児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「被害者の性的な羞恥心の対象になりますので、当然に『わいせつな行為』にあたります」という弁護士~まるでブチャラティ? 塾講師が「嘘をついてないか確認する」と耳を舐めて逮捕されたワケ

 記事にある大法廷h29.11.29は、性的意図不要とした反面、わいせつの定義を放棄していますので、判例上わいせつの定義が定まっていません。
 性的羞恥心とすると乳幼児の強制わいせつ罪(176条後段)が説明できなくなります。東京高裁H30.1.30は「所論のように性的羞恥心のみを重視するのは相当ではなく,一般人が性的な意味があると評価するような行為を意思に反してされたならば,性的自由が侵害されたものと解すべきである」と言ってますが、性的自由とするもの、わからないからパスするもの、いろいろあります。
 定義がないと、限界事例では起訴ができなくて、先日千葉であった、口に指入れるという強制わいせつ罪の逮捕事例は、強制わいせつ罪を見送って暴行罪で起訴されたと報道されています。

某地裁H30
第2
わいせつ行為該当性
弁護人は,最高裁判所大法廷判決平成29年11月29日が,性的な行為を「絶対的わいせつ行為」と「相対的わいせつ行為」に二分し,前者については性的意図を不要としたが,それでは「徒に性欲を興奮又は刺激させ」るとの従来からのわいせつ行為の定義に該当しないこととなるから,わいせつ行為の再定義を裁判所が示せなければ強制わいせつ罪は成立しない等と主張するが,被告人が■■■■■■■■■■■■■■■■などした本件強制わいせつ行為は,その態様から見て性的性質を有するものであることは明確であり,可罰的なわいせつ行為に該当することは明らかというべきである。

その控訴審判決 某高裁H30
わいせつな行為の定義を明確にしないまま強制わいせつ罪について有罪とした点で理由不備及び判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある。(という主張に対して)
 原判示第6の行為(強制わいせつ)は,被告人が13歳未満の男児に対し,■■■■■■■■■■■■■■■■などしたもので,わいせつな行為の一般的な定義を示した上で該当性を論ずるまでもない事案であって,その性質上,当然に性的な意味があり,直ちにわいせつな行為と評価できることは自明である。所論は採用できない。

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阪高裁H28.10.27
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail3?id=86760
(2)ところで,強制わいせつ罪の保護法益は被害者の性的自由と解され,同罪は被害者の性的自由を侵害する行為を処罰するものであり,客観的に被害者の性的自由を侵害する行為がなされ,行為者がその旨認識していれば,強制わいせつ罪が成立し,行為者の性的意図の有無は同罪の成立に影響を及ぼすものではないと解すべきである。その理由は,原判決も指摘するとおり,犯人の性欲を刺激興奮させ,または満足させるという性的意図の有無によって,被害者の性的自由が侵害されたか否かが左右されるとは考えられないし,このような犯人の性的意図が強制わいせつ罪の成立要件であると定めた規定はなく,同罪の成立にこのような特別な主観的要件を要求する実質的な根拠は存在しないと考えられるからである。
 そうすると,本件において,被告人の目的がいかなるものであったにせよ,被告人の行為が被害女児の性的自由を侵害する行為であることは明らかであり,被告人も自己の行為がそういう行為であることは十分に認識していたと認められるから,強制わいせつ罪が成立することは明白である。
 以上によれば,強制わいせつ罪の成立について犯人が性的意図を有する必要はないから,被告人に性的意図が認められないにしても,被告人には強制わいせつ罪が成立するとした原判決の判断及び法令解釈は相当というべきである。当裁判所も,刑法176条について,原審と同様の解釈をとるものであり,最高裁判例(最高裁昭和45年1月29日第1小法廷判決・刑集24巻1号1頁)の判断基準を現時点において維持するのは相当ではないと考える。
(3)所論は,強制わいせつ罪の保護法益を純粋に個人の性的自由とみて,同罪の成立に犯人の性的意図を要しないと解釈した場合,①わいせつ行為の範囲は,被害者の性的意思決定の自由が害される行為として被害者個人によって主観的に定められることになり,極めて不明確となる,②性的自由を観念できない乳幼児に対する強制わいせつ罪が成立しないことになり,その保護に欠ける,などと主張する。
 しかしながら,前記のように解釈したとしても,強制わいせつ罪におけるわいせつな行為の該当性を検討するに当たっては,被害者の性的自由を侵害する行為であるか否かを客観的に判断すべきであるから,所論①のように処罰範囲が不明確になるとはいえない。また,性的な事柄についての判断能力を有しない乳幼児にも保護されるべき性的自由は当然認められるのであり,その点で既に所論②は失当である上,犯人の性的意図の要否と乳幼児に対する強制わいせつ罪の成否とは特段関連する問題とは考えられないから,保護法益を純粋に性的自由とみて性的意図を不要と解釈すると乳幼児の保護に欠ける事態になるとの批判は当たらない。
 その他,強制わいせつ罪の成立要件について縷々主張する所論は,いずれも失当であって採用することはできない。
 3 したがって,被告人に強制わいせつ罪が成立するとして当該法条を適用した原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがあるとはいえない。法令適用の誤りをいう論旨は理由がない。また,強制わいせつ罪の成立には犯人の性的意図があることを必要としないと解されるのであるから,原判示第1の1の犯罪事実(罪となるべき事実)に性的意図を記載しなかった原判決に理由不備の違法があるとはいえない。理由不備をいう論旨も理由がない。
・・・・
東京高裁H30.1.30(上告棄却)
事件名  保護責任者遺棄致傷、強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反、強制わいせつ(変更後の訴因わいせつ誘拐、強制わいせつ)、殺人、強制わいせつ致傷被告事件
裁判結果  控訴棄却  文献番号  2018WLJPCA01306002
第3  弁護人の法令適用の誤りの主張について
 1  低年齢児に対する強制わいせつ罪,強制わいせつ致傷罪及びわいせつ目的誘拐罪(以下,単に「強制わいせつ罪等」ともいう。)の成否について
   (1)  論旨は,6歳未満の児童に対して強制わいせつ罪等は成立しないのに,強制わいせつ罪等の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
   (2)  刑法は,強制わいせつ罪等の対象について年齢の下限を設けておらず,むしろ13歳未満の児童に対しては保護を厚くしており,法文上,6歳未満の児童も強制わいせつ罪の対象となることは明らかである。
 所論は,①低年齢児に対するわいせつ行為では一般人の性欲を興奮,刺激させない,②低年齢児には性的羞恥心がないので,法益侵害がないなどと主張する。
 しかし,①については,6歳未満の低年齢児でも殊更に全裸又は下半身を裸にさせて性器を露出させてこれを撮影するならば,一般人の性欲を興奮,刺激させるもの,言い換えれば,一般人が性的な意味のある行為であると評価するものと解されるから,強制わいせつ行為に該当する。また,②については,強制わいせつ罪の保護法益は,個人の性的自由であると解されるが,所論のように性的羞恥心のみを重視するのは相当ではなく,一般人が性的な意味があると評価するような行為を意思に反してされたならば,性的自由が侵害されたものと解すべきである。そして,ここで意思に反しないとは,その意味を理解して自由な選択によりその行為を拒否していない場合をいうものと解されるから,そのような意味を理解しない乳幼児については,そもそもそのような意思に反しない状況は想定できない。このことは,精神の障害により性的意味を理解できない者に対しても準強制わいせつ罪(刑法178条1項)が成立することによっても明らかである。本件では,生後4か月から5歳までの乳幼児に対し,性器を露出させるなどして,これを撮影したものであるから,同人らの性的自由を侵害したものと認められる。
 その余の主張を含め,所論は理由がなく,いずれも採用できない。

https://www.bengo4.com/c_1009/c_1407/n_8794/
あとは、『わいせつな行為』といえるかどうかです。『わいせつな行為』とは、本人の性的羞恥心の対象となるような行為をいいます。例えば、無理やりキスをすれば『わいせつな行為』にあたります。
耳を舐めるのもキスと同様の行為であり、被害者の性的な羞恥心の対象になりますので、当然に『わいせつな行為』にあたります」

もし、ブチャラティのように、うそをついてないか確認する目的で、わいせつ目的ではなかったとしてもダメなのか。

「現在の最高裁判所の考え方(2017年11月29日の最高裁判決)によりますと、犯人の性的意図は不要であると判断されており、本罪の関係とは無関係です。性的意図があったかなかったかは関係ありません」

ジョジョの作品中では、ブチャラティがケーブルカーの窓の外から、車内にいる主人公ジョルノに迫り、不意にほおをなめるという行為だったが、これも日本で起きた場合には、強制わいせつになるのか。

「そういう可能性はあります。反抗できない状態でほおをなめる行為が暴行であり、わいせつな行為であると考えることができます」

(弁護士ドットコムニュース)

西口 竜司弁護士
西口 竜司(にしぐち・りゅうじ)弁護士

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