児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

粟田知穂(あわたともほ)検事曰く「わいせつな行為とは,性欲を刺激,興奮又は満足させ, かつ,普通人の性的差恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為をいう」(条文あてはめ刑法)

「わいせつな行為とは,性欲を刺激,興奮又は満足させ, かつ,普通人の性的差恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為をいうものとされます」(金沢支部s36.5.2)は、性的意図を含み社会的法益を重視する定義であり大法廷h29.11.29では採用されませんでした。

高裁判例は定義を模索しています。

 いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう(金沢支部S36.5.2)
・・・
 性的自由を侵害する行為(大阪高裁 大法廷h29.11.29の控訴審
・・・
 「一般人の性欲を興奮,刺激させるもの,言い換えれば,一般人が性的な意味のある行為であると評価するものと解されるから,強制わいせつ行為に該当する。」東京高裁H30.1.30(奥村事件 上告棄却)
・・・

 「被告人が13歳未満の男児に対し,~~などしたもので,わいせつな行為の一般的な定義を示した上で該当性を論ずるまでもない事案であって,その性質上,当然に性的な意味があり,直ちにわいせつな行為と評価できることは自明である。」(広島高裁H30.10.23 奥村事件 上告中)
・・・
「わいせつな行為」に当たるか否かは,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断すべきである。(福岡高裁H31.3.15)

条文あてはめ刑法

「わいせつな行為」
わいせつな行為とは,性欲を刺激,興奮又は満足させ, かつ,普通人の性的差恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為をいうものとされます5)。
5)名古屋高金沢支判昭和36. 5 . 2下刑集3 . 5=6 .399
ただし, その保護法益は個人の性的自由ですから,被害者の意思に反するかどうかが重要であり,例えばキスをする行為は,公然わいせつ行為には該当しませんが,被害者の意思に反して無理に行うときは強制わいせつ行為となります6)。
具体的に問題となるのは,着衣の上から身体に触れる態様ですが,陰部や乳房を下着の上から撫でるような態様についてはわいせつな行為と言い得る7)一方, それに至らない態様のものについては,痴漢行為として条例違反により処理されることが多いようです(例えば,東京都や大阪府では「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」等において,人を著しく差恥させ,又は人に不安を覚えさせるような方法で,公共の場所又は公共の乗物において,衣服等の上から又は直接人の身体に触れることを禁止しています。
ただし,条例による罰則により科することのできる刑は法176条の法定刑をかなり下回るため, まずは強制わいせつ行為に該当しないかどうかという検討を先行させるべきでしょう。)。また,従来強制わいせつ行為とされていた行為のうち,肛門性交, 口腔性交については,改正後は法177条の強制性交等罪により重く処罰されることとなりました(後述「5性交等」)。
本件事例においては, 甲がVに対して行った行為のうち,右手でVの右胸を鴦掴みにして更に抱き付くようにした行為については,冬季における着衣の上からとは言え,被害者の性的自由に対する侵害が相当程度認められるので, わいせつな行為といえるでしょう。
ただ, その前のVの頬に唾をかけた行為については, Vの心情を考えるとやり切れない思いもありますが,客観的に性的差恥心を害するものに至っているかについて疑問があり, わいせつな行為には至らず,暴行にとどまると解することが多いのではないでしょうか。
他方, 甲が保管していた動画十数点に記録された甲の行為については,前述のとおり, その具体的態様を明らかにした上で,法177条の強制性交等に至っているか,法176条のわいせつな行為に当たるか, それとも痴漢行為として条例違反に止まるか(ただし, その場合に公共の場所における行為といえるかについては問題となり得ます。) ,判断することになると思われます。

監護者性交無罪判決(福岡地裁R010718)

 監護者性交無罪判決(福岡地裁R010718)
 

福岡地方裁判所令和01年07月18日
出席検察官 清水登
私選弁護人 柴尾知宏
主文
被告人は無罪。
・・・
(求刑 懲役9年)
第2刑事部
 (裁判長裁判官 溝國禎久 裁判官 蜷川省吾 裁判官 多田真央)

女性による男児に対する強制性交(後段)は執行猶予(高松地裁h31.9.4)

 レアケースです。
 おっさんが小学生児童と「恋愛」だとしても、暴行脅迫がなかかったという評価になるだけで、それも177後段が予定するところだということで、重視されません。
 妊娠危険は女性、身体侵襲は女性とかいいだしたら、このケースにこの法定刑はそぐわないということになりますね。

https://www.ksb.co.jp/newsweb/index/14689
「お互いに恋愛感情…」 小6男児とわいせつ行為の23歳女に執行猶予付き判決 高松地方裁判所
当時小学6年生の男子児童とわいせつな行為などをした女に、高松地方裁判所は執行猶予付きの判決を言い渡しました。

 強制性交や児童買春・ポルノ禁止法違反などの罪で判決を受けたのは、23歳の女です。
 判決によると、女は今年1月高松市の自宅で13歳未満と知りながら、当時小学6年の男子児童とわいせつな行為をしました。また、去年12月には男子児童との性的な写真をスマートフォンで撮影しました。
 2人は、去年9月にスマートフォンのオンラインゲームを通じて知り合ったということです。

 4日の判決公判で高松地裁の三上孝浩裁判長は、「判断能力や性的知識が乏しいことにつけ込んで犯行に及んだことは悪質」と指摘しました。
 一方、「女と男子児童が『将来は結婚したい』旨のやりとりをするなど、お互いに恋愛感情を有していた。今後一切連絡しないなどの示談が成立している」として懲役5年の求刑に対して、懲役3年執行猶予5年の判決を言い渡しました。

男児と強制性交した女に有罪判決 /香川県
2019.09.05 朝日新聞
 小学生の男児と性行為をしたとして、強制性交などの罪に問われた被告に対し、高松地裁は4日、懲役3年執行猶予5年(求刑懲役5年)の判決を言い渡した。三上孝浩裁判長は「小学生の判断能力の乏しさにつけ込んだ犯行は悪質」と指摘した一方、「暴行や脅迫はなかった」などと述べた。
 判決によると、被告は今年1月、自宅で当時小学6年生だった福岡県内の男児(13)と性行為をした。
 強制性交罪は2017年の改正刑法で強姦(ごうかん)罪から名を変え、被害者が男性でも適用されるようになった。

人は.意思に反して他者の性的衝動・性的欲求の対象とされない権利を有し.わいせつ行為とはそのような権利を害しうる行為を意味すると解される(成瀬・後掲(下)29頁).成瀬幸典強制わいせつとわいせつ概念法学教室No.468 福岡高裁H31.3.15

 わいせつの定義をどんどん聞いて下さい。
 幼児の場合はどう説明するのかな。

[解説】
1 かつての学説・判例は.本罪のわいせつ行為を「性欲を興奮又は刺激せしめ.かつ. 一般人の性的羞恥心を害し.善良な性的道義観念に反する行為」としていた(成瀬・後掲上15頁) 。弁護人の主張の核心は.それを前提としつつ,本件行為は職場の宴会における悪ふざけ・嫌がらせとして着衣の上から行われたものであり
また下線③の事実に照らすと「性欲を興奮又は刺激せしめ」るものではなく.わいせつ行為に該当しないという点にあると解される。
これに対し.本判決は,わいせつ行為につき, 29年判決を引用した上で(下線①),下線② のように解すべきだとした。
弁護人が前提とするわいせつ行為の理解はわいせつ物頒布等罪における「わいせつ」概念に関する最高裁判例最判昭和26・5・10
刑集5巻6号1026頁等)を踏襲したものであるが,現在の多数説は同罪と本罪の保護法益の相違に照らし.本罪のわいせつ行為は, より広く「被害者の性的羞恥心を害する行為」と解すべきでありただ性的羞恥心は個人差が大きいこと等に鑑み,一般人の見地から見ても性的羞恥心を害するものであることが必要であるとしている(西田典之〔橋爪隆補訂〕「刑法各論〔第7版〕」98頁以下等) 。本判決の下線② はこれと同趣旨といえ近年の学説の理解に沿ったものと評しうる。

児童買春罪につき、「行為はあったが、年齢は知らなかった」と容疑を否認している。事案

 実態としては、児童が「17」と表示していると、補導されたり、遊客が逃げたりするので、はっきりとは表示されてない事が多い。
 逮捕されてしまうと、嘘でも自白してしまうことが多い。

 ちゃんと弁解するなら、対償供与約束時点と性行為時点とに分けて、年齢知情を説明して下さい。
http://okumuraosaka.hatenadiary.jp/entry/2018/10/09/000000

https://www.nikkansports.com/general/news/201909020000370.html
逮捕容疑は5月27日、旭川市内のホテルで同市の無職少女(17)が18歳未満であることを知りながら、現金約1万5000円を渡す約束をして、少女といかがわしい行為をした疑い。署によると、「行為はあったが、年齢は知らなかった」と容疑を否認している。

2人はツイッターで知り合い、やりとりをしていた。少女は援助交際を募る内容の書き込みをしており、インターネット上の不適切な書き込みを注意するサイバー補導で少女から事情を聴き発覚した。(共同)

第三者の嘆願書の扱い

原田「量刑判断の実際」も参照

杉田宗久「量刑事実の証明と量刑審理」量刑実務体系第4巻p217
(3) 犯罪の社会的影響(反響)
犯罪の社会的影響が量刑に及ぼす影響については.既に水島和男判事が報告され論文にまとめられており.その中で.同判事は,社会的影響に関しては「公知の事実」といえる場面も多いのではないかと指摘されている陥)。
現在の職業裁判官3名の審理の場合には.この点につき異論のある向きもあろうかと思われるが,少なくとも裁判員裁判の下では,一般市民の中から無作為で選ばれた6名の裁判員が加わって判断するのであるから,合計9名の合議体でその「公知性」が認められるという判断に達するならば.その事実的基礎は十二分に認められると解してよいのではなかろうか。
ただし.これは.社会的影響については一律に厳格な証明による立証が無用であると述べる趣旨ではない。
例えば稀な例ながら.社会的反響の著しい場合には.被害関係者以外の全くの第三者が被告人に対する厳罰を嘆願する署名活動を行い.その署名簿等を検察官に提出して証拠調べを求めてくるような場合もあり得る167)。
後に検討する第三者減刑嘆願書とは逆の場合であるが,社会的反響が.単なる「公知の事実」を超えて.特定の被告人に向けた具体的な個々人の声が書面という形で現れてきた場合についてまで,自由な証明などという比較的ゆるやかな取調べ方法にれによれば.弁護人が反対している場合でも.公判廷における適当な方法で取調べを行うことが可能ということになってしまう。
)でその証拠調べを行うことは相当とはいえまい。
これを取り調べたところで量刑上それが持つ意義は限られているから1曲),その証拠調べの必要性がどの程度あるのかは考え方の分かれるところであるが.仮にそ の取調べを行う場合には,厳格な証明によって, しかも.その概略を取り調べる限度(後述の第三者減刑嘆願の場合の@ゅのやり方に相当)にとどめるべきであろう169)

166)水島和男「犯罪の社会的影響と量刑」本書第2巻参照。
なお.その後公刊された小池・前掲注163)85頁以下は.犯罪の社会的影響を量刑上考慮すること自体を否定的に解している。

167) なお.被害者の友人・知人が寄せる厳前嘆願書については.被害者遺族の被害感情を述べた書面とほぼ同様の扱いをすべきであろう。

169) この問題に閲しては.原田判事が「量刑事実の立証〔第2版)J346頁以下で詳細に検討をされており.本文で述べたようなやり方をとることも是認されている。なお.いわゆる附属池田小学校事件においては.非常に多数の厳罰嘆願書が寄せられたようであるが.結局.公判では,その全体の外見と代表的なもの数点を写真に撮影した検察事務官作成の写真撮影報告書(立証趣旨は「大阪地方検察庁に提出された『嘆願書」の存在及び内容J)1通が弁護人の同意を得て取り調べられたようである。

・・・
p230
(9) 第三者減刑嘆願
三者が被告人に対する減刑を裁判所に嘆願する多数の減刑嘆願書が弁護人から証拠調べ請求されてくることがある。
この種の書而については,検察官は,近親者が作成した書面は同意.それ以外の者が作成した書面については不同意という対応をとることが多く.後者については.
①自由な証明としてそのまま取り調べる取扱い2附.
②「事実上一覧しておきます」として証拠ではなく単なる参考資料として預かる取扱い207)
③嘆願書を集めた者を証人尋問した上,その証言を裏付ける証拠物としてこれを取り調べる取扱い208)
④嘆願書を集めた者を証人尋問しその証言の際に,そのうちのl枚のみを示して「これと同じような書面を00枚集めました。」などとその収集状況を証言させるとともに,示したl枚については独立の証拠としてではなく.証人尋問の際に示した書面として証人尋問調書の末尾に添付させ,併せて残りの嘆願書については当事者に請求撤回をさせる取扱い209),
⑤弁護人が,嘆願書が何百枚存在する状況を写真撮影した上.この写真を証拠物(又は写真撮影報告書)として取り調べるという扱い,
⑥弁護人に嘆願書を公判廷に持参させた上公判廷で,その全体像(嘆願書が山のように積み上げられた様子や.その内の代表的なもの1枚~数枚)を検証(写真撮影)する扱い210),
⑦厳格な証明の対象となる書面であるから.証拠能力を具備しないとして取調べ請求を却下する取扱い211),
⑧証拠調べの必要性なしとして却下する取扱い212),
など種々の対応が考えられてきた。
筆者自身も含め.これまでの①~⑥のやり方をとってきた裁判官は.嘆願書を集めた者の被告人の更生にかける熱意を無にしたくないとの思いから.実際は,⑦説の裁判官と同様.嘆願書中にはその作成の真正や任意性に疑問があるものも含まれていることを十分承知し,かつまた,⑧説の裁判官と同じように,この種の嘆願書が存在していても量刑判断にはほとんど影響がないことを分かりつつ,あれこれ理論構成し実務上の智恵を働かせて種々の方法を模索してきたものである。
その趣旨は裁判員裁判の下でも基本的に変わらないものと思われるが,裁判員によってはこれを過大評価する懸念がないともいえないことを考えると,まず.②のような「顔を立てる」あるいは「表向き苦労に報いる」だけで,法律上の性質のよく分からないやり方や,①のような例外的にゆるやかな証拠調べの方式は望ましいとは言えないし逆に,嘆願書を集めるために熱心に活動したが,実際に今後の被告人の更生のためにどのような寄与を果たせるのかはっきりしない者まで証人尋問する③④のやり方も.裁判員にその証拠価値を過大評価されかねない危険性があり.あまり上策とはいえない感がある。
最終的に.⑦⑧のやり方を採り,このような証拠は裁判員の目には一切触れさせるべきでないとして.公判前整理手続段階で早々と証拠調べの芽を摘んでしまうというスタンスをとるか.それとも,署名活動をした人達の熱意にもそれなりに報いながらも.概略だけの証拠調べにとどめる⑤⑥のやり方をとるかは.裁判官の考え方次第であろう。
公判前整理手続での両当事者の意向等も踏まえて決するほかない。

水島和男「犯罪の社会的影響と量刑」量刑実務体系第2巻p273
3) マスメディアの報道が問題となる場面犯罪が社会に影響を及ぼすためには,犯罪の情報を社会に伝える媒体が必要となる。
放火犯のように犯罪そのものに一定の社会的影響を及ぼす契機が存するものがあるが,それでも,その犯罪情報を更に社会的に拡げるためにはこれを伝える媒体が必要となる。
いわゆる口コミによる情報伝達(犯罪者集団あるいはいわゆる関社会のアングラ情報を含む。)の役割も軽視できないが, なんといっても新聞,ラジオ,テレビ等のマスメディアによる情報伝達が重要273犯罪の社会的影響と量刑である。
前記の永山事件最高裁判決が, 「全国的にも『連続射殺魔事件』として大きな社会不安を招いた」とするのは.これらマスメディアによる全国的な犯罪情報の伝達による社会不安の惹起を問題としていることは明らかである。
更に,現在においては,インターネットによる犯罪情報の伝達が非常に重要なものとなっている。
特定サイトを通じて,金融機関の口座,通帳の売買や規制薬物の売買はもとより爆弾の製造方法等の犯罪情報までが容易に入手可能な状態になっているのであって,従前は特定の犯罪者集団や,いわゆる聞社会における口コミを中心に伝播されていた犯罪情報が,誰でも,何時でも.どこからでも,容易に入手可能となっているのが現状であって,犯罪の模倣という側面からはマスメディアによる場合以上の影響力を持つに至っているといっても過言でないであろう。
量刑実務上「犯罪の社会的影響」のうち一般予防的側面を軽視できない所以である。
マスメディアの報道については上記の永山事件最高裁判決に現れているように,犯罪情報の伝達により「犯罪の社会的影響Jを拡散しある意味で被害を拡大している面のあることを否定できない(連続射殺魔事件が広域事件であるとはいえ,マスメディアによる報道がなければ「全国的」に大きな社会不安を招くことはなかったであろう。)。
しかし,マスメディアの報道は現に存在し,行為者においてもそのことを承知の上で犯罪を犯している以上,犯罪の内容に応じてマスメディアの関心を引き,報道されることは予測可能の事態というべきであるから,マスメディアによる犯罪情報の伝達により「犯罪の社会的影響」が拡散された面があるとしても甘受すべきであるともいえよう。
もっとも,マスメディアが犯罪に関心を示すのは,結果の重大性であるとか,犯行態様の悪質性といった,当該犯罪事実の内容のみに限らない。
犯罪自体はありふれたものであり,それ自体としては社会的影響が問題になるようなものでないとしても,行為者が有名な芸能人である等の理由からマスメディアの関心を引き,大々的に報道がなされるといった例も少なくない。
もとより,このような場合においては,社会に及ぼした影響といっても,犯罪とは直接の関係を有しない,ゴシップ記事的関心というものに過ぎないのであるから,行為者に対し責任を問う契機は何ら存在しない。
しかし,マスメディアにより大々的に報道がなされ,社会の耳目を引いている以上,威嚇的効果の高い状況にあるのであるから,一般予防面で考慮する余地がないではないが(例えば.有名な芸能人が覚せい剤事犯を犯し,マスメディアにより大々的に報道がなされているとすると,同人を厳しく罰することにより,覚せい剤事犯の重大性を国民に周知させることができるし,逆に,軽い処罰をすると覚せい剤に対する安易な態度を蔓延させ、 量刑実務上「犯罪の社会的影響」として,どのような事柄が考慮されているのかるという一般予防的効果が考えられる。), やはり不当であろう。
もっとも, 行為者が社会的に高い評価を受け, あるいは, 高い倫理性を求められる地位にある者(医師,教師,弁護士,検察官,裁判官ら法曹関係者等)である場合は別であろう。
万引き等のありふれた犯罪であっても,これらの地位に在る者が犯したとすると,その行為自体の非難可能性が高まると考えられるのであり,マスメディアが関心を寄せるのもその故であろう。
この場合においては,一般予防的側面よりも, 責任の要素の方の比重が重くなろう。
具体的には, 被告人が占めていた地位に対する国民一般の信頼を損なったという形での社会的影響が問題とされることとなろうが, そのような事態は行為者にとっても予測可能というべきであるから,責任を問う契機も存在するといえようか。

「乳児遺棄容疑で少女2人逮捕、援助交際で妊娠 荒川河川敷に遺体」の相手男性の責任


 児童と知っていた場合は、児童買春罪となって、避妊しなかったこと・妊娠させたことは悪情状として考慮される。
 児童と知らなかった場合は、児童買春罪は不成立。青少年条例違反(過失)が検討されるが、普通、立件されない。

https://www.excite.co.jp/news/article/Jiji_20190826X442/
乳児遺棄容疑で少女ら逮捕=荒川河川敷に遺体―警視庁
 東京都足立区の荒川河川敷で6月、乳児の遺体が見つかった事件で、警視庁捜査1課は26日までに、死体遺棄容疑でいずれも東京都内に住む乳児の母親(17)と友人の少女(17)を逮捕した。2人は「間違いありません」と容疑を認めているという。

 同課によると、現場周辺の防犯カメラの映像などから母親らが関与した疑いが浮上した。母親は「(遺棄の)前日に自宅で産み落とした」と説明。援助交際で妊娠したと話している。出産時に乳児が生きていたかは不明という。

 逮捕容疑は6月24日ごろ、同区千住曙町の荒川河川敷に、生後間もない男の子の遺体を遺棄した疑い。 

 逮捕された児童の弁護人としては、被害者性を強調すべきでしょう。

第三章 心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置
第一五条(心身に有害な影響を受けた児童の保護)
 厚生労働省法務省都道府県警察、児童相談所、福祉事務所その他の国、都道府県又は市町村の関係行政機関は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童に対し、相互に連携を図りつつ、その心身の状況、その置かれている環境等に応じ、当該児童がその受けた影響から身体的及び心理的に回復し、個人の尊厳を保って成長することができるよう、相談、指導、一時保護、施設への入所その他の必要な保護のための措置を適切に講ずるものとする。
2前項の関係行政機関は、同項の措置を講ずる場合において、同項の児童の保護のため必要があると認めるときは、その保護者に対し、相談、指導その他の措置を講ずるものとする。
第一六条(心身に有害な影響を受けた児童の保護のための体制の整備)
 国及び地方公共団体は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童について専門的知識に基づく保護を適切に行うことができるよう、これらの児童の保護に関する調査研究の推進、これらの児童の保護を行う者の資質の向上、これらの児童が緊急に保護を必要とする場合における関係機関の連携協力体制の強化、これらの児童の保護を行う民間の団体との連携協力体制の整備等必要な体制の整備に努めるものとする。
第一六条の二(心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策の検証等)
 社会保障審議会及び犯罪被害者等施策推進会議は、相互に連携して、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策の実施状況等について、当該児童の保護に関する専門的な知識経験を有する者の知見を活用しつつ、定期的に検証及び評価を行うものとする。
2社会保障審議会又は犯罪被害者等施策推進会議は、前項の検証及び評価の結果を勘案し、必要があると認めるときは、当該児童の保護に関する施策の在り方について、それぞれ厚生労働大臣又は関係行政機関に意見を述べるものとする。
3厚生労働大臣又は関係行政機関は、前項の意見があった場合において必要があると認めるときは、当該児童の保護を図るために必要な施策を講ずるものとする。

「少女は14年秋から15年春にかけ、複数回にわたり下半身を触られるなどした。」「準強制わいせつ、準強姦(ごうかん)未遂罪について嫌疑不十分で不起訴にしていた。」事案について110万円を認容した事例(名古屋地裁H31.8.28)

 訴額は550万円

https://www.chunichi.co.jp/s/article/2019082990085138.html
性的虐待、祖父に賠償命令 孫の供述「信用できる」、名古屋地裁
 2014年に愛知県尾張地方で、当時中学1年生だった少女(17)が60代の祖父に性的虐待を受けたとして、550万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が28日あり、名古屋地裁は祖父に約110万円の支払いを命じた。

 少女側代理人の弁護士や判決によると、同居の祖父と同じ寝室で寝ていた少女は14年秋から15年春にかけ、複数回にわたり下半身を触られるなどした。異変に気付いた中学校の教員が少女から事情を聴き、母親に連絡した。

 少女は17年8月、祖父を県警に告訴したが、事件から時間が経過し、直接証拠が少なかったこともあり、地検は18年7月に準強制わいせつ、準強姦(ごうかん)未遂罪について嫌疑不十分で不起訴にしていた。

 訴訟で祖父側は、孫に性的虐待をしたことはなく、少女の訴えは虚偽だなどと主張していたが、高木博巳裁判官は判決で「少女が祖父を陥れる虚偽供述をする動機はなく、少女の供述は信用できる」として、祖父の性的虐待を認めた。

 少女は現在、祖父とは離れて暮らしている。少女側代理人の弁護士は「刑事事件では決定的な証拠がない限り、起訴までのハードルが高い。勇気を出して訴えた少女の話を聞き、民事で性的虐待の事実を認める判決を出してくれたのは、少女の救いになる」と話した。
中日新聞

師弟関係の児童淫行罪で6/3起訴、7/18初公判結審(求刑4年)、8/28判決(2年6月実刑)(静岡地裁H31.8.28)

 あまり知られてませんが、師弟関係の児童淫行罪は6:4くらいで実刑の方が多いので、ちょっと争点作りながら罪体(余罪)を削って行かないと。

児童福祉法違反で元県立高教諭起訴-静岡地検
2019.07.05 静岡新聞
 静岡地検は4日までに、児童福祉法違反と児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪で、元県立高教諭で30代の無職の男を静岡地裁に起訴した。
 起訴は6月3日付。起訴状などによると、男は高校教諭だった2018年12月ごろから19年3月ごろまでの間、10代の少女が18歳未満と知りながら複数回にわたり淫行させた上、携帯電話で動画を撮影し児童ポルノを製造したとされる。
 男は4月に県教委から懲戒免職処分を受け、5月に県警に逮捕された。地裁は匿名で公判を行うことを決めている。
・・・・
児童福祉法違反の元教諭に4年求刑 静岡地裁初公判
2019.07.18 静岡新聞
 勤務していた高校の生徒に淫行をさせるなどしたとして、児童福祉法違反と児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪に問われた元県立高教諭の30代の男=懲戒免職=の初公判が18日、静岡地裁(伊東顕裁判官)で開かれた。被告は起訴内容を認め、検察側が懲役4年を求刑、弁護側が執行猶予付き判決を求めて即日結審した。判決は8月28日。
 検察側は論告で「自ら生徒を誘い出し、自分の性欲を満たすために教員の立場を乱用した特に悪質な犯行」と指摘した。弁護側は「悪意はなかった」と酌量を求めた。
 起訴状などによると男は2018年12月ごろから19年3月ごろまでの間、勤務校の女子生徒が18歳未満と知りながら複数回淫行をさせた上、携帯電話で動画を撮影し児童ポルノを製造したとされる。
 公判は被害者が特定される可能性がある「被害者特定事項」として匿名で行われた。
・・・
元教諭に実刑判決 児童福祉法違反 「卑劣な犯行」 静岡地裁
2019.08.28 静岡新聞
 勤務していた高校の女子生徒に淫行をさせるなどしたとして、児童福祉法違反と児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪に問われた元県立高教諭の30代の男=懲戒免職=に対し、静岡地裁は28日、懲役2年6月(求刑懲役3年6月)の実刑を言い渡した。
 伊東顕裁判官は判決理由で「青少年の健全な成長を促すべき立場の教師が被害者の未熟さに付け込んだ身勝手で卑劣な犯行」と非難。「反省の態度などを考慮しても刑の執行を猶予すべきではない」と実刑の理由を述べた。
 判決によると、男は2018年12月ごろから19年3月ごろまでの間、勤務校の女子生徒が18歳未満と知りながら県内で複数回淫行をさせ、携帯電話で動画を撮影し児童ポルノを製造した。

 検察側は初公判で懲役4年を求刑したが、動画の所有権放棄などの手続きを踏まえ、判決に先立ち求刑を懲役3年6月に変更した。公判は、被告の氏名について被害者が特定される可能性のある「被害者特定事項」と判断し、匿名で行った。

静岡地方裁判所
令和01年08月28日
 被告人に対する児童福祉法違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、当裁判所は、検察官山根誠之、弁護人内田隼二各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
被告人を懲役2年6月に処する。

理由
(犯罪事実)
第1 被告人は、●●●高等学校の教諭として、同校●●●部の顧問をしていたものであるが、同校の生徒であり、同部の部員である●●●(当時17歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、その立場を利用し、同児童が自己に好意を寄せていることに乗じ、
 1 平成30年12月11日午後4時55分頃から同日午後6時52分頃までの間に、静岡県●●●所在のホテル●●●において、同児童に自己を相手に性交させ、
 2 平成31年3月11日午後7時頃から同日午後7時43分頃までの間に、同県●●●所在の同校●●●において、同児童に自己を相手に性交させ、
 3 同月26日午後5時頃から同日午後5時15分頃までの間、同県●●●から北北東方向図測約177メートル先空き地に駐車中の自動車内において、同児童に自己を相手に性交させ、もって児童に淫行をさせる行為をした。
第2 被告人は、前記●●●(当時17歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、前記第1の1の日時、場所において、同児童に、その乳房、陰部を露出した姿態、被告人の陰茎を口淫する姿態及び被告人と性交する姿態をとらせ、これを撮影機能付き携帯電話機で撮影し、その動画データ1点をその携帯電話機本体の内蔵記録装置に記録させて保存し、もって児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した。
(証拠の標目) (カッコ内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)
 
(法令の適用)
  (1) 罰条
  (ア) 第1の行為 包括して、児童福祉法60条1項、34条1項6号
  (イ) 第2の行為 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項(2条3項1号、3号)、2項
  (2) 刑種の選択 いずれも懲役刑を選択
  (3) 併合罪加重 刑法45条前段、47条本文、ただし書、10条(重い判示第1の罪の刑に加重)
(量刑の事情)判示事実全部について
  1 被告人の公判供述、検察官調書(乙12)、警察官調書(乙7、8)
  2 ●●●の検察官調書(甲3)、警察官調書(甲1、2、9)
  3 警察官作成の実況見分調書(甲10)、捜査報告書(甲11、12、18)
 判示第1の事実について
  1 被告人の検察官調書(乙6、11)、警察官調書(乙5、9、10)
  2 ●●●の警察官調書(甲13)
  3 警察官作成の捜査報告書(甲5、6、8)、実況見分調書(甲7、14)、電話聴取書(甲15)
判示第2の事実について
  1 警察官作成の実況見分調書(甲19)、捜査報告書(甲20、16)
(法令の適用)
  (1) 罰条
  (ア) 第1の行為 包括して、児童福祉法60条1項、34条1項6号
  (イ) 第2の行為 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項(2条3項1号、3号)、2項
  (2) 刑種の選択 いずれも懲役刑を選択
  (3) 併合罪加重 刑法45条前段、47条本文、ただし書、10条(重い判示第1の罪の刑に加重)
 本件は、高校の教諭であった被告人が、顧問として指導していた部活動の部員で、当時17歳の被害者に対し、〈1〉自己を相手方として3回にわたり性交させて淫行した児童福祉法違反1件と、〈2〉その性行為等の場面を動画撮影して児童ポルノを作成した児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反1件の事案である。
 被告人は、悩みを抱えていた被害者をドライブに連れ出した際、被害者から「好きです。」などと告白され、被害者との交際を断れば、被害者の精神状態が悪化するなどと考え、交際を続け、本件各犯行に及んだというのであるが、仮にそのような事情があったとしても、妻子がいて被害者の好意に応じ難い立場である上、教諭として、また、部活動の顧問として、未成年者の健全な成長を促すべき立場にあるにもかかわらず本件犯行に及んだものであるから、本件は、被害児童を保護すべき立場の者が、逆に、被害児童の思慮分別の未熟さに付け込んだ身勝手で卑劣な犯行というべきであって、強い非難に値する。しかも、被告人が、判示のとおり児童ポルノの撮影に及んだほか、●●●あるいは、妻に被害者との関係が発覚した後もひそかに関係を続けるなどしていたことも考慮すると、被告人は、もっぱら自らの性欲を満たすため、被害者をもてあそんでいたといわざるを得ず、被害者の今後の成長に与える影響も憂慮される。被害者の家族が被告人の厳重処罰を求めるのも無理からぬものがある。
 そうすると、本件は、被害者を保護すべき立場の被告人が、被害者の情操を甚だしく害したという悪質な犯行というべきであって、以下のような被告人のために酌むべき事情を考慮しても、その刑の執行を猶予するのが相当であるとはいえない。
 すなわち、被告人が事実を認めて反省の態度を示していること、被害者の宥恕は得られなかったものの、賠償金として200万円を支払って示談したこと、当然のこととはいえ、●●●妻が情状証人として出廷し、被告人の更生を支援する旨証言していること、フォークリフトの免許を取るなど社会復帰を目指した取り組みを始めたことなど、被告人のために酌むべき事情も認められ、これらの事情を考慮すると、前記のとおり刑の執行を猶予するのは相当ではないものの、被告人を主文の刑に処するのが相当である。
(求刑-懲役3年6月)
刑事第1部
 (裁判官 伊東顕)

インターネット回線を通じて携帯電話機の位置情報の取得等の指令を与えるプログラムは不正指令電磁的記録に該当する(徳島地裁h30.12.21)

 こういう争点で良かったでしょうか

徳島地裁平成30年12月21日 
事件名 不正指令電磁的記録供用、不正指令電磁的記録作成、有印私文書偽造・同行使被告事件
 上記の者に対する不正指令電磁的記録供用,不正指令電磁的記録作成,有印私文書偽造・同行使被告事件について,当裁判所は,検察官安藤翔,弁護人木村正各出席の上審理し,次のとおり判決する。
理由
 (犯罪事実)
 被告人は,
 第1 正当な理由がないのに,平成27年11月8日から同月20日までの間,徳島市〈以下省略〉所在のホテル「a」又は同市〈以下省略〉所在のホテル「b」において,Aが使用する携帯電話機に,「○○」と称するインターネット回線を通じて携帯電話機の位置情報の取得等の指令を与えるプログラムを,同人に秘してインストールした上,同プログラムが実行可能な設定を行い,もって人が電子計算機を使用するに際してその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を,人の電子計算機における実行の用に供した。
 第2 正当な理由がないのに,平成28年2月12日午後7時37分頃から同日午後8時27分頃までの間,徳島市内又はその周辺において,人の電子計算機における実行の用に供する目的で,電子計算機を使用して,携帯電話機を用いて実行した際,実行者の意図に基づかず,携帯電話機の位置情報等をインターネット回線を通じて特定のサーバコンピュータに送信するなどの指令を与える電磁的記録である「△△」を作成し,もって人が電子計算機を使用するに際してその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を作成し,同日午後8時27分頃,同市〈以下省略〉所在のc店駐車場において,Aが使用する携帯電話機に,前記「△△」を同人に秘してインストールして実行可能な状態にし,もって人が電子計算機を使用するに際してその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を,人の電子計算機における実行の用に供した。
 第3 平成29年5月上旬頃,徳島市〈以下省略〉所在の被告人方において,行使の目的で,パーソナルコンピュータ等を用いて,「借用書」「Y様」「金伍拾萬円也」「上の金額を以下の約定とおり借り受けました。」「1.利息は年利8%とします。」「2.毎月25日を返済日とします。」「3.遅延損害金は年29%とします。」「元金に利息を付して,平成28年11月25日より,貴殿の指定する銀行口座に元利均等により毎月伍萬円ずつ振込にて支払います。」「平成28年5月9日」「借受人」などと印字した書面を作成し,同書面の下部にAの郵便番号,住所及び氏名を記入し,もってA作成名義の借用書1枚(平成30年押第12号の1)を偽造し,その頃から同年7月3日までの間,徳島県内又はその周辺において,コピー機を使用して同借用書の写し1枚を作成し,もって同人作成名義の借用書の写し1枚(平成30年押第12号の2)を偽造した上,同年7月3日,徳島市〈以下省略〉所在の徳島簡易裁判所において,同裁判所職員Bに対し,前記偽造に係るA名義の借用書の写し1枚を真正に成立したものであるかのように装って提出して行使した。
 (証拠の標目)
 括弧内の番号は,検察官請求証拠の証拠番号を示す。
 判示事実全部について
 ・被告人の公判供述
 判示第1及び第2の事実について
 ・証人Aの公判供述
 ・警察官作成の検証調書(甲32)
 判示第1の事実について
 ・第1回公判調書中の被告人の供述部分
 ・Aの警察官調書(甲12,13。いずれも不同意部分を除く。)
 ・d株式会社代表取締役社長作成の「回答書」と題する書面(甲8)
 ・警察官作成の捜査報告書(甲1ないし6),同抄本(甲9,10),捜査関係事項照会書謄本(甲7)
 判示第2の事実について
 ・第3回公判調書中の被告人の供述部分
 ・四国管区警察局徳島県情報通信部情報技術解析課長作成の「解析結果について(回答)」(甲20),「解析結果について(回答)(第一報)」(甲22),「解析結果について(回答)(第二報)」(甲23),「解析結果について(回答)(終報)」(甲24)とそれぞれ題する書面
 ・徳島中央警察署長作成の情報技術解析要請書謄本(甲19)
 ・徳島東警察署長作成の情報技術解析要請書謄本(甲21)
 ・警察官作成の捜査報告書(甲15,17,18,26,29,30,38),同抄本(甲16,25,28)
 判示第3の事実について
 ・被告人の警察官調書(乙10,11)
 ・被告人作成の任意提出書(甲48)
 ・B(甲44),A(甲45。ただし,不同意部分を除く。)の各警察官調書
 ・徳島地方裁判所長作成の「捜査関係事項照会書について」と題する書面(甲43)
 ・警察官作成の捜査報告書(甲39ないし41,47,53),捜査関係事項照会書謄本(甲42),領置調書(甲49),差押調書(甲51)
 ・押収してある偽造された借用書1枚(甲50,平成30年押第12号の1),偽造された借用書写し1枚(甲52,同号の2)
 (争点に対する判断)
 本件の争点は,①判示第1に係る「○○」のインストールに関するAの同意の有無,②判示第2に係る「△△」(以下「本件プログラム」という。)をAの携帯電話機にインストールしたのが被告人か否か,③同プログラムが不正指令電磁的記録に該当するか否かである。
第1 「○○」のインストールに関するAの同意について
 1 関係証拠(甲1ないし10,12,13,証人A,被告人の公判供述)によれば,以下の事実が認められる。
  (1) 被告人は,平成27年9月下旬頃ないし同年10月頃,いわゆる出会い系サイトを通じてAと知り合い,その頃から交際し,肉体関係を持つようになった。
 判示第1の「○○」は,インターネット回線を通じて,インストールされた携帯電話機に対して位置情報取得等の指令を与えるプログラムで,紛失した携帯電話機を探す際などに使用される。
  (2) 被告人とAは,同年11月8日に前記「aホテル」205号室を利用したところ,在室中の同日午後3時43分頃,被告人は,Aの携帯電話機に「○○」をインストールした。
 また,被告人とAは,同月20日午後8時33分頃から同日午後11時42分頃までの間,前記「bホテル」108号室を利用したところ,在室中の午後11時16分頃,被告人は,Aの携帯電話機を使ってデジタルコンテンツの配信サイトで「○○」の検索をした。
  (3) 被告人は,同日午後11時19分頃から同年12月2日午後3時12分頃までの間,「○○」により,Aの携帯電話機の位置情報や電話番号,SIMカードのシリアルナンバーを取得して自己のパソコンに保存した。また,取得したAの携帯電話機の位置情報を基に,Aの外出先をインターネットの掲示板サイトに書き込むなどした。
  (4) 被告人は,平成28年1月7日,Aと会い,Aとの会話を無断で録音した。この中で,Aが,位置情報が外部に漏れていることを懸念する趣旨の発言をしたのに対し,被告人は,Aの携帯電話機を調べてみる旨答えた後,「あっ,これかな,○○」,「まあ言えば,監視をさせるアプリ」,「入れられたかもしれんね」などと発言し,Aも「何これ,どこからついてきたんですか」などと述べるやりとりの後,被告人は「○○」をアンインストールした。
 2 Aの供述について
  (1) Aは,公判廷において,被告人とホテルを利用した際,被告人に携帯電話機へアプリのインストールをしてもらったことはないし,「○○」のインストールにも心当たりはない旨供述する。
 A及び被告人は,前記のとおり,「○○」をアンインストールする際,Aがそれまで「○○」がインストールされていたことに気付いておらず,被告人も「○○」のインストール等に関与していないことを前提とする会話をしており,Aの供述は,これらの会話とよく整合する自然なものである。また,Aの携帯電話機への「○○」のインストールは,被告人とAがホテルを利用している間に行われており,被告人が,Aの入浴中などに,Aに秘して上記インストールを行うことは可能な状況であった。
 確かに,弁護人も指摘するように,Aの公判供述には,前記各ホテル内での被告人とのやりとり等,覚えていないことが多い。しかしながら,いかに記憶が減退したといっても,自身の外出先の情報をインターネット掲示板に書き込まれたのを知り,その原因である「○○」のアンインストールに立ち会ったAが,被告人による「○○」のインストールやそれに同意したことすら忘れて前記のような会話をするとはおよそ考え難い。Aに,被告人を陥れる虚偽の供述をする具体的な動機も見当たらず,Aの上記供述は信用することができる。
 3 被告人の供述について
 一方,被告人は,公判廷において,「○○」のインストールにつきAの同意があった,前記の会話は,Aがストーカー被害に遭っているような状況を楽しむ疑似ストーカー体験の一環として行ったものであるなどと供述する。しかしながら,前記の会話は,「○○」のインストールをあらかじめ知っていた者同士の会話として余りに不自然であるし,Aも被告人の言うようなことは述べていない。また,Aが,出会い系サイトで知り合って2か月程度の被告人に対し,日常的な位置情報という高度のプライバシー情報を与えるプログラムをインストールさせ,さらに被告人がいうように外出先情報のインターネット掲示板への書き込みまで承諾したというのも不自然であって,被告人の供述を信用することはできない。
 4 結論
 以上のとおり,「○○」のインストールについてAの同意はなく,被告人がAに秘して行ったと認められる。
 なお,前記のとおり,「○○」は平成27年11月8日にインストールされているものの,実行可能になったのは同月20日である。同日に実行可能となった「○○」が,同月8日にインストールしたものか,被告人が述べるように同月20日に再インストールしたものか,携帯電話機の解析上客観的に明確とはいえないため,インストールの日時・場所については,判示第1(公訴事実)のとおり認定するのが相当である。
第2 本件プログラムをインストールした者及び同プログラムの不正指令電磁的記録該当性について
 1 関係証拠(甲15ないし25,29,30,38,証人A,被告人の公判供述)によれば,以下の事実が認められる。
  (1) 被告人は,判示第2の日時,場所において,本件プログラムを作成した。本件プログラムは,携帯電話機の画面上,市販のプログラム「□□」と同じアイコンとともに「□□」と表示され,インストールされた携帯電話機に対し,10分間隔でその位置情報を被告人が運営・管理するウェブサイトのスクリプトファイルに送付する指令を与えたり,Aの自宅付近や職場付近等のWi-Fiのアクセスポイントを検知することで同様の指令を与えたりする機能を有しており,インストール後,上記のアイコンをタップしてアプリを実行することでデータ送信等が開始される。
  (2) 被告人とAは,交際関係を解消する話になって,互いの携帯電話機内のメールデータ等を消去するため,平成28年2月12日夜,判示第2の駐車場で会い,被告人の自動車内において,互いの携帯電話機を交換し,メールや画像ファイル等の個人情報を削除するなどした。同日午後8時24分頃から同日午後8時44分頃までの間にも,被告人はAとの会話を無断で録音しており,同日午後8時28分頃,被告人は,「消しますよ。完全に削除。中断するよ,ちょっと何か受信中。実施しました。」と発言した。
 一方,本件プログラムは,同日午後8時27分頃,Aの携帯電話機にインストールされた。被告人は,同日午後8時31分頃から同年4月20日にかけてその位置情報等を取得し,一旦交際を続けることとなったAとの関係が再び悪くなった後,取得した位置情報等を用いてAの位置情報や職場の情報をインターネット掲示板に書き込んだ。
 2 前記のとおり,被告人とAが二人きりで会い,被告人がAの携帯電話機のメール等を削除する内容の発言をしているのと同時刻頃に本件プログラムがインストールされていることからすれば,被告人がそのインストールを行ったことはかなり強く推認される一方,被告人以外の者がインストールをしたとは考え難い。さらに,本件プログラムは両者が会う前50分以内に被告人によって作成されていること,本件プログラムには,Aの自宅や職場付近への接近を検知して位置情報を送る機能があったことからすれば,本件プログラムをインストールし,実行可能な状態にしたのは,被告人であると認められる。
 3 これに対し弁護人は,被告人はAと前記駐車場で会う前に,本件プログラムを自慢するため,メールに添付してAに送信し,Aと会った際にもそのメールを再送信したので,Aがこれに誤って触れたことで,気付かないうちにインストールされた可能性があると主張し,被告人もこれに沿う供述をする。
 しかしながら,被告人とAは,両者の交際関係を解消するために会うことになっていたにもかかわらず,その直前に,Aの位置情報を探知するなどの機能を備えた本件プログラムを,自慢するためメールに添付して送信したというのは不自然である。Aの携帯電話機にインストールされた時刻ないしその前後頃,Aとの間で本件プログラムに関する会話はなされておらず,Aも被告人からそのような話があったとは述べていないのであって,この点に関する被告人の供述を信用することはできない。なお,弁護人は,本件プログラムがAの携帯電話機にインストールされた頃,同じ車内にいたはずの被告人とAの各携帯電話機が拾っているWi-Fiのアクセスポイントが異なっていることなどにつき,本件証拠上合理的な説明がなされていない旨主張し,被告人も同様の供述をするが,近くにある携帯電話が必ずしも同じアクセスポイントに接続されるとは限らず,被告人が,前記の車内でAの携帯電話機のメール削除等の操作を行っていたことは,Aと被告人の供述その他の証拠から明らかであって,この点に関するその余の弁護人の主張も採用の限りでない。
 4 以上のとおり,本件プログラムのインストールや実行可能な設定は,被告人が行ったと認められ,前記の会話内容や本件プログラムの機能からすると,Aは上記のインストール等を知らなかったと認められる。
 5 本件プログラムが,インストール先の端末に,Aの自宅等を含む位置情報等を被告人の管理するサーバへ送る指令を与えるものであること,アイコンや名称が市販のアプリケーションと同一で,インストール先の端末使用者を誤信させ得るものであったこと,被告人がAに秘してその携帯電話機にインストール等を行い,その位置情報等を取得していることからすれば,本件プログラムは,Aの意図に反してその携帯電話機に上記のような動作をさせる不正の指令を与えるものであって,不正指令電磁的記録に該当すると認められる。
 (法令の適用)
 罰条 判示第1の行為につき刑法168条の2第2項,1項
 判示第2の行為のうち不正指令電磁的記録作成の点につき刑法168条の2第1項1号,同供用の点につき同条第2項,1項
 判示第3の行為のうち各有印私文書偽造の点につき包括して刑法159条1項,同行使の点につき同法161条1項,159条1項
 科刑上一罪の処理 判示第2の罪につき,刑法54条1項後段,10条(判示第2の不正指令電磁的記録作成と同供用との間には手段結果の関係があるので,1罪として犯情の重い不正指令電磁的記録供用の罪の刑で処断)
 判示第3の罪につき,刑法54条1項後段,10条(判示第3の各有印私文書偽造のうち借用書写しに係るものと偽造有印私文書行使との間には手段結果の関係があるので,1罪として犯情の重い偽造有印私文書行使の罪の刑で処断)
 刑種の選択 判示第1,第2の各罪につきいずれも懲役刑を選択
 併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重)
 未決勾留日数の算入 刑法21条
 刑の執行猶予 刑法25条1項
 没収 刑法19条1項1号,2項本文(押収してある偽造された借用書1枚(平成30年押第12号の1)及び偽造された借用書写し1枚(同号の2)の各偽造部分は,いずれも判示第3の犯罪行為を組成した物で,何人の所有をも許さないもの)
 訴訟費用の負担 刑事訴訟法181条1項本文
 (量刑の理由)
 本件は,被告人が,被害者の使用する携帯電話機に,位置情報の取得等の不正な指令を与えるプログラムをインストールするなどし(第1),同様の機能を有する別のプログラムを作成して上記携帯電話機にインストールするなどし(第2),被害者名義の借用書及びその写しを偽造し,その写しを裁判所に提出して行使した(第3)という不正指令電磁的記録供用,同作成,有印私文書偽造及び同行使の事案である。
 被害者の位置情報という重要なプライバシーの侵害を可能とする不正なプログラムを,市販のアプリケーションソフトを偽装するなどして密かに作成ないし供用した第1,第2の各犯行は,携帯電話機のプログラムに対する社会の信用を害するとともに,被害者に大きな不安を与えた陰湿なもので,取得した情報の一部をインターネット掲示板に流出させたことも見過ごせない。第3の偽造行為も,被害者の筆跡を練習して借用書やその写しを偽造した周到なもので,そのような偽造文書を証拠として裁判所に提出するという行使の態様も,相手方である被害者に不当な負担を与え,司法制度に悪影響を及ぼしかねない悪質なものである。
 被告人の刑事責任は到底軽視できず,また第1,第2の各犯行について不合理な弁解に終始する被告人から反省の意思を看て取ることもできないものの,前科のない被告人につき,前記の犯情から直ちに実刑に処すべきであるとまでは認め難い。第3の犯行については被害者との間で130万円を支払うことなどを内容とする示談が成立してその示談金を支払っていること,父親が監督を誓約していることなども考慮すると,被告人については,主文の刑に処し,責任の所在を明らかにした上で,今回に限りその刑の執行を猶予するのが相当である。
 (求刑 懲役2年,主文の借用書及び借用書写しの没収)
 徳島地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 坂本好司 裁判官 佐藤洋介 裁判官 平山裕也)

 脅迫による児童ポルノ要求行為(府青少年健全育成条例違反容疑)

 やっぱり送っちゃってる事案です。既遂・既遂で最後が未遂になってる。
 脅迫があると、威迫・困惑に該当しないことになります。
 脅して送らせたら強制わいせつ罪、脅して送信要求したら、強制わいせつ罪未遂。じゃないですか。

大阪府青少年健全育成条例
(青少年に児童ポルノ等の提供を求める行為の禁止)
第四十二条の二 何人も、青少年に対し、当該青少年に係る児童ポルノ等(児童買春・児童ポルノ禁止法第二条第三項に規定する児童ポルノ及び同項各号のいずれかに掲げる姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録をいう。)の提供を求めてはならない。

(平三一条例七・追加)
第五十六条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
三 第四十二条の二の規定に違反した者であって、次のいずれかに該当するもの
イ 当該青少年に拒まれたにもかかわらず、当該提供を求めた者
ロ 当該青少年を威迫し、欺き、若しくは困惑させ、又は当該青少年に対し、対償を供与し、若しくはその供与の約束をする方法により、当該提供を求めた者
第六十一条 この条例の罰則は、青少年に対しては、適用しない。ただし、青少年が営む営業に関する罰則の適用については、この限りでない。

わいせつ動画要求:裸の自撮り 容疑で高校生書類送検 阿倍野署 /大阪
2019.08.24 毎日新聞
 阿倍野署は23日、女子高校生に自らのわいせつ動画を送るよう要求したとして、府内の男子高校生の少年(15)を府青少年健全育成条例違反などの疑いで書類送検した。

 4月の条例改正で、自身の裸の画像を送信するよう求める「自画撮り」要求などが罰則対象になった。府内での摘発は初めて。

 送検容疑は6月17~18日、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で、府内の女子高校生にわいせつな動画を送信するよう求めたとしている。「性的欲求を満たすためにやった」と容疑を認めている。

 同署によると、女子高校生は昨年12月、少年から「悪いうわさを学校に流す」と脅されて動画を送信。今年6月に再度、動画を要求されていたという。【野田樹】
・・・
わいせつ動画要求 15歳容疑で書類送検=大阪
2019.08.24 読売新聞
 女子高校生にわいせつな動画を送るよう要求したとして、阿倍野署は23日、府内に住む高校生の少年(15)を府青少年健全育成条例違反容疑などで書類送検した。4月施行の改正条例は18歳未満にわいせつな動画などの提供を求める行為を禁じており、適用は初めて。少年は「性欲を満たすためにやった」と容疑を認めているという。

 発表では、少年は6月、SNSを通じて府内の女子高校生に対し、18歳未満と知りながら、わいせつな動画を要求した疑い。

青少年条例違反(わいせつ行為)につき、「体は触ったがわいせつの意図はない。納得できない」と弁解している事例

道の解説では

「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激し、興奮させたり、その露骨な表現によって、健全な常識ある一般社会人に対し、性的な差恥、嫌悪の情をおこさせる行為をいう。

とされていて、刑法の強制わいせつ罪の昔の判例の定義をそのまま流用していますが、大法廷h29.11.29以降、強制わいせつ罪のわいせつの定義はないので、青少年条例の関係でも再定義が必要でしょう。性的意図の要否も検討する必要があります。
 強制わいせつ罪のわいせつの定義については、保護法益からダイレクトに「性的自由を侵害する行為」「性的羞恥心を害する行為」と説明する見解がありますが、青少年わいせつ罪についてその論法で行けば、「青少年の健全育成を害する行為」としか定義できないことになります。性行為なので「青少年の健全育成を害する性的行為」としてみても同じです。さらに、青少年わいせつ行為についても、福岡県青少年条例違反被告事件判決のいう「広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきでなく、①青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う○○行為のほか、②青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような○○行為をいうものと解するのが相当である。(最大判S60.10.23)」を加味する必要があって、定義は困難です。
 ここでも裁判所にわいせつの定義を聞いて欲しいところです。

北海道青少年健全育成条例の解説h26
【趣旨】
本条は、青少年に対してなされる淫行又はわいせつな行為や、わいせつな行為をさせ、又は淫行若しくはわいせつな行為を教え、見せる行為を禁止する規定である。
【解説】
青少年は、成人と比べその心身が未発達の部分が多く、精神的に判断能力も乏しいことから、成人が青少年を性の対象として不道徳な行為を行うことは、青少年にとって痛手となり、後々まで大きな傷手となる。
このような青少年の特質に配盧してその健全な育成を阻害するおそれのあるものとして、社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止したものである。
1 第1項関係
(1) 第1項は、青少年を誘惑し、又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為、又は青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為を禁止しているものである。
(2) 「何人も」とは、第20条の解釈と同様である。
(3) 「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般を言うものではなく、
○青少年を誘惑し、威迫し、欺岡し又は困惑させるなど、その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為
のほか、
○青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為
をいう。
(4) 「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激し、興奮させたり、その露骨な表現によって、健全な常識ある一般社会人に対し、性的な差恥、嫌悪の情をおこさせる行為をいう。
(5) 「してはならない」とは、青少年を相手方として、淫行又はわいせつな行為を行うことを禁止しているのであり、相手方の同意、承諾の有無及び対価の授受の有無を問わない。

https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20190822/7000012955.html
自立支援施設 わいせつ容疑逮捕
08月22日 03時38分
札幌市にある障害者の自立支援施設の職員が、知的障害があって施設に通う女子高生の体を服の上から触るわいせつな行為をしたとして逮捕されました。
男は「わいせつの意図はない」と容疑を否認しているということです。
逮捕されたのは、札幌市北区に住む障害者の自立支援施設の職員、容疑者です。
先月13日ごろ、勤務先の施設に通う知的障害のある16歳の女子高生の体を服の上から触るわいせつな行為をしたとして、道の青少年健全育成条例違反の疑いが持たれています。
警察が捜査したところ、体を触ったことを認めたことから逮捕しました。
女性が、高校の教師に「体を触られた」と訴えて家族を通じて警察に通報したことから事件が発覚しました。
警察の調べに対し、「体は触ったがわいせつの意図はない。納得できない」と供述し、容疑を否認しているということです。
この施設は、NPO法人が運営する通所型の障害者自立支援施設で、女性は6年ほど前から通っているということです。

エアドロップ痴漢は、わいせつ電磁的記録記録媒体公然陳列罪・頒布罪(刑法175条1項)か卑わい行為(福岡県迷惑行為防止条例6条1項2号)か

「女性のわいせつな画像を同県糸島市の男性(34)のアイフォーンに送信した疑い。」ということで、送信した画像が、刑法のわいせつな画像であって誰彼無く送信した場合は、わいせつ電磁的記録記録媒体公然陳列罪ないしは頒布罪が成立して、卑わい行為には該当しない可能性があります。
 

条解刑法
不特定又は多数の人への交付・譲渡等であるから,不特定かつ多数の場合のみでなく,不特定かつ少数の場合も,特定かつ多数の場合も,それに該当する。たまたまl名の顧客に交付・譲渡等したに過ぎない場合であっても,それが不特定又は多数の人に対して交付・譲渡等する意思でされたものであれば,頒布に該当する(東京高判昭47・7・14判タ288-381,東京高判昭62・3・16判時1243-141)
・・・
わいせつ図画頒布等被告事件
東京高等裁判所判決昭和47年7月14日
東京高等裁判所判決時報刑事23巻7号136頁
       判例タイムズ288号381頁
 所論は、原判決がその第一の一、二において、わいせつ図画頒布の事実を認定し、これに刑法第百七十五条前段を適用しているけれども、もともと「頒布」とは不特定または多数人に対し無償で交付することをいうのであるが、本件において頒布を受けたのは孝平という特定人であるから、特定人に対する無償交付は「頒布」ということはできない。これを頒布行為であるとした原判決は法令の解釈適用を誤つたもので、判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。
 よつて案ずるに、わいせつ図画の頒布罪が成立するためには、わいせつ図画を不特定または多数人に無償交付することを要することは所論のとおりであるが、不特定または多数人に対してなす目的のもとに無償交付がなされるかぎり、特定の一人に対して二回の無償交付をなしたに止まる場合といえども、これを「頒布」行為というを妨げないと解するのが相当である。これを本件についてみるに、原判決挙示の判示第一の一、二関係の諸証拠を総合すると、本件わいせつ写真集は、定也にたのまれて、被告人が自分の分をも含めて三千部を印刷の営業部長に依頼して作成したものの一部であり、被告人はパチンコ店「」で同店々員孝平に対し八ミリのわいせつフィルムを賃貸したいと申し入れたことがあること、被告人が「牡丹」に来るとき、いつも黒皮製の鞄の中の紙袋に、わいせつブック、春画をもつていたこと、孝平は他の店員から、被告人が他の店員にもわいせつ物を売りに来たことがあると聞いたことがあること、被告人が孝平に交付したものと、同種のものを矗士にも販売していること、などの諸事実が認められ、これらの事実を総合すると、被告人にはわいせつ図画を不特定または多数人に対して交付する目的があつたと認定するのが相当である。このような目的のもとに関根孝平に対して本件図画を無償交付した以上、これを「頒布」行為と評価するに何ら間然するところはない。これと同旨に出た原判決には何ら所論のような法令の解釈適用の誤りはなく、論旨は理由がなく、採用できない。
・・・・
東京高等裁判所判決昭和62年3月16日
判例時報1243号141頁
       理   由
 本件控訴の趣意は、弁護人海部安昌、同相原宏各作成名義の控訴趣意書に記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官小林永和作成名義の答弁書に記載のとおりであるから、これらを引用する。
 一 弁護人海部安昌の控訴趣意第一(理由不備の主張)について
 論旨は、わいせつ図画販売罪が成立するためには、わいせつ図画を不特定又は多数の人に売ることが必要であり、一回の売渡しをもって右販売罪が成立するとするには、その売渡しが、不特定の人を相手方とするものであることのほか、不特定又は多数の人を対象とする反復の意思のもとになされたものであることが必要であるとされており、右要件は、判決の「罪となるべき事実」に判示されなければならないところ、原判決は、被告人が昭和六〇年一一月一〇日Aにわいせつビデオテープ二巻を売り渡した、という、A一人に対するただ一回の売渡しの事実を認定し、もって被告人がわいせつ図画を販売したものと判示しているが、右Aが特定人であれば右販売罪は成立しないのであるから、同人が不特定人であることの判示は不可欠であるのに、その旨の判示をしておらず、また、右売渡しが反復の意思をもってなされたことの判示もなく、原判決の右判示によっては、わいせつ図画販売罪の成立を認定するに由なきものであって、右の点において原判決には理由不備の違法がある旨主張する。
 そこで検討するに、刑法一七五条のわいせつ図画販売罪について有罪判決をするには、罪となるべき事実として、当該わいせつ図画を不特定又は多数の者に有償譲渡したという、「販売」にあたる事実を判示すべきであり、本件のように、当該行為が一人の者に対する一回の売渡しである場合には、それが不特定の者に対する売渡しであって、反復の意思でなされたものであることが明らかであるように判示すべきものと解されるところ、原判決は、罪となるべき事実として、「被告人は、静岡県浜松市丸塚町《番地略》所在のビデオテープのレンタル業『ビデオショップ甲田』店を経営している者であるが、昭和六〇年一一月一〇日ころ、同店前駐車場において、Aに対し、男女性交の場面等を露骨かつ詳細に撮影したわいせつのビデオテープ二巻を代金二万四〇〇〇円で売り渡し、もってわいせつの図画を販売したものである。」と判示しており、右判示事実自体からも、レンタル業とはいえ、ビデオテープを扱う店を経営する者である被告人が、本件わいせつビデオテープ二巻を客であるAに売り渡したものであり、原判決が「もってわいせつ図画を販売したものである」と認定判断しているように、右売渡しが、不特定の客に対する有償譲渡、すなわち、刑法一七五条にいう販売にあたるものであることを読みとることができるものというべきであって、原判決に所論の理由不備があるとはいえない。
 論旨は理由がない。
 二 弁護人相原宏の控訴趣意一(法令解釈の誤りの主張)について
 論旨は、刑法一七五条にいう販売とは、不特定又は多数の人に対する有償譲渡をいうところ、被告人が販売した相手先はAただ一人である上、同人は以前から甲田店の顧客であり、被告人はAから頼まれて、ビデオテープを販売したものであって、原判決は、刑法一七五条所定の販売の解釈を誤って適用したものである旨主張する。
 しかしながら、刑法一七五条にいう販売の意義は所論のとおりであるが、原判決挙示の関係証拠によれば、右Aが前記店の不特定の客の一人であること、被告人は、本件以外にも、同人に対し、あるいは他の者に対し、わいせつビデオテープを売り渡して利益をあげており、本件起訴にかかる売渡しもその一環であることが認められ、これがわいせつ図画の販売にあたることは明白であって、被告人の本件所為について、同条を適用した原判決の法令の解釈適用に誤りがあるとは認められない。
 論旨は理由がない。

福岡県迷惑行為防止条例(昭和三十九年福岡県条例第六十八号)
(卑わいな行為の禁止)
第六条 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で次に掲げる行為をしてはならない。
一 他人の身体に直接触れ、又は衣服の上から触れること。
二 前号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。
。。。。
福岡県迷惑行為防止条例逐条解説
ア「何人も」とは、「すべての自然人は」という意味であり、福岡県民に限らず、日本人で
あると、外国人であるとを問わない。
イ「公共の場所」とは、不特定かつ多数の者が自由に出入りし、又は利用し得る施設及び場所をいい、場所の属性ではなく状態で判断される。
例えば、公会堂、商店、遊技場デパート、ホテルのロビー、オートロック式ではないマンションの共用部分等が公共の場所に当たる。
ウ「公共の乗物」とは、不特定かつ多数の者が自由に利用し得る乗物をいい、有償又は無償を問わない。乗物の属性ではなく状態で判断される。
具体的には、電車、バス、ロープウェー、エレベーター等が公共の乗物に当たるが、多数人が利用するものの特定の者しか利用できない貸切バスは当たらない。
エ「正当な理由がないのに」とは、健全な社会常識から判断して認められる理由があるとはいえないことをいう。
オ「著しく」とは、社会的に容認し得ない程度に甚だしいものをいう。
カ「差恥」とは、恥ずかしく思う気持ち、恥じらいの感情であり、卑わいな行為によって惹起される性的差恥心を意味する。
キ「不安」とは、生命、身体、自由、名誉及び財産に対して、何らかの害が加えられるのではないかと心理的な圧迫感を抱くことをいう。
ク「覚えさせるような方法」とは、現実に相手方が差恥心又は不安を覚えたかどうかは問わず、社会通念として差恥心又は不安を覚えると認められる方法であれば足りる。
.第1項第2号関係
「卑わいな言動」とは、野卑でみだらな言動又は動作をいう。刑法第174条(公然わいせつ)より広い概念であり、わいせつに至らないもので性的道義観念に反し、他人に性的差恥心又は不安を覚えさせるものをいう。
例えば、人に対して恥ずかしくなるような卑わいな文言を言ったり、他人が身に着けているスカートを捲る行為等である。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/536576/
書類送検容疑は7月5日午後8時40分すぎ、同市営地下鉄空港線の電車内で、エアドロップで女性のわいせつな画像を同県糸島市の男性(34)のアイフォーンに送信した疑い。「受信した女性の反応が見たかった」と容疑を認めているという。

 被害男性は、電車内でスマートフォンを手にしながら周囲をうかがう不審な男性を発見。西新駅で降りた男性を追い掛け、110番した。署の調べに「何回か同じことをやった」と話しているという。

 県警によると、エアドロップ痴漢の被害相談は昨年2件だが、潜在被害はもっと多いとみられる。兵庫県内では逮捕者も出ている。署の宮原工生活安全課長は「軽い気持ちでわいせつ画像を送っても立派な犯罪行為」と強調した。

「意見に対する道の考え方 本規制は、13歳未満の青少年に自画撮り画像の提供を求める行為の内、強制わいせつ未遂に該当しない行為を規制するものであるため、国法との関係に問題はないと考えております。」

 北海道庁によると、13歳未満の青少年に対して裸画像を求めるのは、強制わいせつ罪(176条後段)未遂にならないそうです。


http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/dms/ss/pubcom_soan.pdf


素案
第2 改正の概要
児童ポルノ等の提供を求める行為を禁止するための改正
(1)改正の理由
青少年がだまされたり、脅されたりして、自身の裸の画像をスマートフォン等で撮影させられた上、電子メールやSNS等で送信させられる、いわゆる「自画撮り被害」が増加していますが、現行法令では青少年に対して自画撮り画像を求める行為を禁止する規定がなく、青少年の画像提供を未然に防止することが十分にできていません。
このため、不当な手段等により青少年に対して自画撮り画像を求める行為を新たに罰則付きで規制するための改正を検討しています。
(2)改正の内容
青少年に対し、次のいずれかの不当な手段等により児童ポルノ等(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律第2条第3項に規定する児童ポルノ又は同法第7条第2項に規定する電磁的記録その他の記録をいいます。)の提供を求める行為を罰則付きで禁止します。
① 18歳未満の青少年に対して、
・拒まれたにも関わらず、更に求める。
・威迫して求める。
・欺いて求める。
・困惑させて求める。
・対償を供与し、若しくはその供与の約束をして求める。
② 13歳未満の青少年に対して求める。

奥村が送った意見
13歳未満の青少年に対して求める。行為を罰金で処罰することについて他人に裸体画像を撮影送信させる行為は強制わいせつ罪のわいせつ行為と評価されている
  裁判例
東京地裁H18.3.24
松山地裁西条支部H29.1.16
高松地裁丸亀支部H29.5.2
高松地裁H28.6.2
札幌地裁H29.8.15
岡山地裁H29.7.25
 札幌地裁H29.8.15は9歳児童に平穏に乳房陰部露出させる姿態とらせて撮影させた行為を強制わいせつ罪(176条後段)
 としている。脅迫はない。
 これが強制わいせつ罪(176条後段)だとすると、13歳未満の青少年に対して求める行為は強制わいせつ罪(176条後段)未遂(法定刑懲役6月~10年)であって、既に国法で厳重に対応されていることになる。
 この行為について青少年条例で罰金で処罰するというのは、条例の守備範囲を越えるし、懲役10年の刑を罰金にして軽く処罰することになって妥当性にも欠ける。

http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/dms/ss/bosyuukekka.pdf
(別記第2号様式 道民意見提出手続の意見募集結果)
令和元年6月5日 ~ 令和元年7月5日
北海道青少年健全育成条例の一部を改正する条例(素案)についての意見募集結果
意 見 の 概 要
13 歳未満の青少年に自画撮り画像を求める行為は、強制わいせつ未遂に該当し、既に国法で厳重に対応されている。

意見に対する道の考え方※
本規制は、13 歳未満の青少年に自画撮り画像の提供を求める行為の内、強制わいせつ未遂に該当しない行為を規制するものであるため、国法との関係に問題はないと考えております。

追記 2019/09/05
パブコメ後に、常習要求罪が加えられました。

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/339189
道は子どもにわいせつな画像や動画を撮影させて送信させる「自画撮り被害」防止に向け、送信要求を繰り返す常習者に対し、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金を科す規定を道青少年健全育成条例改正案に盛り込む方針を固めた。「自画撮り犯罪」に絡む常習行為を処罰する規定を設けるのは全国初。道は来年1月施行を目指し、9月10日からの道議会第3回定例会で方針を示す。
 条例改正案を巡っては、13歳未満の子どもにわいせつな画像を要求するだけで、13歳以上18歳未満については脅迫や見返りに現金を渡すなどの悪質な手口での要求に対し、それぞれ30万円以下の罰金を科す方針が既に明らかになっている。道はこれらの行為に関し、複数回行うなど「常習性がある」と判断した場合、さらに重い6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金を科す考え。厳しい規定を設けることで、犯罪抑止につなげる狙いだ。
 東京都や兵庫県など19都府県(3月末時点)は18歳未満に対する悪質な手口での要求に罰金や科料を科しているが、繰り返す行為を厳罰化した自治体はなかった。現行法では自画撮り画像の要求行為を規制する法律はない。

器物損壊と強制わいせつ罪が観念的競合とされた事案(奈良地裁H30.12.25)

「被告人は精液を被害者の衣服に付着させる認識・認容がなかったので,準強制わいせつ及び器物損壊の故意がなかった」という主張でした。
 非接触型の場合は、わいせつ性を争ってください。

奈良地方裁判所
平成30年12月25日刑事部判決

       判   決
 上記の者に対する準強制わいせつ,器物損壊被告事件について,当裁判所は,検察官荒神直行及び弁護人福島至(私選)各出席の上審理し,次のとおり判決する。
       主   文

被告人を懲役2年に処する。
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。


       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人は,平成30年6月5日午前6時37分頃から同日午前7時12分頃までの間に,京都府××番地所在の××鉄道株式会社××駅から奈良市××番地の×所在の同社××駅までの間を走行中の電車内において,乗客のY(当時23歳)が睡眠中のため抗拒不能の状態にあるのに乗じ,自己の陰茎を露出して手淫し,同人に向けて射精して自己の精液を同人の着衣に付着させ,もって人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をするとともに,同人が着用していた同人所有の黒色ジャケット(損害額約1万円相当)を汚損して他人の物を損壊した。
(証拠の標目)《略》
(争点に対する判断)
1 弁護人は,被告人が行った客観的な行為は争わないものの,(1)被告人は精液を被害者の衣服に付着させる認識・認容がなかったので,準強制わいせつ及び器物損壊の故意がなかった,(2)仮にそれらの故意があったとしても,被告人の行為は準強制わいせつ罪の実行行為に該当しない旨を主張する。
2 関係証拠によれば,被告人は,電車内の座席の端に座って眠っていた被害者のすぐ横に立ち,被害者の方に身体の正面を向けた上で,陰茎を露出し,左手で陰茎をしごいて自慰行為を行って射精し,射出した精液が被害者の上着の右袖上腕部に付着したこと,射精した時,被告人と被害者の距離は約15センチメートルであったこと(甲6写真第6号),被告人は射精前に自慰行為を中断することは考えず自慰行為を続け,射精直前に精液が被害者の着衣に付着しないように左手を陰茎の前に差し出したが,この行為を除き,射精前に自慰行為をやめたり身体や陰茎を被害者以外の方向に向けたりするなど,精液が被害者の着衣に付着することを防ぐ方策をとらなかったことが認められる。
 関係証拠をみても,被告人が被害者の着衣に精液を付着させる意欲又は意図を持っていたとは認められない。しかし,精液は陰茎が向いている方向に射出されることに加え,射精のタイミング,射出される精液の量又は精液の飛散する範囲等を十分に制御することは困難であることを踏まえると,射精時の被告人と被害者との位置関係など前段で述べた状況下においては,射出した精液が被害者の着衣に付着する可能性が極めて高かったことは客観的にみて明らかであった。たしかに,被告人は射精直前に精液が被害者の着衣に付着しないように左手を陰茎の前に差出した。しかし,この行為は,コンドームで陰茎の先を完全に覆うなどの措置とは異なり,射出する精液が被害者の着衣に付着する可能性を失わせる程度の措置ではなく,この行為によってその可能性がなくなったと認識するとは考え難い。被告人は,自慰行為に夢中で,自慰行為の最中被害者の着衣に精液を付着させようとも付着させまいとも思っていなかったと述べる。仮にこの供述が真実であったとしても,射出した精液が被害者の着衣に付着する可能性が極めて高かったことは客観的にみて明らかであったことに照らせば,自慰行為の結果射精し,精液が被害者の着衣に付着する可能性を認識していなかったとは到底考え難い。したがって,自慰行為を始めてから射精するまでの間,被告人が自慰行為の結果射精し,精液が被害者の着衣に付着する可能性を認識していたと認められる。
3 準強制わいせつ罪が成立するためには,わいせつな行為が特定の相手方に対して行われることが必要である。陰茎が被害者の方を向き,かつ,陰茎と被害者が極めて近い距離にあったことに加え,被告人はコンドームで陰茎の先を完全に覆うなど射出する精液が被害者の着衣に付着する可能性を失わせる程度の措置をとることなく自慰行為に及んで射精したので,電車内であったことを考慮しても,被告人の行為は被害者という特定の相手方に向けられたわいせつ行為であるといえる。したがって,被告人の行為は準強制わいせつ罪の実行行為に該当する。
4 前述のとおり,自慰行為を始めてから射精するまでの間,被告人が,自慰行為の結果射精し,精液が被害者の着衣に付着する可能性を認識しており,その上で自慰行為に及んだと認められる。そして,被告人の行為がわいせつ行為に該当すること,全く面識のない被告人の精液が付着すると被害者の着衣の効用が害されることはいずれも明らかである。また,被告人は被害者が寝ていることを認識した上で,被害者が寝ているからこそ被害者のすぐ横に立ち被害者の方を向いて自慰行為に及んだので,被害者の抗拒不能に乗じたことも明らかである。したがって,被告人は少なくとも準強制わいせつ罪及び器物損壊罪の未必の故意を有していたと認められる。
(法令の適用)
罰条
 準強制わいせつの点 刑法178条1項、176条前段
 器物損壊の点 刑法261条
科刑上一罪の処理 刑法54条1項前段,10条(重い準強制わいせつ罪の刑で処断)
刑の執行猶予 刑法25条1項
(量刑の理由)
 被害者が電車内で睡眠中であることに乗じた卑劣で悪質な犯行態様である。被害の程度も軽くなく,被害者が被告人の厳重処罰を望むのは当然である。被告人に精液を被害者の着衣に付着させる意欲や意図があったとは認められず,かつ,射精直前に一応精液の付着を防ぐ行為には出ており,これらの点は量刑上意味がある。しかし,被告人は平成26年に駅構内での盗撮行為によって罰金20万円に処せられたにもかかわらず,より悪質な本件犯行に及んだので,非難の程度は高く,同種再犯の可能性も否定できない。しかし,被告人は行為自体を認めた上で,反省の態度を示し,再犯防止に向けた治療に取り組んでいる。また,前記罰金前科以外の前科前歴はない。すると,今回は執行猶予付きの判決が相当である。 
(求刑 懲役2年)
平成30年12月25日
奈良地方裁判所刑事部
裁判官 中山登