児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

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東北大学教授成瀬幸典「強制わいせつ罪と性的意図」法学教室Nov.2018 No.458

東北大学教授成瀬幸典「強制わいせつ罪と性的意図」法学教室Nov.2018 No.458


 原判決が横浜地裁h28.7.20で、タイミング悪く控訴趣意書提出後に大法廷h29.11.29が出ているので、性的意図についての主張は不完全です。
 しかも検察官控訴(量刑不当)がされていて主要争点は量刑(無期懲役か有期懲役か)なので、わいせつとか児童ポルノとかはおまけの論点でした。
 

強制わいせつ罪と性的意図
東北大学教授成瀬幸典
東京高裁平成30年1月30日判決
平成28年(う)第1687号保護責任者遺棄致傷児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ(変更後の訴因わいせつ誘拐,強制わいせつ),殺人,強制わいせつ致傷被告事件
LEX/DB25549825
わいせつ行為性判断における性的意図の意義。
〔参照条文〕刑176条【事件の概要】被告人Xは,生後8か月のVのおむつを引き下げて陰茎を露出させた上,その包皮をむくなどの暴行を加え,亀頭部を殊更露出させるなどの姿態をとらせ,その姿態をスマートフオン付属のカメラで撮影したが,その際Vに亀頭包皮炎の傷害を負わせた。
また,Xは,それとは別に,約1年の間に,生後4か月から5歳の子ども8人に対し,亀頭部を殊更露出させるなどの姿態をとらせ,その姿態をデジタルカメラ等のカメラで撮影した(以下,V及び8人の子供に対する上記の行為を「本件行為」)。
なお,本件行為には,日常でも目にするような全裸又は半裸の乳幼児の姿態を写真撮影するという態様のものも含まれていた。
原判決(横浜地判平成28.7.20 LEX/DB25543577)は,Xは性的意図の下に本件行為を行ったと認められるとして,Vに対する強制わいせつ致傷罪と8人の子どもに対する強制わいせつ罪(以下,強制わいせつ罪を「本罪」)の成立を認めた。
弁護人が控訴し,Xに性的意図はなかったので本罪は成立しないと主張した。
本判決は,性的意図を認めた原判決の判断を「理由とするところを含めて正当であり,当裁判所としても是認できる」とした上で,次のように述べた。
【判旨】<控訴棄却〉
「なお,原判決当時,強制わいせつ罪の成立には,行為者の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図のもとに行為が行われることを要するとする判例最高裁昭和45年1月29日判決)があったが,その後,この判例は,故意以外の行為者の性的意図を一律に同罪の成立要件とすることは相当でないとする最高裁平成29年11月29日大法廷判決によって,変更されている。
もっとも,同判決は,わいせつ行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為の性的な意味の強さに応じて,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合もあり得ると判示している。
本件強制わいせつ等の各行為には,陰茎等を緊縛する,陰茎や陰部を露出させる,陰茎の包皮をむくといったそれ自体性的性質が明確なものも含まれる一方,日常でも目にするような全裸又は半裸の乳幼児の姿態を写真撮影するという態様のものも含まれており,それらのわいせつ行為該当,凶を判断するのに,Xの性的意図の有無をも考慮要素とする意義はなお存するというべきである。
〔下線は引用者〕」【解説】1最判昭和45.1.29刑集24巻1号1頁(以下,昭和45年判決)が,本罪の成立のためには,行為が性的意図の下に行われることを要するとして以来,性的意図を本罪の主観的要件とする立場を前提にした(と解される)裁判例が積み重ねられてきたが,最大判平成29.11.29刑集71巻9号467頁(以下,平成29年判決)は,昭和45年判決を明示的に変更した。
もっとも,平成29年判決が否定したのは,性的意図を本罪の一般的な主観的要件とすることであって,個別の事案におけるわいせつ行為性の判断において「行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合」がありうることは認めていた。
本判決の意義は,平成29年判決を踏まえつつ,下線部がそのような場合の一例であることを示した点にある。
なお,本罪の成否の判断に際して性的意図の有無を考慮した昭和45年判決以降の裁判例は,それを①本罪の一般的な主観的要件としたものと,②わいせつ行為性の判断の一要素としたものに大別されるが(詳細は,成瀬幸典「強制わいせつ罪に関する一考察(下)」法学〔東北大学〕82巻6号掲載予定参照。
なお,①と②のいずれの形で判断が示されるかは弁護人の主張に左右される面があり,①の裁判例の中には,実質的には②に整理されうるものもある),平成29年判決の上記の判示内容に鑑みると,②の裁判例は現在でも参照価値を有する。
本判決は②に属する新たな裁判例でもある。
2本判決(及び平成29年判決)は,性的意図の有無がわいせつ行為該当性の判断に影響を及ぼしうるとの理解を前提にしているが,客観的構成要件要素であるわいせつ行為性は,専ら行為の外形面を基礎に判断されるべきであろう。
また,176条後段の罪の本質は「性的弱者としての子供の保護という観点を基礎にした,「13歳未満の子供をわいせつ行為の対象とすること一般の禁止」」にあり,性的意図を同罪の一般的な主観的要件とすべきではない。
したがって,下線部のような乳幼児の裸体・半裸体の写真撮影については,撮影主体,撮影主体と被写体との関係,撮影が行われた状況・態様,写真の内容等を基礎に,当該撮影が本罪のわいせつ行為と認めうる程度の性的意味を備えているか否かを,社会通念に照らして客観的に評価し(その際「わが国では」,乳幼児の両親等がその裸体を撮影したり,一緒に入浴している状況を撮影したりすることがしばしば行われていることを踏まえる必要がある),それが肯定されれば,行為者の主観的事情にかかわらず,本罪の成立を認めるべきである。
下線部の行為はこの立場からも十分に「わいせつ行為」と評価できよう。
3なお,弁護人は①低年齢児に対するわいせつ行為は一一般人の性欲を興奮・刺激させず(新潟地判昭和63.8.26判時1299号152頁の弁護人の主張も参照),また,②低年齢児には性的差恥心がなく法益侵害性も認められないので本罪は成立しないとも主張した。
これに対し,本判決は,①につき,「低年齢児でも殊更に全裸又は下半身を裸にさせて性器を露出させてこれを撮影するならば,一般人の性欲を興奮刺激させるもの,言い換えれば,一般人が性的な意味のある行為であると評価するものと解される」とし,②につき,本罪の保護法益である性的自由は「一般人が性的な意味があると評価するような行為を意思に反してされた」場合に侵害されることになるとした上で,「意思に反しないとは,その意味を理解して自由な選択によりその行為を拒否していない場合」をいい,そのような意味を理解できない乳幼児の場合,「意思に反しない状況は想定できない」ので,法益侵害性が認められるとしたが,①については,「一般人の性欲を興奮刺激させるもの」と「一般人が性的な意味のある行為であると評価するもの」を同視していることに,②については,性的自由及びその侵害の理解に疑問を覚えるものもあろう。
これらの検討及びそのために必要な諸概念(性的自由等)の内容の解明は今後の学説の課題である。