児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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強制性交等致傷被告事件無罪判決浜松支部H31.3.19

静岡地方裁判所浜松支部H31.3.19
上記の者に対する強制性交等致傷被告事件について、当裁判所は、検察官三浦拓実、同河田夏緒里、弁護人吉野哲史(国選・主任)、同村松奈緒美(国選)各出席の上審理し、次のとおり判決する。


主文
被告人は無罪。


理由
第1公訴事実及び争点
訴因変更後の本件公訴事実は、「被告人は、強制的にA(当時25歳)と性交等をしようと考え、平成30年9月8日午前2時頃、T県C市所在の『D』南側駐車場において、徒歩で通行中の同人に対し、『あっちに行こう。』などと声を掛け、同人の背中に手を回すなどして、同人を同市所在の店舗西側敷地内に連行し、その頃から同日午前2時15分頃までの間、同所において、同人の体を両腕で抱きかかえて持ち上げ、同所に設置されていたウッドデッキに座った自己の体の上に仰向けに横たわらせるなどし、同人の膣内に指を入れて弄び、同人の着衣をまくり上げて同人の乳首を舐めるなどした上、同人を前記ウッドデッキの上に座らせ、同人の顎付近を手でつかみ、同人の口に指を入れて強引に開くなどの暴行を加え、同人の反抗を著しく困難にして同人の口腔内に自己の陰茎を入れ、もって暴行を用いて口腔性交をし、その際、同人に加療約2週間を要する口唇挫創、顎関節捻挫等の傷害を負わせた。」というものである。

関係各証拠によれば、被告人及びAが本件公訴事実記載の日時頃、同記載の各場所にいたことは明らかである。
そして、検察官は、信用できるAの供述等によれば、被告人が、Aに対し、本件公訴事実記載のとおりの暴行を加えて口腔性交をし、被告人の行為によりAが本件公訴事実記載の傷害結果を負ったことが認められ、その際の被告人の暴行は、Aの反抗を著しく困難にする程度であったことは明らかである旨主張する。
これに対し、弁護人は、被告人が、Aに対し、暴行を加えたり、口腔性交をしたことはなく、被告人の行為によりAが傷害を負ったこともなく、また、被告人の行為がAの反抗を著しく困難にする程度であったとはいえないなどと主張する。


第2当裁判所の判断
1前提事実
関係各証拠によれば、以下の事実が認められる。

(1)平成30年9月8日(以下、特に断らない限り、月日は平成30年である。)午前2時頃、本件公訴事実記載のコンビニエンスストア(以下「本件コンビニ」という。)の南側駐車場(以下「本件駐車場」という。)において、被告人は、徒歩で通行中のAに対し、声を掛け、会話をし、Aと携帯電話番号を交換した。

(2)その後、Aと被告人は、一緒に歩いて本件公訴事実記載のウッドデッキ(以下「本件ウッドデッキ」という。)付近に行き、本件ウッドデッキに並んで座り、会話をした。

(3)本件ウッドデッキにおいて、被告人は、Aの脚を触り、Aの体を抱き寄せて自身の太ももの上に乗せ、Aの脚や尻、胸を直接触り、乳首を舐めるなどした。

(4)その後、被告人は、Aを本件ウッドデッキに座らせ、自身はAの目の前に向かい合わせに立ち、自身のズボンを下ろして陰茎を出し、Aの手を取って被告人の陰茎を触らせた後、Aの顎付近を触りながら自身の陰茎をAの閉じている唇に押し当てた。

(5)その後、被告人は、自身の手で陰茎を触り、本件ウッドデッキ付近の地面に向かって、射精をした。

(6)被告人は、射精後、Aに対し、「家に帰ったらメールして、心配だから」などと言って、Aと指切りをして別れた。

(7)Aは、被告人と別れた直後の同日午前2時17分頃、友人のBに電話をかけ、その後、約53分間にわたり、Bと通話をした後、Bに対し、Eのメッセージを送信した。

(8)Aは、同日夜、F警察署に行ったが、その際、けがの申告はしなかった。

(9)Aは、9月11日、G整形外科医院に行きH医師(以下「H医師」という。)の診察を受けた後、I皮膚科医院に行き、口唇の荒れがヘルペス等の感染症でないことを確認した。
また、同日、Aは、F警察署へ行き、全身や口付近の写真を撮影された。

2A及び被告人の各供述内容
(1)Aの公判供述の要旨
私は、9月8日午前2時少し前、ネットショッピングの支払をするために自宅近くの本件コンビニに行き、支払を済ませて店外に出た後、被告人から話しかけられた。
できるだけ早く帰ろうと思い、「じゃあ」と言いながら少し前に歩くようなそぶりで帰ろうとしたが、それでも被告人が話しかけながらついてきたので、「じゃあ」、「じゃあ」と繰り返した。
被告人から電話番号を交換しようと言われ、教えたくなかったが断る勇気がなく、また、電話番号を交換したら家に帰れると思い、電話番号を教えた。
「じゃあ」と何回か言ったが、被告人が「あっちに行こう」と言って私の背中に手を当てて本件ウッドデッキの方へ私を誘導した。
被告人は自転車を押していたし、私の家も近く、家を知られたくなかったので逃げるという考えがなかった。

本件ウッドデッキのところで、被告人が「少しここで話をしよう」と言い、たばこを吸うかと聞かれ、たばこを差し出してきたので、たばこ1本分話に付き合おうと思い、本件ウッドデッキに座った。
被告人と会話をした後、被告人が「脚が綺麗だね」と言いながら私のすね辺りをなで始めたので、「外国人のほうが脚が長くて綺麗ですよね」と答えた。
私も自分のすねをなでる感じで優しく刺激しないように被告人の手を払い、首を横に振った。
その後、被告人は肩を抱き寄せるようにしてキスをしてこようとしたので、顔をそむけたら、「だったらキスをして」とお願いをされ、口にするのは嫌だったので、「ほっぺになら」と言って、一瞬だけ頬にキスをした。
私は何度も「帰らなきゃ」と会話の途中で言っており、キスをしたら帰れると思った。
その後、被告人が座ったまま私をお姫様だっこみたいな感じで抱き寄せて、被告人の膝の上に乗せた。
一瞬の出来事だったので頭が真っ白になって何もできず、声も出ず、それからは首を横に振るくらいしか抵抗できなかった。
被告人が私の首にキスをしてきて、私のすねをなでてそのまま太もものほうまでなでてきて、手が尻のほうへ行って、私の陰部を触った。
陰部はなでるように触ってきて指が陰部の中に入ってきたことがあり、「ぐちゃぐちゃだね」と言われた。
被告人は私の服の中に手を入れ、胸をもむような感じで触ってきて、私の胸を舐めた。
私はずっと首を横に振っていた。

被告人は私を抱きかかえたまま立ち上がり、私を本件ウッドデッキに座らせ、私の目の前に立ってズボンを下ろし、陰茎を出してきた。
私は頭が真っ白になり、ただ首を横に振り続けるしかできなかった。
被告人は2回私の手をつかんで陰茎を触らせてきたが、私は嫌で手に力を入れなかったので、2回とも手は下に落ちた。
その後、被告人は、陰茎を私の口に近づけてきたので、私が口をぎゅっと閉じていたら、陰茎を私の唇に押し当ててきた。
その後、陰茎を私の口に当てた状態で、私の口に指を入れてきて、そのまま口を開けさせ、陰茎を口の中に入れてきた。
私は気持ちが悪かったので顔を背けるようにして吐き出した。
被告人はもう一度陰茎を口に近づけてきたので、私は口をぎゅっと閉じたが、また口に指を入れて口を開かされて陰茎を入れられたので、1回目と同じように顔を背けて吐き出した。
被告人は2回のうち少なくとも1回は私の顎を手で覆うように触ってきた。
被告人がどのような形でどちら側の口の端から指を入れて口を開けてきたかは覚えていないが、その指は口の端の方から下の歯を超えて入ってきた。
私は当時動けず、しゃべれない状態だったので、普段の私の口を開けようとするより容易に口を開けることができたと思う。
被告人の陰茎の先端が私の上顎の部分に当たったのは確かである。
私が2回目に被告人の陰茎を吐き出すと、被告人は少し横にずれて自分で陰茎を触り射精した。

私は、被告人と別れた後、走ってその場を離れて人目に付かない場所に隠れてBに電話をして直前の出来事を伝えるなどした後、文章にした方が良いと思ってEでBに送信した。
その後帰宅してすぐにシャワーを浴びたが、口をゆすいだ際、口の端が痛かった。
今回の被害に遭うまでは痛みなどはなく、唇の痛みより顎の痛みの方が長く続いた。

(2)被告人の公判供述の要旨
私は、本件コンビニでたばこを買った後、本件駐車場でたばこを吸っていると、Aが出てきたので、声を掛けた。
本件駐車場でたばこをAと共に吸い、電話番号を交換した。
Aから、家に帰らなければならない旨言われたので、家まで送っていこうかと聞くと、「はい、大丈夫」と言われたので、近くに立てかけていた自転車を取った。
自転車を取ってから、お待たせ、という意味を込めてAの肩を一瞬手でタッチした。
その後、自転車を押しながらAと一緒に歩き、本件ウッドデッキのところまで行ったところ、Aが「ここで大丈夫です」と言ったので、「もし良かったらここでもう少ししゃべりましょうか」又は「座りましょうか」などと聞くと、Aが「ちょっとならいいよ」と言った。
私は自転車を置くからちょっと待って、と言い、自転車を近くに立てかけた。
その後、ウッドデッキにAが座っていたので、自分もAの右側に座り、たばこを一緒に吸った。

私は、Aの脚をマッサージするように触り、「スポーツをするか」、「体重はいくつか」などと聞いた。
Aの体重を聞いた後、「抱きかかえることができるよ」と言ったら、Aから「そんな簡単にはできないよ」と言われたので、Aを抱きかかえて太ももの上に乗せた。
Aに「チューしてくれますか」などと聞いたら、Aから「えっ」という反応をされたので、口ではなく頬だよ、という意味で自分の頬を指さしたところ、Aはためらうことなく私の頬にキスをした。
私は、Aの脚を触り、Aの衣類が緩い感じだったので衣類の中に手を入れて尻を触り、服の上からも服の下からも胸を触った。
私がAの尻を触っていたとき、Aの脚の奥のほうに手を持って行ったところ、私の手がAの陰部に触れたようだったので驚いてAの衣類から手を出した。
Aの陰部に指は入れていない。
私は左手でAの背中を支えながらAの服を右手で上に上げ、Aの右胸の乳首を舐めた。
Aはその際、身体を少し反らした。
私が「気持ちいい」と聞くとAは「うん」と言った。

Aが私の陰部を服の上から触ってきたので、もう少しできるのかなと思い、Aを本件ウッドデッキの上に座らせ、Aの目の前に立った。
私が陰茎を出すためにズボンを下ろしたところ、Aはレストランでオーダー違いの品物を出されたときのような驚いた表情をしたが、嫌だとは言わなかったので、嫌がっている表情とは思わなかった。
私は1度、Aの手を持って私の陰茎の上に置いた。
Aは私の陰茎を握ってくれなかったが、Aが恥ずかしがっていると思った。

私はAが陰茎を舐めてくれるかもしれないと思い、Aの顎付近を左手で下から包むように持ち、右手で自身の陰茎を持ってAの唇に陰茎を当てたが、Aは口を開けず横に向いた。
そのため、Aが嫌がっているのだと思い、Aの口から陰茎を離した。
私が、Aの口を指で開けたり、Aの口の中に陰茎を入れた事実はない。
私は、Aが汚れないように横を向き、自分で陰茎を触り、射精した。

3A供述の信用性について
(1)Aは、被告人と別れた直後、高校時代からの友人であるBに電話を掛け、被告人とのやり取りをBに伝えた後、Eのメッセージでも被告人とのやり取りを送信している。

この点につき、Bは、当公判廷において、AはBが子育てを始めた後は、今回のように夜中にいきなり電話をかけてくることはなかった、Aは電話で当初おびえたような感じで少し混乱したように話していた、電話でAが話した内容とEのメッセージでその後に送信された内容は概ね異ならない旨供述している。
Bに虚偽供述の動機は認められず、BがAの公判供述と一部食い違う供述をしていることなどにも照らせば、BはAと供述をすり合わせるなどせず、当時の記憶に基づき供述しているものと認められ、Bの供述は十分に信用できる。

そして、Aは、被告人と初対面であり、しかも、普段と異なり、被告人と別れた直後、午前2時過ぎという深夜であるにもかかわらず、いきなりBに電話をかけていることに照らせば、Aが当時起きた出来事をありのままBに話したと認めることができ、AがBに伝えた内容について、多少の混乱はみられるにしても、記憶違いの可能性は低い。
また、虚偽供述の動機についてみても、Aは当時被害届を出すかどうか迷っており、交際相手との関係でも事件を大事にしたくないと思っていたのであるから、少なくともBに話した事件直後の時点では虚偽供述の動機は認められない。

そうすると、Aの公判供述のうち、Aが事件直後にBに話した内容、すなわちBに対して送信したEのメッセージと沿う部分については、その信用性が十分に認められるというべきである。

他方、Aの公判供述のうち、上記信用できるBの供述やEのメッセージ内容と整合しない部分については、Aの記憶が変容している可能性も否定できない。

(2)以上によれば、上記1記載の事実に加え、被告人がAの陰部に指を入れた事実及び被告人がAの口を指で開けて陰茎の先をAの口腔内に2度入れた事実が認められる。

これに対し、被告人は、Aの陰部を触ろうとしていないし、Aの陰部に指を入れていない、Aの口を指で開け、陰茎を口腔内に入れた事実はない旨供述するが、Aの信用できる供述部分に反する上、陰茎を握ることさえしてくれないAに対し、その唇に陰茎を当てて舐めてもらおうと考えるほど性的に興奮していた被告人が、Aの口に陰茎を押し当てた際、Aが口を開けず横を向いたというだけでこれを諦めるとも考えにくく、この点に関する被告人の供述は信用できない。

4被告人の行為とAの傷害結果との因果関係(Aの傷害結果に関するH医師の供述の信用性等)について
(1)H医師の公判供述の要旨
Aは、加療約2週間を要する口唇挫創、口輪筋挫傷、顎関節捻挫の傷害を負ったと診断した。

まず、口の両側の口角に赤い傷があったので、口唇挫創と判断した。
創の状況だけでは暴行によってできたのか不摂生によってできたのかはわからないが、指が受傷部位を圧迫したか、もしくは指でこすって生じたと考えて矛盾しない。
口唇挫創自体の加療期間は受傷日から約1週間である。

次に、Aが診察時に口を開けた際、顎関節や口周囲に痛みがあり、指1本分程度しか口を開けることができなかったので、口輪筋挫傷及び顎関節捻挫と診断した。
口輪筋挫傷は閉じようとした口を無理やり開くことで筋肉に傷が入ったと考えて矛盾せず、顎関節捻挫は普段の運動領域を超えて大きく口を開かれたために生じたと考えて矛盾しない。

Aが指1本分程度しか口を開くことができないということから、Aに対しかなり強い力が加わったと考えられ、受傷直後から痛みがあったと考えられる。
そのため、加療期間は受傷日から約2週間と判断した。

なお、レントゲンを撮影したが、異常は見られず、そのほか、口の周囲に目立つ腫れや内出血はなかった。

(2)H医師の供述の信用性等
H医師は、整形外科医としての専門的知見及び経験に基づき、上記供述をしており、その内容に不自然不合理な点はなく、同供述は信用できる。

そして、Aは、本件被害に遭うまでは上記各傷害を負っていなかった旨供述するところ、その点に合理的な疑問は見出せない。

そうすると、上記各傷害結果は被告人の行為によって生じたと考えるのが合理的であり、Aに生じた口唇挫創、口輪筋挫傷及び顎関節捻挫と被告人の行為との間に因果関係が認められる。

これに対し、弁護人は、Aの不摂生やAが本件の翌日である9月9日にコンサートに行った際に上記各傷害が生じた可能性がある旨主張する。

しかし、まず、口唇挫創の傷害については、Aが9月9日午前2時21分にBに対し、口の端が切れている旨述べていることに照らせば、Aがコンサートに行くより前に傷害が生じていたものと認められ、Aが昼夜逆転の生活を行っていたことやにきびができるなどして肌が荒れていたとうかがわれることを踏まえても、被告人の行為によるものではないとの合理的な疑いまでは生じない。
もっとも、Aの供述によっても被告人が指でAの口の両端を強い力で押さえ付けたとは認められず、従前のAの皮膚科受診歴等からうかがわれる肌の弱さ等のA側の事情も加わって口唇挫創が生じた可能性は否定できない。

次に、口輪筋挫傷及び顎関節捻挫の傷害については、確かに、AはBに対し口周囲や顎の痛みについては伝えていないし、A自身も被告人がAの顎を触る力は強くなかった旨述べているほか、受傷直後は顎付近よりも口の端のほうが痛かった旨述べているため、受傷直後から口周囲や顎関節の痛みが生じていたとは考えられず、H医師が供述するほどの強い力が、被告人の行為によってAの口周囲や顎付近に加わったとまでは認められない。
他方、Aが供述する程度の弱い痛みや違和感にすぎなかったのであれば、AがBに痛み等を伝えなかったとしても不自然とまではいうことができず、また、Aが上記で認定した行為を受けた翌日にコンサートで口を大きく開けて騒ぐとも考えにくいため、口輪筋挫傷及び顎関節捻挫についても、被告人がAの口に指を入れ、Aの口腔内に陰茎を入れた際に生じたとみるのが自然であり、因果関係を認めるのが相当である。

5被告人の加えた暴行がAの反抗を著しく困難にする程度の暴行であると認められるかについて
Aと被告人との間には、上記1及び3で記載したようなやり取りがあったところ、Aは、被告人がAを本件ウッドデッキに座らせ、Aの目の前に立った際、頭が真っ白になり、口を閉じて陰茎を入れられることに抵抗しようとしたが、被告人に顎を触られた状態で口に指を入れられたため、顔を動かすことができず、陰茎を入れられた旨供述している。

そして、Aは、被害直後に、深夜であるにもかかわらず事前の連絡なくBに電話をかけ、Bから「いま寝室」とEのメッセージを受信しても更にBに電話をかけ、約53分間にわたり通話をし、被害状況について申告していること、Bに送信したEのメッセージにおいても上記の際には頭が真っ白になった旨述べていることのほか、Aは、当時25歳と若年であり、身長約149cm、体重約38kgであった一方、被告人は、身長約169cm、体重約67kgと大きな体格差があること、被害当時は、午前2時頃の深夜であって、本件ウッドデッキの周囲に人通りは見られなかったこと、Aが被告人の陰茎を吐き出した後も再度被告人の陰茎を口に入れられてしまっていることなどの事情に照らせば、少なくとも、被告人がAの目の前に立った際に頭が真っ白になった旨のAの上記供述は信用できる。

そうすると、被告人がAを本件ウッドデッキに座らせ、Aの目の前に立った状態で、口に指を入れる暴行をしたことによって、Aは、頭が真っ白になり、顔を動かす等の手段に出ることができず、被告人が口腔内に陰茎を入れようとするのを拒否することが非常に難しくなったということができ、被告人の加えた暴行がAの反抗を著しく困難にする程度のものであったと認めることができる。

6被告人が自身の加えた暴行がAの反抗を著しく困難にする程度のものであると認識していたかについて
Aは、上記のとおり、被告人が目の前に立った当時、被告人の暴行に対し抵抗することが著しく困難であった、とは認められるものの、Aの供述や傷害結果によっても、被告人がAの顎を触ったりAの口に指を入れて口を開けたりする、という暴行の程度が強いものであったとまでは認めることができないことに照らせば、Aが抵抗できなかった主たる理由は「頭が真っ白になる」などといった精神的な理由によるものであると考えられる。

そして、被告人は、上記のとおり、口腔性交の際には、Aに対し、それほど強い暴行を加えていない上、口腔性交に至るまでの間にも、殴る、蹴る、脅すといった強度の暴行脅迫行為をしておらず、Aから二度目に陰茎を吐き出された後も、それ以上の暴行等の行為をAに対してせず、自ら陰茎を触り射精するにとどめている。
また、Aは、被告人からわいせつな行為を開始された後は、声を出すことができなかったこともあり、拒絶の気持ちを言葉では被告人に伝えることができておらず、Aが被害直後にBに送信したEのメッセージに照らしてみても、Aは諦めから口腔性交に至るまでの被告人の行為を一定程度受け入れてしまった様子がうかがわれ、口腔性交に至る前の時点では、被告人からみて明らかにそれと分かるような形での抵抗を示すことができていなかったと認められる。

そうすると、被告人の行為は、被告人の立場からみると、いわゆるナンパをした女性に対し、相手の反応をうかがいながら、徐々に行動をエスカレートさせ、どこまで相手が応じてくれるか試し、最終的に拒絶の意思を感じた段階で行為をやめたものとも評価し得る。
そのような評価が可能であることを踏まえると、被告人が当時、Aが被告人との口腔性交を拒否することがとても難しい状態であったこと、あるいはそのような状態であることを基礎付ける事情(以下「Aの反抗が困難な事情」という。
)を認識していたと認めるには、常識に照らして疑問が残るといわざるを得ない。

そして、被告人は、Aから、一度目に陰茎を吐き出された後、更にAの口に指を入れ、その口腔内に陰茎を入れているが、上述した経緯等に照らせば、一度目に吐き出されただけでは、それが拒絶の意思によるものと必ずしも理解できず、Aの顎に手を添えるなどして再度の挿入を試みた可能性も否定できず、二度目にAの口に指を入れた時点においても、Aの反抗が困難な事情を認識していたと認めるには、なお常識に照らして疑問が残るといわざるを得ない。

第3結論
以上検討したところによれば、被告人が口腔性交をする際、Aの反抗が困難な事情を認識していたと認めるには合理的な疑いが残り、被告人にはこの点に関する故意が認められない。

なお、上記で検討したところによれば、被告人がAの口に指を入れ、陰茎を入れる暴行を加えた際に、被告人が同行為につきAの消極的な承諾があったと考えていた合理的な疑いを払しょくすることもできないから、被告人の行為に傷害罪が成立すると認めることもできない。

よって、本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法336条により被告人に対して無罪の言渡しをする。

(求刑-懲役7年)
刑事部
(裁判長裁判官山田直之裁判官横江麻里子裁判官村島裕美)