児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

 「児童買春事案で、対償の約束が年齢を知る前であれば児童買春(児童ポルノ法2条2項)ではなく、各地の青少年健全育成条例違反の行為にとどまります」(先を見通す捜査弁護術p7)ということはない。

 説例の事案が、買春行為だとすると、児童ポルノ・児童買春法附則2条1項で買春行為については青少年条例の規定(淫行処罰規定)は効力を失うので、年齢を知っていても知らなくても、青少年条例は適用されません。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
附 則 抄
(条例との関係)
第二条 1
地方公共団体の条例の規定で、この法律で規制する行為を処罰する旨を定めているものの当該行為に係る部分については、この法律の施行と同時に、その効力を失うものとする。

 確認のための判例を作ってある。

東京高裁平成24年7月17日
理由
本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成の控訴趣意書(添付資料を除く。)及び控訴趣意補充書各記載のとおりであるから,これらを引用する。
第1法令適用の誤りの論旨(控訴理由第1ないし第7)について
1 論旨は,要するに,
(1)児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童買春・児童ポルノ等処罰法」という。)の施行により,県青少年健全育成条例(以下,単に「条例」という。)の淫行処罰規定は当然に失効したにもかかわらず,原判示第1,第5,第7及び第11の各所為に対して条例を適用した点
(2)原判示第5の児童と被告人との間には対償供与の約束があったのであるから,条例を適用する余地がないにもかかわらず,同第5の所為に対して条例を適用した点
(3)原判示第5の所為は「みだらな性行為」に当たらないにもかかわらず,それに当たるとした点,
・・・で,原判決には法令適用の誤りがある,というのである。
そこで検討すると/原判決に所論のような法令適用の誤りは認められない。
以下,順次説明する。
(1)原判示第1,第5,第7及び第11の各所為に対して条例を適用した点について
所論は,18歳未満の者との性行為については,国法である児童買春・児童ポルノ等処罰法のみで全国一律に有償の場合のみを規制する趣旨であるとして,同法の施行により条例の淫行処罰規定は当然に失効しかと主張する。
そこで検討すると,児童買春・児童ポルノ等処罰法が,対償を伴う児童との性交等のみを児童買春として処罰することとし,対償を伴わない児童との性交等を規律する明文の規定を置いていないのは,後者につき,いかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であるとは解されず,それぞれの普通地方公共団体において,その地方の実情に応じて,別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解される。
そうすると,青少年に対するみだらな性行為等を禁止し,これに違反した者を処罰することとした条例35条1項,53条のいわゆる淫行処罰規定は,児童買春・児童ポルノ等処罰法の施行によって,児童買春に該当する行為に係る部分についてのみ効力を失ったが,それ以外の部分については,なお効力を有するものと解される(平成11年法律第52号附則2条1項参照)

 なお、児童買春行為で、児童と知らなかったという弁解が出たので、児童買春罪を諦めて青少年条例違反(過失の淫行)に罪名を落として起訴されることが時々ある(那覇地裁h27.1.7等)。この場合には、被疑事実から「対償供与の約束」が落ちて、法定刑が軽くなるので、被告人・弁護人が歓迎して乗ってしまうことがあるが、児童買春罪の児童と知らずのケースであることを譲らなければ起訴されないので、要注意。買春行為については、青少年条例はないのだから、青少年条例違反での処罰はあり得ない。
 児童買春罪の年齢不知事案で高裁の無罪判決(福岡高裁那覇支部h30.11.14)が出ているが、控訴趣意書で児童買春罪と条例の関係を説明しておいたので、青少年条例違反(過失)への訴因変更はなかった。

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先を見通す捜査弁護術
服部啓一郎 深澤諭史 淺井健人 編著 髙木小太郎 後藤晃輔 菱沼秀樹 著
単行本 法曹
ISBN 978-4-474-06009-8
発刊年月日 2018-02-27
判型 A5判/C3032
(事例1-1
都内に下宿している大学4年生であるXは、SNSで17歳の女子高校生Yと知り合った。
ネット上で意気投合した2人は、お互いに都内在住ということで会ってみようという話になり、都内某所で食事をし、同日、近隣のホテルで性交渉をした。
なお、このとき、XはYに対して現金は渡していないが、2人で合計1万円余りの食事をし、かつ、会計はXが支払っている。‐
その後、Xは怖くなってしまい、Yの連絡先や会話記録を削除して連絡を絶っている状態であるが、警察から接触は一切ない。
Xは不安になり、弁護士に相談に来た。
・・・
(2) 犯罪不成立の場合にも注意
自首の相談内容が、そもそも犯罪不成立」というケースも少なくありません。
特に「故意犯処訓の原則」や、この世の悪いことがすべて「犯罪」になるわけではないことは、一般的にはよく知られていないところです.
相談者が犯罪であると思っているからといって、安易に先入観を持たずにフラットな気持ちで聞いて、犯罪の成否をよく検討すべきです。
特に、本事例では、Yが児童であることを知らなければ犯罪は成立しないため、年齢を知ったのがいつであるか確認が必要です。性交渉後であれば犯罪不成立であり、買春事案の場合、対償の約束が年齢を知る前であれば児童買春(児童ポルノ法2条2項)ではなく、各地の青少年健全育成条例違反の行為にとどまります