児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童買春罪の実行行為は①児童等との対償供与の約束・対償供与+②①に基づく性交等であるから、①の時点でも児童等の認識が必要であること~山形地裁h29.8.17を題材に

 控訴中の事件で主張しました。検察官の答弁は理由なく「弁護人独自の見解である」となっています。
 前提として対償供与約束が実行行為であることはこういう説明です

1 児童との対償供与の約束の時点で児童の認識が必要である
(1)「対償供与の約束」の実行行為性
(2) 買春罪の実行の着手
(3)他罪との関係からの説明
①周旋罪・勧誘罪との関係
②買春誘引罪(インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律*12)
③ 略図
(4) 実行着手としての約束の内容
(5)「対償供与の約束」の時点で、児童性についても認識が要件となること
(6)「事後の故意」による説明
①大コンメンタール刑法第3巻p172
②山中敬一刑法総論第2版p309
③高橋則夫刑法総論第2版p186
④刑事法辞典p346
⑤大塚仁刑法概論(総論)第3版p202
⑥立石刑法総論第4版p206
⑦斉藤信治刑法総論第5版p106
⑧岡野光雄刑法要説総論p187
⑨大野要説刑法総論[ 改訂版]p219
山口厚刑法総論第2版 p375
(7)実質的理由(東京高裁H15.5.19)

 ところが、山形地裁h29.8.17は、児童買春罪の実行行為は  
  ①児童等との対償供与の約束・対償供与
  ②に基づく性交等
であるという理解を欠いたまま、性交時点での年齢認識があるから児童買春罪が成立するとした点で、法令適用の誤りがあります。
「「18歳」と書かれた被害児童のツイッターのプロフィール」とか「被害児童は,公判廷において,「被告人とはツイッターのダイレクトメッセージでやり取りをして,援助交際をすること,すなわち,被告人から1万5000円の支払を受けて性交をすること,を合意した上で落ち合った」というので、対償供与の約束はDMであって、その時点では児童とは聞いてないですよね。
 とすると、「「被害児童」が18歳に満たない児童であることを知りながら,被害児童に対し,現金1万5000円の対償を供与する約束をして,」という事実認定は、証拠がないので、事実誤認になります。
 さらに、「被害児童は,公判廷において,「被告人とはツイッターのダイレクトメッセージでやり取りをして,援助交際をすること,すなわち,被告人から1万5000円の支払を受けて性交をすることを合意した」という認定をすると、その時点では児童とは知らなかったので、「「被害児童」が18歳に満たない児童であることを知りながら,被害児童に対し,現金1万5000円の対償を供与する約束をして」という認定と矛盾することになるので、理由齟齬です。

 約束は実行行為じゃない(行為の状況だ、身分だ)という新説が出てきそうですが、他罪でも約束は実行行為ですので、児童買春罪だけ別に解するのはずっこいです。

(8)他罪の「約束」における認識
売春防止法
※刑事裁判実務大系 風俗営業・売春防止(売春 勧誘)
判例法研究8特別刑法の罪「売春防止法
② 賄賂約束罪

 山形地裁h29.8.17は1審で確定していますが、こういう控訴理由で控訴しておけば無罪になった可能性があります。

裁判年月日  平成29年 8月17日  裁判所名  山形地裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(わ)263号
事件名  児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
文献番号  2017WLJPCA08176002
出典
エストロー・ジャパン
裁判年月日  平成29年 8月17日  裁判所名  山形地裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(わ)263号
事件名  児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
文献番号  2017WLJPCA08176002
 上記の者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について,当裁判所は,検察官笹川修一及び弁護人(私選)伊藤三之各出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
 被告人を罰金50万円に処する。
 その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由

 (罪となるべき事実)
 被告人は,平成28年9月25日午後10時52分頃から同月26日午前零時12分頃までの間,山形県東根市〈以下省略〉aホテル308号室において,A(当時16歳。以下「被害児童」という。)が18歳に満たない児童であることを知りながら,被害児童に対し,現金1万5000円の対償を供与する約束をして,被害児童に対し,性交をし,もって児童買春をしたものである。
 (証拠の標目)
 (括弧内の甲の番号は証拠等関係カードの検察官請求証拠の番号を示す。)
 ・第2回公判調書中の証人である被害児童の供述部分
 ・Bの警察官調書(甲4)
 ・捜査報告書6通(甲1,2,12,14,17,19)
 ・写真撮影報告書2通(甲3,5)
 ・身上調査照会回答書抄本(甲9)
 (事実認定の補足説明)
 1  争点
 関係証拠によれば,被告人が,平成28年9月25日午後10時33分頃,山形県天童市内のスーパーマーケットの駐車場で被害児童と落ち合い,その後被告人運転の自動車で判示の同県東根市内のホテルに向かい,同日午後10時52分頃から翌26日午前零時12分頃までの間,このホテルの一室で,被害児童に対し,現金1万5000円の対償を供与する約束をして,被害児童に対し,性交をしたことは明らかである。
 この点に関し,弁護人は,「被告人は,被害児童が18歳未満であることを知らなかったので,無罪である」旨主張し,被告人も,当公判廷で,これに沿う供述をするので(争点は年齢の知情性である。),判示事実を認定した理由を補足して説明する。
 2  被害児童の証言について
   (1)  被害児童の証言要旨
 被害児童は,公判廷において,「被告人とはツイッターのダイレクトメッセージでやり取りをして,援助交際をすること,すなわち,被告人から1万5000円の支払を受けて性交をすること,を合意した上で落ち合ったが,ホテルに向かう車中で,被告人から『何歳』と聞かれたので,『16』と答えたところ,『ああ,そうなんだ』と言われた」などと証言する。
   (2)  被害児童の証言の信用性について
 被害児童は,ホテルに向かう車中で被告人に対し自己の年齢が16歳であると告げたことを含め,被告人と落ち合ってからホテルで性交して別れるまでの状況について,その時々のエピソードを交えながら,具体的に語っている上,その内容も自然の流れに沿っており,合理的である。殊に,ホテルで性交を終えた後,被害児童がしたバイクの免許を取得したいなどという話の流れで,被告人から自動車の免許は取得しないのかと聞かれ,「来るとき言ったけど16だから免許取れない」みたいに言ったら,被告人が「ああ,そうだった,ごめんね」と言ったという点は,かなり具体的なものである。
 さらに,被害児童は,本件の4日後の平成28年9月29日に補導されているが(甲1),被害児童によると,被害児童は,同年8月終わりくらいから援助交際を開始し,補導されるまでに15人くらいの男性との間で援助交際をしたが,被告人は最後から2人目の相手であったので,結構覚えているというのであり(甲17参照),現に,被害児童は,被告人との援助交際に関し,補導から2日後の同年10月1日の段階から,警察官に対し,「ホテルに向かう車中で,相手から年齢を聞かれたため『16歳です』と本当の年齢を伝えた」と述べている(甲2)。それとともに,被害児童は,その前後に援助交際に及んだ被告人以外の6名の相手方男性について,性交の場所等が判然としない者についてはその旨述べる一方,性交の場所等を覚えている者については,その場所を明らかにするとともに,それらの者に自己の本当の年齢を告げた状況を具体的に語っており,その供述は相手方男性らの各供述とも一致している(甲19。なお,甲19の信用性を疑わせる事情はない。)。このように,被害児童は,当初から一貫して,ホテルに向かう車中で被告人に自己の年齢を告げた旨を述べるほか,被告人と他の援助交際の相手方男性とを区別しながら供述しており,被害児童が約1か月間に15名程度の男性と援助交際をしていたことを考慮しても,被害児童において,他の相手方男性との間でしたやり取りを,被告人との間でしたものと混同・誤解するなどして誤った供述をしているとは到底考えられず,他に被害児童が混同等をしているとうかがわせる証跡もない(もとより,被害児童において,故意に,被告人を陥れる虚偽の証言をする理由もない。)。
 以上によれば,被害児童の証言は信用性が高い。
   (3)  弁護人の主張について
   ア これに対し,弁護人は,①売春当事者は,後腐れがないように,互いの年齢等の個人的な情報については教えもしないし,聞きもしないのが当然である,②仮に被害児童が16歳であることを正直に告げると,相手方男性が援助交際を思いとどまること等が懸念されるから,被害児童にとって自己の年齢は相手方男性には知られたくない情報であった,などと指摘して,被告人に本当の年齢を告げたという被害児童の証言は不自然であって信用できないと主張する。しかしながら,①の点は,年齢は,氏名や住所,電話番号などとは異なり,それを明らかにすることによって直ちに自身の身元が特定される類いの情報ではないから,弁護人がいうような「売春当事者は,後腐れがないように,互いの個人的な情報については教えもしないし,聞きもしない」との前提に立ったとしても,なお年齢を明らかにすることが不自然とはいえない。むしろ,年齢は,援助交際のようにその場限りの性交をしようとする男女が,初対面から性交に至るまでの場の雰囲気を悪くしないように交わす当たり障りのない話題としてありがちなものといえ,そのような男女間で性交に先立ち年齢に関するやり取りをすることもそれなりにあり得るといえる。次に,②の点は,被害児童によると,ホテルに向かっていない場合等には,年齢を正直に言うと,相手方男性が援助交際を思いとどまって帰ってしまうのではないかと思い,18歳といううその年齢を告げていたが,ホテルに向かっている場合やホテルに着いている場合には,もはや相手方男性が帰ることはないと考え,正直に16歳と答えていたというのであり,この供述はそれなりに筋の通ったものといえる。したがって,被害児童において,被告人とホテルに向かっている段階で,被告人から聞かれるがまま,16歳と答えたとしても特に不自然ではない。加えて,何より,被害児童は,現に,他の援助交際の相手方男性に対しても,性交前の,ホテルに向かう車中やホテルの室内で,自己の本当の年齢を告げているのである(甲19)。以上によれば,被害児童が援助交際の相手方男性に年齢を教えることはあり得ないかのようにいう弁護人の主張は採用できない。
   イ また,弁護人は,被害児童は,ホテルに向かっていない場合には,18歳といううその年齢を告げていたと供述する一方,本件においては,向かうべきホテルも決まっていない段階であるのに,被告人に対して16歳である旨答えたとも供述しており,その供述は相互に矛盾して,信用できないと主張する。しかしながら,被害児童は,どこのホテルに行くかを決めた上で,そのホテルに向かう車中で16歳であると告げた旨を明確に述べているのであるから,その供述に特に矛盾はなく,弁護人の主張は被害児童の証言を正しく理解したものとはいえない。結局,弁護人の主張は,被告人が供述する事実経過を前提に,これと異なる被害児童の証言が信用できないというものに帰すると思われるが,被害者が証言している事実経過(まず,向かう先のホテルを決め,その後,被告人が合流場所に早く来たことや被害児童の年齢に話題が及んだという経過)も特段不自然ではなく,被害児童の証言の信用性は左右されない。
   ウ さらに,弁護人は,被害児童は,公判廷において,当初,平成28年9月9日以降に援助交際を行った7ないし8名の中で年齢を聞いてこなかった者もいると供述していたのに,弁護人から検察官調書にはその全員から年齢を聞かれたと記載されていることを指摘されると,合理的根拠も示せないまま,全員から年齢を聞かれたと供述を変遷させており,年齢を聞かれて16歳だと教えた人とそうでない人との区別についての被害児童の記憶は極めて曖昧であり,信用できないと主張する。確かに,被害児童の証人尋問において,弁護人が指摘するようなやり取りがあったことは認められるが,被害児童は,その理由に関し,証人尋問までの時間の経過によって記憶が曖昧になったことをうかがわせる説明をしている上,本件前後から証人尋問までの間に約半年が経過していることに鑑みると,それも無理からぬものがある。むしろ,上記(2)のとおり,被害児童は,ホテルに向かう車中で被告人に自己の本当の年齢を告げた旨を補導当初から一貫して供述している上,少なくとも補導当初の段階では,被告人と他の援助交際の相手方男性とをきちんと区別しつつ供述していたと認められる。以上によれば,弁護人の主張を加味して検討しても,被害児童の証言の信用性は揺るがない。
 3  被告人の供述について
 これに対し,被告人は,ホテルに向かう車中で被害児童に年齢を尋ねたことも被害児童から年齢を聞いたこともないなどと供述するが,この供述は,信用できる被害児童の証言と明らかに異なるものであり,被告人の供述が逮捕当初から一貫していることや,被告人が「18歳」と書かれた被害児童のツイッターのプロフィールを見ていないと述べるなど,自己の有利に働き得る事情について否定する供述をしていることなどを斟酌しても,被害児童の証言と対比して,信用できないといわざるを得ない。
 なお,弁護人は,被告人は,逮捕の1週間くらい前に,山形県山辺町内の教員が児童買春で逮捕されたことを地元紙で知り,その記事の内容は被告人のケースと酷似していたから,仮に被告人が被害児童の年齢が16歳であったと知っていたなら,被害児童とのやり取りを削除することも考えられるところ,被告人は,そうした証拠隠滅工作を全くしていないから,被害児童の年齢を知らなかったといえると主張する。確かに,被告人は,当時市議会議員を務めるなど,それなりの社会的地位にあったから,仮に被害児童が16歳であったことを知っていたら,県内の小学校教諭が児童買春で逮捕されたという報道(甲16参照)に接し,自分も逮捕されるのではないかと恐れて被害児童とのやり取りを削除することも十分考えられるところではある。しかし,被告人が被害児童とやり取りをしていたツイッターのアカウント(●●●)は当時凍結されており,その内容を確認することさえできなかったと認められるから(甲14),被告人において,被害児童とのやり取りを削除しようにも削除できなかったと考えられる(さらに,地元紙の記事の内容(甲16)を見ると,被告人のケースに類似してはいるものの,直ちに被害児童を類推させるものとまではいい難いから,自分が捕まることはないと考えて削除しなかった可能性もないとはいえない。)。したがって,弁護人の指摘の点は,必ずしも被告人の供述を裏付け,これを補強するものとはいえない。
 4  結論
 以上の次第で,信用できる被害児童の証言によれば,被害児童は,被告人と性交に及ぶ前に,被告人に対し,自己の年齢が16歳である旨告げ,被告人もこれを認識していたと認められる。
 よって,被告人は,被害児童が18歳に満たない児童であることを知りながら,被害児童に対し,現金1万5000円の対償を供与する約束をして,被害児童に対し,性交をしたといえ,判示事実は優に認定できる。
 (法令の適用)
 被告人の判示所為は児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律4条,2条2項1号に該当するところ,所定刑中罰金刑を選択し,その所定金額の範囲内で被告人を罰金50万円に処し,その罰金を完納することができないときは,刑法18条により金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。
 (求刑 罰金50万円)
 山形地方裁判所刑事部
 (裁判官 兒島光夫)