児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

売春代金を払うつもりがないのに、払うと偽って買春行為をした場合の詐欺利得罪の成否

 雑誌から原稿依頼があって、調べて結論を出したら、それなら原稿書かなくていいですということで調べた結果を置いときます。

 否定説(札幌高裁)と肯定説(名古屋高裁)があるんですがどちらも昭和30年以前の事件で、売春防止法施行前です。
 売春防止法違反施行後の行為については、強盗罪の広島地裁s43が否定説です。
 売春代金の詐欺罪は最近も見かけません。

条解刑法 
公序良俗に違反する契約のため民法上対価請求権の認められない場合において,欺く行為によりその請求を免れる行為に関し,裁判例は,売春させた後女子を欺いてその対価の支払を免れた事例につき,詐欺利得罪を認めるもの(名古屋高判昭30・12・13判時69-26)と否定するもの(札幌高判昭27・11・20高集511 2018)とがある(大コンメ2版(13)18参照)。
・・・
判例コンメンタール刑法第3 巻p295
③ 売淫行為をする意思なく、かつ前借金を返済する意思がないのにかかわらずこれあるごとく装い、相手方を欺問して前借金の交付を受ければ、前借契約の民事的効力の如何を拘わず詐欺罪が成立する(最決昭3. 9 ・1 )
もっとも、2 項詐欺については、判例・学説ともに見解が分かれる。
売淫料である遊興代金であっても、欺罔手段によりその支払を免れる行為は、詐欺罪を構成するとする判例(名古屋高昭30 ・12 ・13 ) とこれを否定する判例(札幌高判昭27 ・11 ・20 ) 、なお、2 項強盗について、売春代金は非財産的利益であるとしてその成立を否定した広島地判昭43 . 12 . 24 ) がある。
学説も、売淫の財産的利益自体は認められないとして売淫料を免れる詐欺を否定する説(大塚・各論352 、高橋・大コンメ刑法Ⅱ13・16 、西田 各論186 ほか)と肯定説(同藤各論618 、内田・各論306 、前田 ・各論238 、大谷・各論280 ほか)に分かれるほか、そもそも民事上保護されない利益については2 項詐欺の客体から除外すべきであるとする有力説がある(山口・各論244) 。
売淫料のように公序良俗に反するものは、法的保護に依せず、本罪にいう財産上の利益とは認めがたいといえよう。もっとも、売淫料を免れるために暴行を加えて致傷の結果を生じさせた場合に、これを単なる傷害(致死)として擬律することには若干の躊躇があるが、少なくとも、人の生命・身体に危険が及ぶものではない本罪については、その成立を否定するのが妥当であろう。(担当渡辺咲子)

       詐欺被告事件
札幌高等裁判所昭和27年11月20日
【掲載誌】  高等裁判所刑事判例集5巻11号2018頁
       高等裁判所刑事裁判速報集15号17頁

       主   文

 原判決を破棄する。
 被告人を懲役拾月に処する。
 但本裁判確定の日から参年間右刑の執行を猶予する。
 原審及び当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

       理   由

 弁護人中田克已知の控訴趣意は同人提出の控訴趣意書記載の通りであるから、ここにこれを引用する。
 弁護人の控訴趣意第一点について、
 原判決判示罪となるべき事実中第二の(一)中「恰も飲食遊興費等支払うものの如く装いて清酒、銚子で十六本、ビール四本、料理三皿、通し物一皿、フルーツ一皿合計三千二百三十円相当を出させて飲食し、hを同衾して宿泊しその宿泊及び遊興費千円総計四千二百三十円の債務を負担したる後云々」と判示していることは所論の通りであつて、原判決挙示の証拠中hの検察官に対する第一回供述調書中「淫売料は一晩で千円でその中から営業主の方に三百円位を蒲団代としてやつて居ります私が本年六月十九日の晩にkと云う人の要求により同人に淫売した、同人が金をくれると思うたからで、金をくれないのであれば売るのではなかつたのです」との供述記載によると、原判決が「hを同衾して宿泊しその宿泊及び遊興費千円」というのは、売淫料の千円であることが認められるのであつて、総計金四千二百三十円中にはこの千円が入つていることが認められる。元来売淫行為は善良の風俗に反する行為であつて、その契約は無効のものであるからこれにより売淫料債務を負担することはないのである。従つて売淫者を欺罔してその支払を免れても財産上不法の利益を得たとはいい得ないのである。よつて右千円については詐欺罪は構成しない。然るに原判決は、これをもつて、債務を負担したる後その支払を免れ、財産上不法の利益を得たものとして処断したのであるから、原判決には事実の誤認があり、この誤認は判決に影響を及ぼすものであるから破棄を免れない。弁護人は原判決は理由にくいちがいがあるというのであるが、その内容は事実の誤認を主張するのであるから此点において、論旨は理由がある。
(裁判長判事 藤田和夫 判事 成智寿朗 判事 臼居直道)

名古屋高等裁判所判決昭和30年12月13日
高等裁判所刑事裁判速報集147号
高等裁判所刑事裁判特報2巻24号1276頁
判例時報69号26頁

原判決は本件公訴事実中被告人がhを欺罔し二回に亘り同人の抱芸妓wと遊興した代金合計二千五百円の支払を免れ財産上不法の利益を得光点に関し被告人が支払を免れた遊興代金は売淫料である旨認定し、売淫契約は公序良俗に反する無効のものであつて財産上不法の利益を得たとはいゝ得ないから詐欺罪を構成しない旨判示し、右詐欺の点を無罪とした。然しながら原審認定の契約が売淫を含み公序良俗に反し民法第九十条により無効のものであるとしても民事上契約が無効であるか否かということと刑事上の責任の有無とはその本質を異にするものであり何等関係を有するものでなく、詐欺罪の如く他人の財産権の侵害を本質とする犯罪が処罰されるのは単に被害者の財産権の保のみにあるのではなく、欺る違法な手段による行為は社会秩序を乱す危険があるからである。そして社会秩序を乱す点においては売淫契約の際行われた欺罔手段でも通常の取引における場合と何等異るところがない。今本件につき検討するに、原判決は本件公訴事実中被告人が右h方を訪れ同家の抱芸妓wを相手に二回に亘り無銭遊興をした事実を肯認しながら、右は二回共判示メトロホテルで近子と同衾宿泊した(二回共メトロホテルで同衾した旨の原判決は事実誤認で初めの一回は右h方である)近子の花代即ち売淫料である旨認定しているけれども、前説明の如く売淫料も刑法第二百四十六条第二項℃詐欺罪の対象となり得るから詐欺罪を構成しない旨判示した
原判決は法律の適用に誤があり、その誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、右無銭遊興が全部売淫料であるか否かを判断する迄もなくこの点において原判決は失当であつて破棄を免れない。
よつて刑事訴訟法第三百九十七条第一項、第三百八十条に則り原判決を破棄し、当裁判所は同法第四百条但書に則り更に次の通り自判する。
罪となるべき事実は原判示第一を
被告人は
第一、
(イ)昭和三十年七月五日午前零時頃名古屋市芸妓置屋「」ことh方において同女に対し、真実遊興代金支払の意思がないのにある様に装い遊興方申入れ同女をしてその旨誤信させ、同時刻から同日午前十時頃迄の間同置屋抱芸妓wと遊興させ、その間の遊興代金の支払を免れ、以て財産上不法の利益を得
(ロ)約束手形を偽造し之を行使して遊興代金の支払を免れんことを企て昭和三十年七月五日午後八時頃同区メトロホテルことi客室において行使の目的を以て約束手形用紙に擅にs名義を冒書し、その名下に同日印刷風より買求めたsなる認印を押捺して佐藤てい振出の額面三万五千円、支上期日同年六月二十五日、支払場所東海銀行今池支店、支払地振出地共名古屋市、宛名人h商店という約束手形一通を偽造し、同日午後九時頃遊興代金支払の意思がないのにある様に装つて同所から電話を以て右h方に遊興方申入れ同女をしてその旨誤信させ、同時刻から翌六日午前十啼頃迄の間右wと、遊興させ、同日午前十時頃同区若宮町四丁目二十番地k方において右hに対し右偽造の約束手形を真正に成立したものの様に装つて提示し「この約手で金を作って来て支払う」旨申向けて之を行使して同女を欺岡し、その間の遊興代金千五百円の支払を免れ以て財産上不法の利益を得
たものである。旨訂正した外第二事実げ乃至(二)並びに前科の事実は原判決の記載と同じであるから之を引用する。
 (裁判長判事 高城運七 判事 柳沢節夫 判事 中浜辰男)

       強盗強姦被告事件
広島地方裁判所判決昭和43年12月24日
【掲載誌】  判例タイムズ229号264頁
       判例時報548号105頁
判例時報552号16頁
       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人は昭和四一年五月に妻と結婚し、翌四二年五月に長女を出産したが、その前後ころ妻の体調がすぐれなかつたために性的不満をもつようになつたが、一方生活費も充分でなかつたため売春婦に対し暴行、脅迫を加えて無理に関係することにより不満を解消しようと考え、同年七月ごろ広島市内において右企図を実行したところ、被害を受けた売春婦らがいずれも売春行為の発覚をおそれて警察に届出ず、その企図が成功したため、翌四三年五月ごろの長男出産の前後にも同種犯行を思たち、
第一、(一)昭和四三年三月上旬の午後一〇時ごろ売春婦h(当時四三才)に対し「お姉さん遊ばんか」と声をかけて同女を広島市比治山町三番二三号とびきり旅館ことn子方二階一号室に誘い込み、同所において右hが売春料金を前金で請求したところ、矢庭に同女をベッドの上に引きづり上げ「金は持つていない。警察に言つてやろうか。」「殺してやる。」などと語気鋭く申し向け、ベッドに押し倒してその反抗を抑圧して強いて同女を姦淫し
(二)その直後ころ同所において前記暴行により同女が極度に畏怖しているのに乗じ金員を強取しようと決意し、反抗を抑圧されている同女からハンドバツグを取りあげてなかの財布から同女所有の現金二、〇〇〇円を抜き出してこれを強取し
第二、判示第一の犯行の成功により、再び売春婦に脅迫暴行を加えて強いて姦淫し、かつ金品を所持していれば同時にそれも強取しようと企て
(一)同年三月二九日午後一〇時すぎごろ売春婦n(当時三八才)を同市的場町二丁目三番二一号白鳥ホテルことg方二階つばめの間に誘い込み、同所において右nが売春料金を請求するや、矢庭に同女の顔面を数回殴打し、胸倉をつかんで「わしをだれじや思うとるんなら、ここまで来て帰ろうと思うか。」などと申し向けてベッドに押し倒し、強いて同女を姦淫し、さらに同女のハンドバッグを取り上げたうえ、なかの財布に入つていた同女所有の現金約八三〇円位と女物腕時計一個(時価約五、〇○○円相当)及び同女が指にはめていた指輪一個(時価約三、〇〇○円相当)を強取し
(二)同年五月九日午後一〇時すぎごろ売春婦s(当時三一才)を同市富士見町一〇番一号富士ホテルことm方に誘い込み、右kが売春料金を請求するや「わしを誰じや思うとるんなら」と申し向けて、矢庭に同女の顔面を二回位殴打する暴行を加え、同女の腕をつかんでベッドに押し倒し、さらにのど元を押えつけてその反抗を抑圧し、強いて同女を姦淫し、さらに同女のハンドバッグを取り上げ、そのなかの財布から同女所有の現金約二、三〇〇円位を強取し
(三)同年七月八日午後一一時ごろ売春婦n(当時二五才)を前記富士ホテルことm方に誘いこんだところ、右nが被告人の挙動から所持金のないことに気付いて帰ろうとするや、矢庭に「おどりやわしをだれじや思うとるんならと言つて右nの胸倉をつかみ顔面を数回殴打し、さらに、その場にあつた同女のハンドバッグ(昭和四三年押第一〇七号の一)の止め金部分で同女の頭部を数回強打し、首を締めつけてベッドに押し倒し同女に対し加療約一〇日間を要する頭部打撲傷、頸部捻挫の傷害を負わせて同女を失神させたうえ、強いて姦淫し、さらに右ハンドバッグから同女所有の現金一、三〇〇〇円及び同女所有の男物腕時計一個(時価約五、〇〇〇円相当)を強取したものである。
(証拠の標目)〈省略〉
(法令の適用)
 被告人の判示第一の(一)の所為は刑法一七七条前段に、同(二)の所為は同法二三六条一項に、判示第一の(一)乃至(三)の各所為はいずれも同法二四一条前段、二三六条一項に各該当するところ、判示第(二)の(一)乃至の各罪についてはいずれも所定刑中有期懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第二の(三)の強盗強姦罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役八年に処し、なお同法二一条を適用して未決勾留日数中一二〇日を右刑に算入することとし、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項但書により被告人に負担させないこととする。
(一部無罪の理由)
 本件公訴事実中いわゆる売春婦に暴行脅迫を加えてその反抗を抑圧して姦淫し売春料金相当の財産上不法の利益を得たとの点の要旨は
 被告人は判示第一の(一)及び第二の(一)乃至(三)の各事実につきいずれも「売春婦に脅迫暴行を加え、売春料金を支払わないで売春行為をなさしめるとともに金品を強取しようと企て」判示の各脅迫暴行を加えてその各反抗を抑圧して強いて姦淫した結果判示第一の(一)の事実につき売春料金五、〇〇〇円相当の、判示第二の(一)の事実につき売春料金金五、〇〇〇円相当の判示第二の(二)の事実につき売春料金三、〇〇〇円相当の、判示第二の(三)の事実につき売春料金二、〇〇〇円位相当のそれぞれ「財産上不法の利益」を得たと言うのである。(なお検察官は右事実をもつて強盗強姦罪として起訴しているものと認められる。)
 当裁判所が右の各事実売春料金相当の不法利益を得たとの点につき無罪とした理由は次のとおりである。
第一、構成要件該当性について
(一)刑法二三六条二項の強盗罪の構成要件に該当するためには「財産上不法の利益」を得ることを要するのであるが、まず売春婦との情交それ自体は財産上の利益と言い得ないことは明らかである。すなわち情交そのものは性欲の満足という本来非財産的利益であるから情交それ自体は賄賂の目的にはなつても(最高裁判第二小法廷昭和三六年一月一三日判決)財産犯の対象にはなり得ないものであつて、通常の婦女子に対する強姦罪が何等強盗罪の疑をかけられないこともこの理によるものであつて右の点で情交それ自体を労働等と同視して経済的利益と解することは妥当でないと言わなければならない。
(二)次に売春料金の支払を免れた点が財産上不法の利益を得たことになるか否かについて検討する。
 そもそも売春行為は「人としての尊厳を害し、性道徳に反し社会の善良の風俗をみだす」(売春防止法一条)ものであつて「何人も売春をし、又はその相手方となつてはならない」(同法三条)のであり、又その故にこそ売春防止法は売春に関し種々の刑事罰を科しその違法反社会性を強調しているのであり、もとよりその対価(同法で言う対価)の授受約束は公序良俗に反し無効であつて、売春行為自体は処罰対象にはなつていないものの、それは別の刑事政策に因るものであつて、これを放置放任する趣旨ではなく厳禁していることは前記のとおりであり、その売春防止法の趣旨よりすれば、その対価約束の違法性は強度のものであつて、単なる統制法規違反と比肩すべきではなく、むしろ犯罪行為の依頼を受けたものが依頼者にその報酬を請求する場合に似た明白に公序良俗に反する性質を有するものと考えられる。
 たしかに一般的には民事上保護を受け得ない対価の支払免脱でも刑事上処罰対象となり得ることは否めないにしても、単なる統制法規違反や違法性の軽微な場合はともかく、本件の如く対価の支払請求がまつたく公序良俗に反する場合には民事上のみならず、刑事上も対価請求は何等法的意味をもたないもの(刑法上の保護を受け得ないもの)として評価すべく、従つてこの支払を暴行脅迫をもつて免れても、事実上財産的利益を得た如くの外観を呈するが法的に観察すれば、何等「財産上の利益を得」たと言う構成要件に該当しないと言うべきである。(なお、すでに金銭その他の財産的給付を受けとり、その給付の原因が公序良俗に反する場合には別論が可能であろうか。)刑法財産犯の規定は単なる特定個人の具体的財産の保護よりも違法手段による利得行為が財産権一般に関する社会秩序を紊す危険を防止することにあることを強調するのであれば或は本件の場合に強盗罪を認めることができるかもしれないが、右の議論は利得行為の有無(構成要件該当性)についての法的評価を欠いた一般論であつて、当裁判所としては前記の如く被告人は違法手段を用いて社会秩序を紊しているのであつても(違法手段の点は暴行罪脅迫罪、強姦罪等に問えば足りる。)何等強盗罪に言う利得をしておらず従つて強盗罪の構成要件に該当せずと判断し、むしろ本件のような場合に強盗罪を成立させれば、犯罪行為の報酬に似た売春料金の支払を間接的に強制することとなり、民事上絶対に保護されない請求権を民事秩序を維持すべき刑法財産犯の規定が支持する結果となり、又通常の婦女子を強姦した場合より極端に重い刑(売春婦を強姦すれば常に強盗強姦罪になるとすれば強盗強姦罪の最低刑は懲役七年、仮に強盗罪と強姦罪の観念的競合と解しても最低刑は懲役五年で、通常の強姦であれば最低刑は懲役二年)を科することとなり、法秩序全体の均衡を著るしく破ることにもなり妥当でないと解するものである。
第二、責任について
 今、仮に構成要件該当性についての議論は暫くこれを措くとしてもなお被告人の犯意の点から見ても結局同一の結論に達せざるを得ないのである。公訴事実によれば被告人の犯意は「売春婦に脅迫暴行を加え売春料金を支払わないで売春行為をなさしめ」ることにあつたとされているが、当裁判所としては脅迫暴行を加えて反抗を抑圧しようということと、姦淫行為はともかく売春行為をなさしめることは二律背反ではないかという疑問を抱かざるを得ない。
 なるほど被告人は「反抗抑圧して強姦する意思」のほかに「只でやる意思」が存したように捜査官に対し自白しているが、脅迫暴行を加えて反抗を抑圧すれば通常の婦女子に対すると同様の強姦行為ではあつても、いわゆる売春行為はあり得ないのであつて強姦の犯意の存する限り対価支払云々の意思は強姦の犯意のなかに包摂霧消し去つているものと解せられるのではないかということである。すなわち犯人が売春料金につき詐欺又は恐喝の犯意を有している場合には、売春婦には完全ではないにしてもともかくその自由意思による売春行為の存する余地があり、その対価請求をすることが考えられるし、犯人としてもその犯意のうちに対価請求を当然予想するのであるが、本件の如く被害者に全く自由の失なわれている強姦の場合には売春婦といえどもまつたく通常の婦女子と同様に、完全なる被害者であつて、そこには既に対価請求なる概念の生ずる余地はないと考えられる。
 相手が売春婦であり、外観的に売春料金の支払免脱という事実が随伴するために「只で」という意思が事実あるかの如くみえるが、「脅迫暴行を加えても姦淫しよう」という意思がある場合には、相手が売春婦であることの特殊性は相手の物色、犯行の着手が比較的容易であり、かつ犯行が漏れにくいという点に存したのみで、こと姦淫行為に関しては相手が売春婦であるか否かはまつたく関係がないわけであるから、その点では通常の婦女子を強姦する犯意と同様であり、その対価支払を免れようという意思が存したと認めるには無理があり、従つて被告人は強姦の犯意のみを有しているのではないかとの疑問があり、前記自白は矛盾があり被告人には強盗の犯意は認められないと判断したわけである。
第三、以上いずれにしても売春料金の支払を暴行脅迫によつて免れて財産上不法の利益を得たとの点については犯罪の証明がないが、判示金品の強取の点と包括して強盗強姦罪として起訴されたと認められるから主文において特に無罪の言渡をしない。
 よつて主文のとおり判決する。(牛尾守三 青山高一 安原浩)

「児童の売買,児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書の実施に関するガイドライン」案に対するコメント(仮訳)から、日本政府の見解を垣間見る

 非実在とか自画撮りについて、委員会とは違う点があるようです。
 ガイドラインの仮訳がないのかを聞いています。



【参考2】児童の売買等に関する児童の権利条約選択議定書の実施に関するガイドライン案(英文)(PDF)     (2019年2月 「児童の売買,児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書の実施に関するガイドライン」案に対するコメント(仮訳)
DRAFT Guidelines on the implementation of the Optional Protocol to the Convention on the Rights of the Child on the sale of children, child prostitution and child pornography  
  個別のパラグラフに対する意見
The Committee underscores the pressing need to fight impunity for the offences covered by the OPSC.
The legislative measures for the implementation of the OPSC should cover, explicitly, all acts mentioned in article 3, including attempts to commit these acts.
Attention should be given to the prohibition of the sale of children for the purpose not only of sexual exploitation, but also for the purpose of transfer of organs, engagement in forced labour, and situations where adoption constitutes sale of children.
Furthermore, legislative measures should include the liability of both natural and legal persons, and should establish extraterritorial jurisdiction over all offences covered by the OPSC (article 4), as well as provide precise conditions and rules for extradition (article 5) and for the seizure and confiscation of goods (article 7).
(パラ16)第2文及び第4文について,本パラグラフの未遂罪及び法人責任に関する記載について,それぞれ選択議定書第3条2及び4に従って,「subject to the provisions of a State party’s national law」を追記することを提案する。
    18. The Committee urges States parties to ensure that national legislation does not, in any way, criminalise child victims of sale, sexual exploitation and sexual abuse, including children who have been sold and/or trafficked across borders. (パラ18)被害児童を被害に係る行為と関係のない罪で検挙する場合もあり得ることから,第1文から「in any way」を削除することを提案する。
    21. The Committee urges States parties to develop and implement a comprehensive and systematic mechanism for data collection, analysis, monitoring and impact assessment, as well as for its dissemination, which includes all issues covered by the OPSC.
Importantly, data collection should be coordinated between all relevant stakeholders, including a national statistical bureau, and data should be centralised to avoid incoherent or contradictory data between different State agencies.
 The Committee recommends, in particular, that States parties:
        (a) Implement a disaggregated approach to data, addressing how these offences affect different groups of children. As a minimum, data should be disaggregated by sex, age, and form of exploitation. Where possible, the Committee encourages States parties to disaggregate data also by national and ethnic origin, geographic location, socioeconomic status, and disability;
        (b) Collect data on how children access and use digital and social media and their impact on children’s lives and safety, and on factors that affect children’s resilience as they access and use ICTs;
        (c) Collect data on the number of cases reported (including to to the police and any other existing reporting mechansims), prosecutions, convictions and sanctions, as well as redress provided to victims, disaggregated by the nature of the offence, including with regard to online and offline activity, category of perpetrator, and abovementioned characteristics of victims;
        (d) Develop common indicators and a standardised data collection system in case data are collected at regional or local levels (e.g. municipalities) in the country;
        (e) All data should be collected with due respect for children’s right to privacy.
(パラ21)児童が被害者となった刑事事件の過程で得られた情報は,児童のプライバシーに関し秘匿性の高い情報を含むところ,第3文に「to the extent appropriate and possible」を追記することを提案する。
    41. Public education programmes to increase awareness, knowledge and reporting of cases of sale, sexual exploitation and sexual abuse of children should include an online-specific dimension, and specialised training for police, lawyers, prosecution and judiciary professionals must include specific parts on online issues, but also on online tools to facilitate victim identification techniques and rescue operations. (パラ41)警察,弁護士,検察官又は司法担当者に対する研修は,各職種において, 研修内容が異なることから,「in an appropriate and possible manner」を文末に追記することを提案する。
    43. Considering that child sexual abuse material, such as images and videos, can circulate indefinitely online, the Committee alerts States parties to the fact that the continuous circulation of such material, in addition to perpetuating the harm done to child victims, contributes to the promotion of a subculture in which children are perceived as sexual objects, and risks strengthening the belief among persons with a sexual interest in children that it is “normal” since many others share the same interest. The Committee therefore urges States parties to ensure that internet service providers control, block and, ultimately, remove such content as soon as possible as part of their prevention policies. (パラ43)インターネット上の児童ポルノは児童の権利を著しく侵害するものであることからブロッキングを行うこととしているが,その実施に際しては,インターネット利用に関する通信の秘密や表現の自由につき十分に配慮することが必要である。したがって,パラグラフ43の最終文に次のように追記することを提案する。

 The Committee therefore urges States parties to ensure that internet service providers control, block and, ultimately, remove such content as soon as possible as part of their prevention policies, with due consideration for secrecy of communications and freedom of expression.
    46. The Committee reminds States parties that, in accordance with article 3.2 OPSC, the obligation to criminalise the acts below shall apply also to attempts to commit any such acts, as well as to complicity or participation in any such acts. (パラ46)選択議定書第3条2に従って,「subject to the provisions of a State party’s national law」を文末に追記することを提案する。
    47. Sale of children is defined by the OPSC as the transfer of a child by any person (e.g. a parent) or a group of persons (e.g. a family) to another person in exchange for remuneration or any other consideration. It may entail the movement of a child to another place but not necessarily so. The “remuneration or any other consideration” is the core element of the sale of a child, and the payment of money (remuneration) is usually part of the exchange. While it is not specified who should receive the remuneration, it will most likely be the person or group who transfers the child to another person. It is also possible that money is used to pay a debt of the parents. However, there may be other reasons (consideration) for the sale of a child, e.g. the promise by the other person that the child will receive education or vocational training, or other kinds of offers for a better future.
    48. The sale of children as defined in article 2 should be criminalised (article 3, para. 1(a)(i)) if a child is offered, delivered or accepted:
        a. For the purpose of sexual exploitation. While the term “sexual exploitation” is not defined here, the Committee is of the view that this legal provision should cover all forms of sexual exploitation and sexual abuse, including when these are facilitated through ICTs.
        b. For the purpose of transfer of organs of a child for profit. It is important to specify that the purpose of such transfer must be “for profit”. The legal transfer of an organ of a child may entail costs which are not for profit.
        c. For the purpose of engaging a child in forced labour.18.
        d. The Committee emphasises that the fact of “offering, delivering or accepting” a child includes situations where the child is offered or accepted through the use of ICTs.
(パラ47)最終文について,誤解を生まないために,「other than the adoption of a child that is authorized by competent authorities」を追記することを提案する。
    54. The definition of child prostitution in the OPSC must not be understood as suggesting that the child could consent to “sexual activities in exchange for remuneration or any other form of consideration”, and that the child is necessarily the recipient of money or other “consideration”. The reality is that a child cannot, in any legally relevant way, consent to her/his own sexual exploitation. Moreover, such remuneration or consideration can be paid or given to any third person, and the child often does not receive anything, or the “consideration” is limited to basic survival needs such as food or shelter. The Committee underscores that all children who are sexually exploited in prostitution shall be considered victims, and must never be considered liable for their exploitation. (パラ54,80及び83)法的拘束力のないガイドラインの性質に鑑み,“shall”を  “should”に置き換えることを提案する。これらの文脈において,“shall”を使用することは,児童の権利条約又は選択議定書の条文とも一致しない。
    80. For any evidence collected during investigations on offences covered by the OPSC, clear rules and procedures must be established on how such evidence can be collected, how and where it shall be stored, who can have access and for how long it will remain stored. The Committee also recommends States parties to set forth clear rules regarding the destruction of evidence, in particular child sexual abuse material, the circulation of which can continue to revictimise the victims a long time after the initial offence was committed.  
    83. Regarding liability and sanctions for legal persons, States parties shall ensure that legal persons can be held liable, under criminal, civil or administrative law, for the commission, complicity and participation in the offences covered by the OPSC. Particular attention shall be paid to the legal responsibility of ICT companies to block and remove child sexual abuse material hosted on their servers, for financial institutions to block and refuse financial transactions aimed to pay for any such offences,  
    61. Child pornography is defined in article 2 OPSC as “any representation of a child engaged in real or simulated explicit sexual activities, regardless of the means used, or any representation of the sexual parts of a child for primarily sexual purposes”. The qualification “by whatever means” reflects the broad range of material available in a variety of media, online and offline. It includes, inter alia: visual material such as photographs, movies, drawings and cartoons; audio representations; any digital media representation; live performances; written materials in print or online; and physical objects such as sculptures, toys, or ornaments.26 (パラ61)表現の自由に対する制約は最小限でなければならず,児童ポルノの範囲については極めて慎重に検討しなければならない。この点,「pornography」は,従来から視覚により認識可能な物を指すところ,音声媒体や文章まで含むかどうかは,今後慎重に検討されるべきである。ついては,第3文から「audio representations」と「written materials in print or online」を削除することを提案する。
  (パラ61)また,同様の理由から,被害者となる児童が実在しない場合にまで刑罰を科すべきかどうかは今後慎重に検討されなければならない。ついては,第3文に「as far as it represents an existing child」を追記することを提案する。
    62. The Committee urges States parties to prohibit, by law, child sexual abuse material in any form. The Committee notes that such material is increasingly circulating online, and strongly recommends States parties to ensure that relevant provisions of their Criminal Codes cover all forms of material, including when the acts listed in article 3.1(c) are committed online and including when such material represents realistic representations of non-existing children. (パラ62)同様の理由から,第2文「and including when such material represents realistic representations of non-existing children」を削除することを提案する。
    63. The Committee is of the view that “simulated explicit sexual activities” should be interpreted as including any material, online or offline, that depicts or otherwise represents any person appearing to be a child engaged in real or simulated sexually explicit conduct and realistic and/or virtual depictions of a child engaged in sexually explicit conduct. Such depictions contribute to normalising the sexualisation of children and fuels the demand of child sexual abuse material. (パラ63)同様の理由から,第1文に「as far as it represents an existing child」を追記することを提案する。
    64. Moreover, for the reasons explained in paragraph 63, any representation of the sexual parts of a child, including realistic images of the sexual organs of a child, for primarily sexual purposes falls under the definition of this offence. Where it may be complicated to establish with certainty if a representation is intended or used for “primarily sexual purposes”, the Committee deems it necessary to consider the context in which it is being used. (パラ64)同様の理由から,第1文に「as far as it represents those of an existing child」を追記することを提案する。
    66. The Committee therefore recommends that States parties, in line with recent developments, avoid the term “child pornography” to the extent possible in legislation and policy, and use other terms such as the “use of children in pornographic performances and materials”,27 “child sexual abuse material” and/or “child sexual exploitation material”. (パラ66)我が国は,本パラグラフにおける委員会の勧告は,既存の法令上の文言を変更するべきという意味ではないと解釈する。
    69. In accordance with article 9.5 OPSC, States parties should also ensure that the production and dissemination of material that advertises the offences described in the OPSC is criminalised. For instance, any insertion on an online or offline medium, such as an ad or a commercial, promoting the sexual exploitation of children in any way, must be criminalised. (パラ69)広告の制限は,表現の自由に対する制約であるから,その範囲は極めて慎重に検討されるべきである。また,特定の広告に関する罰則制定については選択議定書に規定されていないことから,本パラグラフの削除を提案する。
    70. The Committee emphasises the need to pay special attention to the increasing number of children who produce sexual images, e.g. representations of their own sexual parts, either exclusively for themselves or to share them with their boy/girlfriends  or a wider group of peers. A distinction must be made between what the OPSC refers to as “child pornography” and which constitutes a criminal offence, and the production by a child of self-generated sexual content/material representing her/himself. The Committee is concerned that the “self-generated” aspect of such material could increase the risk that the child is considered responsible instead of treated as a victim, and underscores that a child should never be held criminally liable for the production of images of her-/himself. On the other hand, if these images are produced as a result of coercion, blackmailing or other forms of undue pressure against the will of the child, the person who made the child produce such content should be brought to justice.29 For any self-generated sexual material depicting very young children (e.g. pre-pubescent children), the assumption ought to be that it is the result of an abusive or coercive relationship.30 Furthermore, if such images are subsequently distributed, disseminated, imported, exported, offered, or sold as child sexual abuse material, the persons responsible for such acts should be held criminally liable. (パラ70)いかなる若年児童による性的な自画撮り画像も,虐待又は強制的な関係の結果として作成されたものであるとすることは合理的な推定を超えるものであると理解する。
     71. “Sexting” occurs when self-generated content is created, shared and forwarded by the child through mobile phones, applications, and/or the Internet. Sexting has been observed to be a product of youth peer pressure and, to a certain extent, teenagers increasingly consider sexting to be “normal”.31 While this conduct in and of itself is not necessarily illegal or wrongful, there are risks that such content is circulated online or offline beyond or against the will of the child, including to harm children or be used as a basis to extort favours.

31 See Madigan et al., “Prevalence of Multiple Forms of Sexting Behavior Among Youth: A Systematic Review and Meta-analysis”, in Jama Pediatrics, 2018.
 
    73. States parties should develop special programmes to which children who have disseminated sexualised material of other children can be diverted, preferably as an alternative to being tried in the formal criminal justice system, and avoiding criminal records and the inclusion in sexual offender’s registers. (パラ73)罪を犯した児童のうち,他の児童の性的画像等をばらまいた児童のみ優遇するのは相当でないから,本パラグラフの削除を提案する。
    78. The Committee recalls that, under article 7 OPSC, States parties are obliged to take measures to seize and confiscate any materials and assets that are used to commit or facilitate the offences covered by the OPSC. They are also obliged to seize and confiscate any proceeds derived from such offences, and take measures to close any premises used to commit such offences. International cooperation must also be guaranteed in this regard, and any request for seizure or confiscation from another State party must be executed. (パラ78)選択議定書第7条は,パラグラフ78記載の各措置を「自国の法の規定に従って」実施することを義務付けており,第1文及び第2文に「subject to the provisions of a State party’s national law」の挿入を提案する。
    86. In accordance with article 4.2 OPSC, a States party should also establish jurisdiction in case offences covered by the OPSC are committed outside its territory (extraterritorial jurisdiction), if the alleged offender is a national of that State or if she/he has her/his habitual residence in its territory, or when the child victim is a national of that State. Under extraterritorial jurisdiction, a State can initiate the investigation and prosecution of an alleged offender if she/he meets the qualifications mentioned above or if the victim is a national of that State. For this action it is not necessary that the alleged offender is present on the territory of the State. While it is the State in which the offence was committed that is primarily responsible for investigation and prosecution of the offender, the State of which the alleged offener is a national or in which he/she has her/his habitual residence has the authority to start an investigation, which may include the issuing of an international warrant for her/his arrest. (パラ86)第1文について,選択議定書第4条2は,域外管轄権を設定するか否かを締約国に委ねているから,「should」を「may」に変更すべきである。また,第4文について,「where appropriate in the domestic legal system of the State」の追記を提案する。
    87. Regarding legislation on extraterritorial jurisdiction, the Committee encourages the States parties to include cases in which a child victim is not a national but has her/his habitual residence in the territory of the State.37 (パラ87)自国民でない被害者が自国に住居を置いている場合の域外管轄権の設定について,選択議定書には規定されていないことから,第1文について,「the Committee encourages the States parties」を「the States parties may」に変更することを提案する。
    88. Furthermore, States parties should abolish the requirement of double criminality, making it possible to exercise extraterritorial jurisdiction for crimes covered by the OPSC committed is another country even if the relevant offence is not criminalised in that country. The principle of double criminality creates a gap in the law which enables impunity, and should not be applied. (パラ88)双罰性は,各国において,捜査共助の要件として一般的に認められているものである上,選択議定書には規定されていない双罰性の放棄を要求するのは相当でないから,本パラグラフの削除を提案する。
    89. Extraterritorial jurisdiction is particularly important for offences related to the sale of children for trade in organs and to the sexual exploitation of children in travel and tourism, where the offender is likely to travel to another country. As the exploitation may not be detected until the offender has returned to her/his country of origin, it is essential that States parties have the capability to prosecute her/him. (パラ89)第2文について,選択議定書第4条2は,域外管轄権を設定するか否かを締約国に委ねているから,本パラグラフは削除すべきである。
    92. To effectively put an end to the still widely existing impunity, the Committee encourages States parties to establish universal jurisdiction for all offences covered by the OPSC, i.e. to enable the investigation and prosecution of such offences regardless of the nationality or habitual residence of the alleged offender and victim. Moreover, the Committee recalls that many of the offences covered by the OPSC can also be committed, or facilitated, through the use of ICTs, and that jurisdiction must cover also such manifestations of the offences. (パラ92)第1文について,普遍的管轄権の設定は各国の法制度に大きく依存するため,「the Committee encourages States parties to」を「the States parties may」に変更し,「as appropriate in their legal system」を追記することを提案する。
    97. The Committee urges States parties to ensure the right to information as well as the right to be heard of child victims in an age-sensitive way, regardless of their legal capacity. Child victims, as well as their parents, guardians or legal representatives, should receive all information needed in a language they can understand and in a gender- and age-appropriate format to help them make an informed decision about filing a criminal complaint against the alleged perpetrator, including information about their rights, their expected role in the criminal process, and the risk and benefits of participation. Once they are part of legal proceedings, they should receive regular updates, be provided with explanations about delay, be consulted on key decisions and be adequately prepared before hearings or trials. (パラ97)最終文について,被害児童の意見は検察官の決定を拘束しないことに鑑み,

 「while respecting public prosecutors’ authority」を追記することを提案する。
    99. The Committee observes that investigations regarding offences covered in the OPSC are still largely child-dependent rather than child-supportive, relying almost entirely on the testimony of the child to convict offenders. The Committee strongly encourages States parties to make a better and full use of crime scene evidence, including digital evidence, the introduction of such evidence in courts and the full use of evidentiary rules, such as child sexual abuse shield laws and child hearsay exceptions. In that vein, the Committee urges States parties to allow the possibility for the prosecution to start an investigation without the victim’s complaint. (パラ99)第2文について,証拠法の内容は各国の法制度や公判の実情を踏まえた上で個別に決定されるべきであるから,「The Committee strongly encourages States parties to make」を「The States parties may consider making」に変更することを提案する。
    101. The Committee recommends States parties to avoid establishing statutes of limitations in respect of those offences.
Should there be such statutes of limitations, the Committee urges States to adjust them to the particular nature of the crime and ensure that they only begin to run when the victim reaches the age of 18.40
(パラ101)第1文について,公訴時効の有無及び期間等については,各国の法制度 の根幹に関わる事項であるから,「The Committee recommends States parties to avoid」を「States parties may consider avoiding」に変更することを提案する。
  (パラ101)第2文について,上記と同様の理由から,「the Committee urges States to adjust」を「States may consider adjusting」に変更することを提案する。
    103. The Committee reminds States parties of their obligation to provide appropriate support and legal counselling to assist child victims of offences covered in the OPSC at all stages of criminal justice proceedings and protect their rights and interests, and to ensure that such proceedings are carried out in the best interest of the child. This includes:
        a. Ensuring that legal and investigative procedures, including methods of questioning, are child- and gender-sensitive, while also enabling officials to adapt such procedures to the special needs and preferences of the individual child, to avoid the secondary victimisation of the child.
To that end, confrontation with the alleged offender and multiple interviews should be avoided. Police officers, judges, procedutors and lawyers should be sensitised to children’s rights and child- friendly justice measures;
        b. Protecting the privacy of child victims in investigation and trial procedures, as well as ensuring legal and practical measures to guarantee appropriate and sufficient protection of child victims from intimidation and retaliation;
        c. Providing free legal aid and assigning (depending on the national legal system) a lawyer or guardian ad litem or another qualified advocate to represent the child. Moreover, providing access to and support of medical personnel, child psychiatrists, psychologists and social workers to every child victim during the criminal justice process and ensuring that these professionals are well-trained and able to build relationships of trust with children;
        d. Making efforts to avoid the need for child victims to be physically present during criminal proceedings, including when they are giving evidence, and to make use, where possible, of appropriate communication technologies to enable child victims to be heard during the trial without being present in the courtroom.42 This also becomes essential in judicial proceedings involving OPSC offences committed against children abroad, to enable testimonies from victims in other countries. If such technological means are unavailable, or if the child’s physical presence is absolutely necessary during a trial, States parties should ensure that the child is not confronted with the alleged perpetrator, e.g. by placing a screen between the two.
        e. Taking special precautionary measures, as needed, when the alleged perpetrator is a parent, a member of the family, another child, or a primary caregiver. Such measures should involve careful consideration of the fact that a child’s disclosure should not worsen her/his situation and that of the other non-offending members of the family, and should not aggravate the trauma experienced by the child. The Committee encourages States parties to consider removing the alleged perpetrator rather than the child victim, since removal can be experienced by the child as a punishment.
(パラ103)第1文について,選択議定書第8条1(d)は,適当な支援サービスの提供義務を規定しているのみであるから,「legal counselling」は削除すべきである。また,適当な支援の内容は,各国の実情に応じて決定されるべきであるから,第2文の 「This includes」を「This may include」に変更することを提案する。
   
    104. The Committee reaffirms that a core principle of child-friendly justice is the speediness of the procedures. Reports of offences covered in the OPSC should not be delayed. Cases concerning the sexual exploitation and sexual abuse of children should be expedited through priority tracking, continuous hearings or other methods, and delays should only be approved after considering the child’s views and best interests. (パラ104)第3文について,児童の性的搾取や性的虐待の事案について,優先的な取扱いをするか否かは,個別事案の内容や他の事件を踏まえて決定されるべきであるところ,「should be expedited」の後に, 「to the extent possible」を追記することを提案する。
    112. To improve the chances of victims to receive compensation from convicted offenders, States parties should enable the identification and attachment of defendants’ assets early in the proceedings and amend money laundering laws to allow victims to be paid from forfeited property. Compensation measures should be enforced in line with international standards, such as article 2.3(c) of the International Covenant on Civil and Political Rights, which sets forth that States parties must “ensure that the competent authorities shall enforce such remedies when granted”. (パラ112)第1文について,マネ-・ロンダリング法を改正することによる没収財産の利用は,選択議定書には規定がないことから,「and amend money laundering laws to allow victims to be paid from forfeited property」は削除すべきである。
  選択議定書の文脈におけるベストプラクティス
  (パラ29)特に,選択議定書の普及・啓発については,様々なレベルで,多様なステークホルダーと協力することが重要だと考える。この点について,日本においては,次のような取組が行われている。
  警察庁は,ECPAT 及び日本ユニセフと協力して,児童に対する性的搾取が重大な犯罪行為であり,児童の権利の著しい侵害であることを広報啓発するためのポスターを作成し,カラオケボックス,ホテル業界等の関係事業者とともに,これらの店舗等に掲示している。また,警察庁は,国際的なNGO,国連児童の権利委員会委員,各国の法執行機関,インターネット事業者,高等学校生徒が参加する「子供の性被害防止セミナー」を開催し,被害の状況やその対策の取組について周知している。
  性に関する指導は学習指導要領に基づき,児童生徒が性に関して正しく理解し,適切に行動を取れるようにすることを目的に実施されており,体育科,保健体育科,特別活動をはじめ,学校教育活動全体を通じて実施している。
  (パラ31(a))教員に対する研修は,「adequate training」を実現するために,レベルと目的に応じて行うことが重要であると考える。この点について,日本においては,児童生徒の現代的な健康課題に関して,教職員を対象とした多様な研修を実施している。また,性的虐待を含む児童虐待の学校等における早期発見・早期対応のための取組の周知徹底を図っている。
  (パラ31(c))新しい技術に関連する児童の性的搾取等の事案に適切に対処すること は重要であると考える。日本においては,例えば警察庁では,児童の性的搾取に関する 捜査を担当する警察官に対して,児童の特性等に配慮した聴取技法の実習,国連児童の 権利委員会委員,NGO,インターネット事業者等の取組に関する講義を実施している。
  (パラ41)情報技術の発展に伴う新たな課題に関し,広く啓発するためには,多様な側面からアウトリーチ活動を行うことが重要であると考える。日本においては,子どもたちのインターネットの安全な利用に係る普及啓発を目的に,児童・生徒,保護者・教職員等に対する,学校等の現場での「出前講座」を,情報通信分野等の企業・団体と総務省文部科学省が協力して全国で開催している。
  情報モラル教育に関する指導資料等や児童生徒向けの啓発資料を活用しながら,教職員等を対象とした情報モラル教育セミナー等を開催し,情報モラル教育の全国への普及を図っている。
  地方自治体及び都道府県警察では,生徒に,児童の性的搾取の現状及びその対策,並びに関連する情報モラルについての講習への参加を促している。また,議論を通じて,生徒自ら児童の性的搾取の被害を防ぐための方策について理解を深めるための研修を実施している。
  (パラ43,108及び109)プロバイダ等によるインターネット上の違法・有害情報への対策を強化するため,違法・有害情報相談センターを設置し,インターネット上の違法・有害情報に関して,個人やプロバイダ等から個々の事案への対応について相談を受理している。また,違法・有害情報相談センターが受けた相談のうち,一定のもの  (青少年に係る明らかな権利侵害を内容とするもの等)について,協力事業者に対し事案の情報提供を実施している。
  また,警察庁は,児童ポルノブロッキングを行っているインターネット団体及びSNS事業者で構成する「青少年ネット利用環境整備協議会」の活動を支援しているほか, 同協議会に参加していない事業者に対して自主的な被害防止対策の強化に向けた働きかけを実施している。警察庁に委託されたインターネット・ホットラインセンターにおいて,児童ポルノ公然陳列に係る通報件数は,警察への通報が 120 件(平成 30 年上半   期),国内の ISP 等への通報が 76 件(平成 30 年上半期),INHOPE への通報が 1,156 件 (平成 30 年上半期)であった。
  (パラ57)児童の性的搾取等事犯に対しては,手段としてインターネットを用いるか, 用いないかに関わらず,厳正な取締りが重要である。したがって,警察庁では,インタ ーネットを用いた犯罪の取締りも行っており,インターネット上で児童ポルノDVD  を約7千人(約17万枚)に販売していた者を検挙するとともに,これを購入していた 者を全国の警察が協力して順次検挙した。この事件を端緒に,児童を性的に搾取してい た購入者の検挙及び児童の保護を行った。取締りを徹底した結果,潜在的な被害児童の 保護を推進し,親族の児童に対して長期間性的虐待を行っていた者を検挙する等,効果 を上げている。
  (パラ70~73)児童に対して意識啓発を促し,児童の性的搾取の被害防止を図ることも同時に重要である。警察庁は,「自画撮り」の手口を解説した動画及び漫画を作成し,動画については,警察庁のウェブサイトに掲載するとともに,漫画については,児童や保護者に配布し,その被害防止を図っている。
  (パラ102,103)児童の心理的負担の一層の軽減及び児童から聞き取った内容の信用性の確保のため,児童相談所,警察及び検察の連携を強化し,3機関を代表した者1名による協同面接の実施を含め,児童の特性を踏まえた面接・聴取方法等について3 機関で協議・実施する取組を実施している。
  (パラ119)児童の性的搾取等の文脈においては,国際的に協調することが重要であると考える。「オンラインの児童性的搾取撲滅のための WePROTECT 世界連携」に国家公安委員会委員長を主務大臣として積極的に参画しており,世界各国との情報交換を促進するなどして国際的な連携を強化するとともに,平成 30 年2月にストックホルムで開催された「子どものためのアジェンダ 2030:暴力撲滅ソリューションズ・サミット」及びパリで開催された「インターネット・ガバナンス・フォーラムに参加し,WePROTECT 世界連携が担当するワークショップに参加した。

 弁護士ドットコムの弁護士によれば、盗撮ハンターとの示談は、真の被害者との関係でも有効らしい。

 弁護士ドットコムの弁護士によれば、盗撮ハンターとの示談は、真の被害者との関係でも有効らしい。
 「盗撮ハンター」というのは被害者の代理人でもなんでもないただの恐喝犯ですよね。
 示談とか弁済の効力はないし、後日検挙されることもありますよね。

https://www.bengo4.com/c_1009/c_1197/b_839516/
原田 和幸 弁護士
東京 江戸川
弁護士ランキング 東京都1位
> 今後どのように行動したら良いのでしょうか?

今後何があるかによって、違ってくるのではないでしょうか。

> どのような展開が予想されますでしょうか?

仮に追加請求されても、支払う必要はないと思いますし、仮に警察から事情を聴かれても、示談ができた経緯を話されてもよいかもしれません。

2019年08月27日 14時17分

https://www.bengo4.com/c_1009/c_1197/b_837548/
肥田 弘昭 弁護士
岡山 岡山市 北区
弁護士ランキング 岡山県2位 犯罪・刑事事件に注力する弁護士
ご相談者様におかれましては心配ですね。
示談をしていますので、仮に刑事告発されたとしても、不起訴ないし略式の罰金になる可能性が高いかと思います。前歴のみであり、かつ、示談していることから、逃亡のおそれや罪証隠滅の可能性が低く、逮捕の可能性は、低いかと思います。
また、示談金額も100万円と高額ですので情状として有利です。
加えて、仮に、民事訴訟を提起されても示談している以上問題になりません。
したがって、あまり心配しなくとも私は良いかと思います。ご参考にしてください。

https://www.bengo4.com/c_1009/c_1197/b_521500/
金山 耕平 弁護士
兵庫 神戸 中央区
弁護士が同意1
ありがとう
確認になりますが、示談書には相手方「被害者」の署名押印はありますか?
以下、「ある」という前提で回答します。

1.今後民事刑事等の処罰はありえるのか?
→民事上について
示談書に「債権債務の無いことを確認する」とのいわゆる精算条項が入っていますので民事上示談書に定める以上に相手方にはあなたに対する請求権はありません。よって、民事上の請求はないと考えてよいでしょう。
→刑事上
相手方は、「被害」写真を持参して警察に告訴することは可能ですが、示談書に「今後民事刑事においての処罰を求めず」との文言が入っていますので、警察から呼び出されても示談書(写し)を警察に提示すれば立件される可能性は低いでしょう。

2.嫁に何かしらの迷惑を掛けないか?
→奥様にはなんらの法的義務はないので迷惑をかけることは無いでしょう。
もっとも、相手方がさらにお金がほしいと気が変わって、あなたや奥様を「ゆすってくる」可能性はゼロではないです。しかし、示談済みですので可能性は低いですし、「すでに解決済みである」と毅然と対処すればよいです。

3.追加の請求などはある可能性はあるか?
→ゼロではないですが、示談済みですので可能性は低いでしょう。

4.もし今回の事で不安点があるならば何か?
→ご指摘の通り追加の請求が不安な点です。
 しかし、示談済みですので可能性は低いですし、もし請求を受けたとしても解決済みとして相手の要求を拒否してください。

虚偽自白が撤回できない話

前田裕司・奥村回[編]「えん罪・氷見事件を深読みする国賠訴訟のすべて 」
p7
9 自白偏重そのもの
長能ら警察官は、アリバイ資料を入手しながら無視若しくは隠匿し、物的証拠がまったくないまま、柳原氏を恐怖に陥れ自白を強要した。
長能ら警察官は、事件をまったく知らない柳原氏から供述を引き出すわけだから、何らかの誘導、偽計がなければ調耆を書けないわ氏は、アリバイがあり、客観的証拠がない中で自白のみで有罪判決を受け、実際刑務所に入っているのである。
物的・客観的証拠がまったくないことを十分に知っていた松井検察官は、自白調書の内容を修正し追加もしていた。
警察も検察も、いつでも引き返すことができたはずで、その機会は何度もあった。
また、裁判所も十分に自白を吟味し、客観的証拠を厳しく求めることを日常的にしていれば正しい判決ができたはずである。
10弁護士も冤罪に加担
氏の逮捕時の当番弁護士が、国選弁護士として選任されたが、弁護士が氏の真摯な声を聴くこともなく事務的に事件を処理してしまったことが、真実を見抜けなかったことにつながった。
弁護士は、当初の接見で否認していたこと、物的証拠が氏との関係を示すものは全くないことから、弁護方針を慎重に考えなければならないのに、自白を信じて情状弁護だけに絞ってしまった。
家族も弁護人も、4月16日の新聞で実名入りの逮捕報道を見て氏が犯行をやったと信じてしまった。被害者二人に弁償金250万円を支払い、刑を軽くすることを目指したが、実刑判決となってしまった。
また、氏が頼りにしていた父親が、勾留中に死亡した。
氏は、裁判が進行するあいだ、結局自白を撤回することができなかった。
11裁判で有罪
裁判は、4回の公判が行われ、第一回公判では、公訴事実を認め、弁穫士は検察官請求証拠の取調べを全面的に同意した。
第二回公判では、兄が弁償金として被害者に支払ったこと、第三回では、氏に反省の弁を述べさせた。同年11月27日の第四回で、さらにもう一人の被害者.に弁償金を支払ったことを示した。判決は、即日言い渡され、懲役3年(未決130日参入)の実刑であった。弁護士が氏のところに寄ってきて、「控訴してもむだだから刑務所に行ったほうがいい」と言ったそうである。

13刑務所で服役
氏は、刑務所に送られる時に、「自分自身、本当に悪いことをしたから刑務所に行かなければならない」と思い込むことにした。
そうしなければ、刑務所生活を耐えることができなかったという。

12/8と12/9の児童ポルノ製造を併合罪とした事例(京都地裁R010607)

 包括一罪が正解で、判例もいくつかあります。
 口腔性交がなければ1号ポルノ製造にもならないので、強制性交と製造罪の観念的競合の主張も可能だと思います。そうすれば処断刑期も変わってきます。

強制性交等被告事件
京都地方裁判所
令和1年6月7日第1刑事部判決

(罪となるべき事実)
第1 被告人は,A(当時8歳)が13歳未満であることを知りながら,Aと性交等をしようと考え,平成30年12月8日,京都市a区b町c番地のd被告人方浴室において,Aに対し,自己の陰茎を手で握らせて手淫させ,Aの口腔内に自己の陰茎を入れ,もって13歳未満の者に対し,口腔性交をした。
第2 被告人は,Aが18歳に満たない児童であることを知りながら,同日,同所において,Aに,その口腔内に被告人の陰茎を入れる姿態及び被告人の陰茎を触る姿態をとらせ,これを自己の写真撮影機能付き携帯電話機で撮影し,その画像データ5点を同携帯電話機の内蔵記録装置に記録させて保存し,もって児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態及び児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。
第3 被告人は,A(当時8歳)が13歳未満であることを知りながら,Aと性交等をしようと考え,同月9日,前記被告人方1階6畳居間及び浴室において,Aに対し,その口腔内に自己の陰茎を入れ,その陰部に自己の陰茎を押し当てるなどし,もって13歳未満の者に対し,口腔性交をした。
第4 被告人は,Aが18歳に満たない児童であることを知りながら,同日,前記被告人方1階6畳居間及び浴室において,Aに,その口腔内に被告人の陰茎を入れる姿態,その陰部に被告人の陰茎が押し当てられる姿態及びその臀部を突き出させる姿態をとらせ,これを自己の写真撮影機能付き携帯電話機で撮影し,その画像データ8点を同携帯電話機の内蔵記録装置に記録させて保存し,もって児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものをそれぞれ視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。
(法令の適用)
罰条
 判示第1及び第3の各行為 いずれも刑法177条後段
 判示第2の行為 児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項,2項,2条3項1号,2号
 判示第4の行為 同法7条4項,2項,2条3項1号,3号
刑種の選択
 判示第2及び第4の各罪 いずれも懲役刑を選択
併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用 刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)
(量刑の理由)
令和元年6月7日
京都地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官 入子光臣 裁判官 片多康 裁判官 伊藤祐貴

粟田知穂(あわたともほ)検事曰く「わいせつな行為とは,性欲を刺激,興奮又は満足させ, かつ,普通人の性的差恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為をいう」(条文あてはめ刑法)

「わいせつな行為とは,性欲を刺激,興奮又は満足させ, かつ,普通人の性的差恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為をいうものとされます」(金沢支部s36.5.2)は、性的意図を含み社会的法益を重視する定義であり大法廷h29.11.29では採用されませんでした。

高裁判例は定義を模索しています。

 いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう(金沢支部S36.5.2)
・・・
 性的自由を侵害する行為(大阪高裁 大法廷h29.11.29の控訴審
・・・
 「一般人の性欲を興奮,刺激させるもの,言い換えれば,一般人が性的な意味のある行為であると評価するものと解されるから,強制わいせつ行為に該当する。」東京高裁H30.1.30(奥村事件 上告棄却)
・・・

 「被告人が13歳未満の男児に対し,~~などしたもので,わいせつな行為の一般的な定義を示した上で該当性を論ずるまでもない事案であって,その性質上,当然に性的な意味があり,直ちにわいせつな行為と評価できることは自明である。」(広島高裁H30.10.23 奥村事件 上告中)
・・・
「わいせつな行為」に当たるか否かは,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断すべきである。(福岡高裁H31.3.15)

条文あてはめ刑法

「わいせつな行為」
わいせつな行為とは,性欲を刺激,興奮又は満足させ, かつ,普通人の性的差恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為をいうものとされます5)。
5)名古屋高金沢支判昭和36. 5 . 2下刑集3 . 5=6 .399
ただし, その保護法益は個人の性的自由ですから,被害者の意思に反するかどうかが重要であり,例えばキスをする行為は,公然わいせつ行為には該当しませんが,被害者の意思に反して無理に行うときは強制わいせつ行為となります6)。
具体的に問題となるのは,着衣の上から身体に触れる態様ですが,陰部や乳房を下着の上から撫でるような態様についてはわいせつな行為と言い得る7)一方, それに至らない態様のものについては,痴漢行為として条例違反により処理されることが多いようです(例えば,東京都や大阪府では「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」等において,人を著しく差恥させ,又は人に不安を覚えさせるような方法で,公共の場所又は公共の乗物において,衣服等の上から又は直接人の身体に触れることを禁止しています。
ただし,条例による罰則により科することのできる刑は法176条の法定刑をかなり下回るため, まずは強制わいせつ行為に該当しないかどうかという検討を先行させるべきでしょう。)。また,従来強制わいせつ行為とされていた行為のうち,肛門性交, 口腔性交については,改正後は法177条の強制性交等罪により重く処罰されることとなりました(後述「5性交等」)。
本件事例においては, 甲がVに対して行った行為のうち,右手でVの右胸を鴦掴みにして更に抱き付くようにした行為については,冬季における着衣の上からとは言え,被害者の性的自由に対する侵害が相当程度認められるので, わいせつな行為といえるでしょう。
ただ, その前のVの頬に唾をかけた行為については, Vの心情を考えるとやり切れない思いもありますが,客観的に性的差恥心を害するものに至っているかについて疑問があり, わいせつな行為には至らず,暴行にとどまると解することが多いのではないでしょうか。
他方, 甲が保管していた動画十数点に記録された甲の行為については,前述のとおり, その具体的態様を明らかにした上で,法177条の強制性交等に至っているか,法176条のわいせつな行為に当たるか, それとも痴漢行為として条例違反に止まるか(ただし, その場合に公共の場所における行為といえるかについては問題となり得ます。) ,判断することになると思われます。

監護者性交無罪判決(福岡地裁R010718)

 監護者性交無罪判決(福岡地裁R010718)
 

福岡地方裁判所令和01年07月18日
出席検察官 清水登
私選弁護人 柴尾知宏
主文
被告人は無罪。
・・・
(求刑 懲役9年)
第2刑事部
 (裁判長裁判官 溝國禎久 裁判官 蜷川省吾 裁判官 多田真央)

女性による男児に対する強制性交(後段)は執行猶予(高松地裁h31.9.4)

 レアケースです。
 おっさんが小学生児童と「恋愛」だとしても、暴行脅迫がなかかったという評価になるだけで、それも177後段が予定するところだということで、重視されません。
 妊娠危険は女性、身体侵襲は女性とかいいだしたら、このケースにこの法定刑はそぐわないということになりますね。

https://www.ksb.co.jp/newsweb/index/14689
「お互いに恋愛感情…」 小6男児とわいせつ行為の23歳女に執行猶予付き判決 高松地方裁判所
当時小学6年生の男子児童とわいせつな行為などをした女に、高松地方裁判所は執行猶予付きの判決を言い渡しました。

 強制性交や児童買春・ポルノ禁止法違反などの罪で判決を受けたのは、23歳の女です。
 判決によると、女は今年1月高松市の自宅で13歳未満と知りながら、当時小学6年の男子児童とわいせつな行為をしました。また、去年12月には男子児童との性的な写真をスマートフォンで撮影しました。
 2人は、去年9月にスマートフォンのオンラインゲームを通じて知り合ったということです。

 4日の判決公判で高松地裁の三上孝浩裁判長は、「判断能力や性的知識が乏しいことにつけ込んで犯行に及んだことは悪質」と指摘しました。
 一方、「女と男子児童が『将来は結婚したい』旨のやりとりをするなど、お互いに恋愛感情を有していた。今後一切連絡しないなどの示談が成立している」として懲役5年の求刑に対して、懲役3年執行猶予5年の判決を言い渡しました。

男児と強制性交した女に有罪判決 /香川県
2019.09.05 朝日新聞
 小学生の男児と性行為をしたとして、強制性交などの罪に問われた被告に対し、高松地裁は4日、懲役3年執行猶予5年(求刑懲役5年)の判決を言い渡した。三上孝浩裁判長は「小学生の判断能力の乏しさにつけ込んだ犯行は悪質」と指摘した一方、「暴行や脅迫はなかった」などと述べた。
 判決によると、被告は今年1月、自宅で当時小学6年生だった福岡県内の男児(13)と性行為をした。
 強制性交罪は2017年の改正刑法で強姦(ごうかん)罪から名を変え、被害者が男性でも適用されるようになった。

人は.意思に反して他者の性的衝動・性的欲求の対象とされない権利を有し.わいせつ行為とはそのような権利を害しうる行為を意味すると解される(成瀬・後掲(下)29頁).成瀬幸典強制わいせつとわいせつ概念法学教室No.468 福岡高裁H31.3.15

 わいせつの定義をどんどん聞いて下さい。
 幼児の場合はどう説明するのかな。

[解説】
1 かつての学説・判例は.本罪のわいせつ行為を「性欲を興奮又は刺激せしめ.かつ. 一般人の性的羞恥心を害し.善良な性的道義観念に反する行為」としていた(成瀬・後掲上15頁) 。弁護人の主張の核心は.それを前提としつつ,本件行為は職場の宴会における悪ふざけ・嫌がらせとして着衣の上から行われたものであり
また下線③の事実に照らすと「性欲を興奮又は刺激せしめ」るものではなく.わいせつ行為に該当しないという点にあると解される。
これに対し.本判決は,わいせつ行為につき, 29年判決を引用した上で(下線①),下線② のように解すべきだとした。
弁護人が前提とするわいせつ行為の理解はわいせつ物頒布等罪における「わいせつ」概念に関する最高裁判例最判昭和26・5・10
刑集5巻6号1026頁等)を踏襲したものであるが,現在の多数説は同罪と本罪の保護法益の相違に照らし.本罪のわいせつ行為は, より広く「被害者の性的羞恥心を害する行為」と解すべきでありただ性的羞恥心は個人差が大きいこと等に鑑み,一般人の見地から見ても性的羞恥心を害するものであることが必要であるとしている(西田典之〔橋爪隆補訂〕「刑法各論〔第7版〕」98頁以下等) 。本判決の下線② はこれと同趣旨といえ近年の学説の理解に沿ったものと評しうる。

児童買春罪につき、「行為はあったが、年齢は知らなかった」と容疑を否認している。事案

 実態としては、児童が「17」と表示していると、補導されたり、遊客が逃げたりするので、はっきりとは表示されてない事が多い。
 逮捕されてしまうと、嘘でも自白してしまうことが多い。

 ちゃんと弁解するなら、対償供与約束時点と性行為時点とに分けて、年齢知情を説明して下さい。
http://okumuraosaka.hatenadiary.jp/entry/2018/10/09/000000

https://www.nikkansports.com/general/news/201909020000370.html
逮捕容疑は5月27日、旭川市内のホテルで同市の無職少女(17)が18歳未満であることを知りながら、現金約1万5000円を渡す約束をして、少女といかがわしい行為をした疑い。署によると、「行為はあったが、年齢は知らなかった」と容疑を否認している。

2人はツイッターで知り合い、やりとりをしていた。少女は援助交際を募る内容の書き込みをしており、インターネット上の不適切な書き込みを注意するサイバー補導で少女から事情を聴き発覚した。(共同)

第三者の嘆願書の扱い

原田「量刑判断の実際」も参照

杉田宗久「量刑事実の証明と量刑審理」量刑実務体系第4巻p217
(3) 犯罪の社会的影響(反響)
犯罪の社会的影響が量刑に及ぼす影響については.既に水島和男判事が報告され論文にまとめられており.その中で.同判事は,社会的影響に関しては「公知の事実」といえる場面も多いのではないかと指摘されている陥)。
現在の職業裁判官3名の審理の場合には.この点につき異論のある向きもあろうかと思われるが,少なくとも裁判員裁判の下では,一般市民の中から無作為で選ばれた6名の裁判員が加わって判断するのであるから,合計9名の合議体でその「公知性」が認められるという判断に達するならば.その事実的基礎は十二分に認められると解してよいのではなかろうか。
ただし.これは.社会的影響については一律に厳格な証明による立証が無用であると述べる趣旨ではない。
例えば稀な例ながら.社会的反響の著しい場合には.被害関係者以外の全くの第三者が被告人に対する厳罰を嘆願する署名活動を行い.その署名簿等を検察官に提出して証拠調べを求めてくるような場合もあり得る167)。
後に検討する第三者減刑嘆願書とは逆の場合であるが,社会的反響が.単なる「公知の事実」を超えて.特定の被告人に向けた具体的な個々人の声が書面という形で現れてきた場合についてまで,自由な証明などという比較的ゆるやかな取調べ方法にれによれば.弁護人が反対している場合でも.公判廷における適当な方法で取調べを行うことが可能ということになってしまう。
)でその証拠調べを行うことは相当とはいえまい。
これを取り調べたところで量刑上それが持つ意義は限られているから1曲),その証拠調べの必要性がどの程度あるのかは考え方の分かれるところであるが.仮にそ の取調べを行う場合には,厳格な証明によって, しかも.その概略を取り調べる限度(後述の第三者減刑嘆願の場合の@ゅのやり方に相当)にとどめるべきであろう169)

166)水島和男「犯罪の社会的影響と量刑」本書第2巻参照。
なお.その後公刊された小池・前掲注163)85頁以下は.犯罪の社会的影響を量刑上考慮すること自体を否定的に解している。

167) なお.被害者の友人・知人が寄せる厳前嘆願書については.被害者遺族の被害感情を述べた書面とほぼ同様の扱いをすべきであろう。

169) この問題に閲しては.原田判事が「量刑事実の立証〔第2版)J346頁以下で詳細に検討をされており.本文で述べたようなやり方をとることも是認されている。なお.いわゆる附属池田小学校事件においては.非常に多数の厳罰嘆願書が寄せられたようであるが.結局.公判では,その全体の外見と代表的なもの数点を写真に撮影した検察事務官作成の写真撮影報告書(立証趣旨は「大阪地方検察庁に提出された『嘆願書」の存在及び内容J)1通が弁護人の同意を得て取り調べられたようである。

・・・
p230
(9) 第三者減刑嘆願
三者が被告人に対する減刑を裁判所に嘆願する多数の減刑嘆願書が弁護人から証拠調べ請求されてくることがある。
この種の書而については,検察官は,近親者が作成した書面は同意.それ以外の者が作成した書面については不同意という対応をとることが多く.後者については.
①自由な証明としてそのまま取り調べる取扱い2附.
②「事実上一覧しておきます」として証拠ではなく単なる参考資料として預かる取扱い207)
③嘆願書を集めた者を証人尋問した上,その証言を裏付ける証拠物としてこれを取り調べる取扱い208)
④嘆願書を集めた者を証人尋問しその証言の際に,そのうちのl枚のみを示して「これと同じような書面を00枚集めました。」などとその収集状況を証言させるとともに,示したl枚については独立の証拠としてではなく.証人尋問の際に示した書面として証人尋問調書の末尾に添付させ,併せて残りの嘆願書については当事者に請求撤回をさせる取扱い209),
⑤弁護人が,嘆願書が何百枚存在する状況を写真撮影した上.この写真を証拠物(又は写真撮影報告書)として取り調べるという扱い,
⑥弁護人に嘆願書を公判廷に持参させた上公判廷で,その全体像(嘆願書が山のように積み上げられた様子や.その内の代表的なもの1枚~数枚)を検証(写真撮影)する扱い210),
⑦厳格な証明の対象となる書面であるから.証拠能力を具備しないとして取調べ請求を却下する取扱い211),
⑧証拠調べの必要性なしとして却下する取扱い212),
など種々の対応が考えられてきた。
筆者自身も含め.これまでの①~⑥のやり方をとってきた裁判官は.嘆願書を集めた者の被告人の更生にかける熱意を無にしたくないとの思いから.実際は,⑦説の裁判官と同様.嘆願書中にはその作成の真正や任意性に疑問があるものも含まれていることを十分承知し,かつまた,⑧説の裁判官と同じように,この種の嘆願書が存在していても量刑判断にはほとんど影響がないことを分かりつつ,あれこれ理論構成し実務上の智恵を働かせて種々の方法を模索してきたものである。
その趣旨は裁判員裁判の下でも基本的に変わらないものと思われるが,裁判員によってはこれを過大評価する懸念がないともいえないことを考えると,まず.②のような「顔を立てる」あるいは「表向き苦労に報いる」だけで,法律上の性質のよく分からないやり方や,①のような例外的にゆるやかな証拠調べの方式は望ましいとは言えないし逆に,嘆願書を集めるために熱心に活動したが,実際に今後の被告人の更生のためにどのような寄与を果たせるのかはっきりしない者まで証人尋問する③④のやり方も.裁判員にその証拠価値を過大評価されかねない危険性があり.あまり上策とはいえない感がある。
最終的に.⑦⑧のやり方を採り,このような証拠は裁判員の目には一切触れさせるべきでないとして.公判前整理手続段階で早々と証拠調べの芽を摘んでしまうというスタンスをとるか.それとも,署名活動をした人達の熱意にもそれなりに報いながらも.概略だけの証拠調べにとどめる⑤⑥のやり方をとるかは.裁判官の考え方次第であろう。
公判前整理手続での両当事者の意向等も踏まえて決するほかない。

水島和男「犯罪の社会的影響と量刑」量刑実務体系第2巻p273
3) マスメディアの報道が問題となる場面犯罪が社会に影響を及ぼすためには,犯罪の情報を社会に伝える媒体が必要となる。
放火犯のように犯罪そのものに一定の社会的影響を及ぼす契機が存するものがあるが,それでも,その犯罪情報を更に社会的に拡げるためにはこれを伝える媒体が必要となる。
いわゆる口コミによる情報伝達(犯罪者集団あるいはいわゆる関社会のアングラ情報を含む。)の役割も軽視できないが, なんといっても新聞,ラジオ,テレビ等のマスメディアによる情報伝達が重要273犯罪の社会的影響と量刑である。
前記の永山事件最高裁判決が, 「全国的にも『連続射殺魔事件』として大きな社会不安を招いた」とするのは.これらマスメディアによる全国的な犯罪情報の伝達による社会不安の惹起を問題としていることは明らかである。
更に,現在においては,インターネットによる犯罪情報の伝達が非常に重要なものとなっている。
特定サイトを通じて,金融機関の口座,通帳の売買や規制薬物の売買はもとより爆弾の製造方法等の犯罪情報までが容易に入手可能な状態になっているのであって,従前は特定の犯罪者集団や,いわゆる聞社会における口コミを中心に伝播されていた犯罪情報が,誰でも,何時でも.どこからでも,容易に入手可能となっているのが現状であって,犯罪の模倣という側面からはマスメディアによる場合以上の影響力を持つに至っているといっても過言でないであろう。
量刑実務上「犯罪の社会的影響」のうち一般予防的側面を軽視できない所以である。
マスメディアの報道については上記の永山事件最高裁判決に現れているように,犯罪情報の伝達により「犯罪の社会的影響Jを拡散しある意味で被害を拡大している面のあることを否定できない(連続射殺魔事件が広域事件であるとはいえ,マスメディアによる報道がなければ「全国的」に大きな社会不安を招くことはなかったであろう。)。
しかし,マスメディアの報道は現に存在し,行為者においてもそのことを承知の上で犯罪を犯している以上,犯罪の内容に応じてマスメディアの関心を引き,報道されることは予測可能の事態というべきであるから,マスメディアによる犯罪情報の伝達により「犯罪の社会的影響」が拡散された面があるとしても甘受すべきであるともいえよう。
もっとも,マスメディアが犯罪に関心を示すのは,結果の重大性であるとか,犯行態様の悪質性といった,当該犯罪事実の内容のみに限らない。
犯罪自体はありふれたものであり,それ自体としては社会的影響が問題になるようなものでないとしても,行為者が有名な芸能人である等の理由からマスメディアの関心を引き,大々的に報道がなされるといった例も少なくない。
もとより,このような場合においては,社会に及ぼした影響といっても,犯罪とは直接の関係を有しない,ゴシップ記事的関心というものに過ぎないのであるから,行為者に対し責任を問う契機は何ら存在しない。
しかし,マスメディアにより大々的に報道がなされ,社会の耳目を引いている以上,威嚇的効果の高い状況にあるのであるから,一般予防面で考慮する余地がないではないが(例えば.有名な芸能人が覚せい剤事犯を犯し,マスメディアにより大々的に報道がなされているとすると,同人を厳しく罰することにより,覚せい剤事犯の重大性を国民に周知させることができるし,逆に,軽い処罰をすると覚せい剤に対する安易な態度を蔓延させ、 量刑実務上「犯罪の社会的影響」として,どのような事柄が考慮されているのかるという一般予防的効果が考えられる。), やはり不当であろう。
もっとも, 行為者が社会的に高い評価を受け, あるいは, 高い倫理性を求められる地位にある者(医師,教師,弁護士,検察官,裁判官ら法曹関係者等)である場合は別であろう。
万引き等のありふれた犯罪であっても,これらの地位に在る者が犯したとすると,その行為自体の非難可能性が高まると考えられるのであり,マスメディアが関心を寄せるのもその故であろう。
この場合においては,一般予防的側面よりも, 責任の要素の方の比重が重くなろう。
具体的には, 被告人が占めていた地位に対する国民一般の信頼を損なったという形での社会的影響が問題とされることとなろうが, そのような事態は行為者にとっても予測可能というべきであるから,責任を問う契機も存在するといえようか。

「乳児遺棄容疑で少女2人逮捕、援助交際で妊娠 荒川河川敷に遺体」の相手男性の責任


 児童と知っていた場合は、児童買春罪となって、避妊しなかったこと・妊娠させたことは悪情状として考慮される。
 児童と知らなかった場合は、児童買春罪は不成立。青少年条例違反(過失)が検討されるが、普通、立件されない。

https://www.excite.co.jp/news/article/Jiji_20190826X442/
乳児遺棄容疑で少女ら逮捕=荒川河川敷に遺体―警視庁
 東京都足立区の荒川河川敷で6月、乳児の遺体が見つかった事件で、警視庁捜査1課は26日までに、死体遺棄容疑でいずれも東京都内に住む乳児の母親(17)と友人の少女(17)を逮捕した。2人は「間違いありません」と容疑を認めているという。

 同課によると、現場周辺の防犯カメラの映像などから母親らが関与した疑いが浮上した。母親は「(遺棄の)前日に自宅で産み落とした」と説明。援助交際で妊娠したと話している。出産時に乳児が生きていたかは不明という。

 逮捕容疑は6月24日ごろ、同区千住曙町の荒川河川敷に、生後間もない男の子の遺体を遺棄した疑い。 

 逮捕された児童の弁護人としては、被害者性を強調すべきでしょう。

第三章 心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置
第一五条(心身に有害な影響を受けた児童の保護)
 厚生労働省法務省都道府県警察、児童相談所、福祉事務所その他の国、都道府県又は市町村の関係行政機関は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童に対し、相互に連携を図りつつ、その心身の状況、その置かれている環境等に応じ、当該児童がその受けた影響から身体的及び心理的に回復し、個人の尊厳を保って成長することができるよう、相談、指導、一時保護、施設への入所その他の必要な保護のための措置を適切に講ずるものとする。
2前項の関係行政機関は、同項の措置を講ずる場合において、同項の児童の保護のため必要があると認めるときは、その保護者に対し、相談、指導その他の措置を講ずるものとする。
第一六条(心身に有害な影響を受けた児童の保護のための体制の整備)
 国及び地方公共団体は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童について専門的知識に基づく保護を適切に行うことができるよう、これらの児童の保護に関する調査研究の推進、これらの児童の保護を行う者の資質の向上、これらの児童が緊急に保護を必要とする場合における関係機関の連携協力体制の強化、これらの児童の保護を行う民間の団体との連携協力体制の整備等必要な体制の整備に努めるものとする。
第一六条の二(心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策の検証等)
 社会保障審議会及び犯罪被害者等施策推進会議は、相互に連携して、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策の実施状況等について、当該児童の保護に関する専門的な知識経験を有する者の知見を活用しつつ、定期的に検証及び評価を行うものとする。
2社会保障審議会又は犯罪被害者等施策推進会議は、前項の検証及び評価の結果を勘案し、必要があると認めるときは、当該児童の保護に関する施策の在り方について、それぞれ厚生労働大臣又は関係行政機関に意見を述べるものとする。
3厚生労働大臣又は関係行政機関は、前項の意見があった場合において必要があると認めるときは、当該児童の保護を図るために必要な施策を講ずるものとする。

「少女は14年秋から15年春にかけ、複数回にわたり下半身を触られるなどした。」「準強制わいせつ、準強姦(ごうかん)未遂罪について嫌疑不十分で不起訴にしていた。」事案について110万円を認容した事例(名古屋地裁H31.8.28)

 訴額は550万円

https://www.chunichi.co.jp/s/article/2019082990085138.html
性的虐待、祖父に賠償命令 孫の供述「信用できる」、名古屋地裁
 2014年に愛知県尾張地方で、当時中学1年生だった少女(17)が60代の祖父に性的虐待を受けたとして、550万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が28日あり、名古屋地裁は祖父に約110万円の支払いを命じた。

 少女側代理人の弁護士や判決によると、同居の祖父と同じ寝室で寝ていた少女は14年秋から15年春にかけ、複数回にわたり下半身を触られるなどした。異変に気付いた中学校の教員が少女から事情を聴き、母親に連絡した。

 少女は17年8月、祖父を県警に告訴したが、事件から時間が経過し、直接証拠が少なかったこともあり、地検は18年7月に準強制わいせつ、準強姦(ごうかん)未遂罪について嫌疑不十分で不起訴にしていた。

 訴訟で祖父側は、孫に性的虐待をしたことはなく、少女の訴えは虚偽だなどと主張していたが、高木博巳裁判官は判決で「少女が祖父を陥れる虚偽供述をする動機はなく、少女の供述は信用できる」として、祖父の性的虐待を認めた。

 少女は現在、祖父とは離れて暮らしている。少女側代理人の弁護士は「刑事事件では決定的な証拠がない限り、起訴までのハードルが高い。勇気を出して訴えた少女の話を聞き、民事で性的虐待の事実を認める判決を出してくれたのは、少女の救いになる」と話した。
中日新聞

師弟関係の児童淫行罪で6/3起訴、7/18初公判結審(求刑4年)、8/28判決(2年6月実刑)(静岡地裁H31.8.28)

 あまり知られてませんが、師弟関係の児童淫行罪は6:4くらいで実刑の方が多いので、ちょっと争点作りながら罪体(余罪)を削って行かないと。

児童福祉法違反で元県立高教諭起訴-静岡地検
2019.07.05 静岡新聞
 静岡地検は4日までに、児童福祉法違反と児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪で、元県立高教諭で30代の無職の男を静岡地裁に起訴した。
 起訴は6月3日付。起訴状などによると、男は高校教諭だった2018年12月ごろから19年3月ごろまでの間、10代の少女が18歳未満と知りながら複数回にわたり淫行させた上、携帯電話で動画を撮影し児童ポルノを製造したとされる。
 男は4月に県教委から懲戒免職処分を受け、5月に県警に逮捕された。地裁は匿名で公判を行うことを決めている。
・・・・
児童福祉法違反の元教諭に4年求刑 静岡地裁初公判
2019.07.18 静岡新聞
 勤務していた高校の生徒に淫行をさせるなどしたとして、児童福祉法違反と児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪に問われた元県立高教諭の30代の男=懲戒免職=の初公判が18日、静岡地裁(伊東顕裁判官)で開かれた。被告は起訴内容を認め、検察側が懲役4年を求刑、弁護側が執行猶予付き判決を求めて即日結審した。判決は8月28日。
 検察側は論告で「自ら生徒を誘い出し、自分の性欲を満たすために教員の立場を乱用した特に悪質な犯行」と指摘した。弁護側は「悪意はなかった」と酌量を求めた。
 起訴状などによると男は2018年12月ごろから19年3月ごろまでの間、勤務校の女子生徒が18歳未満と知りながら複数回淫行をさせた上、携帯電話で動画を撮影し児童ポルノを製造したとされる。
 公判は被害者が特定される可能性がある「被害者特定事項」として匿名で行われた。
・・・
元教諭に実刑判決 児童福祉法違反 「卑劣な犯行」 静岡地裁
2019.08.28 静岡新聞
 勤務していた高校の女子生徒に淫行をさせるなどしたとして、児童福祉法違反と児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪に問われた元県立高教諭の30代の男=懲戒免職=に対し、静岡地裁は28日、懲役2年6月(求刑懲役3年6月)の実刑を言い渡した。
 伊東顕裁判官は判決理由で「青少年の健全な成長を促すべき立場の教師が被害者の未熟さに付け込んだ身勝手で卑劣な犯行」と非難。「反省の態度などを考慮しても刑の執行を猶予すべきではない」と実刑の理由を述べた。
 判決によると、男は2018年12月ごろから19年3月ごろまでの間、勤務校の女子生徒が18歳未満と知りながら県内で複数回淫行をさせ、携帯電話で動画を撮影し児童ポルノを製造した。

 検察側は初公判で懲役4年を求刑したが、動画の所有権放棄などの手続きを踏まえ、判決に先立ち求刑を懲役3年6月に変更した。公判は、被告の氏名について被害者が特定される可能性のある「被害者特定事項」と判断し、匿名で行った。

静岡地方裁判所
令和01年08月28日
 被告人に対する児童福祉法違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、当裁判所は、検察官山根誠之、弁護人内田隼二各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
被告人を懲役2年6月に処する。

理由
(犯罪事実)
第1 被告人は、●●●高等学校の教諭として、同校●●●部の顧問をしていたものであるが、同校の生徒であり、同部の部員である●●●(当時17歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、その立場を利用し、同児童が自己に好意を寄せていることに乗じ、
 1 平成30年12月11日午後4時55分頃から同日午後6時52分頃までの間に、静岡県●●●所在のホテル●●●において、同児童に自己を相手に性交させ、
 2 平成31年3月11日午後7時頃から同日午後7時43分頃までの間に、同県●●●所在の同校●●●において、同児童に自己を相手に性交させ、
 3 同月26日午後5時頃から同日午後5時15分頃までの間、同県●●●から北北東方向図測約177メートル先空き地に駐車中の自動車内において、同児童に自己を相手に性交させ、もって児童に淫行をさせる行為をした。
第2 被告人は、前記●●●(当時17歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、前記第1の1の日時、場所において、同児童に、その乳房、陰部を露出した姿態、被告人の陰茎を口淫する姿態及び被告人と性交する姿態をとらせ、これを撮影機能付き携帯電話機で撮影し、その動画データ1点をその携帯電話機本体の内蔵記録装置に記録させて保存し、もって児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した。
(証拠の標目) (カッコ内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)
 
(法令の適用)
  (1) 罰条
  (ア) 第1の行為 包括して、児童福祉法60条1項、34条1項6号
  (イ) 第2の行為 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項(2条3項1号、3号)、2項
  (2) 刑種の選択 いずれも懲役刑を選択
  (3) 併合罪加重 刑法45条前段、47条本文、ただし書、10条(重い判示第1の罪の刑に加重)
(量刑の事情)判示事実全部について
  1 被告人の公判供述、検察官調書(乙12)、警察官調書(乙7、8)
  2 ●●●の検察官調書(甲3)、警察官調書(甲1、2、9)
  3 警察官作成の実況見分調書(甲10)、捜査報告書(甲11、12、18)
 判示第1の事実について
  1 被告人の検察官調書(乙6、11)、警察官調書(乙5、9、10)
  2 ●●●の警察官調書(甲13)
  3 警察官作成の捜査報告書(甲5、6、8)、実況見分調書(甲7、14)、電話聴取書(甲15)
判示第2の事実について
  1 警察官作成の実況見分調書(甲19)、捜査報告書(甲20、16)
(法令の適用)
  (1) 罰条
  (ア) 第1の行為 包括して、児童福祉法60条1項、34条1項6号
  (イ) 第2の行為 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項(2条3項1号、3号)、2項
  (2) 刑種の選択 いずれも懲役刑を選択
  (3) 併合罪加重 刑法45条前段、47条本文、ただし書、10条(重い判示第1の罪の刑に加重)
 本件は、高校の教諭であった被告人が、顧問として指導していた部活動の部員で、当時17歳の被害者に対し、〈1〉自己を相手方として3回にわたり性交させて淫行した児童福祉法違反1件と、〈2〉その性行為等の場面を動画撮影して児童ポルノを作成した児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反1件の事案である。
 被告人は、悩みを抱えていた被害者をドライブに連れ出した際、被害者から「好きです。」などと告白され、被害者との交際を断れば、被害者の精神状態が悪化するなどと考え、交際を続け、本件各犯行に及んだというのであるが、仮にそのような事情があったとしても、妻子がいて被害者の好意に応じ難い立場である上、教諭として、また、部活動の顧問として、未成年者の健全な成長を促すべき立場にあるにもかかわらず本件犯行に及んだものであるから、本件は、被害児童を保護すべき立場の者が、逆に、被害児童の思慮分別の未熟さに付け込んだ身勝手で卑劣な犯行というべきであって、強い非難に値する。しかも、被告人が、判示のとおり児童ポルノの撮影に及んだほか、●●●あるいは、妻に被害者との関係が発覚した後もひそかに関係を続けるなどしていたことも考慮すると、被告人は、もっぱら自らの性欲を満たすため、被害者をもてあそんでいたといわざるを得ず、被害者の今後の成長に与える影響も憂慮される。被害者の家族が被告人の厳重処罰を求めるのも無理からぬものがある。
 そうすると、本件は、被害者を保護すべき立場の被告人が、被害者の情操を甚だしく害したという悪質な犯行というべきであって、以下のような被告人のために酌むべき事情を考慮しても、その刑の執行を猶予するのが相当であるとはいえない。
 すなわち、被告人が事実を認めて反省の態度を示していること、被害者の宥恕は得られなかったものの、賠償金として200万円を支払って示談したこと、当然のこととはいえ、●●●妻が情状証人として出廷し、被告人の更生を支援する旨証言していること、フォークリフトの免許を取るなど社会復帰を目指した取り組みを始めたことなど、被告人のために酌むべき事情も認められ、これらの事情を考慮すると、前記のとおり刑の執行を猶予するのは相当ではないものの、被告人を主文の刑に処するのが相当である。
(求刑-懲役3年6月)
刑事第1部
 (裁判官 伊東顕)

インターネット回線を通じて携帯電話機の位置情報の取得等の指令を与えるプログラムは不正指令電磁的記録に該当する(徳島地裁h30.12.21)

 こういう争点で良かったでしょうか

徳島地裁平成30年12月21日 
事件名 不正指令電磁的記録供用、不正指令電磁的記録作成、有印私文書偽造・同行使被告事件
 上記の者に対する不正指令電磁的記録供用,不正指令電磁的記録作成,有印私文書偽造・同行使被告事件について,当裁判所は,検察官安藤翔,弁護人木村正各出席の上審理し,次のとおり判決する。
理由
 (犯罪事実)
 被告人は,
 第1 正当な理由がないのに,平成27年11月8日から同月20日までの間,徳島市〈以下省略〉所在のホテル「a」又は同市〈以下省略〉所在のホテル「b」において,Aが使用する携帯電話機に,「○○」と称するインターネット回線を通じて携帯電話機の位置情報の取得等の指令を与えるプログラムを,同人に秘してインストールした上,同プログラムが実行可能な設定を行い,もって人が電子計算機を使用するに際してその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を,人の電子計算機における実行の用に供した。
 第2 正当な理由がないのに,平成28年2月12日午後7時37分頃から同日午後8時27分頃までの間,徳島市内又はその周辺において,人の電子計算機における実行の用に供する目的で,電子計算機を使用して,携帯電話機を用いて実行した際,実行者の意図に基づかず,携帯電話機の位置情報等をインターネット回線を通じて特定のサーバコンピュータに送信するなどの指令を与える電磁的記録である「△△」を作成し,もって人が電子計算機を使用するに際してその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を作成し,同日午後8時27分頃,同市〈以下省略〉所在のc店駐車場において,Aが使用する携帯電話機に,前記「△△」を同人に秘してインストールして実行可能な状態にし,もって人が電子計算機を使用するに際してその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を,人の電子計算機における実行の用に供した。
 第3 平成29年5月上旬頃,徳島市〈以下省略〉所在の被告人方において,行使の目的で,パーソナルコンピュータ等を用いて,「借用書」「Y様」「金伍拾萬円也」「上の金額を以下の約定とおり借り受けました。」「1.利息は年利8%とします。」「2.毎月25日を返済日とします。」「3.遅延損害金は年29%とします。」「元金に利息を付して,平成28年11月25日より,貴殿の指定する銀行口座に元利均等により毎月伍萬円ずつ振込にて支払います。」「平成28年5月9日」「借受人」などと印字した書面を作成し,同書面の下部にAの郵便番号,住所及び氏名を記入し,もってA作成名義の借用書1枚(平成30年押第12号の1)を偽造し,その頃から同年7月3日までの間,徳島県内又はその周辺において,コピー機を使用して同借用書の写し1枚を作成し,もって同人作成名義の借用書の写し1枚(平成30年押第12号の2)を偽造した上,同年7月3日,徳島市〈以下省略〉所在の徳島簡易裁判所において,同裁判所職員Bに対し,前記偽造に係るA名義の借用書の写し1枚を真正に成立したものであるかのように装って提出して行使した。
 (証拠の標目)
 括弧内の番号は,検察官請求証拠の証拠番号を示す。
 判示事実全部について
 ・被告人の公判供述
 判示第1及び第2の事実について
 ・証人Aの公判供述
 ・警察官作成の検証調書(甲32)
 判示第1の事実について
 ・第1回公判調書中の被告人の供述部分
 ・Aの警察官調書(甲12,13。いずれも不同意部分を除く。)
 ・d株式会社代表取締役社長作成の「回答書」と題する書面(甲8)
 ・警察官作成の捜査報告書(甲1ないし6),同抄本(甲9,10),捜査関係事項照会書謄本(甲7)
 判示第2の事実について
 ・第3回公判調書中の被告人の供述部分
 ・四国管区警察局徳島県情報通信部情報技術解析課長作成の「解析結果について(回答)」(甲20),「解析結果について(回答)(第一報)」(甲22),「解析結果について(回答)(第二報)」(甲23),「解析結果について(回答)(終報)」(甲24)とそれぞれ題する書面
 ・徳島中央警察署長作成の情報技術解析要請書謄本(甲19)
 ・徳島東警察署長作成の情報技術解析要請書謄本(甲21)
 ・警察官作成の捜査報告書(甲15,17,18,26,29,30,38),同抄本(甲16,25,28)
 判示第3の事実について
 ・被告人の警察官調書(乙10,11)
 ・被告人作成の任意提出書(甲48)
 ・B(甲44),A(甲45。ただし,不同意部分を除く。)の各警察官調書
 ・徳島地方裁判所長作成の「捜査関係事項照会書について」と題する書面(甲43)
 ・警察官作成の捜査報告書(甲39ないし41,47,53),捜査関係事項照会書謄本(甲42),領置調書(甲49),差押調書(甲51)
 ・押収してある偽造された借用書1枚(甲50,平成30年押第12号の1),偽造された借用書写し1枚(甲52,同号の2)
 (争点に対する判断)
 本件の争点は,①判示第1に係る「○○」のインストールに関するAの同意の有無,②判示第2に係る「△△」(以下「本件プログラム」という。)をAの携帯電話機にインストールしたのが被告人か否か,③同プログラムが不正指令電磁的記録に該当するか否かである。
第1 「○○」のインストールに関するAの同意について
 1 関係証拠(甲1ないし10,12,13,証人A,被告人の公判供述)によれば,以下の事実が認められる。
  (1) 被告人は,平成27年9月下旬頃ないし同年10月頃,いわゆる出会い系サイトを通じてAと知り合い,その頃から交際し,肉体関係を持つようになった。
 判示第1の「○○」は,インターネット回線を通じて,インストールされた携帯電話機に対して位置情報取得等の指令を与えるプログラムで,紛失した携帯電話機を探す際などに使用される。
  (2) 被告人とAは,同年11月8日に前記「aホテル」205号室を利用したところ,在室中の同日午後3時43分頃,被告人は,Aの携帯電話機に「○○」をインストールした。
 また,被告人とAは,同月20日午後8時33分頃から同日午後11時42分頃までの間,前記「bホテル」108号室を利用したところ,在室中の午後11時16分頃,被告人は,Aの携帯電話機を使ってデジタルコンテンツの配信サイトで「○○」の検索をした。
  (3) 被告人は,同日午後11時19分頃から同年12月2日午後3時12分頃までの間,「○○」により,Aの携帯電話機の位置情報や電話番号,SIMカードのシリアルナンバーを取得して自己のパソコンに保存した。また,取得したAの携帯電話機の位置情報を基に,Aの外出先をインターネットの掲示板サイトに書き込むなどした。
  (4) 被告人は,平成28年1月7日,Aと会い,Aとの会話を無断で録音した。この中で,Aが,位置情報が外部に漏れていることを懸念する趣旨の発言をしたのに対し,被告人は,Aの携帯電話機を調べてみる旨答えた後,「あっ,これかな,○○」,「まあ言えば,監視をさせるアプリ」,「入れられたかもしれんね」などと発言し,Aも「何これ,どこからついてきたんですか」などと述べるやりとりの後,被告人は「○○」をアンインストールした。
 2 Aの供述について
  (1) Aは,公判廷において,被告人とホテルを利用した際,被告人に携帯電話機へアプリのインストールをしてもらったことはないし,「○○」のインストールにも心当たりはない旨供述する。
 A及び被告人は,前記のとおり,「○○」をアンインストールする際,Aがそれまで「○○」がインストールされていたことに気付いておらず,被告人も「○○」のインストール等に関与していないことを前提とする会話をしており,Aの供述は,これらの会話とよく整合する自然なものである。また,Aの携帯電話機への「○○」のインストールは,被告人とAがホテルを利用している間に行われており,被告人が,Aの入浴中などに,Aに秘して上記インストールを行うことは可能な状況であった。
 確かに,弁護人も指摘するように,Aの公判供述には,前記各ホテル内での被告人とのやりとり等,覚えていないことが多い。しかしながら,いかに記憶が減退したといっても,自身の外出先の情報をインターネット掲示板に書き込まれたのを知り,その原因である「○○」のアンインストールに立ち会ったAが,被告人による「○○」のインストールやそれに同意したことすら忘れて前記のような会話をするとはおよそ考え難い。Aに,被告人を陥れる虚偽の供述をする具体的な動機も見当たらず,Aの上記供述は信用することができる。
 3 被告人の供述について
 一方,被告人は,公判廷において,「○○」のインストールにつきAの同意があった,前記の会話は,Aがストーカー被害に遭っているような状況を楽しむ疑似ストーカー体験の一環として行ったものであるなどと供述する。しかしながら,前記の会話は,「○○」のインストールをあらかじめ知っていた者同士の会話として余りに不自然であるし,Aも被告人の言うようなことは述べていない。また,Aが,出会い系サイトで知り合って2か月程度の被告人に対し,日常的な位置情報という高度のプライバシー情報を与えるプログラムをインストールさせ,さらに被告人がいうように外出先情報のインターネット掲示板への書き込みまで承諾したというのも不自然であって,被告人の供述を信用することはできない。
 4 結論
 以上のとおり,「○○」のインストールについてAの同意はなく,被告人がAに秘して行ったと認められる。
 なお,前記のとおり,「○○」は平成27年11月8日にインストールされているものの,実行可能になったのは同月20日である。同日に実行可能となった「○○」が,同月8日にインストールしたものか,被告人が述べるように同月20日に再インストールしたものか,携帯電話機の解析上客観的に明確とはいえないため,インストールの日時・場所については,判示第1(公訴事実)のとおり認定するのが相当である。
第2 本件プログラムをインストールした者及び同プログラムの不正指令電磁的記録該当性について
 1 関係証拠(甲15ないし25,29,30,38,証人A,被告人の公判供述)によれば,以下の事実が認められる。
  (1) 被告人は,判示第2の日時,場所において,本件プログラムを作成した。本件プログラムは,携帯電話機の画面上,市販のプログラム「□□」と同じアイコンとともに「□□」と表示され,インストールされた携帯電話機に対し,10分間隔でその位置情報を被告人が運営・管理するウェブサイトのスクリプトファイルに送付する指令を与えたり,Aの自宅付近や職場付近等のWi-Fiのアクセスポイントを検知することで同様の指令を与えたりする機能を有しており,インストール後,上記のアイコンをタップしてアプリを実行することでデータ送信等が開始される。
  (2) 被告人とAは,交際関係を解消する話になって,互いの携帯電話機内のメールデータ等を消去するため,平成28年2月12日夜,判示第2の駐車場で会い,被告人の自動車内において,互いの携帯電話機を交換し,メールや画像ファイル等の個人情報を削除するなどした。同日午後8時24分頃から同日午後8時44分頃までの間にも,被告人はAとの会話を無断で録音しており,同日午後8時28分頃,被告人は,「消しますよ。完全に削除。中断するよ,ちょっと何か受信中。実施しました。」と発言した。
 一方,本件プログラムは,同日午後8時27分頃,Aの携帯電話機にインストールされた。被告人は,同日午後8時31分頃から同年4月20日にかけてその位置情報等を取得し,一旦交際を続けることとなったAとの関係が再び悪くなった後,取得した位置情報等を用いてAの位置情報や職場の情報をインターネット掲示板に書き込んだ。
 2 前記のとおり,被告人とAが二人きりで会い,被告人がAの携帯電話機のメール等を削除する内容の発言をしているのと同時刻頃に本件プログラムがインストールされていることからすれば,被告人がそのインストールを行ったことはかなり強く推認される一方,被告人以外の者がインストールをしたとは考え難い。さらに,本件プログラムは両者が会う前50分以内に被告人によって作成されていること,本件プログラムには,Aの自宅や職場付近への接近を検知して位置情報を送る機能があったことからすれば,本件プログラムをインストールし,実行可能な状態にしたのは,被告人であると認められる。
 3 これに対し弁護人は,被告人はAと前記駐車場で会う前に,本件プログラムを自慢するため,メールに添付してAに送信し,Aと会った際にもそのメールを再送信したので,Aがこれに誤って触れたことで,気付かないうちにインストールされた可能性があると主張し,被告人もこれに沿う供述をする。
 しかしながら,被告人とAは,両者の交際関係を解消するために会うことになっていたにもかかわらず,その直前に,Aの位置情報を探知するなどの機能を備えた本件プログラムを,自慢するためメールに添付して送信したというのは不自然である。Aの携帯電話機にインストールされた時刻ないしその前後頃,Aとの間で本件プログラムに関する会話はなされておらず,Aも被告人からそのような話があったとは述べていないのであって,この点に関する被告人の供述を信用することはできない。なお,弁護人は,本件プログラムがAの携帯電話機にインストールされた頃,同じ車内にいたはずの被告人とAの各携帯電話機が拾っているWi-Fiのアクセスポイントが異なっていることなどにつき,本件証拠上合理的な説明がなされていない旨主張し,被告人も同様の供述をするが,近くにある携帯電話が必ずしも同じアクセスポイントに接続されるとは限らず,被告人が,前記の車内でAの携帯電話機のメール削除等の操作を行っていたことは,Aと被告人の供述その他の証拠から明らかであって,この点に関するその余の弁護人の主張も採用の限りでない。
 4 以上のとおり,本件プログラムのインストールや実行可能な設定は,被告人が行ったと認められ,前記の会話内容や本件プログラムの機能からすると,Aは上記のインストール等を知らなかったと認められる。
 5 本件プログラムが,インストール先の端末に,Aの自宅等を含む位置情報等を被告人の管理するサーバへ送る指令を与えるものであること,アイコンや名称が市販のアプリケーションと同一で,インストール先の端末使用者を誤信させ得るものであったこと,被告人がAに秘してその携帯電話機にインストール等を行い,その位置情報等を取得していることからすれば,本件プログラムは,Aの意図に反してその携帯電話機に上記のような動作をさせる不正の指令を与えるものであって,不正指令電磁的記録に該当すると認められる。
 (法令の適用)
 罰条 判示第1の行為につき刑法168条の2第2項,1項
 判示第2の行為のうち不正指令電磁的記録作成の点につき刑法168条の2第1項1号,同供用の点につき同条第2項,1項
 判示第3の行為のうち各有印私文書偽造の点につき包括して刑法159条1項,同行使の点につき同法161条1項,159条1項
 科刑上一罪の処理 判示第2の罪につき,刑法54条1項後段,10条(判示第2の不正指令電磁的記録作成と同供用との間には手段結果の関係があるので,1罪として犯情の重い不正指令電磁的記録供用の罪の刑で処断)
 判示第3の罪につき,刑法54条1項後段,10条(判示第3の各有印私文書偽造のうち借用書写しに係るものと偽造有印私文書行使との間には手段結果の関係があるので,1罪として犯情の重い偽造有印私文書行使の罪の刑で処断)
 刑種の選択 判示第1,第2の各罪につきいずれも懲役刑を選択
 併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重)
 未決勾留日数の算入 刑法21条
 刑の執行猶予 刑法25条1項
 没収 刑法19条1項1号,2項本文(押収してある偽造された借用書1枚(平成30年押第12号の1)及び偽造された借用書写し1枚(同号の2)の各偽造部分は,いずれも判示第3の犯罪行為を組成した物で,何人の所有をも許さないもの)
 訴訟費用の負担 刑事訴訟法181条1項本文
 (量刑の理由)
 本件は,被告人が,被害者の使用する携帯電話機に,位置情報の取得等の不正な指令を与えるプログラムをインストールするなどし(第1),同様の機能を有する別のプログラムを作成して上記携帯電話機にインストールするなどし(第2),被害者名義の借用書及びその写しを偽造し,その写しを裁判所に提出して行使した(第3)という不正指令電磁的記録供用,同作成,有印私文書偽造及び同行使の事案である。
 被害者の位置情報という重要なプライバシーの侵害を可能とする不正なプログラムを,市販のアプリケーションソフトを偽装するなどして密かに作成ないし供用した第1,第2の各犯行は,携帯電話機のプログラムに対する社会の信用を害するとともに,被害者に大きな不安を与えた陰湿なもので,取得した情報の一部をインターネット掲示板に流出させたことも見過ごせない。第3の偽造行為も,被害者の筆跡を練習して借用書やその写しを偽造した周到なもので,そのような偽造文書を証拠として裁判所に提出するという行使の態様も,相手方である被害者に不当な負担を与え,司法制度に悪影響を及ぼしかねない悪質なものである。
 被告人の刑事責任は到底軽視できず,また第1,第2の各犯行について不合理な弁解に終始する被告人から反省の意思を看て取ることもできないものの,前科のない被告人につき,前記の犯情から直ちに実刑に処すべきであるとまでは認め難い。第3の犯行については被害者との間で130万円を支払うことなどを内容とする示談が成立してその示談金を支払っていること,父親が監督を誓約していることなども考慮すると,被告人については,主文の刑に処し,責任の所在を明らかにした上で,今回に限りその刑の執行を猶予するのが相当である。
 (求刑 懲役2年,主文の借用書及び借用書写しの没収)
 徳島地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 坂本好司 裁判官 佐藤洋介 裁判官 平山裕也)