児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

どこが観念的競合になるのかなあ。。。京都府迷惑行為等防止条例違反等被告事件大津地判令和4年3月25日

どこが観念的競合になるのかなあ。。。京都府迷惑行為等防止条例違反等被告事件大津地判令和4年3月25日
 1回の撮影行為で2人写ってたとかかなあ。
 児童ポルノ画像が10個あったからかなあ。

第五四条(一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理)
1 一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
2 第四十九条第二項の規定は、前項の場合にも、適用する。

事実および理由
罪となるべき事実の要旨
公訴事実
 被告人は、みだりに、別表記載のとおり、令和3年6月2日午後0時15分頃から同年11月13日午前8時49分頃までの間、4回にわたり、京都府●●●所在の●●●高等学校●●●更衣室において、同更衣室で着替え中の●●●(当時17歳)ほか3名に対し、あらかじめ同更衣室内に設置した動画撮影状態にした携帯電話機を使用してその姿態を動画撮影し、もって更衣室その他人が通常着衣の全部又は一部を着けない状態でいるような場所にいる他人に対し、他人を著しく羞恥させ、かつ他人に不安及び嫌悪を覚えさせるような方法で、当該状態にある他人の姿態を撮影したものである。
 
適用した罰条
 1 京都府迷惑行為等防止条例10条2項、3条3項1号
  児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条1項前段、2条3項3号
 2 刑法54条1項前段、10条
 3 刑法45条前段、47条本文、10条
 4 刑法25条1項
 5 刑事訴訟法181条1項本文

罪となるべき事実自体から、姿態をとらせて製造罪が成立するのに、ひそかに製造罪で有罪にしている事例(某地裁)

 報道された事案ですが、罪名が怪しいので判決を閲覧してきました。
 こういう法文の並びで5項が「5前二項に規定するもののほか、ひそかに・・・」となっている場合、5項製造罪(ひそかに製造罪)は、提供目的がなく、姿態をとらせていないことが要件になります。
 それなのに、「被告人が就寝中のaの陰部を手指で触るなどの姿態 及び 同人の陰部を露出させる姿態」と認定してしまうと、姿態をとらせていることになるので、ひそかに製造罪は成立しません。
 証拠を深く見ると、姿態をとらせているかもという場合は、検察官の訴追裁量としてひそかに製造罪というチョイスも許容される余地がありますが、公訴事実第1で性犯罪・福祉犯罪を起訴して、公訴事実第2で第1の機会の盗撮行為を起訴した場合には、公訴事実上姿態をとらせたことが明らかになるので、ひそかに製造罪は選択できません。「5前二項に規定するもののほか、ひそかに・・・」という法文からは、公訴事実上、姿態をとらせて+ひそかに製造した場合を、ひそかに製造罪で起訴する訴追裁量まではない。ひそかに製造罪で起訴されれば不成立とされなければならない。

 裁判所も、判示第1で性犯罪・福祉犯罪を認定して、判示第2で第1の機会の盗撮行為を認定した場合には、認定事実上姿態をとらせたことが明らかになるので、ひそかに製造罪は選択できません。「5前二項に規定するもののほか、ひそかに・・・」という法文からは、認定事実上、姿態をとらせて+ひそかに製造した場合を、ひそかに製造罪を適用することは許されません。公訴されれば、法令適用の誤りとか理由齟齬という恥ずかしい理由で破棄されると思われます。

 坪井検事もそう解説されていて、そういう高裁判例もあるんですが、そうなってない裁判例が多いので、大阪高裁では「法7条5項の罪が特別法の関係にあるとの所論は,独自の見解であって」とされた「ひそかに製造罪説」という立場もやっぱり成り立つのかなと調べています。

坪井麻友美「児童買春・児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」法曹時報 第66巻11号
ウ他の製造罪との適用関係
本条項は「前2項に規定するもののほか」と規定しており,第7条第3項の提供目的製造罪と同条第4項の「姿態をとらせ」製造罪のいずれにも該当しない場合のみ,本条項の盗撮による児童ポルノ製造罪が成立する。

阪高裁H28.10.26
第10,第12及び第13の各2の事実における法令適用の誤りの主張について。
論旨は,第10,第12及び第13の各2の製造行為は,いずれも盗撮によるものであるから,法7条4項の製造罪ではなく,同条5項の製造罪が成立するのに,同条4項を適用した原判決には,法令適用の誤りがある,というものである。
しかしながら,法7条5項は「前2項に規定するもののほか」と規定されているから,同条4項の罪が成立する場合には同条5項の罪は成立しないことが,法文上明らかである。
所論は,法7条5項に「前2項に規定するもののほか」と規定されたのは立法のミスであってこの文言に特段の意味はないとした上で,法7条5項の罪と他の児童ポルノ製造の罪との関係は前者が後者の特別法の関係だと主張する。
しかし,法7条5項の罪が追加された法改正の趣旨を考慮しても所論のように「前2項に規定するもののほか」に意味がないと解する必要はなく,法7条5項の罪が特別法の関係にあるとの所論は,独自の見解であって,採用できない。いずれも法7条4項の罪が成立しているとした原判決の法令適用に誤りはない。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(H26改正後)
7条
3前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
4前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
5前二項に規定するもののほか、ひそかに第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。

第1
A(8)が、 13歳未満の者と知りながら
わいせつ行為しようと企て
令和4年7月6日 被告人方において
就寝中のaに対して
その下着の中に手指を差し入れて
その陰部を触り
もって13歳未満の者に対して強いてわいせつ行為をした

第2 
前記第1記載の日時場所において
A(8)が18歳に満たない児童であることを知りながらひそかに、被告人が就寝中のaの陰部を手指で触るなどの姿態 及び 同人の陰部を露出させる姿態を動画撮影機能付きスマートフォンで動画撮影して、
そのころ 同所において
その動画3点を同スマホ内の内蔵記録装置に記録させて保存し
もって、ひそかに 他人が児童の性器等を触る行為に掛かる児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録にかかる記録媒体に描写した児童ポルノを製造した

便所に侵入して用便中の小学生を盗撮した事案で、ひそかに製造罪と迷惑条例違反(盗撮)の両罪を認めた事例(東京地裁R3.9.8)

便所に侵入して用便中の小学生を盗撮した事案で、ひそかに製造罪と迷惑条例違反(盗撮)の両罪を認めた事例(東京地裁R3.9.8)
 国法の重い罪があるんだから、条例(軽い)は適用されないのではないか。

建造物侵入,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反,児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,窃盗被告事件
東京地方裁判所判決令和3年9月8日
【判示事項】 小学校の教員である被告人が,小学校内において,女子児童の運動靴,体操服等を窃取し,女子便所内に侵入し,便所内に設置した小型カメラで,女子児童の臀部等を撮影して,マイクロSDカードに記録,保存して児童ポルノを製造するなどした事案。裁判所は。被告人の犯情は重く,刑事責任は厳しく追及されるべきであるが,窃盗にかかる女子児童側と示談をし,女子児童側からは被告人を許すとの意向が示されていること,盗撮に関し贖罪寄付をしていること,性依存症の克服に向けて医療機関に通院をし始めていること,教員の資格を失う見込みであることなどを考慮し,懲役1年6か月,執行猶予4年に処した事例

 【犯罪事実】
第3 被告人は,用便中の小学生女子児童の姿態を撮影する目的で,令和3年3月19日午後0時頃,本件小学校校長が看守する本件小学校3階西側女子便所内にその出入口から侵入した上,同日午後0時9分頃から同日午後0時38分頃までの間,同所において,同便所を18歳に満たない女子児童が利用することを知りながら,同便所を利用したいずれも本件小学校の女子児童であるA,B,C及びD(いずれも当時12歳)に対し,ひそかに,同便所内に設置していた動画撮影機能付き小型カメラを使用し,用便のため着衣を脱いだ前記4名の臀部等を動画撮影し,その動画データを同カメラに内蔵したマイクロSDカードに記録させて保存し,もって,便所における人の通常衣服で隠されている身体等を写真機その他の機器を用いて撮影し,正当な理由なく,人を著しく羞恥させ,かつ,人に不安を覚えさせるような行為をするとともに,ひそかに,衣服の一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを,視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより,児童ポルノを製造した。

 【法令の適用】
 被告人の判示第1及び第2の行為はいずれも刑法235条に,判示第3の行為のうち,建造物侵入の点は刑法130条前段に,被害者4名に対する盗撮の点は,いずれも公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例8条2項1号,5条1項2号イに,同被害者4名に対する児童ポルノ製造の点は,いずれも児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項,2項,2条3項3号に,判示第4の行為のうち,建造物侵入の点は刑法130条前段に,写真機等差向けの点は,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例8条1項2号,5条1項2号イにそれぞれ該当する。判示第3の建造物侵入と各盗撮及び各児童ポルノ製造の間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条により結局以上を1罪として刑及び犯情の最も重い被害者Cに対する児童ポルノ製造罪の刑で処断する。判示第4の建造物侵入と写真機等差向けの間には手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条により1罪として重い建造物侵入罪の刑で処断する。判示各罪の所定刑中いずれも懲役刑を選択する。以上は,刑法45条前段の併合罪であるから,刑法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重をする。その刑期の範囲内で被告人を懲役1年6か月に処する。情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
(求刑 懲役1年6か月)
  令和3年9月8日
    東京地方裁判所刑事第7部
           裁判官  浅香竜太

「28日までに容疑者から児童ポルノのDVDを購入した男ら37人を検挙し、残りの男らについても捜査を進めています。という報道」

 17年経過していると、製造犯も刑期も終えていると思われます。

 この動画の提供事案はコンスタントに検挙されています。
 既に購入者の相談は来てますが、
 購入者については
①破棄しておけば刑事処分になりません。
②単純所持罪(7条1項)単体では逮捕はありません。
③捜索を回避する決定打はありませんが、弁護士に相談して、破棄したという警察相談をするとリスクは下がります。前歴も残りません。
④押収された場合、単純所持罪の刑事処分は起訴猶予~罰金20~30万円程度。タナー法の問題点を指摘してみてはどうか。
と回答しています。

https://news.yahoo.co.jp/articles/1e1c1f6605f8516e3e522e9fc5cfac0508eb6f6f?page=2
17年前に摘発しても…“消せない”児童ポルノの実態 コピーDVD“販売”で男逮捕
6/28(火) 14:03配信
日テレNEWS
神奈川県警は28日、児童ポルノを販売したとして54歳の男を逮捕しました。男が販売していた児童ポルノについては、警察が17年前に製作者を逮捕して摘発したものでしたが、男はネットで入手しDVDにコピーして販売していましたといいます。製作者が逮捕されてもくり返しコピーされ、十数年後も消えることなく残るインターネット上の動画に警察も頭を悩ませています。

児童ポルノを販売したとして男を逮捕
児童ポルノ禁止法違反などの疑いで逮捕されたのは容疑者です。容疑者は2020年から去年にかけて、インターネットオークションで児童ポルノのDVDを販売した疑いが持たれています。

神奈川県警によりますと、容疑者はファイル共有ソフト児童ポルノの動画をダウンロードし、その動画を自宅のパソコンでDVDにコピーして販売していたということです。

去年までの1年間で300万円あまりを売り上げていたといいます。

■全国に広がる購入客 17道県の警察が共同捜査で次々検挙
容疑者の自宅の家宅捜索で押収したパソコンからは動画のデータが見つかったほか、この動画を購入した53人の客がいたことも判明しました。客の住所は、北は北海道から南は沖縄まで、29都道府県にまたがっていたということです。

さらなる児童ポルノの拡散を防止するために速やかに購入客からDVDを押収する必要がありましたが、当時は新型コロナウイルスが猛威を振るい、県境をまたいだ捜査員の出張も簡単にはできません。そこで神奈川県警は17道県の警察と共同捜査体制を構築。

28日までに容疑者から児童ポルノのDVDを購入した男ら37人を検挙し、残りの男らについても捜査を進めています。

■十数年前の児童ポルノが現在も流通する理由
イメージ

これほどまで多くの客が買い求めた児童ポルノとはどんなものだったのでしょうか。この児童ポルノは2004年頃に撮影されたもので、多数の児童が被害に遭ったものでした。

2004年から2005年にかけて神奈川県警のほか関西の警察を中心に合同捜査本部が立ち上げられて製作者が逮捕され、児童ポルノの動画も回収されていました。

しかし、製作者が逮捕されても、一度ネットにアップロードされた動画は、なかなか消えません。17年前に児童ポルノ動画の製作者が逮捕され動画が回収された後にもかかわらず、容疑者はファイル共有ソフトを通じてパソコンに児童ポルノの動画をダウンロードしていたということです。

そして、容疑者が児童ポルノのDVDをインターネットオークションに出品していることをサイバーパトロールしていた捜査員が発見したことで、事件が発覚しました。

■ネットから消えずに残り続ける実態
イメージ

入れ墨を完全に消すことはできないということにたとえた「デジタル・タトゥー」という比喩表現で呼ばれるように、インターネット上に公開された画像などは一度拡散されると、完全に回収したり削除したりすることは難しいといいます。

捜査幹部は「古い児童ポルノが出回ることが後を絶たない。今回摘発した児童ポルノは元々はビデオテープだったが、コピーをくり返されネットに出回ってしまった。一度でもネットにアップロードされると取り返しがつかないことになる」と話し、被害に遭った児童が将来にわたって苦しむことになる実態に頭を悩ませています。

容疑者は調べに対し容疑を認めていて「生活費の足しにしたかった」と話していて警察は詳しい事件の経緯を調べています。

AV新法(性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律)の審理経過

AV新法(性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律)の審理経
 こんだけしか情報ありません。

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g20805043.htm
衆議院トップページ >立法情報 >議案情報 >第208回国会 議案の一覧 >議案本文情報一覧 >●性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律案

第二〇八回

衆第四三号

   性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律案

目次

 第一章 総則(第一条-第三条)

 第二章 出演契約等に関する特則

  第一節 締結に関する特則(第四条-第六条)

  第二節 履行等に関する特則(第七条-第九条)

  第三節 無効、取消し及び解除等に関する特則(第十条-第十四条)

  第四節 差止請求権(第十五条)

 第三章 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の特例(第十六条)

 第四章 相談体制の整備等(第十七条-第十九条)

 第五章 罰則(第二十条-第二十二条)

 附則

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、性行為映像制作物の制作公表により出演者の心身及び私生活に将来にわたって取り返しの付かない重大な被害が生ずるおそれがあり、また、現に生じていることに鑑み、性行為映像制作物への出演に係る被害の発生及び拡大の防止を図り、並びにその被害を受けた出演者の救済に資するために徹底した対策を講ずることが出演者の個人としての人格を尊重し、あわせてその心身の健康及び私生活の平穏その他の利益を保護するために不可欠であるとの認識の下に、性行為の強制の禁止並びに他の法令による契約の無効及び性行為その他の行為の禁止又は制限をいささかも変更するものではないとのこの法律の実施及び解釈の基本原則を明らかにした上で、出演契約の締結及び履行等に当たっての制作公表者等の義務、出演契約の効力の制限及び解除並びに差止請求権の創設等の厳格な規制を定める特則並びに特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成十三年法律第百三十七号)の特例を定めるとともに、出演者等のための相談体制の整備等について定め、もって出演者の性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資することを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律において「性行為」とは、性交若しくは性交類似行為又は他人が人の露出された性器等(性器又は肛門をいう。以下この項において同じ。)を触る行為若しくは人が自己若しくは他人の露出された性器等を触る行為をいう。

2 この法律において「性行為映像制作物」とは、性行為に係る人の姿態を撮影した映像並びにこれに関連する映像及び音声によって構成され、社会通念上一体の内容を有するものとして制作された電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)又はこれに係る記録媒体であって、その全体として専ら性欲を興奮させ又は刺激するものをいう。

3 この法律において「性行為映像制作物への出演」とは、性行為映像制作物において性行為に係る姿態の撮影の対象となることをいう。

4 この法律において「出演者」とは、性行為映像制作物への出演をし、又はしようとする者をいう。

5 この法律において「制作公表」とは、撮影、編集、流通、公表(頒布、公衆送信(公衆(特定かつ多数の者を含む。)によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うことをいう。)又は上映をいう。以下同じ。)等(これらの行為に関するあっせんを含む。)の一連の過程の全部又は一部を行うことをいう。

6 この法律において「出演契約」とは、出演者が、性行為映像制作物への出演をして、その性行為映像制作物の制作公表を行うことを承諾することを内容とする契約をいう。

7 この法律において「制作公表者」とは、性行為映像制作物の制作公表を行う者として、出演者との間で出演契約を締結し、又は締結しようとする者をいう。

8 この法律において「制作公表従事者」とは、制作公表者以外の者であって、制作公表者との間の雇用、請負、委任その他の契約に基づき性行為映像制作物の制作公表に従事する者をいう。

 (実施及び解釈の基本原則)

第三条 制作公表者及び制作公表従事者は、その行う性行為映像制作物の制作公表により出演者の心身及び私生活に将来にわたって取り返しの付かない重大な被害が生ずるおそれがあり、また、現に生じていることを深く自覚して、出演者の個人としての人格を尊重し、あわせてその心身の健康及び私生活の平穏その他の利益を保護し、もってその性をめぐる個人の尊厳が重んぜられるようにしなければならない。

2 制作公表者及び制作公表従事者は、性行為映像制作物に係る撮影に当たっては、出演者に対して性行為を強制してはならない。

3 この法律のいかなる規定も、公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為を無効とする民法(明治二十九年法律第八十九号)第九十条の規定その他の法令の規定により無効とされる契約を有効とするものと解釈してはならない。

4 制作公表者及び制作公表従事者は、性行為映像制作物の制作公表に当たっては、この法律により刑法(明治四十年法律第四十五号)、売春防止法(昭和三十一年法律第百十八号)その他の法令において禁止され又は制限されている性行為その他の行為を行うことができることとなるものではないことに留意するとともに、出演者の権利及び自由を侵害することがないようにしなければならない。

   第二章 出演契約等に関する特則

    第一節 締結に関する特則

 (出演契約)

第四条 出演契約は、性行為映像制作物ごとに締結しなければならない。

2 出演契約は、書面又は電磁的記録でしなければ、その効力を生じない。

3 前項の出演契約に係る書面又は電磁的記録(以下「出演契約書等」という。)には、制作公表者及び出演者の氏名又は名称その他制作公表者及び出演者を特定するために必要な事項並びに当該出演契約の締結の日時及び場所のほか、次に掲げる事項(当該制作公表者に係る部分に関する事項に限る。)を記載し、又は記録しなければならない。

 一 当該出演者が性行為映像制作物への出演をすること。

 二 当該出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影を予定する日時及び場所

 三 前号の撮影の対象となる当該出演者の性行為に係る姿態の具体的内容

 四 前号の性行為に係る姿態の相手方を特定するために必要な事項

 五 当該性行為映像制作物の公表の具体的方法及び期間

 六 当該性行為映像制作物の公表を行う者が制作公表者以外の者であるときは、その旨及び当該公表を行う者の氏名又は名称その他当該公表を行う者を特定するために必要な事項

 七 当該出演者が受けるべき報酬の額及び支払の時期

 八 その他内閣府令で定める事項

 (出演契約に係る説明義務)

第五条 制作公表者は、出演者との間で出演契約を締結しようとするときは、あらかじめ、その出演者に対し、前条第三項に規定する事項(同項各号に掲げる事項については、当該制作公表者に係る部分に関する事項に限る。次条及び第二十一条第二号において「出演契約事項」という。)について出演契約書等の案を示して説明するとともに、次に掲げる事項についてこれらの事項を記載し又は記録した書面又は電磁的記録(以下「説明書面等」という。)を交付し又は提供して説明しなければならない。

 一 第七条から第十六条までに規定する事項

 二 第十一条の取消権については追認をすることができる時から、第十二条第一項の解除権については出演者が当該解除権を行使することができることを知った時から、それぞれ、時効によって消滅するまで、五年間行使することができること。

 三 撮影された映像により出演者が特定される可能性があること。

 四 第十七条第一項の規定により国が整備した体制における同項に規定する相談に応じる機関(同条第二項の規定により都道府県が整備した体制における当該相談に応じる機関があるときは、当該機関を含む。)の名称及び連絡先

 五 その他内閣府令で定める事項

2 制作公表者は、前項の規定による説明を行うに当たっては、出演者がその内容を容易かつ正確に理解することができるよう、丁寧に、かつ、分かりやすく、これを行わなければならない。

3 制作公表者以外の者は、出演契約の内容又は第一項各号に掲げる事項に関し、出演者を誤認させるような説明その他の行為をしてはならない。

 (出演契約書等の交付等義務)

第六条 制作公表者は、出演者との間で出演契約を締結したときは、速やかに、当該出演者に対し、出演契約事項が記載され又は記録された出演契約書等を交付し、又は提供しなければならない。

    第二節 履行等に関する特則

 (性行為映像制作物の撮影)

第七条 出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影は、当該出演者が出演契約書等の交付若しくは提供を受けた日又は説明書面等の交付若しくは提供を受けた日のいずれか遅い日から一月を経過した後でなければ、行ってはならない。

2 出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影において、出演者は、出演契約において定められている性行為に係る姿態の撮影であっても、その全部又は一部を拒絶することができる。これによって制作公表者又は第三者に損害が生じたときであっても、当該出演者は、その賠償の責任を負わない。

3 出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影に当たっては、出演者の健康の保護(生殖機能の保護を含む。)その他の安全及び衛生並びに出演者が性行為に係る姿態の撮影を拒絶することができるようにすることその他その債務の履行の任意性が確保されるよう、特に配慮して必要な措置を講じなければならない。

4 いかなる名称によるかを問わず、出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影に密接に関連する出演者の撮影(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(平成二十六年法律第百二十六号)第二条第一項各号のいずれかに掲げる人の姿態の撮影に限る。)は、出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影とみなして前三項の規定を適用する。この場合において、前二項中「性行為に係る姿態」とあるのは、「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律第二条第一項各号のいずれかに掲げる人の姿態」とする。

 (撮影された映像の確認)

第八条 制作公表者は、性行為映像制作物の公表が行われるまでの間に、出演者に対し、出演契約に基づいて撮影された映像のうち当該出演者の性行為映像制作物への出演に係る映像であって公表を行うもの(当該制作公表者が当該公表に関する権原を有するものに限る。)を確認する機会を与えなければならない。

 (性行為映像制作物の公表の制限)

第九条 性行為映像制作物の公表は、当該性行為映像制作物に係る全ての撮影が終了した日から四月を経過した後でなければ、行ってはならない。

    第三節 無効、取消し及び解除等に関する特則

 (出演契約等の条項の無効)

第十条 性行為映像制作物を特定しないで、出演者に契約の相手方その他の者が指定する性行為映像制作物への出演をする義務を課す契約の条項は、無効とする。

2 次に掲げる出演契約の条項は、無効とする。

 一 出演者の債務不履行について損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項

 二 制作公表者の債務不履行により出演者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を免除し、又は制作公表者にその責任の有無若しくは限度を決定する権限を付与する条項

 三 制作公表者の債務の履行に際してされたその制作公表者の不法行為により出演者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を免除し、又は制作公表者にその責任の有無若しくは限度を決定する権限を付与する条項

 四 出演者の権利を制限し又はその義務を加重する条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して出演者の利益を一方的に害するものと認められるもの

 (出演契約の取消し)

第十一条 制作公表者が第五条第一項又は第六条の規定に違反したときは、出演者は、その出演者の性行為映像制作物への出演に係る出演契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができる。制作公表従事者が第五条第三項の規定に違反したときも、同様とする。

 (出演契約の法定義務違反による解除)

第十二条 次に掲げるときは、出演者は、民法第五百四十一条の催告をすることなく、直ちにその出演者の性行為映像制作物への出演に係る出演契約の解除をすることができる。

 一 第七条第一項又は第三項の規定に違反して、その出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影(同条第四項の規定により出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影とみなされる撮影を含む。)が行われたとき。

 二 第八条の規定に違反して、その出演者に対し、撮影された映像のうち当該出演者の性行為映像制作物への出演に係る映像であって公表を行うものを確認する機会を与えることなく、性行為映像制作物の公表が行われたとき。

 三 第九条の規定に違反して、同条の期間を経過する前に性行為映像制作物の公表が行われたとき。

2 前項の解除があった場合においては、制作公表者は、当該解除に伴う損害賠償を請求することができない。

 (出演契約の任意解除等)

十三条 出演者は、任意に、書面又は電磁的記録により、その出演者の性行為映像制作物への出演に係る出演契約の申込みの撤回又は当該出演契約の解除(以下この条において「出演契約の任意解除等」という。)をすることができる。ただし、当該出演者に係る性行為映像制作物の公表が行われた日から一年を経過したとき(出演者が、制作公表者若しくは制作公表従事者が第五項の規定に違反して出演契約の任意解除等に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことによりその告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は制作公表者若しくは制作公表従事者が第六項の規定に違反して威迫したことにより困惑し、これらによって当該期間を経過するまでにその出演契約の任意解除等をしなかった場合には、当該出演者が、当該制作公表者又は制作公表従事者が内閣府令で定めるところによりその出演契約の任意解除等をすることができる旨を記載して交付した書面を受領した日から一年を経過したとき)は、この限りでない。

2 出演契約の任意解除等は、出演契約の任意解除等に係る書面又は電磁的記録による通知を発した時に、その効力を生ずる。

3 出演契約の任意解除等があった場合においては、制作公表者は、当該出演契約の任意解除等に伴う損害賠償を請求することができない。

4 前三項の規定に反する特約で出演者に不利なものは、無効とする。

5 制作公表者及び制作公表従事者は、出演契約の任意解除等を妨げるため、出演者に対し、出演契約の任意解除等に関する事項(第一項から第三項までの規定に関する事項を含む。)その他その出演契約に関する事項であって出演者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき、不実のことを告げる行為をしてはならない。

6 制作公表者及び制作公表従事者は、出演契約の任意解除等を妨げるため、出演者を威迫して困惑させてはならない。

 (解除の効果)

第十四条 出演契約が解除されたときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。

    第四節 差止請求権

第十五条 出演者は、出演契約に基づくことなく性行為映像制作物の制作公表が行われたとき又は出演契約の取消し若しくは解除をしたときは、当該性行為映像制作物の制作公表を行い又は行うおそれがある者に対し、当該制作公表の停止又は予防を請求することができる。

2 出演者は、前項の規定による請求をするに際し、その制作公表の停止又は予防に必要な措置を請求することができる。

3 制作公表者は、出演者が第一項の規定による請求をしようとするときは、当該出演者に対し、その性行為映像制作物の制作公表を行い又は行うおそれがある者に関する情報の提供、当該者に対する制作公表の停止又は予防に関する通知その他必要な協力を行わなければならない。

   第三章 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の特例

第十六条 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第三条第二項及び第四条(第一号に係る部分に限る。)並びに私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律第四条の場合のほか、特定電気通信役務提供者(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第二条第三号の特定電気通信役務提供者をいう。第一号及び第二号において同じ。)は、特定電気通信(同法第二条第一号の特定電気通信をいう。第一号において同じ。)による情報の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者(同法第二条第四号の発信者をいう。第二号及び第三号において同じ。)に生じた損害については、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって、次の各号のいずれにも該当するときは、賠償の責めに任じない。

 一 特定電気通信による情報であって性行為映像制作物に係るものの流通によって自己の権利を侵害されたとする者(当該性行為映像制作物の出演者に限る。)から、当該権利を侵害したとする情報(以下この号及び次号において「性行為映像制作物侵害情報」という。)、当該権利が侵害された旨、当該権利が侵害されたとする理由及び当該性行為映像制作物侵害情報が性行為映像制作物に係るものである旨(同号において「性行為映像制作物侵害情報等」という。)を示して当該特定電気通信役務提供者に対し性行為映像制作物侵害情報の送信を防止する措置(同号及び第三号において「性行為映像制作物侵害情報送信防止措置」という。)を講ずるよう申出があったとき。

 二 当該特定電気通信役務提供者が、当該性行為映像制作物侵害情報の発信者に対し当該性行為映像制作物侵害情報等を示して当該性行為映像制作物侵害情報送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会したとき。

 三 当該発信者が当該照会を受けた日から二日を経過しても当該発信者から当該性行為映像制作物侵害情報送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき。

   第四章 相談体制の整備等

 (相談体制の整備)

第十七条 国は、性行為映像制作物への出演に係る勧誘、出演契約等の締結及びその履行等、性行為映像制作物の制作公表の各段階において、出演者の個人としての人格を尊重し、あわせてその心身の健康及び私生活の平穏その他の利益を保護し、もってその性をめぐる個人の尊厳が重んぜられるようにする観点から、性行為映像制作物への出演に係る被害の発生及び拡大の防止を図り、並びにその被害を受けた出演者の救済に資するとともに、その被害の背景にある貧困、性犯罪及び性暴力等の問題の根本的な解決に資するよう、出演者その他の者からの相談に応じ、その心身の状態及び生活の状況その他の事情を勘案して適切に対応するために必要な体制を整備するものとする。

2 都道府県は、その地域の実情を踏まえつつ、前項の国の体制の整備に準じた体制の整備をするよう努めるものとする。

 (その他の支援措置等)

第十八条 国及び地方公共団体は、前条に定めるもののほか、性行為映像制作物への出演に係る被害の背景にある貧困、性犯罪及び性暴力等の問題の根本的な解決に資するよう、社会福祉に関する施策、性犯罪及び性暴力の被害者への支援に関する施策その他の関連する施策との連携を図りつつ、出演者その他の者への支援その他必要な措置を講ずるものとする。

 (被害の発生を未然に防止するための教育及び啓発)

第十九条 国及び地方公共団体は、性行為映像制作物への出演に係る被害が一度発生した場合においてはその被害の回復を図ることが著しく困難となることに鑑み、学校をはじめ、地域、家庭、職域その他の様々な場を通じて、性行為映像制作物への出演に係る被害の発生を未然に防止するために必要な事項に関する国民の十分な理解と関心を深めるために必要な教育活動及び啓発活動の充実を図るものとする。

   第五章 罰則

第二十条 第十三条第五項又は第六項の規定に違反したときは、その違反行為をした者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

第二十一条 次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした者は、六月以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

 一 第五条第一項の規定に違反して、説明書面等を交付せず若しくは提供せず、又は同項各号に掲げる事項が記載され若しくは記録されていない説明書面等若しくは虚偽の記載若しくは記録のある説明書面等を交付し若しくは提供したとき。

 二 第六条の規定に違反して、出演契約書等を交付せず若しくは提供せず、又は出演契約事項が記載され若しくは記録されていない出演契約書等若しくは虚偽の記載若しくは記録のある出演契約書等を交付し若しくは提供したとき。

第二十二条 法人の代表者若しくは管理人又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。

 一 第二十条 一億円以下の罰金刑

 二 前条 同条の罰金刑

2 人格のない社団又は財団について前項の規定の適用がある場合には、その代表者又は管理人が、その訴訟行為につきその人格のない社団又は財団を代表するほか、法人を被告人又は被疑者とする場合の刑事訴訟に関する法律の規定を準用する。

   附 則

 (施行期日)

第一条 この法律は、公布の日の翌日から施行する。ただし、第五章の規定は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。

 (経過措置)

第二条 第二章(第十条第一項及び第四節を除く。)の規定は、この法律の施行前に締結された出演契約並びにこれに基づく出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影、その撮影された映像の確認及びその性行為映像制作物の公表については、適用しない。

2 第十条第一項の規定は、この法律の施行前に締結された契約については、適用しない。

第三条 この法律の施行の日から起算して二年を経過する日(次項において「二年経過日」という。)までの間にされた出演契約の出演者からの申込み若しくはその申込みに係る出演契約又はその間に締結された出演契約についての第十三条第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは、「二年」とする。

2 二年経過日の翌日から起算して一年を経過する日までの間にされた出演契約の出演者からの申込み若しくはその申込みに係る出演契約又はその間に締結された出演契約(前項の規定の適用があるものを除く。)についての第十三条第一項の規定の適用については、同項中「経過した」とあるのは、「経過し、かつ、この法律の施行の日から起算して四年六月を経過した」とする。

3 前二項の規定の適用がある場合における第五条第一項(第一号に係る部分に限る。)の規定の適用については、同号中「事項」とあるのは、「事項(附則第三条第一項又は第二項の規定により読み替えられた第十三条第一項に規定する事項を含む。)」とする。

 (検討)

第四条 この法律の規定については、この法律の施行後二年以内に、この法律の施行状況等を勘案し、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

2 前項の検討に当たっては、性行為映像制作物の公表期間の制限及び無効とする出演契約等の条項の範囲その他の出演契約等に関する特則の在り方についても、検討を行うようにするものとする。

 (調整規定)

第五条 この法律の施行の日から特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律(令和三年法律第二十七号)の施行の日の前日までの間における第十六条の規定の適用については、同条中「及び第四条」とあるのは、「及び第三条の二」とする。

 (刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律の一部改正)

第六条 刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律(令和四年法律第▼▼▼号)の一部を次のように改正する。

  第八十条に次の一号を加える。

  十七 性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律(令和四年法律第▼▼▼号)第二十条及び第二十一条


     理 由

 性行為映像制作物の制作公表により出演者の心身及び私生活に将来にわたって取り返しの付かない重大な被害が生ずるおそれがあり、また、現に生じていることに鑑み、性行為映像制作物への出演に係る被害の発生及び拡大の防止を図り、並びにその被害を受けた出演者の救済に資するために徹底した対策を講ずることが出演者の個人としての人格を尊重し、あわせてその心身の健康及び私生活の平穏その他の利益を保護するために不可欠であるとの認識の下に、出演者の性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するため、性行為の強制の禁止並びに他の法令による契約の無効及び性行為その他の行為の禁止又は制限をいささかも変更するものではないとのこの法律の実施及び解釈の基本原則を明らかにした上で、出演契約の締結及び履行等に当たっての制作公表者等の義務、出演契約の効力の制限及び解除並びに差止請求権の創設等の厳格な規制を定める特則並びに特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の特例を定めるとともに、出演者等のための相談体制の整備等について定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DD5AEE.htm
議案名「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律案」の審議経過情報
項目 内容
議案種類 衆法
議案提出回次 208
議案番号 43
議案件名 性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律案
議案提出者 内閣委員長
衆議院予備審査議案受理年月日
衆議院予備付託年月日/衆議院予備付託委員会 /
衆議院議案受理年月日 令和 4年 5月25日
衆議院付託年月日/衆議院付託委員会 / 審査省略
衆議院審査終了年月日/衆議院審査結果 /
衆議院審議終了年月日/衆議院審議結果 令和 4年 5月27日 / 可決
衆議院審議時会派態度 全会一致
衆議院審議時賛成会派 自由民主党; 立憲民主党・無所属; 日本維新の会; 公明党; 国民民主党・無所属クラブ; 日本共産党; 有志の会; れいわ新選組
衆議院審議時反対会派
参議院予備審査議案受理年月日 令和 4年 5月26日
参議院予備付託年月日/参議院予備付託委員会 /
参議院議案受理年月日 令和 4年 5月27日
参議院付託年月日/参議院付託委員会 令和 4年 6月13日 / 内閣
参議院審査終了年月日/参議院審査結果 令和 4年 6月14日 / 可決
参議院審議終了年月日/参議院審議結果 令和 4年 6月15日 / 可決

https://kokkai.ndl.go.jp/txt/120804024X03520220527/0

000 会議録情報
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令和四年五月二十七日(金曜日)
    午後四時開議
 出席委員
   委員長 山口 俊一君
   理事 盛山 正仁君 理事 丹羽 秀樹君
   理事 伊東 良孝君 理事 佐々木 紀君
   理事 井野 俊郎君 理事 青柳陽一郎
   理事 井坂 信彦君 理事 遠藤  敬君
   理事 浜地 雅一君
      國場幸之助君    武井 俊輔君
      山田 賢司君    吉田はるみ君
      浅野  哲君    塩川 鉄也君
    …………………………………
   議長           細田 博之君
   副議長          海江田万里
   事務総長         岡田 憲治君
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 本日の本会議の議事等に関する件
     ――――◇―――――
001 山口俊一
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○山口委員長 これより会議を開きます。
 まず、本日予算委員会の審査を終了した令和四年度一般会計補正予算(第1号)及び令和四年度特別会計補正予算(特第1号)について、委員長から緊急上程の申出があります。
 両案は、本日の本会議において緊急上程するに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
002 山口俊一
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○山口委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決定いたしました。
    ―――――――――――――
003 山口俊一
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○山口委員長 次に、ただいま緊急上程するに決しました補正予算二案に対し、自由民主党の島尻安伊子君、立憲民主党・無所属の道下大樹君、日本維新の会阿部司君、国民民主党・無所属クラブの浅野哲君、日本共産党の宮本徹君から、それぞれ討論の通告があります。
 討論時間は、島尻安伊子君、道下大樹君、阿部司君は各々十分以内、浅野哲君、宮本徹君は各々五分以内とするに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
004 山口俊一
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○山口委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決定いたしました。
    ―――――――――――――
005 山口俊一
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○山口委員長 次に、本日の本会議の議事の順序について、事務総長の説明を求めます。
006 岡田憲治
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○岡田事務総長 まず最初に、動議により、補正予算二案を緊急上程いたしまして、根本予算委員長の報告がございます。次いで両案に対しまして、五人の方々からそれぞれ討論が行われますが、順序は印刷物のとおりでございます。次いで両案を一括して採決いたしまして、立憲民主党、維新の会、共産党、有志の会及びれいわ新選組が反対でございます。
 次に、日程第一は委員長提出の議案でありますので、議長から委員会の審査を省略することをお諮りいたします。次いで上野内閣委員長の趣旨弁明がございまして、全会一致でございます。
 本日の議事は、以上でございます。
    ―――――――――――――
 一、緊急上程申出議案
   予算委員会 委員長 根本  匠君
  令和四年度一般会計補正予算(第1号)
  令和四年度特別会計補正予算(特第1号)
  反対 立民 維新 共産 有志 れ新
   討論通告
      反 対    道下 大樹君(立民)
      賛 成    島尻安伊子君(自民)
      反 対    阿部  司君(維新)
      賛 成    浅野  哲君(国民)
      反 対    宮本  徹君(共産)
    ―――――――――――――
 議事日程 第二十五号
  令和四年五月二十七日
    午後四時三十分開議
 第一 性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律案(内閣委員長提出)
    ―――――――――――――
007 山口俊一
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○山口委員長 それでは、本日の本会議は、午後四時二十分予鈴、午後四時三十分から開会いたします。
    ―――――――――――――
008 山口俊一
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○山口委員長 次に、次回の本会議及び委員会は、追って公報をもってお知らせいたします。
 本日は、これにて散会いたします。
    午後四時二分散会

強制わいせつ罪(刑法176条)の「わいせつな行為」とは, いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ,かつ,通常人の正常な性的しゅう恥心を害し,善良な性的道徳観念に反する行為をいうとされている(最大判昭32.3.13集11-3-997,名古屋高金沢支判昭36.5.2下刑集35.6399)。(令和4年 新版第2版記載例中心事件送致の手引)

強制わいせつ罪(刑法176条)の「わいせつな行為」とは, いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ,かつ,通常人の正常な性的しゅう恥心を害し,善良な性的道徳観念に反する行為をいうとされている(最大判昭32.3.13集11-3-997,名古屋高金沢支判昭36.5.2下刑集35.6399)。(令和4年 新版第2版記載例中心事件送致の手引)

 そんな最高裁判例はありません。強制わいせつ罪のわいせつの定義はありません。大法廷h29.11.29の判例解説を読みましょう
 最大判昭32.3.13って175条の判例です。

裁判年月日 昭和32年 3月13日 裁判所名 最高裁大法廷 裁判区分 判決
事件番号 昭28(あ)1713号
事件名 猥褻文書販売被告事件 〔チャタレイ夫人事件最高裁判決〕
文献番号 1957WLJPCA03130005

新版第2版記載例中心事件送致の手引
令和4年5月10日新版第2版発行
著者吉田誠治
力 勾留の必要性
近時,裁判官は, ちかん事件の被疑者については, 同種前科があり常習的犯行と認められるものを除き,住居や職業が定まっていれば,否認していても勾留を認めない傾向にある。勾留を必要とする場合は, 逃亡,罪証隠滅通謀のおそれなどを具体的に指摘し,相応する証拠を整える必要がある。
(4) ちかん行為(迷惑防止条例違反と強制わいせつ罪との区別)について
本条例の「人を著しく差恥させ,又は人に不安を覚えさせるような行為」(本条例5条1項1号のいわゆるちかん行為, 同項2号の盗撮及び同項3号の卑わいな言動) とは,都民の善良な風俗環境を害し,法的安全の意識を脅かすような卑わいな言動であって, わいせつな行為に達しないものがこれに当たり。 このような卑わいな言動に該当するかどうかは,健全な社会常識に基づいて, その言動自体のほか,対象となった相手方の年齢その際の周囲の状況等をも考盧して決定すべきものと解されている。例えば, スカートをまくり上げたり, スカートのファスナーを下ろす、 スカート内をのぞき見する、スカートの下からビデオカメラ等で下着等を撮影する行為等がこれに該当する。
一方,強制わいせつ罪(刑法176条)の「わいせつな行為」とは, いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ,かつ,通常人の正常な性的しゅう恥心を害し,善良な性的道徳観念に反する行為をいうとされている(最大判昭32.3.13集11-3-997,名古屋高金沢支判昭365.2下刑集35.6399)。 また,強制わいせつ罪が成立するためには,暴行又は脅迫を手段としてわいせつ行為が行われることが要件とされているが, わいせつ行為自体が暴行と認められれば, 同罪が成立する。
電車内におけるちかん行為が,迷惑防止条例違反の違反行為に当たるのか,強制わいせつ罪の「わいせつ行為」に当たるのか, その基準は必ずしも明らかではなく,具体的な事件の状況下で,接触した部位や行為の内容等に応じて,過去の裁判例等を参考にして決するほかない。
一般的に言えば, 陰部に接触する行為については, スカートやズボンなど着衣の上から接触した場合は,迷惑防止条例の罪が適用され, 直接性器に接触した場合は強制わいせつ罪が適用されるといえる。その中間ともいうべき,スカートの中に手を差し入れて下着の上から陰部に接触した行為については,手や指で押しなでたり,動かしたりしてもてあそぶなどの執勘な態様であれば. 強制わいせつ罪が適用されるといえる

伝播可能性~「1対1のLINEやDMでは罪にならず…“侮辱罪”厳罰化」

伝播可能性~「1対1のLINEやDMでは罪にならず…“侮辱罪”厳罰化」

 虚偽風説罪の高裁判例によれば「特定少数人に対して虚偽の事実を告知した場合であっても,その者から順次その事実が不特定多数人に伝播される可能性があり,そのことを認識している限り,その者の人数の如何を問わず,同条の流布にあたると解すべきであるから,これと見解を異にする所論は採用できない」と言われそうです。

第二三一条(侮辱)
 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。


条解刑法なんてこれくらいの解説しかない。

条解刑法
第231条(侮辱)
事実を摘示しなくても,公然と人を侮辱した者は,拘留又は科料に処する
1 ) 本条の趣旨
本条の保護法益については見解の対立がある。判例通説は侮辱罪の保護法益も名誉段損罪と同じく名誉であり,両罪は名誉を害する具体的事実を摘示するか否かという行為態様において異なると解する(大判大15・7・5集5303,大判昭8.2~22集12154, 名古屋高判昭26・3・17判特27-59)。
これに対して, 名誉感情など主観的名誉を侮辱罪の保護法益とする見解(主観的名誉説)が有力に主張されている(注釈(5)336)o
名誉毀損行為について事実の証明があって名誉段損罪により処罰されない場合,主観的名誉説によると侮辱罪が成立するが,両罪の保護法益を同一とする判例通説によると,侮辱罪も成立しない(大判大5・11・1録22-1644)。
2) 事実の不摘示
判例通説の立場からは, 「事実を摘示しなくても」という
文言は,事実の摘示がないことを意味するのに対して,主観的名誉説によれば,事実を摘示してなされる侮辱罪もあり得ることになる。事実の摘示については, 230条注3参照。
3) 公然
侮辱行為は公然と行われなければならない(230条注2参照)。判例 §§231注4)。5) ・232注l)~4)
通説は保護法益を人の名誉とすることから,被害者が侮辱行為のときにその場所に現在することを必要としない(大判大4.6.8新聞1024-31)。
4) 人
本罪の対象となる「人」の範囲について, 判例通説の立場からは,名誉設損罪の場合と同じであり(230条注4参照) ‘行為者以外の自然人及び法人その他の団体を含む(法人に対する侮辱罪が認められたものとして, 最決昭58・11・1集3791341)。死者は含まれないと解される。
5) 侮辱行為
侮辱とは,他人に対する軽蔑の表示である。軽蔑の表示の方法は特に限定されず,言語はもちろん, 図画動作等によっても可能である。侮辱罪は危険犯であり, 人に対する社会的評価等を害する危険を含んだ軽蔑の表示がされれば成立する。

公然性については、名誉毀損罪の項を参照

条解刑法 名誉毀損
2) 公然
不特定又は多数人が認識できる状態をいう(最判昭36・10・13集15-9-1586)。
不特定とは,特殊な関係によってその属する範囲が限定された場合ではないことをいい,誰でも見聞し得た場合をいう。限られた数名の者に対して摘示した場合であっても, その場所の通行, 出入りが自由であって, たまたまそこに居合わせたのが数名に過ぎないのであれば,不特定と解される(例えば,大判昭6・10・19集10462は、公衆数名が居合わせた裁判所の公衆控室で他人の悪事を口外した事案につき,公然性を肯定している。これに対し,最決昭34.2.19集13-2186は,被告訴人が検事と検察事務官のみが在室する取調室で告訴人に関する侮辱的発言をした事案につき,最決昭34.12.25集13-133360は, 自己の母と妻のみが居合わせた自宅の玄関内で他人を罵った事案につき, いずれも公然性を否定している)。
公然性が認められるためには,不特定又は多数の者が現実に摘示内容を認識することを必要とせず,認識できる状態に置かれれば足りる(大判大6.7.3録23-782)。
また,摘示の相手方は特定少数人であっても,伝播して間接的に不特定多数人が認識できるようになる場合も含まれる(最判昭34.5.7集13-5-641)。伝播可能性を理由に公然性を認めることについては, 直接の相手方の意思により犯罪の成否が左右されることの不当性や表現の自由に対する不当な抑制になるとして反対する見解があるが, その場合の故意の要素としては伝播の可能性について認識することが必要であろうし,行為態様(当該情報の性質内容。形式,相手方の立場等)からも伝播可能性が具体的に認められる場合に限定すれば‘ 犯罪の成立範囲が不当に拡大することはないであろう(高等学校教諭の名誉を段損する内容を記載した文書を教育委員会委員長校長,PTA会長宛てに各1通郵送した事案につき,相手方に守秘義務があることなどを理由として伝播可能性がないとしたものとして,東京高判昭58,4.27高集36-1-27)


 医師→警察→報道機関と拡がった場合の虚偽風説流布罪で高裁判例があります。

裁判年月日 平成14年 6月13日 裁判所名 大阪高裁 裁判区分 判決
事件番号 平14(う)52号
事件名 信用毀損、業務妨害、窃盗被告事件
文献番号 2002WLJPCA06139003

 以下,所論に即して検討する。
 1 【要旨1】「流布」について
 所論は,刑法233条の「流布」とは,不特定または多数人に虚偽の事実を伝播させることをいうところ,本件では,Bという特定人かつ1人の者に告げたものであるから,「流布」には該当しない旨主張する。確かに,同条の「流布」の意義は所論指摘のとおりであるけれども,特定少数人に対して虚偽の事実を告知した場合であっても,その者から順次その事実が不特定多数人に伝播される可能性があり,そのことを認識している限り,その者の人数の如何を問わず,同条の流布にあたると解すべきであるから,これと見解を異にする所論は採用できない。なお,所論は,このような場合にまで「流布」にあたると認めると,その意義が際限なく拡大され,罪刑法定主義に反すると主張するが,虚偽の事実の告知を受けた特定少数人からの伝播可能性については,単に伝播の抽象的な恐れがあるというのではなく,告知した者と告知を受けた者の関係,告知を受けた者の地位や立場,告知の状況等を総合して具体的にその可能性の有無を判断すべきものであるから,「流布」の意義は限定されているということができ,所論は失当である。
 また,所論は,原判決は被告人が申告した虚偽の事実がBから他の警察職員に伝わり,それが報道機関に伝播する可能性が存在することを前提にしているが,Bや他の警察職員には法律上守秘義務があり,原則として捜査に関する情報が報道機関に公開されることはないのであるから,およそこのような経路で伝播する可能性は客観的に存在しない旨主張する。確かに,Bや他の警察職員には地方公務員法刑事訴訟法等において守秘義務が課せられていることは所論が指摘するとおりである。しかしながら,警察は,個人の生命,身体及び財産の保護に任じ,犯罪の予防等に当たることをもってその責務としている(警察法2条1項)のであるから,被疑者の犯罪にかかる事実であっても,その犯罪の罪質,態様,結果,社会的影響,公表される事実の内容とその方法等に照らし,これを公表することが職責上許される場合があると解するのが相当である。これを本件についてみると,被告人が申告した事実は,上記のとおり,コンビニエンスストア「C」で購入した紙パック入りオレンジジュースに異物が混入していたというものであるところ,仮にこれが真実であったとするならば,公衆の生命,身体に危険を生じかねない重大事犯で,その犯行態様は不特定の者を無差別に狙ったものである上,被告人の検察官調書(検察官証拠請求番号乙10,11)及び警察官調書(同乙2),証人Bの原審公判廷における供述並びにDの警察官調書(同甲67,ただし,不同意部分を除く。)によれば,本件当時,飲食物に異物を混入するという被告人が告げた虚偽の内容と同様の事犯が現実に全国各地で多発していたことが認められるのであって,これらの事情に照らすと,Bから被告人の申告内容を伝えられた警察職員が,事件発生の日時,場所,被害者の氏名や被害状況,飲物の内容及びその鑑識結果はもとより,その飲物の購入場所等の情報をも報道機関に公表することは,類似の犯罪の再発を予防し,その被害を未然に防ぐため公衆に注意喚起する措置として許容されるものというべきであるから,所論は採用できない。
 更に,所論は,本件において報道機関の情報入手ルート等に関する証拠がなく,被告人のBに対する虚偽の申告と報道機関からの報道との間の因果関係が明らかでない上,そもそも報道機関は警察の広報機関ではなく,独自の判断で報道しているのであるから,被告人の上記申告と報道機関の発表との因果関係をおよそ認めることはできない旨主張する。しかしながら,司法警察員作成の報告書(同甲57号)によって認められる新聞記事の内容と,司法警察員作成の報告書(同58号)によって認められる警察による報道機関への発表内容に照らすと,上記新聞記事の内容が警察による報道機関への発表内容に基づくものであることは明らかであって,その因果関係を認めることができる。そして,報道機関が警察の広報機関ではなく,独自の判断で報道していることは所論が指摘するとおりであるが,上記のような罪質,態様,本件当時の社会状況等に照らすと,報道機関が警察発表に基づき上記事件を報道することは当然考えられるから,所論が指摘する報道機関の立場をもって,上記因果関係を認めることの妨げにはならないというべきであり,所論は採用できない。

https://news.yahoo.co.jp/articles/8e9cadb2ce06e13f3abe3c8ce411f82d43093087?page=2
菊地弁護士:
「この罪はとにかく古いんですね。時代に合わせたルールで対策を強化してほしいと思います。今の侮辱罪は公然とやらなければ罪になりません。例えばLINEやDMなど1対1のSNSなど公然ではないところでの誹謗中傷を侮辱罪でとうのは難しいのです。一方で1対1でも誹謗中傷でも大きな被害をもたらすというケースもありますので、それらも含めてどう対処していくのか。場合によってはまた法改正が必要なのか、今の時代にマッチした侮辱への対処というのが要求されているかと思います」

青少年条例の年齢知情条項の解説

 

 

 

 

  年齢知情条項の解説
北海道 また、第65条は、条文の各規定に違反した者は、青少年の年齢を知らないことを理由として、処罰を免れることができない旨を規定したもので、相手方が青少年であるか否かの確認を義務付けたものである.
第65条中「過失がないとき」とは、青少年に年齢、生年月日を尋ね、身分証明書、学生証の提示を求めるなど、客観的に妥当な年齢確認を行ったにもかかわらず、当該青少年が年齢を偽ったり、虚偽の身分証明書を提示し、しかも客観的に18歳以上の者として誤認されるような状態である場合など、違反者の側に過失がないと認められる場合をいう。
なお、この場合の過失がないことの証明の挙証責任は、違反者が負うことになる。
青森 6 第31 条は、第22条(淫行又はわいせつ行為の禁止)、第15 条の8第1項第3号(テレホンクラブ等営業を営む者が、当該営業に青少年を従事させることの禁止及び第23 条(場所の提供又は周旋の禁止)の規定に違反した者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れ得ないこと及び年齢確認に関する無過失の挙証責任があることを明らかにしたものである。
「青少年の年齢を知らないことについて過失がない」とは、通常可能な調査が適切に尽くされているといえるか否かによって決せられることになるが、具体的には、相手方となる青少年に、年齢、生年月日 、えと等を尋ね、又は身分証明書等の提出を求める等、客観的に妥当な権認措置をとったにもかかわらず、青少年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出する等、行為者の側に過失がないと認められる場合をいう。
岩手 第6項(過失処罰規定)
第18 条(青少年に対するみだらな性行為等の禁止)又は第18 条の2 (青少年に対する入れ墨等の禁止)の規定に違反した者は、相手が青少年であることを知らなかったという理由で処罰を免れることを防ぐために設けた規定であって、相手が青少年であることを知らなかった場合であっても処罰を免れないこととしたものである。
「過失のない時」とは、青少年に年齢、生年月日、えと等を尋ね、又は運転免許証、身分証明書等の提出を求める等、客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず、青少年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出する等、行為者の側に過失がないと認められる場合をいい、過失がないことの証明は、違反行為をした者が行うことを要するものである。
宮城 3 第6項は、第30条(みだらな性行為等の禁止)及び第31条(入れ墨を施す行為の禁止)の各規定に違反する行為を行った者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れることができない旨を定めたもので、相手方が青少年であるか否かの確認を義務付けたものである。
ただし書き規定の「当該青少年の年齢を知らないことに過失のないJとは、単に青少年に年齢、生年月日等を尋ねただけ、あるいは身体の外観的発育状況等からの判断のみによって信じただけでは足りず、運転免許証、住民票等公信力のある書面、あるいは、父兄に直接に問い合わせる等客観的に通常可能とされるあらゆる方法を用いて精査して確認している場合をいう。
秋田 7 第5項の規定は、本条例の規定に違反する行為を行った者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れないことを規定したものであり、青少年に対してみだらな性行為又はわいせつな行為をさせた者や、有害行為に対する場所提供又は周旋した者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れないことを限定したもので、営業者等にその相手方が青少年であるか否かその年齢を確認することを義務づけたものである。
「当該青少年の年齢を知らないことに過失がないJとは、青少年に年齢、生年月日、えと等を尋ね又は身分証明書の提出を求める等客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず、青少年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出する等、営業者及び成人の側に過失がないと認められる場合をいう
なお、この項の規定により、違反者は自ら過失がないことを挙証する責任を有する。
山形 6 第6項関係
「過失のないとき」とは具体的事案ごとに提出された客観的資料の種類、その提出の際の状況及びその確認方法の有無、難易等を総合的に検討して、社会通念に照し、通常可能な調査が適切に尽くされているといえるか否かによって決せられることになる(大阪高裁昭和46年11月)
「過失のないときは、この限りでない。」とは第13条、第13条の2又は第15条の規定に違反した者が当該行為の相手が青少年であることを知らなかったことについて過失がなかった場合は、処罰されないということである。
〔関
福島 8 第6項の「過失がないときは、この限りでない」とは、第24条、第24条の2,第24条の3及び第25条第2項の規定に違反した者が、当該行為の相手が青少年であることを知らなかったことについて過失がなかった場合は、処罰されないということである。
「過失のないとき」とは、具体的事案ごとに提出された客観的資料の種類、その提出の際の状況、及びその確認方法の有無、難易等を総合的に検討して、社会通念に照らし、通常可能な調査が適切に尽くされているといえるか否かによって決せられることになる(昭和46年11月大阪高裁)。
茨城 「過失のないとき」一青少年であるか否かについて確認するに当たり,社会通念に照らして通常可能な調査が適切に尽くされていることをいい,具体的には,運転免許証や住民票,学生証など公信力のある書面,保護者に問い合わせる等客観的に可能とされるあらゆる方法を用いて確認した場合をいうもので,単に青少年に年齢,生年月日を尋ねただけとか,身体の外観の発達状況,服装等からの判断によって青少年に該当しないとした場合は,当然には「過失のないとき」には該当しない。
「この限りでない」一年齢確認をした際に,当該青少年が身分証明書の生年月日を巧妙に改ざんした場合などで,誰が見ても見誤る可能性が十分あり,見誤ったことに過失がないと認められる状況であった場合は,責任を負わせないものである
栃木 8第8項は、第22条第4項の「有害図書類の販売等の制隅、第25条第3項の「有害がん具類の販売等の制限」、第34条の「青少年に対する利用カード等の販売等の禁止」、第42条第1項若しくは第2項の「青少年に対するいムノ行等の禁止」、第43条の「青少年に対する入れ墨の禁止」、第44条第1項の「物品の質受け及び古物の買受け等の制限」第45条の「青少年からの着用済み下着の買受け等の禁止」、第46条の閻誘丁為の禁止」、第47条の「有害行為のための場所提供等の禁止」、第48条第2項の「深痴車れ出し等の禁止」、及び第49条第1項の「深夜における興行場等への立入りの制限等」の規定に違反した者が、青少年の年齢を知らないことを理由として第1項、第2項又は第4項から第6項までの規定による処罰を免れることができないという過失犯処罰規定である。
群馬 【解説】
本条は、罰則のある規定のうち青少年に対する違反行為に関して、違反者は相手が青少年であることを知らないことを理由として処罰を免れることができない旨を定めたものであり、相手方が青少年であるか否かについての確認義務を課したものである。
1 年齢の確認手段は、運転免許証、住民票、学生証等の年齢を証明することができる資料によって確認したり、保護者に問い合わせて確認するなど客観的な方法による措置が必要とされており、単に年齢や生年月日を尋ねただけでは確認したとはいえない。
2 「当該青少年の年齢を知らないことについて過失がないとき」とは、相手方である青少年に対し、年齢を証明することができる資料の提出を求めて年齢を確認するなど客観的に妥当と認められる方法により確認したにもかかわらず、青少年が虚偽の資料を呈示し、しかも、その青少年が客観的に青少年ではないと誤認されるような体格、容貌である場合等をいう。
判例
◎ (昭和30年10月18日東京高裁)
児童を接客婦として住み込ませようとする場合には、その周旋人はもとより、児童本人その親等も右周旋人の示唆等により、雇主に対し年令を偽り、満18歳以上であるように装うことは、世上一般的に行われ希有の事実でないのであるから、単に、児童の体格風貌等が18歳以上に見え、右の者等において18歳以上であると告げたからといつて、さらに戸籍抄本等につき正確な年令の調査をすることなく、その児童に淫行させた場合には、児童福祉法第34条1項6号の違反が成立し、同法第60条3項但書
の児童の年令を知らないことについて過失のない場合には当らない。
◎ (昭和30年11月8日最高裁(小))
接客婦として児童を雇入れるにあたり、単に本人の供述または身体の外観的発育状況のみによつて、同女が満18歳以上に達しているものと判断し、さらに客観的な資料として戸籍抄本、食糧通帳もしくは父兄等について正確な調査を講じ、児童の年令を確認する措置をとつた形跡の認められない限り、児童を使用する者が児童の年令を知らなかつたことについて過失がないということはできない。
◎ (昭和33年9月3日東京高裁)
児童を雇入れるに際して、年令等について本人らにこれを尋ねただけで、本人の年令の自称を漫然と受入れ、同女に売淫させていた場合には、児童福祉法第60条3項但書にいう「過失がないとき」に当らない。
◎ (昭和34年12月10日長崎家裁
児童福祉法第60条3項但書にいう児童の年令を知らないことにつき、過失がないといえるためには、使用者が児童を雇入れる際、児童本人や仲介者などの自称する年令を軽信せず、児童の戸籍謄本または抄本などによつて生年月日を調査し、あるいは親元の照会をして年令を確かめるとか、一般に確実性のある調査確認の方法を一応尽すことが必要と考えられる。
◎ (昭和41年7月19日東京高裁)
社交クラブの経営者が若い婦女子を雇入れるにあたつては、本人若しくは周旋人の供述とか本人の身体の発育状態のみに頼ることなく、本人の戸籍を調べ、父兄に問合わせる等確実な調査方法を講じて本人の年令を確認すべき注意義務を負う。
◎ (昭和27年7月17日福岡高裁
児童福祉法第60条3項にいう児童の年令を知らないことについて過失がなかつた立証責任は、被告人側が負うべきものである


埼玉
用語の 説明
「過失がないとき」とは、単に青少年に年齢や生年月日を確認しただけ、又は身体の外部的発育状況等から判断しただけでは足り ず、学生証、運転免許証等の公信力のある書面、又は当該青少年の保護者 に直接問い合わせるなど、その状況に応じて通常可能とされるあらゆる方法を講じて青少年の年齢を確認している場合をいう。

関係する判例( 「過失がないとき」
○ 昭和 34 年5月 11 日最高栽判決(児童福祉法違反)児童又はその両親が児童本人の氏名を偽り、他人の戸籍抄本をあたかも本人のごとく装って提出した場合、他人の戸籍抄本をあたかも児童本人のものであるかの使用することも職業の特殊性から当然あり得ることが容易に想像できるから、一方的な陳述だけで たやすく軽信することなく、他の信頼すべき客観的資料に基づいて調査をなすべきである。この調査を怠っている
場合、児童福祉法第 60 条第3項但し書きにいう年齢を知らないことにつき過失がない場合に該当しない。

昭和 38 年4月 13 日東京家裁判決(風適法違反)
風俗営業者は、 全て の場合に戸籍謄本等を提出させたり、戸籍の照会をなすべき義務まで負うものではないが、応募者全員に対し住民票その他氏名、年齢等を通常明らかにし得る資料の提出を求めるか、 全て の場合に、単にその氏名、年齢等を述べさせ若しくは記載させ、又はその容姿を 観察するだけでなく、進んでその出生地、いわゆる「えと」年、その他、親兄弟や学校関係等について適宜の質問を発して事実の有無を確かめるとかの方法を講ずべきであり、すくなくとも本人の言うところ等に多少でも疑問があれば、右のような方法の外、進んで戸籍の照会を行う等客観的に通常可能な方法をとって事実を確かめ、その年齢を確認すべき法的な注意義務を有するものと解する。
千葉 3 第7項関係
本項は、各規定に違反する行為を行った違反者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れることができない旨を定めたもので、相手方が青少年であるか否かの確認を義務付けたものである。
(1) 対象となる違反は、前記1の表中、罰則欄に(過失犯処罰)と記載されたものが、該当する。
(2) 過失がないときとは、社会通念に照らし、通常可能な調査が適切に尽くされているか否かによって判断されると解される。
具体的には、単に青少年に年齢、生年月日等を尋ねただけ、あるいは身体の外観的発育状況等からの判断のみによって信じただけでは足りず、自動車運転免許証、住民票等公信力のある書面、又は、父兄に直接に間い合わせる等客観的に通常可能とされるあらゆる方法を用いて確認している場合をいう。
東京 淫行に適用なし
神奈川 4 「ただし、当該青少年の年齢を知らないことに過失がないときは、この限りでない。」とは、当該青少年の年齢について行為者が相当の注意を払い、青少年であることを知らなかったことについて、行為者に過失がなかったことが立証されれば、処罰の対象とされないということである。具体的には、履歴書を提出させるだけでは本人を確認したとは言えず、運転免許証等の顔写真つきの身分証明書で確認するか、必要によっては保護者等に確認するなどの手段を講じた場合は、過失がないと言える。
新潟 【解説】
第6項の規定は、青少年の健全な育成を阻害するおそれが強く、当然社会的にも非難されるべき行為について、青少年の年齢を知らなかったとしても、そのことを理由に処罰を免れることができない旨を規定しているもので、青少年保護の実効性を確保しようとするものである。
「ただし、過失のないとき」とは、社会通念に照らし、通常可能な確認が適切に行われているか否かによって判断される。
具体的には、単に青少年の年齢、生年月日を尋ねただけ、あるいは身体を外観等からの判断だけでは足りず、自動車運転免許証、住民票等の公信力のある書面で確認するか、又は、保護者に問い合わせるなど客観的に通常可能とされるあらゆる方法を用いて確認している場合をいう。
富山 2) 第15条に違反する行為は、健全な青少年の精神及び身体に悪影響を及ぼす悪質なものである。
このような行為が年齢の不知をもって処罰を免れることは、本条例の目的である青少年の健全育成に反することになることから、その実効性を確保するため、青少年の年齢を知らなかったことに過失のないときを除き、処罰の対象としたものである。
(3) 過失がないときとは、青少年に対し、年齢、生年月日などを尋ね、又は身分証明書学生証などの提出を求めるなど客観的に妥当な年齢確認の方法をとったにもかかわらず、当該青少年が年齢を偽ったり、虚偽の身分証明書などを提出し、しかも客観的に18歳以上の者として誤認されるような状態である場合など、違反者の側に過失がないと認められる場合をいう。
石川 【解 説】
1 第52条及び第53条に違反する行為は、健全な青少年の精神及び身体に悪影響を及ぼす極めて悪質、反社会的な行為である。かかる行為が年齢の不知をもって処罰を免れることは、本条例の目的である青少年の健全育成に反することとなることから、その実効性を確保するため、青少年の年齢を知らなかったことに過失のないときを除き、処罰の対象としたものである。
2 「過失のないとき」にあたるかは、個々のケースについて判断する必要があるが、社会通念に照らし、通常可能な査が適切に尽くされているか否かによって決められることになる。具体的には、単に青少年に年齢、生年月日を尋ねただけ、あるいは身体の外部的発育状況等からの判断のみによって信じただけでは足りず、自動車運転免許証、住民票等公信力のある書面の提出を求める、又は当該青少年の保護者に直接問い合わせる等客観的に通常可能とされるあらゆる方法を用いて確認している場合をいう。
過失のないことの証明は、行為者自身において行うことを必要とするものである。
福井 7 第6項は、本条第1項から第5項の違反行為については「青少年の年齢不知を理由として、処罰を免れることはできない」ことを規定したものである。ただし、青少年の年齢確認について客観的に充分な注意義務が払われ、違反行為の発生に過失が認められなかった場合には、罰則の適用が免れる。
「過失のないとき」とは、具体的事案ごとに提出された客観的資料の種類、その提出の際の状況およびその確認方法等を総合的に検討して、社会通念に照らし、通常可能な調査が適切に尽くされているか否かによって判断されることになる。
青少年の年齢確認については、関係業者の協力にゆだねるところが大きいが、学生、生徒等の場合には、学生証、生徒手帳等の提示を求める、服装、態度等から判断して年齢を問いただす等の適当な方法をとることが望まれる。
山梨 解説書なし
長野 「当該子どもの年齢を知らないことに過失がないとき」とは、例えば当該子どもからl8歳以上であるとの偽造運転免許証を見せられた場合などは免責される。
岐阜 規定は、条文に掲載する各規定に違反する行為を行った者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れることができない旨を定めたもので、相手方が青少年であるか否かの確認を義務付けたものである。
「当該青少年の年齢を知らないことに過失がないとき」とは、青少年に対して、年齢、生年月日等を尋ね、又は身分証明書の提出を求める等、客観的に妥当な年齢確認の措置をとったにもかかわらず、当該青少年が年齢を偽ったり、又は虚偽の身分証明書を提出したりして、しかも客観的に18歳以上の者として誤認されるような状態である場合等、違反者の側に過失がないと認められる場合をいう。
静岡 8 第8項関係
本項は、第14条の2(淫行及びわいせつ行為の禁止)、第14条の3(入れ墨の禁止)、第14条の4(着用済み下着等の譲受け等の禁止)、第14条の5(児童ポルノ等の提供を求める行為の禁止)、第15条(場所の提供及び周旋の禁止)の各規定に違反する行為を行った者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れることができない旨を定めた規定である。
これらの行為は特に悪質な行為であり、このような行為が年齢の不知をもって処罰を免れることは、本条例の目的である青少年の健全育成に反するため、青少年の年齢を知らなかったことに過失のないときを除き、処罰の対象とするものである。
(1) 「過失のない」とは、通常可能な調査が尽くされていると言えるか否かによって判断される。具体的には、青少年に対して、年齢、生年月日を尋ねたり、本人の容姿、体格等の身体的発育状況によって満18歳以上であると信じたというだけでは足りず、戸籍謄本、運転免許証等の客観的な資料に基づいて、通常可能な調査方法を講じ、更には父兄に直接問い合わせる等、年齢確認に万全を期したものと認められない限り、過失がないとはいえない。
(2) 無過失であることの挙証責任は、違反する行為を行った者にあると解される。
愛知 10 第8項の規定は、青少年の年齢を知らなかったという理由で処罰を免れることがないことを規定したものである。
「過失がないとき」とは、具合的事実ごとに提出された客観的資料の種類、その提出の際の状況及びその確認方法の有無、難易度を総合的に検討して、社会通念に照し、通常可能な調査が適切に尽くされているか否かによって決められることになる。(大阪高裁46. 10)
三重 3 第9項の「過失がないときは、この限りではない」とは、第18条の2、第19条の2第1項、第20条の2、第20条の3、第21条、第22条、第23条、第23条の2、第24条又は第24条の2第3項、第4項、第5項の規定に違反した者が、当該行為の相手が青少年であることを知らなかったことについて過失がなかった場合は、処罰されないということである。
「過失がないとき」とは、具体的事案ごとに提出された客観的資料の種類、その提出の際の状況及びその確認方法の有無、難易度等を総合的に検討して社会通念に照らし、通常可能な調査が適切に尽くされているか否かによって決せられることになる。
滋賀 3. 「当該青少年の年齢を知らないことに過失がないときJとは、青少年の年齢について行為者が相当の注意を払い、青少年であることを知らなかったことについて、行為者に過失がなかったことが立証されれば、処罰の対象とならないということである。営業者等が青少年に年齢、生年月日、えと等を尋ね、または運転免許証等の顔写真付きの身分証明書の提示を求めたり、必要によっては保護者等に確認するなど客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず、青少年自身が年齢を偽り、または虚偽の証明書を提示するなど、営業者等に過失がないと認められる場合をいう。
なお、この場合違反者は自ら過失がないことを立証しなければならない
京都 第7項は、第13条の2第4項、第13条の3第2項、第14条の2第2項、第18条の2第2項、第21条、第22条から第24条まで(第23条第2項を除く。) 、第24条の4、第24条の7第1項若しくは第2項(第3号に係る部分を除く。) 又は第24条の8 (第3号に係る部分を除く。) の規定に違反した者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として、処罰を免れえないこと及び当該青少年の年齢を知らないことに過失がないことの挙証責任が当該行為者側にあることを規定したものである。同項の「当該青少年の年齢を知らないことに過失がない」とは、青少年に年齢、生年月日等を尋ね、又は身分証明書の掲示を求める等、客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず、青少年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出し、しかも当該青少年が客観的に18歳以上の者と誤認されるような状態である場合等、行為者の側の過失がないと認められる場合をいう。
大阪 【解説】
本条は、次の5つの青少年への禁止行為に違反した者が、当該青少年が18 歳に満たない者であることを知らなかったとしても、それを理由として処罰を免れることができないことを規定したものである。
〇青少年に対する有害役務営業を営む者の禁止行為等(第26 条第1 項、第2 項第1 号)
〇青少年に対する有害役務営業に係る勧誘行為等の禁止(第27 条第3 号除く)
〇青少年に対する淫らな性行為及びわいせつな行為の禁止(第39 条)
〇青少年への勧誘行為の禁止(第42 条第2 号及び第3 号)
○場所の提供及び周旋の禁止(第43 条第1号、第3号、第4号)
ア「過失のないとき」とは、例えば、青少年に対して年齢確認をした際に、当該青少年が年齢を詐称した身分証明書や他人の身分証明書を示した場合等で、社会通念上、違反者の側に過失がないと明らかに認められる場合が考えられる。
兵庫

「過失のないとき」とは、単に青少年に年齢、生年月日等を確認しただけ、又は身体の外観的発育状況等から判断しただけでは足りず、学生証運転免許証等の公信力のある書面、又は当該青少年の父兄に直接問い合わせるなど、その状況に応じて通常可能とされる
あらゆる方法を用いて青少年の年齢を確認している場合をいう。
奈良 8 第5項の「当該青少年の年齢を知らないことについて過失がない」とは、通常可能な調査が適切に尽くされているといえるか否かによって決められる。具体的には、相手方となる青少年に、年齢、生年月日、干支等を尋ね、又は身分証明書等の提出を求める等、客観的に妥当な確認措置を尽くしたにもかかわらず、青少年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出する等、行為者側に過失がないと認められる状況をいう。
過失がないことの証明は、行為者自身において行うことを必要とするものである。
和歌山 8 第8項は、特定の違反行為については、「当該青少年の年齢不知をもって処罰を免れ得なしリとする規定である。
(1) 当該青少年の年齢を知らないことに過失がない」とは、通常可能な調査が適切に尽くされていると言えるか否かによって決められることになるが、具体的には、相手方となる青少年に、年齢、生年月日、干支等を尋ね、又は身分証明書等の提出を求める等、客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず青少年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出する等、行為者の側に過失がないと認められる場合をいう。
この場合、過失のないことの証明は、行為者自身において行うことを必要とするものである。
鳥取 第9項は、いわゆる年齢知情特則です.青少年を保護するという条例の実効性をより高
めるため、平成8年の改正で新たに追加されました。「当該青少年の年齢を知らないことに過失がないとき」とは、社会通念に照らして通常可能な調査が適切に尽くされていると言えるか否かで判断されることとなります。
「過失がないとき」とは、単に青少年に年齢、生年月日等を尋ねただけ、又は身体の外観的発達状況等から判断しただけでは足りず、学生証、運転免許証等の公信じ力のある耆面、又は当該青少年の保護者に直接問い合わせるなど、その状況に応じて通常可能とされるあらゆる方法を用いて青少年の年齢を確認している場合などがあたります。この場合、過失がないことの証明は、違反者自身が行うことが必要です。
島根 第5項の規定は、伺項に掲げる規定に違反する行為を行った者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れることができない旨を定めたもので、相手方が青少年であるか否かその年齢を確認することを義務付けたものである。
「当該青少年の年齢を知らないことに過失がない」とは、青少年に年齢、生年月日等を尋ね、又は身分証明書の提出を求める等客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず、青少年自身が年齢を偽札又は虚偽の証明書を提出する等、営業者及び成人の側に過失がないと認められる場合をいう。
岡山 8 第7項は、本条例の規定に違反する行為を行った者は、青少年の年令を知らなかったことを理由として処罰を免れないことを規定したものであり、有害図書や利用カード等を販売したり、有害興行を行う場所へ入場させようとする場合等、本条例で規制されている事項に関しては、営業
等の相手方が青少年であるか否か、又その年令を確認することを義務づけたものである。「当該青少年の年令を知らないことに過失がないとは、青少年に年齢、生年月日等を尋ね、又は身分証明書の提示を求める等、客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず、青少年自身が年令を偽り、又は虚偽の証明書を提示する等、営業者等の側に過失がないと認められる場合をいう。
なお、この規定により、違反者は自ら過失がないことを挙証する責任を有する。
広島 8 第7項の「当該青少年の年齢を知らないことに過失がないとは,青少年に年齢,生年月日等を尋ね,又は身分証明書の提出を求める等,客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず,青少年自身が年齢を偽り,文は虚偽の証明書を提出した場合,あるいは,客観的に18歳以上の者と誤認されるような状態である場合等,行為者の側に過失がないと認められる場合をいう。
山口 2過失犯処罰~
青少年に対する、条例第12条第1項に規定する性行為又はわいせつの行為、第12条の2に規定する入れ墨を施す行為等又は第20条第3号に規定する不当な手段により児童ポルノ等の提供を求める行為については、相手方が青少年であることの認識を欠いていたり、青少年であることを知らなかったとの弁解をする場合が多いと容易に想定されるので、故意犯(相手方が青少年であることを認識していた場合)のみを処罰することとしたのでは、青少年をこうした行為から保護しようとする条例の目的を十分達し得ない。したがって、過失により、その相手方が青少年であることを知らなかった場合においても処罰すること、すなわち、このような行為をするに当たっては、その相手方が青少年であるかどうかを確
認する注意義務を課することとしたものである。
この注意義務の程度は、まさに「社会通念、条理、慣習、法令等によって、通常人としてとり得る行動を標準として」決められるべきことであり、この標準に従えば、条例第12条第1項に規定する性行為又はわいせつの行為をする者(青少年と一時的な関係に立つ者)に対して、(年齢不知の過失犯の処罰規定のある)児童福祉法第60条第4項の「児童を使用する者」(児童と継続的な関係に立つ者) と同程度の注意義務(年齢調査義務)を要求することは無理である。~
したがって、第20条の2においては、この注意義務(年齢調査義務)の内容としては、その相手方との一時的な関係から考えて、相手方の身体の発育状況、身なり、~言動等から判断して、通常人ならば青少年でないかと疑いを持つようなときに、相手方に年齢を問う程度のものであり、身分証明書運転免許証等による年齢調査義務まで求めたものではない。
なお、当該行為の相手方が青少年であることを知らなかったことにつき過失があったことの挙証責任は、捜査側にある。
徳島 〔要旨〕
本条は、関係各規定に違反した者がど青少年の年齢を知らないことを理由として処罰を免れることができない旨を規定したもので、相手方が青少年であるか否かの確認を義務付けたものである。
〔解説〕
1 本条の規定は、第14条第l項、第14条の2第1項文は第15条の規定に違反する行為が、青少年の精神、身体等に与える悪影響を考えると、それは社会的にも当然非難されるべき行為であるところから、青少年の年齢を知らなかったとしてもそのことを理由に処罰を免れることができない等を規定したもので、青少年保護の実効性を確保しようとするものである。
2 ただし書は、青少年の年齢について行為者が相当の注意を払い、青少年であることを知らなかったことについて行為者に過失がなかったことが立証されれば、処罰されない旨を規定したものである。
〔関係法令〕
O地方自治法第14条第5項、第6項
O刑法第8条、第41条
0児童福祉法第60条第3項
香川 「過失がないとき」とは、社会通念上、通常可能な年齢確認が適切に行われているか否かで判断され、例えば、相手方となる青少年に年齢や生年月日、干支等を聞いたり、身分証明書の提出を求める等客観的に妥当な確認措置がとられたにもかかわらず、その青少年が年齢を偽ったり、虚偽の証明耆を提出する等行為者に過失がないと認められる場合をいう。
【参考判例】(昭和34年5月11日最高裁判決、要旨)
児童を接客婦として雇い入れる雇主は、児童、「両親がその実家で差し出した他人の戸籍抄本が児菫本人のものか否かを確かめるべきであり、そのために、単に児童、両親の一方的陳述だけで軽信することなく、他の客観的資料に基づいて調査をなすべきである。
愛媛 7 第7項関係
本条第1項及び第3項については、当該行為の相手方の青少年の年齢を知らないことを理由として、処罰を免れることができないと定めたもので、相手方の年齢確認を義務付けたものである。
なお、「過失がないとき」とは、社会通念に照らし、通常可能な調査が適切に尽くされていると言えるか否かによって決められることになる(昭和46年11月大阪高裁)。
具体的には、相手方となる青少年に、年齢、生年月日、干支等を尋ね、又は身分証明書の提出を求める等、客観的に妥当な年齢確認を行ったにもかかわらず、青少年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出し、客観的に18歳以上の者として誤認されるような状態である場合などである。この場合、過失がないことの証明は、違反者自身が行うことが必要である。
高知 5 第5項の規定は、本条例の規定に違反する行為を行った者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れることができない旨を規定したものであり、有害図書類等を販売したり、有害興行を行う場所へ入場させようとする場合等本条例で規制されている事項に関しては、営業等の相手方が青少年であるか否かその年齢を確認することを義務付けたものである。
「当該青少年の年齢を知らないことに過失はないJとは、青少年に年齢、生年月日等を尋ね、又は身分証明書のt是出を求める等客観的に妥当な確認措置を取ったにもかかわらず、青少、年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出等、営業者及び成人の側に過失がないと認められる場合をいう。
なお、この項の規定により、違反者は自ら過失のないことを挙証する責任を有する。
福岡 【要旨】
本条は、第4章、第5章に定める制限・禁止規定の違反者に対する罰則等を定め、各制限・禁止規定の実効を担保するものである。
【解説】
第8項の「青少年の年齢を知らないことを理由として過失のないとき」とは、例えば青少年に対して、年齢生年月日等を尋ね、又は身分証明書の提出を求める等の措置をとり、更に保護者の確認をとった上で、保護者が嘘をつく等、社会通念をもってしても予測し得ない場合など、違反者の側に過失がないと明らかに認められる場合が考えられる。
佐賀 7 第7項は、第22条(みだらな性行為及びわいせつな行為の禁止)又は第23条(場所提供及び周旋の禁止)に違反した者に対しては、当該青少年の年齢を知らないことに過失がないときを除いて、行為者は処罰を免れることができない旨の規定である。
なお、過失の有無は、具体的事案ごとに提出された客観的資料の種類、その提出の際の状況及びその確認の方法の有無、難易等を総合的に検討して、社会通念上、通常可能な調査が適切に尽くされているといえるか否かによって判断されることになる。
長崎 [ 要旨]
本条は、本条例の違反行為に対し、少年の年齢を知らないことを理由として処罰を逃れることができないことを定めたものである。
[ 解説]
1 平成21年3月の一部改正により、第13条第2項の規定に違反して少年を連れ出し、同伴し、又はとどめた者に対し、1 0万円以下の罰金又は科料に処すことを追加したことから本条にも「第13条第2項Jr第4項第2号」の条項を追加した。
2 r少年の年齢を知らないことに過失がない」とは、客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず、少年が虚偽の証明書を提出するなどした場合のことをいう
熊本 5 第5項関係
「みだらな性行為及びわいせつ行為の禁止違反J (条例第13条第1項)、「みだらな性行為及びわいせつ行為の教示等の禁止違反」(条例第13条第2項)、「場所提供及び周旋の禁止違反J (条例第14条)又は「入れ墨の禁止違反j (条例第17条)の規定に違反した者に対しては、当該少年の年齢を知らないことに過失がないことを立証しない限り、行為者は条例第24条第1項又は第2項の規定による処罰を免れることができない旨の規定である。
大分 6第6項関係
「みだらな性行為及びわいせつ行為の禁止違反」 ((条例第1133条第11項))、 「みだらな性行為及びわいせつ行為の教示等の禁止違反」(条例第13条第2項)、「場所提供及び周旋の禁止違反」(条例第14条)又は「入れ墨の禁止違反」(条例第17条)の規定に違反した者に対しては、当該少年の年齢を知らないことに過失がないことを立証しない限り、行為者は条例第21条第1項又は第2項の規定による処罰を免れることができない旨の規定である。
宮崎 (2) 「当該青少年の年齢を知らないことに過失がないとき」とは、通常可能な調査が適切に尽くされているか否かによって決せられることになるが、具体的には相手方となる青少年に、年齢、生年月日等を尋ね、又は身分証明書等の提出を求める等、客観的に妥当な確認措置をとったのにもかかわらず青少年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出する等、行為者の側に過失がないと認められる場合をいう。
鹿児島 第6項は,第22条, 第23条及び第24条の各規定の違反行為者が,青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れることができない旨を定めたもので,相手方が青少年であるか否かの確認を義務付けたものである。
同項ただし書は, 単に青少年に年齢, 生年月日等を尋ねただけ, あるいは身体の外観的発育状況等からの判断のみによって信じただけでは足らず, 自動車運転免許証,住民票等公信力のある書面, あるいは保護者等に直接問い合わせる等客観的に通常可能とされるあらゆる方法を用いて精査して確認している場合等をいう。
沖縄 第8項
1 本項の規定に違反した者は、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れることができないこと及び年齢確認に関する無過失の挙証責任があることを規定したものである。
2 年齢確認の具体的な確認方法としては、相手方と面談した場合は、相手方となる青少年に年齢、生年月日等を尋ね、又は運転免許証等公信力のある身分証明書の提出、あるいは、父兄に直接問い合わせる等客観的に妥当な確認措置をとることであり、インターネット上の電子メール等のやりとりだけで相手方と面談しない場合は、相手方となる青少年に年齢、生年月日等を尋ね、青少年であるか否かを確認することである。
なお、インターネット上の電子メール等でのやりとりの後、相手方と面談した場合は、面談した場合の確認措置が求められる。
3 「過失のないとき」とは、
⑴ その者が青少年でないことを確認するにつき全く遺漏がなかったことを意味し、過失がないことの挙証責任は営業者等が負う。
⑵ 過失推定規定であり、どのような手段・方法を講じれば過失がないとされるかは、年齢確認に用いた資料、その資料の入手方法、当該相手との面談状況等を判断し、営業者として可能な限りの調査を尽くしているかどうかを、社会通念に照らして判断されるべきである。
⑶ 青少年の身体的発育状況、態度、職歴、本人や紹介者等の単なる申告等からその者が青少年でないと信じたというだけでは足りない。
⑷ 客観的資料として、本人の戸籍謄本、住民票、運転免許証等公信力のある書面等に基づく調査、保護者等に面接する等客観的に通常可能とされるあらゆる手段方法を講じて、当該青少年の年齢確認に万全を期した結果青少年でないと信じた場合にのみ過失がなかったと認めるべきである。
⑸ 相手方と面談しないインターネット上における電子メール等のやりとりにおいては、そのメール等の内容では、客観的に青少年と判断することはできず、加えて、相手方に対して、年齢、生年月日、学年等を尋ねたところ、18歳以上である旨の嘘をつかれるなど、社会通念上、必要な確認措置をとったにもかかわらず、客観的に青少年と判断し得ない状況にある場合にのみ、違反者に過失がなかったと認めるべきである。
   
   

 

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律の一部改正(令和4年)


 ほとんど機能していない条文なので、移管されても動かないと思います。


改正前

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411AC0100000052_20150801_000000000000000&keyword=%E5%85%90%E7%AB%A5%E8%B2%B7%E6%98%A5
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(H26改正後)
第三章 心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置
(心身に有害な影響を受けた児童の保護)
第十五条 厚生労働省法務省都道府県警察、児童相談所、福祉事務所その他の国、都道府県又は市町村の関係行政機関は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童に対し、相互に連携を図りつつ、その心身の状況、その置かれている環境等に応じ、当該児童がその受けた影響から身体的及び心理的に回復し、個人の尊厳を保って成長することができるよう、相談、指導、一時保護、施設への入所その他の必要な保護のための措置を適切に講ずるものとする。
2 前項の関係行政機関は、同項の措置を講ずる場合において、同項の児童の保護のため必要があると認めるときは、その保護者に対し、相談、指導その他の措置を講ずるものとする。
(心身に有害な影響を受けた児童の保護のための体制の整備)
第十六条 国及び地方公共団体は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童について専門的知識に基づく保護を適切に行うことができるよう、これらの児童の保護に関する調査研究の推進、これらの児童の保護を行う者の資質の向上、これらの児童が緊急に保護を必要とする場合における関係機関の連携協力体制の強化、これらの児童の保護を行う民間の団体との連携協力体制の整備等必要な体制の整備に努めるものとする。
(心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策の検証等)
第十六条の二 社会保障審議会及び犯罪被害者等施策推進会議は、相互に連携して、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策の実施状況等について、当該児童の保護に関する専門的な知識経験を有する者の知見を活用しつつ、定期的に検証及び評価を行うものとする。
2 社会保障審議会又は犯罪被害者等施策推進会議は、前項の検証及び評価の結果を勘案し、必要があると認めるときは、当該児童の保護に関する施策の在り方について、それぞれ厚生労働大臣又は関係行政機関に意見を述べるものとする。
3 厚生労働大臣又は関係行政機関は、前項の意見があった場合において必要があると認めるときは、当該児童の保護を図るために必要な施策を講ずるものとする。


改正後

こども家庭庁設置法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g20809039.htm
第二〇八回
閣第三九号
   こども家庭庁設置法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律の一部改正)

第十七条 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)の一部を次のように改正する。

  第十五条第一項中「厚生労働省」を「こども家庭庁」に改める。

  第十六条の二第一項中「社会保障審議会」を「こども家庭審議会」に改め、同条第二項中「社会保障審議会」を「こども家庭審議会」に、「厚生労働大臣」を「内閣総理大臣」に改め、同条第三項中「厚生労働大臣」を「内閣総理大臣」に改める。

「例えばいわゆるわいせつなビデオを撮影するときに屋外で54人で撮影していたケースで、それは無罪というか公然性が認められなかった判例もある。」という判例は見つからない。


 無罪になったとか、判例があるということはないと思います。

AV撮影の52人を不起訴
2016.09.24 中日新聞社
 東京地検は二十三日、キャンプ場でアダルトビデオを撮影したとして、公然わいせつや同ほう助容疑で書類送検された監督やAV女優、芸能プロダクション元社長ら五十二人を不起訴処分とした。地検は「『不特定もしくは多数人が認識できる状態』という構成要件に該当しなかった」としている。
五十二人は、二〇一三年九月三十日~十月一日、相模原市のキャンプ場でAV制作のためにわいせつな行為をしたなどとして、警視庁に書類送検されていた。

https://news.yahoo.co.jp/articles/8e2189314a84f7f54cf4e95db16f31d9b85408dd
山口真由氏 120人乱交パーティー主催疑いで逮捕された事件「人数もあったでしょうが珍しいケース」
また、「例えばいわゆるわいせつなビデオを撮影するときに屋外で54人で撮影していたケースで、それは無罪というか公然性が認められなかった判例もある。お互いが知り合い同士で人間関係があったということで」とアダルトビデオの撮影をめぐっての判例を紹介。その上で今回の事件について「ライングループであったとしても元々、密接な人間関係があったわけではないということと、120人という人数が多かったんだと思いますね」と指摘した。

eMule使用の児童ポルノ提供・所持事案の捜索に対する対応

 P2Pソフトは常時警察に監視されていて、児童ポルノファイルを見つけると、遡って経由した人が捜索を受けるという経緯になります。
 ダウンロード専用のつもりで使っていても、アップロードされていて、公然陳列罪等で捜索をうけることがあります。
 対応としては、捜索の現場では、弁護士に相談してから答えるということにして、知っていること・知らないことを分けて説明するようにしてください。「アップロードの認識あり」と答えると 罰金50万円くらいになりますから、慎重に回答してください。
 取調で書かれることはだいたいこの程度ですが、延べ10~20時間はかかります。

1 はじめに 1
2 身上関係 1
3 わいせつ動画像・児童ポルノ動画像を集める趣味について 2
4 ファイル共有の履歴について 3
5 使ったパソコンの紹介 3
(1)外観 3
(2)ファイル構成 4
6 インターネット回線の説明 5
(1)プロバイダとの契約 5
(2)ルーター等とパソコンの接続状況(写真) 5

7 ファイル共有ソフトについて
(1)入手経路
(2)ソフトの動作についての理解

8 事実関係 5
9 アップロードしたことは知らなかったこと 6
10 現在の心境 6

青少年に対する罰則の適用除外規定を新設した。(静岡県青少年のための良好な環境整備に関する条例の解説)

青少年に対する罰則の適用除外規定を新設した。(静岡県青少年のための良好な環境整備に関する条例の解説)
 この規定がないと、青少年どうしの接吻なんか、両方犯罪少年になっちゃうからね。
 「条例の目的が、青少年の健全な育成を図ることであり、健全育成を阻害する環境の浄化のため、心無い大人の行為を規制するものである」からと説明されますが、結局、個人的法益ではないということです。

静岡県青少年のための良好な環境整備に関する条例の解説r04
(罰則の適用除外)
第23条 この条例の罰則は、青少年に対しては適用しない。この条例に違反する行為をした時において青少年であつた者についても同様とする。
[要 旨]
本条は、青少年に対しては、罰則の適用はしないことを規定したものである。
[解 説]
本条例の目的が、青少年の健全な育成を図ることであり、健全育成を阻害する環境の浄化のため、心無い大人の行為を規制するものであるから、青少年に対する罰則の除外規定を設けたものである。
・・・
改正 令和4年3月29日 静岡県条例第21号(施行 令和4年4月1日)
(第3条第4号、第9条、第11条、第18条、第19条及び第21条の改正施行 令和4年10月1日)
【背 景】
民法及び銃砲刀剣類所持等取締法の一部を改正する法律の施行に伴い、必要な改正を行うとともに、青少年を取り巻く環境を整備し、健全育成を図るため、所要の改正を行った。
【主な改正点】
■ 青少年の定義のうち、成年擬制規定を削除するとともに、自動販売機等管理者年齢要件を改正した。
■ 玩具類等の定義のうち、法で所持禁止対象となったクロスボウを除外した。
■ 有害興行及び有害図書類の指定に関し、団体指定方式を導入し、知事が指定した団体が審査し、青少年に観覧、閲覧又は視聴等させることが不適当と認め、当該団体が定める方法によりその旨が表示されているものを有害興行又は有害図書類とすることとした。
■ 青少年に対する罰則の適用除外規定を新設した。
■ 別表における青少年に閲覧等させることが不適当な姿態の表記を見直した。

 「いたずらに性欲を刺激興奮せしめたり、その露骨な表現によって健全な常識ある一般社会人に対して、性的に羞恥嫌悪の情をおこさせる行為をいう。」というわいせつの定義は、大法廷h29.11.29と調和しないでしょう。

[解 説]
1 第1項関係
(1) 「何人も」とは、第13条の2における「何人も」と同様の趣旨である。
(2) 「淫行」とは次のものをいう。
ア 青少年を誘惑し、威迫し、欺罔しまたは困惑させる等、その心身の未熟に乗じ
た不当な手段により行う性交又は性交類似行為イ 青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として取り扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為
(3) 「わいせつ行為」とは、いたずらに性欲を刺激興奮せしめたり、その露骨な表現によって健全な常識ある一般社会人に対して、性的に羞恥嫌悪の情をおこさせる行為をいう。構成要件としては「淫行」同様、青少年の心身の未成熟に乗じた不当な手段により行うものであること、又は、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として取り扱っているとしか認められないようなものであることを要する。
(4) 「してはならない」とは、青少年を相手方として、淫行又はわいせつ行為を行うことを一切禁止しているのであり、相手方の同意、承諾の有無及び対価の授受の有無は問わない。
(5) 接吻行為については、接吻のみを捉えて、条例上のわいせつな行為に含まれるかは疑問であり、当該行為に至るまでの動機や経過状況や相手方の意思並びに健全な育成を阻害した程度などよく検討して判断する必要がある。
青少年の精神的未熟さなどに乗じ、誘惑、威迫、欺き、困惑などの手段を用いて、かつ接吻という行為に至る経緯、動機、意思、目的、双方の立場、関係、相手方に与えた影響などにより、接吻行為が条例のわいせつ行為に該当するか否か判断される。
相手の意思に反して暴行、脅迫という手段を用いて接吻という行為をすれば、当該行為が、強制わいせつ罪のわいせつ行為に該当する。
13歳未満の相手に同意を得て接吻行為をした場合でも同じである

数回の児童ポルノ公然陳列罪の罪数処理

 植村部長の包括一罪説がなかなか修正できませんでしたが、最近併合罪説の高裁判例が大阪高裁r03、東京高裁r04で出て、併合罪に修正されそうです。
 併合罪加重されると、懲役は最高7年6月 罰金が500万×罪数になります。

7条6項
児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。


併合罪

特別法を巡る諸問題 大阪刑事実務研究会 児童ポルノ法(製造罪,罪数)
雑誌記事 武田 正, 池田 知史
掲載誌 判例タイムズ1432:2017.3 p.35-
第10 児童ポルノの公然陳列
1機会の複数
陳列の機会が複数の場合に,包括一罪とすることも考えられる64)。
しかし,前記児童ポルノの提供と同様に,日時や方法が異なる陳列は,通常,行為が別で,犯意も別と評価すべきであるほか,全く同じ被害児童の児童ポルノを陳列する訳でもなく,陳列行為ごとに当該被害児童に児童ポルノを流通に置かれて心身に悪影響を与えられた新たな法益侵害が生じていることなどから,多くの場合は数罪となり併合罪とするのが相当である。
64)包括一罪とした例に,大阪高判平成l5年9月l8日裁判所ウェブサイト掲載。複数回かは判決文上必ずしも明らかでないが一定期間に合計16画像を送信して記憶蔵置させた行為を包括一罪とした例に,名古屋地判平成18年1月l6日情報ネットワーク・ローレビュー7号43頁掲載の第1.
65)被害児童が複数かなどは不明であるが,画像データが複数の場合で単純一罪とした例に,東京地判平成l5年IO月23日裁判所ウェブサイト掲載。なお,複数の児童ポルノ画像データがサーバコンピュータ上に記憶。蔵置されていたことを利用して,識別番号(URL)をホームページ上で明らかにすることで公然陳列した場合に,単純一罪とした例に,大阪地判平成21年1月l6日公刊物未掲載(最決平成24年7月9日判タl383号l54頁の第1審)。

静岡地裁浜松支部R03.11.25

東京高裁裁判所R04.03.24

阪高裁r03.3.10*19(原審京都地裁r2.9.18*20)
(2)公然陳列の罪数に関する所論について
 ア 所論〔主任弁護人〕は,原判決は原判示第1の児童ポルノ公然陳列罪と原判示第2の児童ポルノ公然陳列罪とを併合罪としているが,被告人のこれらの行為は,令和年月6日から同年月22日にかけて,自宅で,反復して児童の裸体画像を公然陳列するところにあり,しかも,陳列したのは1個のサーバコンピュータであり,公然陳列行為の個数はサーバの個数で決まると解するべきであるから,公然陳列行為は1個の行為であって単純一罪ないし包括一罪と評価されるべきであり(1個の公然陳列行為によって,わいせつ物公然陳列罪と児童ポルノ公然陳列罪を充たすので,両罪の観念的競合となる。),原判決には法令適用の誤りがある旨主張する。
 イ この点,原判決は,法令適用の罰条において「判示第1の1の所為のうち,児童ポルノ公然陳列の点及び判示第2の所為につき,各画像データごとにそれぞれ児童ポルノ法7条6項前段(2条3項2号,3号)に該当する」としているところ,児童ポルノ法は,児童を性欲の対象とする風潮を防止するという面で児童一般を保護する目的がある一方で,同法1条の目的規定や各個別規定による児童ポルノ規制のあり方に照らすと,当該児童ポルノに描写された個別児童の権利保護をも目的としていると解される。そうすると,被害児童ごとに法益を別個独立に評価して各画像データごとにそれぞれ児童ポルノ公然陳列罪の成立を認めている原判決の罰条適用は正当なものである。所論は(児童ポルノ)公然陳列行為の個数はサーバの個数で決まるというが,同罪の個人的法益に対する罪としての性格を軽視するものであって賛同できない。
 その上で,原判決は「判示第1の1の所為は,1個の行為が10個の罪名(わいせつ電磁的記録記録媒体陳列の包括一罪と9個の児童ポルノ公然陳列)に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により,判示第1の2のわいせつ電磁的記録記録媒体陳列を含め,1罪として刑及び犯情の最も重い別表1番号4の画像についての児童ポルノ公然陳列の罪の刑で処断する」と科刑上一罪の処理をしているところ,これは,複数のわいせつ電磁的記録記録媒体陳列は,社会的法益に対する罪である同罪の罪質に照らし,同一の意思のもとに行われる限り包括一罪として処断され,さらに,児童ポルノであり,かつ,わいせつな電磁的記録に係る記録媒体を公然と陳列したときは,児童ポルノ公然陳列罪とわいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪との観念的競合になることから,結局,原判示第1の各罪を包括一罪(刑及び犯情の最も重い別表1番号4の画像についての児童ポルノ公然陳列の罪の刑)で処断したものと考えられるのであり,そのような原判決の法令適用に誤りはない。
 ウ もっとも,そのように包括一罪とされる原判示第1のうちの同2のわいせつ電磁的記録記録媒体の公然陳列行為と,原判示第2の児童ポルノの公然陳列行為とは,同じ日の僅か4分の間に続けて行われたものであるから,これらをも包括一罪とする考えもあり得るところで,現に原審検察官の起訴はそのようなものであったが,しかし,児童ポルノ公然陳列罪の個人的法益に対する罪としての性格を重視し,あえてそのような処理をせず,原判示第1の罪と原判示第2の罪とを併合罪の関係にあるとした原判決の法令適用に誤りがあるとはいえない。
 公然陳列の罪数に関する所論も採用できない。
 論旨は理由がない。

 包括一罪説

①東京高裁h16.6.23*8(一審 横浜地裁h15.12.15*9)
 数名の児童の姿態であって、数回の陳列行為がある事件である。
1審は、児童ごとに1罪とした。
横浜地裁h15.12.15
(法令の適用)
1 罰条  被害者ごと(画像が複数ある被害者については,その複数は包括して)に,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条1項
2 科刑上一罪の処理  刑法54条1項前段,10条(一罪として,犯情の最も重い別紙一覧表番号1の被害者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反罪の刑で処断)

 控訴審(植村立郎裁判長)は、犯意も行為も複数あるにもかかわらず、被害児童1名1罪とした原判決を修正して、「被告人は,22画像分の児童ポルノを記憶・蔵置させた本件ディスクアレイ1つを陳列しているから,全体として本罪1罪が成立するにすぎない」と明確に判示している。
東京高裁h16.6.23
2所論は,要するに,原判決は,被害児童ごとに法7条1項に違反する罪(児童ポルノ公然陳列罪)が成立し,結局これらは観念的競合の関係にあるとして,その罪数処理を行っているが,本罪については,被害児童の数にかかわらず一つの罪が成立するというのが従来の判例であるから,原判決には,判決に影響を及ばすことの明らかな法令適用の誤りがある,と主張する(控訴理由第16)。
 そこで,本件に即して検討すると,法7条1項は,児童ポルノを公然と陳列することを犯罪としているから,同罪の罪数も,陳列行為の数によって決せられるものと解するのが相当である。確かに,所論もいうように,児童個人の保護を図ることも法の立法趣旨に含まれているが,そうであるからといって,本罪が,児童個人に着目し,児童ごとに限定した形で児童ポルノの公然陳列行為を規制しているものと解すべき根拠は見当たらず,被害児童の数によって,犯罪の個数が異なってくると解するのは相当でない。
 そして,本件では,被告人は,22画像分の児童ポルノを記憶・蔵置させた本件ディスクアレイ1つを陳列しているから,全体として本罪1罪が成立するにすぎないものと解される。したがって,この点に関する所論は正当であって,被害児童ごとに本罪が成立するとした原判決の法令解釈は誤りである。
犯意が異なろうが、被害者が異なろうが、サーバーが一個であれば、一罪だというのが植村説。

②大阪高裁h15.9.18*10 (一審 奈良地裁h14.11.26*11)
 3回のダウンロード販売を「販売罪」とした原判決を破棄して「公然陳列罪」にした際、包括一罪とした。
阪高裁h15.9.18
(法令の適用)
第1の所為 児童買春児童ポルノ禁止法4条
第2の所為 包括して同法7条1項
児童買春児童ポルノ禁止法2条3項の各号に重複して該当する画像データがあることは所論指摘のとおりであるものの,検察官においてそれらの重複するものについてはより法益侵害の程度の強い先順位の号数に該当する児童ポルノとして公訴事実に掲げていることは明らかであって,包括一罪とされる本件において,それぞれの画像データが上記各号の児童ポルノのいずれに該当するかを個々的に特定する必要もない

名古屋高裁h23.8.3*12(一審 津地裁h23.3.23*13)
 被害者数名の場合でも、包括一罪と判示されている。
名古屋高裁h23.8.3
4 控訴理由④について
 論旨は,本件各画像の被写体となっている児童は3名であるから,本件は児童ポルノ公然陳列罪3罪の併合罪とされるべきであるにもかかわらず,これらを混然と1罪とした本件起訴状は訴因の特定を欠くものであって,この不備を補正させることなく,また公訴を棄却せずに実体判決をした原審の訴訟手続には法令違反があり,さらに,本件を1罪とした原判決には法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,本件犯行は,児童3名が1名ずつ撮影された本件各画像(4点の画像のうち2点は同一の児童が撮影されたものと認められる。)のデータを,約5分間の間に,インターネットのサーバコンピュータに記憶,蔵置させた上,本件各画像の所在を特定する識別番号(URL)をインターネットの掲示板内に掲示して児童ポルノを公然と陳列したというものであり,本件各画像が上記掲示板内の「JS・ロリ画像①」と題する同一カテゴリ内に掲示されているなど,各陳列行為の間に密接な関係が認められることからすれば,各児童に係る児童ポルノ公然陳列罪の包括一罪であると解するのが相当である。
したがって,本件起訴状は訴因の特定を欠くものではないから,原審の訴訟手続の法令違反をいう論旨は理由がない。なお,原判決は本件を単純―罪と判断したものと解されるが,処断刑期の範囲が包括一罪と同一であるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りはないというべきである。

(3)地裁裁判例
東京地裁h151023*14
⑤大阪地裁h210116*15
奈良地裁葛城支部h261112*16
横浜地裁h290516*17
⑧立川支部H280315*18
罪となるべき事実)
 第1 被告人は,被害者に性交類似行為をさせる姿態を撮影した静止画像データ1点及び同人が衣服の全部又は一部を着けず陰部等を露出させる姿態を撮影した静止画像データ12点(合計13点)を所持していたものであるが,同人が前記各静止画像撮影当時18歳に満たない児童であったことを知りながら,不特定多数のインターネット利用者に前記静止画像合計13点の閲覧が可能な状態を設定しようと考え,
平成25年7月22日から同年10月6日までの間に,大阪府内,京都府内若しくは東京都内又はその周辺において,インターネット上のアダルトサイト「○○」(http://〈省略〉)のアカウント●●●を介し,前記「○○」の運営者が使用するサーバーコンピュータのハードディスクに前記静止画像データ合計13点を記録,保存させた上,不特定多数のインターネット利用者が閲覧できる設定にし,
同年10月6日午後6時14分頃,同都内において,サーバーコンピュータのハードディスクを使用して運営されているインターネット上の交流サイト「Twitter」のアカウント●●●のタイムラインに,前記静止画像データ合計13点の所在を特定する識別番号●●●を投稿し,
同日午後6時19分頃,同都内において,サーバーコンピュータのハードディスクを使用して運営されているインターネット上の交流サイト「Facebook」のアカウント●●●のウォールに,「そりゃあこんな爆弾抱えてちゃ気が気じゃないもんね。被害者さん。借りを返すよ。それにしても危険人物って...」との文言と共に前記●●●のタイムライン上の前記投稿を特定する識別番号●●●を投稿し,同月8日午後6時29分頃,同都内において,サーバーコンピュータのハードディスクを使用して運営されているインターネット上の掲示板「△△掲示板」に,携帯電話から,「被害者。無差別ではないです。恨みがありました。」との文言と共に前記静止画像データ合計13点の所在を特定する識別番号●●●を投稿し,
もって児童を相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態,あるいは衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを,視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであり,かつ,わいせつな電磁的記録に係る記録媒体を公然と陳列した
罰条
  判示第1の行為のうち
   児童ポルノ公然陳列の点       包括して平成26年法律第79号附則2条により同法による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条4項前段,2条3項1号,3号
   わいせつ電磁的記録記録媒体陳列の点 包括して刑法175条1項前段

交際中の高校生による児童ポルノ製造事案

 淫行・わいせつ行為については、免責規定があるので、普通は青少年は逮捕されません。
 児童ポルノ・児童買春法には免責規定がないので、逮捕されることがあります。
 結局、真剣交際が児童ポルノ法で阻止されることがあります。

 製造罪について、児童淫行罪とパラレルに、真剣交際による違法阻却を認める高裁判例がありますので、そういう主張をすべきでしょう。

札幌高裁h19.3.8
そこで, 検討するに, なるほど, 児童との真撃な交際が社会的に相当とされる場合に, その交際をしている者が児童の承諾のもとで性交しあるいはその裸体の写真を撮影するなど, 児童の承諾があり, かつ, この承諾が社会的にみて相当であると認められる場合には, 違法性が阻却され,犯罪が成立しない場合もありうると解される。

森山野田「よくわかる改正児童買春ポルノ法」
P99
第7 条第3 項の罪は、児童に第2 条第3 唄各号に掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写して当該児童に係る児童ポルノを製造する行為について、描与される児童の尊厳を害することにかんがみ、新たに処罰の対象とするものです。
この場合において、たとえ描写される児童が当該製造について同意していたとしても、当該児童の尊厳が害されていることは否定できず、また、児童を性的行為の対象とする風潮が助長され、抽象的一般的な児童の人格権が害されるといえますので、第7 条第3 項の罪が成立します。
もっとも、ごくごく例外的に児童と真撃な交際をしている者が、児童の承諾のもとでその楳体の写真を撮影する等、児童の承諾があり、かつこの承諾が社会的にみて相当であると認められる場合には、違法性が阻却、犯罪が成立しない場合もあり得ます

P197
Q47 児童ポルノの製造については、どのような場合が処罰されるのですか。
A
児童ポルノの製造については、2 つの面から処罰の規定を置いています。
まずーっ目は、児童に児童ポルノの姿態をとらせ、これを写真撮影等して児童ポルノを製造する行為についてです。この場合、行為者がどのような目的であっても(他人に提供等する日的がなくても)、処罰されることになります(第7 条第3 項)。
このような行為は、当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為にほかならず、かつ、流通の危険性を創出する点でも非難に値するので、2004 年の改正で、このような行為について処罰する風定を新設しました。
これは、児童に第2 条第3項各号に掲げる姿態をとらせた上、これを写真等に描写し、よって当該児童についての児童ポルノを製造する行為が、児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為に他ならないことから、これを処罰するものであり、第一次的には描写対象となる児童の人格権を守ろうとするものです。
加えて、ひとたび児童ポルノが製造された場合には、流通の可能性が新たに生ずることとなり、このような場合には児童を性的行為の対象とする社会的風潮が助長されることになるので、このような意味において、抽象的一般的な児童の人格権もその保護の対象とするものです。
なお、ここにいう「姿態をとらせ」 とは、行為者の言動等により、当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい、強制によることは要しません
P199
Q48
被写体となる児童が児童ポルノの製造に同意していたとしでも、第7 条第3 項の罪は成立するのですか。目的を問わず、児童ポルノの製造(いわゆる単純製造)を処罰することにすると、交際中の高校生どうしが相手の裸体の写真を撮影する行為まで処罰されることになってしまいませんか。
A
第7 条第3 項の罪は、児童に第2 条第3 項各号に規定する姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写してその児童についての児童ポルノを製造する行為について、その児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為にほかならず、かつ、流通の危険性を創出する点でも非難に値するので、新たに処罰の対象とするものです。
この場合において、たとえ捕写される児童がその製造について同意していたとしても、その児童の尊厳が害されているといえますし、そもそも、この児童の同意は、この児童の判断能力が未成熟なことに基づくものであると考えられますので、当罰性が認められ、第7 条第3項の罪が成立すると解されます。
お示しの事例のように、児童が、真撃な交際をする相手による写真撮影を承諾する場合のように、製造者と描写される児童との関係、描写される児童の承諾の有無及びその経緯(社会的相当性)等から、刑法上の違法性が認められない等の理由により、犯罪が成立しない場合もあると考えられます。
このことは、法案の中で具体的な文言として明記されているものではありませんが、刑法の一般理論によって犯罪が成立しないとされる問題です。つまり、児童ポルノに限らず他の刑罰規定に関して犯罪が成立しない事由を具体的な文言として明記されていなくても、刑法の一般理論によって犯罪が成立しない場合があります。この点、犯罪が成立しない個々具体的な場合を明記することは困難であり、また実際的でもありません。したがって、ことさら犯罪が成立しない場合を明記しなくても、刑法上の違法性が認められない等との理由により犯罪が成立しないとの解釈が当然に導かれると考えています。

兵庫県少年愛護条例の解説 平成30年版
(みだらな性行為等の禁止)
第21条
1何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。
2何人も、青少年に対し、前項の行為を教え、又は見せてはならない。
【要旨】
この条は、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をし、又はこれらの行為を教え若しくは見せることを禁止したものである。
【解説】
l 一般に青少年は、その心身の未成熟あるいは発育程度の不均衡から、精神的にまだ十分に安定していないため、反倫理的、反道徳的な性行為等によって精神的な痛手を受けやすく、 またその痛手から容易に回復しがたいものである。 このような青少年の特質に鑑み、その健全な育成を阻害するおそれのあるものとして、社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止したものである。
2 「みだらな性行為」とは、青少年を誘惑し、威迫し、若しくは困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為、又は青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為のことをいう。
3 「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を興奮又は刺激させ、かつ普通人の正常な性的蓋恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいう。
4第1項の例としては、成人が結婚の意思もないのに青少年を言葉巧みに誘って、単に自己の性的欲望を満足させるためだけにしたみだらな性行為及び青少年の性器をもてあそぶなどしたわいせつな行為がこれにあたるが、婚約中の青少年又はこれに準ずる真筆な交際関係にある青少年との関係で行われる性行為等、社会通念上およそ罰則の対象として考えがたいものは、 これらに該当しない。
・・・・・・・・・
32条この条例の罰則は、青少年に対しては適用しない。
【要旨】
この条は、 この条例に違反した者が青少年である場合には、青少年に対してこの条例の罰則を適用しないことを定めたものである。
【解説】
この条例は、青少年の健全な育成を図り、あわせてこれを阻害するおそれのある行為から青少年を保護することを目的としている(第1条参照) 。 このことから、青少年がこの条例の規定に違反した場合は、健全な青少年に立ち返るよう保護と指導を行うにとどめ、 この条例の罰則は適用しないこととしたものである。

交際中の女子生徒とわいせつ行為 スマホで撮影疑い 男子高校生を逮捕 明石
5/20(金) 21:06配信
 兵庫県警明石署は20日、児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)の疑いで、神戸市西区の男子高校生(16)を逮捕した。
 逮捕容疑は2月中旬ごろ、交際していた県内の女子高校生(16)に対し、18歳未満と知りながらわいせつな行為をし、その様子をスマートフォンで撮影した疑い。調べに対し、容疑を認めているという。
 女子高校生の保護者が5月12日に同署に相談し、容疑が発覚した。

・・・
女子高校生とのみだらな行為をスマホで動画撮影 高校生を逮捕/兵庫県
5/20(金) 21:02配信サンテレビ
当時16歳の女子生徒とのみだらな行為をスマートフォンで動画撮影し保存していたとして20日、16歳の高校生が逮捕されました。
児童ポルノ禁止法違反の疑いで逮捕されたのは、神戸市西区に住む16歳の高校生の少年です。
警察によりますと、少年は、2022年2月中旬ごろ18歳未満と知りながら、SNSで知り合った当時16歳の女子生徒とのみだらな行為を自身のスマホで動画撮影し、保存した疑いが持たれています。
女子生徒と保護者から警察に相談があり、事件が発覚しました。

警察の調べに対し少年は、「16歳と知っていながらわいせつな行為をしている状況を自分のスマホで動画撮影して保存したことに間違いありません」と容疑を認めているということです。
警察は、少年のスマホのデータを詳しく調べています。
サンテレビ

「被告人が,自己の右手で,右隣に座っていた被害者の左手首を握って自分のほうへ引き寄せ,被害者の開いていた左手を自己の着衣の上からその陰茎部分に置き,その左手に自己の開いた右手を乗せ,更にその上に自己の開いた左手を乗せて,その姿態を約1分間にわたって続けてとらせた」た行為をわいせつ行為(176条後段)とした事例(岡山地裁倉敷支部r03.12.22)

「被告人が,自己の右手で,右隣に座っていた被害者の左手首を握って自分のほうへ引き寄せ,被害者の開いていた左手を自己の着衣の上からその陰茎部分に置き,その左手に自己の開いた右手を乗せ,更にその上に自己の開いた左手を乗せて,その姿態を約1分間にわたって続けてとらせた」た行為をわいせつ行為(176条後段)とした事例(岡山地裁倉敷支部令和 3年12月22日)

わいせつの定義がないので、「刑法176条後段にいう「わいせつな行為」とは,一般に,いたずらに性欲を興奮,刺激又は満足させ,かつ,普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為をいうものと解されるところ,これに当たるか否かについては,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を踏まえた上で,必要に応じて当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを,個別具体的に判断して,同条による処罰に値する行為とみるべきかどうかを含め,規範的評価として,客観的に判断されるべきである。」という前置きから始まります。

岡山地裁倉敷支部令和 3年12月22日
理由
 (罪となるべき事実)
 被告人は,●●●(当時6歳)が13歳未満であることを知りながら,同人にわいせつな行為をしようと考え,令和2年11月14日頃,●●●教室内において,同人に対し,その左手をつかんで引き寄せた上,開いた状態のその左手を自己の着衣の上からその陰茎部分に置き,その左手の上に自己の両手を重ねて置くなどして,同部分を触らせる姿態を続けてとらせ,もって13歳未満の者に対し,わいせつな行為をした。
 (事実認定の補足説明)
 本件公訴事実の要旨は,被告人が,被害者に着衣の上から自己の陰茎を握らせたというものであるところ,被告人及び弁護人は,被告人は,被害者の手を着衣の上から自己の陰茎部分に置いたに留まり,自己の陰茎を握らせたことはない旨主張する。
 本件時の被害者及び被告人の各手指の状況については,幼い被害者から詳細な供述までは得られていないことや,被告人の捜査段階での供述と当公判廷での供述との間に変遷が見られることなどから,具体的なところまでは明らかでなく,少なくとも,被告人が被害者の手にあえて強い力を加えるなどしたという意味においてその陰茎を握らせたと認めるに足りる証拠があるとはいえないものの,関係証拠によれば,少なくとも,被告人が,自己の右手で,右隣に座っていた被害者の左手首を握って自分のほうへ引き寄せ,被害者の開いていた左手を自己の着衣の上からその陰茎部分に置き,その左手に自己の開いた右手を乗せ,更にその上に自己の開いた左手を乗せて,その姿態を約1分間にわたって続けてとらせた事実は,優に認定でき,かつ,そう認定することが,弁護人の指摘する自白の証拠力に係る規律を含む憲法及び刑事訴訟法の諸規定と抵触することはないものと判断した。
 (法令の適用)
 1 罰条 刑法176条後段
 2 刑の執行猶予 刑法25条1項
 (争点に対する判断)
 1 弁護人は,被告人の行為は,刑法176条後段にいう「わいせつな行為」には当たらない旨主張する。
 2 刑法176条後段にいう「わいせつな行為」とは,一般に,いたずらに性欲を興奮,刺激又は満足させ,かつ,普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為をいうものと解されるところ,これに当たるか否かについては,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を踏まえた上で,必要に応じて当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを,個別具体的に判断して,同条による処罰に値する行為とみるべきかどうかを含め,規範的評価として,客観的に判断されるべきである。
 3 本件についてみると,判示行為は,被害者に被告人の着衣の上からその陰茎部分に触れることを余儀なくさせ,かつ,それを相応の時間にわたって行ったというものである上,それは触らされている部分を見ていない被害者をして陰茎を触らされているのではないかと知覚できるほどのものであったのだから,その触らせていた場所が被告人着用に係るジーンズの前面中央にあるチャックの付近であったことといった弁護人が指摘する点を考慮しても,それ自体として相応に高いわいせつ性を持つというべきである。これに加え,被告人は,当時6歳の被害者が利用する判示施設の支援員であり,被害者ら施設利用児童を監督等する立場であったのに,同施設利用中の被害者に対して,周囲に他の施設利用児童も多数居る中,自身の性欲を昂進させて判示行為をしたものであるところ,こうした被害者の年齢や被告人との関係等によれば被害者において判示行為の意味を踏まえて抵抗等することが困難なことは明らかであるし,当時の周囲の状況もこの種の性的な行為が許容されるような場面では到底ない。
 弁護人が指摘する裁判例や諸見解を検討しても,本件は,犯人が被害者の性的部位に同人の着衣の上から触れるなどしたケースとは問題となる行為の態様や場面等において事案を異にするものというべきである。
 4 以上により,被告人のした判示行為は刑法176条後段の「わいせつな行為」に該当し,その故意等その余の要件に欠けるところもないものと判断した。
 (量刑の理由)
 岡山地方裁判所倉敷支部
 (裁判官 横澤慶太)