児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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1~6歳児への触って撮る行為を強制わいせつ罪(176条後段)として、児童ポルノ製造罪とは併合罪とした事例(東京高裁h30.7.25)

 1歳とかだと、保護法益性的羞恥心説では説明できないので、わいせつの定義を争う必要があると思います。
 「わいせつとは■■■■■■■■■■■■■■■■行為をいうところ、本件行為は■■■■■■■■■■■■■■■■だから、わいせつ行為にほかならない」 という判示をもらって下さい。判例違反の上告理由ができますから。
 強制わいせつ罪(176条後段)と児童ポルノ製造罪の関係について、東京高裁h30.1.30が観念的競合で、東京高裁h30.7.25は併合罪ということで東京高裁でも揺れてるみたいですね。

■28260334
横浜地方裁判所
平成29年12月26日
上記の者に対する強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、当裁判所は、検察官亀卦川健一、同田中惇也、主任弁護人中野憲司、弁護人金子泰輔各出席の上審理し、次のとおり判決する。
(罪となるべき事実)
 被告人は、
第1 各児童がいずれも13歳未満であることを知りながら、同人らにわいせつな行為をしようと考え、
 1 (平成28年11月30日付け追起訴状記載の公訴事実第1)
  平成27年9月21日、神奈川県P市●●●所在の託児所●●●(以下「本件託児所」という。)内において、●●●(当時3歳。以下「A」という。)に対し、その陰部付近を直接触るなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
 2 (平成28年12月20日付け追起訴状記載の公訴事実第1)
  別表1―1記載のとおり、平成28年1月12日から同年3月5日までの間、前後7回にわたり、Q市●●●所在の保育園●●●(以下「本件保育園」という。)内において、●●●(当時4歳。以下「B」という。)に対し、その陰部を直接触る、陰部を舐めるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
 3 (平成29年2月6日付け追起訴状記載の公訴事実第1)
  本件保育園内において、
  (1) 別表1―2記載のとおり、平成28年1月15日から同年3月6日までの間、前後13回にわたり、●●●(当時4歳。以下「C」という。)に対し、パンツの上から臀部をなでる、パンツの上から陰部を触る、陰部を直接触る、肛門や陰部に綿棒様のものを入れるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (2) 別表1―3記載のとおり、同年2月5日から同年3月6日までの間、前後7回にわたり、●●●(当時2歳。以下「D」という。)に対し、陰部を直接触る、陰部に指を入れる、陰部を舐める、陰部に綿棒様のものを入れる、陰部にDの指を入れさせるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (3) 別表1―4記載のとおり、同年1月16日から同年3月8日までの間、前後8回にわたり、●●●(当時5歳。以下「E」という。)に対し、パンツの上から陰部を触る、陰部を直接触る、陰部に棒様のものを入れるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (4) 別表1―5記載のとおり、同年1月21日から同年2月21日までの間、前後4回にわたり、●●●(当時1歳。以下「F」という。)に対し、陰部を直接触る、陰部に綿棒様のものを入れるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (5) 別表1―6記載のとおり、同年1月20日及び同年2月19日の前後2回にわたり、●●●(当時1歳。以下「G」という。)に対し、陰部を直接触る、陰部に綿棒様のものを入れるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (6) 同年1月24日、●●●(当時2歳。以下「H」という。)に対し、陰部を直接触り、陰部に指を入れ、陰部を舐め、陰部に棒様のものを入れるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (7) 同月23日、●●●(当時3歳。以下「I」という。)に対し、陰部を直接触るなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (8) 同月18日、●●●(当時1歳。以下「J」という。)に対し、陰部を直接触り、陰部に綿棒様のものを入れるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (9) 同年2月6日、●●●(当時6歳。以下「K」という。)に対し、パンツの上から陰部を触り、陰部を直接触るなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
 4 (平成29年2月27日付け追起訴状記載の公訴事実第1)
  本件託児所内において、
  (1) 平成27年4月19日、●●●(当時3歳。以下「L」という。)に対し、陰部を直接触り、陰部に指を入れるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (2) 同年5月1日、●●●(当時2歳。以下「M」という。)に対し、陰部を直接触り、陰部に指を入れ、陰部に棒様のものを入れるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (3) 同月2日から同月3日までの間、●●●(当時4歳。以下「N」という。)に対し、パンツの上から陰部を触り、陰部を直接触るなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (4) 同月3日、●●●(当時4歳。以下「O」という。)に対し、パンツの上から陰部を触り、陰部を直接触るなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
 もってそれぞれ13歳未満の女子に対し、わいせつな行為をし

裁判年月日 平成30年 7月25日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件名 強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
文献番号 2018WLJPCA07256006
 上記の者に対する強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について,平成29年12月26日横浜地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官有水基幸出席の上審理し,次のとおり判決する。
理由
 本件控訴の趣意は,法令適用の誤り及び量刑不当の主張である。
第1 法令適用の誤りの主張について
 その骨子は,原判示第1の各強制わいせつと原判示第2の各児童ポルノ製造は,重なり合うものであり,社会的見解上1個の行為と評価すべきであるから,刑法54条1項前段の観念的競合の関係に立つのに,刑法45条前段の併合罪の関係にあるとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというものである。
 しかし,本件のように幼児の陰部を触るなどのわいせつな行為をするとともに,その行為等を撮影して児童ポルノを製造した場合,わいせつな行為と児童ポルノを製造した行為とは,かなりの部分で重なり合っていることもあるが,通常伴う関係にあるとはいえない上,強制わいせつ罪では幼児の陰部を触るなどのわいせつな行為を行ったという側面から犯罪とされているのに対し,児童ポルノ製造罪ではそのような幼児の姿態を撮影して記録・保存する行為を行ったという側面から犯罪とされているのであって,それぞれの行為は社会的評価としても別個のものといえる。同趣旨の判断をして,原判示第1の各強制わいせつ罪とそれらの各犯行に対応する原判示第2の各児童ポルノ製造罪について,いずれも併合罪とした原判決の法令適用に誤りはない。
第2 量刑不当の主張について
 その骨子は,被告人を懲役15年に処した原判決の量刑は重すぎて不当であるというものである。
 本件は,保育士であった被告人が,平成27年4月から平成28年3月までの間に,勤務先の託児所及び保育園において,1歳から6歳の15名の女児に対し,合計50回にわたり,陰部を直接触るなどのわいせつな行為を繰り返すとともに,その際に各被害児を撮影した静止画や動画合計126点を保存して児童ポルノを製造したという事案であるところ,原判決が量刑の理由として説示するところは相当であって,その結論も妥当である。
 若干補足すると,本件各強制わいせつは,被告人が,保育士として一人で勤務していた際に,その立場を悪用し,助けを求めることも抵抗することもできない状況にある幼児に対し,陰部を直接触るほか,うち10名の被害児については,陰部や肛門に指や棒様のものを入れたり,陰部を舐めたりするなどの強度のわいせつな行為を行ったものであり,そのようなわいせつな行為を執拗かつ多数回行った被害児もいる。このような被害に遭った被害児らは,本件各犯行時にかなり嫌な思いをして精神的痛手を直接受けるなどしたことにより,将来にわたっての精神的な悪影響が懸念されるのであって,15名もの幼児に対し,このような懸念のある性的虐待を加えた結果は誠に重大である。
 また,被告人は,被害児が嫌がる素振りをしたり涙を流したりしていても,わいせつな行為を続けている上,全ての被害児について児童ポルノの製造にも及んだものである。しかも,平成27年4月中旬から5月上旬にかけて本件託児所で4名の被害児に対する本件各犯行に及んだ後,本件託児所を解雇されたが,9月に復職した当日に1名の被害児に対する本件犯行に及び,その後,平成28年1月中旬に本件保育園で勤務を開始した直後から3月上旬までの間に10名の被害児に対する本件各犯行を頻繁に繰り返したものでもある。その上,被告人は,平成22年に,保育士として勤務していた保育施設の園児に対する強制わいせつ罪で懲役3年に処せられ,服役したにもかかわらず,再び保育士として勤務して,本件各犯行を重ねたものである。これらのことからすると,被告人は,自らの性的欲望を満たすために幼児を道具のように扱い,人としての尊厳を踏みにじることをいとわない傾向がかなり強いといえ,極めて厳しい非難に値する。
 したがって,本件犯情は非常に悪く,被告人の刑事責任は誠に重大である。
 そうすると,本件児童ポルノが外部に流出しておらず,被告人が本件に関する携帯電話やパソコンの初期化及びデータの削除,記録媒体の所有権放棄に同意しており,今後もその流出の危険がないこと,被告人が本件各犯行を認めて,刑務所において性犯罪者処遇プログラムを受講する意向を示していることなどの事情を被告人のために考慮しても,原判決の量刑は相当なものとして支持できる。
 弁護人は,今後の被害児らの健全な生育への悪影響も強く懸念されるとした原判決の判断は,悪影響が確認されていない段階での主観的なもので,過大な評価の可能性があるなどと主張する。しかし,被害児らに対する精神的な悪影響が確認されていなくても,多数の幼児が将来にわたって精神的な悪影響を受ける可能性のあるわいせつな行為をされたこと自体が,結果として重大であると評価できるのであって,原判決の判断に誤りはない。
 また,弁護人は,原判決は,被告人が中高生時に受けた性的被害やいじめ被害が本件犯行に至る上で何らかの影響を与えているとうかがわれる点に触れておらず,適切でないと主張する。しかし,弁護人が主張するような事情があったとしても,上記のような本件犯情に照らすと,本件の量刑に影響するものとはいえない。
 さらに,弁護人は,本件各罪と併合罪の関係にある罪について,別々に審理されており,併合の利益が失われて必要以上に重罰になっていると主張する。しかし,原審における本件及び別件の公判前整理手続において,原審弁護人が本件と別件を分離するなどして別々に審理することを求めていることを踏まえて,本件を別件から分離して審理,判決した原判決の訴訟手続は妥当なものであり,その結果として原判決は確定していない別件の判決を踏まえて量刑判断をすることができなくなったものであり,弁護人の主張は失当である。
 そのほかに弁護人が指摘する点を踏まえて検討しても,結論は変わらない。
第3 結語
 以上のとおり,本件控訴の趣意はいずれ理由がないから,刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却する。刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中150日を原判決の刑に算入する。当審における訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。
 東京高等裁判所第3刑事部
 (裁判長裁判官 秋葉康弘 裁判官 來司直美 裁判官 中川正隆)