつもりなんですけど、新法でも、知ってか知らずか、裏をかいてくる奴がいます。

 提供等の目的がない場合で、撮影について3項製造罪は成立するとして、その後のダビングはどう評価すべきか?
 実務家にはネタがばれてしまいますが、こういう事例を設定します。

(姿態をとらせて)性交の場面等をデジタルカメラで撮影することにより,児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態等を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであるるミニディスク3本及びメモリースティック3本を製造し,さらに,同日、被告人方たおいて,上記メモリースティック3本に記憶させた画像データ127個をパーソナルコンピューターのハードディスクに記憶させることにより,上記同様の児童ポルノであるハードディスクを製造したものである

 木村説は、ダビング不可罰説。

木村光江「児童ポルノ処罰とサイバー犯罪条約」「河上和雄古稀祝賀論文集」.P186
ただ、単純製造を広く処罰すると、例えば、何らかの方法で入手した児童ポルノ写真、ビデオテープ、CD、あるいは情報そのものを、単にコピー、ダビングする行為も「製造」に当たり、処罰されるおそれが生ずる。しかし、このような複写行為まで処罰の対象とすることは妥当でない。なぜなら、わいせつ物で処罰されない「製造」行為を、児童ポルノについて敢えて処罰対象とした理由は、「児童の保護」 であった。その趣旨からは、単純製造は、まさに現実の児童の人権が侵害されるからこそ処罰されるのであり、単なる複写行為はそれとは別個に解すことが可能である。そして、複写行為の処罰は、販売目的等、広く頒布される目的でなされた場合に限るべきであろう。

阪高裁も、ダビングについて製造罪の要件を吟味することになるから、不可罰説。

阪高裁 平成14年9月10日
③については,児童ポルノとは,「写真,ビデオテープその他の物」であって「視覚により認識することができる方法により描写したもの」であることを要するが,有体物を記録媒体とする物であれば,必ずしもその物から直接児童の姿態を視覚により認識できる必要はなく,一定の操作等を経ることで視覚により認識できれば足りるから,写真の場合は現像ないし焼付け等の工程を経てこれが可能になる未現像フイルムや現像済みネガフィルム(以下,撮影済み及び現像済みネガフィルムを「ネガ」という。)は,これに当たると解するべきであるから,本件の場合,児童ポルノ製造罪は撮影により既遂になると解するのが相当である。また,上記第1記載の児童ポルノの頒布,販売目的等による製造等を処罰することにした趣旨からみて,新たに児童ポルノを作り出すものと評価できる行為はいずれも製造に当たると解するのが相当であるところ,これを写真についてみてみると,上記のとおり児童ポルノ製造罪は撮影によって既遂となるが,現像,焼付けもまたそれぞれ製造に当たるものと解され,各段階で頒布,販売等の目的でこれを行った者には児童ポルノ製造罪の適用があり,ただ,先の行為を行った者が犯意を継続して彼の行為を行った場合には包括一罪となるものと解される。従って,本件では現像行為は不可罰的事後行為とはならないから,現像行為を製造とした原判決には法令適用の誤りはない(もっとも,原判決は撮影,現像を単純一罪とするものか包括一罪とするものか定かではないが,単純一罪とするものであるとしても判決に影響しない。)。

要するに
   撮影→→→→→→フィルム→→→→→ネガ
と変化する場合には、
     撮影→→→→→→フィルム
     フィルム→→→→→ネガ
の各過程が、製造罪の実行行為であって、販売等の目的があれば、
     撮影→→→→→→フィルム
     フィルム→→→→→ネガ
の各々について、販売目的製造罪が成立する。

 東京高裁も、ダビングについて製造罪の要件を吟味することになるから、不可罰説。

東京高裁平成15年6月4日
1 本件MOに関する法令適用の誤りについて
所論は,①省略、②「製造」とは,撮影,編集等により新たに児童ポルノを作り出すことをいうところ,電子データも児童ポルノであり,MOに蔵置されたデータは,撮影されてコンパクトフラッシュカードにいったん蔵置されたデータを,ハードディスクを経由して無編集でコピーしたものであるから,MOの作成は不可罰的事後行為ないし所持罪を構成するものにすぎず,製造罪(法7条2項)には当たらない(控訴理由第9)・・・という。
(省略)②の点は,全く同一のデータを異なる媒体にコピーした場合であっても,その媒体は新たな取引の客体となり得るのであって,「製造」というを妨げない。デジタルカメラで撮影し,コンパクトフラッシュカードにその映像を蔵置した行為も当然製造に当たるところ,犯意を継続させてMOにそのデータを転送すれば,両者が包括一罪として評価されることになるが,そうであるとしても,後のMOの作成行為が不可罰となるわけではない。

要するに
   撮影→→→→→→デジカメのメディア→→→→→MO
と変化する場合には、
     撮影→→→→→→デジカメのメディア
     デジカメのメディア→→→→→MO
の各過程が、製造罪の実行行為であって、販売等の目的があれば、
     撮影→→→→→→デジカメのメディア
     デジカメのメディア→→→→→MO
の各々について、販売目的製造罪が成立する。

 さらに、こんなふうに言っているので、島戸検事も無罪説。

島戸「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」研修676号 0410
なお,甲は,ハー,ドディスクに記憶・蔵置させた後,画像に修正を施しているが,この画像について,修正前と修正後とで同一性が認められるので,別途製造罪の成立を認めるのは困難である。

 とすると、

(姿態をとらせて)性交の場面等をデジタルカメラで撮影することにより,児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態等を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであるるミニディスク3本及びメモリースティック3本を製造し,さらに,同日、被告人方において,上記メモリースティック3本に記憶させた画像データ127個をパーソナルコンピューターのハードディスクに記憶させることにより,上記同様の児童ポルノであるハードディスクを製造したものである

のうち、

さらに,同日、被告人方において,上記メモリースティック3本に記憶させた画像データ127個をパーソナルコンピューターのハードディスクに記憶させることにより,上記同様の児童ポルノであるハードディスクを製造したものである

は不可罰的事後行為で無罪だよね。
 ここで姿態をとらせたわけではなく、提供等の目的もないしな。

 で、判決はどうなったんだろう?






こういう論稿を見つけました。

島戸「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08
(5)第3項の罪
ア 趣   旨
他人に提供する目的を伴わない児童ポルノの製造であっても、児童に児童ポルノの姿態をとらせ、これを写真撮影等して児童ポルノを製造する行為については、当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為に他ならず、かつ、流通の危険性を創出する点でも非難に値する。
実際、児童の権利条約選択議定書においても、「製造」(producing)を犯罪化の対象としており、かつこれについては、「所持」について目的要件を係らせているのとは異なり、目的のいかんにかかわらず、犯罪として処罰することが求められている。
一方、既に存在する児童ポルノを複製する行為それ自体は、必ずしも直ちに児童の心身に有害な影響を与えるものではない上、いわゆる単純所持と同様、児童ポルノの流通の危険を増大させるものでもないから、複製を含めすべからく製造について犯罪化の必要があるとまでは思われない。そこで、複製を除き、児童に一定の姿態をとらせ、これを写真等に描写し、よって児童ポルノを製造する行為については処罰する規定を新設したものである。