児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「Cの兄になりすました上,AがCに口淫させたことが犯罪であるなどと因縁を付けて,Aから現金を脅し取ろう」という美人局恐喝・強盗致傷等で、懲役3年6月とした事例(札幌地裁R02.4.9)

「Cの兄になりすました上,AがCに口淫させたことが犯罪であるなどと因縁を付けて,Aから現金を脅し取ろう」という美人局恐喝・強盗致傷等で、懲役3年6月とした事例(札幌地裁R02.4.9)

令和 2年 9月 9日 
札幌地裁 
恐喝、恐喝未遂、強盗致傷被告事件
主文

 被告人を懲役3年6月に処する。
 未決勾留日数中240日をその刑に算入する。 
 
理由

 (罪となるべき事実)
第1 被告人は,Cの兄になりすました上,AがCに口淫させたことが犯罪であるなどと因縁を付けて,Aから現金を脅し取ろうと考え,C及びDらと共謀の上,令和元年8月13日午前0時40分頃から同日午前1時5分頃までの間,札幌市(住所省略)G公園において,Aに対し,「こいつ,家出してた俺の妹なんだけど。」「未成年に何してるのよ。淫行は犯罪だよ。警察行くか。」「警察行きたくないっていうなら,どうするんだ。」「逮捕されたら,最低でも罰金はあるだろう。ニュースに出たら大変なことになるんじゃねえのか。」「罰金なら50万はいくんじゃねえのか。せめて半分の20万ぐらいは用意するのが筋じゃないの。」「とりあえず,その1万円はもらえるかい。残りの19万円は後でいいから。」などと言って現金の交付を要求し,もしこの要求に応じなければ,Aの自由及び名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示してAを怖がらせ,よって,その頃,同所において,Aから現金1万円の交付を受けてこれを脅し取り,引き続き,同日から同月28日までの間,数回にわたり,北海道内において,Aに対し,電話又は対面で,「金は用意できたのか。」「今週中になんとかしてくれ。」「19で良いよ。」などと言って,現金の交付を要求し,前記同様の気勢を示してAを怖がらせ,Aから現金を脅し取ろうとしたが,Aが警察に届け出たため,その目的を遂げなかった。
第2 被告人は,令和元年8月21日午前1時41分頃から同日午前3時28分頃までの間,札幌市(住所省略)H公園において,Cの兄になりすまし,C,D及びEらと共に,BがCと口淫したことに因縁を付けて,Bに示談金を支払うよう要求したが,Bがこれに応じなかったことから,Bから現金を強取しようと考え,D及びEらと共謀の上,その頃から同日午前3時55分頃までの間,H公園において,Bに対し,背中を突き飛ばしてBを転倒させ,腹部を多数回足蹴りし,髪の毛をつかんで顔面を拳骨で1回殴打し,頭部を地面に打ち付けるなどの暴行を加え,その反抗を抑圧してBに10万円の支払いを約束させ,その頃から同日午前4時27分頃までの間に,その支払いを履行させるためBとともに同市(住所省略)のB方に赴くなどしたが,Bが警察に通報したため,その目的を遂げず,その際,前記暴行により,Bに全治約1か月間を要する鼻骨骨折及び加療約1か月間を要する頸椎捻挫,両側胸部打撲及び両手擦過傷の傷害を負わせた。
 (事実認定の補足説明)
 1 本件では,判示第2の強盗致傷事件について,①共同正犯か幇助犯か,すなわち,被告人が共犯者らと共に,被害者に暴行を加えて現金を奪うことを自分の犯罪として行ったといえるか,②被告人が強盗致傷罪の責任を負うか,すなわち,被害者の怪我は被告人の合流後の暴行により生じたものか,が争点となっている。
 2 まず,強盗致傷事件の経過については,被告人の公判供述,証人B及びEの各証言等によって,以下の事実が概ね争い無く認めることができる。
  ? H公園のトイレからBとCが出てきた際に,被告人がDと共にBに声をかけ,Cに口淫させたことに因縁を付けて脅し,示談金の支払を要求した。その間,FはCを車まで送っていった後に被告人らに合流した。被告人は,Bのキャッシュカードを取りに行ってもらうために,Eに電話をかけてトイレ前に呼び出したが,Bは支払いに応じなかった。被告人らがBを伴って公園のベンチに移動した後,被告人に美人局の別のターゲットが来ている旨の連絡があり,被告人は,Eに対し,「ちょっと行ってくる」旨述べて,E及びFを残し,Dと共に別のターゲットが来る公園へと向かった。
  ? 被告人とDがH公園を離れている間,同公園内のベンチにおいて,FはBに複数回往復びんたをし,EはBの右肩付近を前蹴りした。また,被告人のスマートフォンからEのスマートフォンに対して連絡があり,被告人及びDは,Eに対し,Bに対する美人局の状況を確認したところ,Eが変わりがない旨述べたことから,同公園に向かう旨述べた。
  ? 被告人及びDがH公園に戻ってEらと合流した際には,被告人は,Eから「ボコっていいですか」旨言われ,「好きにすれば」という趣旨の返事をしている。
 その後,EがBと共にH公園の茂み付近に移動し,被告人らもついていった。そして,Eらは,背後からBの背中を突き飛ばして四つん這いになる形で転倒させ,両脇腹を多数回足蹴りし,髪の毛をつかんで体を引き起こした後に顔面を拳骨で1回殴打し,髪の毛をつかんで頭部を地面に打ちつけるといった暴行を加えた。その際,被告人は,その付近におり,EらがBに対して暴行を加えていることを認識していながらこれを止めるような行動をとらなかった。
  ? その後,Bが金の入った口座のキャッシュカードが家にある旨述べて支払う意思を示したため,Bの車に被告人及びEらが同乗してキャッシュカードをBの家に取りに行った。その際,被告人は,Eに対し,分け前を要求する旨の発言をした。
 3 共同正犯の成否について(争点①)
  ? この点,確かに,被告人が自ら暴行を加えたとは認められない(なお,Dの供述調書には被告人の暴行についての記載があるが,暴行に関するDの供述はB,E及び被告人の供述と整合せず,信用できない。)。
 しかし,本件に至るまでの経緯をみると,被告人が暴力団組員に誘われて美人局を始め,Cを誘い入れたこと,その後にE,D及びFが加わったこと,報酬の不満から暴力団組員とは別に被告人らだけで美人局を始めるようになった後,被告人とDが主として脅し役を担い,Fが運転手役を担うことが多かったこと,被告人はE及びDよりも年上であることが認められるところ,被告人がリーダー格とまではいえないとしても,やや上の立場であったとはいえる。このことは,本件においても,被告人がEを電話で呼び出したことや,Eが被告人に対してBに暴力を加えても良いか尋ねたことからもうかがわれる。
  ? そして,本件において,被告人は,もともとBに示談金を要求していた際には脅し役をしており,Eを電話で呼び出すなど主導的な役割を担っていたものである。その後に被告人はDとともにH公園を離れてはいるが,これは弁護人が主張するように,Bに対する美人局をあきらめたものとは認められない。
 すなわち,被告人がEに対して「頼むわ」などと発言したかは判然としないが,Eに対し「ちょっと行ってくる」旨発言してH公園を離れたのは,その発言の趣旨やE及びFをH公園に残したことからして,緊急性を要する別の美人局を実行するために被告人及びDは移動し,その後のBの対応をEらに任せたものとみるべきである。さらに,その後に被告人のスマートフォンから発信して,Eのスマートフォンとの間で通話がされ,被告人及びDがBに対する美人局の状況を確認するなどし,状況が変わらないと認識しても美人局をやめて戻ってくるように述べず,H公園まで戻っていることは,被告人がBに対する美人局をあきらめておらず,未だ関与し続けていることを示している。なお,H公園の状況を確認したり,H公園に向かう旨の発言をしたのが被告人なのかDなのかは判然としないが,仮にDの発言だったとしても,被告人もそのやりとりを共有してDと共に行動をしているのであり,この評価に変わりはない。
  ? また,合流した後の被告人の行動を見ても,被告人は,Eから「ボコっていいですか」と聞かれた際,「好きにすれば」という趣旨の返事をし,Eが暴行することを容認する発言をしている。この点,検察官は,Bの証言に基づき,被告人がEに対して「殴ってもいいから,丘の方へ行け」や「人気のないところへ行け」という趣旨の発言をし,暴行に関して指示を与えたと主張する。しかし,Eは,被告人の発言は「殴っちゃえばいいじゃない」という趣旨のものにとどまり,場所については,Fが「移動するべ」などと発言したと証言している。Bは,初対面の被告人らから被害を受けたのであり,被告人らから言われた内容自体は記憶していたとしても,その発言を被告人らのうち誰が言ったのかについて明確に記憶していたのか疑問がある。Bは,場所を移動することに関するFの発言内容についても被告人が発言したと記憶した可能性がある。したがって,被告人が「殴ってもいい」旨の発言にとどまらず,「丘の方へ行け」や「人気のないところへ行け」という趣旨の発言をしたとは認められず,検察官が主張するように,被告人がEに対して暴行に関する指示をしたとは評価できない。他方で,弁護人は,被告人はEが脅すために言っているのであり,本当に暴行を振るうつもりだとは思っていなかったから,被告人がEの暴行を容認していたわけではないなどと主張する。しかしながら,被告人は,Eらが暴行を加え始めてもそれを止めることもなかったのである。しかも,「好きにすれば」という趣旨の発言は,EもBも,EがBに暴行を加えても良いという趣旨のものとして受け止めたのであるから,被告人においても,Eがそのように認識することを分かって発言したものと認められる。そうすると,Eが暴行を加えるつもりとは思わなかったという被告人の供述は信用できず,被告人の発言は,暴行を加えることを容認する内容のものとみるべきである。
 そして,Eは,ベンチにおいてBの右肩付近を前蹴りしたが,勝手に暴行を加えていいものではないと思い直して1回で止め,被告人らと合流した後に被告人に対して「ボコっていいですか」などと聞いていることや,被告人がこれまで共犯者間でやや上位の立場にあったことからすれば,既に始まっていた暴行を被告人が止められなかったとはいえず,被告人の上記発言をきっかけとして,Eらの暴行が始まったといえる。
  ? さらに,被告人は,Bの家にキャッシュカードを取りに行く際にもBの車にEらと乗って行動を共にし,報酬を求める発言をしている。なお,報酬について,弁護人は,脅し取った人が分配方法を全て決めるルールであったなどと主張するが,被告人の供述によっても,過去に行った美人局の中では脅し役以外の者が分け前を得ることも多々あったことや,被告人がBの家の前で分け前を要求する旨の発言をしていることからすれば,被告人においても,本件で報酬を全く得られないという認識でいたとは認められず,むしろ報酬をもらえるものとして行動していたというべきである。
  ? そうすると,被告人は,自らBに対して暴行を加えたわけではないものの,もともと共犯者間でやや上位の立場にある上,本件美人局においても当初は脅し役として主導していたのであり,その後にH公園を離れたとしても,Bに対する美人局をいったんEらに任せたにすぎず,関与しなくなったわけではないこと,合流後にEの暴行を容認する発言をし,これをきっかけとしてEらの暴行が開始され,この暴行についても認識していながら何ら制止するなどの行動をとらなかったこと,暴行後にBから脅し取った金の分け前を求める行動をとっていることからすると,被告人は,被害者に暴行を加えて現金を奪うことを自分の犯罪として行ったと認められる。
 4 因果関係について(争点②)
  ? 上記の事実認定からすると,合流後の暴行は,それぞれ突き飛ばされた際に手の甲をついたことによる両手擦過傷,両脇腹を蹴られたことによる両側胸部打撲,鼻を殴られたことによる鼻骨骨折,髪の毛をつかんで地面に頭部を打ちつけられたことによる頸椎捻挫という傷害結果とそれぞれ対応している。他方で,ベンチ前での暴行には,これらの傷害結果と対応する暴行が存在しないことから,いずれの傷害結果も被告人が合流した後に加えられた暴行により生じたと認められる。
  ? なお,弁護人は,ベンチ前でFから往復びんたを受けた際又はEから前蹴りを受けた際に頸椎捻挫が生じた可能性もあると主張する。
 しかし,Bは,ベンチ前での暴行の際には首の痛みは感じていなかったが,茂みの裏で髪の毛をつかんで地面に頭を打ちつける暴行を加えられた際に首の痛みを感じた旨具体的に証言しており,このような証言内容は,誰からどの暴行を加えられたかという点についてはともかく,暴行の内容や加えられた時期については信用性が認められる。また,Bの頸椎捻挫が加療約1か月と診断されていることからすると,ベンチ前での暴行のみによって生じたものとは考えられない。したがって,弁護人の主張は採用できない。
 (法令の適用)
 罰条
 判示第1の行為
 恐喝の点   刑法60条,249条1項
 恐喝未遂の点   刑法60条,250条,249条1項
 包括一罪の処理   一罪として恐喝罪の刑で処断
 判示第2の行為   刑法60条,240条前段
 刑種の選択   判示第2の罪について,有期懲役刑を選択
 併合罪の処理   刑法45条前段,47条本文,10条(重い判示第2の罪の刑に法定加重)
 酌量減軽   刑法66条,71条,68条3号
 未決勾留日数の算入   刑法21条
 訴訟費用の不負担   刑事訴訟法181条1項ただし書
 (量刑の理由)
 本件各犯行は,被告人が,共犯者らと共にいわゆる美人局をした判示第1の恐喝,恐喝未遂事件と,同じように美人局をした被害者に対して暴行まで加えた判示第2の強盗致傷事件である。
 本件で量刑の中心となるのは,法定刑の重い判示第2の強盗致傷事件である。まず,被告人らが被害者に対する暴行を加えたことについて計画性があったとは認められない。また,証拠上認められる傷害結果は重大なものとはいえないし,暴行態様は,凶器等を使用して共犯者全員で長時間にわたって暴行を加えたなどといった悪質なものであるとは認められず,強盗致傷罪の暴行のなかでは軽いものであるといえる。そして,現金を奪い取ることは未遂に終わっている。したがって,本件は強盗致傷罪が想定する種々の類型の中では軽い犯情といえる。
 そして,一連の美人局を行う中で被告人が共犯者間で相対的に上位の立場にいたことや,Eの暴行を容認する発言をして暴行のきっかけを作ったこと,Eらによる暴行を認識していて止める機会があったにも関わらず,一切止めることがなかったなどの事情に照らせば,被告人の責任を軽く見ることはできないが,被告人は,直接暴行を加えていない上に,検察官が主張するようにリーダー格としてEらに暴行を指示したということも認められないことから,共犯者の中では主に暴行を加えたEの次に重い責任を負うにとどまる。
 そうすると,被告人の犯情は,強盗致傷事件の中ではかなり軽いものといえ,酌量減軽をした処断刑の範囲の中でも最下限の懲役3年程度の刑事責任を負うというべきである。
 他方,判示第1の恐喝,恐喝未遂においては,被告人は主導的,積極的に脅し役として中心的役割を果たしていることが認められ,また,本件犯行は,被告人が未成年者をグループに加えるなどした上で,計画的,常習的に美人局を行っていたなかで行われたものであり,この点は,被告人の責任を重くするものとして考慮する。
 その他の情状を見ると,被告人が客観的な事実関係を認めていること,被告人の母親が公判廷で被告人の指導監督を誓約し,就労先を含む更生環境を用意する意向を示していることや,被告人には罰金前科1件以外に前科がないことなどの事情が認められる。もっとも,更生環境についてはこれまでの経緯からみると十分に整っているとまでは評価できない。また,いずれの事件についても全く被害弁償をしていない。
 以上のとおり,犯情を前提にして,その他の情状も考慮すると,被告人に対して,弁護人が主張するように最下限の懲役刑としてさらに執行猶予を付するのは相当ではないが,その刑期については主文のとおりとすることとした。
 (求刑 懲役7年)
 札幌地方裁判所刑事第2部
 (裁判長裁判官 中川正隆 裁判官 宇野遥子 裁判官 田中大地) 

強制わいせつ致傷等3件 求刑6年・宣告刑懲役3年保護観察(姫路支部r02.9.10)

Aに対して300万円,Bに対して70万円,Cに対して150万円をそれぞれ支払い,各被害者との間で示談ないし合意が成立している。

令和 2年 9月10日 
神戸地裁姫路支部 
強制わいせつ,強制わいせつ致傷被告事件
 上記の者に対する強制わいせつ,強制わいせつ致傷被告事件について,当裁判所は,検察官赤塚里美,井上拓弥,国選弁護人竹内彰(主任),同横山彬出席の上審理し,次のとおり判決する。

主文
 被告人を懲役3年に処する。
 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
 被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。
 
 
理由

 (罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 (令和元年11月29日付け起訴状記載の公訴事実)
 徒歩で通行中の別紙記載1の者(当時19歳。以下「A」という。)に強いてわいせつな行為をしようと考え,平成29年11月22日午後11時40分頃,別紙記載2の路上において,同人に対し,いきなりその背後から抱きつく暴行を加えた上,その着衣の中に手を入れて,乳房及び臀部を直接わしづかみにし,もって強いてわいせつな行為をするとともに,民家の塀をつかんで抵抗する同人の背後から抱きついたまま,後方に引っ張る暴行を加え,その際,同暴行により,同人に全治約1週間を要する左前腕部擦過傷の傷害を負わせ,
第2 (令和元年9月27日付け起訴状記載の公訴事実)
 徒歩で通行中の別紙記載3の者(当時25歳。以下「B」という。)に強いてわいせつな行為をしようと考え,令和元年7月26日午後10時5分頃,別紙記載4の通路において,同人に対し,いきなりその背後から同人を抱え込み,その場に仰向けに転倒した同人の顔面をめくり上げた同人のカーディガンで覆うとともに,手でその前頸部を圧迫するなどの暴行を加えた上,同人の乳房を半袖シャツの上から及び直接揉み,さらに同人の陰部をズボンの上から弄ぶなどし,もって強いてわいせつな行為をし,
第3 (令和元年10月25日付け起訴状記載の公訴事実)
 徒歩で通行中の別紙記載5の者(当時32歳。以下「C」という。)に強いてわいせつな行為をしようと考え,令和元年8月15日午前零時5分頃,別紙記載6の路上において,同人に対し,いきなりその背後から抱きつく暴行を加えた上,所持していた手提げ鞄をその頭部にかぶせようとし,その場に座り込んだ同人を立ち上がらせ,同人の両乳房をTシャツの上からわしづかみにし,もって強いてわいせつな行為をし,その際,前記暴行により,同人に加療約1週間を要する両膝蓋部擦過創等の傷害を負わせた。
 (証拠の標目)―括弧内は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の標目番号
 判示事実全部について
 被告人の当公判廷における供述
 判示第1の事実について
 Aの検察官調書抄本(甲36)及び警察官調書抄本(甲34)
 統合捜査報告書(甲31,33)
 判示第2の事実について
 Bの検察官調書抄本(甲39)
 統合捜査報告書(甲37,38)
 判示第3の事実について
 Cの検察官調書抄本(甲44)
 統合捜査報告書(甲40,42)
 (法令の適用)
 被告人の判示第1及び第3の各所為はいずれも刑法181条1項(176条前段)に,判示第2の所為は同法176条前段にそれぞれ該当するところ,判示第1及び第3の各罪について所定刑中有期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予し,なお同法25条の2第1項前段を適用して被告人をその猶予の期間中保護観察に付し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
 (量刑の理由)
 1 被告人は,夜間,人通りの少ない路上で,本件各犯行に及んだ。犯行態様は,いずれも,凶器こそ用いていないものの,被害者らの抵抗を排し,逃げようとする被害者を追跡するなどしてわいせつ行為に及んだものであり,執拗で悪質である。また,判示第2の事件と同第3の事件は,わずか1か月足らずのうちに連続的に行われたものである。そして,Aに対する犯行時,同人から抵抗されて指をかまれたことから,Bに対する犯行時には被害者の顔付近に手を持っていくことを避け,Cに対する犯行時には所持していた鞄を同人の頭部に被せて目隠ししようとするなど手口も巧妙化してきている点は強い非難に値する。また,突然見ず知らずの者に襲われた被害者らが被った精神的苦痛は大きく,被害結果は重大である。A及びCは,当公判廷において,現在も本件犯行に起因する恐怖心を抱え,今後も,その恐怖が続いていくであろう不安を述べている。被害者らが被告人に対し厳しい処罰を求めるのも誠に当然のことである。
 被告人は,自らの女性に対する歪んだ認知の元,自己のストレス及び性欲を発散させる目的で,本件各犯行に及んだと述べており,犯行に至る経緯において酌むべき事情はない。
 2 一方,被告人の犯行は,前記のとおり,非難の程度は大きいものではあるが,同種犯罪の中で比較すると,犯行の悪質さや危険性が際立っているとまではいえず,傷害結果の程度も重いものとまではいえない。そうすると,同種事案との均衡も踏まえて検討するならば,本件が,刑の執行を猶予することが許されない事案であるとまではいえない。
 そこで,その他の事情を検討すると,被告人は,Aに対して300万円,Bに対して70万円,Cに対して150万円をそれぞれ支払い,各被害者との間で示談ないし合意が成立している。いずれの被害者も被告人を許していないものの,金銭面では相当程度の被害回復の措置がとられているといえる。また,被告人の更生にとって十分とまではいえないが,被告人は,保釈された後,自ら再犯防止のための専門機関に通所して第三者から犯行に至った内面的な問題を分析してもらい,これに従い内省及び改善を試みているところである。これらの点に加えて,被告人が本件各公訴事実を認めていること,前科前歴がないこと,被告人の母が監督を誓約していることなども踏まえると,被告人に対しては,その刑の執行を猶予するのが相当である。そして,被告人の更生を確実なものとするため,その刑期及び猶予期間についてはいずれも法律上最も長期とするとともに,被告人をその猶予の期間中保護観察に付し,公的機関の指導監督の下,性犯罪者処遇プログラム等を通じて再犯防止に向けた改善更生に努力させることが相当である。
 以上の次第であり,主文のとおり,刑を定めた。
 (求刑―懲役6年,弁護人の科刑意見―執行猶予付き判決)
 神戸地方裁判所姫路支部刑事部
 (裁判長裁判官 渡部五郎 裁判官 伊藤太一 裁判官 井廻直美)

高松地裁の高橋貞幹裁判官は、香川県青少年保護育成条例違反(猥せつ行為)の罪となるべき事実に法文にない「単に自己の性的欲望を満たす目的で、」を入れるようになった。(高松地裁R2.8.6)

 香川県の青少年条例の「猥せつ」というのは、刑法176条の定義を借用して、「いたずらに性欲を刺激したり、露骨な表現によって健全な常識ある一般社会人に性的差恥心や嫌悪の情を起こさせたりする行為をいう。」とされていて、定義に性的意図が盛り込まれていますから、従前は、起訴状にも判決にも「単に自己の性的欲望を満たす目的」というのは記載していませんでした。法文にもそういう要件はありません。

 淫行についての大法廷S60.10.23の趣旨からすると、わいせつ行為についても「単に自己の性的欲望を満たす目的」が要件になりそうなところですが、判決文に言及がなく、強制わいせつ罪について性的意図不要とした大法廷h29.11.29の趣旨からすれば相手方目線であれば、青少年条例についても性的意図不要ともいえそうです。
 併行して進んでいた香川県青少年条例違反事件(猥せつ行為・高橋貞幹裁判官)では、弁護人からの指摘で、弁論再開して訴因変更されて「単に自己の性的欲望を満たす目的で」が追加され、判決でも認定されました。被告人控訴。

香川県青少年保護育成条例の解説
(淫行又は隈せつ行為等の禁止)
第16条
1何人も、青少年に対し、淫行又は猥せつの行為をしてはならない。
2何人も、青少年に対し、前項の行為を教え、またはこれを見せてはならない。
【要旨】
本条は、青少年に淫行(みだらな行為)やわいせつの行為を行ったり、教えたり、見せたりする行為を禁止する規定である。
【解説】
第1項関係
(1) 本項は、青少年に対する淫行やわいせつの行為が、心身ともに未成熟な青少年にとって、精神的にも痛手を受けやすく、いったん被害に遭うとその回復が困難であることなど、青少年の健全育成に非常に有害であるという観点から、青少年に対するこれらの行為を禁止するものである。
(2) 「何人も」については、前条第2項関係解説参照
(3) 「淫行」とは、健全な常識を有する一般社会人からみて不純とされる性行為をいい、結婚を前提としない、単に欲望を満たすためにのみ行う性行為はこれに当たる。
(4) 「猥せつの行為」とは、いたずらに性欲を刺激したり、露骨な表現によって健全な常識ある一般社会人に性的差恥心や嫌悪の情を起こさせたりする行為をいう。

■28282687
高松地方裁判所
令和2年(わ)第108号/令和2年(わ)第135号
令和02年08月06日
被告人
本籍 (省略)
住居 千葉県(以下略)
職業 無職

昭和53年(以下略)生
 上記の者に対する香川県青少年保護育成条例違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、当裁判所は、検察官新甚康平及び弁護人小早川達彦(私選・主任)、同坪井智之(私選)各出席の上審理し、次のとおり判決する。

第3(令和2年4月24日付け起訴状記載の公訴事実第1ないし第3)
  被告人は、●●●(当時15歳。以下「C」という。)が18歳に満たない青少年ないし児童であることを知りながら
 1 令和元年11月22日午後4時19分頃から同日午後6時33分頃までの間、前記被告人方において、単に自己の性的欲望を満たす目的で、Cに対し、その乳首を舐めるなどし、もって青少年に対し、猥せつの行為をし
 2 令和2年2月8日午後3時4分頃から同日午後6時10分頃までの間、前記被告人方において、単に自己の性的欲望を満たす目的で、Cに対し、その乳首や陰部を舐め、同人の膣内に性的玩具を挿入するなどし、もって青少年に対し、猥せつの行為をし
(法令の適用)
罰条
 判示第1の1、第2の別表番号1ないし3、第3の1及び2の各所為
  いずれも香川県青少年保護育成条例22条、16条1項
 判示第1の2、第3の3の各所為
  いずれも児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項(判示第1の2につき、同法2条3項1号ないし3号、判示第3の3につき、同法2条3項1号及び3号)
刑種の選択 いずれも懲役刑選択
併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(罪及び犯情の最も重い判示第1の2の罪の刑に法定の加重)
刑の執行猶予 刑法25条1項
保護観察 刑法25条の2第1項前段
(量刑の理由)
刑事部
 (裁判官 高橋貞幹)

中学校の教諭であった被告人が,担任クラスの女子生徒(当時13歳)に対し,暴行を加えて失神させた上,わいせつ,殺害目的でした住居侵入,わいせつ,生命身体加害略取,監禁致傷及び銃刀法違反の事案(前橋地裁r01.12.20)

 さっき閲覧したけど、ほとんど黒塗りだったよ。
 殺意が認定落ち。
 

住居侵入,わいせつ・生命身体加害略取,監禁致傷,殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
【事件番号】 前橋地方裁判所判決/
【判決日付】 令和元年12月20日

       主   文

 1 被告人を懲役8年に処する。
 2 未決勾留日数のうち100日をその刑に算入する。
 3 押収してあるスタンガン1台(令和元年押第12号符号1)を没収する。
 4 訴訟費用は被告人の負担とする。

       理   由

 【罪となるべき事実】
第1 被告人は,令和元年6月25日午後零時30分頃,■■■(当時13歳。以下「A」という。)に暴行を加えて失神させた上,自動車で連れ去ってわいせつな行為をした後に殺害する目的で,群馬県高崎市■■町■■番■■号■■■方(以下「A方」という。)玄関から侵入し,Aを床に引き倒してその腹部に馬乗りになり,その頚部等にスタンガン(主文掲記のもの。以下「本件スタンガン」という。)を数回押し付けて通電したが,Aが失神しなかったため,Aの背後からその頚部に右腕を巻き付けて絞め付けた上,仰向けに倒れたAの頚部にタオル(令和元年押第12号符号2。以下「本件タオル」という。)を巻き付けて絞め付けてAを失神させ,同日午後零時50分頃,失神したAを同所付近に停車中の自動車(以下「本件車両」という。)内に連れ込み,同所から本件車両を発進させて,同市■■町■■■番地■■付近路上(以下「本件路上」という。)まで走行させ,引き続き,同日午後4時35分頃までの間,同所において,Aを自己の支配下に置くとともにAが本件車両から脱出することを不能にさせ,もってわいせつ及び生命に対する加害の目的でAを略取してAを不法に監禁し,その際,Aに全治まで約3週間を要する頚部擦過傷,頚部熱傷,顔面皮下血腫及び結膜下出血の傷害を負わせた。
第2 被告人は,業務その他正当な理由による場合でないのに,同日午後4時35分頃,本件路上付近に停車中の本件車両内において,刃体の長さ約17センチメートルの包丁1本(令和元年押第12号符号3)及び刃体の長さ約16センチメートルの包丁1本(同号符号4)を携帯した。
 【証拠の標目】
注)以下,括弧内の番号は証拠等関係カードにおける検察官の請求又は職権による取調べの各番号を示す。
事実全部について
・ 被告人の公判供述
・ 秘匿情報・呼称一覧表(職1)
・ 捜査報告書(甲27,29,31,32)
第1の事実について
・ 証人Bの公判供述
・ 捜査報告書(甲2(採用部分のみ),28,30,34)及び写真1枚(甲33)
・ スタンガン1台(主文掲記のもの)及びタオル1枚(令和元年押第12号符号2)
第2の事実について
・ 包丁2本(同号符号3及び4)
 【事実認定の補足説明】
1 争点
  検察官は,被告人は,「Aの背後からその頚部に右腕を巻き付けて絞め付けた上,仰向けに倒れたAの頚部にタオルを巻き付けて絞め付けて,Aを失神させた」行為(以下「本件実行行為」という。)において,殺意をもって,すなわち,Aが死ぬ危険性の高い行為をそのような行為であると分かって行った旨主張している。これに対し,被告人は,本件実行行為においてAに対する殺意はなかった旨供述し,弁護人も,被告人には殺意はなく,殺人未遂罪は成立しない旨主張している。
  このように,本件の争点は,本件実行行為における殺意の有無であるが,当裁判所は,健全な社会常識に照らして,本件実行行為がAが死ぬ危険性の高いものであったと評価するには合理的な疑いが残り,Aが死ぬ危険性の高い行為をそのような行為であると分かって行ったとはいえず,Aに対する殺意は認められないと判断した。以下,その理由について補足して説明する。
2 殺意の意味
  殺意とは,積極的に相手を殺そうという場合(確定的殺意)のほかに,相手が死ぬかもしれないと分かっていて,あえて行為に及んだ場合(未必的殺意)も含んでいる。そして,「相手が死ぬ又は死ぬかもしれないと分かっていて,あえて行為に及んだ」かの判断においては,「人が死ぬ危険性の高い行為をそのような行為であると分かって行ったか」が判断のポイントになる。
3 認定事実
  関係証拠によれば,以下の事実を認定することができる。
  被告人は,被害者が通う中学校の担任教諭である。被告人は,本件当時,27歳の成人男性であり,身長は169.5センチメートル,体重は57.9キログラムであった。他方,Aは本件当時,13歳の女子生徒であり,身長は144センチメートル,体重は38.8キログラムであった。
  被告人は,令和元年6月25日(以下,同日の記載は省略する。)午後零時30分頃,A方玄関から侵入し,Aを床に引き倒してその腹部に馬乗りになり,その頚部等に本件スタンガンを数回押し付けて通電したが,Aは失神しなかった。
  被告人は,Aの頚部を絞め付けることでAを失神させようと考え,右腕で,Aの背後からその頚部を絞め付け,その後,近くのソファーの上にあった本件タオルを取り,それをAの頚部に巻き付けてさらにその頚部を絞めた。タオルでAの頚部を絞めている時は,Aは仰向けに倒れていたが,被告人は,本件タオルをAの頚部の前で一度交差させて巻き,両手で本件タオルの両端を左右に引き,その後,床に押し付けるようにしてAの頚部を絞め付けた。被告人は,Aの顔が膨れていき,目が半開きになり,口から泡を吹き,唇の色が青くなり,顔色が白くなったのを見て,Aが大声を出せなくなったと認識したが,Aが失神しているとは認識しなかった。
  その後,被告人は,一旦A方を出て,Aを連れ去るために用意した本件車両に戻り,本件車両をA方玄関近くに移動させた後,再びA方内に戻ったところ,Aの顔の血色が普通に戻って呼吸を繰り返していたのを見て,再び本件タオルでAの頚部を絞め付けた。その際,被告人は,本件タオルをAの頚部の前で1回結び,被告人がタオルの両端を引けばきつく絞まり,放せば緩むという状態にしていた。被告人は,再びAの顔が膨れ上がり,目が半開きになり,血色が悪くなり,鼻から泡を吹き,唇が青くなったのを認識したが,Aの結膜下出血及び失禁の症状は認識していなかった。Aは,本件実行行為の初めに被告人に右腕で頚部を絞められてから本件車両内で目を覚ますまで,失神していた(なお,Aには,遅くとも本件実行行為の終了時までの間に,結膜下出血,尿失禁の症状も生じていたが,これらの症状の正確な発生時期については証拠上明らかでない。)。
  被告人は,午後零時50分頃,失神したAをA方付近に停車中の本件車両内に連れ込み,同所から本件車両を発進させて,本件路上まで走行させた。本件路上に到着する直前,Aは意識を回復したが,その後,被告人は,午後4時35分頃に警察官に現行犯逮捕されるまでの間,Aの身体に危害を加えていない。
  Aは,全治まで約3週間を要する頚部擦過傷,頚部熱傷,顔面皮下血腫及び結膜下出血の傷害を負った。
4 評価
 (1)積極的事情
  ア 人の頚部を絞め付けるという行為自体が,人を殺害する典型的な行為であること
   前記認定事実のとおり,被告人は,腕や本件タオルでAの頚部を絞め付けたという事実が認められる。
   頚部は人体の枢要部であり,人の頚部をタオルで絞め付ける行為は,それ自体,一般的にみれば,窒息等によって人を死亡させる危険性の高い行為であるといえる。また,被告人とAの年齢差や体格差も併せ考慮すれば,その危険性はより高まるといえる。
   もっとも,頚部を腕やタオルで絞め付ける行為といっても,その態様や強度は様々であり,上記事実から,直ちに本件実行行為がAの死ぬ危険性が高い行為であると評価することはできない。
  イ Aが一般的な急性窒息にみられる症状を呈していたこと
   前記認定事実のとおり,本件実行行為により,顔色が青くなり,泡を吹くなどの症状をAが呈していたという事実が認められる。
   一般的に見れば,上記各症状は,人の身体の生理機能に何らかの異常が生じていることを示しているものであるから,本件実行行為は,人を死亡させる危険性がある行為といえる。
 (2)消極的事情
  ア 本件実行行為の医学的評価
   まず,Aの症状等から分かる本件実行行為の医学的評価について検討する。
   法医学の専門家であるB医師は,①Aにみられた顔面の紫赤色の変色,まぶたの裏の出血,意識消失,尿失禁,Aが口から泡を吹き,顔面全体が膨れ上がり,唇が真っ青になり,顔が真っ白になったという症状は,絞頚,扼頚又は急性窒息にみられる症状と矛盾せず,これらの症状がみられたことから,Aの急性窒息が,少なくとも第2期と呼ばれる時期に至っていたこと(検察官は,本件のAの急性窒息が,無呼吸期である第3期に至っていた可能性を主張するが,B医師は,あくまでその可能性を証言したに過ぎないから,その証言から第3期であると認定することはできない。また,被告人がAの頚部を絞め付け続けていた時間についても,B医師の証言する急性窒息の症状と絞め付け(窒息)の継続時間の関係に関する内容は,絞め付け(窒息)が中断なく継続する場合を前提としたものであり,本件実行行為の絞頚,扼頚行為が,途中に中断を含む断続的なものであることで前提を異にすることから,Aにみられた上記症状を考慮しても,その具体的な時間を認定することはできない。),②救命救急センターにおけるいっ頚症例の中で,上記第2期を含む救急隊現場到着時に心肺停止でなかった症例49例のうち,死亡例は3例(いずれも70歳以上の患者であり,70歳未満の死亡例はない。)であったというデータを示す文献があること,③この文献のデータを踏まえると,頚部を絞め付け続け,第2期又は第3期と呼ばれる症状を呈するに至った場合,救急救命を試みても死亡する例がみられ始め,死亡する危険性は窒息の時間が長くなるほど高まることなどを証言している(以下「B証言」という。)。B証言は,証人の職業・経歴等や証言内容の合理性からして,その信用性を疑うべき事情もないことから,信用できる。
   B証言によれば,本件実行行為によって13歳のAが第2期(呼吸困難期及び痙攣期)と呼ばれる症状に至ったとしても,医学的には,Aが死亡する危険性が高いとは評価できない。
  イ 本件実行行為の態様
   次に,本件実行行為の態様についてみると,①被告人は,本件スタンガンによりAを失神させることができなかったために,まずは腕,次に本件タオルというように,頚部を絞め付ける手段を順次変更していること,②Aの頚部への本件タオルの巻き付け方は,いわゆる玉結びのように結び目が固まり動かなくなるようなものではなく,前記認定事実のとおり,本件タオルの両端を1回交差させただけか,1回結ぶだけで,被告人が本件タオルを引く力の加減によりAの頚部を絞める強さを変えられるものであったこと,③被告人はAの顔色の変化等の症状を観察しながら本件実行行為を行っていたこと,④Aに顔色の変化等の症状がみられた際,少なくとも2度にわたり,被告人は頚部を絞め付けることを止めていること,⑤被告人がAに対してその呼吸を回復させるような措置を特段取っていないにもかかわらず,Aは結果として失神するにとどまり,自発的に意識を回復していることが認められる。
   これらの事実によれば,被告人は,Aを失神させるために,必要以上の危害をAに加えないように,絞め付け行為の時間や強度を調整しながら本件実行行為を行っていたと評価できる。
   加えて,上記アの本件実行行為の医学的評価も踏まえれば,本件実行行為は,被告人の主観にとどまらず,客観的にも,Aの死亡する確率が急激に高まるような急性窒息の症状を呈するより前の時点で頚部を絞め付ける行為を止めるものであったと認められ,本件実行行為が有していたAが死ぬ危険性の程度が高かったとまではいえない。
   なお,検察官は,本件実行行為において,被告人は混乱した心理状態にあったことから,死なないようにAの呼吸を確認していたとは考えられない旨主張する。
   しかし,被告人は,本件実行行為時にAが呈していた顔色の変化等の上記各症状を具体的に記憶し供述していること,被告人は,まず腕で絞め付けた後,本件タオルを使い,その後一旦絞め付けを止めてA方を出て本件車両を寄せ,再びAの頚部を本件タオルで絞め付け直すというように,Aを失神させるという目的に向かって手段を順次変更しつつ行動していること,本件タオルの巻き付け方が強度の調整が可能なものであること,Aが結果として失神するにとどまっていることなどの事情から,被告人がAの呼吸の様子を確認していた事実が認められる。
   したがって,検察官の上記主張は採用できない。
  ウ 被告人の犯行計画や準備状況
   関係証拠によれば,被告人の犯行計画は,A方においてAを失神させることでAを略取した後,本件車両内に監禁したAに対しわいせつ行為を行った後,Aを殺害し自らも死ぬというものであったことが認められる(以下「本件犯行計画」という。)。
   被告人が,本件犯行の数日前に,一度に大量のアダルトグッズ等を購入し,本件犯行時に本件車両に積んでいたほか,ダンボール数箱の食料や複数の飲料水のペットボトルを本件車両に積むなどの準備をしていたことは,本件犯行計画を裏付けるものであり,被告人も,警察等に発見されるまで,できるだけ長い時間,Aと一緒にいたかった,Aを殺害する時期や方法は具体的には決めていなかった旨供述している。
   このように,Aを殺害するという被告人の計画は,本件実行行為時には未だ具体化されていなかっただけでなく,わいせつ行為をしたいという被告人の犯行計画は,常識に照らせば,Aを生きたまま連れ去ることができなければ実現しないものであり,被告人が本件実行行為の時点でAに対する殺意があるとすれば,本件犯行計画や上記の準備状況と矛盾するといわざるを得ない。そうすると,本件犯行計画や準備状況は,本件実行行為が人が死ぬ危険性が高いものでなかったことを補強する事情であるといえる。
  エ 凶器の使用状況
   前記認定事実のとおり,被告人は,A方内に包丁2本を持ち込んでいるものの,本件実行行為においては,A方内で偶然入手した本件タオル以外の凶器を用いなかったことが認められる。
   被告人が,包丁などのよりAの生命を奪う危険性のある凶器を用いることが容易な状況であったにもかかわらず,これを用いなかった事実は,被告人がAの身体に対して強い危害を加える意図を有していなかったことを意味し,本件実行行為が人が死ぬ危険性が高いものでなかったことを補強する事情であるといえる。
  オ 本件実行行為後の事情
   前記認定事実のとおり,被告人は,AをA方から連れ去った後は,Aの生命や身体に危害を加える行動に出ていないことが認められる。
   仮に被告人にAに対する殺意が本件実行行為時にあったとすれば,その後,本件車両内というAの身体に危害を加えることは容易な状況において,Aに対する暴行に実際に及んでいないことは,本件実行行為が人が死ぬ危険性が高いものでなかったことを補強する事情であるといえる。
 (3)総合判断
   確かに,一般的にみれば,人の頚部をタオルで絞め付ける行為は,それ自体,窒息等によって人を死亡させる危険性の高い行為であるといえ,また,被告人とAの年齢差や体格差も併せ考慮すれば,その危険性はより高まるといえる。
   しかしながら,頚部を腕やタオルで絞め付ける行為といっても,その態様や強度は様々であり,具体的な事情に即して考える必要がある。
   本件実行行為によって,Aには,顔面の紫赤色の変色,まぶたの裏の出血,意識消失,尿失禁,口から泡を吹く,顔面全体が膨れ上がる,唇が真っ青になる,顔が真っ白になるという症状が認められる。これらの症状からは,Aの急性窒息が少なくとも第2期と呼ばれる時期に至っていることが認められるが,B証言によれば,本件実行行為によって13歳のAが第2期(呼吸困難期及び痙攣期)にみられる症状を呈していたとしても,医学的には,Aが死亡する危険性が高いとは評価できない。また,見た目から分かる症状の主観的評価において,医学の専門家ではない被告人を含む通常人にとっては危険性の評価に幅があり得るから,上記症状が直ちにAが死ぬ危険性の認識につながるものではない。
   本件実行行為の態様をみると,被告人は,本件スタンガンによりAを失神させることができなかったために,まずは腕,次に本件タオルというように,頚部を絞め付ける手段を順次変更している。そして,Aの頚部への本件タオルの巻き付け方は,本件タオルの両端を1回交差させただけか,1回結ぶだけで,被告人が本件タオルを引く力の加減によりAの頚部が絞まる強さが変わるものであった。しかも,被告人はAの顔色の変化等の症状を観察しながら本件実行行為を行い,Aに顔色の変化等の症状がみられた際,少なくとも2度にわたり,被告人は頚部を絞め付けることを止め,被告人がAに対してその呼吸を回復させるような措置を特段取っていないにもかかわらず,Aは結果として失神するにとどまり,自発的に意識を回復していることが認められる。
   これらの事実によれば,被告人は,Aを失神させるために,必要以上の危害をAに加えないように,絞め付け行為の時間や強度を調整しながら本件実行行為を行っていたと評価できる。
   したがって,本件実行行為は,人が死ぬ危険性の高い行為ではあるとはいえない。
   被告人の犯行計画や準備状況,凶器の使用状況,本件実行行為後の事情は,いずれも,本件実行行為が人が死ぬ危険性が高いものでなかったことを補強する事情であるといえる。
   そうすると,本件実行行為によってAの死に至る客観的な危険性が高いと認定するには,合理的な疑いが残ると言わざるを得ない。
5 結論
  以上のとおり,本件実行行為がAの死ぬ危険性の高い行為であったというには合理的な疑いが残り,Aが死ぬ危険性の高い行為をそのような行為であると分かって行ったとはいえず,本件実行行為時に,被告人のAに対する殺意があったとは認められない。
  したがって,本件において殺人未遂罪は成立せず,Aの傷害は,監禁致傷罪の範囲で評価される。
 【法令の適用】
1 主刑
 (1)罰条
  判示第1の行為のうち,住居侵入の点は刑法130条前段に,わいせつ・生命身体加害略取の点は同法225条に,監禁致傷の点は同法221条(刑法10条により刑法220条及び204条各所定の刑を比較し,重い傷害罪について定めた懲役刑(ただし,短期は監禁罪の刑のそれによる。)により処断する。)に,判示第2の行為は銃砲刀剣類所持等取締法31条の18第3号,22条にそれぞれ該当する。
 (2)科刑上一罪の処理
  判示第1の行為のうち,わいせつ・生命身体加害略取及び監禁致傷は,1個の行為が2個の罪名に触れる場合であり,住居侵入とこれらの罪との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,刑法54条1項前段,後段,10条により結局以上を1罪として最も重い監禁致傷罪の刑(ただし,短期はわいせつ・生命身体加害略取罪の刑のそれによる。)で処断する。
 (3)刑種の選択
  後記【量刑の理由】により判示第2の罪については懲役刑を選択する。
 (4)併合罪の処理
  以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をする。
 (5)宣告刑の決定
  以上の法律上可能な刑期の範囲内(1年以上17年以下の懲役)から,後記【量刑の理由】により,被告人を主文の刑に処する。
2 未決勾留日数算入
  刑法21条を適用して未決勾留日数のうち主文2の日数を主文1の刑に算入する。
3 没収
  押収してあるスタンガン1台(主文掲記のもの)は,判示第1の罪の用に供したもので,被告人が所有するものであるから,刑法19条1項2号,2項本文によりこれを没収する。
4 訴訟費用の負担
  訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。
 【量刑の理由】
1 本件は,中学校の教諭であった被告人が,担任しているクラスの女子生徒に対し,単独でかつ凶器を使用して行った,住居侵入,わいせつ・生命身体加害略取,監禁致傷1件及び包丁2本を携帯したという銃砲刀剣類所持等取締法違反1件の事案である。
2 被告人に対する刑の大枠を決める本件の重要な犯情について検討する。
  まず,本件の事案の軽重について検討する。
  本件犯行の準備状況等についてみると,被告人は,被害者の担任教諭であったことから,被害者の住居や家族の状況にとどまらず,本件当日に被害者が1人で自宅にいる時間帯等を把握し,これらの情報を利用して本件犯行に及んでいる。また,被告人は,被害者を連れ去ってわいせつな行為をした後に被害者を殺害する目的で,スタンガン,包丁及び大量のアダルトグッズなどを用意した上,自動車内で被害者に対してわいせつな行為をする場所をあらかじめ下見をしたり,自動車内が外部から見えないように車内に黒いカーテンを設置したりするなど,かなり周到な準備をしている。このように,本件犯行は,非常に計画性の高いものである。
  本件犯行の態様についてみると,被告人は,被害者を略取する際に,スタンガンを使用したが,被害者を失神させることができなかったため,被害者の背後からその頚部に右腕を巻き付けて絞め付け,さらに,被害者の頚部を2回にわたってタオルで絞め付けて失神させている。このように,本件犯行の態様は,被害者の生命を奪う危険性が高いものであったとまではいえないものの,相当に強度なものであったといえる。
  以上によれば,被告人が,被害者を監禁していた際にわいせつ行為や暴行に及んでいなかったこと,被害者が負った傷害の程度も全治約3週間と比較的軽傷にとどまったこと,比較的早期に警察官に保護されたことから,監禁の時間も4時間弱と比較的短時間なものにとどまっていることを考慮しても,本件犯行は,被害者の行動の自由や身体の安全を侵害する危険性が高い事案であると評価できる。
  次に,本件犯行を決意した被告人に対する非難の程度を検討する。
  被告人は,担任教諭を務めていたクラスにおいて,在籍する女子生徒たちから無視されるなど学級運営が円滑にいかず,そのような悩みを被害者やその友人である女子生徒に相談していたが,その後,被害者らからも距離を置かれるようになった。このような状況に至り,被告人は,自らを追い詰めた社会全般に対して恨みを抱くとともに自暴自棄になり,好意を抱いていた被害者にわいせつな行為をした上で,被害者と一緒に死のうと考え,全く落ち度がないどころか,生徒という立場でありながら担任教諭である被告人のために相談に乗ってくれていた被害者に対する本件犯行を決意している。このような経緯及び動機は,極めて身勝手かつ自己中心的なものといえる。そうすると,被告人が上司等から学級運営等について具体的な支援を受けることができず,心療内科に通院するなど精神的に追い詰められていたことを踏まえても,厳しい非難を免れない。
  以上の本件の重要な犯情によれば,本件は,同種事案の中では,相当重い部類に位置づけられるものであり,被告人に対して,その刑の執行猶予を付するのは相当ではなく,相当期間の実刑をもって臨むべき事案であるといえる。
3 被告人の刑を調整する一般情状について検討する。
  被害者は,本来,信頼できるはずの担任教諭から暴行を受けて略取,監禁されたものであり,被害者及びその両親が受けた精神的な苦痛は計り知れず,被害者及びその両親が,被告人からの謝罪や被害弁償を拒否し,被告人には二度と社会に出てきて欲しくないとする心情は十分に理解できる。本件は,中学校の教諭であった被告人が担任しているクラスの女子生徒に対して行った犯行であり,社会に大きな影響を与えた。
  他方,被告人がこれまで前科前歴なく真面目に生活していたことは,被告人の更生の可能性に関する事情として評価できる。
4 そこで,刑の公平性の観点から同種事案における量刑傾向を踏まえ,以上の本件の重要な犯情及び一般情状を考慮して,被告人に対しては,主文の刑を言い渡すのが相当と判断した。
(検察官の求刑意見 懲役15年)
(弁護人の量刑意見 保護観察付き執行猶予)
  令和元年12月26日
    前橋地方裁判所刑事第2部
        裁判長裁判官  國井恒志
           裁判官  中野哲美
           裁判官  谷山暢宏

実父である被告から,被告宅で暴行を用いてわいせつな行為をされたり,姦淫されたりしたと主張して,被告に対し,不法行為(709条)を理由とする損害賠償請求権に基づき,慰謝料500万円等の合計605万円のうち385万円及びこれに対する不法行為のあった日である平成28年5月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案につき、慰謝料350万円が認容された事例(東京地裁r2.3.27)

実父である被告から,平成28年5月14日に被告宅で暴行を用いてわいせつな行為をされたり,姦淫されたりしたと主張して,被告に対し,不法行為(709条)を理由とする損害賠償請求権に基づき,慰謝料500万円,文書費5000円,治療費10万1050円,交通費1万3230円,将来の治療費交通費等38万0720円,弁護士費用55万円の合計605万円のうち385万円及びこれに対する不法行為のあった日である平成28年5月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案につき、慰謝料350万円が認容された事例(東京地裁r02.03.27)


原告 
X 
同訴訟代理人弁護士 
中根洋一ほか 
東京都荒川区〈以下省略〉 
  
被告 
Y 

主文

 1 被告は,原告に対し,385万円及びこれに対する平成28年5月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。
 3 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
 
 
事実及び理由

第1 請求
 1 主文第1項と同旨
 2 仮執行宣言
第2 事案の概要
 1 本件は,原告が,実父である被告から,平成28年5月14日に被告宅で暴行を用いてわいせつな行為をされたり,姦淫されたりしたと主張して,被告に対し,不法行為(709条)を理由とする損害賠償請求権に基づき,慰謝料500万円,文書費5000円,治療費10万1050円,交通費1万3230円,将来の治療費交通費等38万0720円,弁護士費用55万円の合計605万円のうち385万円及びこれに対する不法行為のあった日である平成28年5月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 2 前提事実
  (1) 原告(平成2年○月○日生の女性)は,平成26年2月24日,A(A)と婚姻した。原告とAとの間には長男,長女及び二女(平成26年○月○日生)の3人の子がいる(甲9)。
  (2) 被告(昭和37年○月○日生の男性)は,その妻(B)との間に原告を含む3人の子をもうけたが,平成27年1月8日,Bと離婚した(甲9,原告本人)。
  (3) 原告は,長男,長女を祖母宅に預けた上,平成28年5月13日夜,二女を連れて被告宅に遊びに来たが,同月14日午前3時前後,二女を連れて被告宅を出た(甲26ないし甲28)。
  (4) 原告は,平成28年10月25日,尾久警察署長に対し,被告から,同年5月14日午前0時頃から午前1時56分頃までの間,被告宅で,暴行を用いてわいせつな行為をされたり,姦淫されたりしたことを告訴事実として被告を強制わいせつ,強姦の罪で告訴したが(甲1),被告は,平成29年5月16日,不起訴処分を受けた(弁論の全趣旨)。

準強制わいせつ2件で執行猶予(神戸地裁r2.7.15)

準強制わいせつ被告事件(神戸地裁r2.7.15)

裁判年月日  裁判所名 神戸地裁 裁判区分 判決
事件番号 令2(わ)232号 ・ 令2(わ)265号
事件名 準強制わいせつ被告事件
文献番号 2020WLJPCA07156003

神戸地裁令和 2年 7月15日
準強制わいせつ被告事件
主文
 被告人を懲役3年に処する。
 この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。
理由
 各被害者の氏名等及びその呼称は別紙のとおり。(別紙省略)
 (犯罪事実)
 被告人は,神戸市〈以下省略〉医療法人財団a・b病院に看護師として勤務
していたものであるが,同じく同病院に看護助手として勤務していた分離前の
相被告人C及び看護師として勤務していた分離前の相被告人Dと共謀の上,入
院中の被害者A(当時62歳)及び被害者B(当時59歳)が,いずれもその
精神障害のため心神喪失の状態にあることに乗じて,両名にわいせつな行為を
しようと考え,以下の各行為を行った。
 第1 平成30年10月31日午前0時16分頃から同日午前0時20分頃
までの間に,同病院B棟4階病室において,~~もって人の心神喪失に乗じて
わいせつな行為をした。
 第2 同日午前5時48分頃,同病院B棟4階病室において,~~もって人
心神喪失に乗じてわいせつな行為をした。
 (証拠)

 (適用法令)
 罰条 いずれも刑法60条,178条1項,176条前段
 併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の重い第2の罪
の刑に加重)
 執行猶予 刑法25条1項
 (量刑事情)
 被告人は,病院で看護師として勤務していたところ,共に夜勤をしていた看
護師や看護助手である共犯者らによる入院患者らへの虐待を見聞きし,更に被
害者らに接吻をさせようとしたのに対し,面白そうだと思いこれに加わること
とし,自らは被害者Bの顔面を押さえるなどして判示第1の犯行に及び,その
後,共犯者らが今度は陰茎にジャムを塗ってなめさせるということを話してい
るのを聞いて興味を持ち,再びこれに加わることとして,自らは被害者Aの足
を両手で押さえるなどして判示第2の犯行に及んだものである。いずれも,被
害者らの人間としての尊厳を踏みにじる非道な犯行であって,看護師としての
職務中に重度の精神障害を有する入院患者らに対してこのような卑劣な犯行を
行ったということ自体をみれば,実刑に処することを念頭に置きつつ評価すべ
き事案であるといえる。
 一方で,被告人が共犯者らの行為に加担したこと自体は安易としかいいよう
がないものの,主導的に犯行を行ったのは共犯者らであって,被告人には従属
的な面があったことは否定できないこと,被告人自身は本件まで患者に対する
虐待を行っていたものではなく,各犯行も共犯者らと夜勤を共にした一夜の間
のみに行われ,その後は自己の行為の問題を自覚して患者らの虐待に加担しな
いようにしていること,被告人が,被害者らの関係者に謝罪の手紙を送ったり
被害弁済を申し入れたりするなどした上で(なお,各関係者とも弁済を受け入
れなかったことから,全国精神保健福祉会連合会に50万円を寄付してい
る),公判廷でも,今後は一生看護師としての仕事はしないと述べるなどして
反省の態度を示していること,被告人の父親が当公判廷に出廷して今後の監督
を誓っていること,これまで前科がないことなどの事情もあるので,これらを
考慮の上,今回はその刑の執行を猶予することとし,主文のとおり量刑した。
 (求刑―懲役3年)
 神戸地方裁判所第2刑事部
 (裁判官 小倉哲浩)

AVマーケットの管理者3名はわいせつ頒布罪で執行猶予(名古屋地裁R02.11.10、R02.10.22)

AVマーケットの管理者3名はわいせつ頒布罪で執行猶予(名古屋地裁R02.11.10、R02.10.22)

 知らなかったということで児童ポルノ罪は逃れて、わいせつ電磁的記録だけで起訴されて、数件あっても包括一罪なので、「懲役2年罰金250万円」を上限として量刑されたようです。

第一七五条(わいせつ物頒布等)
 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
2有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。

わいせつサイト、2人有罪 画像販売・システム開発 名古屋地裁 【名古屋】
2020.11.11 朝日新聞
 児童ポルノを含むアダルト動画販売サイトの運営者らが摘発された事件で、わいせつ電磁的記録等送信頒布罪に問われた会社役員ら2人の判決が10日、名古屋地裁であった。辛島明裁判官は「サイトを立ち上げ、重要な地位にあった」と述べ、A被告に懲役2年執行猶予5年、罰金200万円(求刑懲役2年、罰金200万円)を言い渡した。

 判決によると、A被告は昨年6月、海外を拠点とするサイト「AV Market(エーブイマーケット)」でわいせつな画像データを販売した。

 サイトのシステム開発を担当したB被告は、懲役1年6カ月執行猶予3年、罰金150万円(求刑懲役1年6カ月、罰金150万円)とした。
・・・
サイト運営者、猶予付き判決 わいせつ画像販売 名古屋地裁 【名古屋】
2020.10.23 朝日新聞
 海外を拠点としたアダルト動画販売サイト「AV Market(エーブイマーケット)」の運営者らが摘発された事件で、わいせつ電磁的記録等送信頒布罪に問われたアルバイトC被告の判決公判が22日、名古屋地裁であった。板津正道裁判官は懲役1年執行猶予3年、罰金100万円(求刑懲役1年、罰金100万円)を言い渡した。
 同サイトをめぐっては、愛知県警が出品者や広告会社役員を検挙し、購入者も捜査している。一連の事件で判決が出るのは初めて。
 判決によると、本間被告は昨年6月21日、他の運営者らと共謀し、女性のわいせつな画像データを同サイト上で販売した。板津裁判官は「海外に拠点を置くなど巧妙かつ組織的な犯行」と指摘。一方で「起訴された共犯者の中で最も地位は低く、分け前も少ない」として執行猶予とした。C被告ら男3人は6月、同サイトを運営したとして児童買春・児童ポルノ禁止法違反などの疑いで逮捕された。3人は同罪で不起訴となり、わいせつ電磁的記録等送信頒布罪で起訴された。他の運営者2人の判決は11月10日の予定。(高絢実)

児童ポルノ要求行為(兵庫県青少年愛護条例違反)で罰金60万円(伊丹簡裁r2.11.2)という報道

 要求罪の法定刑は30万円ですから、他の青少年条例違反があったと思われます。
 検察協議において、「困惑」という要件は意味が無いという検事正のコメントがあります。

兵庫県少年愛護条例
児童ポルノ等の提供の求めの禁止)
第21条の3
何人も、青少年に対し、当該青少年に係る児童ポルノ等(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律第2条第3項に規定する児童ポルノ及び同項各号のいずれかに掲げる姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)その他の記録をいう。以下同じ。)の提供を求めてはならない。


【要旨】
この条は、いわゆる児童ポルノの自画撮り勧誘行為を禁止したものである。
【解説】
l この条は、スマートフォン等の普及に伴い、SNSに代表されるコミュニティサイト等を通じて知り合った相手に、青少年が自身の裸や下着姿を撮影させられた上、メール等で送らされる事案が後を絶たないことを受け、平成29年の改正により新設されたものである。
2 「何人も」とは、前条の解説のとおりである。
3 勧誘行為は、インターネットを通じて行われることがほとんどであるが、インターネットを通じて犯行が行われた場合、行為者が勧誘行為を行った場所のみならず、被害者となる青少年が勧誘行為を受けた場所である結果発生地も犯罪地となる。
よって、コミュニティサイトやメールなどを利用して県外から県内の青少年に提供を求める行為、県内から県外の青少年に提供を求める行為についても規制の対象となる。
4 「当該青少年に係る児童ポルノ等」とは、いわゆる「自画撮り画像」をいう。
児童ポルノ等」には、写真や電磁的記録に係る記録媒体のほか、メール等に添付する画像データも含まれる。
5 本条の規定に違反して、当該青少年に対し、不当な手段(「欺き、威迫し又は困惑させる方法」及び「財産上の利益を供与し、又はその供与の申込み若しくは約束をする方法」)により、当該青少年に係る 児童ポルノ等の提供を求めた場合は、 30 万円以下の罰金又は科料に処せられる。
(第 30 条第 5 項第 12 号)
6 本条は、不当な手段を用いた要求行為のみを禁止しているものではなく、恋愛関係にある場合や冗談等であっても、児童ポルノ等のやり取りにより、インターネット上への画像の流出やリベンジポルノに繋がり、青少年を将来に渡って苦しめる要因となる危険性が否定できないことから、青少年に対して児童ポルノの自画撮り画像を要求する行為は、いかなる態様であっても禁止するものである。ただし、罰則については前述の不当な手段によるもの以外は適用しない。


(罰則)
第30条
5 次の各号のいずれかに該当する者は、30万円以下の罰金又は科料に処する。
(12)第21条の3の規定に違反して、次に掲げる方法により、青少年に対し、当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を求めた者
ア青少年を欺き、威迫し又は困惑させる方法
イ青少年に対し、財産上の利益を供与し、又はその供与の申込み若しくは約束をする方法
6 第17条第1項(同項第4号又は第9号に係る部分を除く。) 、第20条第1項若しくは第2項、第21条第1項若しくは第2項、第21条の2、第21条の3又は第24条第2項の規定に違反した者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として、第1項又は前3項の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。

解説
(16)青少年を欺き、威迫し又は困惑させる方法により当該青少年に係る児童ポルノ等を求めた者
「欺く」とは、事実および評価についての人の判断に誤りを生じさせる行為をいう。
「威迫」とは、脅迫に至らない程度の人に不安を生ぜしめるような行為をいう。
「困惑させる」とは、相手方を困らせて戸惑わせる(不安にさせる) ことをいう。
(17)青少年に対し、財産上の利益を供与し、又はその供与の申込み若しくは約束をする方法により当該青少年に係る児童ポルノ等を求めた者
「財産上の利益」とは、金品だけでなく、金員貸与、債務免除などを含む。
「過失のないとき」とは、単に青少年に年齢、生年月日等を確認しただけ、又は身体の外観的発育状況等から判断しただけでは足りず、学生証運転免許証等の公信力のある書面、又は当該青少年の父兄に直接問い合わせるなど、その状況に応じて通常可能とされるあらゆる方法を用いて青少年の年齢を確認している場合をいう。

伊丹 わいせつの教諭 罰金60万円命令=兵庫
2020.11.03 読売新聞
 元教え子の少女(当時17歳)にわいせつな行為の動画をSNSで送るよう要求したなどとして、県青少年愛護条例違反容疑で宝塚署に逮捕された容疑者について、伊丹区検は2日、同条例違反で伊丹簡裁に略式起訴した。簡裁は同日、罰金60万円の略式命令を出した。

淫行(京都府青少年の健全な育成に関する条例)容疑について、「性行為はしたが、性欲を満たす目的ではない」と弁解しているという報道。

 京都府の青少年条例違反というのも珍しいです。
「青少年に対し、~~~、精神的、知的未熟若しくは情緒的不安定に乗じて、淫行又はわいせつ行為をしてはならない。」という法文なのに、

「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきでなく、①青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、②青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。(最大判S60.10.23)

という判例があるので、被疑事実に「単に自己の性的欲望を満足させるため」が挙げられています。
 真剣交際でも婚姻関係でもナンパでも、性交時に「単に自己の性的欲望を満足させるため」というのは変わらないので、なんの縛りになるのかわかりませんし、刑法では、強制わいせつ罪の関係では性的意図不要で(大法廷H29.11.29)、強制性交の関係でも不要なので、青少年条例との整合性はどうかなと見ています。




16歳であれば、性的同意年齢で婚姻可能年齢なので、メール等の連絡状況を援用して、「精神的、知的未熟若しくは情緒的不安定に乗じて、」を否認するのも有効でしょう。

京都府青少年の健全な育成に関する条例解説R01
(淫行及びわいせつ行為の禁止)
第21条
1何人も、青少年に対し、金品その他財産上の利益若しくは職務を供与し、若しくはそれらの供与を約束することにより、又は精神的、知的未熟若しくは情緒的不安定に乗じて、淫行又はわいせつ行為をしてはならない。
2 何人も、青少年に対し、淫行又はわいせつ行為を教え、又は見せてはならない。
【解説】
1 本条は、青少年に対し、淫行又はわいせつ行為をすること及び当該行為を教え、又は見せることを禁止し、刑法その他関係法令では規制し得ない反社会的行為から青少年を保護しようとするものである。
なお、淫行罪及びわいせつ行為罪は、相手方たる青少年の(形式的な意味での) 同意又は承諾がある場合にも成立する。
この点で刑法第177条の強姦罪及び第176条の強制わいせつ罪が、13歳以上の者については暴行又は脅迫による等自由な意思決定ができない状態の下での行為だけを規制対象にしているのとは異なる。
注) 『脅迫」とは、人に恐怖心を生じさせるに足る害悪を加える旨を通告することであり、相手方の反抗を著しく困難ならしめる程度のものをいう。
2 「淫行」とは、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいう。
3 「わいせつ行為」とは、いたずらに性欲を刺激興奮せしめたり、その露骨な表現によって健全な常識ある一般社会人に対し、性的に差恥嫌悪の情をおこさせる行為をいう。
4 「金品その他財産上の利益若しくは職務を供与し、若しくはそれらの供与を約束することにより」とは、青少年に対し、金銭や物品を与え、又は職務(仕事) を世話し、あるいはそうしたことを約束することにより、淫行又はわいせつ行為を行うことをいう。
5 「その他財産上の利益」の供与とは、債務の免除(借金の棒引き)や債権の譲渡等をいう。
また、「約束する」とは、行為者の申し出に対する青少年の黙示の認容で足り、かつ、その約束が結果的に履行されたかどうかを問わない。
6 「精神的、知的未熟若しくは情緒不安定に乗じて」とは、性的な道徳観が十分確立していない青少年の未熟さや一時の感情におぼれやすい青少年の情緒的不安定を利用して、誘惑、威迫、立場利用、欺岡といった手段を用いて、あるいは、青少年自身の困惑、自棄等につけこんで、淫行又はわいせつ行為を行うことをいう。
注l) 『威迫』とは、人をおどして従わせることであるが、その程度が脅迫までに至らないものをいう。
2) 『欺岡』とは、人をだますことをいう。
『自棄』とは、自暴自棄、やけくそになることをいう。
7 第2項は、第1項が青少年の身体に向けてなされる淫行又はわいせつ行為の禁止を規定しているのに対し、青少年の意識面に向けて淫行又はわいせつ行為による悪影響を与えることを禁止するものである。
なお、第2項の罪は、公然性(不特定又は多数の人が知り得る状態にあること) の有無を問わず成立し、この点で刑法第174条の公然わいせつ罪とは構成要件を異にする。
8 第2項の「教え」とは、淫行又はわいせつ行為の方法等を教示することであり、単なるわい談等の漠然としたものではなく、具体的、直接的に教えることである。
また、「見せ」とは、自己又は他人の淫行又はわいせつ行為を直接的に見せることをいう。
【関係法令】○刑法第174条(公然わいせつ) 、第175条(わいせつ物頒布等) 、第176条(強制わいせつ) 、第177条(強制性交等) 、第178条(準強制わいせつ及び強制性交等) 、第182条(淫行勧誘)○売春防止法第1条~第13条(第1章総則~第2章刑事処分)○軽犯罪法第1条(罪)○児童福祉法第34条(児童保護のための禁止行為)○児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律第2条(定義) 、第4条(児童買春) 、第5条(児童買春周旋) 、第6条(児童買春勧誘) 、第8条(児童買春等目的人身売買等) 、第9条(児童の年齢の知情)【参考】
○昭和60年10月23日最高裁判決(福岡県青少年保護育成条例違反)条例10条1項にいう「淫行」とは、青少年を誘惑し、威迫し、欺岡し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解すべきである。
昭和39年4月22日東京高裁判決(埼玉県青少年愛護条例違反)「わいせつ行為」とは、いたずらに性欲を刺激興奮せしめたり、その露骨な表現によって健全な常識のある一般社会人に対し、性的に差恥嫌悪の情をおこさせる行為をいうものと解する。

https://www3.nhk.or.jp/lnews/kyoto/20201029/2010008366.html
警察によりますと、医師はことし4月、当時住んでいた京都市内のマンションで、16歳の女子高生を18歳未満と知りながらみだらな行為をしたとして、京都府青少年健全育成条例違反の疑いが持たれています。
医師は去年の秋ごろに、飲食店で女子高生に声をかけて知り合ったということです。
警察の調べに対して「性行為はしたが、性欲を満たす目的ではない」と供述しているということで、警察がいきさつをさらに調べています。
今回の逮捕について、京都府立医科大学の竹中洋学長は「医師としてあるまじき行為で関係者に深くおわびします。早急に事実を確認し、厳正に対処してまいります」とコメントしています

 みだらな性行為又はわいせつな行為(富山県青少年健全育成条例)は、刑法の強制性交・強制わいせつ罪とは、観念的競合になる。

 国法の先占とかで、普通は、補充関係になるとかいいませんかね。

富山県青少年健全育成条例の解説 令和元年6月
(みだらな性行為及びわいせつな行為の禁止)
第15条
1何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。
2何人も、青少年に対し、前項の行為を教え、又は見せてはならない。

4他法令との関係
(1) 刑法との関係
次の場合は、刑法第54条の規定(一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。)により、刑法第176条(強制わいせつ) 、第177条(強制性交等)又は第179条(監護者わいせつ及び監護者性交等)の刑により処断されることとなる。
① 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をし、若しくは性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした場合
② 13歳未満の者に対し、わいせつな行為をし、又は性交等をした場合
③18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をし、又は性交等をした場合

強制わいせつ罪(176条後段)と同じ機会の児童ポルノ製造罪とで逮捕され、児童ポルノ製造罪で略式命令が確定した後に、強制わいせつ罪について不起訴不当の議決がされた事例

 東京高裁h30.1.30に従えば、強制わいせつ罪(176条後段)とその際の製造罪とは観念的競合ですから、略式命令の一事不再理効で、強制わいせつ罪(176条後段)では起訴できない可能性があります。
 児童ポルノ製造罪とされた行為のうち、所定の姿態を取らせる行為・撮影する行為について、わいせつ行為と評価される行為で、この部分について強制わいせつ罪(176条後段)で起訴されると、一事不再理効が生じ、免訴になります(刑訴法337条1号)
 児童淫行罪と製造罪について公訴事実の同一性を広く解釈する高裁判例福岡高裁h23.1.13)もあります。
一事不再理効は前訴と公訴事実を同一にする本件訴因に及ぶが、公訴事実の同一性がなくても、前訴が有罪判決であった場合余罪として認定されて実質上これも処罰する趣旨で量刑資料として考慮され重く処罰される可能性があった場合には、その事実にも一事不再理効が及ぶ(しかし、前訴である同一被害児童との性交と、本件訴因である、その一一月前にした性交による児童ポルノ製造について審理の経過に照らしかかる関係がない)。(福岡高判平23・1・13高検速報一四八五)」

裁判年月日 平成30年 1月30日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件名 保護責任者遺棄致傷、強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反、強制わいせつ(変更後の訴因わいせつ誘拐、強制わいせつ)、殺人、強制わいせつ致傷被告事件
 3 強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係について
  (1) 論旨は,原判決は,同一機会の犯行に係る強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を併合罪としたり観念的競合としたりしており,罪数処理に関する理由齟齬がある,また,上記の両罪は,撮影による強制わいせつと児童ポルノ製造の行為に係るものであり,もともと1個の行為に2個の罪名を付けているだけであるから,いずれも観念的競合とすべきであるのに,併合罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
  (2) 原判決は,同一機会の犯行に係る強制わいせつ(致傷)罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係について,以下のように判断している。
   ア 観念的競合としたもの
 ・原判示第7の強制わいせつ致傷の行為と児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
 ・原判示第9から第11までの各強制わいせつの行為と各児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
   イ 併合罪としたもの
 ・原判示第2の1の強制わいせつの行為と同第1(別表1番号2)の児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
 ・原判示第2の2,4の各強制わいせつの行為と同第2の3,5の各児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
 ・原判示第3の強制わいせつの行為と同第1(別表1番号3)の児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
 ・原判示第4の強制わいせつの行為と同第1(別表1番号4)の児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
 ・原判示第5の1,3,5の各強制わいせつの行為と同第5の2,4,6の各児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
 ・原判示第6の強制わいせつの行為と同第1(別表1番号7)の児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
  (3) 原判決は,上記罪数判断の理由を明示していないものの,基本的には,被害児童に姿態をとらせてデジタルカメラ又はスマートフォン(付属のカメラを含む。)等で撮影した行為が強制わいせつ(致傷)罪に該当する場合に,撮影すると同時に又は撮影した頃に当該撮影機器内蔵の又は同機器に装着した電磁的記録媒体に保存した行為(この保存行為を「一次保存」という。)を児童ポルノ製造罪とする場合には,これらを観念的競合とし(原判示第7,第9から第11まで),一次保存をした画像を更に電磁的記録媒体であるノートパソコンのハードディスク内に保存した行為(この保存行為を「二次保存」という。)を児童ポルノ製造罪とする場合には,併合罪としているものと解される(なお,原判決が併合罪としたもののうち,原判示第2の1,第5の3,5,第6の各強制わいせつ行為では,被害児童に対し緊縛する暴行を加えており,これらについては,このことも根拠として併合罪とし,観念的競合としたもののうち,原判示第7の強制わいせつ行為では,被害児童に対し暴行を加えているが,その暴行態様は,緊縛を含まず,おむつを引き下げて陰茎を露出させた上,その包皮をむくなどしたというものであって,姿態をとらせる行為と重なり合う程度が高いとみたとも考えられ,原判決は,罪数判断に当たり,強制わいせつの態様(暴行の有無,内容)をも併せ考慮していると考えられる。)。いずれにせよ,わいせつな姿態をとらせて撮影することによる強制わいせつ行為と当該撮影及びその画像データの撮影機器に内蔵又は付属された記録媒体への保存行為を内容とする児童ポルノ製造行為は,ほぼ同時に行われ,行為も重なり合うから,自然的観察の下で社会的見解上一個のものと評価し得るが,撮影画像データを撮影機器とは異なる記録媒体であるパソコンに複製して保存する二次保存が日時を異にして行われた場合には,両行為が同時に行われたとはいえず,重なり合わない部分も含まれること,そもそも強制わいせつ行為と児童ポルノ製造行為とは,前者が被害者の性的自由を害することを内容とするのに対し,後者が被害者のわいせつな姿態を記録することによりその心身の成長を害することを主たる内容とするものであって,基本的に併合罪の関係にあることに照らすと,画像の複製行為を含む児童ポルノ製造行為を強制わいせつとは別罪になるとすることは合理性を有する。原判決の罪数判断は,合理性のある基準を適用した一貫したものとみることができ,理由齟齬はなく,具体的な行為に応じて観念的競合又は併合罪とした判断自体も不合理なものとはいえない。

1審判決
裁判年月日 平成28年 7月20日 裁判所名 横浜地裁 裁判区分 判決
第7 被告人は,F(以下「F」という。)が13歳未満の男子であることを知りながら,平成25年3月10日頃,東京都中野区●●●において,F(当時生後8か月)に対し,おむつを引き下げて陰茎を露出させた上,その包皮をむくなどの暴行を加え,亀頭部を殊更露出させるなどの姿態をとらせ,その姿態をスマートフォン付属のカメラで撮影し,その静止画データ12点を電磁的記録媒体であるスマートフォン(平成28年押第40号符号1)内蔵の記録装置に記録して保存し,もって13歳未満の男子に強いてわいせつな行為をするとともに,衣服の一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造し,その際,Fに全治約5日間を要する外傷による亀頭包皮炎の傷害を負わせた。【平成27年2月26日付け追起訴の関係】
 第8 被告人は,別表2の番号1ないし3各記載のとおり,平成25年4月6日頃から同年8月9日頃までの間,埼玉県内,神奈川県内又はその周辺において,番号1ないし3の氏名不詳の各男児がいずれも18歳に満たない児童であることを知りながら,同児童らに対し,全裸又は下半身裸の状態で陰茎を露出させるなどの姿態をとらせ,その姿態をデジタルカメラ等の機器で撮影し,同年4月11日頃から同年8月9日頃までの間,埼玉県内,神奈川県内又はその周辺において,その静止画データ合計26点を電磁的記録媒体である前記ノートパソコンのハードディスク内等にそれぞれ記録して保存し,もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノをそれぞれ製造した。【平成27年3月31日付け追起訴別表番号10ないし12の関係】
 第9 被告人は,G(以下「G」という。)が13歳未満の女子であることを知りながら,平成25年8月25日頃,東京都内又はその周辺において,G(当時1歳)に対し,全裸の状態で両脚を開かせて陰部を露出させるなどの姿態をとらせ,その姿態をデジタルカメラで撮影し,その静止画データ10点を同デジタルカメラに装着した電磁的記録媒体であるSDカード(平成28年押第40号符号4)に記録して保存し,もって13歳未満の女子にわいせつな行為をするとともに,衣服の全部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写し
法令の適用
科刑上一罪の処理 判示第1,第7及び第9ないし第11について,いずれも同法54条1項前段,10条(判示第1について1罪として犯情の最も重い別表1の番号2の児童ポルノ製造罪の刑で,判示第7について1罪として重い強制わいせつ致傷罪の刑で,判示第9ないし第11についていずれも1罪として重い強制わいせつ罪の刑でそれぞれ処断する。)

強制わいせつ:強制わいせつの不起訴に「不当」 神戸第2検察審査会 /兵庫
2020.10.23 毎日新聞社
 交際相手の娘への強制わいせつ容疑で神戸地検尼崎支部が捜査し、不起訴処分とした尼崎市の飲食業の男性(70)に対し、神戸第2検察審査会が不起訴不当の議決を出した。14日付。
 議決文や県警によると、男性は2020年1~2月に自宅で交際相手の娘の少女にわいせつな行為をし、裸をスマートフォンで撮影したなどとし、強制わいせつと児童ポルノ禁止法違反(製造)容疑で県警に逮捕された。男性は逮捕時、強制わいせつ容疑について「そういうことをした記憶はある」と供述していたという。
 尼崎区検は男性を児童ポルノ禁止法違反罪で略式起訴。強制わいせつ罪については地検尼崎支部が不起訴処分としたため、少女の母親が検審に申し立てていた。
 議決では「わいせつ行為は母親の交際相手で、被害者が逆らえず声を上げにくいことを利用した悪質な犯罪」と指摘。「被害者は精神的ダメージを負い、成長過程に重大な影響を及ぼすことは必至で、被害は重大」とし、不起訴不当とした。
 神戸地検は再捜査し、改めて起訴か不起訴かを検討する。
 性暴力の司法手続きを巡っては、ジャーナリストの伊藤詩織さんが元TBS記者に乱暴されたと訴えた事件で、検察は不起訴処分にしたが、民事訴訟では1審判決が被害事実を認定した。【山本真也、春増翔太】
・・・

交際相手の娘被害 わいせつ疑い男性 不起訴不当の議決 神戸検察審査会
2020.10.22 神戸新聞 
 交際相手の娘に対する強制わいせつ容疑で神戸地検尼崎支部が捜査し、不起訴処分にした尼崎市の自営業の男性(70)について、神戸第2検察審査会が不起訴不当とする議決を出した。14日付。
 議決や同支部などによると、男性は1、2月に自宅で交際相手の娘=当時(15)=にわいせつな行為をしたなどとして、兵庫県警に強制わいせつ容疑や児童買春・ポルノ禁止法違反(製造)容疑で逮捕された。4月8日、尼崎区検は同法違反罪で男性を略式起訴したが、地検尼崎支部は強制わいせつ罪について不起訴処分とした。同支部は理由を明かしていない。
 議決では「母親の交際相手であり、経済的に優位な立場を利用した極めて悪質な犯罪」と指摘。「被害者の成長過程に重大な影響を及ぼすことは必至」とした。神戸地検は再捜査し、改めて起訴か不起訴かの処分を検討する。


製造罪と強制わいせつ罪を観念的競合にした裁判例は68個ある。高裁判例も8個。尼崎支部も観念的競合にしてる。
名古屋 地裁 一宮 H17.10.13
東京 地裁 H18.3.24
東京 地裁 H19.2.1
東京 地裁 H19.6.21
横浜 地裁 H19.8.3
長野 地裁 H19.10.30
札幌 地裁 H19.11.7
東京 地裁 H19.12.3
高松 地裁 H19.12.10
山口 地裁 H20.1.22
福島 地裁 白河 H20.10.15
那覇 地裁 H20.10.27
金沢 地裁 H20.12.12
金沢 地裁 H21.1.20
那覇 地裁 H21.1.28
山口 地裁 H21.2.4
佐賀 地裁 唐津 H21.2.12
仙台 高裁 H21.3.3
那覇 地裁 沖縄 H21.5.20
千葉 地裁 H21.9.9
札幌 地裁 H21.9.18
名古屋 高裁 H22.3.4
松山 地裁 H22.3.30
那覇 地裁 沖縄 H22.5.13
さいたま 地裁 川越 H22.5.31
横浜 地裁 H22.7.30
福岡 地裁 飯塚 H22.8.5
高松 高裁 H22.9.7
高知 地裁 H22.9.14
水戸 地裁 H22.10.6
さいたま 地裁 越谷 H22.11.24
松山 地裁 大洲 H22.11.26
名古屋 地裁 H23.1.7
広島 地裁 H23.1.19
広島 高裁 H23.5.26
高松 地裁 H23.7.11
広島 高裁 H23.12.21
秋田 地裁 H23.12.26
横浜 地裁 川崎 H24.1.19
福岡 地裁 H24.3.2
横浜 地裁 H24.7.23
福岡 地裁 H24.11.9
松山 地裁 H25.3.6
横浜 地裁 H25.4.30
大阪 高裁 H25.6.21
横浜 地裁 H25.6.27
福島 地裁 いわき H26.1.15
松山 地裁 H26.1.22
福岡 地裁 H26.5.12
神戸 地裁 尼崎 H26.7.29
神戸 地裁 尼崎 H26.7.30
横浜 地裁 H26.9.1
津 地裁 H26.10.14
名古屋 地裁 H27.2.3
岡山 地裁 H27.2.16
長野 地裁 飯田 H27.6.19
横浜 地裁 H27.7.15
広島 地裁 福山 H27.10.14
千葉 地裁 松戸 H28.1.13
高松 地裁 H28.6.2
横浜 地裁 H28.7.20
名古屋 地裁 岡崎 H28.12.20
東京 地裁 H29.7.14
名古屋 地裁 一宮 H29.12.5
東京 高裁 H30.1.30
高松 高裁 H30.6.7
広島 地裁 H30.7.19
広島 地裁 H30.8.10


追記 2021/01/16
 製造とわいせつ行為とは犯行日が違うようです。
 わいせつ行為については、青少年条例違反で略式起訴されました。同一青少年への青少年条例違反罪は包括一罪になるので(金沢支部福岡高裁、高松高裁)、一事不再理効で、全部のわいせつ行為について再起訴できなくなりました。
 製造罪とされた撮影行為も「わいせつ行為」にほかならないので、二重起訴・二重処罰された部分が出てきています。

強制わいせつ:不起訴不当男性、略式起訴で罰金 検審議決で再捜査 /兵庫
2021.01.06 毎日新聞
 交際相手の娘への強制わいせつ容疑で逮捕されて不起訴となり、神戸第2検察審査会が不起訴不当の議決を出した尼崎市の飲食業の男性(70)について、尼崎区検は県青少年愛護条例違反の罪で尼崎簡裁に略式起訴した。同簡裁は2020年12月24日付で罰金30万円の略式命令を出した。

 議決文や県警によると、男性は20年1~2月に自宅で交際相手の娘の少女にわいせつな行為をし、裸をスマートフォンで撮影したなどとし、強制わいせつと児童ポルノ禁止法違反(製造)容疑で県警に逮捕された。

 尼崎区検は男性を児童ポルノ禁止法違反罪で略式起訴。強制わいせつ容疑については、神戸地検尼崎支部が不起訴処分とした。少女の母親の申し立てを受け、検審が20年10月に不起訴不当の議決を出し、検察が再捜査していた。【中村清雅】

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(千葉県)3条2項の定める卑わい行為の対象となった者(以下「A」という。)は,本件犯行により直接の被害を被ったとされる者で刑訴法290条の2所定の被害者に当たる(東京高裁H26.10.30)

 青少年条例違反罪ではどうかというので調べました。

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(千葉県)3条2項の定める卑わい行為の対象となった者(以下「A」という。)は,本件犯行により直接の被害を被ったとされる者で刑訴法290条の2所定の被害者に当たる(東京高裁H26.10.30)
高等裁判所刑事裁判速報集平成26年111頁

       理   由

 弁護人の控訴趣意の論旨は,「原審は,被害者特定事項について公開の法廷で明らかにしない決定をしているが,本件行為の対象とされるAはそもそも被害者に該当しないから同決定は違法である。」というものである。
 しかし,着衣の上から左胸をなでて触られたAは本件犯行により直接の被害を被ったとされる者で刑訴法290条の2所定の被害者に当たることは明らかであり,Aの法定代理人である母からの被害者特定事項の秘匿の申出につき,秘匿することが相当との意見を付した検察官の通知を受け,原審弁護人の「しかるべく」との意見を踏まえてした被害者特定事項について公開の法廷で明らかにしないとの原審の決定に何ら違法な点は見当たらない。
備考
卑わい行為の対象者については,実務上,刑訴法290条の􀀀2に基づきその特定事項を法廷で明らかにしないとの決定がなされ,弁護人も異議を述べないことが多いと思われる。しかしながら,卑わい行為禁止規定の保護法益については,社会的法益であるとの説(例えば,合田悦三「いわゆる迷惑防止条例について」《小林充•佐藤文哉先生古稀祝賀刑事裁判論集上巻》)もあり,卑わい行為の対象者が刑訴法290条の 2所定の被害者に該当しないとの考えも理論上はあり得るところ,本裁判例は,同条の適用を認めた高裁判決として紹介するものである。

児童相談所職員による淫行事件につき、青少年条例違反で逮捕されて、児童淫行罪で起訴されて青少年条例違反で有罪となった事例(福岡地裁r2.6.22)

 師弟関係の児童淫行罪について実刑率が高いので、慎重に対応しましょう。
 この判決が言及している最高裁判所平成28年6月21日決定は児童淫行罪の成否について要件を挙げていますが、それらの要件は量刑要素でもあるので、削って行けば軽くなって、児童淫行罪が青少年条例違反に落ちる可能性が出てきます。
 なお、同一青少年に対する数回の青少年条例違反については、包括一罪になりますので(金沢支部福岡高裁、高松高裁)、罪数処理を誤っています。

福岡地裁令和 2年 6月22日
児童福祉法違反被告事件
主文
 被告人を懲役2年に処する。
 この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
理由
 (罪となるべき事実)―被害者の氏名等は,別紙犯罪事実一覧表,呼称一覧表のとおり
 被告人は,児童相談所において,Aが18歳に満たない青少年であることを知りながら,別紙犯罪事実一覧表のとおり,3回にわたり,専ら自己の性的欲望を満たす目的で,Aに口淫等をさせ,もって,いずれも,青少年に対し,いん行をした。
 (証拠の標目)―括弧内は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠甲乙の番号
 判示事実全部について
 ・ 被告人の公判供述
 ・ 被告人の検察官調書(乙10),警察官調書(乙4(抄本),6ないし8)
 ・ Aの検察官調書抄本(甲1(不同意部分を除く))
 ・ 被害児童の年齢に関する報告書(甲2),一覧表作成報告書(甲8),写真撮影報告書(甲11),犯行場所の名称特定に関する報告書(甲13)
 別紙犯罪事実一覧表番号1,2の事実について
 ・ 被告人の検察官調書(乙15)
 別紙犯罪事実一覧表番号1の事実について
 ・ 被告人の警察官調書(乙13)
 ・ 検証調書(甲14),写真撮影報告書(甲19),実況見分調書(甲20),資料入手報告書(甲21,22)
 別紙犯罪事実一覧表番号2の事実について
 ・ 被告人の警察官調書(乙14)
 ・ 写真撮影報告書(甲24),実況見分調書(甲25)
 別紙犯罪事実一覧表番号3の事実について
 ・ 被告人の検察官調書(乙11),警察官調書(乙9)
 ・ 写真撮影報告書(甲16),実況見分調書(甲18)
 (法令の適用)
 罰条 別紙犯罪事実一覧表の番号ごとに福岡県青少年健全育成条例38条1項1号,31条1項
 刑種の選択 いずれも懲役刑を選択
 併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い番号3の罪の刑に法定の加重)
 宣告刑 懲役2年
 刑執行猶予 刑法25条1項(4年間猶予)
 (争点に対する判断)
第1 本件公訴事実と争点
 本件公訴事実の要旨は,「被告人は,児童相談所児童福祉司として勤務し,当時,同相談所で一時保護中の児童であったAの社会診断,援助方針の策定等を担当していたものであるが,Aが18歳に満たない児童であることを知りながら,前記担当者としての自己の立場を利用し,同相談所内において,別紙犯罪事実一覧表のとおり,3回にわたり,Aに自己を相手に口淫等の性交類似行為をさせ,もって,児童に淫行をさせる行為をした」というものである。
 被告人が,別紙犯罪事実一覧表記載の各日時頃,児童相談所内で,Aに口淫等をさせた事実については当事者間に争いがなく,証拠上も認めることができる。また,それが児童福祉法上の「淫行」又は福岡県青少年健全育成条例上の「いん行」に該当することについても当事者間に争いがなく,当裁判所としてもそのように評価できると考える。しかし,検察官は,被告人が「淫行を『させる』行為」(児童福祉法34条1項6号)をしたと主張するのに対し,弁護人は,そのように評価することはできないから,児童福祉法違反の罪(以下「児童淫行罪」ともいう)は成立せず,福岡県青少年健全育成条例違反(いん行)の罪(以下「条例違反のいん行罪」ともいう)が成立するにとどまると主張している。
 すなわち,本件の争点は,被告人が,児童福祉法上の「淫行を『させる』行為」をしたと評価できるか否かであるが,当裁判所は,そのように評価することはできないと判断した。以下,説明する。
第2 事実関係等
 関係証拠によると,本件各犯行に至るまでの経緯,被告人とAとの関係等については,以下のような事実関係等が認められる。
 1 Aは,平成30年11月29日,警察からの通告により,児童相談所の一時保護所に入所し●●●,当初は●●●の児童福祉司がAらを担当していたが,その後,●●●被告人が,Aらを担当することになった●●●。
 他方,被告人は,社会福祉士の資格を有し,いくつかの福祉関係の職●●●を経て,平成27年4月から,児童相談所児童福祉司として勤務し,子どもに関する家庭その他からの相談に応じていた。本件当時,妻と●●●子ども●●●がいて,本件以前には,家庭生活や社会生活に問題は見当たらない。
 2 Aは,愛着の形成に関する問題を抱えており,他人と適切な距離を保つことが困難であった(人は,幼児期に,情緒的な関わり(必要に応じて,安心させる,見守る,褒めるなど,愛情深く世話をすること)をしてくれる特定の養育者がいれば,愛着を形成でき,安心感や自己肯定感等を獲得できる。それにより,その養育者と物理的に距離をとっても,安心感や自己肯定感を持続でき,その養育者のもとを離れて一人で行動できるようになる。他方,このような愛着の形成が上手くいかないと,その養育者との関係のみならず,その後の対人関係の築き方,発達,行動等に支障をきたすことがある。Aの場合,●●●幼児期において,●●●安定した愛着が形成できなかったことがうかがえ,●●●信頼できると思った人物とは,近い距離にいなければ(あるいは身体接触を伴わなければ)安心できず,物理的,心理的な距離感を直ぐに縮めたり,身体接触を過剰に求めたりする行動がしばしばみられる)。そのため,Aは,一時保護所においても,職員に対し,男女構わず抱きつく,膝の上に乗るなどして甘える行動や,抱き締めてほしい,頭を撫でてほしいなどと身体接触を求める行動が頻繁に観察された。Aは,このような行動を職員から再三にわたり注意されていたが一向に改まらなかった。このAの問題行動は,定期的に行われる会議により,一時保護所を含む児童相談所職員の間で共有されていた。
 3 Aは,担当児童福祉司である被告人を頼りに感じており,心情が不安定なときに抱え上げてくれたことなどから,比較的早い段階から好意を持つようになった。Aは,被告人に対し,甘える態度を示し,短期間のうちにその傾向を強め,面接後にハグを求めるなどするようになった。被告人は,当初はそれを断っていたが,重ねて求められて遂にハグをしてしまった。その後,被告人は,Aの誘いに応じる形で,キスをしたり,着衣の上から胸を触ったりするなど,Aに対する身体接触エスカレートさせ,遂には被告人の陰茎を,Aに咥えさせたり,Aの陰部に押し当てたりするようになって,本件各犯行に及んだ(関係証拠を総合すると,被告人とAとが性的な接触を始めた時期は,Aが一時保護所に入所してから1か月も経過しない頃のことと認められ,平成30年12月下旬頃であった旨をいう被告人の供述は,疑問もある。しかし,その余については,他の証拠との矛盾など,信用性を疑わせる証拠は見当たらないから,被告人とAとが性的な接触を繰り返していた経緯等に関する被告人の供述は排斥できない)。
 4 Aは,被告人との間の性的行為につき,Aと同じく一時保護されている児童や,一時保護所の職員に話したが,被告人の妻が可哀想だし,大事にしたくないという気持ちもあって,他の大人には話さなかった。なお,Aは,平成31年3月4日,担当児童福祉司を被告人以外の者に替えてほしい旨を申し出た後も,被告人との間の淫行について,面会に来た母親にも話していない。
第3 当裁判所の判断
 児童福祉法34条1項6号の「淫行を『させる』行為」とは,直接たると間接たるとを問わず,児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をすることを助長し促進する行為をいうと解される(最高裁判所平成28年6月21日決定)。そのような行為に当たるか否かは,行為者と被害児童の関係,助長・促進行為の内容及び被害児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,被害児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断すべきであるが,児童淫行罪と保護法益を同じくしながら,法定刑が大きく異なる児童買春の罪や条例違反のいん行罪との峻別という観点からの検討も必要である。
 1 被告人とAとの関係について
 検察官は,被告人とAとの間に「保護責任者的地位のような関係性」があった旨を主張する。
 確かに,被告人は,Aの担当児童福祉司であり,担当児童福祉司による原案どおりに援助指針(援助方針)が決まることも少なくないから,Aの援助指針(援助方針)の策定についても重要な役割を担っている上,一時保護中のAが外部の者と接触するには,窓口である被告人を介する必要があった。
 しかし,一般に,児童相談所(呼称一覧表記載の特定機関に限らない。以下「児相」ともいう)は,児童福祉司による社会診断,児童心理司による心理診断,医師による医学診断,一時保護部門の児童指導員による行動診断などにより,子どもとその環境を総合的に理解した上,それらを基にして担当者による協議(会議)を重ね,判定(総合診断)し,できるだけ迅速に,子どもの最善の利益を追求するための援助指針(援助方針)を策定する機関である(子どもや保護者に対する援助は,この指針に基づいて行われ,援助は定期的に検証され,必要に応じて見直される)。関係機関との連絡調整役を担い,社会診断(問題の所在とその背景等についての調査を進め,相談者による主訴とその背後にある基本的な問題並びに問題と社会的環境との関連等を解明することにより,社会学社会福祉学的視点から援助のあり方を明確にすることをいう)を行うことから,援助指針(援助方針)の原案を作成する児童福祉司の果たす役割は小さくないとはいえ,児童福祉司は,援助指針(援助方針)を策定する児相の専門家チームの一員である。また,本件でAが一時保護されていた一時保護所は,児童相談所と同じ建物内にあるが,一時保護されている子どもの安全等を確保するため,子どもは自由に出入りできず,児童相談所の職員でさえカードキーで解錠しない限り出入りできない仕組みになっていたように,一時保護の期間中,児童指導員等の一時保護部門の職員は,夜間を含めて一時保護されている子どもと生活をともにし,全ての生活場面について子どもの行動を観察し,行動診断を行うのであるが,一時保護されている子どもと担当児童福祉司が会う機会は,面接時に限られている。加えて,一時保護されている子どもの援助指針(援助方針)は,できるだけ迅速に策定しなければならず,一時保護の期間は原則として2か月以内とされているから,一時保護されている子どもと担当児童福祉司の関係も,原則として2か月以内の期間にとどまる。
 このような担当児童福祉司をはじめとする児童相談所や一時保護所の職員の役割等について,Aが正しく理解していたとは認められないが,Aとしては,被告人は,援助指針(援助方針)を策定する立場にある者と認識していたのであるから,一時保護されている期間中の被告人からの働き掛けについては,Aの将来を左右し得る立場の者からの働き掛けであると考えて,Aの自律的な意思決定が歪められる危険性があることは否定できないから,そのような意味において,Aに対して相当の事実上の影響力を有していたとはいえようが,上記のとおり,一時保護中の子どもとその担当児童福祉司との関係は,子どもとその親など保護者との関係や,学校における児童・生徒と教師との関係とは異なる部分が多い上,援助指針(援助方針)の策定に際しては,児童相談所の方針を子どもや保護者らに伝え,その意向を聴取し,できる限り子どもや保護者らとの協議が行われることなども踏まえると,検察官が主張するように,被告人とAとの間に「保護責任者的地位のような関係性」があったとみるのは適切ではないと考える。
 2 助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度について
 検察官は,被告人とAとの間に「保護責任者的地位のような関係性」があったことを前提に,Aに対し,そのような被告人からの事実上の影響力が強く及んでいたのであるから,被告人が,担当児童福祉司としてAと面接する機会に,その立場を利用して,児童相談所の相談室等において,Aと二人きりの状況を作出するとともに,相談室内の灯りを消し,自らのズボンとパンツを脱いで陰茎を露出させ,Aの着衣をまくりあげるなどの行為は,被告人からの事実上の影響力の強さを考慮すると,「助長・促進行為」に当たり得る旨を主張している。
 この点,被告人とAとの間に「保護責任者的地位のような関係性」があったとみるのは適切ではないのは,既に説明したとおりであるが,担当児童福祉司である被告人からの働き掛けがあったとすれば,それはAに対して相当の事実上の影響力があったと認められる。
 しかし,被告人がAと性的接触を繰り返すようになったのは,面談の機会に,被告人に対して好意を持っていたAから繰り返し身体接触を求められ,当初はそれを断っていた被告人が,これに応じてしまったことが契機であると認められるのであって,被告人が,Aに対して,性的な身体接触等を求めて何らかの働き掛けを行い,その働き掛けが持つ事実上の影響力により,Aとしては,それに応じるか否かの意思決定を自律的に行うことができず,被告人からの働き掛けに応じることを余儀なくされてしまった,というような経緯ではない(このことは,Aが被告人との間の性的行為を身近に感じていた者たちだけに打ち明けた後も,できれば大事にしたくないという気持ちから,しばらくの間,母親を含めて他の者には隠していたことなどからも,うかがうことができる)。被告人とAとの関係や影響力の強さを踏まえても,検察官が指摘するような行為まで本罪に当たり得るとすると,児童淫行罪と条例違反のいん行罪とを峻別することができなくなってしまうおそれがあり,妥当ではない。
 そうすると,被告人がAの愛着の形成に問題があることを認識していたことや,被告人のAに対する事実上の影響力の強さ等を踏まえて検討しても,弁護人が主張するとおり,本件においては「淫行を『させる』行為」と評価し得る「助長・促進行為」が存在したとは認められない。
 なお,被告人は,同じ時期に担当していた他の被保護児童と比べて,Aとの面接回数が相当多いことは認められる。しかし,Aとそのきょうだいの一時保護されていた期間,一時保護後の措置の内容等に照らすと,Aやその家族の抱える問題点を把握して援助指針(援助方針)の原案を作ること,Aらに対して,その原案を説明し,その意向を聴取し,協議した上,成案を得ることは容易ではなかったことがうかがえる。Aと他の被保護児童との面接回数の差は,その処遇選択の困難さの違いを反映している可能性は十分に考えられる。更に,一時保護されているAは,他の被保護児童とは違って,比較的軽い感じで,児童相談所にいる被告人を呼び出すことがあったようである。
 したがって,被告人が担当していた児童らが一時保護された経緯や,一時保護期間中やその後の状況,面接の必要性等が証拠により明らかにされていない以上,被告人とAとの面接回数が多いからといって,被告人が,必要性もないのに,担当児童福祉司という立場を利用して,Aとの面接を多数回重ねていたとか,事実上の影響力を行使していたとみることも難しい。
 3 そうすると,淫行の内容,淫行に至る動機・経緯,被害児童の年齢,その他被害児童の置かれていた状況等を検討するまでもなく,児童福祉法上の「淫行を『させる』行為」があったとは認められないから,児童淫行罪は成立せず,条例違反のいん行罪が成立するにとどまると判断した。
 (量刑に当たり特に考慮した事情)
 児童相談所児童福祉司である被告人は,妻子もあるのに,事もあろうに,担当していた一時保護中の被害児童に対して,児童相談所内でいん行を繰り返した。被害児童の口に自己の陰茎を咥えさせるなどの態様もかなり悪く,被害児童の心身に及ぼす害悪の程度は相当高く,被害児童の心身の健全な発達に対する悪影響が懸念される。被害児童は,愛着の形成に問題を抱えており,児童福祉司であり,児童相談所の職員であった被告人は,それを十分に理解していたのであるから,他の誰よりも適切に対応すべきであったといえ,被告人が,被害児童に対する性的接触エスカレートさせていった期間の長さを踏まえても,本件各犯行は,同種の事案の中で,相当重い部類といえる。
 他方,被告人が本件に至った経緯からすると,殊更に犯情を重く捉えるべきではないとの弁護人の主張には理由があり,被告人に相手を選ばずこの種の行為を繰り返す傾向があるとも認められないから,被告人に対する非難は,一定程度減じられるべきである。また,被告人は,被害児童に対する慰謝の措置を講じる努力をし,被害弁償金の一部(50万円)を被害児童側に受け取ってもらっている。母親の監督も期待できる。被告人自身も反省を深めており,専門家の力も借りて再犯を防止しようとしている。
 そうすると,被告人の刑事責任を軽視することはできないが,前科・前歴もない被告人に対しては,今回に限り,社会内で自力更生を目指す機会を与えることも許されると考える。
 よって,主文のとおり判決する。
 (求刑・懲役4年)
 福岡地方裁判所第2刑事部
 (裁判官 溝國禎久)

平成28年 6月21日
最高裁第一小法廷
児童福祉法違反被告事件
 弁護人竹永光太郎の上告趣意のうち,憲法31条違反をいう点は,児童福祉法34条1項6号の構成要件が所論のように不明確であるということはできないから,前提を欠き,その余は,単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 所論に鑑み,職権で判断する。
 児童福祉法34条1項6号にいう「淫行」とは,同法の趣旨(同法1条1項)に照らし,児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為をいうと解するのが相当であり,児童を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者を相手とする性交又はこれに準ずる性交類似行為は,同号にいう「淫行」に含まれる。
 そして,同号にいう「させる行為」とは,直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をいうが(最高裁昭和39年(あ)第2816号同40年4月30日第二小法廷決定・裁判集刑事155号595頁参照),そのような行為に当たるか否かは,行為者と児童の関係,助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断するのが相当である。
 これを本件についてみると,原判決が是認する第1審判決が認定した事実によれば,同判示第1及び第2の各性交は,被害児童(当時16歳)を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者を相手とする性交であり,同児童が通う高等学校の常勤講師である被告人は,校内の場所を利用するなどして同児童との性的接触を開始し,ほどなく同児童と共にホテルに入室して性交に及んでいることが認められる。このような事実関係の下では,被告人は,単に同児童の淫行の相手方となったにとどまらず,同児童に対して事実上の影響力を及ぼして同児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をしたと認められる。したがって,被告人の行為は,同号にいう「児童に淫行をさせる行為」に当たり,同号違反の罪の成立を認めた原判断は,結論において正当である。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 小池裕 裁判官 櫻井龍子 裁判官 山浦善樹 裁判官 池上政幸 裁判官 大谷直人) 

東京都内で深夜青少年と同伴したことについて、青少年が謝罪した話

 東京都青少年の健全な育成に関する条例28条によれば、同伴する相手方についての年齢確認義務があって、16歳未満だと過失でも処罰されるし、16歳以上でも条例15条の4第2項違反(罰則がない)となります。
年齢確認の程度としては「年齢確認をした際、当該青少年が他人の身分証明書や年齢を詐称した定期券を提示した場合等で、誰が見ても見誤る可能性が十分あり、見誤ったことに過失がないと認められるような状況にあった場合は、あえて責任を負わせないとしたものである。」くらいまでが求められています。

東京都青少年の健全な育成に関する条例の解説 令和元年8月
(深夜外出の制限)
第15条の4
1保護者は、通勤又は通学その他正当な理由がある場合を除き、深夜(午後11時から翌日午前4時までの時間をいう。以下同じ。)に青少年を外出させないように努めなければならない。
2何人も、保護者の委託を受け、又は同意を得た場合その他正当な理由がある場合を除き、深夜に青少年を連れ出し、同伴し、又はとどめてはならない。
3何人も、深夜に外出している青少年に対しては、その保護及び善導に努めなければならない。
ただし、青少年が保護者から深夜外出の承諾を得ていることが明らかである場合は、この限りでない。
4深夜に営業を営む事業者及びその代理人、使用人、その他の従業者は、当該時間帯に、当該営業に係る施設内及び敷地内にいる青少年に対し、帰宅を促すように努めなければならない。

第26条次の各号の一に該当する者は、30万円以下の罰金に処する。
五第15条の4第2項の規定に違反して、深夜に16歳未満の青少年を連れ出し、同伴し、又はとどめた者

・・
【要旨】
本条は、第1項において保護者に対し、深夜に青少年を外出させない努力義務を課し、第2項においてすべての者に対し、保護者の委託又は同意を得た場合その他正当な理由がある場合を除いて、深夜に青少年を連れ出すこと等を禁止した規定である。さらに、第3項においてすべての者に対し、深夜に外出している青少年の保護及び善導を、第4項において深夜に営業を営む事業者等に、その施設内及び敷地内にいる青少年に対し、帰宅を促すことをそれぞ努力義務として定めている。
【解説】
本条でいう「保護者」とは、第4条の2第1項の「保護者」と同義である。
近年、生活時間帯が深夜に及ぶとともに、深夜に営業する施設も増加したことなどから、青少年が深夜に繁華街を俳個し、コンビニエンスストア内や駐車場の敷地内、店の前の路上でたむろするなどの行動が目立つようになり、また、事件や犯罪に巻き込まれる事例も増えている。これらを背景に、平成16年の条例改正により新設された。
第1項は、本来第一義的に保護者が自覚を持つべき事項であるが、子供が深夜に俳個していたり、無断外泊をしていても、無関心であったり、携帯電話で連絡が取れるから問題がないとしてすぐに迎えに来ない保護者もいるなど、保護者の責任感が希薄化していることから、通勤又は通学その他正当な理由がある場合を除き、深夜に青少年を外出させない努力義務を保護者に課したものである。
これにより、保護者の責任を明確にし、自覚を促すことを目的としている。ここでいう「正当な理由」とは、勉強又は就労(労働基準法で認められている範囲内に限る。)のように定例的なもの、本人又は保護者・親戚等の病気や事故、旅行先からの帰宅等の突発的又は一時的なものの両方が想定される。
第2項は、保護者の委託を受け、又は同意を得た場合その他正当な理由がある場合を除いて、深夜に青少年を連れ出し、同伴し、又はとどめることを禁止する規定である。保護者の同意等を受けず、また、その他正当な理由がないのに、青少年を深夜に連れ回すことは、まさに犯罪に巻き込まれる危険性があることから、設けられたものである。
保護者の委託又は同意の有無は、例えば、塾等に迎えに行くなど保護者の委託を受けて定例的に行っている場合、毎回必ず確認することまでは要さない。
また、ここでいう「正当な理由」とは、本人又は保護者の急な病気や事故等により、保護者に確認することが不可能な場合、事件や事故等に遭遇した青少年を助ける等、偶発的な理由により、結果として同伴することになった場合等を指す。
「連れ出し」とは、深夜に、青少年を東京都内の住居、居所等から離れさせることであり、その手段等は問わず、携帯電話やメール等での呼び出しであっても該当する。
「同伴」とは、現に同行し、又は同席する等、青少年と同一の行動を取っていることをいい、青少年が単独であると複数であるとは問わない。また、既に深夜に外出している青少年と同伴する場合も含む。
「とどめ」とは、深夜に連れ出している、あるいは深夜に既に外出している青少年が、帰宅の意思を表しているにもかかわらず、それを翻意させ、又は制止するこをいい、その手段は問わない。
本条において、本項のみが罰則の対象となるが、罰則を適用されるのは、16歳未満の青少年を連れ出し、同伴し、又はとどめた者に限る。これは、中学生以下と高校生以上とでは、生活実態が異なることを考盧したものである。
第3項は子供に対する大人の本来の責任を明確にするためのものである。
第1項及び第2項を受けて、すべての者が、深夜に青少年が外出することは望ましくないとの認識を持ち、そのような青少年と会った場合は、保護するとともに、今後は深夜に外出しないように促すことを求めた規定である。
「保護」とは、深夜外出している青少年が被害に遭わないための未然防止策であり、例えば、飲酒、喫煙、けんか等自身を損ない、又は周囲に迷惑をかける行為をしている場合に、警察や消防などへ通報することが挙げられる。
「善導」とは、深夜外出している青少年に帰宅を促すとともに、犯罪に巻き込まれないため等の注意喚起を促すことである。
なお、保護者から深夜外出の承諾を得ている場合には、やむを得ない場合と考えられることや、保護者が責任をもって行わせていることであるため、必ずしも保護及び善導に努める必要はない。

・・・
第28条
第9条第1項、第10条第1項、第1 1条、第13条第1項、第13条の2第1項、第15条第1項若しくは第2項、第15条の2第1項若しくは第2項、第15条の3,第15条の4第2項又は第16条第1項の規定に違反した者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として、第24条の4,第25条又は第26条第1号、第2号若しくは第4号から第6号までの規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。
【解説】
本条は、第9条第1項の指定図書類の販売等の制限、第10条第1項の指定映画の観覧の制限、第11条の指定演劇等の観覧の制限、第13条第1項の指定がん具類の販売等の制限、第13条の2第1項の指定刃物の販売等の制限、第15条第1項又は第2項の質受け又は古物買受けの制限、第15条の2第1項又は第2項の着用済み下着等の買受け等の禁止、第15条の3の青少年への勧誘行為の禁止、第15条の4第2項の深夜の青少年の連れ出し等の禁止、第16条第1項の深夜における興行場等への立入りの制限等の規定に違反した場合に、違反者は、その相手方の年齢が18歳に満たない者であることを知らなかったとしても、それを理由として処罰を免れることができないことを規定したものである。
本条でいう「過失」とは、注意すれば相手が青少年であるという事実を認識することができたのに不注意で認識しなかったことをいい、「この限りでない。」とは、過失がないと認められる場合は、消極的に本条の罰則適用を打ち消すとの意味である。
すなわち、年齢確認をした際、当該青少年が他人の身分証明書や年齢を詐称した定期券を提示した場合等で、誰が見ても見誤る可能性が十分あり、見誤ったことに過失がないと認められるような状況にあった場合は、あえて責任を負わせないとしたものである。

https://www.nikkansports.com/entertainment/news/202010120000641.html
山下智久と同席の未成年女性が謝罪 虚偽認める書面
[2020年10月13日4時0分]
未成年の女性らと深夜4時過ぎまで同席したと報じられ、山下智久(35)が一定期間の活動自粛処分となっていた件で、同席した未成年の女性が、山下に書面で謝罪していたことが12日、分かった。
複数の関係者によると、先月までに、女性の親族名義で、弁護士を通じて山下に書面が送られていたという。事前に山下から年齢を確認されても20歳以上だと偽っていたことや、結果的に山下が活動自粛に至ったことへの謝罪などがつづられていたという。女性は深く反省している様子といい、山下も謝罪の意思を受けとったという。

山下は今年8月7日、「文春オンライン」で、7月末に酒席で未成年の女性らと深夜4時過ぎまで同席したと報じられた。山下は酒席の後、女性と同じホテルに滞在したとされた。酒席に同席していたKAT-TUN亀梨和也(34)も、厳重注意処分となった。

被告人方における児童ポルノ画像複製行為を、姿態をとらせて製造罪として有罪とした事例(A地裁H28.9.27)

 「姿態をとらせて」は構成要件ですので、それを欠く罪となるべき事実は、理由不備になります。
 A地裁H支部h27.2.6でも、当初起訴がそんな記載で、裁判所が気付いて訴因変更させられて有罪になっています。その経緯は控訴審(s高裁a支部H270630)で問題になり、「姿態をとらせて身分犯説」「複製行為が姿態とらせて製造罪だ」などと変な理屈で正当化されています。
 地検のなかで、同種事案の記録を貸し借りして、処理しているので、ケアレスミスが伝染するようです。法文見ないで起訴状起案するからですよ。
 静岡地裁浜松支部h17.7.15が「姿態をとらせ」を欠いた姿態をとらせて製造罪の有罪判決を書いたことがあって、東京高裁h17.12.26が理由不備で破棄しています。

A地裁H28.9.27
第1 ホテルにおけるd子との淫行(青少年条例違反罪)
第2 d子(11)が児童であることを知りながら 某日、被告人方において、デジカメでで撮影保存していた同児童を相手方とする性交に係る姿態、同児童に口淫させる姿態 被告人が児童の陰部を触る姿態の静止画像データ10点を、パーソナルコンビュータに接続された電磁的記録媒体である外付けHDDに記録して保存して、もって、1号 2号 3号に該当する姿態を、視覚により認識することができる方法により、電磁的記録にかかる記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。
法令適用
第2の所為 包括して児童ポルノ法7条4項(2項)

A地裁H支部h27.2.6
平成26年11月25日起訴
A地検H支部検察官事務取扱検事 y
公訴事実
被告人は,c子(当時11歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら某日,被告人方において,撮影機能付携帯電話機で撮影,保存していた同児童を相手方とする性交に係る姿態,同児童に被告人の陰茎を口淫させる姿態及び同児童にその陰部等を露出させた姿態の動画データ16点を,パーソナルコンビュータに接続された電磁的記録媒体である外付けハードディスクに記録して保存し,もって児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造したものである。
罪名及び罰条
児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反
平成26年法律第79号による改正前の同法律7条3項,2条3項1号,3号

s高裁a支部H270630
第2 訴訟手続の法令違反の主張(控訴理由第2ないし第6)について
 1 論旨は,平成26年11月25日付け起訴状記載の公訴事実(以下「当初訴因」という。)には3項製造罪の構成要件である「姿態をとらせ」た事実の記載がなく,訴因が特定されていないから,これによる公訴提起は刑事訴訟法256条3項に違反し,また,当初訴因として記載された事実が真実であっても,何らの罪となるべき事実を包含していないから,公訴を棄却すべきであるのに,これをしなかった原判決には訴訟手続の法令違反がある,というのである。
 そこで検討すると,3項製造罪においては児童ポルノ法2条3項各号のいずれかに掲げる姿態を児童にとらせ,これを電磁的記録に係る記録媒体に記録する行為のみならず,このような行為をした者が,当該電磁的記録を別の記録媒体に記憶させて児童ポルノを複製する行為も同罪に当たると解される(最高裁平成18年2月20日第三小法廷決定・刑集60巻2号216頁参照)。後者の行為類型の場合,3項製造罪は身分犯的な犯罪と解されるから,実行行為(製造行為)は,自ら記録媒体に記録した電磁的記録を別の記録媒体に複製して児童ポルノを作成する行為,すなわち,複製行為であり,先行する「姿態をとらせる行為」は,製造行為とは別の行為であって,3項製造罪の実行行為には該当しない。しかし,「姿態をとらせる行為」は後者の行為類型の主体であることを基礎付けるものであることからすれば,これをできる限り特定して記載する必要があるというべきである。これを前提に弁護人の主張を検討すると,記録によれば,確かに当初訴因には「姿態をとらせ」た事実は明記されていないが,被告人が被害児童を相手方とする性交に係る姿態等を撮影,保存していた旨の記載があり,その罰条に児童ポルノ法7条3項,2条3項1号,3号と記載されていることからすれば,当初訴因が特定を欠くものとはいえない。また,当初訴因は,その記載内容に照らすと,3項製造罪における後者の行為類型である複製行為を起訴したものと解されるから,それが3項製造罪を構成する犯罪事実を包含していない(刑事訴訟法339条1項2号)ものともいえない。論旨は理由がない。
2 論旨は,当初訴因は,3項製造罪について,平成26年4月30日から同年5月11日までの6回の撮影行為は被告人の犯意に照らすと3罪であり,これらは併合罪と評価され,同月24日の製造行為(複製行為)とは併合罪の関係に立つのに,これらを1個の訴因として記載しており,しかも平成27年2月4日付け訴因変更請求書に基づき変更が許可された訴因(以下「変更後訴因」という。)においても,撮影行為については「秋田県内」で「6回」とされるのみで,それぞれの撮影行為の日時,場所が特定されておらず,訴因が特定されているとはいえないから,本件公訴提起は刑事訴訟法256条3項に違反し,公訴を棄却するべきであるのに,これをしなかった原判決には訴訟手続の法令違反がある,というのである。
 しかしながら,本件3項製造罪は,同一の被害児童に対して平成26年4月30日から同年5月11日までの12日間,前後6回にわたり被告人を相手方とする性交その他の姿態をとらせ,これらを撮影,保存していた動画データ6点を,同月24日に本件ハードディスクに複製して児童ポルノを製造したというものであるところ,前述のとおり,当初訴因及び変更後訴因とも,上記のように撮影,保存していた動画データ6点を本件ハードディスクに複製した行為のみを3項製造罪の実行行為として起訴したものであり,それは一罪となると解される(原判決は,これを包括一罪と評価しているが,実行行為である複製行為は,被告人が複製の対象である動画データ6点を短時間に連続して複製しており,社会通念上一個の行為とみられるから,原判決の評価は相当ではない。)。そして,変更後訴因において,その複製行為は日時,場所,方法をもって特定されており,行為類型の主体であることを基礎付ける事実である動画データ6点の撮影,保存行為についても,当初訴因よりも,期間,場所,回数,姿態の内容等がより具体的なものになっているから,全体として訴因の明示に欠けるところはない。よって,本件3項製造罪の起訴は刑事訴訟法256条3項に違反するものとはいえない。論旨は理由がない。
3 論旨は,変更後訴因について,製造された6点の動画データにつき,それぞれの動画データが児童ポルノ法2条3項1号又は3号のいずれに該当するのかを明示しておらず,刑事訴訟法256条3項に違反するから,公訴を棄却するべきであるのに,これをしなかった原判決には訴訟手続の法令違反がある,というのである。
 しかしながら,変更後訴因において,3項製造罪の実行行為である複製行為の対象である6点の動画データそれぞれについて,児童ポルノ法2条3項各号所定のどの姿態に該当するのかを明示してはいないが,それらがどのような姿態に関する動画データであるのかを概括的に特定しており,その適用すべき罰条として児童ポルノ法7条3項のほか,2条3項1号,3号を掲げていることからすれば,訴因が特定されていないとはいえない。そうすると,本件3項製造罪の起訴が刑事訴訟法256条3項に違反するものとはいえない。論旨は理由がない。
4 論旨は,変更後訴因には日時が幅のある記載がなされ,児童ポルノの内容が主張されていないのに,その点について訴因変更手続を経ないまま,原判決は,その別表において6回の撮影行為についてそれぞれの日時と児童ポルノの内容を判示しており,公訴事実に記載のない犯行日時及び内容を認定した原判決は審判の請求を受けない事件について判決をしたものであって,原判決には訴訟手続の法令違反がある,というのである。
 しかしながら,前述のとおり,原判決が認定した6回の撮影行為は,被告人が製造行為(複製行為)の主体であることを基礎づける事実ではあるものの,3項製造罪の実行行為とはいえない上,原判決は,検察官が変更後訴因において包括的に記載した6回の撮影行為それぞれについて,関係証拠から各撮影行為の日時及び内容を特定して認定したものであるから,検察官が変更後訴因に記載していない別の犯罪事実を認定したものではなく,審判の請求を受けない事件について判決をした(刑事訴訟法378条3号参照)ものとはいえない。論旨は理由がない。
5 論旨は,複製行為単独では罪とならないから,これを本件3項製造罪の実行行為と評価できず,撮影行為ごとに犯罪が成立し,複数の3項製造罪の罪数は原則として併合罪であると解するべきであり,本件3項製造罪に係る当初訴因と変更後訴因は公訴事実の同一性を欠くから,訴因変更を許可した原判決には訴訟手続の法令違反がある,というのである。
 しかしながら,前述のとおり,本件3項製造罪の実行行為は複製行為であるというべきであり,当初訴因と変更後訴因との間で基本的事実関係は同一である上,上記2のとおり本件3項製造罪は一罪であると解され,罪数評価においても両訴因に異なるところはないから,当初訴因と変更後訴因とが公訴事実の同一性を欠くものとは認められない。したがって,その訴因変更を許可した原審の措置に訴訟手続の法令違反はない。論旨は理由がない。