児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

錯誤がある場合は、2項に限定列挙・「相手方に錯誤が生じている類型の中には、その錯誤があることによっておよそ自由意思決定が妨げられる性質のものと、そうでないものが混在するため、それらを区別せずに包括的な形で規定した場合には、強制わいせつ罪・強制性交等罪として処罰すべきとはいえないものが処罰対象に含まれることとなり、相当でない」「その他これらに類する行為により同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ」又は「その他これらに類する事由によりその状態にあることに乗じて」との包括的要件を設

錯誤がある場合は、2項に限定列挙・「相手方に錯誤が生じている類型の中には、その錯誤があることによっておよそ自由意思決定が妨げられる性質のものと、そうでないものが混在するため、それらを区別せずに包括的な形で規定した場合には、強制わいせつ罪・強制性交等罪として処罰すべきとはいえないものが処罰対象に含まれることとなり、相当でない」「その他これらに類する行為により同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ」又は「その他これらに類する事由によりその状態にあることに乗じて」との包括的要件を設けない」
 錯誤といっても、「こんな人だとは思わなかった」「性病はないと言っていたのに」「避妊してくれると思っていた」とかいろいろあるわけです。

法務省は「行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしている」に限定するというのですが、といいながら、1項1~8号にひっかけてくるんじゃないかな。



刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案【逐条説明】
3各条の第2項
性的行為が行われるに当たって、その相手方に何らかの錯誤が生じている類型については、同意の前提となる事実の認識を欠くものの、当該行為を行うこと自体について外形的には同意が存在するという特殊性があり、被害者が「同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態」にあったかどうかで犯罪の成否を区別することとした場合には、犯罪の成否をめぐる評価・判断のばらつきを生じさせることとなりかねないことから、第1項に含めるのではなく、別途規定することとするものである。
その上で、相手方に錯誤が生じている類型の中には、その錯誤があることによっておよそ自由意思決定が妨げられる性質のものと、そうでないものが混在するため、それらを区別せずに包括的な形で規定した場合には、強制わいせつ罪・強制性交等罪として処罰すべきとはいえないものが処罰対象に含まれることとなり、相当でない。
そこで、強制わいせつ罪及び強制性交等罪の保護法益である性的自由・性的自己決定権が侵害されたといえる場合、すなわち、自由意思決定が妨げられたと一般に評価できる錯誤のみが処罰対象となることを明確にする観点から、第2項においては、
○その誤信があれば、自由意思決定が妨げられたといえる類型、すなわち、
・行為がわいせつなものではないとの誤信がある場合(注6)
・行為をする者について人違いがある場合(注7)
を限定的に列挙し、
○「その他これらに類する行為により同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ」又は「その他これらに類する事由によりその状態にあることに乗じて」との包括的要件を設けない
こととしている。
なお、第176条第2項及び第177条第2項の「行為」は、いずれも行為者が行い、又は行おうとしているわいせつな行為又は性交等、すなわち、実行行為を指すものである。
(注6)行為がわいせつなものでないとの誤信があった場合には、被害者は、「行為」には同意しているものの、それが「性的」なものであるとすれば、そのような「性的行為」には同意していないのであるから、その意味で「性的行為をするかどうか」についての自由意思決定があったとはいえず、その誤信を利用して性的行為を行った場合、一般に性的自由・性的自己決定権の侵害が存するといえる。
(注7)行為をする者について人違いがある場合には、被害者は、その相手方との性的行為には同意していないのであるから、その意味で「誰と性的行為をするか」についての自由意思決定があったとはいえず、その誤信を利用して性的行為を行った場合、一般に性的自由・性的自己決定権の侵害が存するといえる。

13歳以上16歳未満の者において、5歳以上年長の者を脅迫するなどし、同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態にさせて性的行為を強いた場合を除いては、有効に自由意思決定をすることができないということができる。そしてそのような場合における5歳以上年長の者の行為については正当防衛(刑法第36条第1項)などとして違法性が阻却されると考えられる

13歳以上16歳未満の者において、5歳以上年長の者を脅迫するなどし、同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態にさせて性的行為を強いた場合を除いては、有効に自由意思決定をすることができないということができる。そしてそのような場合における5歳以上年長の者の行為については正当防衛(刑法第36条第1項)などとして違法性が阻却されると考えられる
 法務省内閣法制局に出した法案の説明をもらってきました。
 これに、国会答弁を含めて、法務省の見解ということになります。 

刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案
【逐条説明】
令和五年二月
法務省
4 各条の第3項
(1) 総説
自由意思決定を有効にすることができるための能力の内実は、
○行為の性的な意味を認識する能力(以下「意味認識能力」という)。
○相手方からの影響にかかわらず、性的行為をすることによる自己の心身への影響について理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処する能力(以下「性的理解・対処能力」という)。と整理することができる。
その上で、これらの能力は、年齢とともに心身が成長し、社会的な経験を積み重ねることによって向上していくものと考えられるところ、子供の発達段階に関する調査・研究や若年者を対象とした意識調査の結果等を踏まえると、これらの能力が十分に備わるとみることができる年齢は、早くとも16歳であると考えられる。
すなわち、16歳未満の者は、これらの能力の全部又は一部が十分でなく、有効に自由意思決定をする能力が十分に備わっているとはいえないため、有効に自由意思決定をすることが困難な場合があり、そのような場合には、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じ得ると考えられる。
第3項は、そのような場合における性的行為を処罰することとするものである。
(2) 13歳未満の者について
13歳未満の者は、思春期前の年代の未熟な子供であり、一般に、性的な知識は乏しく、意味認識能力が備わっていないと考えられ、したがって、性的理解・対処能力も備わっていないと考えられることから、13歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳未満の者に対して性的行為をした場合には、現行の刑法第176条後段及び第177条後段と同様、一律に処罰の対象としている。
(3) 13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でないと考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていないと考えられる。
そのため、性的行為をするかどうかの意思決定の過程において、相手方がそれに与える影響の大きい者である場合には、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について自律的に考えて理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難になると考えられる。
そして、一般に、性的行為の相手方が5歳以上年長の者である場合には、年齢差ゆえの能力や経験の格差があるため、本年齢層の者にとって、相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難となるほどに相手方が有する影響力が大きいといえる。
したがって、そのような場合には、13歳以上16歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳以上16歳未満の者に対して、その者より5歳以上年長の者が性的行為をした場合を処罰の対象としている(注8 。)
(注8)以上のような考え方を前提とした場合、13歳以上16歳未満の者にとって、相手方が5歳以上年長の場合には、
○13歳以上16歳未満の者において、5歳以上年長の者を脅迫するなどし、同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態にさせて性的行為を強いた場合を除いては、有効に自由意思決定をすることができないということができる。
そしてそのような場合における5歳以上年長の者の行為については正当防衛(刑法第36条第1項)などとして違法性が阻却されると考えられることから、そのような場合を処罰対象から除外するための実質的要件を設けることとはしていない。

不同意わいせつ罪・不同意性交罪の説明~刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案【逐条説明】令和五年二月法務省

不同意わいせつ罪・不同意性交罪の説明~刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案【逐条説明】令和五年二月法務省
法務省内閣法制局に提出した解説です
 情報公開で取れます。

○第176条(不同意わいせつ)及び第177条(不同意性交等)【説明】
1趣旨及び概要
現行の刑法第176条から第178条までの罪は、性的自由・性的自己決定権を保護法益としており、これらの罪の本質は、性的行為を行うかどうか及び誰を相手方として行うかについての自由な意思決定(以下「自由意思決定」という。)が困難な状態でなされた性的行為を処罰することにある。
現在の実務は、「暴行又は脅迫を用いて」や「心神喪失」・「抗拒不能」といった要件に該当するかどうかの判断の中で、自由意思決定が困難な状態でなされた性的行為といえるかどうかを判断していると考えられるが、成立範囲が限定的に解されてしまう余地があるとの指摘等がなされていることを踏まえると、○現行の刑法第176条から第178条までの罪の本質的な要素である「自由意思決定が困難な状態でなされた性的行為かどうか」という点を「暴行又は脅迫を用いて」や「心神喪失」・「抗拒不能」という要件の中に読み込むのではなく、より分かりやすい文言を用いて整理して規定することとすることが必要かつ相当であると考えられる。
具体的には、まず、
○自由意思決定が困難な状態でなされたという本質的な要素を条文上明確にするため、これを示す要件として、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ」又は「その状態にあることに乗じて」と規定する
こととする。
その上で、現行法の下において積み重ねられた処罰範囲を前提として、当該状態にあることの要件該当性の判断を容易にし、安定的な運用を確保する観点から、
○当該状態の原因行為又は原因事由をより具体的に例示列挙する(注1・2)こととする。
以上の構成をとることに加えて、現行の刑法第176条から第178条までの罪は、その本質が共通することなどから、
○強制わいせつ罪(同法第176条前段)と準強制わいせつ罪(同法第178条第1項)
○強制性交等罪(同法第177条前段)と準強制性交等罪(同法第178条第2項)をそれぞれ統合して再構成することとする。
これに伴い、「強制わいせつ」、「強制性交等」との見出しについても、性的行為に同意していないにもかかわらず、その意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態で行われた性的行為を処罰するものであることを表すものとして、「不同意わいせつ」、「不同意性交等」に改めることとしている。
(注1)「暴行又は脅迫」や「心神喪失」・「抗拒不能」を認定した裁判例のほか、性犯罪被害者の心理等に関する心理学的・精神医学的知見を踏まえると、現時点において想定される原因行為・原因事由としては、第176条第1項各号に掲げる行為・事由又はこれらに類する行為・事由で必要かつ十分である。
そこで、これらを列挙するとともに、これとは別に第176条第2項及び第177条第2項の誤信(行為がわいせつなものでないとの誤信及び行為をする者についての誤信)を掲げることにより、性的自由・性的自己決定権の侵害を生じさせる性的行為の類型を全て列挙することとしている。
(注2)このような構成とすることにより、「抗拒不能」等の原因行為又は原因事由が定められていない現行の刑法第178条に比して、法文の文言上は処罰の要件が限定されることとなるものの、安定的な運用を確保するため、判断にばらつきが生じない規定ぶりとする必要があり、そのためには、原因行為又は原因事由に当たり得るものとそうでないものが明確となる規定ぶりとする必要がある。
他方、本改正により規定を明確化することによって、これまで現行法の下でも十分な当罰性が認められるにもかかわらず、性犯罪に直面した被害者の心理や行動に関する理解が十分に深まっていなかったことともあいまって、実務上、起訴や有罪の認定をちゅうちょすることがあり得た事案が処罰されやすくなるという意味においては、実際に処罰される事案が多くなる可能性があり、このことは、刑事司法に対する国民の信頼を確保することに資するものと考えている。
2各条の第1項(注3)
(1)「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」の意義
刑法上の性犯罪の本質は、自由意思決定が困難な状態で性的行為を行うことにより、性的自由・性的自己決定権を侵害することにあると考えられる。
そこで、被害者において自由意思決定が困難な状態、すなわち、
○性的行為に同意しないかどうかの判断をする契機や能力が不足し、性的行為に同意しないという発想をすること自体が困難な場合など、同意しない意思を形成することが困難な状態
○性的行為をしない、したくないという意思を形成すること自体はできたものの、恐怖によりそれを外部に表すことができない場合など、同意しない意思を表明することが困難な状態
○性的行為をしない、したくないという意思を形成・表明したものの、暴行を加えられたことによりその意思のとおりにならない場合など、同意しない意思を全うすることが困難な状態
を意味するものとして、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」と規定することとしている。
(2)「婚姻関係の有無にかかわらず」の意義
現在の実務では、配偶者間においても強制性交等罪等の性犯罪が成立し得るとの見解に基づいた運用がなされているが、学説上、配偶者間における性犯罪の成立を限定的に解するような見解がなお存在する。
このような見解の背景には、民法上、婚姻における性関係の重要性に鑑み、性的不能や性交渉の拒否が「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法第770条第1項第5号)に当たるとされていることなどから、法律上の配偶者には常に性交に応じる義務があるとの考え方があるものと思われる。
そこで、強制わいせつ罪及び強制性交等罪について、こうした民法上の解釈に基づいて配偶者間におけるこれらの罪の成立範囲が限定的に解される余地をなくし、刑事司法に対する国民の信頼を確保する観点から、強制わいせつ罪及び強制性交等罪について、「婚姻関係の有無にかかわらず」と規定するものである。
なお、「・・・の有無にかかわらず」との文言は、刑法第230条(名誉毀損)においても用いられているところ、同条における「その事実の有無にかかわらず」とは、公然と事実を摘示して人の名誉を害する行為について、その摘示された事実が真実であるか否かにかかわらず同罪が成立することを明らかにしたものであるとされている(条解刑法〔第4版〕700頁)。
(3)膣又は肛門に身体の一部(陰茎を除く。)又は物を挿入する行為であってわいせつなものを強制性交等罪として処罰する趣旨(第177条第1項)
膣又は肛門に陰茎以外の身体の一部又は物(以下、まとめて「異物」という。)を挿入する行為は、現行法上、強制わいせつ罪(刑法第176条)による処罰の対象とされているが、そのような行為については、近時の心理学的・精神医学的知見等を踏まえると、
○一般的に他人にその内側に入り込まれたくない身体的部位の内側に入り込む行為であって、性的な意味合いが強いものであり、これを強制されると、被害者は、性交、肛門性交及び口腔性交を強制された場合と同様の重大な精神的ダメージを負う
ものであって、性交、肛門性交及び口腔性交に匹敵する当罰性を有する行為で
あると考えられることから、これを性交等と同等に取り扱い、刑法第177条の罪として処罰することとするものである。
その上で、膣又は肛門に異物を挿入する行為であっても、例えば、医療行為のように、行為の状況等も考慮すると性的性質がなく、わいせつな行為とはいえないものが含まれ得ることから、そのような例外的な場合を除く趣旨で、「わいせつなもの」に限定することとしている。
(4)各号に列挙する行為又は事由の意義
ア第1号(暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと)第1号は、
○行為者自身が、被害者に対して、性的行為の手段として暴行・脅迫をする行為
○被害者が、行為者又は第三者から、行為者による性的行為の手段としてではなく暴行・脅迫を受けた場合
を同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態の原因行
為・原因事由(以下「原因行為・原因事由」という。)として定めるものである。
イ第2号(心身の障害を生じさせること又はそれがあること)第2号は、例えば、
○行為者自身が、被害者に対して、脅迫に至らない程度の言辞を用いて、急性ストレス反応などの一時的な精神症状を引き起こさせる行為
○被害者が、身体障害、知的障害又は精神障害(発達障害を含む。)を有している場合
を原因行為・原因事由として定めるものである。
ウ第3号(アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があ
ること)
第3号は、
○行為者自身が、被害者に対して、アルコール又は薬物を摂取させる行為
○被害者が、第三者によって飲酒させられたり薬物を摂取させられ、ある
いは、自ら飲酒したり薬物を摂取して、それらの影響を受けている場合を原因行為・原因事由として定めるものである。

エ第4号(睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること)
第4号は、
○行為者自身が、被害者に対して、催眠術を用いるなどして、完全に眠らせたり、意識不明瞭の状態にする行為
○被害者が完全に眠っている場合のほか、完全な睡眠状態ではないものの半覚醒状態で意識がもうろうとしていたり、極度の過労により意識がもうろうとしているなど、意識が明瞭でない状態にある場合
を原因行為・原因事由として定めるものである。
オ第5号(同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと)第5号は、例えば、
○すれ違いざまに突然胸を触ったり、サウナで目を閉じて横になっている被害者に対して口腔性交をするなど、被害者において、同意しない意思を形成し又は表明する時間的なゆとりがない場合
○荷物を両手で抱えている被害者の臀部を触るなど、被害者において、同意しない意思を形成・表明する時間的ゆとりがないとはいえないものの、よけたりしてその意思を全うするだけの時間的なゆとりはない場合
を原因事由として定めるものである(注4)。
その上で、「同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまを与えないこと」といった原因行為は、規定しないこととしている。
これは、そのような原因行為に該当し得るものとしては、例えば、
○突然、性的行為に及ぶ場合
○被害者が油断している隙に性的行為に及ぶ場合
が考えられるが、「いとまを与えない行為」といっても、性的行為をすることに向けた何らかの行為を指しているわけではなく、性的行為がなされたときに被害者が虚をつかれた状態にあることを指しているものであって、結局、被害者において「同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがない」ことを言い換えているにすぎず、第5号においては、原因行為により、同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態に「させ」て性的行為を行う類型は観念し難いためである。
カ第6号(予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること)
第6号は、例えば、
○行為者自身が、性的行為をすることを求められるとは予想していない被害者に対し、二人きりの密室で執拗に性的行為を迫ることで被害者を激しく動揺させ、平静を失わせる行為
○人気のない夜道で、脇道から人が出てくるとは思っていなかった被害者が、脇道から出てきた行為者と不意に出くわしたことにより、激しく動揺して平静を失っている場合
など、いわゆるフリーズの状態にさせ、又はその状態にあることを原因行為・原因事由として定めるものである(注5)。
キ第7号(虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること)第7号は、例えば、
○行為者自身が、被害者に対して、例えば、最終的に性交する目的で、わいせつな行為を繰り返す性的虐待を加え、性的行為をすることに順応させたり、無力感を植え付ける行為
○被害者が、行為者又は第三者から、性的行為の手段とは別の虐待を受けたために恐怖心を抱いている場合
を原因行為・原因事由として定めるものである。
ク第8号(経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること)
第8号は、
○行為者自身が、被害者に対して、自己の言動によって、行為者との性的行為に応じなければ、行為者の経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力によって、自らやその親族等に、身体上、精神上又は経済上の不利益が及ぶのではないかとの不安を抱かせる行為
○被害者が、行為者の言動によらずにそのような不安を抱いている場合を原因行為・原因事由として定めるものである。
(注3)改正後の刑法第176条第1項及び第177条第1項においては、客体を「16歳以上の者」に限定しないこととしている。
現行の刑法第176条及び第177条は、前段で「13歳以上の者に対し」と規定し、後段で「13歳未満の者に対し」と規定していることから、13歳未満の者に対して暴行又は脅迫を用いて性的行為をした場合において、仮に、行為者が、被害者が13歳以上の者であると誤信していた場合には、前段の罪を犯す意思で後段の罪を犯したという錯誤
の問題を生じるはずであるが、判例において、いずれにしても強制わいせつ罪・強制性交等罪は成立するのであり、法定刑も同じであるから、その区別をする実益に乏し
いとして、13歳未満の者に対し、その反抗を著しく困難にさせる程度の暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした場合には、前段・後段の区別なく各条に該当する一罪が成立するとされており(最判昭和44年7月25日刑集23巻8号1068頁)、現在の実務はこれに沿って運用されている。
このように、13歳未満の者に対して暴行又は脅迫を用いて性的行為をした場合の適用関係については、刑法第176条前段及び第177条前段が「13歳以上の者に対し」と規定しているにもかかわらず、被害者が13歳未満の者であっても各条の前段も適用するものとされており、これを否定すべき実質的な理由もないため、あるべき適用関係と条文の文言とにそごが生じている状況にあることから、これを解消する必要がある。
その上で、
○13歳未満の者に対しては、暴行又は脅迫を用いなくても犯罪が成立するとした立
法趣旨は、年少者は性的知識に乏しく同意能力を欠くというところにあるから、暴行又は脅迫を用いることにより相手方の意思を最初から無視してかかっている場合に被害者の年齢を問題にする必要はない(最高裁判所判例解説刑事篇昭和44年度293頁〔海老原震一〕参照)
と考えられることから、本法律案では、「16歳以上の者に対し」との規定ぶりとはせず、暴行・脅迫を用いるなどすることにより同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態で性的行為をした場合には、客体の年齢を問わず、第1項が適用されることを明確にすることとしている。
(注4)改正後の刑法第176条第1項の本質は、同意していないのに、その意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態でなされる性的行為を処罰することにあり、同項においては、性的行為の時点で当該状態にあるか否かが犯罪の成否を分けるものとした上で、同項第1号から第8号までの行為又は事由は、そのような状態となり得る原因行為・原因事由を列挙するものである。
そして、同項第5号は、いわゆる不意打ちの事案を捉えようとするものであるところ、前記のような本質との関係において、不意打ちの事案は、
○いとまがないことによって同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態にあることを利用して性的行為を行う事案
であると捉えるべきものと考えられることから、「同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態」となる原因事由として、「同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと」を記載しているものである。
「いとま」は、一般に、必要な時間のゆとりを意味する文言として用いられており(広辞苑〔第五版〕175頁)、同号の「いとまがない」とは、被害者において、性的行為がされようとしているのを認識してから性的行為がされるまでの間に、同意する意思を形成し、表明し又は全うするための時間のゆとりがないことを意味するものとして用いている。
「いとまがない」かどうか自体が幅のある評価的な概念であることから、「いとまがない」に該当する場合としては、
○被害者において、性的行為がされようとしていることを認識すると同時に(あるいはそのような認識をする間もなく)性的行為が行われる場合のように、「いとまがない」ことに該当することにより、直ちに「同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態」にあるといえる場合
がある一方で、
○被害者において、性的行為がされようとしていることを認識してから、性的行為がされるまでに、時間のゆとりがあったとはいえない(「いとまがない」)ものの、短時間とはいえある程度の時間がある場合
も考えられ、後者の場合の中には、被害者において、その短時間の間に、回避するためにとることができる手段があったとしても、精神的な要因も含めて様々な理由もあいまって、その手段をとることが困難な場合もあれば、それが困難でない(のに手段をとらない)という場合もあり得る。
そうすると、犯罪の成否を適切に決するためには、時間的な要因としての「いとまがないこと」だけでなく、それ以外の状況も加味した上で、「同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態」にあったといえるかどうかを判断するものとすべきであると考えられる。
仮に、「いとまを与えずに性的行為をしたこと」といった要件とした場合には、
○「同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態」にさせ、又は当該状態に乗じて性的行為をする行為とは別に、これとは異なる要件(すなわち、「いとま」がなかったといえるかどうか)によって犯罪の成否を決する類型を新設することとなり、現行法の下で処罰対象とされている行為を超えて処罰対象を拡大することとなりかねない
○前記のとおり、「いとま」がないかどうか自体が幅のある評価的な概念であることから、犯罪の成否を決するためには、「いとま」が与えられていたかどうかという要件の中で、刑法第176条第1項の本質、すなわち、「性的行為に関する自由な意思決定が困難な状態でなされた性的行為かどうか」を判断することとなり、現行法の「暴行又は脅迫を用いて」に対する指摘と同様の指摘がなされることとなりかねないと考えられる。
以上のとおり、同項第5号についても、同号以外に列挙した行為・事由が原因となる場合と同様の規定ぶりとするのが適切であると考えられる。
(注5)「予想と異なる」には、性的行為が行われるかどうかに関する被害者の予想が、実際に生じた事態と異なった場合に限らず、行為者の態度や言動、周囲の状況、性的行為が持ちかけられたタイミングなどについて予想と異なる点がある場合などを広く含むものであるところ、そのような点が全くなく、かつ、ほかの列挙行為・列挙事由にも該当しないのに、被害者が恐怖・驚愕することは想定できないと考えている。
3各条の第2項
性的行為が行われるに当たって、その相手方に何らかの錯誤が生じている類型については、同意の前提となる事実の認識を欠くものの、当該行為を行うこと自体について外形的には同意が存在するという特殊性があり、被害者が「同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態」にあったかどうかで犯罪の成否を区別することとした場合には、犯罪の成否をめぐる評価・判断のばらつきを生じさせることとなりかねないことから、第1項に含めるのではなく、別途規定することとするものである。
その上で、相手方に錯誤が生じている類型の中には、その錯誤があることによっておよそ自由意思決定が妨げられる性質のものと、そうでないものが混在するため、それらを区別せずに包括的な形で規定した場合には、強制わいせつ罪・強制性交等罪として処罰すべきとはいえないものが処罰対象に含まれることとなり、相当でない。
そこで、強制わいせつ罪及び強制性交等罪の保護法益である性的自由・性的自己決定権が侵害されたといえる場合、すなわち、自由意思決定が妨げられたと一般に評価できる錯誤のみが処罰対象となることを明確にする観点から、第2項においては、
○その誤信があれば、自由意思決定が妨げられたといえる類型、すなわち、
・行為がわいせつなものではないとの誤信がある場合(注6)
・行為をする者について人違いがある場合(注7)
を限定的に列挙し、
○「その他これらに類する行為により同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ」又は「その他これらに類する事由によりその状態にあることに乗じて」との包括的要件を設けない
こととしている。
なお、第176条第2項及び第177条第2項の「行為」は、いずれも行為者が行い、又は行おうとしているわいせつな行為又は性交等、すなわち、実行行為を指すものである。
(注6)行為がわいせつなものでないとの誤信があった場合には、被害者は、「行為」には同意しているものの、それが「性的」なものであるとすれば、そのような「性的行為」には同意していないのであるから、その意味で「性的行為をするかどうか」についての自由意思決定があったとはいえず、その誤信を利用して性的行為を行った場合、一般に性的自由・性的自己決定権の侵害が存するといえる。
(注7)行為をする者について人違いがある場合には、被害者は、その相手方との性的行為には同意していないのであるから、その意味で「誰と性的行為をするか」についての自由意思決定があったとはいえず、その誤信を利用して性的行為を行った場合、一般に性的自由・性的自己決定権の侵害が存するといえる。
4各条の第3項
(1)総説
自由意思決定を有効にすることができるための能力の内実は、
○行為の性的な意味を認識する能力(以下「意味認識能力」という。)
○相手方からの影響にかかわらず、性的行為をすることによる自己の心身への影響について理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処する能力(以下「性的理解・対処能力」という。)
と整理することができる。
その上で、これらの能力は、年齢とともに心身が成長し、社会的な経験を積み重ねることによって向上していくものと考えられるところ、子供の発達段階に関する調査・研究や若年者を対象とした意識調査の結果等を踏まえると、これらの能力が十分に備わるとみることができる年齢は、早くとも16歳であると考えられる。
すなわち、16歳未満の者は、これらの能力の全部又は一部が十分でなく、有効に自由意思決定をする能力が十分に備わっているとはいえないため、有効に自由意思決定をすることが困難な場合があり、そのような場合には、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じ得ると考えられる。
第3項は、そのような場合における性的行為を処罰することとするものである。
(2)13歳未満の者について
13歳未満の者は、思春期前の年代の未熟な子供であり、一般に、性的な知識は乏しく、意味認識能力が備わっていないと考えられ、したがって、性的理解・対処能力も備わっていないと考えられることから、13歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳未満の者に対して性的行為をした場合には、現行の刑法第176条後段及び第177条後段と同様、一律に処罰の対象としている。
(3)13歳以上16歳未満の者について
13歳以上16歳未満の者は、
○思春期に入った年代であり、性的な知識は備わりつつあると考えられることから、意味認識能力が備わっていないものとして取り扱うことは相当でない
と考えられる一方、性的理解・対処能力に関しては、
○自らを客観視したり将来のことを予測する能力が十分に備わっておらず、
また、他者からの承認を求めたり、他者に依存しやすいなど精神的に未成熟である上、身体的にも未熟であることから、相手方の言動の意味を表面的に捉えて軽信し、自己の心身への影響を見誤ったり、萎縮してどのような行動を取るべきかの選択肢が浮かばなくなったりするなど、相手方がいかなる者であっても、相手方からの影響にかかわらず、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への様々な影響について理解し、自律的に判断して対処することができるには至っていない
と考えられる。
そのため、性的行為をするかどうかの意思決定の過程において、相手方がそれに与える影響の大きい者である場合には、その相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について自律的に考えて理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難になると考えられる。
そして、一般に、性的行為の相手方が5歳以上年長の者である場合には、年齢差ゆえの能力や経験の格差があるため、本年齢層の者にとって、相手方と性的行為をすることによる自己の心身への影響について理解した上で、状況に応じて自律的に判断して対処することは困難となるほどに相手方が有する影響力が大きいといえる。
したがって、そのような場合には、13歳以上16歳未満の者は、有効に自由意思決定をすることが困難であり、性的行為が行われることによって、性的自由・性的自己決定権の侵害が生じると考えられる。
そこで、13歳以上16歳未満の者に対して、その者より5歳以上年長の者が性的行為をした場合を処罰の対象としている(注8)。
(注8)以上のような考え方を前提とした場合、13歳以上16歳未満の者にとって、相手方が5歳以上年長の場合には、
○13歳以上16歳未満の者において、5歳以上年長の者を脅迫するなどし、同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態にさせて性的行為を強いた場合を除いては、有効に自由意思決定をすることができないということができる。
そして、そのような場合における5歳以上年長の者の行為については、正当防衛(刑法第36条第1項)などとして違法性が阻却されると考えられることから、そのような場合を処罰対象から除外するための実質的要件を設けることとはしていない。

第182条(16歳未満の者に対する面会要求等)の解説~刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案【逐条説明】法務省

第182条(16歳未満の者に対する面会要求等)の解説~刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案【逐条説明】法務省

法務省から内閣法制局への説明文書です。

「アプリケーションソフトのダイレクトメッセージ機能を使用して、遠隔地にいた被害者(当時9歳)に対し、陰部、乳房等を露出した姿態をとって撮影し被告人に送信するよう要求して、被害者に、その陰部及び乳房を露出した姿態をとらせて撮影させた行為の「わいせつな行為」該当性が争われた事案(大阪高判令和3年7月14日・公刊物未登載)」は奥村事件です。児童ポルノ製造とは観念的競合

 送信型強制わいせつ罪の高裁判例としては。
   大阪高裁r030714(1審京都地裁
   大阪高裁r040120 (1審京都地裁
があります。「撮影させ」までがわいせつ行為とされています。
   札幌高裁r050119
は、「送信させ」もわいせつと評価しうるとしています。これによれば要求罪と強制わいせつ罪が重複しますので、観念的競合になると思います。

刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案【逐条説明】法務省
第182条(16歳未満の者に対する面会要求等)
【説明】
1趣旨
近時、若年者に対する性犯罪を未然に防止する必要性が高まっているところ、若年者が性被害に遭うまでの過程においては、行為者から様々な働きかけが行われるが、一般に、若年者は、精神的に未成熟で、判断がゆがみやすく、また、人の真意を見抜くことが難しいところ、とりわけ、16歳未満の者は、性的行為に関して自由意思決定を行う能力を十分に備えていないことから、より性被害に遭う危険性が高いという実態がある。
このような特性や性被害の実態を踏まえると、その性的自由・性的自己決定権の保護を十全なものとするためには、性犯罪の実行の着手前の行為を処罰することが必要であると考えられる。
そこで、性被害を未然に防止し、性的自由・性的自己決定権の保護を徹底するため、性犯罪の実行の着手前の段階であっても、性被害に遭う危険性のない状態、すなわち、性被害に遭わない環境にある状態(以下「性的保護状態」という。)を侵害する危険を生じさせたり、これを現に侵害する行為を処罰対象とする規定を設けることとする。
2概要
(1)行為の客体
本条では、客体となる若年者を、刑法第176条第3項及び第177条第3項に規定するいわゆる性交同意年齢に満たない者(具体的には16歳未満の者)としているところ、これは、
〇前記1のとおり、16歳未満の者は、自由意思決定を行う能力を十分に備えていないため、性犯罪の被害に遭う危険性が高いことから、その保護を徹底する必要性がとりわけ高い上、
〇仮に客体となる若年者を16歳以上の者とすると、行為者がその目的のとおりにわいせつな行為や性交等に及んだときに、それだけでは犯罪とはならないにもかかわらず、その準備的な行為である働きかけ行為だけを処罰することになり、整合性を欠くこととなる
ためである。
(2)行為の主体
前記(1)のとおり、本条の罪の客体は16歳未満の者としているところ、この
うち13歳以上16歳未満の者については、行為の主体として、5年差未満の者による働きかけ行為を処罰することとした場合には、前記(1)と同様、行為者がその目的のとおりにわいせつな行為や性交等に及んだときに、それだけでは犯罪とされないにもかかわらず、その準備的な行為である働きかけ行為だけを処罰することとなり、整合性を欠くこととなる。
そこで、行為の主体については、
〇行為の客体が13歳未満の者である場合には、その主体は限定しない一方、
〇行為の客体が13歳以上16歳未満の者である場合には、その主体を5歳以上年長の者とする
こととしている。
(3)処罰対象行為
16歳未満の者(以下「対象者」という。)に対する性犯罪には、物理的に対面して行われる対面型と性的な姿態の映像を送信させる遠隔型があり得るところ、両者の相違点、特に性犯罪が行われるまでの過程において対象者自身が行う必要のある行為の内容を踏まえると、行為者が性犯罪を実現するために働きかけて影響を与える判断対象に相違があると考えられ、具体的には、
〇対面型の性犯罪においては、対象者が面会をするか否かの判断
〇遠隔型の性犯罪においては、対象者が性的行為をするか否かの判断に働きかけるものと考えられる。
そこで、こうした点に着目し、性的保護状態への侵害の危険性が高まったと評価できる行為を処罰対象とする観点から、
〇対面型の性犯罪については、一定の手段を用いた面会の要求行為を(本条第1項・第2項)
〇遠隔型の性犯罪については、一定の性的行為の要求行為を(本条第3項)それぞれ処罰対象行為としている(注1)。
(注1)本条第1項・第2項の罪に当たる面会要求行為及び面会行為が行われた後に、強制わいせつ罪又は強制性交等罪に当たる行為が行われた場合、
〇本条第1項・第2項の罪は、性的自由・性的自己決定権を保護法益とする強制わいせつ罪又は強制性交等罪の予備罪としてではなく、16歳未満の者が性被害に遭う危険性のない状態、すなわち、性被害に遭わない環境にある状態という性的保護状態を保護法益とする趣旨で設けるものであることから、本条第1項・第2項の罪と強制わいせつ罪又は強制性交等罪の両罪が成立するものと考えられる。
その上で、本条第1項・第2項の罪と強制わいせつ罪又は強制性交等罪は、罪質上通例その一方が他方の手段又は結果となるという関係があることから、具体的に行為者がそのような関係において両罪を実行した場合には、牽連犯になると考えられる。
本条第3項の罪に当たる行為が行われた後に、強制わいせつ罪に当たる行為が行われた場合、
〇本条第3項の罪は、性的自由・性的自己決定権を保護法益とする強制わいせつ罪の予備罪としてではなく、16歳未満の者が性被害に遭う危険性のない状態、すなわち、性被害に遭わない環境にある状態という性的保護状態を保護法益とする趣旨で設けるものである
ことから、本条第3項の罪と強制わいせつ罪の両罪が成立するものと考えられる。
その上で、社会的見解上の行為が一個と評価される場合には、観念的競合となる一方、一個の行為と評価されない場合には、本条第3項の罪と強制わいせつ罪は、罪質上通例その一方が他方の手段又は結果となるという関係があることから、具体的に行為者がそのような関係において両罪を実行したのであれば、牽連犯になると考えられる。
3第1項及び第2項(対面型の処罰規定)について
対象者は、性的行為に関する判断能力を十分に備えていない者であるが、性的行為に応じるか否かの判断と比較すると、面会に応じるか否かの判断の方がより容易になし得るものと考えられる。
そこで、本条第1項においては、単なる要求にとどまらず、対象者が面会をするかどうかの判断を一般的・類型的にゆがめる手段を用いて面会を要求する行為を基本的な処罰対象行為としている。
その上で、本条第2項においては、面会の要求行為の結果、行為者と対象者が実際に面会するに至った場合には、性的保護状態に対する現実の侵害があることから、加重処罰の対象としている。
4第3項(遠隔型の処罰規定)について
対象者は、性的行為に関する判断能力を十分に備えていない者であるから、対象者に対して性的行為の要求をする行為は、そのことだけで、性的保護状態の危険を生じさせ得る行為といえる。
その上で、本条が対象者の性的自由・性的自己決定権の保護を図ろうとするものであることに鑑みれば、要求行為の対象となる行為については、当該行為が実現した場合に対象者の性的自由・性的自己決定権が侵害される行為とした上で、早期の処罰が特に要請される重大な性的自由・性的自己決定権の侵害を生じるものに限定することが相当であると考えられる。
そこで、本条第3項においては、現在の実務において強制わいせつ罪の成立を認めた裁判例を踏まえ(注2)、要求した行為が実現した場合に強制わいせつ罪の成立が認められると考えられる行為を要求行為の対象とする観点から、
〇性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信する行為
〇膣又は肛門に身体の一部又は物を挿入し又は挿入される姿態、性的な部位を触り又は触られる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態をとってその映像を送信する行為
の要求行為を処罰対象行為としている(注3)。
(注2)アプリケーションソフトのダイレクトメッセージ機能を使用して、遠隔地にいた被害者(当時9歳)に対し、陰部、乳房等を露出した姿態をとって撮影し被告人に送信するよう要求して、被害者に、その陰部及び乳房を露出した姿態をとらせて撮影させた行為の「わいせつな行為」該当性が争われた事案(大阪高判令和3年7月14日・公刊物未登載)において、大阪高裁は、「撮影させた部位のうち、陰部(性器自体は写っていないものの、その周辺部である。)は性的要素が強く、乳房も性を象徴する典型的な部位である。また、衣服を脱がせる行為(又は衣服を着けない姿態をとらせる行為)は、裸になることを受忍させてその身体を性的な対象として行為者の利用できる状態に置くものであって、単独でも「わいせつな行為」に当たり得るほどの強い性的意味合いを有し得るものであるし、続いてそうした衣服を着けない姿態を撮影する行為も、自ら性的な対象として利用できる状態に置かせた裸体を、さらに記録化することによってまさに性的な対象として利用するものであり、それによって性的侵害性が強まるといえるから、「わいせつな行為」にあたり得るほどの強い性的意味合いを有し得るものといえる。」としている。
このほか、強制わいせつ罪の成立が認められた事案として、例えば、
〇被害者(当時11歳)に対し、乳房や陰部を露出して自慰行為をする様子を動画で撮影して被告人が使用する携帯電話機に送信するように要求し、被害者に衣服を脱がせ乳房、陰部等を露出させ陰部に指を挿入した姿態等をとらせた事案(東京地判令和4年3月10日・公刊物未登載)
がある。
(注3)遠隔型の処罰規定については、対面型の処罰規定とは異なり、加重処罰規定を設けることとしていないところ、これは、次の理由による。
すなわち、本条第3項の要求行為の対象は、前記4のとおり、現在の実務において強制わいせつ罪の成立を認めた裁判例を踏まえて規定しており、要求行為の対象となる行為が実現した場合には、強制わいせつ罪が成立すると考えられる。
その上で、要求行為からその対象となる行為が実現するまで、すなわち、強制わいせつ罪が成立するに至るまでの過程において、一般的・類型的に同罪に至る危険性が高まり、加重処罰の対象とするに足りる新たな当罰性を有する行為があり得るかについては、〇行為者からの要求を直ちに承諾して、そのまま要求された行為に及ぶ場合も、相当程
度あり得ることを踏まえると、要求行為後の行為について、加重処罰の対象とするに足りるものを明確に捕捉することは困難である
と考えられる。
そのため、遠隔型の処罰規定については、加重処罰規定を設けることとはしていない。
5法定刑
(1)拘禁刑
刑法上、一定の要求行為を処罰対象とする罪として証人等威迫(刑法第105条の2)や強要(同法第223条第1項)があるところ、本条第1項の面会の要求行為は、これらの罪と比較して当罰性が低いと考えられることから、1年以下の拘禁刑としている。
本条第2項については、未成年者誘拐罪(刑法第224条)やわいせつ目的誘拐罪(同法第225条)、あるいは強制わいせつ罪等の実行の着手前の行為を捕捉するものであることを踏まえ、2年以下の拘禁刑としている。
本条第3項の性的行為の要求行為は、本条第1項の面会の要求行為と同程度の法益侵害性があると考えられることから、これらと同等の法定刑としている。
(2)罰金刑
事案によっては罰金刑で処断すべきものもあり得ると考えられることから、選択刑として罰金刑を定めることとしている。
その上で、罰金額については、児童の健全育成を保護法益とするインターネット異性紹介事業を利用して児童を性交等の相手方となるように誘引する行為の罪(インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律第33条、第6条)の法定刑を参考にして、本条第2項の罰金額を100万円以下とし、要求行為にとどまる本条第1項及び第3項の罰金額については、その半分の50万円以下としている。

健診盗撮による児童ポルノ製造罪は、ひそかに製造罪ではなく姿態をとらせて製造罪

第七条(児童ポルノ所持、提供等)
4前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
5前二項に規定するもののほか、ひそかに第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。

 京都地裁はひそかに製造罪にしていますが、通常、医師の指示で胸部を露出するので、姿態をとらせて製造罪です。
 大阪地裁の同種事案では、「きょうび、児童がみずから胸部露出して診察待ってるかなあ」という弁護人の指摘で、ひそかに製造罪から姿態をとらせて製造罪へ訴因変更されました。

京都地裁r4
被告人は、令和5年8月23日○○中学校保健室において、医師として、同校生徒に対する定期健康診断を行う際に、A他8名が、児童であることを知りながらひそかに前記動画データ4点を、ペン型カメラに内蔵された記録装置に記録させて保存し、もってひそかに、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを、視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録にかかる記録媒体である児童ポルノを製造した

当時17歳の女子生徒に対し「下腹部に『奴隷』と書いた写真を送りなさい」などと迫り、裸の画像81枚を送信させた行為は、わいせつ行為か?(津地裁r5.8.18)

 強制わいせつ罪の構成要件は「わいせつな行為をする」なので、これを被害者自身の行為で実現するには、被害者の行為を利用した間接正犯の議論があります。強制わいせつ罪の暴行・脅迫は対面状態を予定していて、隔地者だと道具性が弱いと思います。
 
 また、従前、撮影する行為はわいせつ行為とされていますが、撮影させる行為をわいせつ行為とするのには、検察官・裁判所も抵抗していて
強制わいせつ罪否定説の高裁判例が4件あります。全部弁護人は奥村。
  広島高裁岡山支部
  東京高裁
  名古屋高裁金沢支部
  名古屋高裁金沢支部

 最近になって、転説して強制わいせつ罪説の高裁判例が3件出ています。こちらも弁護人は奥村。
  大阪高
  大阪高
  札幌高裁
 撮影させる行為をわいせつ行為とするのか、送信させる行為までわいせつ行為とするのかにブレがあります。

 検察官の裁量で、どっちでもいいという判例もあります
阪高
阪高

 最高裁で決めて欲しいところです。

 さらに、強制わいせつ罪を認める場合、児童ポルノ罪と強制わいせつ罪は観念的競合とされます。強制わいせつ罪の関係では撮影させるまでしか認定できないところ、犯人に画像が届いていることを理由付けに使いたいかから、一個の訴因にしてごまかします。

https://news.yahoo.co.jp/articles/dcc5f9d7adc3a282ac35c9572ee2e5e59a229d5b
 起訴状などによりますと、被告は当時17歳の女子生徒に対し「下腹部に『奴隷』と書いた写真を送りなさい」などと迫り、裸の画像81枚を送信させた罪などに問われていました。
 これまでの裁判で、弁護側は「芸術指導の目的だった」などとして無罪を主張していました。
 18日の判決で、津地裁は「希望の美術大学に合格するためには、要求に逆らえないという状態につけ込んだ、陰湿で卑劣な犯行」として、懲役3年・執行猶予4年を言い渡しました。

当時17歳の女子生徒に対し「下腹部に『奴隷』と書いた写真を送りなさい」などと迫り、裸の画像81枚を送信させた行為は、わいせつ行為か?(津地裁r5.8.18)

 強制わいせつ罪の構成要件は「わいせつな行為をする」なので、これを被害者自身の行為で実現するには、被害者の行為を利用した間接正犯の議論があります。強制わいせつ罪の暴行・脅迫は対面状態を予定していて、隔地者だと道具性が弱いと思います。
 
 また、従前、撮影する行為はわいせつ行為とされていますが、撮影させる行為をわいせつ行為とするのには、検察官・裁判所も抵抗していて
強制わいせつ罪否定説の高裁判例が4件あります。全部弁護人は奥村。
  広島高裁岡山支部
  東京高裁
  名古屋高裁金沢支部
  名古屋高裁金沢支部

 最近になって、転説して強制わいせつ罪説の高裁判例が3件出ています。こちらも弁護人は奥村。
  大阪高
  大阪高
  札幌高裁
 撮影させる行為をわいせつ行為とするのか、送信させる行為までわいせつ行為とするのかにブレがあります。

 検察官の裁量で、どっちでもいいという判例もあります
阪高
阪高

 最高裁で決めて欲しいところです。
 とりあえず控訴しましょう。

https://news.yahoo.co.jp/articles/dcc5f9d7adc3a282ac35c9572ee2e5e59a229d5b
 起訴状などによりますと、被告は当時17歳の女子生徒に対し「下腹部に『奴隷』と書いた写真を送りなさい」などと迫り、裸の画像81枚を送信させた罪などに問われていました。
 これまでの裁判で、弁護側は「芸術指導の目的だった」などとして無罪を主張していました。
 18日の判決で、津地裁は「希望の美術大学に合格するためには、要求に逆らえないという状態につけ込んだ、陰湿で卑劣な犯行」として、懲役3年・執行猶予4年を言い渡しました。

「上りエスカレーターで女性の尻のにおいかごうとした」という卑わいな言動

 兵庫県条例では「相手方に「不安を覚えさせるような」「野卑で、みだらな言動」をいう。」と説明されています。「女性の尻に顔をうずめ」で該当するように思われます。

兵庫県公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
(卑わいな行為等の禁止)
第3条の2
1 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、次に掲げる行為をしてはならない
(1) 人に対する、不安を覚えさせるような卑わいな言動
・・・・・・・・・
兵庫県公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例の解説(2016年9月)
「不安を覚えさせるような卑わいな言動」とは、相手方に「不安を覚えさせるような」「野卑で、みだらな言動」をいう。
「不安を覚えさせるような」とは、いやらしいことをされるのではないかという心配を起こさせるようなという意味であるが、不安を覚えさせる言動かどうかは、個別具体的に認定しなければならない。
また、現に被害者が不安を覚えなくてもよく、被害者が当該行為に気付かない場合でも、もし、気付いたならば不安を覚えることが明らかな場合は本項が成立する。
(1) 痴漢行為
刑法の強制わいせつに至らない行為であり、具体的には、「電車等において、同意を得ていない人の身体に、衣服その他の身に着ける物の上から直接触れる」といった行為である。
(2) のぞき見行為
通常衣服等で隠されている人の下着又は身体をのぞき見するものである。要件として、のぞき見が、一般人をして不安を覚えさせるような卑わいな程度でなされることを必要とする。
具体的には、人のスカート内の下着等を下から積極的にのぞき見たり、手鏡をスカートの下に差し出して下着等を見る行為等をいう。
なお、1段落目の「のぞき見が、一般人をして不安を覚えさせるような卑わいな程度でなされることを必要とする」とは、積極的にのぞき見を行う(故意がある)ことが必要であるとの意味であって、例えば、スカートが風で捲れ上がった際に偶然に下着が見えたというような場合(故意がない)は、当然にして含まれない。
(3) 盗撮行為
通常衣服等で隠されている人の下着又は身体を、その人の承諾なく隠し撮りする行為である。
具体的には、写真機等を使って赤の他人のスカート内を隠し撮る行為、隠し撮る目的で写真機等をスカートに差し入れる行為をいう。
(4) その他卑わいな言動「痴漢行為」、「のぞき見行為」、「盗撮行為又は盗撮目的で写真機等を向ける行為」以外のいやらしく・みだらで性的道義観念に反し、人に不安を覚えさせるような卑わいな言語・動作をいう。
具体的には、スカートを捲る、傘の柄等を他人の胸部や臀部に押しつける、耳元等に息を吹きかける、耳元で卑わいな言葉をささやく、女性に声をかけ「おっぱい大きいね。」「おつばい触らせて。」「おじちやんとエッチしよう。」などと言う言動がこれに当たる。

https://news.yahoo.co.jp/articles/ecfeff5adb194e506b32f60a8f46c2b4a56079aa
警察によりますと、男は6月10日午後5時半過ぎ、神戸市中央区三宮町の商業施設「さんプラザ」の上りエスカレーターで、前に立っていた20代の女性の尻に顔をうずめ、匂いを嗅いだ疑いが持たれています。
尻に何かが当たった感覚のあった女性が、エスカレーターを降りた後、後ろにいた男をスマートフォンで撮影。
男は、その後自ら警察を訪れ、「女性にものがぶつかってトラブルがあった」と相談していましたが、男が2022年9月にも同様の行為をした疑いで逮捕されていたことから、警察が防犯カメラを調べたところ、前かがみの状態から顔を上げる男の姿が写っていたということです。
警察に調べに対し、男は、「女性のお尻に顔を近付けただけで、鼻で匂いを嗅いだわけではありません」と、容疑を一部否認しているということです。

https://www.kobe-np.co.jp/news/jiken/202308/0016706110.shtml
逮捕容疑は6月10日午後5時半ごろ、同市中央区三宮町1の商業施設内で、上りエスカレーターに乗っていた女性(23)の後ろにかがみ、女性の尻に顔を近づけた疑い。

「「面会要求」容疑で全国初摘発」の報道は、不同意わいせつ罪に注意

 面会要求罪初適用を取り上げているが、
 16歳未満との援助交際について、不同意わいせつ罪(懲役6月~10年)と児童買春罪(罰金~5年)が適用されて、罰金では済まなくなったのが大変化である。改正前であれば罰金50万円であった。
 性交があれば、不同意性交(5年~20年)が適用される。

 要求罪(罰金~1年)は、児童買春罪の対償供与約束と重複するので、児童買春罪に吸収されるという主張が可能である。

第百七十六条
1 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
3 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

第百八十二条 わいせつの目的で、十六歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
一 威迫し、偽計を用い又は誘惑して面会を要求すること。
二 拒まれたにもかかわらず、反復して面会を要求すること。
三 金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をして面会を要求すること。
2 前項の罪を犯し、よってわいせつの目的で当該十六歳未満の者と面会をした者は、二年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
3 十六歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為(第二号に掲げる行為については、当該行為をさせることがわいせつなものであるものに限る。)を要求した者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
一 性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信すること。
二 前号に掲げるもののほか、膣又は肛門に身体の一部(陰茎を除く。)又は物を挿入し又は挿入される姿態、性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下この号において同じ。)を触り又は触られる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態をとってその映像を送信すること。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2023081500489&g=soc
「面会要求」容疑で全国初摘発 13歳少女と1万円で約束―警視庁
2023年08月15日12時25分
 16歳未満の少女とわいせつ目的で面会したなどとして、警視庁少年育成課は15日、会社員の男(32)=東京都武蔵野市=を面会要求と不同意わいせつなどの疑いで書類送検した。起訴を求める「厳重処分」の意見を付けた。同庁によると、7月13日の刑法改正で新設された面会要求の禁止規定を巡る摘発は全国初。
「不同意性交罪」施行 性犯罪の要件具体化―改正刑法

 「SNSで知り合った少女にわいせつな行為をしてもらった」と容疑を認めている。
 同課によると、男は7月22日にSNSで「パパ活」と検索し、少女と連絡を取るようになった。ダイレクトメールでのやりとりの中で「2009年生まれ」と16歳未満であることを告げられていたが、1万円を渡す約束で会ったという。
 送検容疑は7月22日、関東地方に居住する13歳の少女に対し、金銭を渡す約束をして、調布市の駐車場でわいせつ目的で面会するなどした疑い。
 男が同月30日に同庁調布署に自首し発覚した。
 7月の改正刑法は、16歳未満の子どもに対し、金銭を渡す約束をして、わいせつ目的で面会したり、繰り返し面会を要求したりする行為を禁止した。

「これまで送ってもらった写真、どうしようかな」。10代半ばの少女は数年前、スマートフォンのゲームで知り合った男にこう脅された。という行為とグルーミング罪と強制わいせつ罪

 画像送信を要求するとグルーミング罪(一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金)だというのです

刑法
(十六歳未満の者に対する面会要求等)
第百八十二条 
3 十六歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為(第二号に掲げる行為については、当該行為をさせることがわいせつなものであるものに限る。)を要求した者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
一 性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信すること。
二 前号に掲げるもののほか、膣又は肛門に身体の一部(陰茎を除く。)又は物を挿入し又は挿入される姿態、性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下この号において同じ。)を触り又は触られる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態をとってその映像を送信すること。

 しかし、脅迫して要求するのは、強制わいせつ未遂(6月~10年)です。強要未遂(~3年)という裁判例もたくさんある。

丸亀支部r29.5.2
第1 Aに対する児童ポルノ製造
第2前記Aが13歳未満であることを知りながら, 同人に強いてわいせつな行為をしようと考え,年月日頃,前記当時の被告人方において,前記SNSを使用して,Aの携帯電話機に「個人情報とか恥ずがしい写メも全部ネットに流す」, 「裸写真を送れ」などと記載したメッセージを送信するとともに,前記第1記載の犯行により製造した同人の性器等が露出した静止画データを同人使用の携帯電話機に送信した上, 「流す」と記載したメッセージを送信するなどし,その頃,都内にいた同人に閲読させ, もしその要求に応じなければその電話番号や住所等の個人情報をインターネット上に流布されるかもしれない旨同人を畏怖させて脅迫し,同人に,裸体にさせてその静止画像等を撮影させるなど強いてわいせつな行為をしようとしたが, 同人がこれに応じなかったため,その目的を遂げなかった
適用法令
1 罰条
(1) 判示第1の所為児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項, 2項, 2条3項3号(2) 判示第4の所為刑法 179条, 176条

 それを、グルーミング罪(一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金)の例とすると、軽く処罰することになります。罰金で済む。
 それはおかしいので、グルーミング罪の趣旨は、強制わいせつ未遂・強要未遂に至らない要求行為を処罰することにあると説明する必要がある。

夏休み、グルーミングに注意! 「写真送って」、巧妙に要求 ―身体的被害に発展も
2023年08月12日07時11分

【図解】グルーミングの手口
悩みがある

相談に乗るよ
親身に話を間<
ぼくも写真送るからあなたも送って

この写真なら

裸の写真も送って

それは無理 これまで送ってもらった写真どうしようかな

脅迫拡散

 わいせつな目的を隠して子どもに接近し、手なずける「グルーミング」の被害が後を絶たない。7月の刑法改正で、16歳未満に性的な画像を要求する行為が禁じられたが、SNSに触れる機会が多い夏休みは被害の増加が懸念される。有識者は「子どもの心理につけ込み、要求を断れなくする」と巧妙な手口に警戒を呼び掛ける。
法務省、「グルーミング」罪新設検討 子どもの性被害防止

 「これまで送ってもらった写真、どうしようかな」。10代半ばの少女は数年前、スマートフォンのゲームで知り合った男にこう脅された。親身に話を聞いてくれていたため、求められるまま写真を送ると要求はエスカレートした。「裸の写真を送って」。これまでに送った写真の拡散をちらつかされ、断れなくなった。写真はその後、SNSで販売されてしまった。
 子どもの心理につけ込むグルーミングの手口はさまざまだ。有識者は「まじめと思われるのを嫌う子どもに『まじめだね』と言って断りにくくし、性的画像を送らせる」と指摘。画像を手に入れるまでは、強要したり脅したりせず、気軽な調子で接する手口も多いという。
 デジタル性暴力の被害者支援などに取り組むNPO法人「ぱっぷす」(東京)の金尻カズナ理事長は、法改正により、16歳未満への性的な画像の要求が罰せられるようになったことを評価。「大人は、写真を送った行為を責めてしまいがちだ。子どもも大人も、写真を要求すること自体が悪いという認識を持てば、周囲に相談しやすくなる」と語る。
 追手門学院大の桜井鼓准教授(犯罪心理学)が昨年までに実施した調査では、20~25歳の男女約1万8000人のうち、18歳までに性的な写真を他人に送ったことがある人は全体の2.4%に上った。性的な写真を送った人の多くがその後、身体的性被害を受けたという海外の調査結果もあるという。
 桜井准教授は「2人だけの秘密」などと口止めする行為は性的グルーミングの特徴だとした上で、「早い段階で相手の意図を見抜き、やりとりをやめることが大切だ」と話している。

「大人は、写真を送った行為を責めてしまいがちだ。子どもも大人も、写真を要求すること自体が悪いという認識を持てば、周囲に相談しやすくなる」というのですが、児童ポルノ提供目的製造罪・提供罪の主体には法文上児童自身も含まれ、児童が裸写真を送る行為も犯罪とされていて、実際にも児童も正犯・共犯で補導・検挙されることがありますよね。よく整理されてないような感じです。

「俺しか見ないから」~特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為 

「俺しか見ないから」~特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為 
 言った言わない

性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(令和五年法律第六十七号)
第二条 次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
三 行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為

https://news.yahoo.co.jp/articles/b467c3d2c88d3fa35904ea467ff05d630db22206
容疑者は7月15日、自宅で会っていた県内に住む10代の知人女性の性的な動画を撮影した疑いが持たれています。
女性に対して「俺しか見ないから」などと話して信じ込ませ、撮影したということです。

Aがアダルトビデオに出演したように見える前記動画の情報を自動公衆送信し得る状態にした行為を、公然と事実を摘示してAの名誉を毀損したと認定した事例(東京地裁r2.12.18)

あたかもAがアダルトビデオに出演したように見える前記動画の情報を自動公衆送信し得る状態にし,もって前記株式会社cの著作権を侵害するとともに,公然と事実を摘示してAの名誉を毀損し,(東京地裁r2.12.18)

裁判年月日 令和 2年12月18日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 令2(特わ)2557号
事件名 著作権法違反,名誉毀損被告事件
文献番号 2020WLJPCA12186007
 上記の者に対する著作権法違反,名誉毀損被告事件について,当裁判所は,検察官北村友一及び国選弁護人D出席の上審理し,次のとおり判決する。
 (犯罪事実)
 被告人は,
 第1 法定の除外事由がなく,かつ,著作権者の許諾を受けないで,別表記載のとおり,令和2年3月28日頃から同年4月19日頃までの間,3回にわたり,兵庫県三田市〈以下省略〉被告人方において,株式会社aほか2社が著作権を有する映画の著作物である「○○」等を,パーソナルコンピュータを用いて出演女優の顔に別人の女性の顔を合成加工して翻案した動画を作成し,同年3月28日頃から同年4月24日頃までの間,3回にわたり,前記被告人方において,前記パーソナルコンピュータを使用してインターネットを介し,前記株式会社aほか2社が著作権を有する前記翻案された各動画の情報を,インターネットに接続された自動公衆送信装置であるサーバコンピュータの記憶装置に記録保存し,その頃,前記被告人方において,前記パーソナルコンピュータを使用してインターネットを介し,前記各動画の情報を記録保存した場所を示すURLを,b株式会社が日本国内において管理するサーバコンピュータに記録保存するなどし,インターネットを利用する不特定多数の者に前記各動画の情報を自動公衆送信し得る状態にし,もって前記株式会社aほか2社の著作権を侵害し,
 第2 法定の除外事由がなく,かつ,著作権者の許諾を受けないで,同月17日頃,前記被告人方において,株式会社cが著作権を有する映画の著作物である「△△」を,前記パーソナルコンピュータを用いて口淫等している出演女優の顔にA(以下「A」という。)の顔を合成加工して翻案した動画を作成し,同月19日頃,前記被告人方において,前記パーソナルコンピュータを使用してインターネットを介し,前記株式会社cが著作権を有する前記翻案された各動画の情報を,インターネットに接続された自動公衆送信装置であるサーバコンピュータの記憶装置に記録保存し,その頃,前記被告人方において,前記パーソナルコンピュータを使用してインターネットを介し,前記動画の情報を記録保存した場所を示すURLを,前記b株式会社が日本国内において管理する前記サーバコンピュータに記録保存するなどし,インターネットを利用する不特定多数の者に対し,あたかもAがアダルトビデオに出演したように見える前記動画の情報を自動公衆送信し得る状態にし,もって前記株式会社cの著作権を侵害するとともに,公然と事実を摘示してAの名誉を毀損し,
 第3 同年7月6日頃,前記被告人方において,前記パーソナルコンピュータを使用し,インターネットを介して,不特定多数の者が閲覧可能な「□□」と題するインターネットサイト内に,B(以下「B」という。)の画像とともに,女性が男性と性交しているような内容のアダルトビデオの出演女優の顔部分にBの顔を合成加工し,あたかも同人がアダルトビデオに出演したように見える動画データが蔵置されたURLを掲載し,不特定多数の者がこれらの動画等を閲覧することが可能な状態にし,もって公然と事実を摘示してBの名誉を毀損した。
 (法令の適用)
 罰条
 第1の各行為 別表記載の番号ごとに,著作物の翻案権の侵害及び公衆送信権の侵害を包括して,著作権法119条1項,23条1項,27条,28条
 第2の各行為中 著作物の翻案権の侵害及び公衆送信権の侵害を包括して,著作権法119条1項,23条1項,27条,28条
 名誉毀損について,刑法230条1項
 第3の行為 刑法230条1項
 科刑上一罪の処理 第2について,刑法54条1項前段,10条(1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,1罪として重い著作権法違反の罪の刑で処断)
 刑種の選択 第1ないし第3について,いずれも懲役刑を選択
 併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い第2の罪の刑に法定の加重)
 刑の執行猶予 刑法25条1項
 訴訟費用 刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)
 (量刑の理由)
 被告人は,◎◎と称する,人工知能を利用して動画中の人物の顔を加工することのできるフリーソフトウェアを使用し,女性芸能人の顔の画像を,市販されているアダルトビデオの動画にはめ込んで,女性芸能人がアダルトビデオに出演しているかのように見える,いわゆるディープフェイクポルノを作成して,自らが運営するインターネット掲示板で公開することを繰り返しており,その一環として,本件各犯行に及んでいる。
 このような行為は,女性芸能人の側から見れば,タレントとしてのイメージとその名誉を毀損し,不快感等の精神的苦痛を及ぼすと同時に,芸能活動への支障によって多大な経済的損害を及ぼしかねない非常に悪質な行為である。当然ながら,判示第2のA,判示第3のBとも,厳しい処罰感情を示している。また,アダルトビデオの著作権者から見れば,その販売に支障を生じさせ,経済的損害を及ぼしかねない行為であり,判示第1,第2の各制作会社は,厳しい処罰感情を示している。
・・・
 東京地方裁判所刑事第11部
 (裁判官 井下田英樹

中学生との性行為を、不同意性交罪(3項)で検挙した事例(青森県警)

 176条1項各号の事由があっても、沿革上、3項を適用するんでしょうなあ。
 13~16歳との性交は、従前は青少年条例で罰金になっていたのが、5年~20年の懲役刑になったので、今回の刑法改正で一番影響受ける行為類型です。
 法定合議事件になっちゃうので、ポンポン起訴されると裁判所が堪えられるかですね

3項不同意性交罪
第百七十七条 
1前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。
3 十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

https://news.yahoo.co.jp/articles/8df6a660ca51cd9f6b01a96aff26c9f39a6d03c4
逮捕容疑は6日午前11時45分ごろから同日午後0時15分までの間、女子中学生の同意なく、県内の屋内運動施設内で、みだらな行為をした疑い。

 県警捜査1課によると、2人の間には面識があり、凶器を使ったり、脅したりなどはしていないが、同意がないまま行為に及んだという。

 6日、女子中学生の保護者が電話で通報し事件が発覚。容疑者が7日、県内の警察署に出頭し、逮捕された。

 性犯罪規定を見直す改正刑法は7月13日に施行され、これまでの強制・準強制性交罪が「不同意性交罪」に統合された。同罪と不同意わいせつ罪は「同意しない意思を形成、表明、全うすることのいずれかが難しい状態」にすることが要件。また、性交同意年齢が13歳から16歳に引き上げられた。

CG事件判決とAI児童ポルノ~デジタルな私たち 児童わいせつ画像 AI作成はポルノ? 実際の写真と見間違う精巧さ 規制の要否 新たな課題 2023.08.08 京都新聞

 今になってCG事件の判決が効いています。
 実在児童が自撮りで供給してくれるので、CG・手描き・AIの需要は少ないと考えています。

 CG(実は手描き)事件では、警視庁は、既存の児童ポルノ写真集の「つぎはぎ」として立証したんだが、実際にはPhotoshopで白紙から筆で描いていたので、児童の実在性とか姿態の実在性が争点になった。

裁判年月日 平成28年 3月15日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(特わ)1027号
事件名 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
裁判結果 有罪(懲役1年及び罰金300万円、執行猶予3年(求刑 懲役2年及び罰金100万円)) 上訴等 控訴<破棄自判> 文献番号 2016WLJPCA03156003
要旨
◆被告人が、児童ポルノ性の認められるCG画像3点を作成し、それらの画像を販売した事案において、当該CGに記録された姿態が、一般人からみて、架空の児童の姿態ではなく、実在の児童の姿態を忠実に描写したものであると認識できる場合には、実在の児童とCGで描かれた児童とが同一である(同一性を有する)と判断できるCGの画像データに係る記録媒体については、児童ポルノ法2条3項の「児童ポルノ」あるいは同法7条4項後段の「電磁的記録」として処罰の対象となると解すべきであり、当該CGが、実在の児童を直接見ながら描かれたのでなく、実在の児童を写した写真を基に描かれた場合であっても、それが同写真と同一と判断できる場合についても、同様と解すべきであるとした上で、本件CG画像3点は、被告人が、所持していた少女のヌード写真及びその画像データを用い、画像編集ソフトを使用して作成したものであり、写真との同一性が認められるほど精巧に作られたものであって、CG画像であるとはいえ、写真と比してその悪質性の程度が低いとはいえないと認定した事例
裁判経過
上告審 令和 2年 1月27日 最高裁第一小法廷 決定 平29(あ)242号 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
控訴審 平成29年 1月24日 東京高裁 判決 平28(う)872号 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
出典
判時 2335号105頁
エストロー・ジャパン

裁判年月日 平成29年 1月24日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平28(う)872号
事件名 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
裁判結果 破棄自判・一部無罪、一部有罪(罰金30万円(求刑 懲役2年及び罰金100万円)) 上訴等 上告 文献番号 2017WLJPCA01246001
要旨
〔判示事項〕
◆児童の写真を素材にしたコンピュータグラフィックス(以下「CG」という。)画像等における描写が、平成26年法律第79号による改正前の児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条3項3号の「児童の姿態」に該当するか
◆児童の写真を素材にしたCG画像等の被写体である児童が、CG画像等の製造の時点及び児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の施行の時点において、18歳以上になっていた場合の児童ポルノ製造罪の成否(積極)
〔裁判要旨〕
◆児童の写真を素材にしたコンピュータグラフィックス(以下「CG」という。)画像等における描写が、写真の被写体である児童を描写したといえる程度に、被写体と同一であると認められるときは、全く同一の姿態、ポーズがとられなくても、平成26年法律第79号による改正前の児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条3項3号の「児童の姿態」に該当するとされた事例
◆児童の写真を素材にしたCG画像等の被写体である児童が、CG画像等の製造の時点及び児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の施行の時点において、18歳以上になっていたとしても、児童ポルノ製造罪は成立するとされた事例

判例タイムズ社(要旨)】
◆1.コンピュータグラフィックス(以下「CG」という。)の素材となった写真の被写体である児童と全く同一の姿態,ポーズをとらなくても,当該児童を描写したといえる程度に,被写体とそれを基に描いたCG画像等が同一であると認められる場合には,平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ等処罰法」という。)2条3項の「児童の姿態」に該当する
◆2.児童ポルノ製造罪の成立には,被写体の児童が,児童ポルノ製造の時点及び児童ポルノ等処罰法施行の時点において18歳未満であることを要しない
裁判経過
上告審 令和 2年 1月27日 最高裁第一小法廷 決定 平29(あ)242号 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
第一審 平成28年 3月15日 東京地裁 判決 平25(特わ)1027号 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
出典
高刑 70巻1号10頁
東高刑時報 68巻28頁
裁判所ウェブサイト
判タ 1446号185頁 
判時 2363号110頁
高刑速 平成29年 73頁(3592号)
エストロー・ジャパン

裁判年月日 令和 2年 1月27日 裁判所名 最高裁第一小法廷 裁判区分 決定
事件番号 平29(あ)242号
事件名 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
裁判結果 棄却 文献番号 2020WLJPCA01279001
要旨
◆児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成26年法律第79号による改正前のもの)2条3項にいう「児童ポルノ」の意義
◆児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成26年法律第79号による改正前のもの)7条5項の児童ポルノ製造罪の成立と児童ポルノに描写されている人物がその製造時点において18歳未満であることの要否

判例タイムズ社(要旨)】
◆1.児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成26年法律第79号による改正前のもの)2条3項にいう「児童ポルノ」の意義
◆2.児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成26年法律第79号による改正前のもの)7条5項の児童ポルノ製造罪の成立と児童ポルノに描写されている人物がその製造時点において18歳未満であることの要否
裁判経過
控訴審 平成29年 1月24日 東京高裁 判決 平28(う)872号 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
第一審 平成28年 3月15日 東京地裁 判決 平25(特わ)1027号 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
出典
刑集 74巻1号119頁
裁時 1740号3頁
裁判所ウェブサイト
判タ 1487号166頁 
判時 2497号102頁
評釈
村田一広・曹時 74巻9号212頁 
村田一広・ジュリ 1563号104頁 
仲道祐樹・ジュリ臨増 1557号126頁(令2重判解) 
鎮目征樹・論究ジュリ 38号234頁 
松本麗・研修 870号13頁
前田雅英・WLJ判例コラム 194号(2020WLJCC006)  
Westlaw Japan・新判例解説 1248号(2020WLJCC133)  
永井善之・法セ増(新判例解説Watch) 27号177頁
岡野誠樹・法セ増(新判例解説Watch) 27号13頁
玉本将之・警察学論集 73巻7号180頁
横山亞希子・警察公論 75巻9号86頁
菊地一樹・刑事法ジャーナル 65号119頁
上田正基・神奈川法学 54巻3号43頁

https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1083122
AI作成の女児わいせつ画像は「児童ポルノ」か 規制の要否が新たな課題に
2023年8月8日 6:15
辻智也
学習したデータを基に画像イメージを出力する画像生成AI(人工知能)の普及に伴い、AIで作ったとみられる女児のわいせつな画像がインターネットで多数公開されている。実在する児童なら、児童買春・児童ポルノ禁止法(児童ポルノ法)に抵触するが、AI画像が取り締まり対象となるかは不透明だ。警察庁法務省は「個別に検討するしかない」と回答するにとどまり、規制の要否などが新たな課題となりそうだ。
・・・・
こうした画像は、高精度の画像生成AIの登場により、急速に広がっているとみられる。児童ポルノ法では、18歳未満の児童の裸や胸などを露出した画像の作成、公開を禁止している。2020年、CGで作られた児童ポルノを巡る裁判で、最高裁は「実在しない児童を描写した画像は児童ポルノに含まない」との判例を示した。漫画など架空の児童は同法の対象外とされる。

 一方、画像生成AIは、実在する児童の写真を基に画像が作れる。そうやって生み出された画像が、児童ポルノに該当するかはあいまいだ。警察庁人身安全・少年課は、AIで作った児童ポルノの摘発事例は把握していないとし、「児童が実在するかが焦点になると考えられるが、新しい技術で、生成方法も複雑なため、個別の画像ごとに検証するしかない」と説明する。

 法務省刑事局は「実在の人物を基にしたAI生成画像は、類似の程度によっては児童ポルノ法違反になる可能性がある」との見解を示す。生成方法や実在の人物かを問わず、わいせつ性が高いと判断されれば、わいせつ物頒布罪が適用される可能性もあるという。

 AIと性表現の規制に詳しい東洋大の加藤隆之教授(憲法)は、児童ポルノ法の保護対象が「裸にされる」などの実害に遭った児童としている以上、「実在の顔写真を基にAIが作った画像でも、その児童の裸体と同一性が認められない限り同法での摘発はできないだろう」と説明する。
・・・

侵入+強姦+児童ポルノ製造につき、かすがい現象を認めない裁判例(立川支部h23.11.4)

 侵入罪は重い強姦(未遂)罪にくっつけて牽連犯として、製造罪と侵入罪は併合罪として、かすがい現象を否定しています。

立川支部h23.11.4
第5
 1 H(当時11歳)に強いてわいせつな行為をしようと考え,平成20年11月10日午後5時頃,東京都東久留米市内の集合住宅の同人の自宅に,同人が帰宅後無施錠のままにしていた玄関ドアから侵入し,居間で横になっていた同人に対し,その顔面に同人が掛けていた毛布をかぶせ,その上から同人の口を手でふさぎ,「暴れるな。暴れると殺す。」と言うなどの暴行脅迫を加え,同人に強いてわいせつな行為をしようとしたが,同人が恐怖のあまり全く抵抗できない状態であることを知るや,これに乗じて同人を強姦しようと考え,同人に対し,その顔面に毛布をかぶせたまま,同人のパンツを引き下ろし,その両足を開かせるなどの暴行を加え,その反抗を抑圧し,同人と無理やり性交しようとしたが,同人の性器に陰茎を挿入する前に射精したため,強姦の目的を遂げず,
 2 前記1の日時場所において,前記Hが18歳に満たない児童であることを知りながら,同人に被告人から性器を触られている姿態をとらせ,これをデジタルビデオカメラ1台で撮影し,その動画データを同カメラに内蔵された記録媒体であるSDカードに記憶させた上,さらに,同日頃,東京都国分寺市の当時の被告人方において,USBケーブルを用いてデスクトップパソコン1式のハードディスクに前記動画データを記憶させて蔵置し,もって,他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造し,
第6 I(当時11歳)を強姦しようと考え,平成20年12月26日午後0時20分頃,前記第5の1の集合住宅の同人の自宅に,同人に引き続いて玄関ドアから侵入し,玄関内において,同人に対し,背後からその口を手でふさぎ,「騒いだら殺すぞ。」「ズボンを脱げ。」などと言って同人にズボンを脱がせた上,同人のパンツを引き下ろして下半身を裸にし,さらに,同人を子供部屋付近まで押し込んだ上,同所において,同人を床に仰向けにさせ,防災頭巾を顔にかぶせて,「絶対見るなよ。」「足を開け。」と言うなどの暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧し,同人と無理やり性交しようとしたが,同人に足をばたつかせるなどされたため,性交を断念し,その目的を遂げず,この際,同人の着用していたパンツを奪い取ろうと考え,同人が極度に畏怖し,反抗を抑圧されているのに乗じ,同人所有の前記パンツ1枚(時価300円相当)を奪い取り,
第7
 1 J(当時12歳)を強姦しようと考え,平成21年2月13日午後5時頃,東京都小平市内の同人の自宅に,同人に引き続いて玄関ドアから侵入し,同所において,同人に対し,背後からその口を手でふさぎ,「抵抗すると殺すぞ。」などと言い,さらに「パンツを脱げ。」などと言って同人のズボンとパンツを脱がせて下半身を裸にするとともに,「寝ろ。」などと言って同人を床に仰向けにさせるなどの暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧し,同人と無理やり性交しようとしたが,同人の性器が未成熟で陰茎を挿入できないと思われたため,性交を断念し,その目的を遂げず,
 2 前記1の日時場所において,前記Jが18歳に満たない児童であることを知りながら,同人の陰部を露出した姿態をとらせ,これを前記第5の2のカメラで撮影し,その動画データを同カメラに内蔵された記録媒体であるSDカードに記憶させた上,さらに,同日頃,前記の当時の被告人方において,USBケーブルを用いて前記第5の2のパソコンのハードディスクに前記動画データを記憶させて蔵置し,もって,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造し,
第11
 1 M(当時10歳)を強姦しようと考え,平成21年12月30日午後0時頃,前記第9のMの母方に無施錠の玄関ドアから侵入し,1階居間にいた前記Mに対し,仰向けにしてその顔面に座布団をかぶせ,同人のズボン及びパンツを引き下ろし,その両足を開かせるなどの暴行を加え,その反抗を抑圧し,同人と無理やり性交しようとしたが,同人の性器が未成熟で陰茎を挿入できないと思われたため,性交を断念し,その目的を遂げず,
 2 前記1の日時場所において,前記Mが18歳に満たない児童であることを知りながら,同人に被告人から性器を触られている姿態をとらせ,これを前記第5の2のカメラで撮影し,その動画データを同カメラに内蔵された記録媒体であるSDカードに記憶させた上,さらに,同日頃,前記の当時の被告人方において,USBケーブルを用いて前記第5の2のパソコンのハードディスクに前記動画データを記憶させて蔵置し,もって,他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造し,

(罰条の適用等)
 被告人の判示第1の所為は,刑法179条,176条前段に,判示第2ないし第4の各所為は,いずれも包括して同法176条に,判示第5の1の所為のうち,住居侵入の点は,同法130条前段に,強姦未遂(強制わいせつ未遂はこれと包括)の点は,包括して同法179条,177条に,判示第5の2の所為は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)7条3項,1項,2条3項2号に,判示第6の所為のうち,住居侵入の点は,刑法130条前段に,強姦未遂の点は,包括して同法179条,177条に,強盗の点は,同法236条1項に,判示第7の1の所為のうち,住居侵入の点は,同法130条前段に,強姦未遂の点は,包括して同法179条,177条に,判示第7の2の所為は,児童ポルノ法7条3項,1項,2条3項3号に,判示第8の所為は,刑法235条に,判示第9及び第10の各所為のうち,各住居侵入の点は,同法130条前段に,各窃盗の点は,同法235条に,判示第11の1の所為のうち,住居侵入の点は,同法130条前段に,強姦未遂の点は,包括して同法179条,177条に,判示第11の2の所為は,児童ポルノ法7条3項,1項,2条3項2号に,判示第12の所為は,刑法130条前段に,判示第13の所為のうち,住居侵入の点は,同法130条前段に,強姦の点は,同法177条前段に,判示第14の所為のうち,住居侵入の点は,同法130条前段に,強姦未遂の点は,同法179条,177条前段に,判示第15の所為は,同法130条前段に,それぞれ該当するところ,判示第5,第7及び第11の各1並びに判示第14の住居侵入と強姦未遂,判示第9及び第10の住居侵入と窃盗,判示第13の住居侵入と強姦との間には,いずれも手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として,判示第5,第7及び第11の各1並びに第14についてはいずれも重い強姦未遂罪の刑で,判示第9及び第10についてはいずれも重い窃盗罪の刑で,判示第13については重い強姦罪の刑で,判示第6の住居侵入と強姦未遂及び強盗との間には,それぞれ手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により結局以上を1罪として最も重い強盗罪の刑で,それぞれ処断することとする。
 なお,検察官は,判示第15の事実について,マンション敷地内への立入りをもって,住居侵入に当たるとして起訴しているが,いわゆるマンションは,居住を予定している各居室部分のほか,居住を予定していない共用部分があり,全体を一つの住居とみるのは相当でなく,全体としてみる場合は1個の建造物と解するほかない。そうすると,本件では,建造物の囲繞地への立入りということになるので,建造物侵入罪として問擬した。
 (裁判員法78条2項5号についての判断)
 判示第1の強制わいせつ未遂,判示第5の1,第6,第7の1,第11の1及び第14の各強姦未遂については,関係各証拠(判示第1・甲132,判示第5の1・乙12,判示第6・乙13,判示第7の1・乙10,判示第11の1・乙15,判示第14・甲123(ただし,不同意部分を除く。))により,「罪となるべき事実」記載のとおり,それぞれ障害未遂の事実が認められる。その他,全証拠に照らして検討したが,裁判員法78条2項5号に定められたその余の事実はない。
(没収の根拠となる事実)
 東京地方検察庁立川支部で保管中のデジタルビデオカメラ1台及びデスクトップパソコン1式は,いずれも判示第5,第7,第11の各2の児童ポルノ製造の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,刑法19条1項2号による没収対象物に当たる。
  平成23年11月4日
    東京地方裁判所立川支部刑事第2部
        裁判長裁判官  毛利晴光
           裁判官  寺澤真由美
           裁判官  杉田時基