児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

第三者の嘆願書の扱い

原田「量刑判断の実際」も参照

杉田宗久「量刑事実の証明と量刑審理」量刑実務体系第4巻p217
(3) 犯罪の社会的影響(反響)
犯罪の社会的影響が量刑に及ぼす影響については.既に水島和男判事が報告され論文にまとめられており.その中で.同判事は,社会的影響に関しては「公知の事実」といえる場面も多いのではないかと指摘されている陥)。
現在の職業裁判官3名の審理の場合には.この点につき異論のある向きもあろうかと思われるが,少なくとも裁判員裁判の下では,一般市民の中から無作為で選ばれた6名の裁判員が加わって判断するのであるから,合計9名の合議体でその「公知性」が認められるという判断に達するならば.その事実的基礎は十二分に認められると解してよいのではなかろうか。
ただし.これは.社会的影響については一律に厳格な証明による立証が無用であると述べる趣旨ではない。
例えば稀な例ながら.社会的反響の著しい場合には.被害関係者以外の全くの第三者が被告人に対する厳罰を嘆願する署名活動を行い.その署名簿等を検察官に提出して証拠調べを求めてくるような場合もあり得る167)。
後に検討する第三者減刑嘆願書とは逆の場合であるが,社会的反響が.単なる「公知の事実」を超えて.特定の被告人に向けた具体的な個々人の声が書面という形で現れてきた場合についてまで,自由な証明などという比較的ゆるやかな取調べ方法にれによれば.弁護人が反対している場合でも.公判廷における適当な方法で取調べを行うことが可能ということになってしまう。
)でその証拠調べを行うことは相当とはいえまい。
これを取り調べたところで量刑上それが持つ意義は限られているから1曲),その証拠調べの必要性がどの程度あるのかは考え方の分かれるところであるが.仮にそ の取調べを行う場合には,厳格な証明によって, しかも.その概略を取り調べる限度(後述の第三者減刑嘆願の場合の@ゅのやり方に相当)にとどめるべきであろう169)

166)水島和男「犯罪の社会的影響と量刑」本書第2巻参照。
なお.その後公刊された小池・前掲注163)85頁以下は.犯罪の社会的影響を量刑上考慮すること自体を否定的に解している。

167) なお.被害者の友人・知人が寄せる厳前嘆願書については.被害者遺族の被害感情を述べた書面とほぼ同様の扱いをすべきであろう。

169) この問題に閲しては.原田判事が「量刑事実の立証〔第2版)J346頁以下で詳細に検討をされており.本文で述べたようなやり方をとることも是認されている。なお.いわゆる附属池田小学校事件においては.非常に多数の厳罰嘆願書が寄せられたようであるが.結局.公判では,その全体の外見と代表的なもの数点を写真に撮影した検察事務官作成の写真撮影報告書(立証趣旨は「大阪地方検察庁に提出された『嘆願書」の存在及び内容J)1通が弁護人の同意を得て取り調べられたようである。

・・・
p230
(9) 第三者減刑嘆願
三者が被告人に対する減刑を裁判所に嘆願する多数の減刑嘆願書が弁護人から証拠調べ請求されてくることがある。
この種の書而については,検察官は,近親者が作成した書面は同意.それ以外の者が作成した書面については不同意という対応をとることが多く.後者については.
①自由な証明としてそのまま取り調べる取扱い2附.
②「事実上一覧しておきます」として証拠ではなく単なる参考資料として預かる取扱い207)
③嘆願書を集めた者を証人尋問した上,その証言を裏付ける証拠物としてこれを取り調べる取扱い208)
④嘆願書を集めた者を証人尋問しその証言の際に,そのうちのl枚のみを示して「これと同じような書面を00枚集めました。」などとその収集状況を証言させるとともに,示したl枚については独立の証拠としてではなく.証人尋問の際に示した書面として証人尋問調書の末尾に添付させ,併せて残りの嘆願書については当事者に請求撤回をさせる取扱い209),
⑤弁護人が,嘆願書が何百枚存在する状況を写真撮影した上.この写真を証拠物(又は写真撮影報告書)として取り調べるという扱い,
⑥弁護人に嘆願書を公判廷に持参させた上公判廷で,その全体像(嘆願書が山のように積み上げられた様子や.その内の代表的なもの1枚~数枚)を検証(写真撮影)する扱い210),
⑦厳格な証明の対象となる書面であるから.証拠能力を具備しないとして取調べ請求を却下する取扱い211),
⑧証拠調べの必要性なしとして却下する取扱い212),
など種々の対応が考えられてきた。
筆者自身も含め.これまでの①~⑥のやり方をとってきた裁判官は.嘆願書を集めた者の被告人の更生にかける熱意を無にしたくないとの思いから.実際は,⑦説の裁判官と同様.嘆願書中にはその作成の真正や任意性に疑問があるものも含まれていることを十分承知し,かつまた,⑧説の裁判官と同じように,この種の嘆願書が存在していても量刑判断にはほとんど影響がないことを分かりつつ,あれこれ理論構成し実務上の智恵を働かせて種々の方法を模索してきたものである。
その趣旨は裁判員裁判の下でも基本的に変わらないものと思われるが,裁判員によってはこれを過大評価する懸念がないともいえないことを考えると,まず.②のような「顔を立てる」あるいは「表向き苦労に報いる」だけで,法律上の性質のよく分からないやり方や,①のような例外的にゆるやかな証拠調べの方式は望ましいとは言えないし逆に,嘆願書を集めるために熱心に活動したが,実際に今後の被告人の更生のためにどのような寄与を果たせるのかはっきりしない者まで証人尋問する③④のやり方も.裁判員にその証拠価値を過大評価されかねない危険性があり.あまり上策とはいえない感がある。
最終的に.⑦⑧のやり方を採り,このような証拠は裁判員の目には一切触れさせるべきでないとして.公判前整理手続段階で早々と証拠調べの芽を摘んでしまうというスタンスをとるか.それとも,署名活動をした人達の熱意にもそれなりに報いながらも.概略だけの証拠調べにとどめる⑤⑥のやり方をとるかは.裁判官の考え方次第であろう。
公判前整理手続での両当事者の意向等も踏まえて決するほかない。

水島和男「犯罪の社会的影響と量刑」量刑実務体系第2巻p273
3) マスメディアの報道が問題となる場面犯罪が社会に影響を及ぼすためには,犯罪の情報を社会に伝える媒体が必要となる。
放火犯のように犯罪そのものに一定の社会的影響を及ぼす契機が存するものがあるが,それでも,その犯罪情報を更に社会的に拡げるためにはこれを伝える媒体が必要となる。
いわゆる口コミによる情報伝達(犯罪者集団あるいはいわゆる関社会のアングラ情報を含む。)の役割も軽視できないが, なんといっても新聞,ラジオ,テレビ等のマスメディアによる情報伝達が重要273犯罪の社会的影響と量刑である。
前記の永山事件最高裁判決が, 「全国的にも『連続射殺魔事件』として大きな社会不安を招いた」とするのは.これらマスメディアによる全国的な犯罪情報の伝達による社会不安の惹起を問題としていることは明らかである。
更に,現在においては,インターネットによる犯罪情報の伝達が非常に重要なものとなっている。
特定サイトを通じて,金融機関の口座,通帳の売買や規制薬物の売買はもとより爆弾の製造方法等の犯罪情報までが容易に入手可能な状態になっているのであって,従前は特定の犯罪者集団や,いわゆる聞社会における口コミを中心に伝播されていた犯罪情報が,誰でも,何時でも.どこからでも,容易に入手可能となっているのが現状であって,犯罪の模倣という側面からはマスメディアによる場合以上の影響力を持つに至っているといっても過言でないであろう。
量刑実務上「犯罪の社会的影響」のうち一般予防的側面を軽視できない所以である。
マスメディアの報道については上記の永山事件最高裁判決に現れているように,犯罪情報の伝達により「犯罪の社会的影響Jを拡散しある意味で被害を拡大している面のあることを否定できない(連続射殺魔事件が広域事件であるとはいえ,マスメディアによる報道がなければ「全国的」に大きな社会不安を招くことはなかったであろう。)。
しかし,マスメディアの報道は現に存在し,行為者においてもそのことを承知の上で犯罪を犯している以上,犯罪の内容に応じてマスメディアの関心を引き,報道されることは予測可能の事態というべきであるから,マスメディアによる犯罪情報の伝達により「犯罪の社会的影響」が拡散された面があるとしても甘受すべきであるともいえよう。
もっとも,マスメディアが犯罪に関心を示すのは,結果の重大性であるとか,犯行態様の悪質性といった,当該犯罪事実の内容のみに限らない。
犯罪自体はありふれたものであり,それ自体としては社会的影響が問題になるようなものでないとしても,行為者が有名な芸能人である等の理由からマスメディアの関心を引き,大々的に報道がなされるといった例も少なくない。
もとより,このような場合においては,社会に及ぼした影響といっても,犯罪とは直接の関係を有しない,ゴシップ記事的関心というものに過ぎないのであるから,行為者に対し責任を問う契機は何ら存在しない。
しかし,マスメディアにより大々的に報道がなされ,社会の耳目を引いている以上,威嚇的効果の高い状況にあるのであるから,一般予防面で考慮する余地がないではないが(例えば.有名な芸能人が覚せい剤事犯を犯し,マスメディアにより大々的に報道がなされているとすると,同人を厳しく罰することにより,覚せい剤事犯の重大性を国民に周知させることができるし,逆に,軽い処罰をすると覚せい剤に対する安易な態度を蔓延させ、 量刑実務上「犯罪の社会的影響」として,どのような事柄が考慮されているのかるという一般予防的効果が考えられる。), やはり不当であろう。
もっとも, 行為者が社会的に高い評価を受け, あるいは, 高い倫理性を求められる地位にある者(医師,教師,弁護士,検察官,裁判官ら法曹関係者等)である場合は別であろう。
万引き等のありふれた犯罪であっても,これらの地位に在る者が犯したとすると,その行為自体の非難可能性が高まると考えられるのであり,マスメディアが関心を寄せるのもその故であろう。
この場合においては,一般予防的側面よりも, 責任の要素の方の比重が重くなろう。
具体的には, 被告人が占めていた地位に対する国民一般の信頼を損なったという形での社会的影響が問題とされることとなろうが, そのような事態は行為者にとっても予測可能というべきであるから,責任を問う契機も存在するといえようか。