児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

就寝中の児童を脱がして撮影した行為につき、ひそかに製造罪(7条5項)とした原判決を法令適用の誤り・訴訟手続の法令違反で破棄して、姿態をとらせて製造罪(4項)に修正して減軽した事例(大阪高裁r05.1.24)

 就寝中の児童を脱がして撮影した行為につきひそかに製造罪(7条5項)とした原判決を法令適用の誤り・訴訟手続の法令違反で破棄して、減軽した事例(大阪高裁r05.1.24)
「同法7条5項の規定する児童ポルノのひそかに製造行為とは、隠しカメラの設置など描写の対象となる児童に知られることがないような態様による盗撮の手段で児童ポルノを製造する行為を指すと解されるが、同項が「前2項に規定するもののほか」と規定していることや同条項の改正経緯に照らせば、児童が就寝中等の事情により撮影の事実を認識していなくても、行為者が姿態をとらせた場合には、姿態をとらせ製造罪(同条4項)が成立し、ひそかに製造罪(同条5項)は適用されないと解される。」というのが高裁判例です。
 ひそかに製造罪の訴因中に「被告人が性器等を触る」とかが出ているので、姿態をとらせて製造罪の構成要件を満たしていました。
 捜査だとか言って警察からの問い合わせがありましたが、奈良地検奈良県警へお願いします。
 同種事案をひそかに製造罪とした判決が10件以上あって、検察官がそういう解釈になったのかなとも思いましたが、大阪高裁に回ってきたので修正してもらいました。判決理由はあっさりですが、控訴趣意書は600頁あるので、問い合わせがあっても回答できません。控訴審の検察官からは反論もなく訴因変更請求があったので、あっさり修正されました。
 多めの減軽になったのは、姿態をとらせて製造罪での審理をまともに受けないでその分を量刑するのが忍びないという考えじゃないかと思います。

阪高裁令和5年1月24日
判    決
 上記の者に対する強制性交等、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童買春・児童ポルノ処罰法」という。)違反、強制わいせつ、準強制わいせつ被告事件について、令和年月日奈良地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官和久本圭介出席の上審理し、次のとおり判決する。
主    文
 原判決を破棄する。
理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人奥村徹作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用するが、論旨は、理由齟齬、法令適用の誤り及び量刑不当である。そこで、記録を調査し、当審における事実の取調べの結果も併せて検討する。
第1 事案の概要
第2 理由齟齬・法令適用の誤りの控訴趣意について(控訴理由第2)
 所論は、原判示第8、第10、第12、第16、第18、第20、第23の各児童ポルノ製造について、各公訴事実の記載自体から被告人が各児童にそれぞれの姿態をとらせたことが明らかで、原判決も公訴事実どおりの事実を認定しているから、これらに対しては、姿態をとらせ製造罪を規定する児童買春・児童ポルノ処罰法7条4項のみが適用されるのに、ひそかに製造罪を規定する同法7条5項を適用した原判決には法令適用の誤りがあり、また、姿態をとらせ製造罪の事実を認定しながら同法7条5項を適用した点で理由齟齬があるというものである。
 原審記録によれば、起訴状記載の公訴事実のうち、ひそかに製造罪として起訴された各公訴事実(令和3年12月2日付け起訴状の公訴事実第2、令和4年2月16日付け起訴状の公訴事実第2、第4、第6、第8、第10、第12)は、同一機会に行われた各罪と合わせ考慮すると、就寝中のCの陰茎を露出させる姿態等(原判示第8、第16)、睡眠中のDの陰茎を露出させる姿態等(同第10、第18)、就寝中のEの陰茎を露出させる姿態等(同第12、第20)、就寝中のAの陰茎を露出させる姿態等(同第23)を、それぞれひそかに撮影して保存し児童ポルノを製造したとして公訴提起され、いずれも罰条として、児童買春・児童ポルノ処罰法7条5項、2項が摘示されていること(なお、令和4年2月16日付け起訴状の公訴事実第2、第4、第6、第8、第i0、第12については同法2条3項2号、3号を、令和3年12月2日付け起訴状の公訴事実第2については同法2条3項1号、2号、3号を、さらに摘示)、原審裁判所は、検察官に対しこの点について釈明を求めるなどはしなかったこと、原判決は、これらの事実について公訴事実どおりに認定し、起訴状の罰条と同じ法令を適用したことが認められる。
 しかし、同法7条5項の規定する児童ポルノのひそかに製造行為とは、隠しカメラの設置など描写の対象となる児童に知られることがないような態様による盗撮の手段で児童ポルノを製造する行為を指すと解されるが、同項が「前2項に規定するもののほか」と規定していることや同条項の改正経緯に照らせば、児童が就寝中等の事情により撮影の事実を認識していなくても、行為者が姿態をとらせた場合には、姿態をとらせ製造罪(同条4項)が成立し、ひそかに製造罪(同条5項)は適用されないと解される。
 したがって、検察官は、本来、上記各事実をいずれも姿態をとらせ製造罪として起訴すべきところを、誤ってひそかに製造罪が成立すると解し、同一機会の各事実と合わせると姿態をとらせたこととなる事実を記載しながら、「ひそかに」との文言を付して公訴事実を構成し、罰条には児童買春・児童ポルノ処罰法7条5項を上げた起訴状を提出し、原判決もその誤りを看過して、同様の事実認定をした上で、上記のとおりの適条をしたことが明らかである。このような原判決の判断は、判文自体から明らかな理由齟齬とまではいえないにせよ、法令の適用に誤りがある旨の所論の指摘は正しい。
 さらに、検察官のみならず、被告人や原審弁護人も、上記各事実に関してひそかに製造罪としての責任を問われているとの誤信の下で原審公判に臨んでいたものとうかがえるから、第1審裁判所としては、関係証拠に照らして認定できる事実に正しい適条をするだけではなく、検察官に釈明を求め、その回答如何によっては訴因変更請求を促すなどして、被告人及び原審弁護人の防御に遺漏がないよう手続を尽くすべきであったのに、原審はこうした手続を何ら行っていない。姿態をとらせ製造罪とひそかに製造罪とでは、法定刑は同じとはいえ、児童ポルノ製造罪における「姿態をとらせ」あるいは「ひそかに」という要件は、処罰根拠をなす重要部分に当たるから、この点について被告人や原審弁護人が誤解をしたままでは十分な防御の機会が与えられたと評価できず、原審の釈明義務違反は、判決に影響を及ぼすとみるべきである。
 以上から、原判決には、所論指摘の法令適用の誤り、さらには、訴訟手続の法令違反があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由がある。
第3 自判
(法令の適用)
 原判決の罰条のうち、「判示第8、第10、第12、第16、第18及び第20の各所為につきいずれも児童買春・児童ポルノ処罰法7条5項、2項、2条3項2号、3号」とあるのを、「判示第8、第10、第12、第16、第18及び第20の各所為につきいずれも児童買春・児童ポルノ処罰法7条4項、2項、2条3項2号、3号」と、「判示第23の所為につき児童買春・児童ポルノ処罰法7条5項、2項、2条3項1号、2号、3号」とあるのを、「判示第23の所為につき児童買春・児童ポルノ処罰法7条4項、2項、2条3項1号、2号、3号」と、それぞれ変更するほか、原判決のとおりの罰条(刑種の選択、併合罪の処理を含む。)を適用し、原審における未決勾留日数の算入につき刑法21条を、原審及び当審における訴訟費用を被告人に負担させないことにつき刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適用する。
(弁護人の主張に対する判断)
 弁護人は、当審における予備的な訴因変更手続に関し、控訴審における訴因変更は原則として禁止されており、罪名を誤った検察官や裁判所を訴因変更によって救済する必要はないし、姿態をとらせ製造罪への変更は、被告人にとって実質的に不利益な罪名変更であるから、許されないと主張する。しかし、一審判決に、事実誤認ないし法令違反があって、これが破棄されることが予想される場合に、控訴審裁判所が、検察官の訴因、罰条の追加変更を許すことは違法ではなく(参照・最高裁判所第1小法廷昭和42年5月25日判決刑集21巻4号705頁)、本件は、まさにこうした場合に該当するから、当審は、検察官の予備的な訴因変更請求を許可することができ、この点は、起訴検察官や原審裁判所が罪名についての判断を間違っていたこと等、弁護人指摘の事情によって左右されない。
 次に、弁護人は、原判示第1と第2、第7と第8、第9と第10、同第11と第12、同第13と第14、同第15と第16、同第17と第18、同第19と第20、同第22と第23は、いずれも同一機会における同じ被害児童に係る強制わいせつ等と児童ポルノ製造の犯行であり、行為が重なっているので観念的競合であると主張する。しかし、本件において、各撮影行為は、強制わいせつ等の実行行為として起訴されておらず、行為の内容が全く異なることなどからそれぞれ併合罪になると解される。また、弁護人は、原判示第3ないし第6の児童ポルノの公然陳列を包括一罪であると主張するが、各行為は、それぞれ機会を異にし(犯行日は、それぞれ、令和3年4月7日頃、13日頃、18日頃、29日頃)、同一の意思に基づくものともいえないことなどからすると、行為ごとに一罪をなすと解される。
(量刑の理由)

  令和5年1月24日
   大阪高等裁判所第5刑事部

       裁判長裁判官 坪井祐子
          裁判官 今井輝幸
          裁判官 奥山雅哉

露天温泉盗撮事案(静岡地裁R4.10.20)

露天温泉盗撮事案(静岡地裁R4.10.20)
 被害児童との関係で、被告人も匿名報道になっていました。

静岡地方裁判所
令和04年10月20日
 上記の者に対する、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和38年、兵庫県条例第66号)違反被告事件について、当裁判所は、検察官風間康宏及び私選弁護人吉村健一郎(主任)、同竹内瑞穂各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
1 被告人を懲役2年に処する。
2 未決勾留日数のうち30日をその刑に算入する。
3 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。

理由
(罪となるべき事実)
第1 被告人は、別紙記載の甲(当時15歳)が18歳未満であることを知りながら、令和元年5月4日頃、別紙記載の本件脱衣所において、入浴を終えて衣服を着けようとしていた甲の全裸の姿態を、ひそかに、自己が使用する小型カメラで動画撮影し、その電磁的記録である動画データを同カメラ内部の記録媒体に記録させて保存し、もってひそかに衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより、児童ポルノを製造した。
第2 被告人は、常習として、正当な理由がないのに、戊と共謀の上、令和2年3月14日午後1時34分頃から同日午後2時24分頃までの間、別紙記載の本件入浴施設周辺の山中において、当時、女性専用とされていた別紙記載の本件露天風呂に入浴中の別紙記載の乙(当時42歳)、丙(当時25歳)、丁(当時53歳)に対し、望遠レンズを接続させた動画撮影状態のビデオカメラを差し向けて撮影し、もって人が通常衣服等の全部若しくは一部を着けないでいるような場所に当該状態でいる人の姿態の映像を記録する目的で、写真機等を人に向けた。
(証拠の標目)
(法令の適用)
1 主刑
 (1) 構成要件及び法定刑を示す規定
 被告人の前記第1の行為は、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項、2項、2条3項3号に該当する。
 被告人の前記第2の行為は、刑法60条、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和38年、兵庫県条例第66号)15条2項、1項、3条の2第3項に該当するが、被告人には常習者の身分がないので、刑法65条2項により同条例15条1項の刑を科することとする。
 (2) 刑種の選択
 前記の各罪についてそれぞれ懲役刑を選択する。
 (3) 併合罪の処理
 以上は、刑法45条前段の併合罪であるから、刑法47条本文、10条により重い前記第1の罪の刑に刑法47条ただし書の制限内で法定の加重をする。
 (4) 宣告刑の決定
 後記の量刑の理由により以上の刑期の範囲内で被告人を懲役2年に処する。
2 未決勾留日数の算入
 刑法21条を適用して未決勾留日数のうち30日をその刑に算入する。
3 刑の執行猶予
 後記の量刑の理由により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
(量刑の理由)
 本件は、児童ポルノ製造1件及び盗撮による条例違反1件の事案である。
 法定刑の重い児童ポルノの事案についてみると、被告人は、かねてから着替え中や入浴中の盗撮画像等に性的興味を抱いていたところ、被害児童が一緒に泊まっていた機会を利用し、あらかじめ脱衣所に小型カメラを設置するなどして、着替え中の被害児童の裸を撮影して児童ポルノを製造しており、このような犯行は、計画的で巧妙であり、被害児童の心身の成長に有害な影響を与えるものであって、被害児童の母親が被告人に対して厳しい処罰を求めることも十分理解できる。
 盗撮による条例違反の事案についてみると、被告人は、盗撮サイトで知り合った共犯者と共謀し、知人女性らを露天風呂に誘い、共犯者をしてその入浴中の姿を盗撮させた上、その盗撮後の画像を共犯者から受け取っており、このような犯行は、被害者らの性的羞恥心を著しく害するものであって、被告人に常習性は認められないとしても、同種事案の中では軽く見ることができないものである。
 いずれの犯行も、自らの性的欲求を満たすためという身勝手かつ自己中心的な動機に基づく卑劣な犯行であり、被告人は厳しい非難を免れない。
 以上の重要な犯情を考慮すると、被告人に対しては、いずれの犯行も懲役刑を選択するのが相当であるが、同種事案における量刑傾向を踏まえて公平性の観点から検討すると、本件は、直ちに懲役の実刑を科すべき事案とまではいえない。
 そこで、被告人が、本件各犯行を認めて反省し、弁護人を通じて被害者の一部と示談を成立させた上、自らの心のゆがみを自覚し、医療機関による再犯防止のための心理教育プログラムを受け続ける旨誓っていること、被告人の母親が被告人の父親と共に同居して監督する旨証言していることなどの一般情状を考慮し、主文の刑を言い渡した上で、その刑の執行を猶予し、社会内で更生する機会を与えるのが相当と判断した。
(検察官の求刑意見 懲役2年)
(弁護人の量刑意見 刑の執行猶予)
刑事第1部
 (裁判官 國井恒志)
別紙(省略)

大竹依里子検事の「遠隔であってもオンラインで生中継させるなど脅迫行為と同時に撮影させる場合のみが強制わいせつ罪となる」という見解(研修876号)は通らなかった。(札幌高裁r5.1.19)


 「接触を伴わない強制わいせつ罪の成否を、接触を伴う強制わいせつ罪の成否と同様に考える必然性はないし、犯人が規範的にみて被害者の面前にいるとはいえない状況であっても、本件のように、被害者に要求して、その身体を性的な対象として利用できる状態に置き、それを記録化して被告人や第三者が知り得る状態に置くことで、接触を伴う強制わいせつ罪と同程度の性的侵害をもたらし得ることは明らかである」とか判示しています。
 検事によって温度差があるような気がします。

札幌高裁r5.1.19
 1 しかし、以下のとおり、所論は全て採用することができない。
 ①については、被告人は、Aに要求して、陰部等を露出した姿態をとらせ、これらをスマートフォンで撮影させているところ、その行為は、Aを性的意味合いの強い陰部等を露出した裸体にさせ、Aの身体を性的な対象として利用できる状態に置いた上、これを撮影させて記録化することで、その内容を被告人や第三者が知り得る状態に置くものであって、被告人がAに対して撮影した動画データを被告人に送信することも要求して撮影させており、その撮影させる行為自体にAがこの要求に従って動画データを送信して被告人がこれを閲覧することになる具体的な危険性が認められることも踏まえると、その性的侵害性は大きく、また、本件が、当時○○歳の男性である被告人が、SNSを通じて知り合いアプリケーションソフトを利用してやり取りをしていたという関係にすぎない当時13歳未満の女児であるAに対し、Aの陰部等を見たいなどというメッセージや男性が自慰行為をしている動画データを送信するなどする中でなされたものであることも踏まえると、その性的意味合いは強いというべきであるから、その行為が「わいせつな行為」に当たり、強制わいせつ既遂罪が成立すると判断した原判決に誤りはない。
 ②については、前記のとおり、原判決が、被告人がAに撮影させた動画データ4点を被告人のスマートフォンに送信させてサーバコンピュータ内に記録・保存させた行為を、強制わいせつ罪を構成する事実として認定したとは認められず、Aに動画データを送信・記録させる行為に及ぶと、Aに撮影させた点を含めて行為全体がわいせつ行為とは評価できなくなるなどというのは、所論独自の見解であって、採用の限りではない(なお、所論指摘の裁判例は、そのような趣旨を判示したものとは解されない。)。
 ③については、接触を伴わない強制わいせつ罪の成否を、接触を伴う強制わいせつ罪の成否と同様に考える必然性はないし、犯人が規範的にみて被害者の面前にいるとはいえない状況であっても、本件のように、被害者に要求して、その身体を性的な対象として利用できる状態に置き、それを記録化して被告人や第三者が知り得る状態に置くことで、接触を伴う強制わいせつ罪と同程度の性的侵害をもたらし得ることは明らかであるから、所論は採用できない。
 ④については、刑法176条後段の強制わいせつ罪は、被害者の承諾がある場合も含め、13歳未満の男女にわいせつな行為をすることで成立するところ、本件において被告人が当時歳のAに対して行った行為がわいせつな行為に当たることは前記のとおりであり、それ以外の要件として被害者の道具性が要求されるとする所論は、独自の見解であって採用できない。
 ⑤については、本件において、Aに陰部等を露出した姿態をとらせてこれを撮影させるという強制わいせつ罪に当たる行為は、Aに陰部等を露出した姿態をとらせてこれを撮影させた上、その動画データを被告人のスマートフォンに送信させて、サーバコンピュータ内に記録・保存させるという児童ポルノ製造罪に当たる行為に包摂されていること、被告人は当初から撮影後に動画データを送信することも要求しており、撮影から送信、保存・記録までがほぼ同時刻に行われていること、一般に本件のような態様のわいせつ行為は、撮影された画像の内容を行為者等が知り得る状態に置くことを意図して行われるものと考えられることも踏まえると、両行為は通常伴う関係にあり、自然的観察の下で社会的見解上1個のものであると評価することができるから、両罪を観念的競合とした原判決に誤りがあるとはいえない(なお、所論指摘の裁判例は、いずれも本件とは事案を異にするものである。)。

控訴理由
法令適用の誤り~研修876号の大竹依里子検事の見解では「遠隔であってもオンラインで生中継させるなど脅迫行為と同時に撮影させる場合のみが強制わいせつ罪となる」とされているが、本件では、要求行為に遅れて撮影行為がされているから、わいせつ行為にはならない
1 大竹依里子検事(研修876号)の見解
 遠隔で撮影させる行為が「わいせつ行為」になるにしても、撮影だけなのか、送信させる行為も含むのかについては、いろいろな考え方があるところ、研修876号では、
生中継させた場合には、

「犯人が遠隔地にいるからといって,自己の裸を他人の目に直接さらすということに違いはなく,遠隔地でオンラインでつながっていることは,規範的に見て,目の前にいることと違いはないという結論に至りました。」

という強気な見解である一方、
撮影・送信させる場合には

「被害者に自分の裸を撮影させて,後でその動画を送らせる,すなわち,裸の動画を撮影している際には,犯人が被害者の面前にいるとは規範的にも言えない場合は,わいせつな行為に当たるかも検討しました。これについては,接触を伴う強制わいせつにおいては,犯人が被害者の面前にいることが前提にされていることから,非接触の強制わいせつにおいても,犯人が規範的に見て,被害者の目の前にいると言えなければ,わいせつな行為に当たらないという意見」
「遠隔地にいる被害者を脅迫して,被害者の裸の写真を送らせた行為について,強制わいせつ罪で逮捕状を請求したところ,これを却下された事例があるという報告もありましたが‘この裁判官も上述したのと同じ理由で。強制わいせつ罪に該当しないと判断したものと思われます

と弱気な見解となっている。

大竹依里子「オンラインで,児童を裸にさせ,動画撮影させた行為について,強制わいせつ罪で処理した事例」 研修876号
第2 本事例の概要及び原庁での処理内容等
本事例は,被告人が,当時10歳ないし11歳の児童4名(以下,「被害児童」という。)に対し,オンラインゲーム上で使用できるアイテム等を交付することの対価として,被害児童がその陰部等を露出したり,手で陰部を触るなどの姿態を撮影させ,撮影させた映像を,被害児童の携帯電話機のビデオ通話機能を使用して,被疑者の携帯電話機にライブ配信させた上,同映像を被疑者の携帯電話機本体に記録して保存した事案です。
原庁は,本件について,児童ポルノ製造罪だけでなく,強制わいせつ罪も成立するとして,両罪で公判請求し,一審の判決も公訴事実どおりの罪を認定しました。

 遠隔の医療行為に配慮したようだ。

しかし,陰部を直接撮影していたとしても,医師が治療行為の一環として,陰部にできた腫瘍を記録・保存する行為を想定したとすると,わいせつな行為だというのは,違和感を覚えます。

 そこで本件でも強制わいせつ罪の訴因は「撮影させ」に留まっている。

 大竹検事に問い合わせると、研修の事案は熊本地裁R3.1.13*1だという。刑事確定訴訟記録法で閲覧したところ、児童がLINEで裸体を生中継して、被告人が同時に視聴した事案を強制わいせつ罪(176条後段)にしたものである。(さらにこれを1号ポルノ(性交・性交類似行為)で起訴した模様である。)

第1 a10にわいせつ行為しようと企て
h30.10.6 1131~1153まで
の被告人方から
aに対して 被告人が使用する携帯電話機を使用してaの携帯電話機にLINEのビデオ通話を使用して
全裸で陰部等を露出したaの姿態 及び陰部を手で触る姿態を撮影して被告人が使用する携帯電話に動画配信するように要求し
そのころ児童方において aに衣服を脱がせて全裸で陰部等露出した姿態 及び陰部を手で直接触る姿態を取らせて
これをaが使用する携帯で撮影させ、もって13未満にわいせつ行為をし、強制わいせつ罪(176条後段)

 生中継だから、同時であって、面前のわいせつ行為と同評価できるというのである。

 この研修の見解に従えば、本件では、脅迫行為と、撮影行為とは少し時間がズレているので、強制わいせつ罪に該当しない。
 にもかかわらず強制わいせつ罪を認めた原判決には法令適用の誤りがあるから原判決は破棄を免れない。

2 本件での要求行為と撮影行為の時間的間隔
 ちょっとズレているので、

接触を伴う強制わいせつにおいては,犯人が被害者の面前にいることが前提にされていることから,非接触の強制わいせつにおいても,犯人が規範的に見て,被害者の目の前にいると言えなければ,わいせつな行為に当たらないという意見

に従えば、規範的にみて、被害者の目の前にいると言えないから、わいせつな行為に当たらない
■■■■■■■証拠■■■■■■■■■
 要求文言と撮影行為とは時刻的には重なっていない
 しかも、送信させた行為・受信した行為は起訴されていないから、被告人の目前で乳房露出して撮影したとは言えない。
 しかも、研修の事例では、陰部露出しろとか、陰部触れとか指示した上で、その模様を生中継させた事案だが、本件は乳房露出画像を送れと求めたに留まる事案であるから、同程度とは評価できない。

大竹依里子「オンラインで,児童を裸にさせ,動画撮影させた行為について,強制わいせつ罪で処理した事例」 研修876号
第2 本事例の概要及び原庁での処理内容等
本事例は,被告人が,当時10歳ないし11歳の児童4名(以下,「被害児童」という。)に対し,オンラインゲーム上で使用できるアイテム等を交付することの対価として,被害児童がその陰部等を露出したり,手で陰部を触るなどの姿態を撮影させ,撮影させた映像を,被害児童の携帯電話機のビデオ通話機能を使用して,被疑者の携帯電話機にライブ配信させた上,同映像を被疑者の携帯電話機本体に記録して保存した事案です。

3 裁判例
 たしかに生中継させる強制わいせつ(176条後段)事案で、オンラインで送信させた事案が公開されている。
 裁判所の見解でも要求行為と撮影行為は同時に行われなければならない。

長崎地裁R1.9.17
第一法規『D1-Law.com 判例体系』 【判例ID】
28274224
【裁判年月日等】
令和1年9月17日/長崎地方裁判所刑事部/判決/平成30年(わ)248号/平成31年(わ)12号
【事件名】
強制わいせつ、長崎県少年保護育成条例違反被告事件
(犯罪事実)
第1 被告人は、A(当時16歳)から入手した同人の画像データ等を利用して強いてわいせつな行為をしようと考え、平成30年10月26日午後10時6分頃から同月27日午前2時21分頃までの間に、D市内又はその周辺において、自己の携帯電話機及びタブレットから、同人が使用する携帯電話機に、アプリケーションソフト「E」の通話機能及びビデオ通話機能を利用して通信し、D市内にいた同人に対し、「写真を援助交際サイトに載せる。」「学校や家の近くに何人かの人が来る。」「連れていかれたことがある。」などと脅迫し、もしこの要求に応じなければAの自由や名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨畏怖させ、その反抗を著しく困難にし、ビデオ通話機能を通じて、同人に胸や陰部を露出した姿態及び陰部を指で触るなどした姿態をとるよう指示し、同人にそれをさせた上、その姿態の映像を前記ビデオ通話機能を用いて被告人の携帯電話機に送信させ、もって強いてわいせつな行為をした。

13歳未満の児童をして撮影送信した事例について「本件は「被害者を利用した間接正犯」になっていなければ強制わいせつ罪の正犯とはなり得ないところ、公訴事実においても罪となるべき事実においても、被害者Aは道具化していないから、間接正犯になっていないから、強制わいせつ罪は成立せず、準強制わいせつ罪になる」という立石検事の主張が排斥された事例(札幌高裁r5.1.19)

 強要罪で起訴された事例で立石検事は道具性がないとか反論していたので、強制わいせつ罪(176条後段)でそのまま主張したら、×でした。

札幌高裁r5.1.19
3については、接触を伴わない強制わいせつ罪の成否を、接触を伴う強制わいせつ罪の成否と同様に考える必然性はないし、犯人が規範的にみて被害者の面前にいるとはいえない状況であっても、本件のように、被害者に要求して、その身体を性的な対象として利用できる状態に置き、それを記録化して被告人や第三者が知り得る状態に置くことで、接触を伴う強制わいせつ罪と同程度の性的侵害をもたらし得ることは明らかであるから、所論は採用できない。
4については、刑法176条後段の強制わいせつ罪は、被害者の承諾がある場合も含め、13歳未満の男女にわいせつな行為をすることで成立するところ、本件において被告人が当時8歳のAに対して行った行為がわいせつな行為に当たることは前記のとおりであり、それ以外の要件として被害者の道具性が要求されるとする所論は、独自の見解であって採用できない。

控訴理由 法令適用の誤り~強制わいせつ罪では被害者の行為を利用して実現されることは予定されていない。立石検事の主張によれば、本件は「被害者を利用した間接正犯」になっていなければ強制わいせつ罪の正犯とはなり得ないところ、公訴事実においても罪となるべき事実においても、被害者Aは道具化していないから、間接正犯になっていないから、強制わいせつ罪は成立せず、準強制わいせつ罪であること
1 自ら,直接手を下さず,人を道具のように利用して犯罪を実行することを間接正犯という
 強制わいせつ罪は、「者にわいせつ行為をした者は」という法文であるから、犯人自らが、犯罪実現の現実的危険性を有する行為を自ら行うのが原則であって、他人を介する場合には、間接正犯を検討する必要がある。

第一七六条(強制わいせつ)
 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

間接正犯
1 意義 自ら,直接手を下さず,人を道具のように利用して犯罪を実行することをいう。例えば,医師が事情を全く知らない看護師を利用して患者に毒物を飲ませるとか,情を知らない郵送機関を利用して,毒殺のための毒物を郵送する(大判大正7・11・16刑録24・1352)など,構成要件要素としての故意がない者を利用する間接正犯の例は多い。行使の目的のない他人を利用して通貨を偽造させたり(目的なき故意ある道具),公務員が非公務員を利用して虚偽文書を作成させるような場合(身分なき故意ある道具)も間接正犯とされる。被利用者の適法行為を利用する間接正犯(大判大正10・5・7刑録27・257),被害者の行為を利用する間接正犯(最決平成16・1・20刑集58・1・1)も認められる。いわゆる「故意ある幇助的道具」(故意はあるが正犯者の意思を欠き,もっぱら利用者を幇助する意思で行おうとする者)を利用する行為も間接正犯である(最判昭和25・7・6刑集4・7・1178)。
[株式会社有斐閣 法律学小辞典第4版補訂版]

 本件は、被告人は撮影せず、Aを介して裸体を撮影しているから、間接正犯にほかならない。
 
2 強制わいせつ罪の公訴事実は被害者を利用した間接正犯のような記載であること
 Aをして「「LINE」を使用して、陰部等を露出した姿態をとって撮影し、被告人が使用するスマートフォンに送信するよう要求し、その頃、北海道内のA方において、Aに陰部等を露出した姿態をとらせ、これらをAが使用するスマートフォンで撮影させた」という記載だから、「自ら,直接手を下さず,人を道具のように利用して犯罪を実行すること」であって間接正犯構成である。

3 被害者を利用した間接正犯だとして、要求行為によって道具と化していないこと
 8才といっても、スマートホンやLINEを使う能力がある。これでは間接正犯理論の道具と化していない。公訴事実でも罪となるべき事実でも道具となっている主張とは読めない。
 被害者を利用した間接正犯の事例*1では、12才を継続的な脅迫等により支配していたような関係が要件となっているようである。会ったことも無くLINEのやりとりをしていただけの関係では、正犯と同視できない。
条解刑法

条解刑法p574

 最初から本件でのLINEの履歴(■■■■■■■■■■■■■■■■)を見ても、道具化は認められない。
①要求以前
 要求とされる言動はあるものの、AはLINE上で、自分の意思でポーズ取って、撮影・送信するというある程度手間の掛かる行為を行っていて、道具とは化していない。
甲3

 これでは被害者を利用した間接正犯における道具化しているとは言えない

4 暴行脅迫により被害者自らに恥ずかしい姿態を「撮影させた」から強制わいせつ罪になるわけではない。という立石検事の答弁書は正解である。
 裸体行為を撮影送信させた行為を強要罪であって強制わいせつ罪ではないという高裁判例は幾つかあるが、強要被告事件の控訴事件では検察官は、「撮影する行為と撮影させる行為は違い、撮影させる行為はわいせつ行為にはならない」と繰り返し主張していた。
名古屋高裁金沢支部H27.7.23(富山地裁高岡支部h27.3.3)
名古屋高裁金沢支部H27.7.23(福井地裁h27.1.8)

 検察官答弁書控訴審判決に引用されて判決の一部を構成しているので紹介しておく。
名古屋地裁金沢支部の検察官答弁書h27.7.23
名古屋地裁金沢支部の検察官答弁書h27.7.23

 コピペの答弁書なので、該当部分を引用しておく

名古屋地裁金沢支部の検察官答弁書h27.7.23
 被告人自らが撮影する場合と,被害者に撮影させる場合とでは,被害者にとってみれば,他人に自らの恥ずかしい姿態を撮影されることと,自らがそれと知りつつ撮影することの違いが生じているのであって,その性的差恥心の程度には格段の差があり,必然的に強制わいせつ罪の保護法益である「性的自由」の侵害の程度も両態様を比較すれば大きく異なる。
 かかる差は強制わいせつ罪における「わいせつ行為」か否かの判断においては重要な要素を占めているものと思われるのであり,被害者の恥ずかしい姿態を被告人自ら撮影する行為がわいせつ行為であると認定されたとしても,被害者に恥ずかしい姿態を撮影させる行為をもって,直ちに強制わいせつ行為であると認定するには躊躇せざるを得ない。弁護人が縷々掲げる判例,裁判例が存在するにもかかわらず,これまで,本件のみならず,暴行脅迫により被害者自らに恥ずかしい姿態を「撮影させた」事案は多数件にわたり発生しているものと思われるところ,かかる事案を強制わいせつ罪として積極的に処断した事例はほとんどないものと思われるが,それはかかる理由によるものであろう。
ウ この点,弁護人は,「被害者を強要して撮影させる行為も間接正犯と構成するまでもなく,性的意図を満たす行為であれば,わいせつ行為である」とのみ記載する。弁護人が「間接正犯と構成するまでもなく」との文言の意味は定かではないが,間接正犯として構成できるかどうかは,実際に撮影した者が被害者自身であっても,行為者自らが「撮影する行為」として認定できるかどうかの分水嶺であるほど重要な争点であって,およそ「間接正犯と構成するまでもなく」の一言で片付けられる事情ではない。また,強制わいせつの間接正犯が成立するような場合は,むしろ準強制わいせつ罪の対象になるものと思われる。しかしながら,本件の事実関係を前提にするならば,およそ準強制わいせつ罪の成否が問題となる事案ではなく,また,間接正犯の成立が考えられる事案でもないことは明らかである。この点につき,弁護人何ら理由が示されていない。加えて,「性的意図を満たす行為」であればわいせつ行為である旨の論旨はおよそ理由がない。

 立石検事の答弁は、撮影させる行為は、強制わいせつ罪の間接正犯の問題(被害者を利用する間接正犯)になって、LINEでちょっと怖いこと言ったぐらいでは道具になっていないので、強制わいせつ罪の間接正犯にはならない(強要罪が正解)という点では、弁護人の主張と同じである。

5 原判決
 原判決は、もともと、被害者に行為を要求する場合も「わいせつ行為」(単独正犯)と評価できるという独自の見解なのかもしれない。そんなのは初耳である。

 この判決の論理に従うなら、被害者を利用した間接正犯として議論される「自殺強要」*2はすべて殺人罪の単独正犯として処理されることになる。
 このように被害者を利用した間接正犯の事例では、継続的な脅迫等により支配していたような関係が要件となっているようである。会ったことも無くLINEのやりとりをしていただけの関係では、正犯と同視できない。

6 まとめ
 立石検事の主張によれば、本件は「被害者を利用した間接正犯」になっていなければ強制わいせつ罪の正犯とはなり得ないところ、被害者Aは道具化していないから、間接正犯になっていないから、強制わいせつ罪は成立せず、せいぜい準強制わいせつ罪である
 しかるに、強制わいせつ罪の間接正犯を検討せずに、強制わいせつ罪を認めた点で、原判決には法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない。

Aに陰部等を露出した姿態をとらせてこれを撮影させるという強制わいせつ罪に当たる行為は、Aに陰部等を露出した姿態をとらせてこれを撮影させた上、その動画データを被告人のスマートフォンに送信させて、サーバコンピュータ内に記録・保存させるという児童ポルノ製造罪に当たる行為に包摂されていること~~両行為は通常伴う関係にあり、自然的観察の下で社会的見解上1個のものであると評価することができるから、両罪を観念的競合とした原判決に誤りがあるとはいえない(札幌高裁r05.1.19)

被害者を脅迫してその乳房,性器等を撮影させ,その画像データを送信させ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録して児童ポルノを製造した場合においては,強要罪に触れる行為と3項製造罪に触れる行為に一部重なる点があるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないこと,両行為の性質等を考慮すると,両行為は社会的見解上別個のものと評価すべきであるとして,併合罪の関係にある(東京高裁h28.2.19)けれど、13歳未満に陰部等を露出した姿態をとらせてこれを撮影させるという強制わいせつ罪に当たる行為は~~、両行為は通常伴う関係にあり、自然的観察の下で社会的見解上1個のものであると評価することができるから、両罪を観念的競合とした原判決に誤りがあるとはいえない(札幌高裁r05.1.19)

 なお、わいせつ性に関する「独自の見解」は、いずれも検察官の論稿や別件の検察官の主張です。

札幌高裁事件の控訴理由
控訴理由第6 法令適用の誤り・理由不備~被害者をして撮影させる行為が「わいせつ行為」だとしても、送信させる・蔵置させる行為・画像を見る行為は「わいせつ行為」でないし、送信させる・蔵置させる行為まで及ぶと撮影させた点も含めて、全体としてわいせつ行為とは評価できない 64
1 はじめに 64
2 強制わいせつ罪の訴因は「撮影させ」までであるのに、原判決は罪数処理の記載で、「本件は、直接的にわいせつな行為をしつつその様子を撮影・記録したような事案とは異なり、物理的に離れた場所にいる相手に性的な姿態をとらせて撮影させた上、その映像を送信・記録させ、この映像を見ることによって性的欲求を満たそうとした事案である。」「本件のような一連の行為態様で被害者が性的自由を侵害されるのは、児童ポルノ法7条4項の製造罪の構成要件ともなっている性的な「姿態をとらせ」られるとともに、撮影される際、その映像が記録されるなどして他者の目にさらされる可能性が想定される」として、強制わいせつ罪として、送信・記録・被告人が見た点まで考慮していること 64
3 撮影までならわいせつ行為となりうるのだが、送信・記録させる行為に及ぶと全体としてわいせつ行為とは評価できなくなるという判例(東京高裁h28.2.19 広島高裁岡山支部H22.12.15)。 66
広島高裁岡山支部H22.12.15*56(一審判決 岡山地裁H22.8.13*57) 68

控訴理由第7 法令適用の誤り~研修876号の大竹依里子検事の見解では「遠隔であってもオンラインで生中継させるなど脅迫行為と同時に撮影させる場合のみが強制わいせつ罪となる」とされているが、本件では、要求行為に遅れて撮影行為がされているから、わいせつ行為にはならない 70
1 大竹依里子検事(研修876号)の見解 70
2 本件での要求行為と撮影行為の時間的間隔 73
3 裁判例 74
長崎地裁R1.9.17 74

控訴理由第8 法令適用の誤り~強制わいせつ罪では被害者の行為を利用して実現されることは予定されていない。立石検事の主張によれば、本件は「被害者を利用した間接正犯」になっていなければ強制わいせつ罪の正犯とはなり得ないところ、公訴事実においても罪となるべき事実においても、被害者Aは道具化していないから、間接正犯になっていないから、強制わいせつ罪は成立せず、準強制わいせつ罪であること 75
1 自ら,直接手を下さず,人を道具のように利用して犯罪を実行することを間接正犯という 75
2 強制わいせつ罪の公訴事実は被害者を利用した間接正犯のような記載であること 76
3 被害者を利用した間接正犯だとして、要求行為によって道具と化していないこと 76
①要求以前 77
4 暴行脅迫により被害者自らに恥ずかしい姿態を「撮影させた」から強制わいせつ罪になるわけではない。という立石検事の答弁書は正解である。 77
5 原判決 79
6 まとめ 80

札幌高裁令和5年1月19日 
判    決
 上記の者に対する強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、令和4年9月14日札幌地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官白坂裕之出席の上、審理し、次のとおり判決する。
主    文
 本件控訴を棄却する。
理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人奥村徹作成の控訴趣意書並びに令和5年1月6日付け及び同月13日付け各控訴趣意補充書に、これに対する答弁は、検察官白坂裕之作成の答弁書に、それぞれ記載のとおりである。論旨は、不告不理、理由不備、訴訟手続の法令違反、法令適用の誤り及び量刑不当の主張である。


第1 不告不理の論旨について
 1 本件は、被告人が、被害者(当時13歳未満、以下「A」という。)が13歳未満であることを知りながら、4回にわたり、Aに対し、スマートフォンのアプリケーションソフトを使用して、陰部等を露出した姿態をとって撮影し、被告人のスマートフォンに送信するよう要求し、Aに陰部等を露出した姿態をとらせ、これらをスマートフォンで撮影させた上、その動画データ4点を、被告人のスマートフォンに送信させて、サーバコンピュータ内に記録・保存させた、という事案である。
 2 所論は、原判示の罪となるべき事実のうち、Aに撮影させた動画データ4点を被告人のスマートフォンに送信させ、サーバコンピュータ内に記録・保存させたという部分は、強制わいせつ罪としては起訴されていないのに、原判決は、当該部分を含めて強制わいせつ罪と認定しているから、審判の請求を受けない事件について判決をしたものであり、不告不理の違法がある旨主張する。
 3 確かに、原判示の罪となるべき事実のみを読めば、所論指摘の部分も強制わいせつ罪を構成する事実として認定したものと解釈することも可能とは思われる。しかし、原判決の法令の適用についての補足説明の項も併せて読めば、罪となるべき事実の記載は、併合罪関係にある別個の訴因として起訴された強制わいせつの事実と児童ポルノ製造の事実を、両罪が観念的競合の関係にあるものと解して、一体的に記載したものと認められ、原判決は、所論指摘の部分について強制わいせつ罪を構成する事実として認定したものではないと認められるから、原判決に不告不理の違法がないことは明らかである。所論は採用できず、論旨は理由がない。


第4 法令適用の誤りの論旨について
 1 所論は、①被告人が遠隔地にいるAに裸体を撮影させた行為は、性的侵襲が弱く、それだけでは被告人は全く性的興奮を得られないから、性的意味合いは皆無か、極めて薄く、わいせつな行為に該当しない、あるいは、強制わいせつ未遂罪が成立するにとどまる、②原判決は、罪数処理の記載で、被告人が、Aに撮影させた動画データを被告人に送信させて、保存・記録させ、被告人がその動画を見たことまでわいせつ行為と評価しているが、これらはわいせつ行為にならないし、Aに撮影させた行為までであればわいせつ行為となり得るとしても、Aに動画データを送信記録させる行為に及ぶと、Aに撮影させた点を含めて行為全体がわいせつ行為とは評価できなくなる、③接触を伴う強制わいせつ罪においては、犯人が被害者の面前にいることが前提とされているから、非接触の強制わいせつ罪においても、犯人が規範的にみて被害者の目の前にいるといえなければ、わいせつな行為に当たらないと解されるところ、本件では、要求行為に遅れて撮影行為がされており、規範的にみて被告人がAの目の前にいるとはいえず、わいせつな行為に当たらない、④本件は、Aを利用した間接正犯になっていなければ、強制わいせつ罪の正犯とはなり得ないところ、Aは道具化しておらず、間接正犯になっていないから、強制わいせつ罪は成立せず、せいぜい準強制わいせつ罪が成立するにとどまる、⑤原判決は本件の強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を観念的競合としているが、両罪は包括一罪である、などと指摘して、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある旨主張する。
 2 しかし、以下のとおり、所論は全て採用することができない。
 ①については、被告人は、Aに要求して、陰部等を露出した姿態をとらせ、これらをスマートフォンで撮影させているところ、その行為は、Aを性的意味合いの強い陰部等を露出した裸体にさせ、Aの身体を性的な対象として利用できる状態に置いた上、これを撮影させて記録化することで、その内容を被告人や第三者が知り得る状態に置くものであって、被告人がAに対して撮影した動画データを被告人に送信することも要求して撮影させており、その撮影させる行為自体にAがこの要求に従って動画データを送信して被告人がこれを閲覧することになる具体的な危険性が認められることも踏まえると、その性的侵害性は大きく、また、本件が、当時○○歳の男性である被告人が、SNSを通じて知り合いアプリケーションソフトを利用してやり取りをしていたという関係にすぎない当時13歳未満の女児であるAに対し、Aの陰部等を見たいなどというメッセージや男性が自慰行為をしている動画データを送信するなどする中でなされたものであることも踏まえると、その性的意味合いは強いというべきであるから、その行為が「わいせつな行為」に当たり、強制わいせつ既遂罪が成立すると判断した原判決に誤りはない。
 ②については、前記のとおり、原判決が、被告人がAに撮影させた動画データ4点を被告人のスマートフォンに送信させてサーバコンピュータ内に記録・保存させた行為を、強制わいせつ罪を構成する事実として認定したとは認められず、Aに動画データを送信・記録させる行為に及ぶと、Aに撮影させた点を含めて行為全体がわいせつ行為とは評価できなくなるなどというのは、所論独自の見解であって、採用の限りではない(なお、所論指摘の裁判例は、そのような趣旨を判示したものとは解されない。)。
 ③については、接触を伴わない強制わいせつ罪の成否を、接触を伴う強制わいせつ罪の成否と同様に考える必然性はないし、犯人が規範的にみて被害者の面前にいるとはいえない状況であっても、本件のように、被害者に要求して、その身体を性的な対象として利用できる状態に置き、それを記録化して被告人や第三者が知り得る状態に置くことで、接触を伴う強制わいせつ罪と同程度の性的侵害をもたらし得ることは明らかであるから、所論は採用できない。
 ④については、刑法176条後段の強制わいせつ罪は、被害者の承諾がある場合も含め、13歳未満の男女にわいせつな行為をすることで成立するところ、本件において被告人が当時13歳未満のAに対して行った行為がわいせつな行為に当たることは前記のとおりであり、それ以外の要件として被害者の道具性が要求されるとする所論は、独自の見解であって採用できない。
 ⑤については、本件において、Aに陰部等を露出した姿態をとらせてこれを撮影させるという強制わいせつ罪に当たる行為は、Aに陰部等を露出した姿態をとらせてこれを撮影させた上、その動画データを被告人のスマートフォンに送信させて、サーバコンピュータ内に記録・保存させるという児童ポルノ製造罪に当たる行為に包摂されていること、被告人は当初から撮影後に動画データを送信することも要求しており、撮影から送信、保存・記録までがほぼ同時刻に行われていること、一般に本件のような態様のわいせつ行為は、撮影された画像の内容を行為者等が知り得る状態に置くことを意図して行われるものと考えられることも踏まえると、両行為は通常伴う関係にあり、自然的観察の下で社会的見解上1個のものであると評価することができるから、両罪を観念的競合とした原判決に誤りがあるとはいえない(なお、所論指摘の裁判例は、いずれも本件とは事案を異にするものである。)。
第6 結論
 よって、刑事訴訟法396条、181条1項ただし書、刑法21条により、主文のとおり判決する。
  令和5年1月19日
 札幌高等裁判所刑事部
   裁判長裁判官 成川洋司
      裁判官 並河浩二
      裁判官 牛島武人

 被害者をして撮影・送信させる行為はわいせつ行為にはならない。強要罪と製造罪とは併合罪というのが、従前の高裁判例でした

判例番号】L07120170
      強要,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
【事件番号】東京高等裁判所判決/平成27年(う)第1766号
【判決日付】平成28年2月19日

【出  典】判例タイムズ1432号134頁

 1 本件は,被告人が,被害者が18歳に満たない児童であることを知りながら,同女に対し,要求に応じなければその名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して,乳房,性器等を撮影してその画像データをインターネットアプリケーションを使用して送信するよう要求し,畏怖した被害者にその撮影,画像データの送信をさせ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録し,もって被害者に義務のないことを行わせるとともに,児童ポルノを製造した,という事案である。事実についての争いはなく,原審においては,情状についての主張のみがされていたようである。
 原判決は,争いのない公訴事実をそのまま認定し,被害者に義務のないことを行わせた強要罪児童ポルノを製造した平成26年法律第79号による改正前(本件は,改正法施行前の事案であった。)の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の罪(以下「3項製造罪」という。)の成立を認めた。そして,これらの罪数関係について,観念的競合の関係にあるとの法令の適用に係る判断を示した上で,被告人に懲役2年・3年間執行猶予の判決を言い渡した。
 これに対して控訴が申し立てられたところ,本判決は,弁護人の多岐にわたる控訴趣意についてはいずれについても理由がないとしたが,職権で,原判決の罪数に関する上記判断について,誤りがあると指摘したものである。
 2 この判断に係る部分を具体的に説明すると,原判決は,本件における強要罪と3項製造罪の関係について,実行行為の重なり合いの程度,両行為が通常伴う関係にあるか,社会的事実としての一体性・同質性があるか,といった観点から詳細な検討を加え,刑法54条1項前段の観念的競合に当たるものと判断していたものである。
 これに対し,本判決は,本件のように被害者を脅迫してその乳房,性器等を撮影させ,その画像データを送信させ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録して児童ポルノを製造した場合においては,強要罪に触れる行為と3項製造罪に触れる行為に一部重なる点があるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないこと,両行為の性質等を考慮すると,両行為は社会的見解上別個のものと評価すべきであるとして,併合罪の関係にあるとの判断を示した。
 なお,本判決は,このように法令適用の誤りを指摘したものの,この誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえないとして,控訴は棄却した。
 3 本件は,強要罪と3項製造罪の罪数関係について,観念的競合の関係にあるか否かで,第一審と控訴審の判断が分かれたものであるが,この判断はそれほど容易なものではない。
 刑法54条1項前段にいう「1個の行為」の意義については,「法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで,行為者の動態が社会的見解上1個のものとの評価をうける場合をいう」とされるが
最大判昭49.5.29刑集28巻4号114頁,判タ309号234頁),この判断基準自体に抽象的な面があるため,なお具体的な罪数判断の場面において,事案ごとに上記基準にいう「1個の行為」性が肯定
できるか否かを判断するほかないのである。
 この点,各種性犯罪と児童ポルノを製造する罪との関係については,3項製造罪の場合も含め,併合罪とする高裁判例が多数を占めていたところ(三浦透・最高裁判所判例解説刑事篇平成21年度〔法曹会〕477
頁以下参照),最高裁は,被害児童に性交又は性交類似行為をさせて撮影することをもって児童ポルノを製造した場合において,児童福祉法34条1項6号に触れる児童に淫行をさせる行為と3項製造罪に触れる行為
とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや,両行為の性質等にかんがみると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるとして,両罪が観念的競合の
関係にはなく,併合罪の関係にあるとの判断を示した(最一小決平21.10.21刑集63巻8号1070頁,判タ1326号134頁)。
 児童ポルノを製造する罪は,上記最高裁決定の事案である児童福祉法34条1項6号に触れる児童に淫行をさせる罪のほか,強姦罪,強制わいせつ罪,青少年保護育成条例にいう淫行をさせる罪などとともに犯され
ることも多いが,上述したとおり,「1個の行為」性が肯定できるか否かは事案ごとの判断となるため,上記最高裁決定後,こうした罪と児童ポルノを製造する罪との罪数について,いかなる判断がされるかについて
は,事例の集積が待たれるところである。
 本判決は,強要罪と3項製造罪の関係についても,上記最高裁決定と同様の罪数判断をした高裁レベルの判決として一事例を加えるもので,参照価値があるものと思われる。
 なお,本判決のほか,強要罪と3項製造罪の関係について,本判決同様,併合罪の関係にあるとの判断をした高裁判決として,広島高裁岡山支部平成22年12月15日判決(高等裁判所刑事裁判速報集平成22年
度182頁)がある。

判例番号】L07120170

      強要,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件

【事件番号】東京高等裁判所判決/平成27年(う)第1766号
【判決日付】平成28年2月19日
【判示事項】強要罪と平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の児童ポルノ製造罪とが併合罪の関係にあるとされた事例
【参照条文】刑法45前段
      刑法54-1前段
      刑法223-1
      児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平26法79号改正前)7-3
【掲載誌】 判例タイムズ1432号134頁
      LLI/DB 判例秘書登載

       主   文

 本件控訴を棄却する。

       理   由

 弁護人奥村徹の控訴趣意は,訴訟手続の法令違反,法令適用の誤りおよび量刑不当の主張であり,検察官の答弁は,控訴趣意にはいずれも理由がない,というものである。
 1 法令適用の誤りおよび訴訟手続の法令違反の主張について
 論旨は,要するに,原判決が強要罪に該当するとして認定した事実は,それだけでも強制わいせつ罪を構成するから,強要罪が成立することはないにもかかわらず,これを強要罪であるとして刑法223条を適
用して有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり,また,原判決が平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰および児童の保護等に
関する法律7条3項の罪(以下「3項製造罪」という。)に該当するとして認定した事実も,実質的には強制わいせつ罪に当たり,以上の実質的に強制わいせつ罪に該当する各事実について,告訴がないまま起訴
することは,親告罪の趣旨を潜脱し,違法であるから,公訴棄却とすべきであるのに,実体判断を行った原審には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というものであると解される。
 (1) 強要罪が成立しないとの主張について
 記録によれば,原判決は,公訴事実と同旨の事実を認定したが,その要旨は,被害者が18歳に満たない児童であることを知りながら,同女に対し,要求に応じなければその名誉等にいかなる危害を加えるかも
しれない旨脅迫して,乳房,性器等を撮影してその画像データをインターネットアプリケーション「LINE」を使用して送信するよう要求し,畏怖した被害者にその撮影をさせた上,「LINE」を使用して画
像データの送信をさせ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録し,もって被害者に義務のないことを行わせるとともに,児童ポルノを製造した,というものである。
 すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成
要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行
為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。
 弁護人は,①被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,②原判決は,量刑の理由の部
分で性的意図を認定している,③被害者をして撮影させた乳房,性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。
 しかしながら,①については,本件起訴状に記載された罪名および罰条の記載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す記載もないことからすれば,本件において,強制わいせ
つ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審においても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,性的意図を含むものとはいえない。
 また,②については,量刑の理由は,犯罪事実の認定ではなく,弁護人の主張は失当である。
 そして,③については,画像データを送信させる行為をもって,わいせつな行為とすることはできない。
 以上のとおり,原判決が認定した事実は,強制わいせつ罪の成立要件を欠くものである上,わいせつな行為に当たらず強要行為に該当するとみるほかない行為をも含む事実で構成されており,強制わいせつ罪に
包摂されて別途強要罪が成立しないというような関係にはないから,法条競合により強要罪は成立しないとの弁護人の主張は失当である。
 (2) 公訴棄却にすべきとの主張について
 以上のとおり,本件は,強要罪に該当するとみるほかない事実につき公訴提起され,そのとおり認定されたもので,強制わいせつ罪に包摂される事実が強要罪として公訴提起され,認定されたものではない。
 また,原判決の認定に係る事実は,前記(1)のとおり,強制わいせつ罪の構成要件を充足しないものである上,被害者撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機で受信・記録するというわいせつな行為
に当たらない行為を含んだものとして構成され,これにより3項製造罪の犯罪構成要件を充足しているもので,強制わいせつ罪に包摂されるとはいえないし,実質的に同罪に当たるともいえない。
 以上のとおり,本件は,強要罪および3項製造罪に該当し,親告罪たる強制わいせつ罪には形式的にも実質的にも該当しない事実が起訴され,起訴された事実と同旨の事実が認定されたものであるところ,この
ような事実の起訴,実体判断に当たって,告訴を必要とすべき理由はなく,本件につき,公訴棄却にすべきであるとの弁護人の主張は,理由がない。
 (3) 小括
 以上の次第で,法令適用の誤りおよび訴訟手続の法令違反をいう論旨には,理由がない。
 2 法令適用の誤りの主張について
 論旨は,原判決は,強要罪と3項製造罪を観念的競合であるとした上で,強要罪の犯情が重いとして同罪の刑で処断することとしたが,本件の脅迫は一時的で,害悪もすぐに止んでいるのに対し,3項製造罪は
画像の流通の危険やそれに対する不安が長期に継続する悪質なもので,原判決の量刑理由でも,専ら児童ポルノ画像が重視されており,犯情は3項製造罪の方が重いから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明
らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,本件の強要罪に係る脅迫行為の執拗性やその手口の卑劣性などを考慮すれば,3項製造罪に比して強要罪の犯情が重いとした原審の判断に誤りはない。
 法令適用の誤りをいう論旨は,理由がない。
 なお,原判決は,本件において,強要罪と3項製造罪を観念的競合であるとしたが,本件のように被害者を脅迫してその乳房,性器等を撮影させ,その画像データを送信させ,被告人使用の携帯電話機でこれを
受信・記録して児童ポルノを製造した場合においては,強要罪に触れる行為と3項製造罪に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえず,両行為の性質等にも鑑みると,
両行為は社会的見解上別個のものと評価すべきであるから,これらは併合罪の関係にあるというべきである。したがって,本件においては,3項製造罪につき懲役刑を選択し,強要罪と3項製造罪を刑法45条前
段の併合罪として,同法47条本文,10条により犯情の重い強要罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で処断すべきであったところ,原判決には上記のとおり法令の適用に誤りがあるが,この誤りによる処断
刑の相違の程度,原判決の量刑が懲役2年,執行猶予付きにとどまることを踏まえれば,上記誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。
 3 量刑不当の主張について
 論旨は,被告人を懲役2年,3年間執行猶予に処した原判決の量刑は,重すぎて不当であり,執行猶予を付した罰金刑か,より軽い懲役刑(執行猶予付き)とされるべきである,というのである。
 そこで検討すると,本件は,前示のとおりの強要罪,3項製造罪の事案であるが,原判決は,未成熟な被害者を利用した犯行動機に特段の酌量の余地がないこと,製造に係る児童ポルノ画像数が11点と多いこ
と,脅迫の手口が卑劣で悪質なことなどを指摘し,一方で,被告人に前科がなく,反省の弁を述べていることなどの有利な事情をも踏まえて,前示の刑を量定したものである。
 原判決の上記量刑判断は,当裁判所も相当として支持することができる。
 弁護人は,強烈な脅迫文言はないこと,被害者1名に対する1回の事案であること,被告人が原判決後に反省を深めたことなどを考慮すべきである旨主張するが,これらは原判決が前提としているか,原判決の
量刑を左右しないものである。
 また,弁護人は,類似事例の量刑を指摘して原判決の量刑を論難するが,個別事情が様々な事案を指摘するもので本件に不適切である。
 量刑不当をいう論旨は,理由がない。
 4 結論
 よって,刑訴法396条により,主文のとおり判決する。
  平成28年2月19日
    東京高等裁判所第5刑事部
        裁判長裁判官  藤井敏明
           裁判官  福士利博
           裁判官  山田裕文

13歳未満に陰部等を露出した 姿態をとらせてこれを撮影させるという強制わいせつ罪に当たる行為は~~、 両行為は通常伴う関係にあり、自然的観察の下で社会的見解上1個のものであ ると評価することができるから、両罪を観念的競合とした原判決に誤りがある とはいえない(札幌高裁r05.1.19)

被害者を脅迫してその乳房,性器等を撮影させ,その画像データを送信させ,
被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録して児童ポルノを製造した場合に
おいては,強要罪に触れる行為と3項製造罪に触れる行為に一部重なる点があ
るものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないこと,両行為の性質等を
考慮すると,両行為は社会的見解上別個のものと評価すべきであるとして,併
合罪の関係にある(東京高裁h28.2.19)けれど、13歳未満に陰部等を露出した
姿態をとらせてこれを撮影させるという強制わいせつ罪に当たる行為は~~、
両行為は通常伴う関係にあり、自然的観察の下で社会的見解上1個のものであ
ると評価することができるから、両罪を観念的競合とした原判決に誤りがある
とはいえない(札幌高裁r05.1.19)

 なお、わいせつ性に関する「独自の見解」は、いずれも検察官の論稿や別件
の検察官の主張です。

札幌高裁令和5年1月19日 
判    決
 上記の者に対する強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制
及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、令和4年9
月14日札幌地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立てが
あったので、当裁判所は、検察官白坂裕之出席の上、審理し、次のとおり判決
する。
主    文
 本件控訴を棄却する。
理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人奥村徹作成の控訴趣意書並びに令和5年1月6日
付け及び同月13日付け各控訴趣意補充書に、これに対する答弁は、検察官白
坂裕之作成の答弁書に、それぞれ記載のとおりである。論旨は、不告不理、理
由不備、訴訟手続の法令違反、法令適用の誤り及び量刑不当の主張である。


第1 不告不理の論旨について
 1 本件は、被告人が、被害者(当時13歳未満、以下「A」という。)が1
3歳未満であることを知りながら、4回にわたり、Aに対し、スマートフォン
のアプリケーションソフトを使用して、陰部等を露出した姿態をとって撮影
し、被告人のスマートフォンに送信するよう要求し、Aに陰部等を露出した姿
態をとらせ、これらをスマートフォンで撮影させた上、その動画データ4点
を、被告人のスマートフォンに送信させて、サーバコンピュータ内に記録・保
存させた、という事案である。
 2 所論は、原判示の罪となるべき事実のうち、Aに撮影させた動画データ
4点を被告人のスマートフォンに送信させ、サーバコンピュータ内に記録・保
存させたという部分は、強制わいせつ罪としては起訴されていないのに、原判
決は、当該部分を含めて強制わいせつ罪と認定しているから、審判の請求を受
けない事件について判決をしたものであり、不告不理の違法がある旨主張す
る。
 3 確かに、原判示の罪となるべき事実のみを読めば、所論指摘の部分も強
制わいせつ罪を構成する事実として認定したものと解釈することも可能とは思
われる。しかし、原判決の法令の適用についての補足説明の項も併せて読め
ば、罪となるべき事実の記載は、併合罪関係にある別個の訴因として起訴され
た強制わいせつの事実と児童ポルノ製造の事実を、両罪が観念的競合の関係に
あるものと解して、一体的に記載したものと認められ、原判決は、所論指摘の
部分について強制わいせつ罪を構成する事実として認定したものではないと認
められるから、原判決に不告不理の違法がないことは明らかである。所論は採
用できず、論旨は理由がない。


第4 法令適用の誤りの論旨について
 1 所論は、①被告人が遠隔地にいるAに裸体を撮影させた行為は、性的侵
襲が弱く、それだけでは被告人は全く性的興奮を得られないから、性的意味合
いは皆無か、極めて薄く、わいせつな行為に該当しない、あるいは、強制わい
せつ未遂罪が成立するにとどまる、②原判決は、罪数処理の記載で、被告人
が、Aに撮影させた動画データを被告人に送信させて、保存・記録させ、被告
人がその動画を見たことまでわいせつ行為と評価しているが、これらはわいせ
つ行為にならないし、Aに撮影させた行為までであればわいせつ行為となり得
るとしても、Aに動画データを送信記録させる行為に及ぶと、Aに撮影させた点
を含めて行為全体がわいせつ行為とは評価できなくなる、③接触を伴う強制わ
いせつ罪においては、犯人が被害者の面前にいることが前提とされているか
ら、非接触の強制わいせつ罪においても、犯人が規範的にみて被害者の目の前
にいるといえなければ、わいせつな行為に当たらないと解されるところ、本件
では、要求行為に遅れて撮影行為がされており、規範的にみて被告人がAの目
の前にいるとはいえず、わいせつな行為に当たらない、④本件は、Aを利用し
た間接正犯になっていなければ、強制わいせつ罪の正犯とはなり得ないとこ
ろ、Aは道具化しておらず、間接正犯になっていないから、強制わいせつ罪は
成立せず、せいぜい準強制わいせつ罪が成立するにとどまる、⑤原判決は本件
の強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を観念的競合としているが、両罪は包括
一罪である、などと指摘して、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな
法令適用の誤りがある旨主張する。
 2 しかし、以下のとおり、所論は全て採用することができない。
 ①については、被告人は、Aに要求して、陰部等を露出した姿態をとらせ、
これらをスマートフォンで撮影させているところ、その行為は、Aを性的意味
合いの強い陰部等を露出した裸体にさせ、Aの身体を性的な対象として利用で
きる状態に置いた上、これを撮影させて記録化することで、その内容を被告人
や第三者が知り得る状態に置くものであって、被告人がAに対して撮影した動
画データを被告人に送信することも要求して撮影させており、その撮影させる
行為自体にAがこの要求に従って動画データを送信して被告人がこれを閲覧す
ることになる具体的な危険性が認められることも踏まえると、その性的侵害性
は大きく、また、本件が、当時○○歳の男性である被告人が、SNSを通じて知
り合いアプリケーションソフトを利用してやり取りをしていたという関係にす
ぎない当時13歳未満の女児であるAに対し、Aの陰部等を見たいなどというメッ
セージや男性が自慰行為をしている動画データを送信するなどする中でなされ
たものであることも踏まえると、その性的意味合いは強いというべきであるか
ら、その行為が「わいせつな行為」に当たり、強制わいせつ既遂罪が成立する
と判断した原判決に誤りはない。
 ②については、前記のとおり、原判決が、被告人がAに撮影させた動画デー
タ4点を被告人のスマートフォンに送信させてサーバコンピュータ内に記録・
保存させた行為を、強制わいせつ罪を構成する事実として認定したとは認めら
れず、Aに動画データを送信・記録させる行為に及ぶと、Aに撮影させた点を含
めて行為全体がわいせつ行為とは評価できなくなるなどというのは、所論独自
の見解であって、採用の限りではない(なお、所論指摘の裁判例は、そのよう
な趣旨を判示したものとは解されない。)。
 ③については、接触を伴わない強制わいせつ罪の成否を、接触を伴う強制わ
いせつ罪の成否と同様に考える必然性はないし、犯人が規範的にみて被害者の
面前にいるとはいえない状況であっても、本件のように、被害者に要求して、
その身体を性的な対象として利用できる状態に置き、それを記録化して被告人
や第三者が知り得る状態に置くことで、接触を伴う強制わいせつ罪と同程度の
性的侵害をもたらし得ることは明らかであるから、所論は採用できない。
 ④については、刑法176条後段の強制わいせつ罪は、被害者の承諾がある
場合も含め、13歳未満の男女にわいせつな行為をすることで成立するとこ
ろ、本件において被告人が当時13歳未満のAに対して行った行為がわいせつな
行為に当たることは前記のとおりであり、それ以外の要件として被害者の道具
性が要求されるとする所論は、独自の見解であって採用できない。
 ⑤については、本件において、Aに陰部等を露出した姿態をとらせてこれを
撮影させるという強制わいせつ罪に当たる行為は、Aに陰部等を露出した姿態
をとらせてこれを撮影させた上、その動画データを被告人のスマートフォン
送信させて、サーバコンピュータ内に記録・保存させるという児童ポルノ製造
罪に当たる行為に包摂されていること、被告人は当初から撮影後に動画データ
を送信することも要求しており、撮影から送信、保存・記録までがほぼ同時刻
に行われていること、一般に本件のような態様のわいせつ行為は、撮影された
画像の内容を行為者等が知り得る状態に置くことを意図して行われるものと考
えられることも踏まえると、両行為は通常伴う関係にあり、自然的観察の下で
社会的見解上1個のものであると評価することができるから、両罪を観念的競
合とした原判決に誤りがあるとはいえない(なお、所論指摘の裁判例は、いず
れも本件とは事案を異にするものである。)。
第6 結論
 よって、刑事訴訟法396条、181条1項ただし書、刑法21条により、
主文のとおり判決する。
  令和5年1月19日
 札幌高等裁判所刑事部
   裁判長裁判官 成川洋司
      裁判官 並河浩二
      裁判官 牛島武人

 被害者をして撮影・送信させる行為はわいせつ行為にはならない。強要罪
製造罪とは併合罪というのが、従前の高裁判例でした

判例番号】L07120170
      強要,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護
等に関する法律違反被告事件
【事件番号】東京高等裁判所判決/平成27年(う)第1766号
【判決日付】平成28年2月19日

【出  典】判例タイムズ1432号134頁

 1 本件は,被告人が,被害者が18歳に満たない児童であることを知りな
がら,同女に対し,要求に応じなければその名誉等にいかなる危害を加えるか
もしれない旨脅迫して,乳房,性器等を撮影してその画像データをインターネ
ットアプリケーションを使用して送信するよう要求し,畏怖した被害者にその
撮影,画像データの送信をさせ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録
し,もって被害者に義務のないことを行わせるとともに,児童ポルノを製造し
た,という事案である。事実についての争いはなく,原審においては,情状に
ついての主張のみがされていたようである。
 原判決は,争いのない公訴事実をそのまま認定し,被害者に義務のないこと
を行わせた強要罪児童ポルノを製造した平成26年法律第79号による改正
前(本件は,改正法施行前の事案であった。)の児童買春,児童ポルノに係る
行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の罪(以下「3項製造
罪」という。)の成立を認めた。そして,これらの罪数関係について,観念的
競合の関係にあるとの法令の適用に係る判断を示した上で,被告人に懲役2年
・3年間執行猶予の判決を言い渡した。
 これに対して控訴が申し立てられたところ,本判決は,弁護人の多岐にわた
る控訴趣意についてはいずれについても理由がないとしたが,職権で,原判決
の罪数に関する上記判断について,誤りがあると指摘したものである。
 2 この判断に係る部分を具体的に説明すると,原判決は,本件における強
要罪と3項製造罪の関係について,実行行為の重なり合いの程度,両行為が通
常伴う関係にあるか,社会的事実としての一体性・同質性があるか,といった
観点から詳細な検討を加え,刑法54条1項前段の観念的競合に当たるものと
判断していたものである。
 これに対し,本判決は,本件のように被害者を脅迫してその乳房,性器等を
撮影させ,その画像データを送信させ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信
・記録して児童ポルノを製造した場合においては,強要罪に触れる行為と3項
製造罪に触れる行為に一部重なる点があるものの,両行為が通常伴う関係にあ
るとはいえないこと,両行為の性質等を考慮すると,両行為は社会的見解上別
個のものと評価すべきであるとして,併合罪の関係にあるとの判断を示した。
 なお,本判決は,このように法令適用の誤りを指摘したものの,この誤りが
判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえないとして,控訴は棄却し
た。
 3 本件は,強要罪と3項製造罪の罪数関係について,観念的競合の関係に
あるか否かで,第一審と控訴審の判断が分かれたものであるが,この判断はそ
れほど容易なものではない。
 刑法54条1項前段にいう「1個の行為」の意義については,「法的評価を
はなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで,行為者の動態が社会的
見解上1個のものとの評価をうける場合をいう」とされるが
最大判昭49.5.29刑集28巻4号114頁,判タ309号234
頁),この判断基準自体に抽象的な面があるため,なお具体的な罪数判断の場
面において,事案ごとに上記基準にいう「1個の行為」性が肯定
できるか否かを判断するほかないのである。
 この点,各種性犯罪と児童ポルノを製造する罪との関係については,3項製
造罪の場合も含め,併合罪とする高裁判例が多数を占めていたところ(三浦透
最高裁判所判例解説刑事篇平成21年度〔法曹会〕477
頁以下参照),最高裁は,被害児童に性交又は性交類似行為をさせて撮影する
ことをもって児童ポルノを製造した場合において,児童福祉法34条1項6号
に触れる児童に淫行をさせる行為と3項製造罪に触れる行為
とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえない
ことや,両行為の性質等にかんがみると,それぞれにおける行為者の動態は社
会的見解上別個のものといえるとして,両罪が観念的競合の
関係にはなく,併合罪の関係にあるとの判断を示した(最一小決平21.1
0.21刑集63巻8号1070頁,判タ1326号134頁)。
 児童ポルノを製造する罪は,上記最高裁決定の事案である児童福祉法34条
1項6号に触れる児童に淫行をさせる罪のほか,強姦罪,強制わいせつ罪,青
少年保護育成条例にいう淫行をさせる罪などとともに犯され
ることも多いが,上述したとおり,「1個の行為」性が肯定できるか否かは事
案ごとの判断となるため,上記最高裁決定後,こうした罪と児童ポルノを製造
する罪との罪数について,いかなる判断がされるかについて
は,事例の集積が待たれるところである。
 本判決は,強要罪と3項製造罪の関係についても,上記最高裁決定と同様の
罪数判断をした高裁レベルの判決として一事例を加えるもので,参照価値があ
るものと思われる。
 なお,本判決のほか,強要罪と3項製造罪の関係について,本判決同様,併
合罪の関係にあるとの判断をした高裁判決として,広島高裁岡山支部平成22
年12月15日判決(高等裁判所刑事裁判速報集平成22年
度182頁)がある。

判例番号】L07120170

      強要,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護
等に関する法律違反被告事件

【事件番号】東京高等裁判所判決/平成27年(う)第1766号
【判決日付】平成28年2月19日
【判示事項】強要罪と平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童
ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の児童ポル
ノ製造罪とが併合罪の関係にあるとされた事例
【参照条文】刑法45前段
      刑法54-1前段
      刑法223-1
      児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関
する法律(平26法79号改正前)7-3
【掲載誌】 判例タイムズ1432号134頁
      LLI/DB 判例秘書登載

       主   文

 本件控訴を棄却する。

       理   由

 弁護人奥村徹の控訴趣意は,訴訟手続の法令違反,法令適用の誤りおよび量
刑不当の主張であり,検察官の答弁は,控訴趣意にはいずれも理由がない,と
いうものである。
 1 法令適用の誤りおよび訴訟手続の法令違反の主張について
 論旨は,要するに,原判決が強要罪に該当するとして認定した事実は,それ
だけでも強制わいせつ罪を構成するから,強要罪が成立することはないにもか
かわらず,これを強要罪であるとして刑法223条を適
用して有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の
誤りがあり,また,原判決が平成26年法律第79号による改正前の児童買
春,児童ポルノに係る行為等の処罰および児童の保護等に
関する法律7条3項の罪(以下「3項製造罪」という。)に該当するとして認
定した事実も,実質的には強制わいせつ罪に当たり,以上の実質的に強制わい
せつ罪に該当する各事実について,告訴がないまま起訴
することは,親告罪の趣旨を潜脱し,違法であるから,公訴棄却とすべきであ
るのに,実体判断を行った原審には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟
手続の法令違反がある,というものであると解される。
 (1) 強要罪が成立しないとの主張について
 記録によれば,原判決は,公訴事実と同旨の事実を認定したが,その要旨
は,被害者が18歳に満たない児童であることを知りながら,同女に対し,要
求に応じなければその名誉等にいかなる危害を加えるかも
しれない旨脅迫して,乳房,性器等を撮影してその画像データをインターネッ
トアプリケーション「LINE」を使用して送信するよう要求し,畏怖した被
害者にその撮影をさせた上,「LINE」を使用して画
像データの送信をさせ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録し,もっ
て被害者に義務のないことを行わせるとともに,児童ポルノを製造した,とい
うものである。
 すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかな
る危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳
房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成
要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれ
ておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信さ
せるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行
為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほか
ないものである。
 弁護人は,①被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で
行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要
件に欠けるところはない,②原判決は,量刑の理由の部
分で性的意図を認定している,③被害者をして撮影させた乳房,性器等の画像
データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当た
る,などと主張する。
 しかしながら,①については,本件起訴状に記載された罪名および罰条の記
載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す
記載もないことからすれば,本件において,強制わいせ
つ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審におい
ても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,
性的意図を含むものとはいえない。
 また,②については,量刑の理由は,犯罪事実の認定ではなく,弁護人の主
張は失当である。
 そして,③については,画像データを送信させる行為をもって,わいせつな
行為とすることはできない。
 以上のとおり,原判決が認定した事実は,強制わいせつ罪の成立要件を欠く
ものである上,わいせつな行為に当たらず強要行為に該当するとみるほかない
行為をも含む事実で構成されており,強制わいせつ罪に
包摂されて別途強要罪が成立しないというような関係にはないから,法条競合
により強要罪は成立しないとの弁護人の主張は失当である。
 (2) 公訴棄却にすべきとの主張について
 以上のとおり,本件は,強要罪に該当するとみるほかない事実につき公訴提
起され,そのとおり認定されたもので,強制わいせつ罪に包摂される事実が強
要罪として公訴提起され,認定されたものではない。
 また,原判決の認定に係る事実は,前記(1)のとおり,強制わいせつ罪の
構成要件を充足しないものである上,被害者撮影に係る画像データを被告人使
用の携帯電話機で受信・記録するというわいせつな行為
に当たらない行為を含んだものとして構成され,これにより3項製造罪の犯罪
構成要件を充足しているもので,強制わいせつ罪に包摂されるとはいえない
し,実質的に同罪に当たるともいえない。
 以上のとおり,本件は,強要罪および3項製造罪に該当し,親告罪たる強制
わいせつ罪には形式的にも実質的にも該当しない事実が起訴され,起訴された
事実と同旨の事実が認定されたものであるところ,この
ような事実の起訴,実体判断に当たって,告訴を必要とすべき理由はなく,本
件につき,公訴棄却にすべきであるとの弁護人の主張は,理由がない。
 (3) 小括
 以上の次第で,法令適用の誤りおよび訴訟手続の法令違反をいう論旨には,
理由がない。
 2 法令適用の誤りの主張について
 論旨は,原判決は,強要罪と3項製造罪を観念的競合であるとした上で,強
要罪の犯情が重いとして同罪の刑で処断することとしたが,本件の脅迫は一時
的で,害悪もすぐに止んでいるのに対し,3項製造罪は
画像の流通の危険やそれに対する不安が長期に継続する悪質なもので,原判決
の量刑理由でも,専ら児童ポルノ画像が重視されており,犯情は3項製造罪の
方が重いから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明
らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,本件の強要罪に係る脅迫行為の執拗性やその手口の卑劣性な
どを考慮すれば,3項製造罪に比して強要罪の犯情が重いとした原審の判断に
誤りはない。
 法令適用の誤りをいう論旨は,理由がない。
 なお,原判決は,本件において,強要罪と3項製造罪を観念的競合であると
したが,本件のように被害者を脅迫してその乳房,性器等を撮影させ,その画
像データを送信させ,被告人使用の携帯電話機でこれを
受信・記録して児童ポルノを製造した場合においては,強要罪に触れる行為と
3項製造罪に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う
関係にあるとはいえず,両行為の性質等にも鑑みると,
両行為は社会的見解上別個のものと評価すべきであるから,これらは併合罪
関係にあるというべきである。したがって,本件においては,3項製造罪につ
き懲役刑を選択し,強要罪と3項製造罪を刑法45条前
段の併合罪として,同法47条本文,10条により犯情の重い強要罪の刑に法
定の加重をした刑期の範囲内で処断すべきであったところ,原判決には上記の
とおり法令の適用に誤りがあるが,この誤りによる処断
刑の相違の程度,原判決の量刑が懲役2年,執行猶予付きにとどまることを踏
まえれば,上記誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。
 3 量刑不当の主張について
 論旨は,被告人を懲役2年,3年間執行猶予に処した原判決の量刑は,重す
ぎて不当であり,執行猶予を付した罰金刑か,より軽い懲役刑(執行猶予付
き)とされるべきである,というのである。
 そこで検討すると,本件は,前示のとおりの強要罪,3項製造罪の事案であ
るが,原判決は,未成熟な被害者を利用した犯行動機に特段の酌量の余地がな
いこと,製造に係る児童ポルノ画像数が11点と多いこ
と,脅迫の手口が卑劣で悪質なことなどを指摘し,一方で,被告人に前科がな
く,反省の弁を述べていることなどの有利な事情をも踏まえて,前示の刑を量
定したものである。
 原判決の上記量刑判断は,当裁判所も相当として支持することができる。
 弁護人は,強烈な脅迫文言はないこと,被害者1名に対する1回の事案であ
ること,被告人が原判決後に反省を深めたことなどを考慮すべきである旨主張
するが,これらは原判決が前提としているか,原判決の
量刑を左右しないものである。
 また,弁護人は,類似事例の量刑を指摘して原判決の量刑を論難するが,個
別事情が様々な事案を指摘するもので本件に不適切である。
 量刑不当をいう論旨は,理由がない。
 4 結論
 よって,刑訴法396条により,主文のとおり判決する。
  平成28年2月19日
    東京高等裁判所第5刑事部
        裁判長裁判官  藤井敏明
           裁判官  福士利博
           裁判官  山田裕文

公訴事実が「被告人と性交等をする姿態」という1号2号3号ポルノの記載で、起訴状をそのまま引用した原判決が、理由不備で破棄されて「それぞれ,被告人と性交をする姿態,被告人の陰茎を触って口腔性交をする姿態及び衣服の全部又は一部を着けずに被告人と性交等をする被害者の姿態であって殊更に被害者の胸部等が露出されている姿態」と認定される場合、訴因変更が必要じゃないですかね。

公訴事実が「被告人と性交等をする姿態」という1号2号3号ポルノの記載で、起訴状をそのまま引用した原判決が、理由不備で破棄されて「それぞれ,被告人と性交をする姿態,被告人の陰茎を触って口腔性交をする姿態及び衣服の全部又は一部を着けずに被告人と性交等をする被害者の姿態であって殊更に被害者の胸部等が露出されている姿態」と認定される場合、訴因変更が必要じゃないですかね。
 いままで、理由不備を主張してたんですが、訴因では2号3号は「等する姿態」としか記載されていなくて、検察官がどの事実を2号3号と主張してるのかわからないし、訴因設定権限は検察官にあるというのなら、控訴審で訴因変更を促して特定させる必要があると思います。

二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの

という法文なので、2号と言っても、児童が触ってるのか、児童の性器を触ってるのか、両方なのかが分からないし、3号と言っても、全裸なのか、半裸なのか、どの部位が露出・強調されているかわからないので、そこは検察官に明らかにさせる必要があると思います。

金沢地裁R3.3.30
当初訴因
同児童に、
「被告人と性交等をする姿態」
をとらせ、これを被告人が使用するカメラ機能付きスマートフォンで動画撮影し、その動画データ合計22点を同スマートフォンに内蔵された記録装置に記録して保存し、もって児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態、他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造し
  罪名及び罰条
 第2 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反同法律第7条第4項、第2条第3項第1号第2号、第3号


破棄自判して認定した事実
同児童に、「それぞれ,被告人と性交をする姿態,被告人の陰茎を触って口腔性交をする姿態及び衣服の全部又は一部を着けずに被告人と性交等をする被害者の姿態であって殊更に被害者の胸部等が露出されている姿態」
をとらせこれを被告人が使用するカメラ機能付きスマートフォンで動画撮影し、その動画データ合計22点を同スマートフォンに内蔵された記録装置に記録して保存し、もって児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態、他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造し


金沢地裁R3.3.30
  起訴状
  令和3年1月13日
昭和61年(以下略)生
  公訴事実
 被告人は、●●●が13歳未満の者であることを知りながら
第2 別表2記載のとおり、同年9月20日から同年10月4日までの間に、5回にわたり、●●●ほか4か所において、同児童に、被告人と性交等をする姿態をとらせ、これを被告人が使用するカメラ機能付きスマートフォンで動画撮影し、その動画データ合計22点を同スマートフォンに内蔵された記録装置に記録して保存し、もって児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態、他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造し
たものである。
  罪名及び罰条
 第2 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び
  処罰並びに児童の保護等に関する法律違反
  同法律第7条第4項、第2条第3項第1号
  第2号、第3号

【文献番号】25590952

名古屋高等裁判所金沢支部令和3年(う)第37号
令和3年9月14日第2部判決

       判   決

無職 A 昭和61年○月○○日生
 上記の者に対する強制性交等,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童買春法」という。)違反被告事件について,令和3年3月30日金沢地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官福島弘出席の上審理し,次のとおり判決する。
       主   文
原判決を破棄する。
       理   由
 本件控訴の趣意は,弁護人太田圭一作成の控訴趣意書及び控訴趣意書補充書に各記載のとおりであるから,これらを引用するが,論旨は,要するに,(1)原判決は,罪となるべき事実の第4において,児童買春法2条3項2号及び3号の児童ポルノ製造罪(同法7条4項,2項)の構成要件に該当する具体的事実を摘示しておらず,法令の適用においても,罪となるべき事実の第4の各所為につき,いずれの行為がいずれの罰条に該当するのかを個別に示していないから,原判決には理由不備の違法がある,(2)被告人を懲役4年の実刑に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であり,刑の執行を猶予すべきである,というものである。
 そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。(以下「被害者」とは,令和2年11月4日付け,同年12月10日付け,令和3年1月13日付け各起訴状記載の公訴事実における被害者ないし児童をいう。)。
1 理由不備の違法をいう論旨について
 原判決は,罪となるべき事実の第4について,その犯行日時を一部改めるほかは,令和3年1月13日付け起訴状記載の公訴事実第2のとおりであるから,これを引用するとし,法令の適用の項において,罪となるべき事実の第4別表2番号1ないし5の各所為について,いずれも児童買春法7条4項,2項,2条3項1号,2号,3号に該当すると判示しているところ,引用に係る上記起訴状記載の公訴事実第2には,被告人が,児童である被害者(当時12歳)に対し,「被告人と性交等をする姿態」をとらせ,これを動画撮影して記録装置に記録して保存することにより児童ポルノを製造したとの事実の記載はあるものの,被告人が,被害者に対し,児童買春法2条3項2号及び3号に該当する姿態をとらせ,これを描写することにより児童ポルノを製造したとの事実は,何ら具体的には記載されていない。
 ところで,判決理由中に罪となるべき事実を示すに当たっては,犯罪の構成要件に該当すべき具体的事実を,当該構成要件に該当するか否かを判定するに足りる程度に具体的に明示することが必要であると解されるところ(最高裁昭和24年2月10日第1小法廷判決・刑集3巻2号155頁),前記のとおり,原判決は,法令の適用の項において,罪となるべき事実の第4別表2番号1ないし5の各所為について,いずれも児童買春法7条4項,2項,2条3項1号,2号,3号に該当すると判示しながら,その罪となるべき事実においては,その構成要件に該当すること,すなわち,児童に対し,児童買春法2条3項1号に該当する姿態のほかに,同法2条3項2号,3号に該当する姿態をとらせ,これを描写することにより児童ポルノを製造したという事実を具体的に摘示していないというほかはない。
 原審裁判所は,上記公訴事実中の「被告人と性交等をする姿態」の「等」に,児童買春法2条3項2号及び3号に該当する姿態も含まれるとの理解の下,上記公訴事実を引用して認定すれば足りるとの判断をしたものとも考えられるが,訴因の特定等に関する判断はともかくも,このような起訴状記載の公訴事実を引用する事実の摘示では,児童買春法2条3項2号及び3号の児童ポルノの製造罪の構成要件に該当するか否かを判定することができないのは明らかであるから,原判決の罪となるべき事実の記載には理由の不備があるといわざるを得ない。
 したがって,原判決の罪となるべき事実の摘示に理由不備の違法がある旨の論旨には理由がある。そして,原判決は,罪となるべき事実の第1から第4までの各罪が,刑法45条前段の併合罪の関係にあるものとして,1個の刑を科したものであるから,その余の控訴趣意について判断するまでもなく,原判決はその全部について破棄を免れない。
2 破棄自判
 よって,刑訴法397条1項,378条4号により原判決を破棄し,同法400条ただし書により直ちに当裁判所において自判すべきものと認め,更に次のとおり判決する。
(罪となるべき事実)
 原判決の罪となるべき事実の第1ないし第3については同事実記載のとおりであり,罪となるべき事実の第4については,引用に係る令和3年1月13日付け起訴状記載の公訴事実第2(冒頭の事実を含む。)中,「被告人と性交等をする姿態をとらせ」とあるのを,「それぞれ,被告人と性交をする姿態,被告人の陰茎を触って口腔性交をする姿態及び衣服の全部又は一部を着けずに被告人と性交等をする被害者の姿態であって殊更に被害者の胸部等が露出されている姿態をとらせ」と改めるほかは,原判決の罪となるべき事実の第4に記載のとおりである。

わいせつ電磁的記録等送信頒布被告事件(立川支部R4.3.22 東京高裁r4.10.6)

わいせつ電磁的記録等送信頒布被告事件(立川支部R4.3.22 東京高裁r4.10.6)
 アメリカから頒布するのに、日本刑法を適用するのはどうなんだ。関与したアメリカ人が日本に来たら逮捕されるというのは行き過ぎではないかという論点もあったと思います。
      

判例秘書
わいせつ電磁的記録等送信頒布被告事件
東京地方裁判所立川支部判決令和4年3月22日

       主   文

 被告人を懲役2年及び罰金200万円に処する。
 その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
 この裁判が確定した日から3年間その懲役刑の執行を猶予する。

       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人は,インターネット上の動画販売サイトを利用して,不特定多数のインターネット利用者にわいせつな電磁的記録である動画ファイルを頒布しようと考え,氏名不詳者らと共謀の上,不特定の者であるAに対し
1 令和3年9月22日,あらかじめ氏名不詳者らをしてアメリカ合衆国内に設置された「B」が管理するサーバコンピュータに記録・保存させた男性の性器等を露骨に撮影したわいせつな電磁的記録である動画ファイル「C」1点を,動画販売サイト「D」を利用して同サーバコンピュータにアクセスした前記Aをして,東京都台東区西浅草1丁目3番1号警視庁菊屋橋庁舎に設置されたパーソナルコンピュータに送信させる方法により,同パーソナルコンピュータに記録・保存させて再生・閲覧可能な状況を設定させ,
2 令和3年10月29日,あらかじめ氏名不詳者らをしてアメリカ合衆国内に設置された「B」が管理するサーバコンピュータに記録・保存させた男性の性器等を露骨に撮影したわいせつな電磁的記録である動画ファイル「E」1点を,動画販売サイト「D」を利用して同サーバコンピュータにアクセスした前記Aをして,東京都小平市小川町2丁目1264番地の1警視庁小平警察署に設置されたパーソナルコンピュータに送信させる方法により,同パーソナルコンピュータに記録・保存させて再生・閲覧可能な状況を設定させ,
3 令和3年11月4日,あらかじめ氏名不詳者らをしてアメリカ合衆国内に設置された「B」が管理するサーバコンピュータに記録・保存させた男性の性器等を露骨に撮影したわいせつな電磁的記録である動画ファイル「F」1点を,前記「D」を利用して同サーバコンピュータにアクセスした前記Aをして,前記警視庁菊屋橋庁舎に設置されたパーソナルコンピュータに送信させる方法により,同パーソナルコンピュータに記録・保存させて再生・閲覧可能な状況を設定させ,
もって電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録を頒布したものである。
(証拠の標目)
(法令の適用)
罰条       包括して刑法60条,175条1項後段
刑種の選択    懲役刑及び罰金刑を選択
労役場留置    刑法18条(金1万円を1日に換算)
懲役刑の執行猶予 刑法25条1項
(量刑の理由)
 本件わいせつ電磁的記録等送信頒布の犯行態様は,インターネットを通じ,不特定多数の者らを対象として行われたものであり,性生活に関する秩序及び健全な風俗を著しく害したものである。被告人は,その供述するところによれば,自らアダルトビデオ動画を製作しモザイク修正を施してインターネット上で販売していたところ,その売上げの増進を図るため,共犯者と共謀して本件犯行に及んだというのであり,本件は継続的,職業的犯行の一環として行われたものであり,厳しい非難を免れない。
 したがって,被告人の刑事責任は軽視できず,本件が継続して利得の獲得を目的として行われたことを踏まえ,懲役刑に加え,罰金刑を併せ選択するのが相当である。これに対し,弁護人は,被告人が販売で得た利益を費消していないこと等を理由に,罰金刑を科すべきでないと主張するが,被告人は,その自認するとおり,本件により経済的利益を得ていたものである。被告人が利益を費消していないことが罰金刑を免れる理由とはならない。
 他方,本件動画は削除されていること,被告人は,事実を認め再犯に及ばぬ旨述べるなど,反省の情を示していること,当然のこととはいえ,本件手続きにおいて一旦は身柄を拘束され事実上一定の制裁を受けていること,前科がないことなど,被告人のために酌むべき事情も認められるので,今回に限り,その懲役刑の執行を猶予することとした。
(検察官 G,私選弁護人 H(主任),I 各出席)
(求刑 懲役2年及び罰金200万円)
  令和4年3月22日
    東京地方裁判所立川支部刑事第3部
           裁判官  朝倉静香

わいせつ電磁的記録等送信頒布被告事件
東京高等裁判所判決令和4年10月6日
       主   文

 本件控訴を棄却する。

       理   由

 1 本件控訴の趣意
 本件控訴の趣意は、主任弁護人及び弁護人作成の控訴趣意書記載のとおりであり、論旨は、原判示の動画ファイル3点はいずれも「わいせつな電磁的記録」(刑法175条1項後段)には当たらず、仮に当たるとすれば、同条は憲法21条に違反するほか、過度に広汎な刑罰法規であるから、同項後段の適用を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、というのである。
 2 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨
 被告人は、インターネット上の動画販売サイトを利用して、不特定多数のインターネット利用者にわいせつな電磁的記録である動画ファイルを頒布しようと考え、氏名不詳者らと共謀の上、不特定の者1名に対し、あらかじめ氏名不詳者らをしてサーバコンピュータに記録・保存させた男性の性器等を露骨に撮影したわいせつな電磁的記録である動画ファイル3点(以下「本件動画」という。)を、動画販売サイトを利用して、同サーバコンピュータにアクセスした前記の者をして、前記動画ファイルのうち2点を警視庁菊屋橋庁舎に設置されたパーソナルコンピュータに、同1点を警視庁小平警察署に設置されたパーソナルコンピュータにそれぞれ送信させる方法により、各パーソナルコンピュータに記録・保存させて再生・閲覧可能な状況を設定させ、もって電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録を頒布した。
 3 当審の判断
 (1)本件動画のわいせつ性について
 ア 所論は、本件動画は、刑法175条1項後段の「わいせつな電磁的記録」には当たらないと主張し、その理由として、刑法175条1項後段における「わいせつな電磁的記録」にいう「わいせつ」性の判断基準については、いまだ最高裁判所の解釈は存在せず、最高裁判例は、「わいせつ」該当性の判断基準は、その時代の健全な社会通念に照らして、それが徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものといえるかどうかによるべきであるという立場をとっているところ、インターネットの普及により、本件よりも遙かにわいせつ性の高い表現物が流通し、社会全体にこのような表現物が流通している状況下においては、単に性器が修正されていない動画を見たとしても、個々人がそれを見ることにより徒らに性欲を興奮又は刺激せしめられたり、性的羞恥心を害されたりすることはないから、本件動画が処罰の対象になることは、前記基準に照らしても、令和の時代の健全な社会通念にそぐわず、本件動画は「わいせつ」とはいえない、などと主張する。
 そこで検討するに、まず、原審記録(甲2、6、10等)によれば、本件動画は、それぞれ、女性が男性器を口淫して射精させることなどを想起させる「ごっくん」との記載を含むタイトル名で、動画販売サイトのアダルト通販ページで販売され、いずれも、女性が、露出した男性器を口淫する場面が無修正で露骨に映し出される動画であることが認められる。
 このように、本件動画は、女性が男性器を口淫する場面そのものを直接的に撮影してその場面を強調し、かつ、これを無修正で提供することで、閲覧者を性的に強く刺激し、興奮させるものであることは明らかであるから、所論の指摘する社会状況を踏まえてもなお、本件動画について、これを、徒らに性欲を刺激または興奮せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する電磁的記録、すなわち、刑法175条1項後段にいうわいせつな電磁的記録に当たると解した原判決の判断は相当というべきである。なお、本件動画は、その内容に、芸術性、思想性等により性的刺激を緩和する要素は窺われない。
 イ 所論は、本件動画が、口腔性交場面が撮影されたわいせつ性のある動画であるとしても性交場面がないこと、女性器が撮影されていないこと、犯罪行為となり得る行為や暴力的描写がないこと、出演女性はいずれも18歳以上の女性であること、本件犯行に用いられた動画配信は、18歳以上の者であることを申告することが前提とされていることなどは、本件動画の「わいせつ」性を否定する事情であると主張する。
 しかしながら、口腔性交も性交等の一類型であるし、撮影の対象が女性器か男性器かによってわいせつ性の判断基準を異にすべき理由は見出し難い。また、その内容に犯罪行為となり得るものが含まれているかどうかは、善良な性的道義観念に反するかどうかという観点からわいせつ性判断の一要素となり得ることはあっても、それが含まれていないからといって、そのことから直ちにわいせつ性が否定されるわけではない。出演者の年齢が一定以上であることも同様である。
 また、想定される視聴者が一定年齢以上の者であることは、頒布範囲の広狭という観点から犯情の一要素として考慮する余地はあるとしても、これによって本件動画そのものの属性が変わるわけではないから、この点から本件動画のわいせつ性が否定されると考えることはできない。
 ウ 所論は、原判決が被告人に有罪判決を言い渡した唯一の理由は、本件動画がいわゆる無修正動画であることに尽きるとして、最高裁判所平成20年2月19日(民集62巻2号445頁、いわゆる「第2次メイプルソープ写真集事件」)は、無修正で男性器が写っているとの一事をもって「わいせつ」に該当するという解釈をしていないとも主張する。
 しかしながら、前記認定のとおり、アダルトビデオとして製作された本件動画の内容は、もっぱら閲覧者を性的に強く刺激し、興奮させるなど、その好色的興味に訴えるものであり、芸術性・思想性等によって性的刺激を緩和させる要素も窺われないものであるところ、原判決は、本件動画について、前記のような諸要素を全体的に考察してわいせつ性を認定したものと解されるから、所論が引用する判例に反するものではない。所論は採用できない。
 (2)刑法175条の憲法適合性について
 ア 所論は、①本件動画が「わいせつ」に該当するというのであれば、そのような行為を処罰する刑法175条は憲法21条に違反する、②刑法175条は刑罰法規として過度に広汎である、と主張する。
 しかしながら、①については、刑法175条の規定が憲法21条に違反しないことは、最高裁判例最高裁昭和28年(あ)第1713号同32年3月13日大法廷判決・刑集11巻3号997頁、最高裁昭和39年(あ)第305号同44年10月15日大法廷判決・刑集23巻10号1239頁、最高裁平成29年(あ)第829号令和2年7月16日第一小法廷判決・刑集74巻4号343頁)に徴して明らかであり、②については、刑法175条にいう「わいせつ」の概念が不明確であるという点は、その概念が所論のように不明確であるということはできない(前掲最高裁令和2年7月16日第一小法廷判決等参照)から、所論は採用できない。
 イ その他所論が指摘する点を検討しても、本件動画が刑法175条1項後段の「わいせつな電磁的記録」であるとして、同項後段を適用した原判決に法令適用の誤りはない。
 論旨は理由がない。
 4 結論
 よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
  令和4年10月6日
    東京高等裁判所第6刑事部
        裁判長裁判官  石井俊和
           裁判官  杉山正明
           裁判官  西野牧子

ひそかに製造罪の罪となるべき事実の「本件浴場で入浴中の別紙記載〈1〉の中学校生徒数名(当時13歳又は14歳)が、」という記載(静岡地裁r4.10.6)

 児童ポルノ罪の認定というのは、
 各被写体について
  児童性
  実在性
  3号の要件(露出部位など)
が検討されるので、「数名」という認定はありえません。3人分児童ポルノ要件が揃えば「3人」、4人分揃えば「4人」と認定すべきです。

D1LAWから
静岡地方裁判所令和04年10月06日
 上記の者に対する児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、当裁判所は、検察官風間康宏及び国選弁護人藤江基勝各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
理由
(罪となるべき事実)
第1(令和4年(わ)第177号・同年6月3日付け起訴分)
  被告人は、令和元年9月5日午後8時59分頃から同日午後9時12分頃までの間、別紙記載の女性用浴場(以下「本件浴場」という。)東側滑り出し窓付近において、本件浴場で入浴中の別紙記載〈1〉の中学校生徒数名(当時13歳又は14歳)が、いずれも18歳に満たない児童であることを知りながら、ひそかに、前記滑り出し窓からビデオカメラで同児童らの胸部等が露出した全裸の姿態を動画撮影し、その電磁的記録である動画データ8点を同ビデオカメラに装着したSDカードに記録させて保存し、もってひそかに衣服の全部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより、児童ポルノを製造した。
第2(令和4年(わ)第153号・同年5月17日付け起訴分)
  被告人は、令和3年11月17日午後7時54分頃、別紙記載の宿泊施設(以下「本件施設」という。)北西側高窓付近において、本件施設脱衣所で着替え中の別紙記載〈2〉の中学校生徒数名(当時14歳又は15歳)が、いずれも18歳に満たない児童であることを知りながら、ひそかに、前記高窓から携帯電話機を差し向けて同児童らの胸部等が露出した全裸の姿態を動画撮影し、その電磁的記録である動画データ1点を同携帯電話機の内蔵記憶装置に記録させて保存し、もってひそかに衣服の全部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより、児童ポルノを製造した。
(証拠の標目)
 以下、括弧内の番号は証拠等関係カードの検察官請求番号を示す。
事実全部について
・ 被告人の公判供述
第1の事実について
・ 被告人の警察官調書(乙8)
・ 捜索差押調書謄本(甲13)並びに捜査報告書(甲16、17、20、21)、同謄本(甲19)及び同抄本(甲12、14、18)
第2の事実について
・ 被告人の警察官調書抄本(乙4)
・ 捜査報告書(甲1、9)及び同抄本(甲2、3、7、8、10。ただし、甲2の不同意部分を除く。)
(法令の適用)
1 主刑
 (1) 構成要件及び法定刑を示す規定
 被告人の前記各行為は、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項、2項、2条3項3号(なお、第1の行為は包括して)に、それぞれ該当する。
 (2) 刑種の選択
 後記の量刑の理由により、前記の各罪についていずれも懲役刑を選択する。
 (3) 併合罪の処理
 刑法45条前段の併合罪であるから、刑法47条本文、10条により犯情の重い前記第1の罪の刑に法定の加重をする。
 (4) 宣告刑の決定
 後記の量刑の理由により以上の刑期の範囲内で被告人を懲役2年に処する。
2 刑の執行猶予
 後記の量刑の理由により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
3 訴訟費用の負担
 訴訟費用は、刑事訴訟法181条1項本文により被告人に負担させる。
(量刑の理由)

(検察官の求刑意見 懲役2年)
(弁護人の量刑意見 刑の執行猶予)
刑事第1部
 (裁判官 國井恒志)
別紙
本件浴場:●●●
●●●
本件施設:●●●
●●●
〈1〉●●●
〈2〉●●●

単純所持罪施行前からの所持(購入)行為への捜査について

 地方議員が施行前購入について捜査を受けたと報道されています。

https://mainichi.jp/articles/20230106/k00/00m/040/202000c
氏によると、DVDは市議に初当選する前年、09年にインターネットで購入した。氏は「20枚組みで児童ポルノが含まれているとは思わなかった。18歳未満との認識はなかった」と強調。摘発された販売元の購入リストに氏が掲載されていたとみられ、19年8月に舞鶴署の事情聴取を受けて「初めて児童ポルノと気付いた」と釈明した。その上で「所持は事実で、起訴内容を認め、罰金を支払った」と説明した。


 弁護士ドットコムには「捜査を受けることがない」という回答が出ていますが、実際にはそうではありません

 単純所持罪(7条1項)は2015.7.15から施行されています。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(H26改正後)
附 則 (平成二六年六月二五日法律第七九号) 抄
(施行期日等)
第一条 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。
2 この法律による改正後の第七条第一項の規定は、この法律の施行の日から一年間は、適用しない。

 2015.7.15より前の購入者については、2015.7.14までに所持を止めていれば、単純所持罪は成立しません。
 しかし、2015.7.15より前の購入者については、捜査を受けないかというと、所持行為というのは、ずーっと持ち続けるものであることから、捜索差押令状は出ることがあって、かなり前の購入でも捜索を受けることがあります。児童ポルノを現認されると、単純所持罪で検挙されます。現認されなければ、処罰されることはありません。
 実際、昔の購入者に捜索を掛けると、昔の児童ポルノ、最近の児童ポルノが押収されることがあるので、区別なく行われているようです。


 奈良県条例の所持罪の捜査でも、条例施行前の購入者が条例施行後に捜索を受けて検挙されています。

奈良県警 「子ども条例」初適用 児童ポルノ所持 23歳男を書類送検
2005.11.10 産経新聞
 奈良県警少年課と奈良西署は九日までに、同県が今年七月に全国に先駆けて施行した「子どもを犯罪の被害から守る条例」を初めて適用し、児童ポルノを所持していたとして、同県生駒市の男(二三)を来週中にも同条例違反容疑で書類送検する方針を固めた。

 調べによると、この男は自宅の一室に、同条例で「子ども」と定めている十三歳未満の少女が撮影されたポルノ画像を記録したDVD一枚を所持していた疑い。

 県警は今月初めにこの男の自宅を捜索して、成人ポルノなど約百三十点を押収、内容を分析したところ児童ポルノがみつかった。調べに対して、「子供に興味があった」などと供述しているという。

 この男は、今年三月にDVDやビデオを販売する目的で少女にわいせつな行為をさせていたとして逮捕、起訴されたグループからポルノを購入していたとして、県警の調べを受けていた。

2019年の児童ポルノDVD所持で、議員辞職

2019年の児童ポルノDVD所持で、議員辞職

 児童ポルノDVDについては、アリスクラブ事件で対応は確立しています。弁護士に相談して破棄して警察相談です。
 その後別件で捜査を受けた人もいますが、所持の件には触れられません。

https://nordot.app/983838034717442048?c=39546741839462401
起訴状によると、氏は2019年8月2日、性的好奇心を満たす目的で、舞鶴市内の自宅に児童ポルノの動画が入ったDVD4枚を所持していたとされる。舞鶴区検が同年11月に起訴し、舞鶴簡裁が同月、略式命令を出した。

https://www3.nhk.or.jp/lnews/kyoto/20230106/2010016341.html
令和元年に、舞鶴市内の自宅で児童のわいせつな動画が入ったDVD4枚を所持していたとして、児童ポルノ禁止法違反の罪で略式起訴され、舞鶴簡易裁判所から罰金30万円の略式命令を受けたということです。
DVDは議員になる前に購入したもので、業者への捜査で明らかになったということです。

https://mainichi.jp/articles/20230106/k00/00m/040/202000c
氏によると、DVDは市議に初当選する前年、09年にインターネットで購入した。氏は「20枚組みで児童ポルノが含まれているとは思わなかった。18歳未満との認識はなかった」と強調。摘発された販売元の購入リストに鯛氏が掲載されていたとみられ、19年8月に舞鶴署の事情聴取を受けて「初めて児童ポルノと気付いた」と釈明した。その上で「所持は事実で、起訴内容を認め、罰金を支払った」と説明した。

 単純所持罪(7条1項)はh26=2014施行なので、買って埃かぶっている場合には、「自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者(自己の意思に基づいて所持するに至った者」とは言いがたい。
 弁護人に相談して対応すれば起訴されなかったと思われる。

「過失がないとき」とは、具合的事実ごとに提出された客観的資料の種類、その提出の際の状況及びその確認方法の有無、難易度を総合的に検討して、相会通念に照し、通常可能な調査が適切に尽くされているか否かによって決められることになる(大阪高裁46. 11) ~愛知県青少年保護育成条例の解説

「過失がないとき」とは、具合的事実ごとに提出された客観的資料の種類、その提出の際の状況及びその確認方法の有無、難易度を総合的に検討して、相会通念に照し、通常可能な調査が適切に尽くされているか否かによって決められることになる(大阪高裁46. 11) ~愛知県青少年保護育成条例の解説

「大阪高裁46. 11」じゃ、高裁判例探せないですが、
児童買春罪に過失犯がないことから、18歳未満への性的行為の規制について、有償・無償を問わず、使用者には年齢確認義務を負わせ、非使用者には年齢確認義務を負わせないというのが国法であることが明確になっています。

 各地の青少年条例を分類したことがあります。淫行する際の年齢確認義務は、よくわかりません。

各地の青少年条例における年齢確認義務の内容 57
①両親が示した戸籍謄本も疑えとするもの~香川県・埼玉県 57
②戸籍・住民票まで調査すべきとするもの~山形・福島・愛知・愛媛 60
ア 大阪高裁s46を引用して、この程度の年齢確認義務があると説明する~山形・福島・愛知・愛媛 60
イ 大阪高裁s46には言及しないが、戸籍・住民票まで調査する義務があるという自治体~群馬・埼玉・静岡・香川・沖縄 62
ウ その他公信力のある証明書での確認を求めるもの~宮城・茨城千葉・新潟・石川・兵庫・鳥取・鹿児島 66
③必ずしも証明書までは必要なく、干支や生年月日尋ねれば足りるとするもの~北海道・・岩手・秋田・富山・岐阜・滋賀・京都・奈良・和歌山・島根・岡山・広島・愛媛・高知・福岡・宮崎 69
④通常人ならば青少年でないかと疑いを持つようなときに、相手方に年齢を問う程度のものであり、身分証明書運転免許証等による年齢調査義務まで求めたものではないとするもの~山口県 75
山口県青少年健全育成条例の解説 令和元年7月 75
⑤ 過失犯を処罰しないもの(東京都) 76
⑥ 具体的内容が不明のもの~栃木・徳島・佐賀・熊本・大分 76

https://www.pref.aichi.jp/syakaikatsudo/jole/jobun.pdf
第29条
8 第5条第3項、第6条第3項、第10条第3項、第14条から第15条まで、第17条第2項、第17条の2第1項、第17条の3、第17条の4又は第20条第1項若しくは第2項の規定に違反した者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として、第1項から第4項まで、第5項(第1号、第2号、第7号、第9号及び第10号を除く。)、第6項(第2号を除く。)又は第7項(第2号、第3号及び第7号を除く。)の規定による処罰を免れることができない。ただし、当該青少年の年齢を知らないことにつき過失がないときは、この限りでない。

・・・
愛知県青少年保護育成条例の解説H27
第8項の規定は、青少年の年齢を知らなかったという理由で処罰を免れることがないことを規定したものである。
「過失がないとき」とは、具合的事実ごとに提出された客観的資料の種類、その提出の際の状況及びその確認方法の有無、難易度を総合的に検討して、相会通念に照し、通常可能な調査が適切に尽くされているか否かによって決められることになる(大阪高裁46. 11) 。

青森地裁八戸支部r4.2.2
 3 過失の有無について
   検察官は,Aが18歳以上だと被告人が信じる根拠はなく,被告人が勤務先で18歳未満の青少年と淫行すれば処罰対象であるとの教育を受けていたことからすれば,被告人において,Aの年齢確認に必要な方法を尽くすべき注意義務があったと主張する。
   しかし,Aが18歳以上だと被告人が信じる根拠がないこと自体は,必要な注意義務を尽くしたかどうかの問題であって,注意義務発生の根拠とはならないし,18歳未満の青少年との淫行が多くの都道府県の条例で処罰対象とされていることは公知の事実であり,被告人が受けていた教育内容によって,被告人に特別の注意義務を課すことは相当でない。
   そして,Aの容姿は,一見して18歳未満であると疑うべきということはできず,被告人においてAが18歳未満であると疑うべきといえるようなAの言動があったことを認める証拠もない。
   以上により,被告人において,Aの年齢を確認すべき注意義務があったということはできないから,Aの年齢を確認するのに必要な方法を尽くさなかったということはできない。
 4 結論
   したがって,被告人には,Aが18歳未満であることを知っていたとも,Aの年齢を確認するのに必要な方法を尽くさなかったとも認めることはできず,主位的訴因及び予備的訴因のいずれについても犯罪の証明がないから,刑事訴訟法336条により,主文のとおり判決する。
(求刑・罰金40万円)
  令和4年2月2日
    青森地方裁判所八戸支部
           裁判官 細 包 寛 敏

https://news.yahoo.co.jp/articles/47ede305b9a933a1dea90de5544478a77a664690
13歳の少女にみだらな行為か 48歳の男を逮捕 名古屋の池田公園で知り合う
1/6(金) 2:22配信
青少年保護育成条例違反の疑いで逮捕されたのは愛知県大治町の48歳の会社員の男です。
男は去年8月、自宅で18歳に満たないと知りながら当時13歳の少女にみだらな行為をした疑いが持たれています。
調べに対し男は「19歳か20歳と聞いていた」と容疑を否認しているということです。

口腔性交罪と製造罪は観念的競合(判示第16の4)、強制わいせつ罪と製造罪は観念的競合(判示第18)としながら、口腔性交罪と製造罪は併合罪(判示第5の1と2等)、強制わいせつ罪と製造罪は併合罪(判示第8等)とした事例(東京地裁R4.8.30)

口腔性交罪と製造罪は観念的競合(判示第16の4)、強制わいせつ罪と製造罪は観念的競合(判示第18)としながら、口腔性交罪と製造罪は併合罪(判示第5の1と2等)、強制わいせつ罪と製造罪は併合罪(判示第8等)とした事例(東京地裁R4.8.30)
 だいたい、性犯罪を伴う場合、ひそかに製造罪は成立しません。
 シッター系の事件で件数が多くなると、観念的競合と併合罪が混在していることがあって、理由齟齬の疑いがあります。併合罪に揃えるか、観念的競合に揃えるかすればいいのに。件数多いので、どっちでも処断刑期は変わりません。

東京高裁H30.1.30高等裁判所刑事裁判速報集平成30年80頁
   強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係について
  (1) 論旨は,原判決は,同一機会の犯行に係る強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を併合罪としたり観念的競合としたりしており,罪数処理に関する理由齟齬がある,また,上記の両罪は,撮影による強制わいせつと児童ポルノ製造の行為に係るものであり,もともと1個の行為に2個の罪名を付けているだけであるから,いずれも観念的競合とすべきであるのに,併合罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
・・・
いずれにせよ,わいせつな姿態をとらせて撮影することによる強制わいせつ行為と当該撮影及びその画像データの撮影機器に内蔵又は付属された記録媒体への保存行為を内容とする児童ポルノ製造行為は,ほぼ同時に行われ,行為も重なり合うから,自然的観察の下で社会的見解上一個のものと評価し得るが,撮影画像データを撮影機器とは異なる記録媒体であるパソコンに複製して保存する二次保存が日時を異にして行われた場合には,両行為が同時に行われたとはいえず,重なり合わない部分も含まれること,そもそも強制わいせつ行為と児童ポルノ製造行為とは,前者が被害者の性的自由を害することを内容とするのに対し,後者が被害者のわいせつな姿態を記録することによりその心身の成長を害することを主たる内容とするものであって,基本的に併合罪の関係にあることに照らすと,画像の複製行為を含む児童ポルノ製造行為を強制わいせつとは別罪になるとすることは合理性を有する。原判決の罪数判断は,合理性のある基準を適用した一貫したものとみることができ,理由齟齬はなく,具体的な行為に応じて観念的競合又は併合罪とした判断自体も不合理なものとはいえない。

併合罪グループ

第5
1 Eが13歳未満の者であることを知りながら、同人と口腔性交をしようと考え、同年3月28日午前3時13分頃から同日午前3時58分頃までの間、茨城県内の宿泊研修施設トイレ内において、同人(当時11歳)に対し、その陰茎を被告人の口腔内に入れるなどし、もって13歳未満の者に対し、口腔性交をし、
2 前記1記載の日時場所において、Eに対し、その陰茎を被告人の口腔内に入れるなどの姿態をとらせ、これをデジタル機器で動画撮影し、同年12月17日午後5時22分頃から同日午後5時23分頃までの間に、前記bマンション×××号室当時の被告人方において、その動画データ5点を前記外付けハードディスクに記録させて保存し、もって児童を相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造し、
・・・
第8
1 Hが13歳未満の者であることを知りながら、同人にわいせつな行為をしようと考え、平成30年8月17日午前3時35分頃から同日午前3時37分頃までの間、山梨県内のホテル内において、同人(当時10歳)に対し、その陰茎を手で弄ぶなどし、もって13歳未満の者に対し、わいせつな行為をし、
2 前記1記載の日時場所において、Hに対し、被告人がHの陰茎を手で弄ぶなどの姿態をとらせ、これをデジタル機器で動画撮影し、同年10月28日午後4時15分頃、前記bマンション×××号室当時の被告人方において、その動画データ1点を前記外付けハードディスクに記録させて保存し、もって他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造し、

第15
1 Oが13歳未満の者であることを知りながら、同人にわいせつな行為をしようと考え、令和元年9月11日午後5時7分頃から同日午後5時11分までの間、東京都内の同人方において、同人(当時8歳)に対し、その陰茎を手で弄び、もって13歳未満の者に対し、わいせつな行為をし、
2 前記1記載の日時場所において、Oに対し、被告人がOの陰茎を手で弄ぶなどの姿態をとらせ、これをデジタル機器で動画撮影し、その頃から同年11月16日午前0時2分頃までの間に、東京都内又はその周辺において、その動画データ2点を同デジタル機器に装着された前記マイクロSDカードに記録して保存し、もって他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る児童ポルノを製造し、

観念的競合グループ

第16 Pが13歳未満の者であることを知りながら、
4 同年11月7日午後10時25分頃から同日午後10時40分頃までの間、前記P方において、同人(当時6歳)に対し、その陰茎を被告人の口腔内に入れるなどし、ひそかにPの陰茎を露出させる姿態、被告人がPの陰茎を手で弄ぶなどの姿態及び被告人がPの陰茎を口腔内に入れるなどの姿態を前記スマートフォンで動画撮影し、その動画データ5点を同スマートフォンに装着された前記マイクロSDカードに記録して保存し、もって13歳未満の者に対し、口腔性交をするとともに、児童を相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態、他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの、又は衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造し、
・・・
第18 Rが13歳未満の者であることを知りながら、同月8日午後11時38分頃から同月9日午前0時3分頃までの間、東京都内の同人知人方において、R(当時7歳)に対し、そのズボンを下げさせて陰茎を露出させた上、就寝中の同人の顔面に射精するなどし、陰茎を露出する姿態をとらせ、これをデジタル機器で動画撮影し、その動画データ1点を同デジタル機器に装着された前記マイクロSDカードに記録して保存し、もって13歳未満の者に対し、わいせつな行為をするとともに、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造し、

11/14に同一女性に性的な動画を要求した行為を11/15に強要未遂で逮捕して、11/13に脅迫して画像を送信させた行為を12/19に逮捕した事例(起訴猶予)

11/14に同一女性に性的な動画を要求した行為を11/15に強要未遂で逮捕して、11/13に脅迫して画像を送信させた行為を12/19に逮捕した事例(起訴猶予

 11/13~14に、女性に脅迫して撮影・送信させたという一個の行為について、2回逮捕した違法があります。
 脅して撮影送信させた行為について、11/14の行為は強要罪、11/13の行為を強制わいせつ罪とした点で、罪名も定まっていません。
 東京高裁判例によれば、「送信させ」はわいせつ行為ではありません。
 警察はわいせつ行為と評価される場合とその範囲をよく理解してないようです。

11/13 身分証など女性の個人情報を女性のスマホに送った上で「返信来なかったら全部さらす」などと脅し、裸の画像を要求、送信させた疑い
11/14 女性に性的な動画を要求
11/15 強要未遂容疑で逮捕
12/6 強要未遂で起訴
12/19 11/13の強制わいせつ容疑で再逮捕
12/28 強制わいせつ罪は不起訴

強制わいせつ 容疑男再逮捕 松江署=島根・続報注意
2022.12.20 大阪朝刊 29頁 (全412字) 
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 交際していた松江市内の女性を脅し、スマートフォンで裸の画像を送らせたとして、松江署は19日、容疑者を強制わいせつ容疑で再逮捕したと発表した。遠隔でわいせつな画像を送信させるなどの行為は「リモート強制わいせつ」と呼ばれ、県警での逮捕は初めてという。
 発表によると、容疑者は11月13日、身分証など女性の個人情報を女性のスマホに送った上で「返信来なかったら全部さらす」などと脅し、裸の画像を要求、送信させた疑い。容疑を認めているという。
 容疑者は、同14日にこの女性に性的な動画を要求し、強要未遂容疑で同15日に逮捕されていた。
 [続報]
 2022年12月29日付大阪朝刊23面
 =の男性不起訴=島根
 女性を脅してスマートフォンで裸の画像を送らせたとして、強制わいせつ容疑で松江署に逮捕された男性について、松江地検は28日、不起訴とした。理由は明らかにしていない。
読売新聞

 強要未遂は起訴されているようです。

https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/314667
松江署は、同じ女性に対する強要未遂で11月15日に男を逮捕。12月6日に起訴された。

撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為はわいせつな行為に当たらないという高裁判例(東京高裁h28.2.19・ 広島高裁岡山支部H22.12.15)を変えないと、撮影させる行為を強制わいせつ罪にできない

 撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらないという高裁判例(東京高裁h28.2.19・ 広島高裁岡山支部H22.12.15)を変えないと、撮影させる行為を強制わいせつ罪にできない
 奥村は強制わいせつ罪説を唱えていて、高裁判例で屁理屈だと排斥されてる。
 最近のわいせつの定義だと、撮影だけだど、医療行為の場合もあるから性的意味合いは決定づけられないとされていて、犯人に送って犯人が性的に消費するなどの事実がないと性的意味合いが認定されないようなんだが、東京高裁h28.2.19・ 広島高裁岡山支部H22.12.15では、送信させ・受診させまで起訴してしまうとわいせつとは言えないとされていて、これらの高裁判例がじゃまだ。
 撮影型強制わいせつ罪は、高裁レベルだと、大阪高裁2件、札幌高裁がcomingsoon。


東京高裁h28.2.19 (一審新潟地裁高田支部H27.8.25)
判例タイムズ1432号134頁
 (1) 強要罪が成立しないとの主張について
 記録によれば,原判決は,公訴事実と同旨の事実を認定したが,その要旨は,被害者が18歳に満たない児童であることを知りながら,同女に対し,要求に応じなければその名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して,乳房,性器等を撮影してその画像データをインターネットアプリケーション「LINE」を使用して送信するよう要求し,畏怖した被害者にその撮影をさせた上,「LINE」を使用して画像データの送信をさせ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録し,もって被害者に義務のないことを行わせるとともに,児童ポルノを製造した,というものである。
 すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。
 弁護人は,①被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,②原判決は,量刑の理由の部分で性的意図を認定している,③被害者をして撮影させた乳房,性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。
 しかしながら,①については,本件起訴状に記載された罪名および罰条の記載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す記載もないことからすれば,本件において,強制わいせつ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審においても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,性的意図を含むものとはいえない。
 また,②については,量刑の理由は,犯罪事実の認定ではなく,弁護人の主張は失当である。
 そして,③については,画像データを送信させる行為をもって,わいせつな行為とすることはできない。
 以上のとおり,原判決が認定した事実は,強制わいせつ罪の成立要件を欠くものである上,わいせつな行為に当たらず強要行為に該当するとみるほかない行為をも含む事実で構成されており,強制わいせつ罪に包摂されて別途強要罪が成立しないというような関係にはないから,法条競合により強要罪は成立しないとの弁護人の主張は失当である。
 (2) 公訴棄却にすべきとの主張について
 以上のとおり,本件は,強要罪に該当するとみるほかない事実につき公訴提起され,そのとおり認定されたもので,強制わいせつ罪に包摂される事実が強要罪として公訴提起され,認定されたものではない。
 また,原判決の認定に係る事実は,前記(1)のとおり,強制わいせつ罪の構成要件を充足しないものである上,被害者撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機で受信・記録するというわいせつな行為に当たらない行為を含んだものとして構成され,これにより3項製造罪の犯罪構成要件を充足しているもので,強制わいせつ罪に包摂されるとはいえないし,実質的に同罪に当たるともいえない。
 以上のとおり,本件は,強要罪および3項製造罪に該当し,親告罪たる強制わいせつ罪には形式的にも実質的にも該当しない事実が起訴され,起訴された事実と同旨の事実が認定されたものであるところ,このような事実の起訴,実体判断に当たって,告訴を必要とすべき理由はなく,本件につき,公訴棄却にすべきであるとの弁護人の主張は,理由がない。

広島高裁岡山支部H22.12.15(一審判決 岡山地裁H22.8.13)
 そして,強制わいせつ罪が個人の性的自由を保護法益とするのに対し,児童ポルノ法7条3項,1項,2条3項3号に該当する罪(以下「3項製造罪」という。)は,当該児童の人格権を第一次的な保護法益としつつ,抽象的な児童の人格権をも保護法益としており,両者が一致するものではない。しかも,原判示各事実は,前記のとおり,原判示第1及び第2の各事実については,各被害者に児童ポルノ法2条3項3号所定の姿態をとらせるに際し,脅迫又は暴行によった旨認定していないし,上記各事実と同旨の各公訴事実も同様に脅迫又は暴行によった旨訴因として掲げていない上,原判示各事実及びこれらと同旨の各公訴事実についても,それぞれ,各被害者をして撮影させた画像データを被告人の使用するパーソナルコンピューターに送信させてこれらを受信し,さらに,上記コンピューターに内蔵されたハードディスクに記録して蔵置した各行為を含んでいるところ,上記各行為はいずれも3項製造罪の実行行為(原の事実については強要罪の実行行為の一部でもある。)であって,強制わいせつ罪の構成要件該当事実には含まれない事実である。