罪数処理における「点と線」
「もともと自動車を運転する行為は,その形態が,通常,時間的継続と場所的移動を伴うものであるのに対し,その過程において人身事故を発生させる行為は,運転継続中における一時点一場所における事象であって,前記の自然的観察からするならば,両者は,酒に酔った状態で運転したことが事故を惹起した過失の内容をなすものかどうかにかかわりなく,社会的見解上別個のものと評価すべきであって,これを1個のものとみることはできない。(道路交通法違反、業務上過失致死被告事件最高大判昭和49年5月29日最高裁判所刑事判例集28巻4号114頁)
という言い回しがあって、併合罪だという、
点と線の関係では、併合罪というのが最高裁判例
捜査研究720号 最新判例解説 第3回
前法務省刑事局付(長野地方裁判所判事補) 菅原 暁児童福祉法第34条第1項第6号違反の児童に淫行をさせある罪と,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第7条第3項の児童ポルノ製造罪とが併合罪の関係にあるとされた事例
最高裁判所第一小法廷決定 平21.10.21 判例時報2082.160 判例タイムズ1326.134
第4検討
1 近時の判例の動向等
児童に淫行させる罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係については,本決定前には,本件の第二審のようにこれを観念的競合の関係と解する裁判例があった一方で(注3),本決定とは若干事案が異なるものの,例えば,「『性交を行いながら撮影機材を持って写真あるいは動画を撮る行為』については,一見すると,上半身で撮影する行為と下半身で淫行する行為が同一人物によるものであることから,1個の行為のように見えるが,社会的評価においては,淫行行為と製造行為という別個の行為であるから,観念的競合になるとはいえないのである。ちなみに,撮影機材を近くに設置して自分が行う淫行行為を撮影することも可能なのであって,淫行行為と撮影行為という二つの行為が同時的にたまたま併存しているにすぎないとみるのが相当である。」(注4)と判示した裁判例のように,両罪は併合罪の関係にあるとするものも存在していたところであり,最近では,併合罪説に立つ高裁判断が多数を占めつつある状況にあったとされる(注5)。
本決定は,このように裁判例が分かれていた児童に淫行させる罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係について,近時の高裁判断と同様に併合罪と解することを明らかにしたものであり,その点で重要な意義を有する。
2 観念的競合の判断基準
ところで,刑法第54条第1項前段は,「1個の行為が2個以上の罪名に触れ(中略)るとき」を観念的競合として,「その最も重い刑により処断する。」と規定しているところ,児童をして淫行させながらその様子をデジタルビデオカメラで撮影する行為は,一見すると1個の行為のようにも思われる。そうすると,本決定がこれを「1個の行為」とは考えなかった理由は何なのか,複数の罪が観念的競合の関係にあるかどうかの判断基準が問題である。
この点について判示しているのは,本決定が引用する最高裁昭和49年判決である。同判決は,酒酔い運転の事実と,運転中における酒酔いに基づくいわゆる運転中止義務違反を過失とする業務上過失致死の事実について,「法54条1項前段の規定は,1個の行為が同時に数個の犯罪構成要件に該当して数個の犯罪が競合する場合において,これを処断上の一罪として刑を科する趣旨のものであるところ,右規定にいう1個の行為とは,法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察の下で,行為者の動態が社会的見解上1個のものとの評価をうける場合をいうと解すべきである。」と判示した上,酒酔い運転の罪とその運転中に行われた業務上過失致死の罪との罪数関係について,「もともと自動車を運転する行為は,その形態が,通常,時間的継続と場所的移動を伴うものであるのに対し,その過程において人身事故を発生させる行為は,運転継続中における一時点一場所における事象であって,前記の自然的観察からするならば,両者は,酒に酔った状態で運転したことが事故を惹起した過失の内容をなすものかどうかにかかわりなく,社会的見解上別個のものと評価すべきであって,これを1個のものとみることはできない。」として,両罪は併合罪の関係にあると結論づけたものである。
したがって,上記昭和49年判決によれば,「法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察の下で,行為者の動態が社会的見解上1個のものとの評価をうける場合」に当たるかどうかにより,複数の罪が観念的競合の関係にあるかどうかが判断できるはずであるが,本件では,同じ基準によって,第二審が,「児童に淫行させる行為とその姿態を撮影する行為は,法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察の下で,行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価されるものである」として,児童に淫行させる罪と児童ポルノ製造罪とは観念的競合の関係にあると判断する一方,本決定は,これらの行為が「一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや,両行為の性質等にかんがみると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえる」として,両罪は併合罪の関係にあると判断している。
このような結論の違いが生じたのは,本件の第二審が,児童に淫行させる行為と,これをデジタルビデオカメラで撮影する行為につき,本件犯行の際に,実際に行われた行為を前提として,時間的・場所的に重なり合っていることを重視したと思われるのに対し,本決定では,犯行の際の時間的・場所的な重なり合いだけでなく,両行為が通常伴う関係にあるかという点や両行為の性質等をも考慮したために生じたものではないかと考えられる。
本決定のように,行為が通常伴う関係にあるかという点や行為の性質等を考慮して観念的競合の関係にあるかどうかを判断するとの考え方は,先に挙げた平成21年東京高裁判決における「淫行行為と撮影行為という二つの行為が同時的にたまたま併存しているにすぎない」との判示や,「児童ポルノ製造罪は,児童ポルノと評価されるものを撮影するなどして写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物として記録化すれば成立するのであって,撮影の対象として児童の淫行が必要というものではなく,したがって,製造行為に児童の淫行が常に随伴するというものではない。」とする他の裁判例(注6)において既に現れていた考え方と,その趣旨を同じくするものではないかと思われる。
この意味で,本決定は,昭和49年判決の判断基準をあてはめる際の考慮要素を示した事例としての意義を有すると考えられる。
3 関連する判例
なお,昭和49年判決の基準をあてはめた重要な判例としては,本決定以前にも,最高裁判所昭和58年9月29日第一小法廷判決(刑集第37巻第7号1110頁) が存在する。同判決は,保税地域,税関空港等外国貨物に対する税関の実力的管理支配が及んでいる地域に,外国から船舶又は航空機により覚醒剤を持ち込み,これを携帯していわゆる通関線を突破し又は突破しようとした場合に成立する覚せい剤取締法第13条,第41条の輸入罪と,関税法第111条の無許可輸入罪の罪数について,両罪の既遂時期が異なる(無許可輪入罪の実行の着手時期が,覚せい剤輸入罪の既遂後であると解した場合には,両罪の実行行為は時間的な重なり合いがない)にもかかわらず,これらが観念的競合の関係にあるとしたものである。
本決定を踏まえて上記昭和58年判決の事案を考えてみても,「1個の行為」かどうかは,時間的・場所的な重なり合いだけでなく,行為が通常伴う関係にあるかという点や行為の性質等をも考慮して判断されていると評価することができ,本決定も,従来の判例を踏まえ,時間的・場所的な重なり合いがあっても,児童に淫行させる罪と児童ポルノ製造罪とが併合罪の関係にあると判断したものと考えられる。
第5 おわりに
以上のほか,児童に淫行させる罪と児童ポルノ製造罪にそれぞれ該当する各行為について,両行為が通常伴う関係にあるかや,両行為の性質等を考慮して,これらが刑法第54条第1項前段の「1個の行為」に当たらないとした本決定の判断は,他の犯罪の罪数関係の判断にも影響を及ぼすものと思われる。
例えば,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第4条の児童買春罪や,児童に対する強姦や強制わいせつ罪は,自己を相手方として児童に淫行させる罪と同様,その行為態様に児童との性交等を含むものであり,そうした性交等を行いながら,その行為をカメラで撮影するなどして,児童ポルノ製造罪に当たる行為をも行った場合,時間的・場所的に重なり合っているとしても,二つの行為が「通常伴う関係にある」とはいえず,両行為の性質等も異なるものと考えられるから,本決定の考え方によれば,観念的競合ではなく,併合罪と評価されるのではないかと思われる(注7)。
また,本決定は,前記のとおり,昭和49年判決において示された観念的競合に関する判断基準をあてはめる際の考慮要素を示したものとして,意義を有すると考えられるが,本決定を踏まえても,その判断基準は,個別の事案における罪数関係を一義的に明らかにできるというものとは言い難い。したがって,実務上は,裁判例の集積のない罪数関係の判断は,行為の時間的・場所的な重なり合いのみにとらわれず,行為が通常伴う関係にあるかという点や行為の性質等をも考慮に入れた慎重な検討が必要となるであろう。
(すがわら あきら)(注1)平成20年法律第71号による改正前の少年法第37条の規定は,同改正により削除されたため,現行法では,児童に淫行させる罪と児童ポルノ製造罪の関係にかかわらず,その管轄は地方裁判所にある。
【平成20年法律第71号による改正前の少年法第37条
(公の提起)
第37条 次に掲げる成人の事件については,公訴は,家庭裁判所にこれを提起しなければならない。
一~三 (略)
四 児童福祉法第60条及び第62条第5号の罪
五 (略)
2 前項に掲げる罪とその他の罪が刑法(明治40年法律第45号)第54条第1項に規定する関係にある事件については,前項に掲げる罪の刑をもつて処断すべきときに限り,前項の規定を適用する。
【平成20年法律第71号附則】
(施行期日)
1 この法律は,公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし,第5条の2第1項の改定規定(「この項及び第31条の2において」を削る部分に限る。)及び第9条の2の改正規定は,公布の日から起算して20日を経過した日から施行する。[平成20年12月15日施行]
(経過措置)
2 この法律の施行の日前にこの法律による改正前の少年法第37条第1項の規定により公訴の提起があった成人の刑事事件については,この法律による改正後の少年法,裁判所法(昭和22年法律第59号)及び刑事訴訟法 (昭和23年法律第131号)の規定にかかわらず,なお従前の例による。沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律(昭和46年法律第129号)第26条第4項の規定により家庭裁判所が権限を有する成人の刑事事件についても,同様とする。
(注2)第一審判決からは必ずしも明らかではないが,第二審判決によると,弁護人は,第一段階から管轄違いの主張をしていたようである。
(注3)東京高等裁判所平成17年12月26日判決(高等裁判所刑事裁判速報集平成17年247頁)には,「本件児童ポルノ製造罪のなかには,それ自体児童淫行罪に該当すると思われるものがある。(中略) 同罪と当該児童ポルノ製造罪とは観念的競合の関係にあり」と判示した部分があり,児童に淫行させる罪と児童ポルノ製造罪とが観念的競合の関係にあるものと解しているようにも思われる。
(注4)東京高等裁判所平成21年10月14日判決(高等裁判所刑事裁判速報集平成21年136頁)
(注5)判夕1326号134頁掲載の本決定の解説
(注6)東京高等裁判所平成21年 (う) 第744号同21年7月6日判決 (公刊物未登載)
(注7)東京高等裁判所平成19年11月6日判決 (研修716号111頁参照) は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第4条の児童買春罪と,その機会に犯した同法第7条第2項の児童ポルノ製造罪とは併合罪の関係にあると判断しているが,その理由においては「児童買春罪のみを犯し,2項製造罪には及ばないことも,逆に,2項製造罪のみを犯し,児童買春には及ばないことも共に十分可能なのである。(中略) 『買春』と『製造』はむしろ異質な行為であって,行為者の動態としての一個性は認めがたいというべきであろう。」と判示しており,本決定と同様の判断手法を採っていると考えられる。なお,同判決は,児童買春罪と2項製造罪は,その実行行為が部分的にも重なり合う関係にないとした上で,「このことは,児童に対する強姦や強制わいせつの状況を撮影した場合に,強姦行為や強制わいせつ行為が2項製造罪の実行行為の一部とはいえないのと同様である。」とも,併せて判示している。
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