児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

肛門に繰り返しマドラーを挿入するというわいせつ行為(静岡地裁r6.4.15)

肛門に繰り返しマドラーを挿入するというわいせつ行為(静岡地裁r6.4.15)

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【裁判年月日等】
令和6年4月15日/静岡地方裁判所/強制わいせつ、性的姿態等撮影被告事件
D1-Law.com判例体系
理由
(罪となるべき事実)
第1(令和5年(わ)第401号・同年10月17日付け起訴分)
  被告人は、分離前相被告人A(以下「A」という。)、同B(以下「B」という。)及び同C(以下「C」という。)と共謀の上、D(当時23歳。以下「D」という。)に強いてわいせつな行為をしようと考え、令和5年5月1日午後7時41分頃から同日午後7時55分頃までの間、F市(以下略)所在のGビル3階(省略)号室社交飲食店「H」において、Dに対し、Aが、Dの後方からその首に腕を回して絞めつけるなどして押さえつけ、C及びBが、Dの腕を押さえつけるなどの暴行を加えながら、その肛門に繰り返しマドラーを挿入し、もって強いてわいせつな行為をした。
第2(令和5年(わ)第539号・同年12月27日付け起訴分)
  被告人は、令和5年9月6日午後1時41分頃、F市(以下略)浴室内において、全裸のD(当時23歳)に対し、DがAからその顔面や身体に向けて高温のシャワーをかけられる暴行を受けていることにより同意しない意思を形成することが困難な状態にあることに乗じ、動画撮影状態にしたスマートフォンを使用し、Dの陰茎等を動画撮影した。
(証拠の標目)
(法令の適用)
1 主刑
  (1) 構成要件及び法定刑を示す規定
  前記第1の行為は刑法60条、令和5年法律第66号附則2条1項により同法による改正前の刑法176条前段に、前記第2の行為は性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律附則2条により同法2条1項2号、1号イ、刑法176条1項1号にそれぞれ該当する。
  (2) 刑種の選択
  前記第2の罪について懲役刑を選択する。
  (3) 併合罪の処理
  以上は刑法45条前段の併合罪に該当するから、同法47条本文、10条により重い前記第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をする。

(量刑の理由)
 本件は、ホストクラブの代表者である被告人が、店舗の従業員らと共謀の上、被害者に対し、暴行を加えながら、強いてわいせつな行為をした強制わいせつの事案(前記第1)、及び、浴室内において、全裸の被害者が顔面や身体に向けて高温のシャワーをかけられる暴行を受けていることにより同意しない意思を形成することが困難な状態にあることに乗じ、動画撮影状態にしたスマートフォンを使用し、被害者の陰茎等を動画撮影した性的姿態等撮影の事案(前記第2)である。

迷惑条例の常習盗撮行為と、性的姿態撮影罪を混合的包括一罪(観念的競合・常習一罪)とした事例(観音寺支部R6.1.11)

 客体は「自然人」ですが、動画なので、被害者が特定できなくても立件できます。
 訴因変更が引っかかります。

28320720
【裁判年月日等】
令和6年1月11日/高松地方裁判所観音寺支部
性的姿態等撮影、同未遂、香川県迷惑行為等防止条例違反被告事件
D1-Law.com判例体系

理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、正当な理由がないのに
1 令和5年8月22日午後6時13分頃、香川県(以下略)A株式会社B店において、ひそかに、後方から氏名不詳の女性に近づき、右足のサンダルに隠し入れた動画撮影機能付きスマートフォンを同人が着用していたスカートの下方に差し入れ、同人が身に着けているショーツの臀部を覆っている部分を同スマートフォンで動画撮影し、もって、性的姿態等を撮影するとともに、常習として、人の性的羞恥心を著しく害し、かつ、人に不安を覚えさせるような方法で、公共の場所にいる人の衣服で覆われている下着等を撮影し(令和5年10月20日付け訴因変更請求書記載の公訴事実1)、
2 スカート内の下着等を撮影する目的で、同月27日午前11時24分頃、同所において、ひそかに、後方からC(当時37歳)に近づき、右足のサンダルに隠し入れた動画撮影機能付きスマートフォンを同人が着用していたスカートの下方に差し入れ、同人が身に着けているショーツの臀部を覆っている部分を同スマートフォンで動画撮影しようとし、もって、常習として、人の性的羞恥心を著しく害し、かつ、人に不安を覚えさせるような方法で、公共の場所にいる人の衣服で覆われている下着等を撮影するために写真機等を向けたが、人の性的な部位又は人が身に着けている下着のうち、現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分を撮影するに至らず、その目的を遂げなかった(同公訴事実2)。

(法令の適用)
 適用罰条
  判示1
  性的姿態等撮影の点 性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(以下、「性的姿態撮影等処罰法」という。)2条1項1号イ、同法附則第2条
  香川県迷惑行為等防止条例(以下「本件条例」という。)違反の点
  同条例12条2項、1項、3条1項2号
  判示2
  性的姿態等撮影未遂の点
  性的姿態撮影等処罰法2条2項、1項1号イ、同法附則第2条
  本件条例違反の点 同条例12条2項、1項、3条4項、1項2号
  混合包括一罪の処理 判示1及び2は、それぞれ1個の行為が2個の罪名に触れる場合(刑法54条1項前段)である上、本件条例違反の部分は常習としてなされたものであるから、包括して、刑法10条により一罪として刑及び犯情の最も重い性的姿態等撮影の罪の刑で処断
 刑種の選択 懲役刑を選択
 未決勾留日数の算入 刑法21条
(量刑の事情)
 1 被告人は、警察官であった平成25年6月から平成26年1月にかけて、常習として、本件時と同様に、動画撮影状態にした携帯電話機等をサンダルに隠して女性のスカート内を撮影する等し、同年3月、本件条例違反の罪で、懲役6月4年間執行猶予の刑に処せられた。しかし、被告人は、同年4月に再び同様の行為に及び、同年10月、同条例違反の罪により懲役5月に処せられた上、上記執行猶予の取消を受け、平成28年1月まで服役し、社会復帰後も再犯防止のために月に1度程度のカウンセリングに通うなどしていた。にもかかわらず、被告人は、遅くとも令和2年には、カウンセリングの回数を年に1回にまで減少させ、また、そのころには自己が従事していた農業の先行きへの不安等を紛らわせるためにいわゆる盗撮行為を再開し、その多くにおいて従前及び本件と同様の態様での盗撮を行い、令和3年以降はその頻度も週に4ないし5回にも至り、被告人の所持していたスマートフォン等には令和2年8月から令和5年8月までの間に撮影された1000件を超える盗撮動画又は画像が保存されていたというのであるから、服役終了から盗撮の再開までに数年程度が経過していたことを考慮しても、被告人のこの種犯行に対する常習性や規範意識の鈍麻は顕著と言わざるをえず、被告人の刑事責任は決して軽いとはいえない。
 2 そうすると、判示2の行為の被害女性に60万円を支払い、示談が成立したこと、被告人が本件各犯行を認めて反省の弁を述べるとともに、今後は、カウンセリングの回数を増やし、性的犯罪者のグループミーティングへの参加や家族以外との交流を持つことで、再犯への歯止めとし、また、所持するスマートフォンのカメラ機能を壊し、被告人の姉がGPSで被告人の所在確認をするといった再犯防止のために家族とした約束を守るなどと述べていること、被告人のカウンセリングを担当している臨床心理士や被告人の姉が証人として出廷し、上記の再犯防止策への協力や被告人の監督を証言したことといった被告人に有利に斟酌すべき事情を最大限考慮しても、被告人に対し、執行猶予を付するのは相当とはいえず、主文の程度の実刑に処するのが相当であると判断した。
(求刑:懲役1年の実刑
 (裁判官 上田瞳

性的影像記録保管罪の法定刑は意外と軽い

 手元に所持してるのも「保管」に入るということだろうなあ。混乱するな。
因みに刑法175条2項は、電磁的記録は「保管」、有体物は「所持」、児童ポルノ法では、手元に置くのが「所持」、オンラインストレージに置くのが「保管」

不特定又は多数の者に提供する目的であっても、性的影像記録保管罪は、性的影像記録の提供や公然陳列の前段階の行為を処罰対象とするものであり、それらの行為と比較すると法益侵害の程度が小さいと考えられることから、その法定刑は、特定かつ少数の者に対する性的影像記録提供罪よりやや低いものとして、「2年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金」としている。とされています。

https://news.yahoo.co.jp/articles/c08046d378fe6847fc9ac3eede63113793d1022e
警察によりますと、容疑者は今年2月、動画を提供する目的で金沢市内の民家で女性のスカート内を盗撮する動画を自身のサーバーに保管した疑いがもたれています。
 3月に盗撮しようとした疑いで検挙された別の男が、以前検挙された際に警察から消去するよう指示されていた動画を保管していたことから、詳しく事情を聞いたところ、「ある人物から返してもらった」と供述。動画ファイルのやり取りの記録などをたどったところ、容疑者が浮上したということです。

性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律
(性的影像記録提供等)
第三条 性的影像記録(前条第一項各号に掲げる行為若しくは第六条第一項の行為により生成された電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)その他の記録又は当該記録の全部若しくは一部(対象性的姿態等(前条第一項第四号に掲げる行為により生成された電磁的記録その他の記録又は第五条第一項第四号に掲げる行為により同項第一号に規定する影像送信をされた影像を記録する行為により生成された電磁的記録その他の記録にあっては、性的姿態等)の影像が記録された部分に限る。)を複写したものをいう。以下同じ。)を提供した者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
2 性的影像記録を不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(性的影像記録保管)
第四条 前条の行為をする目的で、性的影像記録を保管した者は、二年以下の拘禁刑又は二百万円以下の罰金に処する。

............................

法務省逐条説明
○ 第3条(性的影像記録提供等)
【説明】
1 趣旨
本条第1項は、性的影像記録を提供する行為がなされた場合には、それが特定かつ少数の者に対するものであっても、新たに、その提供先において、性的な姿態が他の機会に他人に見られる危険を生じさせ、ひいては、不特定又は多数の者に見られるという重大な事態を生じさせる危険があることから、性的影像記録を提供する行為(撮影行為等により生じた性的影像記録を取得した者による二次提供行為を含む。)を処罰するものである。
また、本条第2項は、
○ 不特定又は多数の者に対して性的影像記録を提供する行為がなされれば、不特定又は多数の者において性的影像記録を事実上利用し得ることとなり、性的な姿態が不特定又は多数の者に見られるという重大な事態を生じさせる危険を現実化させるという点で、法益侵害の程度が大きいこと
○ 性的影像記録を公然と陳列する行為についても、それがなされれば、性的影像記録を不特定又は多数の者において認識し得ることとなり、不特定又は多数の者に対する提供行為と同様、法益侵害の程度が大きいことから、いずれも重い法定刑による処罰の対象とするものである。
2 法定刑
(1) 特定かつ少数の者に対する性的影像記録提供罪(第1項)
特定かつ少数の者に対する性的影像記録提供罪の法定刑については、
○ 特定かつ少数の者に対する性的的影像記録の提供行為は、性的な姿態が他の機会に他人に見られる危険を生じさせ、ひいては、不特定又は多数の者に見られるという重大な事態を生じさせる危険を有するが、後者の危険はいまだ現実化しておらず、前者の危険にとどまることから、法益侵害の程度は、性的姿態等撮影罪と同等のものと考えられること
○ 児童買春等処罰法の児童ポルノを特定かつ少数の者に提供する罪(第7条第2項)の法定刑(3年以下の懲役又は300万円以下の罰金)とのバランス
を踏まえ、性的姿態等撮影罪と同じものとしている。
(2) 不特定又は多数の者に対する性的影像記録提供罪、性的影像記録公然陳列罪
(第2項)
不特定又は多数の者に対する性的影像記録提供罪及び性的映像記録公然陳列
罪の法定刑については、
○ 性的な姿態が不特定又は多数の者に見られるという重大な事態が生じる危険を現実化させるという点で、法益侵害の程度が大きく、その当罰性の程度は、性的姿態等撮影罪よりも高いと考えられること
○ 児童買春等処罰法の児童ポルノを不特定又は多数の者に提供し、又は公然と陳列する罪(第7条第6項)とのバランス
を踏まえ、「5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又はその併科」としている。
また、本項の罪については、犯罪類型として、経済的利益の獲得が目的であることも少なくないと思われ、これらの犯罪が経済的に見合わないものであることを感銘させるためには、拘禁刑を科す場合においても、罰金刑を併せて科すことを可能としておくことが相当であると考えられることから、罰金の任意的併科を可能とすることとしている。

○ 第4条(性的影像記録保管)
【説明】
1 趣旨
本条は、提供又は公然陳列の目的で性的影像記録を保管する行為は、将来的に提供又は公然陳列を行う意図の下に、性的影像記録を保管するものであり、保護法益を侵害することから、これを処罰するものである。
2 法定刑
性的影像記録保管罪は、性的影像記録の提供や公然陳列の前段階の行為を処罰対象とするものであり、それらの行為と比較すると法益侵害の程度が小さいと考えられることから、その法定刑は、特定かつ少数の者に対する性的影像記録提供罪よりやや低いものとして、「2年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金」としている。

50回の撮影行為を50罪の姿態をとらせて製造罪の併合罪とした事案(東京地裁r06.3.25)

50回の撮影行為を50罪の姿態をとらせて製造罪の併合罪とした事案(東京地裁r06.3.25)
 判示第2が
第2(訴因変更後の令和5年8月15日付け追起訴状記載の公訴事実)
となっていて、1回の製造罪に49回の製造罪を訴因変更で追加した疑いがあります。

判例ID】 28321779
【裁判年月日等】 令和6年3月25日/東京地方裁判所/刑事第4部/判決/令和5年(特わ)1438号/令和5年(特わ)1618号
【事件名】 東京都青少年の健全な育成に関する条例違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
【裁判結果】 有罪
【裁判官】 蛯原意
【出典】 D1-Law.com判例体系
【重要度】 1
 上記の者に対する東京都青少年の健全な育成に関する条例違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ禁止法」という。)違反被告事件について、当裁判所は、検察官C、弁護人(国選)D各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、
第1(令和5年7月25日付け起訴状記載の公訴事実)
  令和5年1月14日午後4時57分頃から同日午後6時36分頃までの間に、東京都E区(以下略)ホテルFにおいて、別紙記載の被害児童A(当時14歳)が18歳未満の者であることを知りながら、結婚その他正当な理由がないのに、単に自己の性的欲望を満たすために被害児童Aと性交し、もって青少年とみだらな性交を行った。
第2(訴因変更後の令和5年8月15日付け追起訴状記載の公訴事実)
  別紙記載の被害児童B(当時15歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、
 1 別表1記載のとおり、令和5年4月9日午後2時58分頃から同月12日午後9時57分頃までの間に、15回にわたり、東京都(以下略)被告人方において、被害児童Bに、被告人と性交する姿態、被告人の陰茎を口淫する姿態、被告人が被害児童Bの乳首を触る行為に係る姿態及び被害児童Bの陰部等を露出する姿態をとらせ、これらを撮影機能付き携帯電話機で撮影し、同日午後11時頃、被告人方又はその周辺において、撮影した動画データ15点を被告人が使用するパーソナルコンピューターに内蔵されたハードディスクに記録して保存し、
 2 別表2記載のとおり、同年5月28日午後3時43分頃から同年7月3日午前0時34分頃までの間に、35回にわたり、前記被告人方において、被害児童Bに、被告人と性交する姿態、被告人の陰茎を口淫する姿態及び全裸でその乳房等を露出する姿態をとらせ、これらを撮影機能付き携帯電話機で撮影し、その静止画データ1点及び動画データ34点を同携帯電話機の内蔵記録装置に記録して保存し、
  もって児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態、他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した。
(証拠の標目)
(法令の適用)
罰条
  判示第1の所為 東京都青少年の健全な育成に関する条例24条の3、18条の6
  判示第2の1別表1番号1、4ないし11、14、15、判示第2の2別表2番号2ないし35の各所為
  いずれも児童ポルノ禁止法7条4項、2項、2条3項1号
  判示第2の1別表1番号2、3、12、判示第2の2別表2番号1の各所為
  いずれも児童ポルノ禁止法7条4項、2項、2条3項3号
  判示第2の1別表1番号13の各所為
  児童ポルノ禁止法7条4項、2項、2条3項2号
刑種の選択 各所定刑中懲役刑をいずれも選択
累犯加重 刑法56条1項、57条(判示の各罪の刑について再犯の加重)
併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(刑及び犯情の最も重い判示第2の2別表2番号35の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の負担 刑訴法181条1項ただし書(不負担)
(量刑の理由)
刑事第4部
 (裁判官 蛯原意)

別表1
別表2

フリーマーケットサイトで、適法な商品を装って、児童ポルノ代金を決済する手口

フリーマーケットサイトで、適法な商品を装って、児童ポルノ代金を決済する手口

westlaw
裁判年月日 令和 3年 2月16日 裁判所名 大阪地裁 
文献番号 2021WLJPCA02166006
罪となるべき事実
第34【令和元年12月4日付け起訴状記載の公訴事実】 財産上不正な利益を得る目的で,児童ポルノである動画データを不特定又は多数の者に有償で提供して販売していたものであるが,フリーマーケットアプリケーションソフト「△△」及びその決済システムを利用して,その販売代金の取得につき事実を仮装しようと考え,別表3記載のとおり,平成30年8月21日から同年9月25日までの間,日本国内において,7回にわたり,真実は上記児童ポルノである動画データ又はこれを含む動画データであるのに,「ビンテージ入れ物」等と題する商品であるかのように装い,A13ほか4名から,上記動画データ又はこれを含む動画データの販売代金合計11万2,770円から販売手数料及び振込手数料合計5,414円を差し引いた金額合計10万7,356円を,上記「△△」の決済システムを介して,株式会社銀行支店に開設された被告人名義の普通預金口座に振込入金させ,もって犯罪収益等の取得につき事実を仮装した。
法令適用
判示第34の所為 包括して組織的犯罪処罰法10条1項前段
量刑理由
判示第34の組織的犯罪処罰法違反の犯行は,判示第25を含む児童ポルノの動画データの販売に当たって,別の商品であるかのように仮装して決済システムを利用したものであって,仮装手段も比較的巧妙であり,被害児童らの児童ポルノ拡散の危険性を高める悪質なものであったといえる。

https://news.yahoo.co.jp/articles/4f0efd704969722e390463deb7b1f0a1339db62c
容疑者は、スマートフォンのフリマアプリで雑誌やアダルトグッズなどを販売。商品の中に、児童ポルノ動画のリストを同梱していた。購入希望者にはフリマアプリ上の別の商品を購入するよう指示し、購入確認後、秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」のファイル送信機能を使って動画を送信していたという。
再逮捕容疑は5年9月20日~10月2日、フリマアプリで40代男性らに児童ポルノ動画データを販売する際、別の商品を販売しているように装って犯罪収益を偽装したとしている。

撮影・送信させる強制わいせつ罪(176条後段)・不同意わいせつ(176条3項)(リモートわいせつ)の科刑状況

撮影・送信させる強制わいせつ罪・不同意わいせつ(リモートわいせつ)の科刑状況

対面型の強制わいせつ罪よりは、実刑率が高いのですが、
  動かなくても実現できる
  同時に複数人を相手にできる
  画像と被害者供述で立件できる。
  画像を保存している事が多い
  性的意図の立証のために、同種前科者を選んで強制わいせつ罪を適用している
ということなので、件数が少なければ実刑にはなりません。


東京 地裁 H18.3.24 懲役3年 02月 実刑
大分 地裁 H23.5.11 懲役3年 執行猶予5年
東京 地裁 H27.12.15 懲役3年 執行猶予5年
高松 地裁 H28.6.2 懲役2年 06月 執行猶予4年
横浜 地裁 H28.11.10 懲役4年 06月 実刑
松山 地裁 西条 H29.1.16 懲役3年 執行猶予5年
高松 地裁 丸亀 H29.5.2 懲役2年 06月 執行猶予4年
岡山 地裁 H29.7.25 懲役5年 実刑
札幌 地裁 H29.8.15 懲役2年 執行猶予3年
札幌 地裁 H30.3.8 懲役2年 執行猶予3年
東京 地裁 H31.1.31 懲役2年 06月 執行猶予4年
長崎 地裁 R1.9.17 懲役2年 06月 実刑
高松 地裁 丸亀 R2.9.18 懲役2年 06月 執行猶予5年
熊本 地裁 R3.1.13 懲役3年 00月 執行猶予5年
京都 地裁 R3.1.21 懲役3年 執行猶予4年
京都 地裁 R3.2.3 懲役2年 08月 実刑
大阪 高裁 R3.7.14 懲役2年 08月 実刑
京都 地裁 R3.7.28 懲役2年 02月 実刑
大阪 高裁 R4.1.20 懲役2年 02月 実刑
千葉 地裁 R4.2.7 懲役2年 執行猶予4年
札幌 地裁 小樽 R4.3.2 懲役9年 実刑
東京 地裁 R4.3.10 懲役2年 10月 実刑
京都 地裁 R4.6.10 懲役3年 執行猶予4年
東京 地裁 R4.8.19 懲役2年 06月 執行猶予4年
京都 地裁 R4.9.13 懲役2年 執行猶予3年
札幌 地裁 R4.9.14 懲役2年 実刑
千葉 地裁 R4.11.18 懲役3年 執行猶予5年
釧路 地裁 R5.1.6 懲役2年 執行猶予4年
札幌 高裁 R5.1.19 懲役2年 実刑
大津 地裁 R5.3.1 懲役3年 執行猶予4年
津 地裁 R5.8.18 懲役3年 執行猶予4年
松山 地裁 西条 R5.8.31 懲役1年 06月 執行猶予3年
松山 地裁 R5.9.7 懲役2年 執行猶予4年
大津 地裁 R5.10.26 懲役8年 実刑
旭川 地裁 稚内 R5.11.10 懲役2年 10月 実刑
札幌 高裁 R6.3.5 懲役2年 10月 実刑

児童ポルノ単純所持罪(7条1項)の有罪判決で、犯罪組成物件(19条1項1号)としてデスクトップpcが没収された事例

児童ポルノ単純所持罪(7条1項)の有罪判決で、デスクトップpcが没収された事例
 普通は、HDD・SSDという媒体が児童ポルノとして没収されますけどねえ。
 電磁的記録の類で、児童ポルノDVDの場合にプレーヤーは没収しないだろう。

8 没収
 千葉地方検察庁で保管中の~デスクトップパソコン1台(令和5年千葉検領第1880号符号25の1)は判示第4の犯罪行為を、それぞれ組成した物であり、いずれも犯人以外の者に属さないから、刑法19条1項1号、2項本文の規定により没収する。

第一九条(没収)
 次に掲げる物は、没収することができる。
一 犯罪行為を組成した物
二 犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物
三 犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物
四 前号に掲げる物の対価として得た物

裁判年月日 令和 5年 9月29日 裁判所名 千葉地裁 
事件番号 令5(わ)281号 ・ 令5(わ)414号 ・ 令5(わ)788号
文献番号 2023WLJPCA09296005
上記の者に対する建造物侵入(変更後の訴因建造物侵入、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反)、器物損壊、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、当裁判所は、検察官山本樹出席の上審理し、次のとおり判決する。 
主文
 被告人を懲役3年に処する。
 未決勾留日数中60日をその刑に算入する。
 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
 千葉地方検察庁で保管中の小型カメラ3台(令和5年千葉検領第1880号符号1、2及び46の2)並びにデスクトップパソコン1台(令和5年千葉検領第1880号符号25の1)を没収する。
 
 
理由

 (罪となるべき事実)
 第1 被告人は、令和5年1月12日頃、中学校内において、A所有の水筒に自己の精液を入れてこれを汚損し(損害額約1628円)、もって他人の物を損壊したものである。
 第2 被告人は、令和5年1月30日頃、中学校内において、B所有の水筒に自己の精液を入れてこれを汚損し(損害額約2000円相当)、もって他人の物を損壊したものである。
 第3 被告人は、用便する女子生徒の身体等を撮影する目的で、令和5年2月7日午前7時30分頃、中学校の校長が看守する同校a棟3階南側女子トイレ内に侵入し、常習として、その頃、同所において、同トイレの天井部分及び同トイレ内個室と隣接する用具入れの仕切り板下部に小型カメラ合計3台(令和5年千葉検領第1880号符号1、2、46の2)をそれぞれ設置し、もって便所において、人の通常衣服で隠されている身体等を撮影する目的で写真機その他の機器を設置し、みだりに、人を著しく羞恥させ、かつ、人に不安を覚えさせるような行為をしたものである。
 第4 被告人は、自己の性的好奇心を満たす目的で、令和5年2月9日、市〈以下省略〉被告人方において、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され、又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録である動画データ11点を記録した児童ポルノであるデスクトップパソコン1台(令和5年千葉検領第1880号符号25の1)を所持したものである。
 (証拠の標目)
 (法令の適用)
 1 構成要件及び法定刑を示す規定
 被告人の判示第1及び第2の各所為は刑法261条に、判示第3の所為のうち建造物侵入の点は刑法130条前段に、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反の点は同条例(昭和39年千葉県条例第31号。以下「迷惑行為等防止条例」という。)13条の2第2項第1号、3条の2第1号に、判示第4の所為は児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条1項前段、2条3項3号に、それぞれ該当する。
 2 科刑上一罪の処理
 判示第3の建造物侵入と迷惑行為等防止条例違反との間には手段結果の関係があるので、刑法54条1項後段、10条により1罪として重い建造物侵入の罪の刑(ただし、罰金刑の多額については、迷惑行為等防止条例違反の罪の刑による。)で処断する。
 3 刑種の選択
 いずれも懲役刑を選択する。
 4 併合罪の処理
 刑法45条前段の併合罪であるから、刑法47条本文、10条により刑及び犯情の最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重をする。
 5 宣告刑の決定
 以上の刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処する。
 6 未決勾留日数の本刑算入
 刑法21条を適用して未決勾留日数中60日をその刑に算入する。
 7 刑の全部の執行猶予
 情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
 8 没収
 千葉地方検察庁で保管中の小型カメラ3台(令和5年千葉検領第1880号符号1、2、46の2)は判示第3の犯罪行為を、デスクトップパソコン1台(令和5年千葉検領第1880号符号25の1)は判示第4の犯罪行為を、それぞれ組成した物であり、いずれも犯人以外の者に属さないから、刑法19条1項1号、2項本文の規定により没収する。
 (量刑の理由)
 (求刑 懲役3年、主文同旨の没収)
 千葉地方裁判所刑事第1部
 (裁判官 土倉健太)

真剣交際(青少年条例)と不同意性交罪・不同意わいせつ罪

https://news.yahoo.co.jp/articles/7b2402841efe5cd8117880141c00641f5c1f9473
不同意性交等と不同意わいせつの疑いで書類送検されたのは、福岡県警第2機動隊に所属する22歳の男性巡査です。
男性巡査は、今年4月26日深夜から翌27日の未明にかけ当時、交際関係にあった女子中学生が16歳未満であり、5歳以上年齢が若いことを知りながら性交やわいせつ行為をした疑いが持たれています。
今年4月28日に県内の飲食店で男性巡査と女子中学生たちが食事していたのを警察官が目撃したことから事件が発覚しました。
男性巡査と女子中学生は今年1月にスマートフォンのオンラインゲームで知り合い、今年4月から交際関係にあったということです。
事情聴取に対し、男性巡査は、「交際関係にあり、年齢差があることは認識していたが、性的な欲求を抑えることができなかった」と容疑を認めているということです。
福岡県警は、27日付けで男性巡査を懲戒免職処分にした上で「職員の指導・教養を徹底し、再発防止に努める」とコメントしています。


 18歳未満との性行為については、従前、

「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきでなく、
①青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、
②青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。(最大判S60.10.23)

という判例があって、それで運用されてきたのだが、不同意性交罪・不同意わいせつ罪にはそういう文言はない。
 佐伯先生は、「未熟に乗じて」的な実質的要件を入れて、5歳差以上の真剣交際など対等な関係の場合を除外しようとされたのだが、採用されなかった。
 しかし、青少年条例の法文もも「淫行」「わいせつ」とされているのを、判例で限定した経緯があるので、不同意性交・不同意わいせつについても、対等な関係は除外する方向で判例で限定される可能性がある。
 捜査段階で主張すれば、起訴判断にも影響は有るだろう。

法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第9回会議 議事録
○佐伯委員 私は、前回改正の法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会では、性交同意年齢の引上げについて、児童福祉法や条例の罰則などの存在を理由に、消極的な意見を申し上げました。
しかし、今回の部会において、皆様の御意見・御議論を伺い、13歳以上であっても、一定の年齢以下の者については、先ほどから御指摘がありますように、行為が自己に及ぼす影響を理解する能力、あるいは性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力が十分でないということから、そのような若年者を保護するために刑法に新たな規定を設けることに賛成したいと思うようになっています。
その上で、どのような規定にするのが望ましいのかということについて、現在のところは、第1回会議の外国の法制度に関する配布資料6で紹介されました、ドイツ刑法182条3項のような規定、具体的には、同項は、21歳以上の者が16歳未満の者に対して性的行為を行い、その際に、行為者に対する被害者の性的自己決定能力の欠如を利用した場合に処罰すると規定しておりますけれども、このような規定の仕方が、基本的には適切ではないかと思うに至っております。
この規定のように、年齢差を、行為者と被害者の年齢で定めるのか、それとも、端的に年齢差として規定するのか、あるいは、その年齢や年齢差を何歳にするのか、先ほどから、3歳あるいは5歳というような御意見が出ておりますが、それらの点については、更に検討が必要だと思いますけれども、基本的に、年齢差と被害者の能力の欠如ないし未熟さの利用の両方を要件とすることが、望ましいのではないかということです。
まず、年齢差要件を設ける理由については、若年者の判断能力、特に対処能力は、相手や状況に左右されるものであって、一定の年齢差がある場合には、先ほど来、小西委員が御指摘になっておられますように、対処能力に欠けると考えることができること、そして、これも小西委員が御指摘になられた点ですけれども、法律の安定的な適用を確保するためには、被害者の能力の欠如ないし未熟さの利用を徴表する要件を規定し、一定の場合は、原則として犯罪が成立するということを示すのが、望ましいと思われるからです。
次に、年齢差要件とともに、利用要件を設ける、この点が、小西委員と意見を異にする点なのですけれども、その理由というのは、年齢差要件だけで処罰範囲を適切に画することができるかについて、私は危惧を感じるからです。
例えば、先ほども御指摘がありましたけれども、年少者が年長者に対して暴行・脅迫を用いて性交等を行ったという場合は、年長者は被害者ですので、処罰されるべきではないということについては、恐らく異論はないのではないかと思います。
そのような場合は、違法性阻却等で処罰範囲から除外できるのかもしれませんが、やはり構成要件の段階で除外することが望ましいと思います。
さらに、一定の年齢差がある場合、飽くまで例えばですけれども、ドイツ刑法の規定のように、21歳以上の者が16歳未満の者に対して性的行為を行った場合には一律に処罰する規定とすることについては、最高裁判例との関係も気になります。
御案内のように、最高裁昭和60年10月23日大法廷判決は、18歳未満の者との淫行を禁止・処罰する福岡県青少年保護育成条例について、婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等まで処罰の対象とすることは処罰の範囲が広きに失すると判示しています。
今回問題となっている一定の年齢未満、例えば、16歳未満の者との性的行為等の処罰について、この判例がそのまま当てはまるわけではありませんが、真摯な合意に基づく性的関係は処罰すべきではないというのが、この判例の基本的な考え方だとすると、私は、その考え方は尊重されるべきだと思います。
一定の年齢差がある場合は、そのような真摯な合意に基づくものではないというのが通常でしょうし、その年齢差が更に大きくなれば、真摯な合意に基づくものとは到底いえないと判断されることになると思います。
しかし、一定の年齢差を少し超えただけで、常に真摯な合意に基づくものでないといえるのか、例えば、21歳の者と15歳の者との間には、真摯な合意に基づく性的関係はあり得ないと言い切ってよいのかについては、私はちゅうちょを覚えるところです。
この最高裁判例が、法定刑が懲役2年以下又は10万円以下の罰金である条例の規定に関するものであるのに対して、現在議論されているのは、法定刑が、性交等の場合は5年以上の有期懲役の罪であることも、考慮に入れられるべきだろうと思います。
○佐伯委員 特に、年齢差をどうするかというところは、大きいのかなと感じております。
○長谷川幹事 三点質問をさせていただきたいと思います。
先ほど昭和60年の最高裁判例について御紹介いただいて、判決理由の中で、18歳未満に対する淫行の処罰について、結婚を前提とするような真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等まで処罰対象とすると、処罰範囲が広汎になりすぎるという趣旨の判示部分を引用されたのですが、一点目は、女性の婚姻適齢が18歳に引き上げられたこととの関係で、今、この判決理由の判示はどのように整理されるのかということをお聞きしたいと思います。
それから、佐伯委員も、対象年齢を引き上げる根拠として、配布資料22に記載されている「①」から「③」までの能力に言及されつつ、真摯な恋愛、そういった一定程度本気の恋愛は処罰すべきではないのではないかという考えが背景にある御意見としてお聞きしたのですが、私は、先ほど言ったように、「②」の能力が不十分であることは、相手が誰であろうと、本気の恋愛であろうと、変わらないのではないかと思っておりまして、そこはどうお考えなのでしょうか。
それから、実質的要件について、これは、「」という言葉を使うのか、ほかの言葉を使うのか、まだ定まっていないところではあるのですけれども、こういった要件によって、年齢差があっても、一定の処罰すべきでないものを処罰対象から排除しようというお考えだと思うのですが、こういった要件があることによって、本来処罰すべきものが、行為者の認識や行為の立証の問題から処罰できなくなってしまう危険を多分にはらんでいるという点について、どうお考えなのかということを教えてください。
○佐伯委員 まず、最高裁判例が出たときと現在では、婚姻適齢が変わっているというのは、正に御指摘のとおりで、先ほども申し上げましたけれども、この最高裁判例が、そのまま直接、今議論している問題に当てはまるとは、私も思っておりません。
ただ、最高裁判例の基礎にある考え方からは、年齢差要件を設けても、その年齢差を少し超えるような場合に、常に処罰に値するといえるのかというと、やはり処罰すべきでない事例があるのではないかという発想に立つものです。
そして、これは先ほど御質問のあった立証の問題とも関連するのですけれども、刑罰を科すかどうかという問題ですので、少しでも処罰すべきでないものが入るおそれがあるのであれば、本来処罰すべきものが多少漏れたとしても、利用要件を設けることによって、言わば安全弁のようなものを残すべきではないかと思っている次第です。
○佐伯委員 私の理解が不十分なのかもしれないのですが、もちろん、例えば、22歳と15歳であれば完全に対等とはいえないでしょうし、知識にも格差があると思います。
しかし、そういう力の格差や、知識の格差に配慮しながら、例えば、避妊をきちんとする、あるいは、そういう格差を補う努力、真摯という言葉が適切かは分かりませんが、私の考える真摯というのは、単なる主観の問題ではなくて、具体的にどういうことを行っているのかという客観的な問題だろうと思うのですけれども、様々な配慮を行って、性的な関係を持っているという場合に、これを、強制性交等罪や強制わいせつ罪と同じように処罰するというのは、私にはやや行き過ぎのように思えまして、やはりそういう場合を除外できる要件を設けておくのが適切ではないか、それを実務の運用に任せてしまうというのは適切ではないのではないかと思っております。

数人に対するひそかに製造罪(7条5項)につき、児童ごとに一罪とした事例(東京地裁r5.12.21)

 だいたい、学校の着替え盗撮というのは、「さあ次は体育なので、女子はここで着替えましょう」という言動があれば、姿態をとらせて製造罪です。
 判例タイムズ1432の裁判官の論稿では包括一罪とされています。
 当職が関与した大阪地裁r5.10.17は、姿態をとらせて製造罪への訴因変更を経て包括一罪でした。

東京地方裁判所判決/令和4年(特わ)第396号、令和4年(特わ)第498号、令和4年(合わ)第86号
【判決日付】 令和5年12月21日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載
第2 被告人は、B(当時7歳)及びC(当時6歳)が18歳未満の児童であることを知りながら、別表記載のとおり、令和元年9月3日から同月5日までの間、4回にわたり、F小学校の教室内において、ひそかに、B及びCの胸部及び陰部を露出した姿態を被告人が使用する動画撮影機能付き携帯電話機で動画撮影し、その動画データ4点を同携帯電話機の内蔵記録装置に記録させて保存し、もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した。

(法令の適用)
1 罰条
  判示第2別表の番号1、3及び4の各所為につき、いずれも児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項、2項、2条3項3号
  判示第2別表の番号2の所為につき、被害者ごとに児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項、2項、2条3項3号
2 科刑上一罪の処理
  判示第2別表の番号2の各罪につき、刑法54条1項前段、10条(1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるので、一罪として児童ポルノ製造の罪の刑で処断。なお、犯情が被害者ごとに異ならないのでその一つを選ぶことをしない。)

判例番号】 L07831229
       児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、準強姦未遂被告事件
【事件番号】 東京地方裁判所判決/令和4年(特わ)第396号、令和4年(特わ)第498号、令和4年(合わ)第86号
【判決日付】 令和5年12月21日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

       主   文

 被告人を懲役5年に処する。
 未決勾留日数中390日をその刑に算入する。
 東京地方検察庁で保管中のスマートフォン1台(令和5年東地領第2819号符号1)及びUSBメモリ1本(同符号2)を没収する。

       理   由

(罪となるべき事実)
第1 被告人は、A(当時13歳)に対し、Aが小学6年生の頃からその陰部を触り、口淫をさせるなどの性的虐待を繰り返し、Aが被告人を恐れて抗拒不能の状態に陥っていることに乗じて、Aを姦淫しようと考え、平成24年5月1日、埼玉県朝霞市(以下略)において、前記状態であるAの陰部に自己の陰茎を押し当てるなどしてAを姦淫しようとしたが、Aが痛がるなどして陰茎を挿入することができなかったため、その目的を遂げなかった。
第2 被告人は、B(当時7歳)及びC(当時6歳)が18歳未満の児童であることを知りながら、別表記載のとおり、令和元年9月3日から同月5日までの間、4回にわたり、F小学校の教室内において、ひそかに、B及びCの胸部及び陰部を露出した姿態を被告人が使用する動画撮影機能付き携帯電話機で動画撮影し、その動画データ4点を同携帯電話機の内蔵記録装置に記録させて保存し、もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した。
第3 被告人は、自己の性的好奇心を満たす目的で、令和4年1月17日、さいたま市緑区(以下略)当時の被告人方において、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである動画データ2点及び静止画データ4点を記録したスマートフォン1台(令和5年東地領第2819号符号1)並びに同動画データ9点及び静止画データ3点を記録したUSBメモリ1本(同符号2)を所持した。
(証拠の標目)
(事実認定の補足説明)
第1 判示第1の事実について、被告人は、Aの陰部に自己の陰茎を押し当てるなどしたこと、Aが小学6年生の頃からAの陰部を触り、口淫をさせるなどの行為を繰り返していたことは間違いないが、Aが抗拒不能の状態に陥っていたことはない旨陳述し、これを受けて、弁護人は、Aが事件当時抗拒不能の状態に陥っていたこと及びそれに対する被告人の故意はいずれも認められない旨主張する。しかしながら、当裁判所は、弁護人が争っている前記各事実がいずれも認められると判断したので、その理由を説明する。
第2 Aが抗拒不能の状態に陥っていたことについて
 1 関係各証拠によれば、以下の事実が明らかに認められる。
  (1)被告人は、小学校教諭であり、平成19年4月、Aが通っていた小学校へ赴任し、平成21年4月から平成23年3月までの間、小学5年生ないし6年生であったAの在籍するクラスの担任を務めた。
  (2)被告人は、遅くとも、Aが小学6年生であった平成22年頃から、小学校の教室内に他の児童らがいない状況でAと繰り返しキスをするようになった。同年7月には、小学校の宿泊行事の際、被告人が使用する客室内でAを全裸にさせてその陰部を手指で弄び、同年12月には、小学校の教室内でAに口淫をさせ、それぞれその様子を動画撮影した。
  (3)平成23年4月、Aは中学校に入学したが、その後も、被告人とAはLINE等で連絡を取り合っていた。Aが中学1年生の時、被告人はAの弟であるEの在籍するクラスの担任になった。
  (4)被告人は、同年8月18日、勤務する小学校を訪れたAに対し、教室内でその陰部を手指で弄び、その様子を動画撮影した。さらに、被告人は、少なくとも同年9月28日、同年12月9日、平成24年1月10日、同年5月1日(本件当日)及び同年8月5日の5回にわたり、その都度友人から本件事件現場である友人方居室を借りて、同所において、Aに口淫をさせたり陰部や乳房を手指で弄んだりする性的行為を行い、その様子を動画撮影した。本件当日、被告人は、Aの陰部や乳房を手指で弄び、キスをし、Aの陰部に自己の陰茎を押し当てたが、Aが痛がるなどしたため、陰茎を挿入するには至らなかった。
 2 Aの供述の要旨
   Aは、公判廷において、大要、以下のとおり供述した。
   中学1年の後半辺りから、被告人に連れられて電車で本件事件現場である被告人の友人方に行くようになった。同所には5回以上行ったが、毎回、手淫、口淫をさせられ、被告人が男性器を自分の陰部に押し付けて挿入しようとした。被告人は、それらの様子を撮影することがあったが、撮影していいかと聞かれたことはなかった。
   中学校の授業等を通じて、それまで自分がされてきた行為の意味をよく理解するようになっていたこともあり、被告人からこれらの性的行為をされることはすごく嫌だったが、もし拒絶すれば、被告人にそれまでに撮影された動画等をばらまかれたり、弟のEがクラスの担任である被告人から成績を下げられるなどの理不尽な扱いを受けたりするのではないかと思い、拒絶することはできなかった。被告人に性的行為をされる際に、被告人の手をはたく、指示を聞き入れないなどの抵抗をしたことはあるが、それが功を奏して性的行為をしないで済んだことはなかった。本件当日の時点では、被告人のことが怖かったのと、それまでずっと性的行為をさせられていたので、抵抗することを諦めていた。
 3 Aの供述の信用性
  (1)まず、被告人の友人方で撮影された一連の動画との整合性を検討する。
    平成23年9月28日の動画では、被告人がAに口淫等をさせる様子が写されており、被告人は、Aがその手で被告人の手を払い、上着を羽織るなどして複数回阻止しているにも関わらず、「怒ってる顔しないでよ」などと言ってAの乳房を触る行為を繰り返している。
    平成23年12月9日の動画では、Aの乳房を弄ぶ被告人に対し、Aが「顔写しちゃだめ」などと言って首を振っている。これに対し、被告人は、「Aかどうかわかんない」と言ってAの顔の撮影を続けている。
    平成24年1月10日の動画では、被告人がAの陰部を弄ぶなどする様子が写されている。Aは、不機嫌な表情で顔を背け、乳房や陰部に触れる被告人の手を複数回払い、腕で阻止し、被告人が顔を近づけると「やだ」と言って離れるなどしており、体を触らせ、横になるよう求める被告人の指示に従っていなかったが、被告人は、「触らせて」「言うこと聞いてくれ」「泣かしたくねえし」「理解して」「横になって」などと執ように言って、結局、横になったAの陰部を弄ぶなどしている。また、被告人がAの乳房や陰部を弄び、Aの陰部に陰茎を接着させるなどしている間、Aは服や手で顔を覆って隠していたが、被告人は服や手を外して、Aの顔を撮影した。さらに、Aが目を閉じて顔をしかめたり、手で顔を覆ったりしているにも関わらず、被告人は、引き続きAに口淫等をさせ、Aは「上に乗って」という被告人の指示に従って口淫をしている。
    本件当日である平成24年5月1日の動画では、Aは、被告人が陰部や乳房を弄ぶことに対しては目立った抵抗を示していないが、顔を撮影されることに対しては、手や布団で顔を覆い、「やだ」と言っている。被告人は、布団を取り除くなどしてAの顔の撮影を繰り返した上、目をつむって顔をしかめ首を横に振るAに対し、舌を出させてキスするなどしている。
    これらの動画より、本件以前に、Aが被告人との性的行為や動画撮影を嫌がり、抵抗するような態度や発言をしているにもかかわらず、被告人がそれを無視して性的行為及び動画撮影を繰り返し、Aは、被告人の指示に従わざるを得ない様子が見てとれる。とりわけ、平成24年1月10日の動画では、明確に抵抗する様子や指示に従わない様子を見せるAに対し、被告人は、「泣かしたくねえし」などと、指示に従わなければAを泣かせるような仕打ちをすることを示唆する発言をして、結局性的行為をするに至っている。一方、本件当日には、Aは性的行為に対して目立った抵抗を示していないが、前記各動画によって認められる従前の経緯からすれば、Aが、抵抗しても結局受け入れられず、性的行為をさせられてしまう無力感や、被告人の意図に反した言動をすれば、ひどいことをされるかもしれないという恐怖感から、抵抗を諦める気持ちになることは無理もないことである。平成24年1月10日から本件当日までの間に被告人とAの関係が大きく変化したことをうかがわせる事情が見当たらないことも踏まえると、本件当時、被告人が怖く、それまで性的行為をさせされていたので抵抗を諦めたというAの供述は、前記一連の動画とよく整合している。なお、本件当日の動画には、Aが被告人と一見和やかに雑談をする様子も写っているが、これについてAは、被告人が自分を触っているのを感じないように、気を紛らわせようとしたからであると述べており、その説明は、性的行為に応じなければその場を逃れることができない状況に置かれた者の心情を迫真性をもって述べるものであるから、Aの供述が一連の動画とよく整合しているとの評価は変わらない。
  (2)次に、Aの供述の内容の自然性、合理性について検討する。
    本件当時、Aは、13歳であり、被告人とは、被告人が当時36歳で、1年余り前まで小学校でAの担任教諭をしていたという関係にあった。このようなAの年齢及び被告人との関係に照らせば、Aが性的行為についての自由な意思決定を妨げる特別な事情もないのに、被告人から陰部に陰茎を押し当てられるというわいせつ性の高い性的行為に応じるということは考え難い。Aは、そのような事情として、被告人のことが怖く、繰り返し性的行為をさせられていたので、抵抗することを諦めていたことを挙げるが、その内容は、極めて自然である。
    Aは、性的行為を拒絶できなかった理由の一つとして、それまでに撮影された動画等を拡散されることを恐れていた旨供述するところ、被告人が、本件に先立ち、Aの面前でAとの性的行為の様子を複数回動画撮影していたことは客観的証拠から認められ、そのような状況において、動画等が拡散されることを恐れるという心理は極めて自然なものといえる。現に、Aは、平成23年12月9日及び本件当日の動画において、被告人に顔を撮影されることを嫌がる発言や行動をしており、これは動画の拡散等により自己のプライバシーや名誉が害される事態を危惧したものと考えられるし、被告人はこのようなAの発言等にもかかわらず撮影行為を継続しているのであるから、本件当時、被告人に動画等を拡散されることを危惧して被告人の要求に応じざるを得ないと考えたというAの供述は合理的である。
    また、Aは、弟のEが被告人から理不尽な扱いを受けることを恐れたという点も性的行為を拒絶できなかった理由の一つであると供述するところ、被告人は、担任教諭としてEを教育、指導するに当たり、Eを不利益に扱うことが可能な立場にあったと認められる。Aは、中学校に入学した後に被告人から会うことを要求された際、Eの成績を操作することができると言われたことがある旨供述するのに対し、被告人はそのような発言をした事実を否定するが、少なくとも、この頃、Aと被告人がEに関する会話をすることがあったことは被告人自身も認めているところである。被告人がAに対して具体的にEの成績を操作できると発言したかどうかはともかく、上記のような状況、経緯からすれば、Aにおいて、被告人の要求に応じなければEが被告人から理不尽な扱いを受けるおそれがあると考えるのは自然なことである。
  (3)さらに、Aが被害を打ち明けた経緯について検討する。
    内容に照らして信用できる証人Eの公判供述によれば、Aは、被告人による性的行為を長い間誰にも言えずにいたが、被告人の逮捕を知る前の令和3年9月、交際相手との性的行為を怖く感じているという悩みを弟のEに相談した際、怖く感じている原因として被告人による性的行為を打ち明けたものと認められる。このような事実経過は、性被害を受けた者が長期間経過後に被害を打ち明けた経緯として自然であり、被告人による性的行為がAの意思に反するものであったこと及びAが被告人の逮捕に乗じて虚偽の事実を作出したのではないことを示している。
  (4)以上の検討によれば、Aの供述は、本件から公判までに10年以上が経過していることからすれば、細部において記憶の減退等により不正確な部分がある可能性は否定できないものの、少なくとも、本件当時被告人による性的行為を拒絶できなかったという根幹部分は、その理由や被害を打ち明けた経緯を含めて極めて自然で合理的である上、一連の動画によって認められる客観的事実とも整合しており、高い信用性が認められる。
 4 Aが抗拒不能の状態に陥っていたこと
   前記のとおり信用できるAの供述によれば、Aは、小学6年生の頃から被告人により陰部を触られ、口淫をさせられるなどの性的虐待を繰り返し受けてきたことや、性的行為を拒絶すれば、動画等を拡散されたり、弟が理不尽な扱いを受けたりするのではないかと被告人を恐れていたことから、本件当時、抵抗することを諦める気持ちになっており、そのために被告人による性的行為を拒絶できなかったものと認められる。加えて、本件当時、Aが13歳と性的行為に関する判断能力が不十分であった上、被告人が1年余り前まで小学校でAの担任教諭であったこと、被告人は身長173センチメートル、体重100キログラム以上であったのに対し、Aは身長130から145センチメートル、体重は30から40キログラム台であり、両者の体格の差が大きかったこと、本件事件現場である被告人の友人方は、被告人がAを電車に乗せて連れて行った場所で、Aが性的行為に応じなければ同所から事実上帰れない状況にあったことなどを併せ考えると、本件当時、Aは、被告人による性的行為を拒絶できない抗拒不能の状態に陥っていたものと認められる。
 5 被告人の供述及び弁護人の主張
   これに対し、被告人は、公判廷において、Aが小学6年の6月頃に、Aから好きと言われたことをきっかけにAと交際しており、キスや口淫等の性的行為をしていた、Aが中学生になって、本件事件現場である友人方を借りて会うようになり、長期休暇の課題に取り組んだり、性的関係を持ったりした、Aが中学1年の1月頃、Aがテーマパークに行く約束を土壇場ですっぽかしたことから、その後Aに会った際に「今日は一杯してあげるね」と言われた、本件当日は、Aからゴールデンウィークの課題を手伝ってほしいと言われ、課題が一段落した後に性的行為をした、Aに嫌われたくなかったので、Aの拒否することはしなかったなどと供述し、弁護人は、被告人はAが許容する範囲で性的行為をしていたから、Aが被告人を恐れて抗拒不能の状態にあったとはいえないなどと主張する。
   しかし、平成23年9月28日の動画で撮影されたAの様子は、性的部位を触る被告人の手を何度も払っており、性的接触を拒絶する意思が明らかであるし、平成23年12月9日の動画では、Aは顔を撮影されることについて、明確に「だめ」と拒絶しているにもかかわらず、被告人は性的行為やAの顔の撮影行為を続けており、被告人が、Aの許容する範囲内で性的行為等をしていたとは到底認められない。平成24年1月10日の動画では、「やだ」と発言して性的接触を明確に拒絶するAに対し、被告人が「泣かしたくねえし」などと言って性的行為を強行しており、Aから「今日はいっぱいしてあげるね」と言われた、Aの拒否することはしなかったとの被告人の供述と矛盾する。これらの本件以前の動画の様子に照らすと、平成24年5月1日の動画において、Aが性的行為について目立った抵抗を示していないことについて、被告人がAの嫌がることをしなかったとか、Aが性的行為の許容範囲を決定していたと考えることは到底できないのであって、上記の被告人の公判供述は信用できず、弁護人の上記主張は採用できない。弁護人は、被告人との関係におけるAの言動の表面的な部分を捉えて、Aが被告人による性的行為を拒絶できた旨主張するが、性的虐待を誰にも相談できずに一人で耐え続けていたというAが置かれた状況や、そのような過酷な状況で逃避の言動をせざるを得なかったというAの心情を正解しない主張というほかない。ほかに弁護人がるる主張する点についても、いずれも被告人が撮影した動画及び信用できるAの供述に反し、採用できない。
第3 Aが抗拒不能の状態に陥っていたことに対する被告人の故意について
   前記のとおり、Aは、本件当時、被告人による性的行為を拒絶できない抗拒不能の状態に陥っていたものと認められるところ、被告人は、Aの抵抗を排して性的行為や動画の撮影を繰り返したこと、Aが動画の拡散やEの不利益を危惧していることといった、抗拒不能を基礎づける事情をすべて認識していたと認められるから、それらの事情によってAが抗拒不能の状態に陥っていたことも認識していたと認められ、その状態に対する被告人の故意が認められる。
(法令の適用)
1 罰条
  判示第1の所為につき、平成29年法律第72号附則2条1項により同法による改正前の刑法179条、178条2項、177条
  判示第2別表の番号1、3及び4の各所為につき、いずれも児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項、2項、2条3項3号
  判示第2別表の番号2の所為につき、被害者ごとに児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項、2項、2条3項3号
  判示第3の所為につき、包括して児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条1項前段、2条3項3号
2 科刑上一罪の処理
  判示第2別表の番号2の各罪につき、刑法54条1項前段、10条(1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるので、一罪として児童ポルノ製造の罪の刑で処断。なお、犯情が被害者ごとに異ならないのでその一つを選ぶことをしない。)
3 刑種の選択
  判示第2及び第3の各罪につき、いずれも所定刑中懲役刑を選択
4 併合罪の処理
  刑法45条前段、47条本文、10条(最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重)
5 未決勾留日数の算入
  刑法21条
6 没収
  刑法19条1項1号、2項本文(スマートフォン1台(令和5年東地領第2819号符号1)及びUSBメモリ1本(同符号2)は、いずれも判示第3の犯罪行為を組成した物で、被告人以外の者に属しない物であるから、これらを没収)
7 訴訟費用の処理
  刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)
(量刑の理由)
 本件は、小学校の教諭であった被告人による、元教え子のAに対する準強姦未遂1件、女子児童2名に係る児童ポルノ製造4件及び女子児童4名に係る児童ポルノ所持1件からなる事案である。
~~
 以上の事情を考慮して、本件準強姦未遂が、その法定刑が引き上げられる前の犯行であることを踏まえつつ、同種事案の量刑傾向を参照し、主文掲記の刑を量定した。
(求刑 懲役10年及び主文同旨の没収)
  令和5年12月21日
    東京地方裁判所刑事第1部
        裁判長裁判官  今井 理
           裁判官  水越壮夫
           裁判官  竹内瑞希

「前2項に規定するもののほか」という法文なのに「実質的視点から、「同項にいう『前2項に規定するもののほか』との文言」に基づく形式的解釈論を退けたのである。」東京都立大学 名誉教授 前田雅英

「前2項に規定するもののほか」という法文なのに「実質的視点から、「同項にいう『前2項に規定するもののほか』との文言」に基づく形式的解釈論を退けたのである。」東京都立大学 名誉教授 前田雅英


 h26改正の条文を、r06になって、「前2項に規定するもののほか」という法文なのに「実質的視点から、「同項にいう『前2項に規定するもののほか』との文言」に基づく形式的解釈論を退けたのである。」っていうんだ。
 判例DBで検索すればわかることですが、ひそかに・姿態をとらせた場合は、法文上は、姿態をとらせて製造罪になるのは明らかなので、みんな姿態をとらせて製造罪で起訴して判決を書いているのに、稀に「盗撮」に気を取られてひそかに製造罪で起訴してしまう検察官がいて、そのまま判決を書いてします裁判官がいるのを、救済した判決です。

https://www.westlawjapan.com/pdf/column_law/20240607.pdf
《WLJ 判例コラム 臨時号》第319号 児童ポルノの「姿態をとらせ製造罪」と「ひそかに製造罪」の関係 ~最高裁第三小法廷令和6年5月21日判決1 ~ 文献番号 2024WLJCC013 東京都立大学 名誉教授 前田 雅英
2024/06/07
5.たしかに、一つの行為に適用可能な複数の構成要件が存在し、それらが相互に両立し難い場合、それらの内の一個のみが適用される法条競合(択一関係)が認められている7。そうだとすれば、「姿態をとらせ製造罪」該当性を認めた行為に「ひそかに製造罪」が成立することはあり得ない。しかし、「熟睡中の児童に、陰部を露出する姿態をとらせ、ひそかに、撮影した行為」を、「ひそかに製造罪」に該当するとして公訴を提起し、それに対して、「ひそかに製造罪」の成立を認める判断が、違法となるかは、別個の問題である。
6.「ひそかに製造罪」の立法時の説明は、新たな構成要件を設定することにより処罰範囲を拡大するもので、既存の「姿態をとらせ製造罪」の構成要件の成立範囲に影響しないとされ8、その趣旨を明確にするため、法文上も「前2項に規定するもののほか」と規定したとする。そうだとすれば、「姿態をとらせ製造罪」に該当しない場合のみ成立するものと解されるように見える。
ただ、法改正の実質的理由が、「通常の生活の中で誰もが被害児童になり得ること」や、「発覚しにくい方法で行っている点で巧妙であるなど、行為態様の点で違法性が高く、児童の尊厳を害する行為である」という点にあり、児童を性的対象とする風潮が助長され、抽象的一般的な児童の人格権を害する行為であることも強調されていたのである9。このような問題に対応するために「ひそかに製造罪」が新設されたとする。そうだとすれば、「二つの構成要件のいずれに該当するかが明白でない以上、『疑わしきは被告人の利益』として、ひそかに製造罪は成立し得ない」とする解釈が、立法の趣旨に合致するとは思われない。
7.そこで、最高裁は、「児童に姿態をとらせ、これをひそかに撮影するなどして児童ポルノを製造したという事実について、当該行為が同条4項の児童ポルノ製造罪にも該当するとしても、なお同条5項の児童ポルノ製造罪が成立し、同罪で公訴が提起された場合、裁判所は、同項を適用することができると解するのが相当である」と断じたのである。「ひそかに児童の姿態を撮影するなどして児童ポルノを製造するという行為態様の違法性の高さ」という実質的視点から、「同項にいう『前2項に規定するもののほか』との文言」に基づく形式的解釈論を退けたのである。
8.そして、最高裁はさらに踏み込んで、熟睡中の児童の陰部を露出する姿態等をとらせてひそかに撮影した行為に、「ひそかに製造罪」の成立を認めなければ、「事案によっては、同罪で公訴を提起した検察官が同条4項の児童ポルノ製造罪の不成立の証明を、被告人がその成立の反証を志向するなど、当事者双方に不自然な訴訟活動を行わせることになりかね」ないとし、さらには、「ひそかに児童の姿態を撮影するなどして児童ポルノを製造したことは証拠上明らかであるのに、裁判所が同条5項を適用することができないといった不合理な事態になりかねない」と判示した点が注目される。刑法の解釈論では、「手続の視点は当然重視している」としつつも、刑法条文の形式的文言解釈を重視してきた面があることは否めない。しかし、法解釈にとっては、「結論の実質的妥当性」もさることながら、「妥当な結論に辿り着き得る手続法的視点も含めた綜合的衡量」も、決定的に重要なのである。
9.本判決は、児童ポルノ製造罪に関する下級審の無用な混乱を除去するのみならず、妥当な実質的構成要件解釈を示したものとして、重要な判例といえよう。


ちなみに、ひそかに製造罪説は、大阪高裁H28.10.26で否定されています。

阪高裁H28.10.26
第10,第12及び第13の各2の事実における法令適用の誤りの主張について。
論旨は,第10,第12及び第13の各2の製造行為は,いずれも盗撮によるものであるから,法7条4項の製造罪ではなく,同条5項の製造罪が成立するのに,同条4項を適用した原判決には,法令適用の誤りがある,というものである。
しかしながら,法7条5項は「前2項に規定するもののほか」と規定されているから,同条4項の罪が成立する場合には同条5項の罪は成立しないことが,法文上明らかである。
所論は,法7条5項に「前2項に規定するもののほか」と規定されたのは立法のミスであってこの文言に特段の意味はないとした上で,法7条5項の罪と他の児童ポルノ製造の罪との関係は前者が後者の特別法の関係だと主張する。
しかし,法7条5項の罪が追加された法改正の趣旨を考慮しても所論のように「前2項に規定するもののほか」に意味がないと解する必要はなく,法7条5項の罪が特別法の関係にあるとの所論は,独自の見解であって,採用できない。
いずれも法7条4項の罪が成立しているとした原判決の法令適用に誤りはない。

※ 裁判所に指摘されて、姿態をとらせて製造罪に訴因変更された
訴因変更請求
公訴事実第2, 第4及び第6中,「ひそかに,被告人が同児童の性器等を露出させた上,それを触る行為を」とあるのを,いずれも「同児童の性器等を露出させる姿態及び被告人が同性器等を触る行為に係る姿態をとらせ,これらを」に改め,「ひそかに他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び」とあるのを,いずれも削除し,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の後に, いずれも「及び他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であっで性欲を興奮させ又は刺激するもの」を加える。

「社員食堂」は、「人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」に該当しないが、「工場の室内の診察場所として使用するためにカーテン等で囲われた部分」は「人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」(府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例6条3項)に該当する(大阪地裁)

「工場の室内の診察場所として使用するためにカーテン等で囲われた部分」は「人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」(府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例6条3項)に該当する(大阪地裁)
 d1-lawに出ているので解説します。

当時の大阪府条例
第六条 
3 何人も、住居、浴場、便所、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所における当該状態にある人に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
一 人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、姿態を見ること。
二 みだりに、姿態を撮影すること。

となっていて、場所が「住居、浴場、便所、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」に限定されていました。
 当初訴因の「社員食堂」は、「人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」じゃないという主張は通って、「工場の室内の診察場所として使用するためにカーテン等で囲われた部分」に訴因変更されています。

変更前訴因
 被告人は
第1 常習として
1 別表1記載のとおり、令和年月日午後時分頃から同日午後時分頃までの間、2回にわたり、B市内の工場社員食堂において、健康診断の内科検診を受診中の被害者A(当時32歳)ほか2名に対し、動画撮影状態にした携帯電話機を使用して、同人らの露出した胸部等を撮影し、もって人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所における当該状態にある人に対し、みだりに、姿態を撮影し

判例ID】 28320201
【事件名】府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反、
【裁判結果】 有罪
【裁判官】 近道暁郎 金友宏平 長谷川豪
【出典】 D1-Law.com判例体系

罪となるべき事実)
第1 (訴因変更後の令和5年2月7日付け起訴状記載の公訴事実第1)
  被告人は、常習として、
 1 別表1記載のとおり、令和年月日午後時分頃から同日午後時分頃までの間、2回にわたり、別紙1記載1のB市内の工場の室内の診察場所として使用するためにカーテン等で囲われた部分において、健康診断の内科検診を受診中の別表1記載のA(当時32歳)ほか2名に対し、動画撮影状態にした携帯電話機を使用して、同人らの露出した胸部等を撮影し、もって人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所における当該状態にある人に対し、みだりに、姿態を撮影し、
(法令の適用)
罰条
 第1 府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例15条2項、1項1号、6条3項2号(第1の1及び2)、1項1号(第1の3)
・・・・

(弁護人の主張に対する判断)
1(1) 弁護人は、第1の1及び2の事件現場は「人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」(府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(本条例)6条3項)に該当しないと主張する。

「当時10歳の女児に、18歳未満の児童であることを知りながら、2022年10月9日、女児に携帯電話で自身の裸体を動画撮影させ、その動画を送信させた」場合の罪名

「当時10歳の女児に、18歳未満の児童であることを知りながら、2022年10月9日、女児に携帯電話で自身の裸体を動画撮影させ、その動画を送信させた」場合の罪名

 最近では強制わいせつ罪(176条後段)と児童ポルノ姿態をとらせて製造罪(7条4項)にするのが一般的です。

参考判例
 大阪高裁r040120(児童ポルノ製造とは観念的競合)
 大阪高裁r030714(児童ポルノ製造とは観念的競合)
 札幌高裁r050119(児童ポルノ製造とは観念的競合)
 札幌高裁r060305(上告棄却)

https://news.yahoo.co.jp/articles/a614d1c5aa147a08f2863aa63e816dbb8ea934b4
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反(児童ポルノ製造)容疑で逮捕されたのは、福岡市中央区舞鶴の自営業の男(37)です。
警察によりますと、男は、SNSで知り合った岡山県南部に住む当時10歳の女児に、18歳未満の児童であることを知りながら、2022年10月9日、女児に携帯電話で自身の裸体を動画撮影させ、その動画を送信させた疑いがもたれています。
警察は、男が児童ポルノ画像を製造し、売買しているという情報を入手して所要の捜査を行い、男の容疑を特定して逮捕したものです。


ところが、高裁岡山支部h22.12.15は、送信させる行為をわいせつ行為ではないとしています。

速報番号平成23年1号
児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,強要被告事件
広島高等裁判所岡山支部平成22年12月15日判決控訴棄却
平成22年12月22日上告
〔控訴申立人〕弁護人
〔検察官〕見越正秋
〔第一審〕岡山地方裁判所
判示事項
児重ポルノ製造罪と強要罪併合罪の関係にあるとして,両罪を観念的競合であるとした原判決に法令適用の誤りがあるとした事例

 岡山支判の未掲載部分に、「送信させ受信し」はわいせつ行為に該当しないという判示があります。

広島高裁岡山支部H22.12.15
 そして,強制わいせつ罪が個人の性的自由を保護法益とするのに対し,児童ポルノ法7条3項,1項,2条3項3号に該当する罪(以下「3項製造罪」という。)は,当該児童の人格権を第一次的な保護法益としつつ,抽象的な児童の人格権をも保護法益としており,両者が一致するものではない。しかも,原判示各事実は,前記のとおり,原判示第1及び第2の各事実については,各被害者に児童ポルノ法2条3項3号所定の姿態をとらせるに際し,脅迫又は暴行によった旨認定していないし,上記各事実と同旨の各公訴事実も同様に脅迫又は暴行によった旨訴因として掲げていない上,原判示各事実及びこれらと同旨の各公訴事実についても,それぞれ,各被害者をして撮影させた画像データを被告人の使用するパーソナルコンピューターに送信させてこれらを受信し,さらに,上記コンピューターに内蔵されたハードディスクに記録して蔵置した各行為を含んでいるところ,上記各行為はいずれも3項製造罪の実行行為(原判示第3の事実については強要罪の実行行為の一部でもある。)であって,強制わいせつ罪の構成要件該当事実には含まれない事実である

16歳未満の者がその者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に対して暴行・脅迫等を用いて自己を相手方としてわいせつな行為をさせた場合であっても、当該年長者の行為は本項(176条3項)に該当する

16歳未満の者がその者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に対して暴行・脅迫等を用いて自己を相手方としてわいせつな行為をさせた場合であっても、当該年長者の行為は本項(176条3項)に該当する
 事例としては、15歳女性が、21歳の者を脅迫して。15歳の乳房をもませた・陰部を触らせたような場合でも、21歳の行為は不同意わいせつ罪の構成要件に該当すると説明されていています。
 不同意わいせつの被害者になりますが、「例外的な場合については、構成要件に実質的要件を設けないこととしても、刑法総則の規定により、処罰から除外され得る」とか「そのような場合における5歳以上年長の者の行為については、正当防衛(刑法第36条第1項)などとして違法性が阻却されると考えられる」とかで被疑者扱いされるようです。


法務省逐条説明では「○ 13歳以上16歳未満の者において、5歳以上年長の者を脅迫するなどし、同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態にさせて性的行為を強いた場合を除いては、有効に自由意思決定をすることができない」とされていたのが
法曹時報では「16歳未満の者がその者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に対して暴行・脅迫等を用いて自己を相手方としてわいせつな行為をさせた場合であっても、当該年長者の行為は本項に該当することとなり得る」とされていて、正反対にブレています。

刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律について法曹時報 第76巻01号
(2)「その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る」の意義
「その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者」とは、13歳以上16歳未満の者の生年月日の前日から起算して5年以上前の日に生まれた者をいう。
本項は、相手方が客観的に「5年以上前の日に生まれた者」である限り、わいせつな行為に至るまでのやり取りの中で、13歳以上16歳未満の者の判断にその影響がすべからく及ぶと考えられることを前提として、当該13歳以上16歳未満の者の判断能力や当該行為者の影響力などの個別(注32)の状況とは無関係に、一律に犯罪が成立する要件としているもので(注33)ある。
(注32)
このような考え方を前提とすると、16歳未満の者がその者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に対して暴行・脅迫等を用いて自己を相手方としてわいせつな行為をさせた場合であっても、当該年長者の行為は本項に該当することとなり得るが、そのような場合におけるその者の行為については、刑法総則の違法性阻却に関する規定などにより、処罰されないこととなり得ると考えられる。
(注33) 法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第10回会議で示された「試案」においては、「刑法第176条後段及び第177条後段に規定する年齢の引上げ」についての制度案として、「13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の拘禁刑に処するものとし、13歳以上16歳未満の者に対し、当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者が、当該13歳以上16歳未満の者の対処能力(性的な行為に関して自律的に判断して対処することができる能力をいう。2において同じ。)が不十分であることに乗じてわいせつな行為をしたときも、同様とするものとすること。
2 13歳未満の者に対し、性交等をした者は、5年以上の有期拘禁刑に処するものとし、13歳以上16歳未満の者に対し、当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者が、当該13歳以上16歳未満の者の対処能力が不十分であることに乗じて性交等をしたときも、同様とするものとすること。」とされ、「当該13歳以上16歳未満の者の対処能力が不十分であることに乗じて」との実質的要件を設けることとされていた。
もっとも、同部会におけるその後の議論では、
○ 行為者と相手方の間に年齢差が5歳以上ある場合には、性的行為についての自由な意思決定の前提となる対等な関係は存在しないといえる
○ 13歳以上16歳未満の者が、5歳以上年長の者に対して暴行・脅迫を用いるなどして性的行為をした場合といった真に処罰されるべきでない極めて例外的な場合については、構成要件に実質的要件を設けないこととしても、刑法総則の規定により、処罰から除外され得るといった意見が述べられ、これらを踏まえ、要綱(骨子)案では、前記の実質的要件を設けないこととされた。

法務省逐条説明
13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○ 思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でないと考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○ 自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていないと考えられる。
そのため、性的行為をするかどうかの意思決定の過程において、相手方がそれに与える影響の大きい者である場合には、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について自律的に考えて理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難になると考えられる。
そして、一般に、性的行為の相手方が5歳以上年長の者である場合には、年齢差ゆえの能力や経験の格差があるため、本年齢層の者にとって、相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難となるほどに相手方が有する影響力が大きいといえる。
したがって、そのような場合には、13歳以上16歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳以上16歳未満の者に対して、その者より5歳以上年長の者が性的行為をした場合を処罰の対象としている(注8)。
(注8)以上のような考え方を前提とした場合、13歳以上16歳未満の者にとって、相手方が5歳以上年長の場合には、
○ 13歳以上16歳未満の者において、5歳以上年長の者を脅迫するなどし、同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態にさせて性的行為を強いた場合を除いては、有効に自由意思決定をすることができないということができる。
そして、そのような場合における5歳以上年長の者の行為については、正当防衛(刑法第36条第1項)などとして違法性が阻却されると考えられることから、そのような場合を処罰対象から除外するための実質的要件を設けることとはしていない。

「ひそかに児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条3項所定の児童の姿態を撮影するなどして児童ポルノを製造する行為は,それが児童に当該姿態をとらせた上でのものであるか否かにかかわらず,同法7条5項の製造罪に当たる」 大阪高裁r5.7.27 判例タイムズ1519号

 最判r6.5.21の原判決の匿名解説です

ひそかに児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条3項所定の児童の姿態を撮影するなどして児童ポルノを製造する行為は,それが児童に当該姿態をとらせた上でのものであるか否かにかかわらず,同法7条5項の製造罪に当たる
対象事件|令和5年7月27日判決
大阪高等裁判所第1刑事部
令和5年(う)第419号
強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強制性交等未遂,強制性交等被告事件
裁判結果|控訴棄却,上告
原審|神戸地方裁判所姫路支部令和4年(わ)第640号令和5年3月23日判決
参照条文|児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項,4項,2項,2条3項1号,2号,3号
判例掲載データベース|判例秘書INTERNETTKCローライブラリーWestlaw JapanDl-Law.com判例タイムズアーカイブスI
解説
4 本判決について
(1)本判決は,上記のように高裁判例が分かれている点について,「児童に本法7条3項(筆者注:「7条」は「2条」の誤記と思われる。)所定の姿態をとらせた上で,ひそかにその姿態を撮影するなどして児童ポルノを製造した行為について,4項製造罪として公訴提起するか5項製造罪として公訴提起するかは,検察官の裁量に属する。」として,起訴状の公訴事実や罰条からすると検察官が本件各児童ポルノ製造について5項製造罪として公訴提起したことが明らかな本件において,「裁判所は,それらの行為について,『ひそかに』の点を含めて同項(筆者注:本法7条5項)の構成要件に該当する事実が認められる以上,同項を適用すべき」であるとして,本件各児童ポルノ製造の事実について本法7条5項を適用した原判決に法令適用の誤りはない旨判示した。
(2) (1)の本判決の判断は, 3(3)の東京高裁判決と同趣旨のものであるが,本判決は,その理由をより具体的に示している。
すなわち,
①ア本法の一部改正法に係る国会における審議内容等の立法経過を踏まえると,5項製造罪は,ひそかに描写して児童ポルノを製造する行為は,その態様において悪質であるとともに,当該児童の尊厳を害する行為であり,児童を性的行為の対象とする風潮を助長し,流通の危険を創出するものであることに鑑みて,そのような態様による児童ポルノの製造も規制対象に加え,処罰範囲を拡大する趣旨で設けられたものと解されるところ,
児童ポルノの製造において,ひそかに描写して製造するという態様の悪質性や児童の尊厳を害すること等は,就寝中で意識のない児童の姿態をそのまま撮影した場合と,撮影の際に一定の姿態をとらせるという撮影者の行為を伴う場合とで何ら異なるものではないから,立法趣旨との関係では後者の場合を除外すべき理由はないこと,
②所論のように解すると,検察官が5項製造罪での起訴を検討する際や当該起訴を受けた裁判所が同罪の成否を判断する際に,実体的に3項製造罪又は4項製造罪に当たるものではないかについて常に判断を要することになるが,①アの立法趣旨に照らすと,検察官や裁判所にそうした判断を求める意味はなく,所論のような解釈は立法趣旨にそぐわないこと,
③3項製造罪,4項製造罪及び5項製造罪の法定刑は同じであるから,前2者に当たる児童ポルノを製造した者が,それがひそかに描写して製造したものでもあるときに5項製造罪で処罰されても不利益はないことを指摘している。
(3)その上で,本判決は, 3(1)の弁護人の主張や同(2)の諸見解の根拠とされている「前二項に規定するもののほか」との規定は,実体的に3項製造罪又は4項製造罪に当たるものを除くという趣旨ではなく,それら製造罪として処罰されるものを除くという趣旨と解される旨の判断を示し, (1)の結論に至っている。
これは,本件事案との関係で端的にいえば,「ひそかに本法2条3項所定の児童の姿態を撮影するなどして児童ポルノを製造する行為は,それが児童に当該姿態をとらせた上でのものであるか否かにかかわらず,本法7条5項の製造罪に当たる。」との判断を示したものである。
5 最後に
4(2)②の指摘を踏まえてより具体的にみるに,3(1)のように解すると,裁判所は,5項製造罪で起訴された事案について,所定の児童の姿態をひそかに描写して児童ポルノを撮影した事実が認められる場合であっても,さらに,被告人の内心において提供目的を有していた可能性(3項製造罪該当性)がないか検討するとともに,所定の姿態をとらせた事実を伴う可能性(4項製造罪該当性)がないかを検討し,それらが排斥されてようやく5項製造罪で有罪と判断でき,しからざる場合は検察官に対し3項製造罪又は4項製造罪への訴因変更を促すということになろう。
各製造罪の法定刑も同じであるのに,このような煩雑な処理を求めることは,本判決が指摘するとおり,本法の一部改正により5項製造罪が設けられた趣旨にそぐわない,不合理なことであり,本判決の判断は,その理由を含め,かなり説得的であるように思われる。

5項製造罪と他の製造罪との適用関係については,以上のとおり高裁判例が分かれていることから,いずれ上告審による判断が示されるものと期待されるが,それまでの間,本判決は,3の各高裁判決と並び,同様の事案における実務上の判断の参考として意義を有する。

ひそかに姿態をとらせて製造した場合、最判r6.5.21はひそかに製造罪でもいいというが、どっこい、姿態をとらせて製造罪で起訴されていると思われる事例(徳島地裁)

「病院に心エコー検査に来た16歳未満の女子生徒にわいせつな姿勢をとらせ、」というのは、盗撮でも姿態をとらせて製造罪。
 法文上当然

第七条(児童ポルノ所持、提供等)
3前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
4前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
5前二項に規定するもののほか、ひそかに第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。

盗撮の元技師 罪認める=徳島
2024.05.25 読売新聞
 病院で女性の胸を盗撮したなどとして、性的姿態等撮影などの罪に問われた徳島市国府町の元臨床検査技師被告の初公判が24日、地裁(細包寛敏裁判官)であった。被告は「間違いありません」と起訴事実を認めた。検察側は冒頭陳述で被告が約10年前から撮影を繰り返していたと指摘した。
 起訴状などによると、被告は2月に県内の病院で心電図検査をすると装ってあおむけに寝ている女性の胸をスマートフォンで撮影。昨年10月には、病院に心エコー検査に来た16歳未満の女子生徒にわいせつな姿勢をとらせ、検査機器を押し当てたり、動画を撮影したりしたとしている。
 被告はほかにも、2017年5月頃に病院で心エコー検査の際にわいせつな行為をしたとして、準強制わいせつ罪で地検に追起訴されている。