児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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インターネット回線を通じて携帯電話機の位置情報の取得等の指令を与えるプログラムは不正指令電磁的記録に該当する(徳島地裁h30.12.21)

 こういう争点で良かったでしょうか

徳島地裁平成30年12月21日 
事件名 不正指令電磁的記録供用、不正指令電磁的記録作成、有印私文書偽造・同行使被告事件
 上記の者に対する不正指令電磁的記録供用,不正指令電磁的記録作成,有印私文書偽造・同行使被告事件について,当裁判所は,検察官安藤翔,弁護人木村正各出席の上審理し,次のとおり判決する。
理由
 (犯罪事実)
 被告人は,
 第1 正当な理由がないのに,平成27年11月8日から同月20日までの間,徳島市〈以下省略〉所在のホテル「a」又は同市〈以下省略〉所在のホテル「b」において,Aが使用する携帯電話機に,「○○」と称するインターネット回線を通じて携帯電話機の位置情報の取得等の指令を与えるプログラムを,同人に秘してインストールした上,同プログラムが実行可能な設定を行い,もって人が電子計算機を使用するに際してその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を,人の電子計算機における実行の用に供した。
 第2 正当な理由がないのに,平成28年2月12日午後7時37分頃から同日午後8時27分頃までの間,徳島市内又はその周辺において,人の電子計算機における実行の用に供する目的で,電子計算機を使用して,携帯電話機を用いて実行した際,実行者の意図に基づかず,携帯電話機の位置情報等をインターネット回線を通じて特定のサーバコンピュータに送信するなどの指令を与える電磁的記録である「△△」を作成し,もって人が電子計算機を使用するに際してその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を作成し,同日午後8時27分頃,同市〈以下省略〉所在のc店駐車場において,Aが使用する携帯電話機に,前記「△△」を同人に秘してインストールして実行可能な状態にし,もって人が電子計算機を使用するに際してその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を,人の電子計算機における実行の用に供した。
 第3 平成29年5月上旬頃,徳島市〈以下省略〉所在の被告人方において,行使の目的で,パーソナルコンピュータ等を用いて,「借用書」「Y様」「金伍拾萬円也」「上の金額を以下の約定とおり借り受けました。」「1.利息は年利8%とします。」「2.毎月25日を返済日とします。」「3.遅延損害金は年29%とします。」「元金に利息を付して,平成28年11月25日より,貴殿の指定する銀行口座に元利均等により毎月伍萬円ずつ振込にて支払います。」「平成28年5月9日」「借受人」などと印字した書面を作成し,同書面の下部にAの郵便番号,住所及び氏名を記入し,もってA作成名義の借用書1枚(平成30年押第12号の1)を偽造し,その頃から同年7月3日までの間,徳島県内又はその周辺において,コピー機を使用して同借用書の写し1枚を作成し,もって同人作成名義の借用書の写し1枚(平成30年押第12号の2)を偽造した上,同年7月3日,徳島市〈以下省略〉所在の徳島簡易裁判所において,同裁判所職員Bに対し,前記偽造に係るA名義の借用書の写し1枚を真正に成立したものであるかのように装って提出して行使した。
 (証拠の標目)
 括弧内の番号は,検察官請求証拠の証拠番号を示す。
 判示事実全部について
 ・被告人の公判供述
 判示第1及び第2の事実について
 ・証人Aの公判供述
 ・警察官作成の検証調書(甲32)
 判示第1の事実について
 ・第1回公判調書中の被告人の供述部分
 ・Aの警察官調書(甲12,13。いずれも不同意部分を除く。)
 ・d株式会社代表取締役社長作成の「回答書」と題する書面(甲8)
 ・警察官作成の捜査報告書(甲1ないし6),同抄本(甲9,10),捜査関係事項照会書謄本(甲7)
 判示第2の事実について
 ・第3回公判調書中の被告人の供述部分
 ・四国管区警察局徳島県情報通信部情報技術解析課長作成の「解析結果について(回答)」(甲20),「解析結果について(回答)(第一報)」(甲22),「解析結果について(回答)(第二報)」(甲23),「解析結果について(回答)(終報)」(甲24)とそれぞれ題する書面
 ・徳島中央警察署長作成の情報技術解析要請書謄本(甲19)
 ・徳島東警察署長作成の情報技術解析要請書謄本(甲21)
 ・警察官作成の捜査報告書(甲15,17,18,26,29,30,38),同抄本(甲16,25,28)
 判示第3の事実について
 ・被告人の警察官調書(乙10,11)
 ・被告人作成の任意提出書(甲48)
 ・B(甲44),A(甲45。ただし,不同意部分を除く。)の各警察官調書
 ・徳島地方裁判所長作成の「捜査関係事項照会書について」と題する書面(甲43)
 ・警察官作成の捜査報告書(甲39ないし41,47,53),捜査関係事項照会書謄本(甲42),領置調書(甲49),差押調書(甲51)
 ・押収してある偽造された借用書1枚(甲50,平成30年押第12号の1),偽造された借用書写し1枚(甲52,同号の2)
 (争点に対する判断)
 本件の争点は,①判示第1に係る「○○」のインストールに関するAの同意の有無,②判示第2に係る「△△」(以下「本件プログラム」という。)をAの携帯電話機にインストールしたのが被告人か否か,③同プログラムが不正指令電磁的記録に該当するか否かである。
第1 「○○」のインストールに関するAの同意について
 1 関係証拠(甲1ないし10,12,13,証人A,被告人の公判供述)によれば,以下の事実が認められる。
  (1) 被告人は,平成27年9月下旬頃ないし同年10月頃,いわゆる出会い系サイトを通じてAと知り合い,その頃から交際し,肉体関係を持つようになった。
 判示第1の「○○」は,インターネット回線を通じて,インストールされた携帯電話機に対して位置情報取得等の指令を与えるプログラムで,紛失した携帯電話機を探す際などに使用される。
  (2) 被告人とAは,同年11月8日に前記「aホテル」205号室を利用したところ,在室中の同日午後3時43分頃,被告人は,Aの携帯電話機に「○○」をインストールした。
 また,被告人とAは,同月20日午後8時33分頃から同日午後11時42分頃までの間,前記「bホテル」108号室を利用したところ,在室中の午後11時16分頃,被告人は,Aの携帯電話機を使ってデジタルコンテンツの配信サイトで「○○」の検索をした。
  (3) 被告人は,同日午後11時19分頃から同年12月2日午後3時12分頃までの間,「○○」により,Aの携帯電話機の位置情報や電話番号,SIMカードのシリアルナンバーを取得して自己のパソコンに保存した。また,取得したAの携帯電話機の位置情報を基に,Aの外出先をインターネットの掲示板サイトに書き込むなどした。
  (4) 被告人は,平成28年1月7日,Aと会い,Aとの会話を無断で録音した。この中で,Aが,位置情報が外部に漏れていることを懸念する趣旨の発言をしたのに対し,被告人は,Aの携帯電話機を調べてみる旨答えた後,「あっ,これかな,○○」,「まあ言えば,監視をさせるアプリ」,「入れられたかもしれんね」などと発言し,Aも「何これ,どこからついてきたんですか」などと述べるやりとりの後,被告人は「○○」をアンインストールした。
 2 Aの供述について
  (1) Aは,公判廷において,被告人とホテルを利用した際,被告人に携帯電話機へアプリのインストールをしてもらったことはないし,「○○」のインストールにも心当たりはない旨供述する。
 A及び被告人は,前記のとおり,「○○」をアンインストールする際,Aがそれまで「○○」がインストールされていたことに気付いておらず,被告人も「○○」のインストール等に関与していないことを前提とする会話をしており,Aの供述は,これらの会話とよく整合する自然なものである。また,Aの携帯電話機への「○○」のインストールは,被告人とAがホテルを利用している間に行われており,被告人が,Aの入浴中などに,Aに秘して上記インストールを行うことは可能な状況であった。
 確かに,弁護人も指摘するように,Aの公判供述には,前記各ホテル内での被告人とのやりとり等,覚えていないことが多い。しかしながら,いかに記憶が減退したといっても,自身の外出先の情報をインターネット掲示板に書き込まれたのを知り,その原因である「○○」のアンインストールに立ち会ったAが,被告人による「○○」のインストールやそれに同意したことすら忘れて前記のような会話をするとはおよそ考え難い。Aに,被告人を陥れる虚偽の供述をする具体的な動機も見当たらず,Aの上記供述は信用することができる。
 3 被告人の供述について
 一方,被告人は,公判廷において,「○○」のインストールにつきAの同意があった,前記の会話は,Aがストーカー被害に遭っているような状況を楽しむ疑似ストーカー体験の一環として行ったものであるなどと供述する。しかしながら,前記の会話は,「○○」のインストールをあらかじめ知っていた者同士の会話として余りに不自然であるし,Aも被告人の言うようなことは述べていない。また,Aが,出会い系サイトで知り合って2か月程度の被告人に対し,日常的な位置情報という高度のプライバシー情報を与えるプログラムをインストールさせ,さらに被告人がいうように外出先情報のインターネット掲示板への書き込みまで承諾したというのも不自然であって,被告人の供述を信用することはできない。
 4 結論
 以上のとおり,「○○」のインストールについてAの同意はなく,被告人がAに秘して行ったと認められる。
 なお,前記のとおり,「○○」は平成27年11月8日にインストールされているものの,実行可能になったのは同月20日である。同日に実行可能となった「○○」が,同月8日にインストールしたものか,被告人が述べるように同月20日に再インストールしたものか,携帯電話機の解析上客観的に明確とはいえないため,インストールの日時・場所については,判示第1(公訴事実)のとおり認定するのが相当である。
第2 本件プログラムをインストールした者及び同プログラムの不正指令電磁的記録該当性について
 1 関係証拠(甲15ないし25,29,30,38,証人A,被告人の公判供述)によれば,以下の事実が認められる。
  (1) 被告人は,判示第2の日時,場所において,本件プログラムを作成した。本件プログラムは,携帯電話機の画面上,市販のプログラム「□□」と同じアイコンとともに「□□」と表示され,インストールされた携帯電話機に対し,10分間隔でその位置情報を被告人が運営・管理するウェブサイトのスクリプトファイルに送付する指令を与えたり,Aの自宅付近や職場付近等のWi-Fiのアクセスポイントを検知することで同様の指令を与えたりする機能を有しており,インストール後,上記のアイコンをタップしてアプリを実行することでデータ送信等が開始される。
  (2) 被告人とAは,交際関係を解消する話になって,互いの携帯電話機内のメールデータ等を消去するため,平成28年2月12日夜,判示第2の駐車場で会い,被告人の自動車内において,互いの携帯電話機を交換し,メールや画像ファイル等の個人情報を削除するなどした。同日午後8時24分頃から同日午後8時44分頃までの間にも,被告人はAとの会話を無断で録音しており,同日午後8時28分頃,被告人は,「消しますよ。完全に削除。中断するよ,ちょっと何か受信中。実施しました。」と発言した。
 一方,本件プログラムは,同日午後8時27分頃,Aの携帯電話機にインストールされた。被告人は,同日午後8時31分頃から同年4月20日にかけてその位置情報等を取得し,一旦交際を続けることとなったAとの関係が再び悪くなった後,取得した位置情報等を用いてAの位置情報や職場の情報をインターネット掲示板に書き込んだ。
 2 前記のとおり,被告人とAが二人きりで会い,被告人がAの携帯電話機のメール等を削除する内容の発言をしているのと同時刻頃に本件プログラムがインストールされていることからすれば,被告人がそのインストールを行ったことはかなり強く推認される一方,被告人以外の者がインストールをしたとは考え難い。さらに,本件プログラムは両者が会う前50分以内に被告人によって作成されていること,本件プログラムには,Aの自宅や職場付近への接近を検知して位置情報を送る機能があったことからすれば,本件プログラムをインストールし,実行可能な状態にしたのは,被告人であると認められる。
 3 これに対し弁護人は,被告人はAと前記駐車場で会う前に,本件プログラムを自慢するため,メールに添付してAに送信し,Aと会った際にもそのメールを再送信したので,Aがこれに誤って触れたことで,気付かないうちにインストールされた可能性があると主張し,被告人もこれに沿う供述をする。
 しかしながら,被告人とAは,両者の交際関係を解消するために会うことになっていたにもかかわらず,その直前に,Aの位置情報を探知するなどの機能を備えた本件プログラムを,自慢するためメールに添付して送信したというのは不自然である。Aの携帯電話機にインストールされた時刻ないしその前後頃,Aとの間で本件プログラムに関する会話はなされておらず,Aも被告人からそのような話があったとは述べていないのであって,この点に関する被告人の供述を信用することはできない。なお,弁護人は,本件プログラムがAの携帯電話機にインストールされた頃,同じ車内にいたはずの被告人とAの各携帯電話機が拾っているWi-Fiのアクセスポイントが異なっていることなどにつき,本件証拠上合理的な説明がなされていない旨主張し,被告人も同様の供述をするが,近くにある携帯電話が必ずしも同じアクセスポイントに接続されるとは限らず,被告人が,前記の車内でAの携帯電話機のメール削除等の操作を行っていたことは,Aと被告人の供述その他の証拠から明らかであって,この点に関するその余の弁護人の主張も採用の限りでない。
 4 以上のとおり,本件プログラムのインストールや実行可能な設定は,被告人が行ったと認められ,前記の会話内容や本件プログラムの機能からすると,Aは上記のインストール等を知らなかったと認められる。
 5 本件プログラムが,インストール先の端末に,Aの自宅等を含む位置情報等を被告人の管理するサーバへ送る指令を与えるものであること,アイコンや名称が市販のアプリケーションと同一で,インストール先の端末使用者を誤信させ得るものであったこと,被告人がAに秘してその携帯電話機にインストール等を行い,その位置情報等を取得していることからすれば,本件プログラムは,Aの意図に反してその携帯電話機に上記のような動作をさせる不正の指令を与えるものであって,不正指令電磁的記録に該当すると認められる。
 (法令の適用)
 罰条 判示第1の行為につき刑法168条の2第2項,1項
 判示第2の行為のうち不正指令電磁的記録作成の点につき刑法168条の2第1項1号,同供用の点につき同条第2項,1項
 判示第3の行為のうち各有印私文書偽造の点につき包括して刑法159条1項,同行使の点につき同法161条1項,159条1項
 科刑上一罪の処理 判示第2の罪につき,刑法54条1項後段,10条(判示第2の不正指令電磁的記録作成と同供用との間には手段結果の関係があるので,1罪として犯情の重い不正指令電磁的記録供用の罪の刑で処断)
 判示第3の罪につき,刑法54条1項後段,10条(判示第3の各有印私文書偽造のうち借用書写しに係るものと偽造有印私文書行使との間には手段結果の関係があるので,1罪として犯情の重い偽造有印私文書行使の罪の刑で処断)
 刑種の選択 判示第1,第2の各罪につきいずれも懲役刑を選択
 併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重)
 未決勾留日数の算入 刑法21条
 刑の執行猶予 刑法25条1項
 没収 刑法19条1項1号,2項本文(押収してある偽造された借用書1枚(平成30年押第12号の1)及び偽造された借用書写し1枚(同号の2)の各偽造部分は,いずれも判示第3の犯罪行為を組成した物で,何人の所有をも許さないもの)
 訴訟費用の負担 刑事訴訟法181条1項本文
 (量刑の理由)
 本件は,被告人が,被害者の使用する携帯電話機に,位置情報の取得等の不正な指令を与えるプログラムをインストールするなどし(第1),同様の機能を有する別のプログラムを作成して上記携帯電話機にインストールするなどし(第2),被害者名義の借用書及びその写しを偽造し,その写しを裁判所に提出して行使した(第3)という不正指令電磁的記録供用,同作成,有印私文書偽造及び同行使の事案である。
 被害者の位置情報という重要なプライバシーの侵害を可能とする不正なプログラムを,市販のアプリケーションソフトを偽装するなどして密かに作成ないし供用した第1,第2の各犯行は,携帯電話機のプログラムに対する社会の信用を害するとともに,被害者に大きな不安を与えた陰湿なもので,取得した情報の一部をインターネット掲示板に流出させたことも見過ごせない。第3の偽造行為も,被害者の筆跡を練習して借用書やその写しを偽造した周到なもので,そのような偽造文書を証拠として裁判所に提出するという行使の態様も,相手方である被害者に不当な負担を与え,司法制度に悪影響を及ぼしかねない悪質なものである。
 被告人の刑事責任は到底軽視できず,また第1,第2の各犯行について不合理な弁解に終始する被告人から反省の意思を看て取ることもできないものの,前科のない被告人につき,前記の犯情から直ちに実刑に処すべきであるとまでは認め難い。第3の犯行については被害者との間で130万円を支払うことなどを内容とする示談が成立してその示談金を支払っていること,父親が監督を誓約していることなども考慮すると,被告人については,主文の刑に処し,責任の所在を明らかにした上で,今回に限りその刑の執行を猶予するのが相当である。
 (求刑 懲役2年,主文の借用書及び借用書写しの没収)
 徳島地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 坂本好司 裁判官 佐藤洋介 裁判官 平山裕也)