児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

送信可能化権侵害罪の正犯はユーザーか開発者か?

正犯弁護人はこう考えました。

 この主張はユーザーか開発者の厳密な責任分担を求める主張であって、開発者に責任を押しつけるものではないことを前置きしておく。正犯と従犯との区別という擬律の問題である。

 もとより送信可能化権侵害罪の構成要件は「送信可能化権を侵害したる」であるから、著作権侵害罪の正犯者認定は実質的考慮が必要である。

 検察官の主張によれば、開発者(5/31幇助犯として起訴)は本件被告人のような者をして「著作権侵害を行わせようと企て」ていたのだという。
被疑事実の要旨(勾留理由開示公判で明らかにされた)
被疑者は、きわめて匿名性の高い機能を有する新しいファイル共有ソフトを開発してインターネット上で無償提供し、これを用いた不特定多数のインターネット利用者において著作権侵害を行わせようと企て、・・・

 著作権法の従来の解釈によれば、開発者が正犯とされる余地が十分にある。
 被告人が一見して著作権違反の情報を発信していたからといって、侵害者とは評価されない。仲介者の意図によっては、仲介者が侵害罪の正犯となりうるというのである。
 本件でも、winnyというアングラソフトを開発・流布した開発者の意図によっては、開発者こそが送信可能化侵害罪の正犯とされる余地がある。

 被告人はこのような意図で開発され、配付されたwinnyの存在を知り、著作物の配付の犯意を生じたものである。

 さらに、判例の事例になぞらえれば、「カラオケの客」であって不可罰である。
【事件番号】最高裁判所第3小法廷判決/昭和59年(オ)第1204号*1
【判決日付】昭和63年3月15日
【判示事項】カラオケ伴奏による客の歌唱につき、カラオケ装置を設置したスナック等の経営者が演奏権侵害による不法行為責任を負うとされた事例

【事件番号】大阪地方裁判所判決/平成2年(わ)第1831号*2
【判決日付】平成6年4月12日
【判示事項】一 いわゆるカラオケスナックにおける客の歌唱に関し、店の経営書に著作権(演奏権)侵害の罪が成立するとされた事例

 東京地裁H15.1.29は、ファイル交換システムの場合、例えデータが利用者Aから利用者Bへの直接送信されても、主催者が送信可能化権の侵害者であって、ユーザーは主体ではないという。
http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/Listview01/32C6D9036C819AEC49256D090030AC9B/?OpenDocument
◆H15. 1.29 東京地裁 平成14(ワ)4249 著作権 民事訴訟事件*3
平成14年(ワ)第4249号著作隣接権侵害差止等請求事件

 これを本件に例えると、winnyの開発者が送信可能化権侵害罪の正犯であって、ユーザーである被告人は幇助に過ぎないことになる。

 さらに、幇助であっても一定の場合には正犯となるという裁判例も見受けられる。
 winnyの1ユーザーである被告人はこの見解によっても幇助犯である。
【事件番号】大阪地方裁判所判決/平成14年(ワ)第9435号
【判決日付】平成15年2月13日*4
【判示事項】音楽著作権の管理等を目的とする原告の許諾を得ていない社交飲食店に対して通信カラオケ装置をリースしているリース業者が、著作権法一一二条一項の「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に当たるとされた事例