児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

観念的競合説によれば、二重起訴の疑いがある事件(山形地裁H31.3.12)

 製造罪1と強制わいせつ罪1の場合は、併合罪説だと処断刑期が13年、観念的競合説だと処断刑期が10年ということで観念的競合説には実益があるんですが、たくさんやってると処断刑期に影響がなく、どっちでもよくなりますよね。
 ところが、二重起訴になることもあります。観念的競合説によると、「h29.4.8 15:40A(当時7歳)に対し、その陰部等を手指で弄び、その陰部に自己の陰茎を押し当て、被告人がAの乳首等を触る姿態及びAの陰部等を露出させる姿態をとらせ、これらを自己の動画撮影機能付き携帯電話機で撮影し、」という一個の行為を、6/19と、5/29に起訴してるから、あとの起訴(6/19の強制わいせつ罪)は公訴棄却になる。控訴してるのであれば、こういうところも見てほしいなあ。

刑訴法 第三三八条[公訴棄却の判決]
 左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。
三 公訴の提起があつた事件について、更に同一裁判所に公訴が提起されたとき。

D1-Law.com判例体系
山形地方裁判所
平成31年03月12日
上記の者に対する児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、強姦未遂、強制性交等、強制わいせつ、強制性交等未遂被告事件について、当裁判所は、検察官佐藤浩由及び弁護人安孫子英彦(私選)各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、
第3(平成30年6月19日付け起訴状記載の公訴事実第1関係)
  ●●●(以下「A」という。)が13歳未満であることを知りながら、Aにわいせつな行為をしようと考え、平成29年4月8日午後3時27分頃から同日午後3時40分頃までの間、(住所略)所在の被告人が経営する「株式会社H」(以下「本件会社」という。)の当時の事務所において、A(当時7歳)に対し、その陰部等を手指で弄び、その陰部に自己の陰茎を押し当てるなどし、もって13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした。
第4(平成30年5月29日付け起訴状記載の公訴事実関係)
  Aが18歳に満たない児童であることを知りながら、前記第3記載の日時、場所において、Aに、被告人が自己の陰茎をAの陰部に押し当てる姿態、被告人がAの乳首等を触る姿態及びAの陰部等を露出させる姿態をとらせ、これらを自己の動画撮影機能付き携帯電話機(山形地方検察庁平成30年領第252号符号1の1。以下「本件スマホ〈1〉」という。)で撮影し、それら動画データ2点を電磁的記録媒体である本件スマホ〈1〉の内蔵記憶装置に記録して保存し、もって児童を相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態、他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの並びに衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。

(求刑 懲役15年、主文同旨の没収)
刑事部
 (裁判長裁判官 兒島光夫 裁判官 馬場崇 裁判官 小野寺俊樹)


 控訴が棄却されています。二重起訴は主張すらされていませんでした。
 併合罪とした理由が「被害児の陰部等を手指で弄び,その陰部に自己の陰茎を押し当てるなどのわいせつ行為とそれらの行為等に係る被害児の姿態をスマホ等で撮影して保存する行為について,両者が同一の機会に行われ,時間と場所が重なり合うことがあったとしても,両者は通常伴う関係にあるとはいえないし,それぞれの行為の意味合いは相当異なり,社会通念上別個のものというべきである」というんですが、撮影行為をわいせつ行為として起訴するときは、「被害児の陰部等を手指で弄び,その陰部に自己の陰茎を押し当てるなどのわいせつ行為とそれらの行為等に係る被害児の姿態をスマホ等で撮影して保存する行為」を一個のわいせつ行為と評価するので、理由になってないですね。

LEX/DB
【文献番号】25564143
仙台高等裁判所
令和元年8月20日第1刑事部判決

       判   決

無職 a 昭和58年○月○日生
 上記の者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強姦未遂,強制性交等,強制わいせつ,強制性交等未遂被告事件について,平成31年3月12日山形地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官有水基幸出席の上審理し,次のとおり判決する。
       理   由
1 本件控訴の趣意は、主任弁護人藤田紀子及び弁護人藤田祐子連名作成の控訴趣意書に記載されたとおりであるから,これを引用する。論旨は,法令適用の誤り及び量刑不当の主張である。
2 法令適用の誤りの論旨について
 論旨は,要するに,原判決は,第3の強制わいせつ行為(平成29年4月8日,被害者Aに対するもの)と第4の児童ポルノ製造行為(同一日時場所,Aの姿態を撮影,保存したもの)との関係について,観念的競合による一罪ではなく,数罪であるとした。第5・第6,第7・第8,第9・第10,第11・第12,第13・第14,第15・第16,第17・第18,第21・第22,第23・第24,第25・第26の各関係についても同様である。強制わいせつ行為と児童ポルノ製造行為とは,それぞれ行為の全部が完全に重なっており,いずれも観念的競合の関係にあると解すべきであるから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。 
 そこで検討すると,被害児の陰部等を手指で弄び,その陰部に自己の陰茎を押し当てるなどのわいせつ行為とそれらの行為等に係る被害児の姿態をスマホ等で撮影して保存する行為について,両者が同一の機会に行われ,時間と場所が重なり合うことがあったとしても,両者は通常伴う関係にあるとはいえないし,それぞれの行為の意味合いは相当異なり,社会通念上別個のものというべきであるから,両者は観念的競合の関係にはなく,併合罪の関係にあると解するのが相当である。
 本件において,上記各罪の関係について,いずれも併合罪であるとした原判決の法令の適用は正当であり,論旨は理由がない。
令和元年8月20日
仙台高等裁判所第1刑事部
裁判長裁判官 秋山敬 裁判官 中島真一郎 裁判官 井筒径子